JP3841605B2 - 動力舵取装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵補助用のモータの回転を直線運動に変換して舵取り軸に伝え、該舵取り軸を軸長方向に移動させて舵取りを補助する構成とした動力舵取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステアリング操作に応じて操舵補助用の電動モータを駆動し、このモータの回転力を舵取機構に伝えて操舵を補助する構成とした電動式の動力舵取装置(パワーステアリング装置)が実用化されている。この種の動力舵取装置の多くは、操向車輪(一般的には左右の前輪)に連結された舵取り軸(ラック・ピニオン式舵取機構におけるラック軸等)の周辺に操舵補助用のモータを配し、該モータの回転力を舵取り軸に直接的に伝え、該舵取り軸を軸長方向に移動させて舵取りを補助する構成としてある。
【0003】
このような構成の実現のためには、モータの回転を舵取り軸の軸長方向の移動に変換する運動変換装置が必要であり、従来においては、特開平8−20351 号公報等に開示されている如く、ボールねじを利用した運動変換装置が用いられている。
【0004】
この運動変換装置は、舵取り軸の外周にねじ溝を形成する一方、該舵取り軸を支持するハウジングの内部に、前記ねじ溝に多数のボールを介して螺合するボールナットを軸長方向の移動を拘束して配し、該ボールナットに操舵補助用のモータの回転力を伝えて回転させ、この回転に伴う前記ねじ溝の螺進を利用して、該ねじ溝が形成された舵取り軸を軸方向に移動させる構成としたものであり、高い伝動効率が得られる上、舵取り軸の周辺の限られたスペースに操舵補助用のモータを含めてコンパクトに構成することができ、配設スペースの削減要求に応え得るものとなっている。
【0005】
ところが、以上の如きボールねじ式の運動変換装置においては、舵取り軸外周のねじ溝の形成に高い精度が要求され、また舵取り軸とボールナットとの間での前記ボールを介した螺合状態の調整に手間を要し、加工及び組み立てに多大の工数を要するという問題があった。またその動作中に、ねじ溝に沿って転動する複数のボールが互いに衝突し、耳障りな衝突音が発生するという問題があった。
【0006】
このような事情により電動式の動力舵取装置においては、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸に伝える用途に用いるべく、ボールねじ式の運動変換装置と同等の高い伝動効率が得られ、コンパクトに構成し得ることに加えて、動作音が小さく、簡素な構成を有する運動変換装置の実現が切望されている。
【0007】
このような切望に応え得る運動変換装置の一つとして、特開昭59−9351号公報に開示された運動変換装置がある。図7は、この運動変換装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【0008】
この運動変換装置は、軸長方向に適長離隔した2か所を軸受B1 ,B2 により支え、軸長方向への移動自在に支承されたねじ軸Sと、該ねじ軸Sの外側を同軸上にて囲繞し、軸回りに回転する回転筒10と、該保持筒10の内部に軸心を傾斜させて偏心保持され、前記ねじ軸S外周のねじ溝に周方向の一か所にて係合する複数個(図においては3個)の送りリングR1 〜R3 とを備えて構成されている。なお、本図においては、ねじ軸Sの軸心に対する送りリングR1 〜R3 の傾斜を省略し、またねじ軸S外周のねじ溝を省略して示してある。また送りリングR1 〜R3 としては、玉軸受、コロ軸受等の転がり軸受が用いられ、ねじ軸S外周のねじ溝との係合は、内輪の内周面に周設された係合突起を介してなされている。
【0009】
この構成によれば、前記回転筒10が軸回りに回転した場合、該回転筒10に保持された3個の送りリングR1 〜R3 が、前記ねじ軸S外周のねじ溝との係合を保って転動し、該ねじ軸Sは、各送りリングR1 〜R3 の係合部に作用する摩擦力の軸方向分力により押圧されて軸長方向に移動せしめられる。従って、前記回転筒10を操舵補助用のモータにより回転駆動し、前記ねじ軸Sを舵取りのための舵取り軸とすることにより前述した動力舵取装置を構成することができる。
【0010】
このとき、各送りリングR1 〜R3 の転動は、内輪と外輪との間に介在するボール、コロ等の転動体を介して生じるから、前述した運動変換はボールねじ式の運動変換装置と同等の伝動効率にてなされる上、前記転動体は、内輪と外輪との間に相互間の位置を変えることなく保持されており、転動体同士の衝突に伴う音の発生がなく静粛な動作が可能となる。また前記回転筒10は、その内側に送りリングR1 〜R3 (軸受)を保持させただけの簡素な構成であり、ボールねじ式の運動変換装置に比較して構成の大幅な簡素化が達成される。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
さて以上の如き運動変換装置において、ねじ軸Sの周面上での前記3個の送りリングR1 〜R3 の係合位置a1 〜a3 は、2個の送りリングR1 ,R3 の係合位置a1 ,a3 と、残りの1個の送りリングR2 の係合位置a2 とが、ねじ軸Sの半径方向に対向する位置に設定され、該ねじ軸Sが、a1 ,a3 とa2 とにより逆位置から支えられるようにしてある。この構成によれば、例えば、送りリングR1 及びR3 の係合を強化すべく、これらを、夫々の係合位置a1 ,a3 の側からねじ軸Sに押し付けたとき、この押し付けによるねじ軸Sの撓みが前記係合位置a2 にて係合する送りリングR2 により拘束される結果、各送りリングR1 〜R3 を強固に係合させることができる。
【0012】
ところが、このような運動変換装置を前述した動力舵取装置に用いた場合、ねじ軸Sとしての舵取り軸には、両端に連結された操向用車輪からの反力等、種々の方向から外力が作用することから、各送りリングR1 〜R3 の係合状態が損なわれ、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動が安定して行えなくなるという問題があった。
【0013】
図8は、この問題点の説明図であり、送りリングR1 (及びR3 )の係合位置a1 (及びa3 )と、送りリングR2 の係合位置a2 とを、ねじ軸Sの軸断面上に夫々三角形により図示してある。このようなねじ軸Sに対し、図中に白抜矢符にて示す如く、前記a1 とa2 とを結ぶ直線(a1 −a2 線)に対して直交する方向の押圧力Pが加えられた場合、図中に2点鎖線により示す如く、この押圧力Pの作用方向にねじ軸Sが撓み変位し、前記係合位置a1 ,a2 での送りリングR1 ,R2 の係合が損なわれることとなる。
【0014】
このような撓み変位を伴うa1 −a2 線と直交する方向の押圧力Pは、前述した動力舵取装置においては、ねじ軸Sとしての舵取り軸に加わる外力の分力として定常的に作用しており、前述した伝動不良は常に発生する虞れがある。
【0015】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、種々の方向から舵取り軸に外力が作用する状態下においても送りリングの係合状態を良好に維持することができ、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動を安定して行わせ得る動力舵取装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る動力舵取装置は、軸長方向への移動自在に支持され、外周面にねじ溝が形成された舵取り軸と、該舵取り軸の外側に同軸上での回転自在に支持され、操舵補助用のモータからの伝動により回転する回転筒と、該回転筒の内部に前記ねじ溝のリード角と略等しい角度傾斜した軸心を有して偏心保持され、周方向の一か所にて前記ねじ溝に係合する送りリングとを備え、前記ねじ溝を案内とする前記送りリングの転動により前記回転筒の回転を前記舵取り軸の移動に変換し、この移動により生じる舵取りを補助する構成としてある動力舵取装置において、前記舵取り軸外周のねじ溝との係合位置が半径方向に対向する位置に設定された各2個以上の送りリングを夫々含む第1,第2のリング組を備え、第1のリング組の係合位置と第2のリング組の係合位置とが、前記舵取り軸の周方向にずらせて設定してあることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、例えば、4個の送りリングを2個毎の2組に分け、第1の組の2個の送りリングと舵取り軸との係合位置を半径方向に対向する位置とし、第2の組の2個の送りリングと舵取り軸との係合位置は、第1の組の2個に対して舵取り軸の周方向に同向きに所定角度だけ夫々ずらせ、第2の組内では半径方向に対向する位置に設定する。これにより前記舵取り軸は、夫々が半径方向に対向する位置に係合する2個の送りリングを組とした2つのリング組ににより周方向に異なる位置にて支持されたこととなり、夫々の組内では、一方の送りリングの押し付けにより他方の送りリングの係合が強化され、また一方の組の送りリングの係合位置と直交する方向の作用力による舵取り軸の変位を他方の組の送りリングにより抑えて、全ての送りリングの係合状態を良好に維持する。
【0018】
また本発明の第2発明に係る動力舵取装置は、前記舵取り軸の軸断面内にて一側半部に夫々の係合位置が設定された2個の送りリングを、これらの間に他側半部に係合位置が設定された少なくとも1個の送りリングを挾んで配置してあることを特徴とする。
【0019】
この発明においては、舵取り軸の軸断面内において一側半部に係合する送りリングと、同じく他側半部に係合する送りリングとが、舵取り軸の軸長方向の同側に集中しない配置として、夫々の係合位置に加わる押し付け力により舵取り軸の軸長方向に回転モーメントが作用しないようにする。
【0020】
更に本発明の第3発明に係る動力舵取装置は、前記送りリングが、前記回転筒に嵌着固定された外輪と、前記ねじ溝に係合する内輪とを備える転がり軸受により構成してあることを特徴とする。
【0021】
この発明においては、舵取り軸に係合する送りリングとして、玉軸受、コロ軸受等の転がり軸受を用い、動作音が小さく静粛な動作が可能な動力舵取装置を簡素に構成する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図であり、操舵補助用のモータ3の回転を運動変換装置1を介して舵取り軸としてのラック軸2に伝え、該ラック軸2を軸長方向に移動させて操舵を補助する構成となっている。
【0023】
前記ラック軸2は、筒形をなすラックハウジング20の内部に軸長方向への移動自在に支承され、図示しない車体の左右方向に延設されており、ラックハウジング20の両側に夫々突出するラック軸2の両端は、各別のタイロッドを介して図示しない操向用車輪(一般的には左右の前輪)に連結されている。
【0024】
ラックハウジング20の中途部には、これと軸心を交叉させてピニオンハウジング21が連設され、該ピニオンハウジング21の内部には、その軸心回りでの回転自在にピニオン軸22が支承されている。図1においてピニオン軸22は、ピニオンハウジング21の上部への突出端のみが図示してあり、この突出端を介して図示しない舵輪(ステアリングホィール)に連結され、舵取りのための舵輪の操作に応じて軸回りに回転するようになしてある。
【0025】
ピニオンハウジング21の内部に延設されたピニオン軸22の下部には、図示しないピニオンが一体的に形成してある。また、ラックハウジング20内に支承されたラック軸2には、ピニオンハウジング21との交叉位置を含めた適長に亘って、ラック歯23が形成され、ピニオン軸22の下部の前記ピニオンに噛合させてある。而して、舵輪の操作に伴うピニオン軸22の回転が、前記ピニオン及びラック歯23の噛合によりラック軸2の軸長方向の移動に変換され、更に、ラックハウジング20内でのラック軸2の移動が、前記タイロッドを介して左右の操向用車輪に伝達されて、これらの車輪が前記舵輪の操作に応じて操舵されるラック・ピニオン式の舵取り機構が構成されている。
【0026】
以上の如く行われる操舵を補助する操舵補助用のモータ3は、ラック軸2を囲繞するラックハウジング20の中途部を適長に亘って拡径して一体的に構成された円筒形のモータハウジング30の内部に、該モータハウジング30の内周面に固設されたステータ31と、該ステータ31の内側に同軸的に配されたロータ32とを備える3相ブラシレスモータとして構成されている。
【0027】
前記ロータ32は、ラック軸2の外径よりも大なる内径を有する円筒の外周に、前記ステータ31の内面にわずかな隙間を有して対向する磁極33を保持して構成されており、左右一対の玉軸受34,35により、モータハウジング30の軸心回り、即ち、ラック軸2と同軸上での回転自在に支承され、前記ステータ31への通電に応じて正逆両方向に回転するようになしてある。
【0028】
以上の如く生じるモータ3の回転は、回転部材としてのロータ32の一側に構成された運動変換装置1の動作により、前記ラック軸2の軸長方向の移動に変換されて伝達されるようにしてある。図2は、運動変換装置1の構成部分近傍の拡大断面図である。
【0029】
図示の如く運動変換装置1は、回転筒10と、該回転筒10の内部に保持された4個の送りリングR1 〜R4 と、これらを係合させるべく前記ラック軸2の外周に形成されたねじ溝11とを備えて構成されている。回転筒10は、その中途部を内輪として一体形成された4点接触玉軸受13により、モータハウジング30の同側への延長部に回転自在に支持され、また前記ロータ32の一側(玉軸受35の支持側)端部に連結ブラケット36(図1参照)を介して同軸的に連結されており、前記モータ3の回転に応じてラック軸2と同軸上にて回転するようになしてある。
【0030】
回転筒10に保持された送りリングR1 〜R4 は、外輪と内輪との間に多数のボールを保持する玉軸受であり、内側に挿通されたラック軸2の外径よりも大きい内径を有し、前記回転筒10の内部に、これに対して軸心を傾斜させて偏心保持されている。またねじ溝11は、半円形の断面を有し、前記回転筒10の内側部分を含む所定の長さ範囲に亘り、所定のリード角を有して形成されており、各送りリングR1 〜R4 の内輪の内周面には、ラック軸2外周の前記ねじ溝11に対応する半円形断面を有する係合突起が周設されている。
【0031】
前記送りリングR1 〜R4 の軸心の傾き角度は、ねじ溝11のリード角と等しくしてあり、これらは、夫々の傾きが前記ねじ溝11の傾きと一致する周方向位置において、該ねじ溝11に前記係合突起を介して係合させてある。図3は、運動変換装置1の動作説明図であり、ラック軸2と一個の送りリングR1 との係合関係が示されている。図示の如く玉軸受を用いてなる送りリングR1 は、その一部が図示された回転筒10に外輪を嵌め込み、前記ねじ溝11のリード角と等しい傾斜を有して保持され、内面に周設された半円形断面の係合突起を、その傾斜が一致する位置(図中のa1 )において前記ねじ溝11に係合させてある。
【0032】
この構成によれば、前記回転筒10が軸回りに回転した場合、該回転筒10に保持された送りリングR1 が前記ねじ溝11との係合を保って転動し、この転動によりラック軸2には、ねじ溝11に沿った摩擦力Fが前記係合位置a1 に加わり、該ラック軸2は、前記摩擦力Fの軸方向分力F1 により押圧され、図中に白抜矢符にて示す如く、前記押圧の方向、即ち、軸長方向に移動せしめられることとなる。この移動の方向は、回転筒10の回転方向に応じて定まり、回転筒10の正逆両方向の回転運動がラック軸2の直線運動に変換される。
【0033】
以上の運動変換を安定して行わせるためには、回転筒10に保持された4個の送りリングR1 〜R4 の夫々が常に良好な係合状態を保つことが重要である。本発明に係る動力舵取装置においては、ラック軸2の外周面上での夫々の送りリングR1 〜R4 の係合位置a1 〜a4 が以下の如くに設定してあり、この設定により良好な係合状態を保つようにしている。
【0034】
図4は、ラック軸2の周上での送りリングR1 〜R4 の係合位置の関係を示す斜視図である。本図においてラック軸2は、前記図7に示す運動変換装置のねじ軸Sに相当するものとして、軸長方向に離隔した2か所を軸受B1 ,B2 により支えた状態に図示されており、また、各送りリングR1 〜R4 の係合位置の関係を明示するため、前記図7におけると同様に、各送りリングR1 〜R4 の傾斜の図示、及びラック軸2の外周に形成されたねじ溝11の図示を夫々省略してある。
【0035】
図4に示す如く4個の送りリングR1 〜R4 は、一側に並ぶ2個の送りリングR1 ,R2 を第1の組とし、他側に並ぶ残りの2個の送りリングR3 ,R4 を第2の組として、第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合位置a1 ,a2 は、これらがラック軸2のの半径方向に対向する位置となるように設定されており、第2の組の送りリングR3 ,R4 の係合位置a3 ,a4 は、こらの間ではラック軸2の半径方向に対向する位置となり、第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合位置a1 ,a2 に対しては、前記ラック軸2の周方向にずらせた位置となるように設定されている。
【0036】
図5は、以上の如き係合位置の設定状態の説明図である。本図には、前記4個の送りリングR1 〜R4 の係合位置a1 〜a4 が、その軸断面が示されたラック軸2の周上に夫々三角形により示されており、第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合位置a1 ,a2 は、ラック軸2の半径方向に対向する位置にあり、これらから所定の角度θだけずらせて設定された第2の組の送りリングR3 ,R4 の係合位置a3 ,a4 もまた半径方向に対向する位置にある。
【0037】
前記図2には、各送りリングR1 〜R4 の係合位置a1 〜a4 が、図の正面側にあるものを○により、背面側にあるものを●により夫々図示してある。第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合位置a1 ,a2 は、一方が正面側、他方が背面側にあって半径方向に対向する位置に設定されていること、また、第2の組の送りリングR3 ,R4 の係合位置a3 ,a4 も同様に、一方が正面側、他方が背面側にあって半径方向に対向する位置に設定されていること、更に、第2の組の係合位置a3 ,a4 は、第1の組の対応する係合位置a2 ,a1 に対し、周方向同向きにずらせて設定してあることが明らかである。
【0038】
このような係合位置a1 〜a4 の設定により、前記ラック軸2は、半径方向に対向する位置に係合する第1の組の送りリングR1 ,R2 と、同じく半径方向に対向する位置に係合する第2の組の送りリングR3 ,R4 とにより、周方向に異なる4か所にて支えられた状態となる。この構成によれば、第1の組の一方の送りリングR1 の係合を強化すべく、該送りリングR1 を係合位置a1 の側からラック軸2に押し付けたとき、この押し付けによるラック軸2の撓みが同組の他方の送りリングR2 により拘束され、両送りリングR1 ,R2 を強固に係合させることができる。このような係合強化は、第2の組の送りリングR3 ,R4 についても同様になされ、全ての送りリングR1 〜R4 の係合状態を組立て段階において良好に設定することができる。
【0039】
一方、以上の如く送りリングR1 〜R4 を係合させた運動変換装置1の使用状態において前記ラック軸2には、前述の如く、走行車輪に加わる路面反力等の外力が作用し、この外力の分力として、図5中に白抜矢符にて示す如く、第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合位置a1 ,a2 を結ぶ直線に対して直交する方向の押圧力P1 が加わることがあるが、本発明に係る運動変換装置1においては、第2の組の一方の送りリングR3 の係合位置a3 が、前記押圧力P1 の向きと対向するように設定してあるから、前記押圧力P1 の作用方向のラック軸2の撓み変位が前記送りリングR3 により抑えられ、第1の組の送りリングR1 ,R2 の係合状態は損なわれることなく良好に維持される。なお、前記押圧力P1 と逆の方向から加わる押圧力に対しては、第2の組の他方の送りリングR4 がラック軸2の撓み変位を抑える作用をなし、全く同様に係合状態を良好に維持することができる。
【0040】
また、第2の組の送りリングR3 ,R4 の係合位置a3 ,a4 を結ぶ直線に対して直交する方向の押圧力P2 が加わった場合には、この方向のラック軸2の撓み変位が第1の組の一方の送りリング(図においてはR1 )により抑えられ、第2の組の送りリングR3 ,R4 の係合状態は損なわれることなく維持される。なおこの場合においても、前記押圧力P2 と逆の方向から作用する押圧力に対しては、第1の組の他方の送りリング(図においてはR2 )がラック軸2の変位を抑える作用をなし、全く同様に係合状態を良好に維持することができる。
【0041】
このように本発明に係る動力舵取装置においては、ラック軸2に対する4個の送りリングR1 〜R4 の係合状態が、前記ラック軸2に対して種々の方向に加わる押圧力に対して損なわれることなく維持されるから、回転筒10の回転運動からラック軸2の直線運動への運動変換を安定して行わせることができる。また送りリングR1 〜R4 は、外輪と内輪との間に多数のボールを備える玉軸受であり、前述の如く回転筒10への嵌め込みにより固定された簡素な構成である上、前記各ボールは、相互間の位置を変えることなく転動し、衝突する虞れがないから、前述した動作に伴って発生する音が小さく静粛な動作が可能となる。
【0042】
以上の運動変換装置1の動作により、操舵補助用のモータ3の回転は、ラックハウジング20の内部でのラック軸2の軸長方向の移動に変換され、この移動が、図示しないタイロッドを介して左右の操向用車輪に伝達されることとなり、舵輪の操作に応じて前述の如く行われる操舵が、前記モータ3の発生力により補助される。このときラック軸2には、種々の方向にラジアル荷重が発生するが、本発明に係る動力舵取装置においては、運動変換装置1に備えられた4個の送りリングR1 〜R4 の係合位置a1 〜a4 が前述の如く設定してあり、これらの送りリングR1 〜R4 の係合状態が、前記ラジアル荷重の作用下においても損なわれることなく良好に維持されるから、前述した操舵補助を良好に行なわせることができる。
【0043】
なお、第1の組の係合位置a1 ,a2 に対する第2の組の係合位置a3 ,a4 のずれ角度θは、0°〜90°なる角度範囲にて適宜に設定することができるが、θ=0°とした場合、図7及び図8に示す運動変換装置と同様に両組の係合位置が周方向に一致し、これらに直交する方向の押圧力に対するラック軸2の変位を抑えることができず、またθ=90°とした場合、一方の組の係合位置への作用力が他方の組の係合を弱めるように作用する。従って、前記ずれ角度θは、0°と90°との中間値である45°近傍(±10°程度)に設定するのがよい。
【0044】
また以上の実施の形態においては、送りリングR1 及びR2 を第1の組とし、送りリングR3 及びR4 を第2の組としてあるが、送りリングR1 〜R4 の組分けはこれに限らず、例えば、送りリングR1 及びR4 を第1の組とし、送りリングR2 及びR3 を第2の組とする等、適宜に変更することができる。
【0045】
但しこの場合においても、各送りリングR1 〜R4 は、ラック軸2の軸断面内にて一側半部に夫々の係合位置が設定された2個の送りリング(図3においては送りリングR1 及びR4 )が、これらの間に他側半部に係合位置が設定された少なくとも1個の送りリング(図1においては送りリングR2 及びR3 )を挾むように配置する必要がある。これは、図3において、ラック軸2の一側半部に送りリングR1 及びR2 が係合し、他側半部に送りリングR3 及びR4 が係合する配置とした場合、各送りリングR1 〜R4 の係合位置に加わる押し付け力により前記ラック軸2の軸長方向に回転モーメントが発生し、各送りリングR1 〜R4 の係合状態が良好に保てなくなる虞れがあるためである。
【0046】
また以上の実施の形態においては、4個の送りリングR1 〜R4 を備える構成について述べたが、本発明に係る動力舵取装置は、5個以上の送りリングを備えて構成とすることもできる。この場合、4個を超えて備えられた送りリングは、前記2組の一方に組み込み、組内の2個の送りリングのいずれか一方と周方向に整合するように係合位置を設定してもよく、また前記2組のいずれも属さず、これらと別個に係合位置を設定するようにしてもよい。
【0047】
図6は、6個の送りリングR1 〜R6 を備える場合の係合位置の設定例を示す斜視図である。6個の送りリングR1 〜R6 を2組に組分けし、第1の組の3個R1 ,R2 ,R3 の係合位置a1 ,a2 ,a3 を、a1 及びa3 とa2 とが半径方向に対向するように設定し、また第2の組の3個R4 ,R5 ,R6 の係合位置a4 ,a5 ,a6 を、a4 及びa6 とa5 とが半径方向に対向するように設定すると共に、これらが、第1の組の係合位置a1 ,a2 ,a3 の夫々に対して周方向同向きに等角度ずらせた位置となるように設定してある。なお本図には、送りリングR1 〜R6 を保持する回転筒の図示を省略してある。
【0048】
更に以上の実施の形態においては、操舵補助用のモータ3の回転をラック軸2に伝達して操舵補助するラック・ピニオン式の動力舵取装置への適用例について述べたが、本発明は、軸長方向への移動により舵取りを行わせる舵取り軸に操舵補助用のモータの回転を伝達する構成とした各種の形式の動力舵取装置に適用可能であることは言うまでもない。
【0049】
【発明の効果】
以上詳述した如く本発明に係る動力舵取装置においては、操舵補助用のモータからの伝動により回転する回転筒に保持されて舵取り軸外周のねじ溝に係合する送りリングを、夫々2個以上を含む2組に組分けし、これらの送りリングの舵取り軸への係合位置を、夫々の組内では半径方向に対向する位置に設定し、両組間では舵取り軸の周方向にずらせて設定したから、舵取り軸に対する送りリングの係合状態を種々の方向に加わる外力に対して良好に保つことができ、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動を、高効率にて安定して行わせることが可能となる。
【0050】
また第2発明に係る動力舵取装置においては、舵取り軸の一側半部に係合位置が設定された2個の送りリング間に、同じく他側半部に係合位置が設定された少なくとも1個の送りリングを挾み、一側半部に係合する送りリングと他側半部に係合する送りリングとが、舵取り軸の軸長方向の同側に集中しない配置としたから、夫々の送りリングの係合位置に加わる押し付け力により舵取り軸の軸長方向に回転モーメントが発生せず、良好な係合状態が損なわれることがなく、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動を安定して行わせることができる。
【0051】
更に第3発明に係る動力舵取装置においては、舵取り軸に係合する送りリングとして転がり軸受を用いたから、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動に際して発生する音を小さく押え、高効率での伝動を静粛に行わせることが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図である。
【図2】運動変換装置の構成部分近傍の拡大断面図である。
【図3】運動変換装置の動作説明図である。
【図4】ラック軸に対する送りリングの係合関係を示す斜視図である。
【図5】送りリングの係合位置の説明図である。
【図6】6個の送りリングを備える場合の係合位置の設定例を示す斜視図である。
【図7】動力舵取装置に用いられている従来の運動変換装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図8】従来の運動変換装置の問題点の説明図である。
【符号の説明】
1 運動変換装置
2 ラック軸
3 モータ
10 回転筒
11 ねじ溝
1 〜a6 係合位置
1 〜R6 送りリング

Claims (3)

  1. 軸長方向への移動自在に支持され、外周面にねじ溝が形成された舵取り軸と、該舵取り軸の外側に同軸上での回転自在に支持され、操舵補助用のモータからの伝動により回転する回転筒と、該回転筒の内部に前記ねじ溝のリード角と略等しい角度傾斜した軸心を有して偏心保持され、周方向の一か所にて前記ねじ溝に係合する送りリングとを備え、前記ねじ溝を案内とする前記送りリングの転動により前記回転筒の回転を前記舵取り軸の移動に変換し、この移動により生じる舵取りを補助する構成としてある動力舵取装置において、
    前記舵取り軸外周のねじ溝との係合位置が半径方向に対向する位置に設定された各2個以上の送りリングを夫々含む第1,第2のリング組を備え、
    第1のリング組の係合位置と第2のリング組の係合位置とが、前記舵取り軸の周方向にずらせて設定してあることを特徴とする動力舵取装置。
  2. 前記舵取り軸の軸断面内にて一側半部に夫々の係合位置が設定された2個の送りリングを、これらの間に他側半部に係合位置が設定された少なくとも1個の送りリングを挾んで配置してある請求項1記載の動力舵取装置。
  3. 前記送りリングは、前記回転筒に嵌着固定された外輪と、前記ねじ溝に係合する内輪とを備える転がり軸受により構成してある請求項1又は請求項2記載の動力舵取装置。
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