JP3841653B2 - 高滑水性被膜およびその被覆方法 - Google Patents

高滑水性被膜およびその被覆方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に建築用窓ガラス、車両用窓ガラス、鏡、その他産業用窓ガラス等に用いることが可能な、極めて優れた滑水性(水滴滑落性)を示す高滑水性被膜および被覆方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水滴滑落性を改善する試みとしては、シリコーン系ワックス、オルガノポリシロキサン、界面活性剤などを含む組成物について提案されており、例えば、特公昭50-15473号公報では、アルキルポリシロキサンおよび酸よりなる組成物、特開平5-301742号公報では、アミノ変性シリコーンオイルと界面活性剤とを含有する組成物が開示されており、30゜傾斜において約15μl程度の水滴量で滑落するものが得られている。また、特開平11-181412号公報では、−(CH23(CF27CH3等の基がオルガノシロキサン単位を形成するケイ素原子に直接結合した単位、および−(CH23SiCl3等の基がオルガノシロキサン単位を形成するケイ素原子に直接結合した単位を必須とする含フッ素シリコーン化合物および/または該化合物の部分加水分解物生成物、を含むことを特徴とする表面処理剤が開示されており、50μlの水滴が約10°の傾斜で滑落するものが得られている。また、特開2000−144056号公報では、末端に加水分解可能な官能基を有するシリコーン化合物、または末端に加水分解可能な官能基を有し他端にフルオロアルキル基を併せ持つシリコーン化合物と、酸と、水とを溶剤に溶解後、混合撹拌によって得られた混合液を、基材表面に塗布し、ついで乾燥させることにより得られる機能層が、基材表面とシロキサン結合により化学的に結合されてなることを特徴とする水滴滑落性に優れた表面処理基材が開示されており、50μlの水滴が約1°の傾斜で滑落するもの(本発明より優れた特性)が得られている。なお、これらの表面処理剤は、滑水剤成分を基材上に直接処理して滑水層を形成させており、本願発明のように、滑水剤成分とマトリックス成分をハイブリッド化した透明被膜を基材上に形成させるというものとは異なる。
【0003】
滑水剤成分とマトリックス成分からなる透明被膜を基材上に形成させる方法としては、特開平8−12375号公報にフルオロアルキル基含有シラン化合物と、ジメチルシリコーンおよび/またはその誘導体の混合物を溶媒中で加水分解して得られた溶液と、アルコキシシラン化合物を溶媒中で加水分解して得られた溶液とを混合し、この混合液を基材表面に塗布することにより形成された、フルオロアルキル基およびメチル基が塗膜の内層よりも外側表面層において高い濃度で存在する撥水性物品が開示されている。また、特開2000-26758号公報には、滑水性被膜を形成可能な被覆組成物として、水酸基含有ビニルポリマー、エポキシ末端シロキサンポリマー、スルホン酸化合物およびブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物及びメラミン樹脂から選ばれる少なくとも1種の架橋剤成分および特定のジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキレンオキシドシランから選ばれる界面活性剤を含有する滑水性被膜を形成可能な被覆組成物により、水滴量10μlでの転落角が5°以下と非常に優れた性能を示すことが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開平8−12375号公報記載の撥水性物品は、水滴滑落性が50μlの水滴が約16°の傾斜で滑落するレベルであり、自動車用ウィンドウとして良好な雨滴除去を目的とする場合には、十分とは言い難いレベルである。また、前記特開2000-26758号公報記載の撥水性物品は、透明性が低く、塗料用材料としての用途に限られている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、シリカマトリックスと滑水成分との相溶性を改善するために、ジメチルシリコーンの末端にウレタン結合を介してシランカップリング剤を結合(シラン化)させた滑水成分とすれば、該滑水成分がうまくシリカ膜にハイブリッド化され、膜中の滑水成分の保持性がよくなり、高滑水性とともに高耐久性の高滑水性被膜が形成できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明の高滑水性被膜は、シリカマトリックス中に、ジメチルシリコーンの末端にウレタン結合を介してシランカップリング剤を結合させてなる滑水成分を分散させたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の高滑水性被膜は、前記ジメチルシリコーンが、一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンであり、前記シランカップリング剤は、一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシランであることを特徴とする。
【0008】
【化2】
【0009】
ここで、nは10〜300の整数。
Rx−Si(CH3)m(OR)3-m [2]
ここで、 [2]式中、mは0〜2の整数、−ORはアルコキシ基、Rxは末端がイソシアネート基である1価の直鎖有機基を示す。
【0010】
さらに、本発明の高滑水性被膜の被覆方法は、下記の工程により製造することを特徴とする。
(1)前記の一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンと前記の一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシランとを混合して両者をウレタン結合させ、滑水成分としてのシラン化ジメチルシリコーンを合成する工程、
(2)アルコキシシランを加水分解および重縮合させることによってマトリックス成分としてのシリカゾルを調製する工程、
(3)シラン化ジメチルシリコーンとシリカゾルを混合して塗布液を調製する工程、
(4)基材表面に前記塗布液を塗布したのち熱処理を行う工程
また、本発明の高滑水性被膜の被覆方法は、シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランとを混合しウレタン結合させる際、シラノール末端ジメチルシリコーンのシラノール基(−SiOH基)とイソシアネート基含有アルコキシシランのイソシアネート基(−N=C=O基)との反応を促進させるための触媒を添加することを特徴とする。
【0011】
さらにまた、本発明の高滑水性被膜の被覆方法は、600℃以下の温度で熱処理することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の滑水性被膜は、シリカマトリックス中に、ジメチルシリコーンの末端にウレタン結合を介してシランカップリング剤を結合させてなる滑水成分が分散(相溶)されてなることを特徴とする。
【0013】
前記ジメチルシリコーンとしては、下記に示す一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンを用いることが好ましく、また、前記シランカップリング剤としては、下記の一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシランを用いることが好ましい。
【0014】
【化3】
【0015】
ここで、nは10〜300の整数。
Rx−Si(CH3)m(OR)3-m [2]
ここで、 [2]式中、mは0〜2の整数、−ORはアルコキシ基、Rxは末端がイソシアネート基である1価の直鎖有機基を示す。
【0016】
高滑水性被膜の膜構成成分であるマトリックスとしてのシリカは、アルコキシシランの加水分解および重縮合反応を進めることにより形成されるシリカゾルを調製したものを用いる。
【0017】
シリカゾルの調製は、例えば、アルコキシシラン(例えば、テトラエトキシシラン〔Si(OC25)4〕)と溶媒を所定量混合、攪拌(例えば、約30分程度)し溶液Aを得る。なお、溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールやそれらの混合物が望ましいが、その他にもエーテル類やケトン類を用いることができる。一方、酸性水溶液と前記溶媒を混合、攪拌(例えば、約30分程度)し溶液Bを得る。次いで、溶液Aと溶液Bを混合後、長時間(例えば、約15時間程度)室温で攪拌してアルコキシシランの加水分解および重縮合反応を進めシリカゾルを得る。以上のようにアルコキシシランの加水分解は、前記アルコキシシランを出発原料として、少量の水と塩酸、硝酸、酢酸などの酸触媒を添加し行うことができ、その加水分解物を室温または加熱しながら攪拌することにより重縮合させ、シリカゾルを得ることができる。なお、シリカゾルの調製法としては、上記の方法に限定されるものではないが、上記のようなアルコキシシランを溶媒で希釈したものに、溶媒で希釈した酸性水溶液を徐々に混合する方法は、急激な反応を避けることができ、より均質な反応が得られるので、好ましい。
【0018】
なお、アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、またはジアルコキシシラン類等を用いることができる。なお上記アルコキシシランの中でもテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランが好ましい。
【0019】
次に、前記の一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンとしては、その平均重合度が1000以下の分子量が概ね10万以下のものを用いることができる。なお、該シラノール末端ジメチルシリコーンの平均重合度は、10〜300の範囲にあることが望ましく、10以下であると揮発性が高く、高滑水性被膜用塗布液中に導入しにくくなり、一方、300以上であればシリカゾルとの相溶性が低下して、透明な被膜の形成が困難となり、好ましくない。
【0020】
また、一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシランとしては、末端基にイソシアネート基を有する3−イソシアネートプロピルトリアルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジアルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルジメチルアルコキシシラン等のものを用いることが出来る。
【0021】
次に、本発明の高滑水性被膜の製造方法について説明する。
本発明の高滑水性被膜は下記の工程により製造することができる。
(1)前記シラノール末端ジメチルシリコーンと前記イソシアネート基含有アルコキシシランとを混合して両者をウレタン結合させ、滑水成分としてのシラン化ジメチルシリコーンを合成する工程、
(2)アルコキシシランを加水分解および重縮合させることによってマトリックス成分としてのシリカゾルを調製する工程、
(3)シラン化ジメチルシリコーンとシリカゾルを混合して塗布液を調製する工程、
(4)基材表面に前記塗布液を塗布したのち熱処理を行う工程
すなわち、高滑水性被膜用の塗布液は、シラノール末端ジメチルシリコーン(一般式[1])とイソシアネート基含有アルコキシシラン(一般式[2])を混合し、触媒下で両者をウレタン結合させてシラン化ジメチルシリコーン溶液を調製した後、該溶液を前記シリカゾルに添加、混合することにより得ることができる。
【0022】
先ず、シラン化ジメチルシリコーン溶液の調製法について説明する。
シラン化ジメチルシリコーン溶液は、一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンと一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシラン〔例えば、O=C=N−C36Si(OCH3)3〕と溶媒、場合によっては触媒とを混合、攪拌することによって得ることができ、その際、シラノール末端ジメチルシリコーンの−SiOH基とイソシアネート基含有アルコキシシランの−N=C=O基の反応により、ジメチルシリコーン末端に3個のアルコキシ基を持ったシラン化ジメチルシリコーン組成物が生成すると考えられる。
【0023】
なお、シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランを混合し、ウレタン結合してなる成分を合成する際、シラノール末端ジメチルシリコーンのシラノール基(−SiOH基)とイソシアネート基含有アルコキシシランのイソシアネート基(−N=C=O基)との反応を促進させるための触媒を添加することが望ましい。その触媒としては、ルイス塩基、有機金属化合物などがあり、特に、ジブチル錫ジラウレート、トリメチル錫ハイドロオキサイド、ジメチル錫ジクロライド等の有機スズ化合物が好ましい。
【0024】
また、この時の希釈溶媒としては、トルエンの他に、キシレン、ベンゼン等の芳香族系炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、四塩化炭素等の塩素系溶媒などでもよく、水の溶解度が非常に小さく、溶媒中に実質上水分を含有しないものであればよい。
【0025】
また、シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランのシラン化のための反応条件としては、室温で混合・攪拌する場合、混合後10〜300h攪拌することが望ましく、特に30〜100hの攪拌が好ましい。なお、この攪拌時間は、攪拌温度、使用する触媒、原料濃度等によって、適切な時間に設定するのが必要であることは言うまでもない。
【0026】
次に、前記で調製したシラン化ジメチルシリコーン溶液とシリカゾルを混合し、混合ゾルを調製することにより、塗布液を得る。なお、調製する場合に、シラノール末端ジメチルシリコーン、イソシアネート基含有アルコキシシランおよび該シリカゾルを同時に混合した場合には、滑水性の耐久性が著しく低下するので、実用上好ましくない。また、シラン化ジメチルシリコーン溶液にシリカゾルを混合する場合においても、該シリカゾルを該シラン化ジメチルシリコーン溶液に混合させるまでの時間が短い場合には、シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランがウレタン結合してなる成分が生成しないので、滑水性の耐久性が著しく低下するので、実用上好ましくない。
【0027】
上記で用いる溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、四塩化炭素等の塩素系溶媒やそれらの混合物を用いることが好ましい。
【0028】
次に、上記で得られた塗布液を基材表面に塗布する。
塗布方法としては、手塗り、ノズルフロ−コ−ト法、ディッピング法、スプレー法、リバ−スコ−ト法、フレキソ法、印刷法、フローコート法あるいはスピンコート法、ならびにそれらの併用等既知の被覆手段など各種被覆法が適宜採用し得る。また、簡易なタイプのスプレー式撥水処理剤などとしても使用することができる。
【0029】
次に、基材表面に塗布した塗布液を熱処理し基材表面に被膜を固着させる。
該熱処理は、風乾により自然乾燥させてもよいし、乾燥後または乾燥と同時に室温を越え600℃以下の温度で熱処理を行うことも出来る。なお、600℃を越えると滑水剤成分が熱分解して滑水性が著しく低下するので好ましくない。
【0030】
基材としては、ガラス、プラスチック等特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板の場合には、建築用窓ガラスや自動車用窓ガラス等に通常使用されているフロ−トガラスあるいはロ−ルアウト法で製造されたガラス等無機質の透明性がある板ガラスが好ましく、無色または着色、ならびにその種類あるいは色調、他の機能性膜との組み合わせ、ガラスの形状等に特に限定されるものではなく、さらに曲げ板ガラスとしてはもちろん各種強化ガラスや強度アップガラスであり、平板や単板で使用できるとともに、複層ガラスあるいは合わせガラスとしても使用できる。また、被膜はガラス基板の両面に成膜しても構わない。
【0031】
なお、前記表面処理剤が塗布される基材表面は、金属酸化物よりなる下地層を設けられていてもよい。例えば、ガラス基板の場合には、下地層は、ケイ素酸化物等の金属酸化物を主成分とする酸化物薄膜が好ましく、その上に前記表面処理剤を塗布して高滑水性被膜を被覆することにより、高耐久性を有する高滑水性ガラスを得ることが出来る。
【0032】
以上に述べたように、本発明の滑水性被膜は、シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランがウレタン結合し、シリコーン末端に1〜3個のアルコキシ基を持ったシラン化ジメチルシリコーン組成物を生成し、これがシリカマトリックスへの相溶性を向上させることによって、多くの滑水剤成分をシリカマトリックス中に分散または保持させることができるので、高滑水性が得られ、かつ滑水性の高耐久性が得られる。
【0033】
また、本発明についての滑水性とは、後述の実施例の評価方法で述べるような方法、例えば、前記で得られた滑水性被膜を有するサンプルを30°に傾斜させた状態で、該サンプル表面上にゆっくりとマイクロシリンジで純水を滴下する。このとき、水滴が2mm/sec以上の速度で動き始める時点の水滴量(体積)を滑水性(水滴転落性)とし、「μl」で示すものである。また、滑水性の代わりに転落角で評価することも有用である。すなわち、サンプルを水平に保持した状態で、サンプル表面上に50μlの純水を滴下した後、サンプルを徐々に傾けていき、水滴が動き始める時点の傾斜角度を転落角(°)とした。なお、転落角は協和界面科学製CA−A型を用いて大気中(約25℃)で測定した。本発明の高滑水性とは前記方法により得られる滑水性が15μl以下、または、転落角が10゜以下、より好ましくは、それぞれ、10μl以下、または、5゜以下のものをいう。
【0034】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、滑水性被膜の評価方法を以下に示す。
【0035】
〔滑水性被膜の評価〕
滑水性被膜の評価方法を以下に記す。
1)接触角
高滑水性被膜基材のサンプル表面に、純水約2μlを置いたときの水滴とサンプル表面とのなす角を接触角計で測定する。なお、接触角計には協和界面科学製CA−X型を用いて大気中(約25℃)で測定した。
2)滑水性
サンプルを30゜に傾斜させた状態で、サンプル表面上にマイクロシリンジで純水をゆっくりと滴下し、水滴が2mm/sec以上の速度で動き始める時点の水滴量(体積)を滑水性(μl)とした。
3)転落角
サンプルを水平に保持した状態で、サンプル表面上に50μlの純水を滴下した後、サンプルを徐々に傾けていき、水滴が動き始める時点の傾斜角度を転落角(°)とした。転落角は協和界面科学製CA−A型を用いて大気中(約25℃)で測定した。なお、滑水性は15μl以下、または、転落角が10#以下を合格とした。
4)耐久性試験
サンプルを流水中、ネル(綿300番)を用いて強く手擦り120回を行い、乾燥してから接触角、滑水性および転落角を評価した。
【0036】
実施例1
(1)シラン化ジメチルシリコーンの合成
シラン化ジメチルシリコーンは、ジブチル錫ジラウレートを触媒とし、平均重合度が24(平均分子量;1750)のシラノール末端ジメチルシリコーン〔N24SOL(OH);Gelest製、DMS−S15〕と3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン〔O=C=N−C36Si(OCH3)3〕とを反応させることによって合成した。
【0037】
図1にシラン化ジメチルシリコーンの合成手順と混合割合(重量比)を示す。先ず、シラノール末端ジメチルシリコーン;2.00gとトルエン;20.00gを混合し、約1分間攪拌した後、ジブチル錫ジラウレート;0.04gを添加し、約5分間攪拌した。さらに、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランを、イソシアネート基(−N=C=O)とシラノール末端ジメチルシリコーンのシラノール基(−SiOH)が1:1当量になるように添加し、室温で2日間攪拌した。得られた溶液のFT−IRスペクトルを測定したところ、約2200cm-1に現れる−N=C=O基の由来のピーク強度が減少していたことから、シラノール末端ジメチルシリコーンの−SiOH基と3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランの−N=C=O基の反応により、末端に3個のアルコキシ基を持ったシラン化ジメチルシリコーンが生成していると考えられる。
【0038】
(2)シリカゾルの調製
シリカゾルは、テトラエトキシシラン〔Si(OC25)4:TEOS〕の加水分解および重縮合反応を進めることにより調製した。
図2に、シリカゾルの調製手順と各成分の混合割合(重量比)を示す。
先ず、TEOS;312.5gとエキネンF1;450.0gを混合し、約30分間攪拌し溶液Aを得た。また、0.1mol/lの硝酸水溶液;7.5g、H2O;210.0gおよびエキネンF1(90重量%のエタノールと10重量%のイソプロピルアルコールからなる低級アルコールの混合物);20.0gを混合し、約30分間攪拌し溶液Bを得た。次いで、溶液Aと溶液Bを混合後、約15時間室温で攪拌することによってシリカゾルを得た。
【0039】
(3)塗布液の調製
塗布液は、上記シラン化ジメチルシリコーン溶液と上記シリカゾルを混合することによって得た。
図3に塗布液の調製手順と各薬液の混合割合(重量比)を示す。
先ず、シラン化ジメチルシリコーン溶液;0.25gとメチルエチルケトン;7.00gを混合し、約5分間攪拌した。次いで、上記シリカゾル;2.00gを添加し、約15時間室温で攪拌することによって滑水性被膜用塗布液を調製した。
【0040】
(4)ガラス基板の洗浄
100mm×100mm×2mmtサイズのフロートガラスの表面を研磨液を用いて研磨し、ガラス洗浄機(当所製作品)にて水洗および乾燥した。なお、ここで用いた研磨液は、約1%のガラス用研摩剤ミレークE(三井金属工業製)を水に混合した懸濁液を用いた。
【0041】
(5)高滑水性被膜基材の作製
上記(3)で調製した塗布液をスピンコート法により上記(4)で準備したガラス基板上に塗布した。先ず、スピンコーター上に塗膜用ガラス基板である上記ガラス基板を設置し、回転速度が500rpmの速度で回転させながら約1.0〜1.5mlの塗布液を滴下し、30秒間回転速度を維持して塗膜の乾燥を行い、良好な成膜性の透明ゲル膜を得た。次いで、300℃で10分間熱処理を行い、室温まで冷却させた後、流水中、ネル(綿300番)で水洗して、風乾させることによって滑水性被膜を得た。
【0042】
上記[滑水性被膜の評価]に記載した要領でサンプルの初期性能および耐久性を評価した結果、初期滑水性は14μl、初期転落角は7°と良好な水滴転落性を示し、耐久性試験後も滑水性は12μl、転落角は5°と良好であった。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例2
出発原料に平均重合度が56(平均分子量;4200)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N56SOL(OH);Gelest製、DMS−S21)を用いた以外はすべて実施例1と同じに行った。
結果、初期滑水性は12μl、初期転落角は5°と良好な水滴転落性を示し、耐久性試験後も滑水性は10μl、転落角は4°と良好であった。
【0045】
実施例3
出発原料に平均重合度が70(平均分子量;5200)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N70SOL(OH);東芝シリコーン製、YF3800)を用いた以外はすべて実施例1同じに行った。
結果、初期滑水性は12μl、初期転落角は5°と良好な水滴転落性を示し、耐久性試験後も滑水性は12μl、転落角は5°と良好であった。
【0046】
実施例4
出発原料に平均重合度が243(平均分子量;18000)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N243SOL(OH);Gelest製、DMS−S27)を用いた以外はすべて実施例1と同じに行った。
結果、初期滑水性は15μl、初期転落角は9°と良好な水滴転落性を示し、耐久性試験後も滑水性は12μl、転落角は5°と良好であった。
【0047】
比較例1
シラン化ジメチルシリコーン溶液の代わりに平均重合度が70(平均分子量;5200)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N70SOL(OH));2.00gをトルエン;20.00gに溶解させた溶液を用いて塗布液を調製した以外はすべて実施例1と同じに行った。
結果、初期滑水性は5μl、初期転落角は1°と高い水滴転落性を示したが、耐久性試験後の滑水性は20μl、転落角は10°と悪かった。
【0048】
比較例2
酢酸エチル;10.00gに平均重合度が70(平均分子量;5200)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N70SOL(OH));1.00gを添加した溶液0.5mlをガラス基板上に滴下し、綿布(商品名;ベンコット)でガラス全面に十分引き伸ばした後、5分程度風乾した。その後、マッフル炉で80℃、10分間の熱処理を行い、白濁して残った余剰な滑水剤をiPAで拭き上げて透明なサンプルを得た。
得られたサンプルは、初期滑水性は15μl、初期転落角は9°と高い水滴転落性を示したが、耐久性試験後の滑水性は20μl、転落角は10°と悪かった。
【0049】
比較例3
出発原料に平均重合度が70(平均分子量;5200)のシラノール末端ジメチルシリコーン(N70SOL(OH))を用い、上記「シラン化ジメチルシリコーン」に記載した要領で調合したシラン化ジメチルシリコーン溶液;5.50g、iPA;7.50g、0.1mol/lの硝酸水溶液;0.10gを混合し、25℃で3h撹拌した。得られた溶液を「比較例2」に記載した要領でガラスに塗膜し、透明なサンプルを得た。
結果、初期滑水性は45μl、初期転落角は18°と悪かった。
【0050】
【発明の効果】
本発明の高滑水性被膜は、耐摩耗性に優れた高い撥水耐久性と優れた滑水性を兼ね備えているので、例えば車輌用の窓ガラス等に用いた場合には、雨天時に前方、側方、後方の視界が見易くなり安全に運転が出来るとともに長期間にわたり高性能を維持できる等の著効を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるシラン化ジメチルシリコーン溶液の調製手順を示す図である。
【図2】実施例1におけるシリカゾルの調製手順を示す図である。
【図3】実施例1における高滑水性塗布液の調製手順を示す図である。

Claims (5)

  1. シリカマトリックス中に、ジメチルシリコーンの末端にウレタン結合を介してシランカップリング剤を結合させてなる滑水成分を分散させたことを特徴とする高滑水性被膜。
  2. 前記ジメチルシリコーンは、一般式[1]で表されるシラノール末端ジメチルシリコーンであり、前記シランカップリング剤は、一般式[2]で表されるイソシアネート基含有アルコキシシランであることを特徴とする請求項1記載の高滑水性被膜。
    ここで、nは10〜300の整数。
    Rx−Si(CH3)m(OR)3-m [2]
    ここで、 [2]式中、mは0〜2の整数、−ORはアルコキシ基、Rxは末端がイソシアネート基である1価の直鎖有機基を示す。
  3. 下記の工程により製造することを特徴とする高滑水性被膜の被覆方法。
    (1)前記シラノール末端ジメチルシリコーンと前記イソシアネート基含有アルコキシシランとを混合して両者をウレタン結合させ、滑水成分としてのシラン化ジメチルシリコーンを合成する工程、
    (2)アルコキシシランを加水分解および重縮合させることによってマトリックス成分としてのシリカゾルを調製する工程、
    (3)シラン化ジメチルシリコーンとシリカゾルを混合して塗布液を調製する工程、
    (4)基材表面に前記塗布液を塗布したのち熱処理を行う工程
  4. シラノール末端ジメチルシリコーンとイソシアネート基含有アルコキシシランとを混合しウレタン結合させる際、シラノール末端ジメチルシリコーンのシラノール基(−SiOH基)とイソシアネート基含有アルコキシシランのイソシアネート基(−N=C=O基)との反応を促進させるための触媒を添加することを特徴とする請求項3記載の高滑水性被膜の被覆方法。
  5. 前記熱処理は、600℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項3記載の高滑水性被膜の被覆方法。
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