JP3841031B2 - 精製アクリル酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、精製アクリル酸の製造方法に関する。さらに、詳しくは、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸を、ヒドラジン化合物を添加して蒸留し、着色しない精製アクリル酸を長期に連続して製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル酸を気相接触酸化法によって製造する方法は、工業的製法としてよく知られた方法であるが、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類やアセトン等のケトン類等が副生する。
【0003】
近年、アクリル酸は、吸水性樹脂の原料等としてその需要が増加しているが、かかる用途においては、高純度で着色しないものが特に要求されている。通常、アクリル酸の精製は蒸留によって行われるが、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸中の不純物、特にフルフラールは、通常の蒸留による除去は困難であり、通常の蒸留で得た精製アクリル酸を吸収性樹脂の原料として用いると、重合反応時に反応の遅延、重合度の低下、重合物の着色等の問題が生ずる。
【0004】
これらの問題を解決するために、アクリル酸の蒸留に際して、ヒドラジンを添加してフルフラール等と反応させて蒸留分離できるようにして行う方法が提案されている(特開昭49-30312号、特開昭63-14752号、特開昭61-218556号)。この方法は、前記不純物の除去に関しては効果があるものの、ヒドラジンが存在すると、蒸留時に激しいアクリル酸の重合を引き起こすという問題がある。重合物の生成は、蒸留塔のリボイラーの伝熱面へ付着し、伝熱性能の低下をもたらすばかりではなく、蒸留塔の能力低下や蒸留塔内の閉塞を引き起こすため、洗浄のために運転の停止を余儀なくされ、長期に連続して運転することが困難である。
【0005】
このヒドラジン化合物を添加してアクリル酸を重合する際に、種々知られているアクリル酸の重合防止剤の中で、特にジチオカルバミン酸銅を用いて蒸留すると重合が抑制されることが提案されている(特開平7-228548号)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7-228548号に記載の方法においても、製品として得られる留出液が着色したり、ある程度継続して蒸留することは可能であるものの、重合物が付着して長期に連続して蒸留を続けることが困難である。
本発明の目的は、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸から、着色しない精製アクリル酸を長期に連続して製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸から精製アクリル酸を製造する方法について鋭意検討を行ったところ、単蒸留塔内の上部にミストの除去が十分で、かつ重合物の付着し難い構成のデミスターを設け、ヒドラジン化合物を添加したアクリル酸を、単蒸留塔の塔底部に供給して蒸留することによって、すなわち、上部が充填物を充填した充填層および下部がシーブトレイからなるデミスターを単蒸留塔内の上部に設けた単蒸留塔を用い、ヒドラジン化合物を添加したアクリル酸を、単蒸留塔の塔底部に供給し、デミスターに洗浄液として単蒸留塔から留出する精製アクリル酸の一部を供給して単蒸留することによって、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸にヒドラジン化合物を添加し、ジチオカルバミン酸銅の存在下に100℃以下で単蒸留して精製アクリル酸を製造する方法において、上部が充填物を充填した充填層および下部がシーブトレイからなるデミスターを単蒸留塔内の上部に設け、ヒドラジン化合物を添加したアクリル酸を、単蒸留塔の塔底部に供給し、デミスターに洗浄液として単蒸留塔から留出する精製アクリル酸の一部を供給して単蒸留することを特徴とする精製アクリル酸の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の方法の一実施態様を示す図である。蒸留塔1の内部には、上部が充填物を充填した充填層3と下部がシーブトレイ4からなるデミスター2が設けられている。ヒドラジン化合物が添加された気相接触酸化法によって得られるアクリル酸7は蒸留塔の塔底部に供給される。リボイラー6で加熱され気化したアクリル酸蒸気はデミスター2を通り、コンデンサー5で凝縮し、精製アクリル酸8が得られる。この精製アクリル酸の一部を洗浄液9として、デミスターの充填層とシーブトレイの間に供給する。このことによってシーブトレイに捕捉された着色成分、重合成分が洗浄除去され、精製アクリル酸の着色、重合物による蒸留塔内の閉塞が抑制されると考えられる。蒸留塔の塔底部からは高沸物、重合物等を含む塔底液10が抜き出される。
【0010】
気相接触酸化法によって得られるアクリル酸は、プロピレンおよび/またはアクロレインを気相接触酸化することによって得られるアクリル酸であり、通常は不純物として、副生するフルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類やアセトン等のケトン類が含まれる。
【0011】
ヒドラジン化合物としては、例えば、抱水ヒドラジン、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等が挙げられる。ヒドラジン化合物の添加量は、不純物の含有量等によって変わるが、通常、蒸留塔へ供給する粗アクリル酸に対して、約50ppm〜約5000ppm、好ましくは、約200ppm〜約3000ppmである。ヒドラジン化合物を添加することによって、アクリル酸中に含まれる前記不純物、特に蒸留時にアクリル酸に同伴しやすいフルフラールを蒸留分離可能にすることができる。
【0012】
ヒドラジン化合物を添加したアクリル酸は、蒸留塔の塔底部へ供給し、蒸留を実施する。蒸留塔の塔底部へ供給するアクリル酸および/またはデミスターへの洗浄液には、重合禁止剤として、ジチオカルバミン酸銅を添加する。ジチオカルバミン酸銅としては、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジプロピルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジアルキルジチオカルバミン酸銅、エチレンジチオカルバミン酸銅、テトラメチレンジチオカルバミン酸銅、ペンタメチレンジチオカルバミン酸銅、ヘキサメチレンジチオカルバミン酸銅の環状アルキレンジチオカルバミン酸銅、オキシジエチレンジチオカルバミン酸銅等の環状オキシジアルキレンジチオカルバミン酸銅などを挙げることができる。通常、ジアルキルジチオカルバミン酸銅が好ましく用いられる。
【0013】
ジチオカルバミン酸銅の添加量は、デミスターの洗浄液中に、通常約1ppm〜約1000ppm、好ましくは約10ppm〜約500ppm、蒸留塔の塔底液中で、約100ppm〜約3000ppmとなるように添加する。ジチオカルバミン酸銅の添加量が多過ぎる場合、重合防止効果上は特に問題ないが、蒸留時に塔底液中のジチオカルバミン酸銅濃度が高くなり過ぎて、装置の腐食を起こす恐れがある。
【0014】
供給液を蒸留塔塔底へ供給する理由は、ヒドラジンを含むアクリル酸は激しい重合を起こすため、蒸留塔内の最もジチオカルバミン酸銅の濃度が高く、デミスターから遠いところであるためである。
【0015】
蒸留塔の内部には、上部が充填物を充填した充填層と下部がシーブトレイからなるデミスターが設けられている。
充填物としては、大きさが約1〜2インチのポールリング、ラシヒリング、カスケードミニリングなどが用いられる。充填層の高さは、約100mm〜約500mmである。
【0016】
シーブトレイとしては、孔径が約12mm〜約25mmで開口率が約10〜40%のものが用いられる。シーブトレイの段数は、1〜約5段、好ましくは約2〜約4段である。
なお、これらの充填物やシーブトレイは、一般の蒸留に必要な分離性能を必要とするものでなく、デミスターとして機能するものであればよい。
【0017】
シーブトレイの下に、全体の約20〜約30%の面積が欠けた部分がある欠円シーブトレイを更に設けてもよい。欠円シーブトレイは、重合物の付着によって孔が閉塞しても、欠円部があるために全体が閉塞することはないので、シーブトレイを含め、合計10段程度までにすることができる。通常は、約2〜約4段のシーブトレイ、またはこれに2段程度の欠円シーブトレイを加えたものが用いられる。
また、ミストの状況、重合物の付着状況によっては、約2〜約4段のシーブトレイの下に更に高さが約100mm〜約500mmの充填層を設けることも可能ではあるが、蒸留条件によっては重合物による閉塞が起き易くなることがある。
【0018】
本発明においては、蒸留塔から留出する精製アクリル酸の一部を洗浄液としてデミスターに、好ましくはデミスターの充填層とシーブトレイの間に供給して、特にシーブトレイに捕捉されたミストを洗浄除去する。この洗浄液の供給量は、トレイの面積(開口部を含む)1m2当り、約0.2〜約5m3/h、好ましくは約0.3〜約3m3/hである。洗浄液は、通常、連続的に供給されるが、間欠的に供給してもよい。
【0019】
蒸留塔内に設けられた上記のデミスターによって、蒸留時に炊き上げ蒸気に同伴されるミストが効率よく除去される。炊き上げ蒸気に同伴されるミストは、デミスターの下部を構成するシーブトレイによって捕捉され、洗浄液によって捕捉したミストが洗浄除去される一方、デミスターの上部を構成する充填層では、下部のシーブトレイで捕捉できなかったミストが除去される。このことによって、留出液として得られる精製アクリル酸の着色を防止することができる。また、上記のデミスターの構成とすることによって、重合物の付着が少なくなり、閉塞が少なくなって、より長期の連続運転が可能となる。
【0020】
本発明におけるヒドラジン化合物を添加した粗アクリル酸の蒸留は、通常、単蒸留で行われる。ヒドラジン化合物とアルデヒド類との反応生成物とアクリル酸の蒸留分離には、多段の充填塔やシーブトレイ塔を用いた精密蒸留をする必要は特にない。精密蒸留をした場合、内部に充填物等が多いために、むしろ重合物による閉塞を起こしやすい。
【0021】
蒸留は、温度が100℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下の減圧下に行われる。重合を抑制するために、より低温で、アクリル酸の滞留時間が小さくなるように、不純物等の分離が行われる範囲で、アクリル酸を速く留去するのが好ましい。蒸留塔から抜き出した塔底液を、その蒸留塔におけるよりも減圧下で蒸留し、その留出液を蒸留塔に回収するのが好ましい。
【0022】
なお、本発明において、重合禁止剤として、ジチオカルバミン酸銅の他に、ハイドロキノンやメトキノン等のフェノール類、フェノチアジン等のアミン類を添加してもよく、通常、これらの重合禁止剤と併用される。
【0023】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、気相接触酸化法によって得られるアクリル酸から、吸水性樹脂の原料等として使用可能な不純物や着色原因となる成分が取り除かれた着色しない精製アクリル酸を長期に連続して製造することができる。
【0024】
【実施例】
実施例1
内部にデミスターを有する蒸留塔(塔径:1000mmφ、材質:SUS304)を用い、単蒸留によって精製アクリル酸の製造を行った。
デミスターは、上部がポールリング(大きさ:1.5インチ)を層高400mm充填した充填層、下部には開口率が28%のシーブトレイを2段、さらにその下に、開口率が21.5%であり25%欠円のシーブトレイ2段から構成され、下部のシーブトレイには洗浄液が供給されるようになっている。
重合禁止剤として、フェノチアジン200ppm、ジブチルジチオカルバミン酸銅30ppm、不純物としてフルフラール50ppmを含み、プロピレンの気相接触酸化法によって得られた粗アクリル酸にヒドラジンを500ppm添加後、2.5t/hで蒸留塔の塔底部に供給し、塔頂圧力30torr、塔底温度63℃の条件で蒸留を実施した。塔頂蒸気を凝縮し、精製アクリル酸を製品として得る一方、洗浄液として、0.6t/hをデミスターに供給し、その洗浄液中にジブチルジチオカルバミン酸銅を濃度が100ppmとなるように添加した。塔底から、0.5t/hで塔底液を抜き出した。抜き出した塔底液は20torrで蒸留し、その留出液を上記蒸留塔に回収した。
その結果、蒸留塔は、3ヶ月間、安定して運転できた。また、得られた精製アクリル酸中のフルフラール濃度は、1ppm未満、また、精製アクリル酸中の飛沫同伴の程度を確認するため、フェノチアジン濃度を測定したところ、0.1ppm未満であった。得られた精製アクリル酸のサンプルを1週間、保管しておいたが、無色透明のままであった。
【0025】
実施例2
デミスターの下部を、欠円のシーブトレイは設置せずに、開口率が28%のシーブトレイを2段のみとした以外は、実施例1と同様にして蒸留を実施した。その結果、蒸留塔は、3ヶ月、安定して運転できた。このとき、得られた精製アクリル酸中のフルフラール濃度は、1ppm未満、また、フェノチアジン濃度は0.1ppm未満であった。得られた精製アクリル酸のサンプルを1週間、保管しておいたが、無色透明のままであった。
【0026】
実施例3
デミスターの下部を、欠円のシーブトレイは設置せずに、開口率が28%のシーブトレイを2段と、その下に、大きさが2インチのカスケードミニリングの充填層(層高:500mm)を設置した以外は、実施例1と同様にして蒸留を実施した。その結果、蒸留塔は、3ヶ月、運転を継続できた。このとき、得られた精製アクリル酸中のフルフラール濃度は、1ppm未満、また、フェノチアジン濃度は0.1ppm未満であった。得られた精製アクリル酸のサンプルを1週間、保管しておいたが、無色透明のままであった。
【0027】
比較例1
デミスターの下部を、開口率が28%のシーブトレイを2段および開口率が21.5%であり25%欠円のシーブトレイ2段の変わりに、大きさが2インチのカスケードミニリングの充填層(層高:500mm)とし、洗浄液を供給せず、粗アクリル酸を塔底でなく、洗浄液の供給部に供給した以外は、実施例1と同様にして蒸留を実施した。このとき、ジブチルジチオカウバミン酸銅は、粗アクリル酸中に50ppmとなるように添加した。その結果、蒸留塔は、運転期間が1ヶ月を過ぎるころから、塔底圧が上昇し、運転を停止しなれればならなかった。開放して点検した結果、デミスター下部の充填層には、粘着性の重合物がこびりついて閉塞しており、また、デミスター上部の充填層は黄色い重合物で閉塞していた。
【0028】
比較例2
デミスターの下部の充填層を設置しなかった以外は、比較例1と同様に、蒸留を実施した。その結果、このとき、得られた精製アクリル酸中のフェノチアジン濃度は0.3ppmとなり、運転を停止した。得られた精製アクリル酸のサンプルを保管しておくと、時間経過とともにピンク色に着色した。
【0029】
比較例3
デミスターの下部を、開口率が28%のシーブトレイを2段および開口率が21.5%であり25%欠円のシーブトレイ2段の変わりに、大きさが2インチのカスケードミニリングの充填層(層高:500mm)とした以外は、実施例1と同様に、蒸留を実施した。その結果、このとき、得られた精製アクリル酸中のフェノチアジン濃度は0.2ppmとなったので、運転を停止した。得られた精製アクリル酸のサンプルを保管しておくと、時間経過とともにピンク色に着色した。
【0030】
比較例4
デミスターの上部の大きさが1.5インチのポールリングの充填層を設けなかった以外は、実施例3と同様に、蒸留を実施した。その結果、このとき、得られた精製アクリル酸中のフェノチアジン濃度が1ppmを超えたので、運転を停止した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法の一実施態様を示す図である。
【符号の説明】
1 蒸留塔
2 デミスター
3 デミスターの上部を構成する充填層
4 デミスターの下部を構成するシーブトレイ
5 コンデンサー
6 リボイラー
7 粗アクリル酸(供給液)
8 精製アクリル酸(留出液)
9 デミスターの洗浄液
10 塔底液
Claims (9)
- 気相接触酸化法によって得られるアクリル酸にヒドラジン化合物を添加し、ジチオカルバミン酸銅の存在下に100℃以下で単蒸留して精製アクリル酸を製造する方法において、上部が充填物を充填した充填層および下部がシーブトレイからなるデミスターを単蒸留塔内の上部に設け、ヒドラジン化合物を添加したアクリル酸を、単蒸留塔の塔底部に供給し、デミスターに洗浄液として単蒸留塔から留出する精製アクリル酸の一部を供給して単蒸留することを特徴とする精製アクリル酸の製造方法。
- 充填物が、ポールリング、ラシヒリングまたはカスケードミニリングであって、その大きさが1〜2インチである請求項1記載の製造方法。
- 充填層の高さが100mm〜500mmである請求項1記載の製造方法。
- シーブトレイの開口率が10〜40%である請求項1記載の製造方法。
- シーブトレイの段数が1〜5段である請求項1記載の製造方法。
- 洗浄液の供給量が、シーブトレイの開口部を含む面積1m 2 当り、0.2〜5m 3 /hである請求項1記載の製造方法。
- ジチオカルバミン酸銅の濃度が、洗浄液中で1ppm〜1000ppm、単蒸留塔の塔底液中で100ppm〜3000ppmである請求項1記載の製造方法。
- 洗浄液をデミスターの充填層とシーブトレイの間に供給する請求項1記載の製造方法。
- 単蒸留塔から抜き出した塔底液を、該単蒸留塔におけるよりも減圧下で蒸留し、その留出液を該単蒸留塔に回収する請求項1記載の製造方法。
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