JP3845298B2 - 医療器具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、体腔内に挿入可能な挿入部を有する医療器具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、癌に対する外科手術では、腫瘍部分を切除してリンパ節郭清を行ない、術後の転移を防止することが一般的であった。しかし、早期癌では腫瘍部分がリンパ節に転移している頻度は低く、本来ならリンパ節郭清が不要な患者にも郭清が行われているので、患者のQOL(Quality Of Life(生活の質))を低下させていることが分かってきた。
【0003】
そこで、近年、早期癌に対しては、癌から最初にリンパ流を受けるリンパ節であるセンチネルリンパ節(以下「SLN」と称する)というコンセプトが研究されている。このSLNのコンセプトとは、腫瘍が最初にSLNにリンパ節転移を起こすという考えの下、SLNを術中に探してこれを摘出し、迅速病理診断を行なってSLNに転移がなければ(癌細胞が存在しなければ)、郭清を行なわず、患者のQOLを向上させるというものである。
【0004】
雑誌「消化器外科2000−10月号(Vol.23 No.11)」(へるす出版)のP1617〜P1624「消化管癌のセンチネルリンパ節検出;RI法と色素法の比較」によると、RI法で99mTcスズコロイドなどのラジオアイソトープ(放射性薬剤)、色素法でICG(インドシアニングリーン)などの色素を術前もしくは術中に内視鏡下で腫瘍の周囲4ヶ所に注入している。そして、開腹下手術もしくは腹腔鏡下手術中に、例えば特開平6−258440号公報に開示されている腹腔鏡用放射線検出プローブによって放射線を発するリンパ節、つまりSLNを同定したり、直視下もしくは腹腔鏡下で色素により青染されたリンパ節、つまりSLNを同定したりする方法が示されている。
【0005】
一方、雑誌「外科2000−11月号(Vol.62 No.11)」(南江堂)のP1237〜P1240「胃癌局所切除術の実際と問題点」と、「腹腔鏡下胃手術の実際(大橋秀一編集)」(南江堂)のP63〜P70「胃部分切除術1 早期胃癌に対するLesion Lifting法」、P71〜P77「胃部分切除術2 早期胃癌に対する局所全層切除術」とによると、早期胃癌の腹腔鏡下手術時には、術前に胃内視鏡下で腫瘍の周囲に数箇所マーキングとしてクリップを留置することが示されている。これらクリップを含むように腫瘍部の局所切除もしくは部分切除を行なうことにより、目的部位を残らず切除することができる。なお、このクリップには、特開平4−102450号公報などに開示されているものが用いられている。また、クリップの代わりに電気メスを用いて腫瘍の周囲にマーキングを行なうことも有り得る。
【0006】
ところで、特開平6−70972号公報では、コラーゲン蛋白部分加水分解物質並びに水および多価フェノール化合物よりなる接着成分と、ホルムアルデヒド並びにグルタルアルデヒドおよび/もしくはグリセリンアルデヒドを含有する水溶液からなる硬化成分とを混合することにより、迅速に接着可能な生体組織用の接着剤が示されている。この接着剤は適度な硬度と弾力性を有し、かつ水分への耐性に優れている。また、特開平9−225019号公報では、接着性ポリペプチドと水溶性高分子からなり、水存在下でも接着力を発揮できる生体組織用の接着剤が示されている。
【0007】
さらに、特開平11−76245号公報では、腹腔鏡下手術に使用可能な生体組織用の接着剤投与具が開示されている。これは、投与具の手元側の2つのシリンジに2液混合型の生体組織用の接着剤を充填しておき、投与具の先端で両者を混合して接着可能としたものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、早期胃癌に対する手術を行なう際、SLNを同定するためにICGのような色素を内視鏡下によって胃内部の腫瘍部の周囲の粘膜下の3ヶ所ないし4ヶ所に術中に局注している。しかし、腫瘍部切除のために留置した上述したクリップが粘膜下層まで到達してクリッピングされていると、血管やリンパ管が豊富に存在する粘膜下層のリンパ管を塞いでリンパ流の流れを変えてしまい、正確なSLNを同定することが困難になる場合があり、クリッピングには術者のテクニックを必要とした。
【0009】
また、電気メスを用いてマーキングを行なった場合、腫瘍部を切除後、切除断端を病理診断する際、組織の熱変性の度合いによっては陰性か陽性かの判断を行なうことが難しくなり、確実に腫瘍部を切除できたか否かを確認することが難しくなることが起こり得る。
【0010】
さらに、特開平6−70972号公報、特開平9−225019号公報、および特開平11−76245号公報では、生体組織同士を接着可能な接着剤を開示しているのみで、手術での具体的な使用については明示されていない。
【0011】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、例えば消化器癌の手術でSLNを同定する際、粘膜下層のリンパ流を変えるなど、生体に変化を起こすことなく、腫瘍切除範囲に容易にマーキングを行なうことができる医療器具を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明の医療器具は、体腔内に挿入可能な挿入部を備えている。そして、生体内に留置可能なマーキング部材を保持し、かつ、前記挿入部の先端部に開口した開口部から前記マーキング部材を生体に接触可能な状態で放出自在に保持する保持手段と、前記保持手段で保持した前記マーキング部材に前記開口部側から接着用液体を塗布する塗布手段と、が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
また、前記開口部に一端が連通し、前記挿入部に形成された液体流路と、前記液体流路の他端に設けられ、この液体流路を通じて前記接着用液体を前記開口部に供給する供給手段と、をさらに具備していることが好適である。
【0014】
さらに、前記挿入部を前記生体内の所望の位置に導く導入手段をさらに具備していることが好適である。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態について、図1ないし図7を用いて説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、この実施の形態にかかる処置具1は、細長く、ほぼ円筒状の挿入部2と、この挿入部2の後端に接続された手元部3とからなる。
【0018】
図2に示すように、この挿入部2の軸方向には、細径の第1の管路4と、この第1の管路よりも太径の第2の管路5とが内部に設けられている。これら第1および第2の管路4,5の後端は、それぞれ手元部3内に収容されて接続されるとともにこの手元部3に固定されている。また、手元部3には、これら第1の管路4に連通された挿通路6が設けられている。一方、第2の管路5には、手元側に設けられた側孔7と、この側孔7に連通され、手元部3の挿通路6に対してほぼ垂直な方向に設けられた吸引路8とが設けられている。
【0019】
また、挿入部2の先端側は、後述するマーキング部材を収容するほぼ円筒状の収容部9に接続されるとともに固定されている。この収容部9は、ポリカーボネイト材やアクリル材などの透明もしくは半透明の樹脂素材などからなることが好適である。この収容部9の内腔には、挿入部2の第1の管路4の先端側に連通する第3の管路10と、第2の管路5の先端側に連通する第4の管路11とがそれぞれ挿入部2の軸方向に設けられている。また、これら第3および第4の管路10,11は、収容部9の先端に設けられた開口部12に通じている。第4の管路11の先端には、この管路11の内径より若干小さい径を有するフランジ部13が設けられている。また、この第4の管路11の内径とほぼ同じ外径を有するほぼ円板状のマーキング部材14aがこのフランジ部13に接している。さらに、3つのマーキング部材14b,14c,14dがこの第4の管路11の後端に向けて順に並設されている。なお、最も手元側に設けられたマーキング部材14dには、このマーキング部材14dに接するリング状の押え部材15が配置されている。この押え部材15は円筒状の挿入部2の内壁に沿って摺動可能で、中心に開口17を有する。
【0020】
各マーキング部材14a,14b,14c,14dは、それぞれほぼ同一の形状に形成され、挿入部2の先端側に面した側には主剤と硬化剤とからなる2液混合型の接着剤の主剤が塗布されていることが好適である。また、これらマーキング部材14a,14b,14c,14dは、シリコーンゴム材やニトリルブチルゴム材などの弾性素材からなることが好適である。そして、これらマーキング部材14a,14b,14c,14dの一方の側面には、図3に示すように、手元部3側の面18の外周近傍には円周上に90°ずつ4ヶ所の突起部19が設けられている。このため、各マーキング部材14a,14b,14c,14dは、これら突起部19によって隣接するマーキング部材に対して任意の距離だけ離間されて並設される。すなわち、隣接するマーキング部材同士の接触面積が減らされている。さらに、これら突起部19の内側には各マーキング部材14a,14b,14c,14dの中心に孔20が設けられている。また、この孔20と、各突起部19との間にはそれぞれ孔21が配設されている。さらに、各マーキング部材14a,14b,14c,14dは、それぞれ赤、青、緑、黄などの任意の色に着色されていることが好適である。
【0021】
また、図2に示すように、挿入部2の第2の管路5内の手元部3側の端部と、押え部材15との間には、弾性部材、例えばコイルばね16が配設されている。押え部材15は、収容部9の第4の管路11内に配設されている。押え部材15は、コイルばね16によって、先端方向に押圧(付勢)されている。そして、この押え部材15はマーキング部材14a,14b,14c,14dをフランジ部13から突出しない程度に挿入部2の先端方向に向けて押し付けている。
【0022】
手元部3に設けられた吸引路8の端部には、ルアー口金22が形成されている。このルアー口金22は、2方向活栓23に接続されている。この2方向活栓23は、ルアー口金22および吸引チューブ24の一端に接続されている。この吸引チューブ24の他端は、吸引器25に接続されて延びている。2方向活栓23のツマミ26が回動されると、吸引チューブ24と手元部3の吸引路8とが連通される開状態と、遮断される閉状態とに切り替えられる。図1に示すように、吸引器25、吸引チューブ24、2方向活栓23、処置具1の手元部3が順に接続された状態で、2方向活栓23のツマミ26が回動されて吸引チューブ24と手元部3の吸引路8とが連通されて開状態にされると、図2に示す挿入部2の第2の管路5、収容部9の第4の管路11、押え部材15の開口17、マーキング部材14d,14c,14b,14aの孔20,21を介して、収容部9の開口部12を介して挿入部2の先端に設けられた物体(生体組織)を吸引することができる。
【0023】
手元部3の挿通路6の手元側には、この挿通路6に連通され、硬化剤28が収容される筒状の収容部27が設けられている。この収容部27は、挿通路6より大きな径を有し、軸方向に延び、手元部3の後端面29で開口されている。この手元部3の後端面29から収容部27内には、この収容部27内に挿通可能で、外径がほぼ収容部27の内径とほぼ同じである円柱状のスライド部材30が配置されている。このスライド部材30の先端には、例えばシリコーンゴム材のような弾性部材からなり、収容部27の内壁面と密着される先端部31が装着されている。スライド部材30を挿入部2の先端側に押圧すると、収容部27内の硬化剤28が挿通路6、挿入部2の第1の管路4、収容部9の第3の管路10を通って開口部12に向けて流出(射出)されるようになっている。
【0024】
次に、このような処置具1を用いてリンパ節に転移していないと想定される早期胃癌手術前に切除範囲をマーキングする場合について説明する。処置具1は収容部27内に硬化剤28が充填された状態で、手元部3のルアー口金22に2方向活栓23を装着し、この2方向活栓23に吸引チューブ24を介して吸引器25を取付けておき、吸引をかけない状態にしておく。
図4に示すように、経口的に内視鏡32を胃33まで挿入し、この内視鏡32を介して送気して胃33を膨らませた後、胃内34の腫瘍部35の場所を同定して、図4中の点線で示す切除範囲36を確認しておく。そして、内視鏡32の図示しないチャンネルに処置具1を挿通させて、内視鏡32の先端からこの処置具1を突出させる。
【0025】
次に、図5の(a)に示すように、内視鏡32から突出させた処置具1の収容部9の先端を切除範囲36の口側に位置させて胃壁37に押し当てる。
そして、図5の(b)に示すように、胃壁37に収容部9を押し当てた後、図2に示すスライド部材30を先端方向に押し出し、収容部27内の硬化剤28を挿通路6、第1の管路4、および第3の管路10を通して収容部9の先端の開口部12から流出させて、この開口部12に囲まれた胃壁37および/もしくはマーキング部材14aに塗布する。
【0026】
この状態から、図2に示す2方向活栓23のツマミ26を回動させて開状態にして、挿入部2を介して収容部9の開口部12から吸引を行なって、図6の(a)に示すようにマーキングを行なう部分の胃壁37をマーキング部材14aと接触するように開口部12から手元部3側に吸い込む。この状態を維持することにより、マーキング部材14aの先端面に予め塗布されている主剤と胃壁37および/もしくはマーキング部材14aに塗布された硬化剤28とが混ざり合って硬化し、マーキング部材14aの先端面と胃壁37とが接着される。
【0027】
次に、2方向活栓23のツマミ26を回動させて閉状態にして処置具1を胃壁37から離すと、マーキング部材14aが胃壁37に接着されているので先端方向に引っ張られる。また、マーキング部材14aは弾性素材であるため、収容部9内のフランジ部13をマーキング部材14aの外周が乗り越える。このため、図6の(b)に示すように、胃壁37にマーキング部材14aが接着された状態でマーキング部材14aが先端側に外されて留置された状態となる。
【0028】
続いて、図5の(a)に示す胃壁37に処置具1の収容部9を押し当てる同様の操作を、図4に示す切除範囲36の所望の位置に対して3ヶ所行ない、マーキング部材14b,14c,14dを胃壁37のそれぞれ所望の位置に接着させて留置させる。そして、図7に示すように、最終的に腫瘍部35の切除範囲36を示すように4ヶ所のマーキング部材14a,14b,14c,14dが胃壁37に接着される。その後、SLNを同定し、このSLNの切除や腫瘍部の部分切除操作などの処置を行なう。
【0029】
したがって、この実施の形態によれば、胃内の膜表面のみにマーキングを行なうため、リンパ流を妨げることなくSLNを同定し、切除操作を確実に行なうことができる。
また、マーキング部材を色分けしたことにより、腫瘍部を局所切除した切除片の方向を容易に把握することができ、病理診断する切片の位置を確実に特定することができる。このため、万一SLNが残された場合に、このSLN部位の位置を容易に認識することができる。
【0030】
なお、この実施の形態では2液混合型の接着剤を用いて説明したが、この接着剤はマーキング部材14a,14b,14c,14d以外の部材から容易に離れる(剥がれる)ことが好適である。
【0031】
また、接着剤は、2液混合型であることが好適であるが、1つの液体のみでマーキング部材と生体組織とを接着可能な接着剤を用いて、2液混合型の接着剤を用いる場合に予めマーキング部材に主剤を塗布した手間を省いてもよい。
【0032】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について図8ないし図12を用いて説明する。
図8に示すように、この実施の形態にかかる処置具41は、細長く、ほぼ円筒状の挿入部42と、この挿入部42の後端に設けられた操作部43と、挿入部の先端に設けられた鉗子部45とから形成されている。
【0033】
図9に示すように、この挿入部42の先端は、カバー部材44に接続されるとともに固定されている。このカバー部材44の先端には、ピン46を中心として回動可能な鉗子部45が取付けられている。この鉗子部45は手元側から順に、断面がほぼ円形状の接続部48と、この接続部48の一部から先端に向かって延びる板状のガイド部47とからなる。このガイド部47の先端では、このガイド部47の中心軸方向から下方にカーブされている。さらに、このガイド部47には、挿入部2の内腔を通るとともに、このガイド部47に沿って進退可能な局注針49が配置されている。この局注針49は形状を保持することができるとともに湾曲可能な材質からなる、例えば超弾性合金(SEA)からなることが好適である。
【0034】
また、図8に示すように、操作部43の先端側には、フランジ部50と、このフランジ部50から手元側に斜方向に延びた円筒状の延出部51と、この延出部51の内腔に進退可能な円筒状のスライド部52とが設けられている。このスライド部52の先端側は、局注針49の手元側に接続され、このスライド部52の手元側にはツマミ53とルアー口金54とが設けられている。このルアー口金54には、例えばシリンジ(図示せず)などが接続されて、スライド部52の内腔を通じて局注針49に送水可能に形成されている。
【0035】
また、操作部43のフランジ部50の軸方向手元側には、筒状の受け部55と、この受け部55内を進退可能に手元側に延びるラチェット部56と、このラチェット部56の手元側に接続され、指を掛けるリング57とが配設されている。ラチェット部56の側部には、複数の溝からなるラチェット58が設けられ、受け部55内の図示しないラチェット受け部に係合される。このため、この受け部55に対してラチェット部56が先端側に移動されると、後述するリンク66を介して鉗子部45がピン46を中心として回動されるとともにラチェット58とラチェット受け部とが係合されて、図8中の鉗子部45の矢印のように、挿入部42の軸方向に対して下方に回動される。
【0036】
また、受け部55に対してラチェット部56が先端に進められるが、ラチェット58とラチェット受け部とが係合されるため、後退させることができないようになっている。なお、受け部55の手元側の側方には、ボタン59が突出されている。このボタン59を押圧すると、図示しない構成によってラチェット58とラチェット受け部との係合が解除され、受け部55からラチェット部56を後退させることができる。
【0037】
図9に示すように、ガイド部47は、その軸方向にわたって局注針49が進退する場合のガイドとなる溝60を備えている。この溝60は、カーブした先端の鋸歯部61の手前に設けられたスリット62に接続されている。また、接続部48には、この溝60に連通されて局注針49が挿通される貫通孔63が設けられている。この接続部48は、切欠き65を有し、その縦断面が図10の(a)に示すように、ほぼL字状に形成されている。また、カバー部材44と接続部48とは、ピン46を介して接続されている。そして、図10の(b)に示すように、この接続部48の切欠き65とカバー部材44との間から手元側に延びる薄板状のリンク66の先端側と接続部48の後端側とは、右側に偏って配置されたピン67を介して接続されている。さらに、図10の(c)に示すように、リンク66の手元側は、スライド部68の切欠き69とカバー部材44との間に配置され、リンク66の手元側とスライド部68の先端側とは左側に偏って配置されたピン70を介して接続されている。スライド部68の上部には、局注針49が挿通する貫通孔71が軸方向に設けられている。また、図10の(d)に示すように、スライド部68の手元側は、ワイヤ72の先端部に接続されるとともに固定されている。図9および図10の(e)に示すように、挿入部42の内腔には局注針49とワイヤ72とが挿通され、手元側の操作部43まで延びている。図9に示す局注針49は、図8に示すフランジ部50で湾曲し、延出部51の内腔を通って、スライド部52に接続されるとともに固定されている。図9に示すワイヤ72は、図8に示す受け部55内を通ってラチェット部56に接続されるとともに固定されている。
【0038】
このため、図11に示すように、延出部51の方向にスライド部52をスライドさせると、局注針49が先端方向に前進し、ガイド部47のスリット62から突出される。さらに、リング57に指を掛けてラチェット部56を受け部55の方向に進めると、図9に示すワイヤ72を介してスライド部68が前方にスライドするため、図9、並びに図10の(b)および(c)に示すリンク66の手元側が上方に、先端側が下方に回動し、鉗子部45が図8の矢印で示す下方向に回動される。
【0039】
次に、リンパ節転移がないと想定される早期食道癌に対してSLNの同定を行なう際に、ラジオアイソトープや色素を腫瘍部周囲の粘膜下に局注する場合について、図12を用いて説明する。
【0040】
図12に示すように、経口的に軟性鏡73を食道内腔75まで挿入し、腫瘍部76を確認した後、処置具41を軟性鏡73のチャンネルから突出させる。
【0041】
図11に示すように、操作部43のリング57を受け部55の方向に押し進め、鉗子部45を少しずつ回動させて、腫瘍部76の肛門側の近傍にガイド部47の先端の鋸歯部61を押し当て、食道壁74の粘膜に食い込ませる。そして、操作部43のスライド部52を延出部51の方に押し進めると、局注針49がガイド部47の溝60に沿って先端方向に前進していく。このため、ガイド部47の先端のスリット62から局注針49が突出し、食道壁74の粘膜の表面から腫瘍部76の内側方向に向かって刺し入れることができる。この局注針49の刺し入れ後、ルアー口金54にラジオアイソトープや色素を入れたシリンジを装着し、局注針49から腫瘍部76の内方に向かって局注する。
【0042】
同様に腫瘍部76の右側、左側、口側の3ヶ所に局注する。ただし、ラチェット部56を操作して、肛門側の場合よりも鉗子部45の回動角度を小さくし、左右の局注時には処置具41の挿入部42もしくは軟性鏡73を左右方向に若干回動させて腫瘍部76の内方に向けて行なうことが好適である。なお、口側の局注は通常使用される局注針で行なってもよい。
【0043】
そして、腫瘍部76の周囲に4ヶ所局注を行なった後、内視鏡下もしくは開胸下の早期食道癌の手術工程に移る。最初にSLNをガンマプローブや内視鏡下もしくは直視下で同定し、切除摘出して迅速病理診断を行なう。また、迅速病理診断結果が陰性であればリンパ節郭清を行なわず、陽性であれば従来通りの郭清を行なう。
【0044】
したがって、この実施の形態によれば、腫瘍部の周囲の近傍の粘膜下に複数ヶ所局注する際、どの部位からも腫瘍部の中心方向に向けて局注針を刺し入れることができるため、より確実に腫瘍部からのリンパ流にラジオアイソトープや色素などを取り込ませることができ、より高い精度でSLNを同定することができる。なお、局注針を腫瘍部の周囲から遠ざかる方向に刺し入れると、SLNではないリンパ節にラジオアイソトープや色素が流れ込む可能性を有する。このため、SLNではないリンパ節をSLNと同定し切除することが有り得る。
【0045】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について図13ないし図15を用いて説明する。この実施の形態では、生体組織を挟持可能なクリップユニット77について説明する。
【0046】
クリップユニット77は、クリップ78と、このクリップ78に連結された連結板80と、連結板80の進退によってクリップ78を開閉させるクリップ締付用リング79とからなる。クリップ78はループ部84と、このループ部84の端部にそれぞれ繋がっている腕部82,83と、これら腕部82,83の先端に設けられた脚部82a,83aとからなる。ループ部84の端部は交叉し、これら端部から腕部82,83が前方に向かって延びている。また、腕部82と脚部82aとの間には、腕部82に対してほぼ直行する方向に腕部83に向かって延びる凸部85が設けられている。この凸部85は、目的とする消化管の粘膜層の厚さとほぼ同じ長さだけ腕部82の先端から手元側に配置されている。
【0047】
一方、腕部83と脚部83aとの間には、切欠き部86が設けられている。腕部82,83が近接し、閉じる方向に移動されると、切欠き部86は凸部85を係止することができる。なお、腕部82,83の両者に凸部を設け、これら凸部の先端に鉤部を設け、互いに係止するようにしてもよい。また、腕部82,83の両者が閉じた際に接触しない位置と長さを有する凸部を設けてもよい。
【0048】
ところで、脚部82a,83aの長さは、粘膜層87の厚さよりも短く形成されている。
【0049】
次に、図15に示すように、図示しない内視鏡を用いて消化管にクリップユニット77を導入し、消化管壁91にクリップ78を留置してマーキングする場合について説明する。
【0050】
この消化管壁91は、内腔から順に粘膜層87、粘膜下層88、筋層89、漿膜層90からなる。なお、粘膜下層88には、リンパ管が豊富に存在している。
【0051】
図示しない内視鏡を用いて挿入したクリップユニット77のクリップ78を開いた状態で、内視鏡の湾曲とクリップユニット77の進退とをコントロールして、図示しない消化管の腫瘍部から1cmないし2cm程度離れた目的位置の粘膜層87に押し当てる。クリップ78の脚部82a,83aを閉じていくと、これら脚部82a,83aの間に消化管壁91が挟み込まれ、粘膜層87がこれら脚部82a,83aの間に盛り上がってくる。しかし、凸部85よりもループ部84側に盛り上がることはなく、図15に示すように粘膜層87だけにクリップ78を留置することができる。また、同様の操作を必要に応じて繰り返し、腫瘍部を囲むようにクリップ78を留置させることが好適である。
【0052】
以上説明したように、この実施の形態によれば、クリップを確実に粘膜層のみに留置することができるので、クリップを深く掛け過ぎることがなく、本来のリンパ流を維持することができる。このため、SLNを同定するために腫瘍部の周囲に局注したラジオアイソトープや色素をより確実にSLNに流れ込ませることができる。
【0053】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施の形態について図16を用いて説明する。
【0054】
図16に示すように、鉗子92の先端には、1対の把持部93が設けられている。これら把持部93は、図示しない手元部によって互いの把持部93に対して開閉操作可能に形成されている。また、これら把持部93の先端には、把持部93に対してほぼ直交する方向に局注針94が突出されている。これら局注針94は、把持部93が閉じた状態で、局注針94同士が接触しないように配置されている。また、把持部93には、それぞれ他方の把持部93に設けられた局注針94を受ける図示しないスロットが配設されている。
【0055】
局注針94には、手元部でルアー口金(図示せず)に接続され、例えばシリンジなどによって、局注針94内に液体を送ることができる。また、これら局注針94の長さは、消化管の壁厚よりも短く設定されている。
【0056】
次に、図16に示すように、図示しない軟性鏡を用いて消化管に鉗子92を導入し、消化管壁95の腫瘍部96周囲にラジオアイソトープや色素を注入してSLNを同定する場合について説明する。
【0057】
図示しない軟性鏡によって消化管内の腫瘍部96の位置を確認する。そして、この軟性鏡の図示しない処置具チャンネルに鉗子92を挿通させ、このチャンネルの先端から鉗子92の先端部を突出させる。
【0058】
鉗子92の手元部を操作して、把持部93を腫瘍部96径より少し大きく開いて消化管壁95に押し当て、これら把持部93の先端の局注針94を消化管壁95に突き刺す。そして、把持部93を閉じていき、局注針94を腫瘍部96の周囲の粘膜下層まで刺し入れた後、ラジオアイソトープや色素を局注する。さらに、鉗子92を90°回転させて、同様に局注する。
【0059】
その後、ガンマプローブや内視鏡などをこの消化管内に導入し、SLNを同定する。
【0060】
以上説明したように、この実施の形態によれば、鉗子を開閉させるだけで一度に2ヶ所の局注を行なうことができるので、操作を減らすことができるとともに局注回数を減らせることができる。このため、術者の負担を軽減させることができるとともに、時間の短縮を図ることができる。
【0061】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態について図17ないし図22を用いて説明する。
【0062】
図17に示すように、この実施形態の超音波内視鏡201は、体腔内に挿入可能な細長の挿入部202と、この挿入部202の基端に位置する操作部203と、この操作部203の側部から延出するユニバーサルコード204とで主に構成されている。
【0063】
このユニバーサルコード204の基端部には、図示しない光源装置に接続される内視鏡コネクタ204aが設けられている。この内視鏡コネクタ204aからは、図示しないカメラコントロールユニットに電気コネクタ205aを介して着脱自在に接続される電気ケーブル205と、図示しない超音波観測装置に超音波コネクタ206aを介して着脱自在に接続される超音波ケーブル206とが延出されている。
【0064】
挿入部202は、先端側から順に、硬質な樹脂部材で形成された先端硬性部207、この先端硬性部207の後端に位置する湾曲自在な湾曲部208、この湾曲部208の後端に位置して可撓性を有する可撓管部209が連接されている。なお、可撓管部209は、操作部203の先端部に至る細径かつ長尺に形成されている。そして、先端硬性部207の先端側には、超音波を送受する複数の圧電素子が配列された超音波振動子部220が設けられている。
【0065】
なお、先端硬性部207の材質としては、耐薬品性や生体組織適合性が良好なポリスルフォンが用いられることが好適である。また、操作部203には湾曲部208を所望の方向に湾曲制御するアングルノブ211、送気および送水操作を行なうための送気・送水ボタン212、吸引操作を行なうための吸引ボタン213、体腔内に導入する処置具の入り口となる処置具挿入口214などが設けられている。
【0066】
図18に示すように、超音波振動子部220には、例えば数十個の圧電素子221がハウジング222の円弧状面にアレイ状に配列された振動子アレイ223が設けられている。また、圧電素子221からそれぞれ延出された図示しない信号線が一纏めに固定された信号線固定部を備えている。さらに、この信号線固定部224の基端部に位置されて形状変化部とされた、ひとまとめに固定された信号線を信号線固定部224の径寸法よりも細径で、同一径の2つのケーブル束として形成された第1の超音波ケーブル束225aと、第2の超音波ケーブル束225bとに分岐されるケーブル分岐部226を備えている。なお、符号227は超音波伝達媒体である例えば脱気水が供給されて膨張することによって体腔壁に密着する図示しないバルーンの端部が配置されるバルーン取付け用の溝である。また、符号228は超音波振動子部220を先端硬性部207に設けたとき後述する振動子用透孔231との間の水密を確保するためのOリングである。
【0067】
図18の(b)に示すように、先端硬性部207には超音波振動子部220を配置する振動子用透孔231と、処置具挿通用チャンネルを構成する処置具挿通孔232とで形成されている。この振動子用透孔231は内視鏡挿入部202の挿入軸方向に対してほぼ平行に形成されており、処置具挿通孔232は挿入軸方向に対して角度θで傾斜して形成されている。
【0068】
また、振動子用透孔231は、先端側から順に径寸法が細径になる例えば段付穴231a,231b,231c,231dとして形成されており、段付穴231dには超音波ケーブル束225a,225bが配置される。この段付穴231dは、段付穴231cから二股に分岐した2つの孔として構成されており、それぞれの孔に超音波ケーブル束225a,225bが挿通されている。なお、段付穴231dを2つの孔で構成する代わりに、超音波ケーブル束225a,225bを並べて配置する長円形断面の孔に形成するようにしてもよい。
【0069】
そして、振動子用透孔231には超音波振動子部220が超音波走査面220aを図中上側に向けた状態で配設されている。すなわち、この振動子用透孔231には超音波振動子部220を構成する超音波ケーブル束225a,225b、ケーブル分岐部226、信号線固定部224が順に挿通され、信号線固定部224に設けたOリング228が段付穴231bの内周面に密着して信号線固定部224と振動子用透孔231との間の水密が保持されている。
【0070】
一方、処置具挿通孔232の基端部には接続パイプ234が固設されている。この接続パイプ234には、処置具挿入口214に基端部側が連通され、処置具挿通用チャンネルを構成するチャンネル用チューブ233の先端部が一体的に固定されている。
【0071】
接続パイプ234は、挿入部202内をほぼ挿入部軸方向に沿って挿通するチャンネル用チューブ233と、角度θで傾斜した処置具挿通孔232とが屈曲部234aを形成した接続パイプ234によって連通されている。
【0072】
このため、処置具挿入口214から挿入された処置具は、この処置具挿入口214、チャンネル用チューブ233、屈曲部234aを有する接続パイプ234、処置具挿通孔232を通って、この処置具挿通孔232の先端側開口である処置具出口となる導出口232aから突出される。
【0073】
超音波振動子部220の振動子アレイ223が形成する超音波走査範囲は、挿入軸方向に対してほぼ側方(図18の(b)中では上側)で矢印に示す超音波走査範囲が形成され、図18の(a)に示すように、超音波走査範囲に対して処置具挿通用チャンネルが構成される処置具挿通孔232の中心軸が超音波走査面220aの超音波走査領域中心面210に含まれる位置関係で形成されている。
【0074】
なお、先端硬性部207から延出する超音波ケーブル束225a,225bは、それぞれ超音波ケーブル用チューブ239a,239bに覆われた状態で挿入部202に延在されている。そして、超音波ケーブル束225a,225bは、挿入部202、操作部203、ユニバーサルコード204、超音波ケーブル206を経て超音波コネクタ206aまで延出され、それぞれの信号線が超音波コネクタ206a内の電気コネクタに配線されている。
【0075】
また、符号235は湾曲部を構成する湾曲駒であり、符号236は湾曲操作を行なう湾曲用ワイヤ、符号237は湾曲部208を構成する外皮チューブであり、先端硬性部207の先端面207aには照明光学系を構成する照明用レンズカバー229aや観察光学系を構成する観察用レンズカバー229b、図示しない送気・送水ノズルが配置されている。
【0076】
図19の(a)に示すように、この実施形態においては超音波振動子部220から延出される信号線を信号線固定部224である破線に示す太径の状態からケーブル分岐部226において信号線固定部224の直径よりも小径の2つの超音波ケーブル束225a,225bに分岐されている。それぞれの超音波ケーブル束225a,225bは、超音波走査領域中心面210に対してほぼ対称な位置関係で配置されている。
【0077】
このため、先端硬性部207の外形寸法を大径に変化させることなく、処置具挿通チャンネルを構成する処置具挿通孔232の先端硬性部基端側配置位置に対応するチャンネル用チューブ233の配置位置を破線で示した信号線固定部224の位置に対応させて設けた場合の破線で示すチャンネル用チューブ233bの配置位置から超音波走査領域中心面210に沿って寸法Lだけ下方に移動させられる。
【0078】
したがって、図19の(b)に示すように、処置具挿通用チャンネルを形成する接続パイプ234の屈曲部234aの曲率を小さく形成することができるので、処置具挿通用チャンネル内を挿通して導出口232aから病変部(目的部位)に向かって突出する保護シース241に覆われた穿刺針240の曲率半径rを塑性変形し難い形状に形成されるようになっている。
【0079】
また、図19の(a)に示すように、チャンネル用チューブ233の位置を超音波走査領域中心面210に沿って下方に移動させる代わりに、超音波ケーブル束225a,225bが構成されている。このために挿入部内部空間が大きく構成されることを利用して、この分だけ処置具挿通孔232aの内径寸法を大径に形成するとともに、チャンネル用チューブ233aの内径寸法を大径に形成している。したがって、保護シース241に覆われた穿刺針240の曲率半径rが塑性変形し難い形状になるとともに、処置具挿通用チャンネル内により大径の処置具の挿通が可能になる。
【0080】
次に、図20ないし図22を用いてリンパ節転移がないと想定される早期胃癌に対してSLNの同定を行なう際に、超音波造影剤を腫瘍部周囲の粘膜下に局注する場合について説明する。
【0081】
腹腔鏡下もしくは開腹下に胃の腫瘍部を部分切除などの切除操作を行なう準備をしておく。
【0082】
図20に示すように、経口的に超音波内視鏡201を胃内に挿入し、腫瘍部101の位置を確認する。次に、処置具挿通孔232より保護シース241および穿刺針240を突出させて、図21に示すように腫瘍部101の周囲の粘膜下層に刺し入れる。そして、超音波造影剤を穿刺針240の手元側から注入し、粘膜下層に局注する。この局注操作を腫瘍部101の周囲4ヶ所に行ない、穿刺針240および保護シース241を超音波内視鏡201内に引き込む。
【0083】
なお、超音波造影剤は、例えば、特開2001−055345号公報や特開平11−164832号公報に開示されたものや、市販されているものを用いることが好適である。
【0084】
局注から所定の時間が経過すると、超音波造影剤がリンパ系に取り込まれて、リンパ流にのってリンパ節に到達する。図21に示すように、超音波内視鏡201を図21中の矢印のように胃内の様々な部位へ移動させて、超音波走査を行なう。そして、胃壁100の外に存在するリンパ節、例えばリンパ節102,103,104などを超音波観察して超音波造影剤が貯まっているリンパ節102を確認し、リンパ節102がSLNであると認識される。もし、SLNが見つからなければ再度腫瘍部101の周囲に超音波造影剤を局注して同様の操作を行なう。
【0085】
図22に示すように、超音波観察下でリンパ節102の方向に処置具挿通孔232から保護シース241および穿刺針240を突出させて、リンパ節102に穿刺する。穿刺針240の手元側から吸引をかけて、リンパ節102の一部を採取する。もし、超音波造影剤が貯まっているリンパ節が他にもあれば、そのリンパ節の一部も採取する。また、超音波走査時に腫大して形態的に転移している可能性が疑われるリンパ節があった場合は、超音波造影剤が貯まっていなくても、そのリンパ節の一部を採取する。
【0086】
なお、超音波内視鏡201による超音波走査時には、図示しない超音波診断プローブを用いて体外もしくは腹腔内からの走査を併用してもよい。
【0087】
そして、採取したリンパ節の迅速病理診断を行なって、リンパ節郭清の要否を決定して、手術を行なう。また、術前の診断で上記の操作を行ない、採取したリンパ節を病理診断して、病理結果を後日の手術術式などの検討に反映させてもよい。
【0088】
以上説明したように、この実施の形態によれば、局注からSLNの同定、採取までの一連の手技、操作を同じ装置・器具を用いて行なうことができるので、手術を簡便にすることができる。
【0089】
また、術前の診断でSLNの同定と病理診断が可能であるため、より正確な病理結果が分かるとともにその後の手術術式を含めた処置方法の検討を行なうことができる。
【0090】
さらに、超音波走査によるリンパ節の大きさや形態から転移が疑われるリンパ節もピックアップすることができるため、万一、癌細胞がすでに増殖しているために超音波造影剤が入り込んでいないリンパ節も採取することができる。このため、転移している可能性のあるリンパ節の見落としをより少なくすることができる。
【0091】
これまで、いくつかの実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明したが、この発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で行なわれるすべての実施を含む。
【0092】
上記説明によれば、下記の事項の発明が得られる。また、各項の組み合わせも可能である。
【0093】
[付記]
(付記1) 体腔内に挿入可能な挿入部を有する医療器具において、
生体内に留置可能なマーキング部材を保持し、かつ、前記挿入部の先端部に開口した開口部から前記マーキング部材を放出自在で、前記生体と前記マーキング部材とを接触可能な状態で保持する保持手段と、
前記保持手段で保持した前記マーキング部材に前記開口部側から接着用液体を塗布する塗布手段と、
を備えていることを特徴とする医療器具。
【0094】
(付記2) 前記開口部に一端が連通し、前記保持手段に形成された液体流路と、
前記液体流路の他端に設けられ、この液体流路を通じて前記接着用液体を前記開口部に供給する供給手段と、
をさらに具備することを特徴とする付記項1に記載の医療器具。
【0095】
(付記3) 前記保持手段を前記生体内の所望の位置に導く導入手段をさらに具備することを特徴とする付記項1もしくは付記項2に記載の医療器具。
【0096】
(付記4) 体腔内に挿入可能な細長いパイプ状の挿入部の先端に開口部を有するとともに基端に手元部が設けられた医療器具において、
前記開口部に配設され、生体組織内に留置可能な板状の弾性材からなるマーキング部材と、
前記マーキング部材を前記開口部で係脱可能に保持する保持手段と、
前記生体組織に前記マーキング部材を取着可能な液体が収容された収容部と、
この収容部と前記開口部とを連通した流路と、
前記収容部から前記液体を前記流路を介して前記開口部に送り、この開口部から前記液体を所定の方向に流出させる流出手段と、
を具備し、
前記生体組織と前記開口部とが近接した状態で、前記流出手段によって前記開口部から流出された液体が前記生体組織および/もしくは前記マーキング部材に塗布され、前記生体組織と前記マーキング部材とが接触して、このマーキング部材が前記生体組織に取着され、前記開口部が前記生体組織から離れるとともに前記マーキング部材が前記保持手段から外れて前記生体組織上に留置されることを特徴とする医療器具。
【0097】
(付記5) 前記挿入部の軸方向に沿って前記流路が配設され、この流路の後端に設けられた前記収容部が前記手元部内に筒状に設けられるとともに、前記収容部の後端部で前記流出手段がこの収容部に対して摺動可能な押圧部材を備え、
前記手元部の後端側の前記押圧部材を前記開口部に向けて摺動操作して、前記液体を前記流路を介して前記開口部から流出させるようにしたことを特徴とする付記項4に記載の医療器具。
【0098】
(付記6) 前記保持手段は、前記開口部に前記マーキング部材よりもやや小径のフランジ部と、前記マーキング部材の手元部側に押え部材とを備えていることを特徴とする付記項4もしくは付記項5に記載の医療器具。
【0099】
マーキング部材よりもやや小径のフランジ部を設けたことによって、弾性材からなるマーキング部材を挿入部の先端側に引っ張ると、容易に取り外すことができる。
【0100】
(付記7) 前記保持手段は中空であることを特徴とする付記項1ないし付記項6のいずれか1に記載の医療器具。
【0101】
(付記8) 前記保持手段は前記マーキング部材を複数備えていることを特徴とする付記項7に記載の医療器具。
【0102】
(付記9) 前記マーキング部材にそれぞれ複数の突起部を有し、前記保持手段に複数のマーキング部材が離間されて並設されることを特徴とする付記項8に記載の医療器具。
【0103】
隣接するマーキング部材の接触面積を少なくすることによって、隣接するマーキング部材同士が密着することなく、開口部から1つずつ取り外すことができる。
【0104】
(付記10) 前記マーキング部材に孔を有し、前記手元部に前記挿入部を吸引する吸引手段を設け、
前記挿入部の先端を前記生体組織に押し当てて、この生体組織を前記吸引手段によって吸引して前記マーキング部材に接触させて、生体組織の所望の位置と前記マーキング部材とを取着させるようにしたことを特徴とする付記項9に記載の医療器具。
【0105】
生体組織を挿入部から医療器具の内部に吸引することによって、生体組織の所望の位置とマーキング部材とを確実に接触させ、生体組織の所望の位置にマーキング部材を留置することができる。
【0106】
(付記11) 前記挿入部の前記手元部側から前記マーキング部材を前記挿入部の先端に向けて押圧(付勢)する押圧手段と、この押圧手段と協動して前記マーキング部材を前記保持手段内に配置するための前記突起部を前記挿入部の後端側にのみ配置したことを特徴とする付記項10に記載の医療器具。
【0107】
マーキング部材が常に挿入部の先端方向に押され、かつ、突起部をマーキング部の後端側にのみ設けたことによって、最も先端側のマーキング部材が生体組織に取着された後でも、次のマーキング部材を容易に生体組織の他の位置に取着させることができる。また、突起部を挿入部の後端側に設けたことによって、生体組織に取着され難くされずに複数のマーキング部材を密着することなく並設することができる。
【0108】
(付記12) 前記保持手段に保持された前記マーキング部材は、それぞれ異なる色を有することを特徴とする付記項11に記載の医療器具。
【0109】
マーキング部材を色分けすることにより、腫瘍部を局所切除した切除片の方向を容易に把握することができ、病理診断する切片の位置を確実に特定できるため、万一遺残があった場合に、遺残部位の位置を容易に認識することができる。
【0110】
(付記13) 前記液体は、第1の液体が前記マーキング部材に塗布されて前記保持手段に配設され、第2の液体が前記手元部に収容され、前記開口部から射出され、
前記第1および第2の液体が混ざり合って前記マーキング部材と、前記生体組織とが取着されることを特徴とする付記項12に記載の医療器具。
【0111】
第1の液体と第2の液体とが混ざり合うと硬化する接着剤を用いる場合、第1の液体を予めマーキング部材に塗布しておき、第2の液体を開口部から流出させて、生体組織とマーキング部材とが接触したとき、またはマーキング部材に第1および第2の液体が接触したときにこれら液体が混ざり合って、生体組織とマーキング部材とを取着することができるとともに、接着剤が体腔内への導入手段の内部で硬化することを防ぐことができる。
【0112】
(付記14) 前記開口部を前記生体組織を所望の位置に導く導入手段の先端から突出させるとともに、前記手元部をこの導入手段の基端部に係止可能としたことを特徴とする付記項3に記載の医療器具。
【0113】
(付記15) 前記導入手段は、内視鏡または軟性鏡からなり、前記挿入部がこの内視鏡または軟性鏡のチャンネルに挿入されることを特徴とする付記項14に記載の医療器具。
【0114】
内視鏡や軟性鏡などのチャンネルを用いることによって、体腔内の所望の位置に細長い処置具や医療器具の挿入部を確実に導くことができる。また、手元部をチャンネルの基端部に係止させることによって、挿入部の先端部を突出させることができる。
【0115】
(付記16) 体腔内に挿入可能で、細長いパイプ状の挿入部の基端に操作部が設けられ、この操作部で前記挿入部が操作される医療器具において、
前記挿入部の先端と、前記操作部とを結ぶワイヤが前記挿入部内に設けられ、このワイヤの先端でかつ前記挿入部の先端に前記操作部の操作によって回動されるガイド部と、
前記挿入部内に沿って配置されるとともに、この挿入部内を進退自在で湾曲可能な局注針と、
この局注針に液体を流入させて、前記生体組織内にこの液体を局注する局注手段とを備え、
前記ガイド部を回動させて、前記生体組織の所望の位置にこのガイド部の先端を配置するとともに、前記局注針を前記ガイド部から突出させてこの生体組織の所望の部位に刺し入れて、前記液体をこの生体組織に局注可能としたことを特徴とする医療器具。
【0116】
(付記17) 生体組織内に挿入可能な導入管と、
この導入管に進退自在に挿通された操作管と、
この操作管内に進退自在に挿通され、先端にフックを有する操作ワイヤと、
基端部を有し、この基端部より延出される1対の腕部の先端にそれぞれ内側に屈曲されて生体組織を挟持する挟持部が形成されるとともに、これら挟持部を離隔させる方向に前記腕部を広げる方向に付勢され、かつ、前記腕部の一方から他方の腕部に向かって延び、他方の腕部を係止する係止部を有するクリップと、
を具備したことを特徴とする生体組織のクリップ装置。
【0117】
(付記18) 体腔内に挿入可能で、細長いパイプ状の挿入部の先端に処置部が設けられ、基端に手元部が設けられ、前記挿入部の内部に駆動軸が挿通され、この駆動軸の先端に前記処置部が連結され、基端に前記手元部が連結され、この手元部で前記処置部が操作される医療器具において、
前記挿入部に前記駆動軸に沿って流路が配設され、
前記処置部は、1対の把持部を備え、これら把持部の先端にさらに局注針が設けられ、前記流路とこれら局注針が接続され、生体組織内の所望の位置に液体が局注されることを特徴とする医療器具。
【0118】
(付記19) (a)超音波内視鏡を目的とする管腔内に挿入し、腫瘍部を確認するステップと、
(b)この腫瘍部の周囲の粘膜下に前記超音波内視鏡から穿刺針を穿刺して、超音波造影剤を局注するステップと、
(c)前記超音波内視鏡を用いて超音波走査を行ない、リンパ節の存在および超音波造影剤が流れ込むリンパ節を観察してSLNを確認するステップと、
(d)前記超音波内視鏡の超音波走査ガイド下に前記穿刺針をSLNに穿刺して、SLNを採取するステップと、
からなるSLNの同定・採取方法。
【0119】
局注からSLNの同定、採取までの一連の手技(操作)を同じ装置・器具を用いて行なうことができるので、手術を簡便に行なうことができる。
【0120】
(付記20) 体腔内に挿入可能な挿入部を体腔内に導入してこの挿入部の先端で生体組織の所望の位置にマーキングを行なうマーキング方法において、
生体組織に留置可能な板状の弾性材からなるマーキング部材を前記挿入部の先端に設けた開口部に係脱可能に配置し、この挿入部を前記開口部から体腔内に挿入してこの開口部を生体組織の所望の位置に近づける第1の工程と、
前記開口部から流出可能で、生体組織と前記マーキング部材とを取着させる液体を前記開口部から流出させて前記マーキング部材および/もしくは生体組織の所望の位置に塗布する第2の工程と、
前記開口部を生体組織の所望の位置に押し当てて、この位置の生体組織に前記マーキング部材を接触させて、生体組織とこのマーキング部材とを取着させる第3の工程と、
前記挿入部を生体組織から離れる方向に移動させて、前記生体組織に取着された前記マーキング部材が弾性変形して前記開口部から外されて前記生体組織の所望の位置に留置されて前記生体組織にマーキングされる第4の工程と、
を具備したことを特徴とするマーキング方法。
【0121】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、粘膜下層のリンパ流を変えるなど、生体に変化を起こすことなく、腫瘍切除範囲に容易にマーキングを行なうことができる医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態に係る処置具の全体構成を示す概略的な側面図。
【図2】第1の実施の形態に係り、処置具の全体構成を示す概略的な側断面図。
【図3】第1の実施の形態に係り、挿入部の先端に配設されるマーキング部材を示す概略的な斜視図。
【図4】第1の実施の形態に係り、内視鏡を用いて処置具を経口的に胃内に挿入し、腫瘍部の位置を確認した状態を示す概略的な説明図。
【図5】第1の実施の形態に係り、(a)は内視鏡から処置具の先端を突出させて腫瘍部の口側の胃壁に押し当てた状態を示す概略的な説明図、(b)は胃壁に収容部を押し当てた後、開口部から硬化剤を射出させてこの開口部に囲まれた胃壁に塗布した状態を示す概略的な説明図。
【図6】第1の実施の形態に係り、(a)はマーキングを行なう位置の胃壁を処置具の先端の開口部で吸い込み、マーキング部材に予め塗布されていた主剤と胃壁に射出された硬化剤とが混ざり合いながらマーキング部材と、マーキング部材を取着したい位置の胃壁とが接触した状態を示す概略的な説明図、(b)は(a)に示すマーキング部材が胃壁に取着されてから処置具が胃壁から離れる方向に移動したときにマーキング部材が胃壁に取着された状態で処置具から外された状態を示す概略的な説明図。
【図7】第1の実施の形態に係り、4つのマーキング部材を目的部位の周囲に取着させた状態を示す概略的な説明図。
【図8】この発明の第2の実施の形態に係る処置具の全体構成を示す概略的な側面図。
【図9】第2の実施の形態に係り、図8中の矢印Aの方向から処置具の先端部を見た場合の軸方向の概略的な断面図。
【図10】第2の実施の形態に係り、(a)は図9のB−B線によって切断された断面を矢印方向から見た断面図、(b)は図9のC−C線によって切断された断面を矢印方向から見た断面図、(c)は図9のD−D線によって切断された断面を矢印方向から見た断面図、(d)は図9のE−E線によって切断された断面を矢印方向から見た断面図、(e)は図9のF−F線によって切断された断面を矢印方向から見た断面図。
【図11】第2の実施の形態に係る処置具の全体構成を示す概略的な側面図。
【図12】第2の実施の形態に係り、軟性鏡を用いて処置具を目的部位まで導入し、ガイド部をこの目的部位に対して周囲から内方に向けて食い込ませた状態を示す概略的な説明図。
【図13】この発明の第3の実施の形態に係る生体組織のマーキング用のクリップ装置を示す概略的な側面図。
【図14】第3の実施の形態に係り、図13に示すクリップを上方から見た斜視図。
【図15】第3の実施の形態に係り、図13に示すクリップを生体組織内に留置し、マーキングした状態を示す概略的な説明図。
【図16】この発明の第4の実施の形態に係る処置具の先端に設けられた処置部の先端部に局注針を設けて、この局注針を目的部位の周囲から内側に向けて刺し入れる状態を示す概略的な説明図。
【図17】この発明の第5の実施の形態に係る内視鏡用の超音波発生装置を示す概略的な平面図。
【図18】第5の実施の形態に係り、(a)は超音波内視鏡の先端部分の正面図、(b)は超音波内視鏡の先端部分の構成を説明する断面図。
【図19】第5の実施の形態に係り、(a)はチャンネル用チューブと超音波ケーブル束との関係を説明する断面図、(b)は穿刺針による穿刺状態を説明する断面図。
【図20】第5の実施の形態に係り、超音波内視鏡を胃内の目的部位を確認し、この目的部位に穿刺針を近づけた状態を示す概略的な説明図。
【図21】第5の実施の形態に係り、超音波内視鏡を目的部位の周囲にあてがうとともにお穿刺針をこの目的部位の周囲に穿刺し、超音波走査を適当な位置で行なう状態を示す概略的な説明図。
【図22】第5の実施の形態に係り、超音波内視鏡を目的部位の周囲にあてがって超音波を走査してこの目的部位を同定し、この目的部位に対して局注針を刺し入れた状態を示す概略的な説明図。
【符号の説明】
1…処置具、2…挿入部、3…手元部、9…収容部、12…開口部、14a,14b,14c,14d…マーキング部材、15…押え部材、28…硬化剤

Claims (3)

  1. 体腔内に挿入可能な挿入部を有する医療器具において、
    生体内に留置可能なマーキング部材を保持し、かつ、前記挿入部の先端部に開口した開口部から前記マーキング部材を生体に接触可能な状態で放出自在に保持する保持手段と、
    前記保持手段で保持した前記マーキング部材に前記開口部側から接着用液体を塗布する塗布手段と、
    を備えていることを特徴とする医療器具。
  2. 前記開口部に一端が連通し、前記挿入部に形成された液体流路と、
    前記液体流路の他端に設けられ、この液体流路を通じて前記接着用液体を前記開口部に供給する供給手段と、
    をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
  3. 前記挿入部を前記生体内の所望の位置に導く導入手段をさらに具備することを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の医療器具。
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