JP3847175B2 - 走化性観測用チップ - Google Patents
走化性観測用チップInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、いわゆる走化性を観測するための走化性観測用チップに関する
【0002】
【従来の技術】
走化性因子と呼ばれる化学物質の濃度差が刺激になって細胞が集合するような挙動を走化性と呼ぶが、この挙動を利用して治療薬の開発に応用しようとする動きがある。特にこの走化性を利用することによって、各種の炎症やアレルギー、ガンに対する治療薬の開発に新しいアプローチが見出せるのではないかと考えられており、走化性研究の重要性は増すばかりである。この走化性を観察するために、マイクロチップを用いて、走化性因子の挙動を観察することが提案されている。例えば、日経バイオビジネス2001年11月号48頁乃至50頁に開示されている。
【0003】
このマイクロチップ(以下、走化性観測用チップ)は、走化性因子を充填する部分と、走化性を有する細胞等を充填する部分を有する。そして、それらの部分の間にチャネルと呼ばれる格子状の小さな通路を多数設けている。この通路の大きさは、細胞の通常の大きさより多少小さく作り、走化性因子の濃度勾配ができると、細胞は、通路を通って濃度の高い方へ移動する。従来の走化性観測用チップにおける通路の構造を図8に示す。図8(a)に示されるように走化性観測用チップの通路41は、凸部42を側壁として構成されている。図8(b)は、図8(a)のB−B’断面を示すものである。図8(b)に示されるように、凸部42は、通路41の底面に対して緩やかな角度αをもって立ち上がっている。換言すると通路41の側壁面と底面とは、緩やかな角度αを有している。角度αは、例えば、54.7°である。
【0004】
従来の走化性観測用チップでは、通路41の側壁面が傾斜しているため、顕微鏡により走化性を観察すると、かかる傾斜部分421が黒く映ってしまう。そのため、この傾斜部分421を通過する細胞の観察の妨げになるという問題点があった。また、幅が狭い通路を形成しようとすると、傾斜の影響で深さに限界が出てしまい、通路の幅が制限されるという問題点もあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の走化性観測用チップでは、通路の側壁面が傾斜してしまうために、細胞の観察の妨げになり、かつ通路の幅が制限されるという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、細胞の観察がしやすく、かつ通路の幅の設計の自由度が高い走化性観測用チップを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる走化性観測用チップは、走化性因子を充填する第1の領域と、走化性を有する細胞を充填する第2の領域と、当該第1の領域と第2の領域との間を連通する通路を有するチャネルとを備えた走化性観測チップであって、前記通路の側壁面を当該通路の底面に対して略垂直としたものである。
【0008】
ここで、前記通路は、異方性のドライエッチングによって形成することによって、側壁面を当該通路の底面に対して略垂直とすることができる。異方性ドライエッチングを用いることによって、側壁面が傾斜しないため、観察の邪魔とならない。また、単に直線状の通路のみならず、円形や楕円形、三角形やL字型等の様々な形状の通路を作成することが可能となる。さらに、フォトマスクレベルの微細な通路幅形状が作成可能となるため、小さいサイズの細胞にも対応可能になり、チップ自体も小型化が行なえる。さらに、ウェットエッチングではサイドエッチング量のばらつきが大きかったため、形状の再現性が悪かったが、ドライエッチングはこのような問題がなく、形状の再現性が高い。
【0009】
この異方性のドライエッチングは、誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングであることが好ましい。
【0010】
望ましい実施の形態において走化性観測用チップは、シリコンウエハにより構成されている。
【0011】
他方、本発明にかかる走化性観測用チップの製造方法は、走化性因子を充填する第1の領域と、走化性を有する細胞を充填する第2の領域と、当該第1の領域と第2の領域との間を連通する通路を有するチャネルとを備えた走化性観測用チップの製造方法であって、前記チャネルを異方性のドライエッチングによって形成するものである。異方性ドライエッチングを用いることによって、側壁面が傾斜しないため、観察の邪魔とならない。また、単に直線状の通路のみならず、円形や楕円形、三角形やL字型等の様々な形状の通路を作成することが可能となる。さらに、フォトマスクレベルの微細な通路幅形状が作成可能となるため、小さいサイズの細胞にも対応可能になり、チップ自体も小型化が行なえる。さらに、ウェットエッチングにはサイドエッチング量のばらつきが大きかったため、形状の再現性が悪かったが、ドライエッチングはこのような問題がなく、形状の再現性が高い。
【0012】
この走化性観測用チップは、前記走化性因子及び前記細胞を充填するための貫通穴を有し、当該貫通穴を異方性のドライエッチングにより形成するとよい。このため、貫通穴の壁面が荒れ、細胞がダメージを受けるという問題点が解消され、良好な実験が可能となる。また、貫通穴の位置合わせも容易となり、製造プロセスが簡易になる。
【0013】
ここで、異方性のドライエッチングは、誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングであることが望ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の発明者は、上記のような問題点を解決するために、従来の走化性観察用チップでは通路の側壁面に傾斜が生じていることが観察の妨げになっていることに着目し、第一に、側壁面を通路の底面と略垂直にすることにより、観察しやすい走化性観測用チップが構成されることを発案するに至った。第二に、このような構成にするために、従来は、その製造プロセスにおいてウェットエッチング処理を行なっていた点を改善し、異方性ドライエッチング処理を行なうようにしている。特に、ドライエッチング処理を行なっているので、ウェットエッチング処理とは異なり、洗浄等の工程も要らず、作成時間を短縮でき、効率的にチップを作成できるという利点もある。
【0015】
以下、本発明の実施の形態にかかる走化性観察用チップについて、例を挙げ詳細に説明する。
【0016】
図1に本発明の実施の形態にかかる走化性観察用チップの構成を示す。この例にかかる走化性観察用チップ1は、図に示されるように、縦横ともに5〜200mm程度の四角形上の平板であり、シリコンウエハにより構成されている。そして、この走化性観察用チップ1には、複数の貫通穴2が設けられている。
【0017】
これらの貫通穴2は、隣接する4個の貫通穴21、22、23及び24により一つのセットが構成される。この貫通穴21、22を取り囲む領域であるウエル31、及び貫通穴23、24を取り囲む領域であるウエル32は、それぞれ、隣接する他の領域よりも10〜400μm程低く形成されている。ウエル31は、走化性因子を充填する領域となる。また、ウエル32は、走化性を有する細胞を充填する領域となる。ウエル31とウエル32は、一定距離分離れて連なっている。
【0018】
ウエル31とウエル32の間には、チャネル4が設けられている。このチャネル4は、通路41とその通路41の側壁面を構成する凸部42により構成される。この例では、2つのチャネル4により構成されている。そして、それぞれのチャネル4には、複数の通路41が設けられている。通路41の幅は、細胞の通常の大きさより多少小さく約1μm〜20μm程度である。
【0019】
図2は、走化性観測用チップ1のウエル31及びウエル32部分の上面図及び、貫通穴21乃至24部分の側面図である。
【0020】
図3は、図1にかかるチャネル4のA−A’部の側面図を示すものである。図3に示されるように、図8(b)に示す従来の走化性観測用チップと異なり、凸部42に形成された通路41の側壁面が底面と略垂直となっている。即ち、通路41の側壁面は、観察方向と略平行となっている。ここで、この側壁面と底面との角度は、観察する際に不具合が生じない程度であればよいが、より具体的には、90度±10度が好ましい。尚、凸部42の高さ、即ち通路41の側壁の高さは、約4.5μmである。
【0021】
次に図4及び図5を用いて、走化性を観測するために、走化性観測用チップ1を必要な治具に固定した場合の構成について説明する。この治具には、図に示されるように中央部に円状の溝(凹み)及び貫通穴53を有する本体治具50と、ガラス板52を固定するガラス板固定用治具51と、走化性観測用チップ1を固定するチップ固定用治具55と、このチップ固定用治具55を本体治具50に固定するための補助治具56とが含まれる。これらの治具50、51、55、56は、例えば、SUSにより構成される。尚、ガラス板は、通常1mm厚程度のガラス板が用いられる。
【0022】
本体治具50に設けられた円状の溝は、ガラス板固定用治具51がはめ込まれるような形状を有する。また、本体治具50の貫通穴53は、走化性を観察するために設けられており、チップと略同じ形状、即ち四角形の貫通穴である。
【0023】
ガラス板固定用治具51は、中央に走化性観測用チップ1をはめ込むことができる貫通穴を有している。この貫通穴は、チップと略同じ形状、即ち四角形の貫通穴である。また、ガラス板固定用治具51には、ゴムで構成されたOリングが埋め込まれており、ガラス52との間の緩衝材として機能する。
【0024】
チップ固定用治具55は、図5に示されるようにガラス板固定用治具51の貫通穴に差し込まれる形状、即ち立方体である。このチップ固定用治具55には、上面と下面を貫通する貫通穴が複数設けられている。これらの貫通穴は、走化性観測用チップ1の上に当該チップ固定用治具55を載置した状態において走化性観測用チップ1に設けられた貫通穴21、22、23及び24のそれぞれと同じ位置に設けられている。即ち、走化性観測用チップ1の貫通穴21乃至24と同じ数だけ、同じ位置に設けられている。そのため、チップ固定用治具55を走化性観測用チップ1上に載置した状態においても、貫通穴21乃至24に液体等を注入することができる。
【0025】
補助治具56は、チップ固定用治具55を押さえつけて固定することができるようにその端部が本体治具50の外周に設けられたネジきりと嵌合するようなネジきりが設けられている。即ち、補助治具56を回転させると、チップ固定用治具55を下方、即ち走化性観測用チップ1をガラス板52に接触させる方向に移動させることができる。
【0026】
続いて、図6を用いて、走化性観測用チップ1の使用法について説明する。まず、マイクロシリンジ60を用いて白血球等の細胞70を貫通穴22に挿入し、細胞をチャネル4の通路41の入口付近に並べる。次に、貫通穴23に走化性因子を微量、例えばマイクロシリンジ等により注入する。すると、走化性に基づいて、細胞70が移動し、チャネル4の通路41を通過する。この細胞の挙動を例えば約1時間に亘って観察する。
【0027】
次に、図7を用いて走化性観察用チップ1上にチャネルを形成するための製造フローについて説明する。
【0028】
まず、図7(a)に示されるように、シリコンウエハ100を容易する。次に、図7(b)に示されるように、シリコンウエハ100上に例えばスピン塗布によってレジスト101を形成する。このレジスト101は、例えば東京応化製ポジレジストが用いられる。その後、図7(c)に示されるように、マスク102を介して紫外線をレジスト101上に照射する。マスク102は、所定の位置のみ紫外線が通過するような構成を有している。レジスト101のうち、紫外線が照射された領域は、変質する。そして、図7(d)に示されるように、現像液により現像され、変質した領域のみが除去される。図7(b)・(c)・(d)に示す工程を特にフォトリソ工程と呼ぶ。
【0029】
その後、図7(e)に示されるように、ICP−RIE装置により誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングが実行される。この誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングは、ドライエッチングの一手法であり、プラズマ中のイオンの垂直入射と励起活動種による反応を同時に行なってエッチングを行なうものである。そして、このエッチングは、物理反応及び化学反応の双方の反応機構を有し、異方性ドライエッチングである。
【0030】
この発明の実施の形態にかかる走化性観測用チップ1を形成するために、上述のようなフォトリソ工程及びエッチング工程を3回繰り返している。
【0031】
このような異方性ドライエッチングを用いることによって、側壁面が傾斜しないため、観察の邪魔とならない。また、単に直線状の通路のみならず、円形や楕円形、三角形やL字型等の様々な形状の通路を作成することが可能となる。また、フォトマスクレベルの微細な通路幅形状が作成可能となるため、小さいサイズの細胞にも対応可能になり、チップ自体も小型化が行なえる。さらに、ウェットエッチングにはサイドエッチング量のばらつきが大きかったため、形状の再現性が悪かったが、ドライエッチングはこのような問題がなく、形状の再現性が高い。
【0032】
また、従来は、走化性観測用チップの貫通穴をサンドブラスト法を用いて作成していたが、この発明の実施の形態では、ICP−RIEを用いてドライエッチング技術により貫通穴を作成している。このため、貫通穴の壁面が荒れ、細胞がダメージを受けるという問題点が解消され、良好な実験が可能となる。また、貫通穴の位置合わせも容易となり、製造プロセスが簡易になる。
【0033】
尚、上述の例では、異方性イオンエッチングの例として、ICP−RIEを用いたが、これに限らず、スパッタエッチング、スパッタイオンビームエッチング及びリアクティブイオンビームエッチング等の異方性ドライエッチングであってもよい。
【0034】
また、上述の例では、走化性観測用チップをシリコンウエハによって構成する例を説明したが、これに限らず、ガラス、プラスチックによって構成するようにしてもよい。ガラスで構成する場合には、例えば、スパッタエッチングにより加工する。また、プラスチックにより構成する場合には、例えば、射出成型やスタンピングにより形成、加工する。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、細胞の観察がしやすく、かつ通路の幅の設計の自由度が高い走化性観測用チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる走化性観察用チップの構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる走化性観測用チップの一部を示す図である。
【図3】本発明にかかる走化性観測用チップの一部を示す図である。
【図4】本発明にかかる走化性観測用チップを観察のために必要な治具に組み込んだ状態を示す図である。
【図5】本発明にかかる走化性観測用チップを観察のために必要な治具に組み込んだ状態を示す図である。
【図6】本発明にかかる走化性観測用チップによる観測のための前処理を説明するための図である。
【図7】本発明にかかる走化性観測用チップの製造フローを示す図である。
【図8】従来の走化性観測用チップの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 走化性観測用チップ
2 貫通穴
4 チャネル
41 通路
42 凸部
Claims (5)
- 走化性因子を充填する第1の領域と、走化性を有する細胞を充填する第2の領域と、当該第1の領域と第2の領域との間を連通するチャネルとを備えたシリコンにより構成された走化性観測用チップと、当該シリコンの前記チャネル内の通路が設けられた面側に固定されたガラス板とを備える走化性観測用装置において、前記チャネルには、異方性のドライエッチングによって形成された、複数の通路と当該通路の側壁面を構成する複数の凸部が設けられ、前記通路の側壁面は、当該通路の底面に対して略垂直であることを特徴とする走化性観測用装置。
- 前記異方性のドライエッチングは、誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングであることを特徴とする請求項1記載の走化性観測用装置。
- 走化性因子を充填する第1の領域と、走化性を有する細胞を充填する第2の領域と、当該第1の領域と第2の領域との間を連通するチャネルとを備えたシリコンにより構成され、当該シリコンの前記チャネル内の通路が設けられた面側からガラス板を介して観測される走化性観測チップの製造方法であって、前記チャネル内に複数の通路と当該通路の底面に略垂直な側壁面を構成する複数の凸部を異方性のドライエッチングによって形成することを特徴とする走化性観測用チップの製造方法。
- 前記走化性観測用チップは、前記走化性因子及び前記細胞を充填するための貫通穴を有し、当該貫通穴を異方性のドライエッチングにより形成したことを特徴とする請求項3記載の走化性観測用チップの製造方法。
- 前記異方性のドライエッチングは、誘導結合プラズマ式反応性イオンエッチングであることを特徴とする請求項3又は4記載の走化性観測用チップの製造方法。
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