JP3849306B2 - エアベルトカバー用たて編み物、エアベルト及びエアベルト装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両衝突時等に車両乗員を保護するために、シートベルトの一部を袋状ベルトとし、ガス発生装置からのガスによって該袋状ベルトを膨張させるようにしたエアベルト装置の該袋状ベルトを被覆するためのエアベルトカバー用のたて編み物に関する。また、本発明は、このエアベルトカバーを有するエアベルトと、該エアベルトを有するエアベルト装置とに関する。
【0002】
【従来の技術及び先行技術】
この種のエアベルト装置として、本出願人は、先に、膨張可能なエアベルトと、該エアベルト内にガスを供給して膨張させるガス発生器とを備えてなり、該エアベルトは、帯状となるように折り畳まれた袋状ベルトと、該袋状ベルトを囲んでいるカバーとを備えてなるエアベルト装置において、該カバーは、エアベルトの長手方向には殆ど伸長せず、エアベルトの膨張方向に伸長し、且つこのエアベルト膨張方向に伸長することによりエアベルト長手方向の長さを小さくするエアベルト装置を提案した(特願平9−236903号。以下「先願」という。)。
【0003】
以下図面を参照して先願のエアベルト装置について説明する。第2図(a)は先願のエアベルト装置を備えた車両内部の斜視図、第2図(b)はこのエアベルト装置を示す斜視図である。第3図(a)はショルダーベルトとラップベルトとの連結部付近の平面図、第3図(b)は袋状ベルトの平面図、第3図(c),(d),(e)はそれぞれ第3図(a)のC−C線、D−D線、E−E線に沿う断面図である。第4図(a)はエアベルトが膨張した状態におけるショルダーベルトの平面図、第4図(b)は膨張した状態の袋状ベルトの平面図、第4図(c)及び(d)は第4図(a)のC−C線、D−D線に沿う断面図である。第5図はエアベルトのカバーの編み方の説明図である。
【0004】
このエアベルト装置1は、乗員の右側から左側へ斜めに延設されるショルダーベルト2と、乗員の右側から左側へ延設されるラップベルト3と、車体床部等に配設されたバックル装置4と、ベルト装着時にバックル装置4に挿入係止されるタング5と、ショルダーベルト2を案内する中間ガイド6とを備えている。
【0005】
ショルダーベルト2は、従来の一般的なシートベルトと同様のノーマルベルトで構成されたウェビング2Aと、このウェビング2Aの一端に連結されたエアベルト2Bとから構成されている。ウェビング2Aは中間ガイド6に摺動自在に案内掛通されている。ウェビング2Aの他端は、車体に固定された緊急時ロック機構付きシートベルトリトラクタ(ELR)7に連結されている。このシートベルトリトラクタ7にウェビング2Aは巻き取り可能とされている。
【0006】
エアベルト2Bは乗員が当接する部分に位置するようになっており、ウェビング2Aとの連結端部と反対側の端部がタング5に連結されている。
【0007】
ラップベルト3は、一般的なシートベルトと同様のノーマルベルトにより形成
され、その一端がタング5に連結されているとともに、他端が車体に固定されたシートベルトリトラクタ(ELR)8に連結されている。更にバックル装置4には、車両衝突時等の緊急必要時に作動して高圧のガスを発生するガス発生装置9が連結されている。
【0008】
タング5及びバックル装置4には、ガス発生装置9からのガスをエアベルト2Bに導くための通路が設けられている。
【0009】
第3図及び第4図に示される通り、エアベルト2Bは、袋状ベルト10と、該袋状ベルト10を囲んでいる筒状のニットカバー12とを備えている。袋状ベルト10は、シートに座った乗員の胸から腹にかけた部分が広がった形状を有しており、第3図に示すように、この広がった部分を折り畳むことにより長い帯状とされる。なお、11は袋状ベルト10の縫製の縫目である。
【0010】
ニットカバー12は幅方向には柔軟に伸縮するが、長手方向には殆ど伸長しない構成のものとなっている。第5図(a),(b)はそれぞれこのニットカバーの編み方を示すものである。
【0011】
第5図(a)は編み糸20よりなる通常のたて編み物であり、複数本の編み糸20(20A〜20D)がループRをつくっている。各ループRは図の上から下に向って左方及び右方に交互に配置されている。各ループRの先端側(例えばループRB2の先端側)は隣接する編み糸のループの付け根部分(例えばループRA1の付け根部分)に巻き付き、基端側には隣接する編み糸のループの先端側(例えばループRA3の先端側)が巻き付いている。従って、図の上下方向においてはループRが連続して配置され、上下方向に左側の編み糸のループ、右側の編み糸のループが交互に配列されている。即ち、上からループRA1,RB2,RA3の順で並んでいる。
【0012】
第5図(b)は編み糸20に挿入糸30を入れることにより強度を高め且つ薄くしうるようにしたものである。この挿入糸30は、この上下方向に連なるループの列に沿って且つ編み糸20同士との交点を編み物の表側から裏側及び裏側から表側へ交互に通り抜けるように編み込まれている。
【0013】
このエアベルト2Bとラップベルト3はタングに接合されている。ニットカバー12はウェビング2Aとタング5の双方に接合されており、エアベルトに加えられる引張負荷を負担するよう構成されている。
【0014】
バックル装置4にタング5を装着した状態でガス発生装置9が作動すると、エアベルト2Bが膨張する。この際、ニットカバー12のエアベルト2B長手方向の長さが短くなり、エアベルト2Bが乗員に密着し、乗員をきわめて確実に保護することが可能となる。
【0015】
第6図は、第5図(b)に示す挿入糸30を用いたたて編み物よりなるニットカバー12がエアベルト2B(袋状ベルト10)の膨張時にその長手方向の長さが短かくなる状況を示している。上記の通り、このニットカバー12は加熱延伸加工が施されることによりベルト長手方向へは殆ど伸びないものとなっている。袋状ベルト10が膨らんだときにニットカバー12の編目が横方向に広がり、その結果としてニットカバー12が長手方向に縮み、エアベルト2Bの長手方向の長さが短くなる。
【0016】
かかるエアベルト装置にあっては、ガス発生器が作動してエアベルトが膨張した場合、カバーも膨張する。このカバーはエアベルト長手方向には殆ど伸長しないため、エアベルト膨張時に長さが短くなる。この結果、エアベルトの長さが短くなり、エアベルトが強く乗員にフィットするようになる。このため乗員を確実に保護することができる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
上記先願のエアベルト装置のニットカバーには、エアベルトの長手方向には殆ど伸長せず、エアベルトの膨張方向に伸長し、且つこのエアベルト膨張方向に伸長することによりエアベルト長手方向の長さを小さくするという特有の膨張時の伸長特性が基本的に要求される。
【0018】
本発明は、エアベルトの膨張時にのみ編み目が拡がり、その他の平常時には容易に編み目が拡がらないエアベルトカバー用たて編み物と、このエアベルトカバー用たて編み物を有するエアベルトと、このエアベルトを有するエアベルト装置とを提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明のエアベルトカバー用たて編み物は、膨張可能なエアベルトを構成する、帯状となるように折り畳まれた袋状ベルトを被覆するためのエアベルトカバー用のたて編み物であって、編み糸とこの編み糸に挿入された挿入糸とを備えるエアベルトカバー用たて編み物において、該挿入糸は、該たて編み物の経方向の延伸を阻止する比較的太い第1の挿入糸と、該エアベルトの非膨張時に該たて編み物の緯方向の延伸を阻止する比較的細い第2の挿入糸とからなり、該第2の挿入糸は、該エアベルトの膨張時に断裂することにより該たて編み物の緯方向の延伸を許容するものであることを特徴とするものである。
【0020】
本発明のエアベルトカバー用たて編み物にあっては、第2の挿入糸によりエアベルトの非膨張時の編み目の拡がりを阻止することができる。この第2の挿入糸は、エアベルトの膨張時にあっては容易に断裂するため、エアベルトの膨張を阻害することはない。
【0021】
本発明において、編み糸は連続的にループを構成し、左右に隣接する編み糸のループと交互に係合し、第1の挿入糸が、直近の編み糸のループ同士を結び付けており、第2の挿入糸が、編み糸1本を置いた2番目に近い編み糸のループ同士を結び付けていることが好ましい。
【0022】
また、本発明においては、第2の挿入糸は300デニール(d)以下であり、該挿入糸が3000d以下1000d以上であり、該編み糸のデニール数が該第1の挿入糸と同等又はそれ以下であることが好ましい。また、編み糸及び第1の挿入糸は、熱可塑性合成フィラメント糸よりなり、原糸強度8.0g/d以上の糸であることが好ましい。
【0023】
本発明のエアベルトは、袋状ベルトと、この袋状ベルトを囲むエアベルトカバーとを有するエアベルトにおいて、該エアベルトカバーはかかる本発明のエアベルトカバー用たて編み物よりなることを特徴とするものである。
【0024】
本発明のエアベルト装置は、このエアベルトと、該エアベルトを膨張させるためのガス発生器とを備えてなるものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
図1は本発明のエアベルトカバー用たて編み物の実施の形態を示す編み方の説明図である。
【0027】
図1のたて編み物は、図5(b)及び図6に示す編み糸20と挿入糸(第1の挿入糸)30とからなるたて編み物に、更に、第2の挿入糸40を挿入したものである。
【0028】
このたて編み物では、基本編み地に対して、1本の挿入糸30が各々上下方向に連なるループの列に沿って且つ編み糸20同士との交点を編み物の表側から裏側及び裏側から表側へ交互に通り抜けるように編み込まれている。
【0029】
そして、細い第2の挿入糸40は、ループの列を3列束ねるように編み込まれている。即ち、図1の左端側のループの列にかけられた細い第2の挿入糸40Aは、次に左から3番目のループの列にかけられてから再び左端側のループの列にかけられている。また、図1の右端側のループの列にかけられた細い第2の挿入糸40Bは、次に右から3番目のループの列にかけられてから再び右端側のループの列にかけられている。このように、細い第2の挿入糸40Aが1列目のループを3列目のループに直にかけ渡され、別の挿入糸40Bが3列目のループと6列目のループに直にかけ渡されるので、編み物が図の左右方向に目開きして延伸することが阻止される(第1図の平常時)。そして、この細い第2の挿入糸40の破断強度以上の力が編み物に加えられたときには該細い挿入糸40が断裂し、編み物が目の左右方向(ウェール方向)に目開きして延伸することが許容される(第1図の膨張時)。
【0030】
本発明において、第2の挿入糸40は300d以下の細い糸であることが好ましい。この第2の挿入糸40が300dを超えると、エアベルトの膨張時において100〜300kPa程度の圧力で容易に断裂せず、エアベルトの膨張を阻害するようになり、好ましくない。第2の挿入糸40は過度に細いとエアベルトの非膨張時の緯方向の延伸を十分に防止することができず、編み目が拡がるおそれがあることから、第2の挿入糸40は30d以上であることが好ましい。
【0031】
この第2の挿入糸は、特に、50〜150dの細い熱可塑性プラスチックよりなり、原糸4.0〜8.0g/d程度の糸であることが好ましい。
【0032】
また、本発明において、第1の挿入糸30として3000d以下1000d以上のものを用い、編み糸20として第1の挿入糸30と同等であるか或いはそれ以下のデニール数のものを用いるのが好ましい。
【0033】
第1の挿入糸30のデニール数が3000dを超えるとたて編み物が厚くなり、また、編み目の凹凸により手触りが悪化する。
【0034】
本発明においては、特に第1の挿入糸30として1000〜3000dのもの用い、編み糸として、用いた第1の挿入糸よりも細い250〜1500dのものを用いるのが好ましい。
【0035】
また、本発明において、編み糸20及び第1の挿入糸30は、ポリアミド又はポリエステル糸等の熱可塑性合成フィラメント糸よりなり、原糸強度8.0g/d以上のものが好ましい。
【0036】
この原糸強度が8.0g/d未満では、エアベルトカバーとしての十分な強度を得ることができない場合がある。原糸強度は特に9.0g/d以上であることが好ましい。なお、原糸強度はそのデニール数構成上10g/dよりも大きくすることは困難であり、従って、好適な原糸強度は9.0〜9.5g/dである。
【0037】
また、本発明においては、編み糸20及び第1の挿入糸30は、5〜10dの細いフィラメントで構成される糸条を2本引き揃えて用いるのが好ましく、特に好ましくは、第1の挿入糸30としては、5〜10dのフィラメント100〜300本よりなる1000〜3000dの糸条を2本引き揃えて3000d以下としたものを用い、編み糸20としては、5〜10dのフィラメント30〜300本よりなる250〜1500dの糸条を上記第1の挿入糸30のデニール数よりも小さくしたものを用いるのが好ましい。
【0038】
また、本発明のエアベルトカバー用たて編み物は、ヒートセットによる加熱延伸加工を施すことで、伸度設定や幅調整を行うのが好ましい。
【0039】
なお、本発明においては、要求される引張強度特性から第1の挿入糸及び第2の挿入糸の本数や、その挿入方法を決定するのが好ましい。
【0040】
本発明のエアベルトカバー用たて編み物は、上記構成により、好ましくは、厚さ1.0〜2.0mmで、100kPa時の緯方向(ウェール)の伸びによる経方向(コート)に発生する張力(以下、この張力を「膨張時長さ規制張力」と称す。)が200〜600kgfとなるように、また、50kPa以下の圧力における緯方向の伸び(以下、この伸びを「非膨張時横方向伸び」と称す。)が50%以下となるように製作される。
【0041】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、エアベルト装置のニットカバーとしての優れた伸長特性を有し、しかも、エアベルトの非膨張時には、編み目が容易には拡がることのないエアベルトカバー用たて編み物と、このエアベルトカバー用たて編み物を有するエアベルトと、このエアベルトを有するエアベルト装置とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のエアベルトカバー用たて編み物の実施の形態を示す編み方の説明図である。
【図2】 先願に係るエアベルト装置を備えた座席の斜視図と、該エアベルト装置の斜視図である。
【図3】 エアベルトの構成図である。
【図4】 エアベルトの膨張時の構成図である。
【図5】 ニットカバーの編み方の説明図である。
【図6】 エアベルトの平常時と膨張時の状態を対比して示す説明図である。
【符号の説明】
1 エアベルト装置
2 ショルダーベルト
2A ウェビング
2B エアベルト
3 ラップベルト
4 バックル装置
5 タング
6 中間ガイド
7,8 シートベルトリトラクタ
9 ガス発生装置
10 袋状ベルト
12 ニットカバー
20 編み糸
30 挿入糸(第1の挿入糸)
40 第2の挿入糸
Claims (7)
- 膨張可能なエアベルトを構成する、帯状となるように折り畳まれた袋状ベルトを被覆するためのエアベルトカバー用のたて編み物であって、編み糸とこの編み糸に挿入された挿入糸とを備えるエアベルトカバー用たて編み物において、
該挿入糸は、該たて編み物の経方向の延伸を阻止する比較的太い第1の挿入糸と、
該エアベルトの非膨張時に該たて編み物の緯方向の延伸を阻止する比較的細い第2の挿入糸とからなり、
該第2の挿入糸は、該エアベルトの膨張時に断裂することにより該たて編み物の緯方向の延伸を許容するものであることを特徴とするエアベルトカバー用たて編み物。 - 請求項1において、該編み糸は、連続的にループを構成し、左右に隣接する編み糸のループと交互に係合しており、
前記第1の挿入糸は直近の編み糸のグループ同士を結び付けており、
前記第2の挿入糸は、編み糸1本を置いた2番目に近い編み糸のループ同士を結び付けていることを特徴とするエアベルトカバー用たて編み物。 - 請求項1又は2において、該第2の挿入糸が300デニール以下であることを特徴とするエアベルトカバー用たて編み物。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、該第1の挿入糸が3000デニール以下1000デニール以上であり、該編み糸のデニール数が該第1の挿入糸と同等又はそれ以下であることを特徴とするエアベルトカバー用たて編み物。
- 請求項1ないし4のいずれか1項において、該編み糸及び第1の挿入糸は、熱可塑性合成フィラメント糸よりなり、原糸強度8.0g/d以上の糸であることを特徴とするエアベルトカバー用たて編み物。
- 袋状ベルトと、この袋状ベルトを囲むエアベルトカバーとを有するエアベルトにおいて、
該エアベルトカバーは請求項1ないし5のいずれか1項のエアベルトカバー用たて編み物よりなることを特徴とするエアベルト。 - 請求項6に記載のエアベルトと、該エアベルトを膨張させるガス発生器とを備えてなるエアベルト装置。
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