JP3838297B2 - 光触媒積層膜 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水浄化、空気浄化、消臭、油分の分解等に有効に用いられる光触媒積層膜に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来より、TiO2,ZnO,WO3,Fe23,SrTiO3等の金属酸化物は光触媒として水浄化、空気浄化、消臭、油分の分解等に広く使用されている。このような光触媒は、通常粉末状で用いられ、例えば浄化、脱臭すべき水などの液体中に撹拌分散させて使用されているが、かかる粉末状の光触媒では使用後に回収することに手間を要し、回収が困難な場合もある。粉末状の光触媒を固定化するために、粉末にバインダーとして樹脂やゴムなどを混ぜて練り、それを基材に塗って数百℃で焼結させる方法もある。しかし、このバインダー固定法の場合、金属酸化物を基材に密着よく担持することが難しく、密着性を上げるためにバインダー量を多くすると触媒効果が弱まり、少ないと密着できない。また、光触媒を基材に膜状に密着させる方法として金属アルコキシド溶液を用いてゲルコーティング膜を形成し、それを数百℃で加熱するゾル−ゲル法で得た金属酸化膜を光触媒に用いることも知られている。しかし、これらバインダー固定法も、ゾル−ゲル法も、金属酸化物膜の形成時には高温で加熱する必要があるため、高温耐熱性を有する基材しか用いることができず、使用できる基材が著しく制限される。
【0003】
従って、担持する基材の種類を選ばず、取り扱い性に優れ、触媒効率が良好な光触媒に対する要求が高まっている。
【0004】
そこで、本出願人は、各種基材に密着性よく担持され、バインダーを使用しなくても光触媒効果が得られ、膜状で取り扱い性がよく回収等を容易に行うことができ、低温で成膜できる光触媒を先に提案している(特開平8−309204号公報)。そして、この光触媒を低温で成膜する方法として、酸素分子を有するガスと不活性ガスとの存在下において金属ターゲットを用いるマグネトロンスパッタリングを採用することを開示している。
【0005】
しかし、上記方法で得られる光触媒膜は良好な触媒効率を有しているが、更に高活性の光触媒膜が要望されている。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記要望を達成し、より高活性の光触媒膜につき鋭意検討を行った結果、酸化チタン等の金属酸化物光触媒膜と白金、ニッケル、クロム、コバルト、錫、ニオブ、タンタルなどの金属又はその酸化物薄膜とを最表面層が光触媒膜となるように交互に積層すると共に、得られた積層膜にその最表面層から最下層に達する孔又は溝を多数形成することにより、酸化チタン等の光触媒膜は上記金属又はその酸化物と接すると電荷分離が促進されるので、高活性化すると共に、上記孔又は溝の形成で積層膜の比表面積が大きくなり、被分解物は高活性な光触媒膜に最表面層のみならず、上記孔又は溝の形成により露呈された中間光触媒膜にも接するので、分解性が顕著に向上することを知見した。
【0007】
またこの場合、上記光触媒膜は、スパッリング法、特に対向ターゲット式スパッタリング法により作製すること、この際、好ましくは不活性ガスと酸素分子を有するガスからの酸素ガスとの容量比を2:1〜1:3としてスパッタリングを行うこと、更に好ましくはターゲットに対する投入パワーを高くして成膜することが高活性化の点で有効であることを知見した。
【0008】
即ち、対向ターゲット式スパッタリング法は、特公昭62−56575号、同63−20304号、特公平3−1810号公報等で公知の手法であり、対向ターゲット式スパッタリング法で垂直磁気記録薄膜などを成膜している。そして、この方法によれば、結晶性の良好な膜を形成し得ることが記載されている。
【0009】
ところで、触媒活性が高い酸化チタン膜を得るためにはアナターゼ型の結晶系がリッチである必要があるが、酸化チタンの成膜に当り、種々の方法で結晶性の高い薄膜を形成することはできるものの、得られた結晶系はルチル型のものが多いため、光触媒効果が低いものである。ところが、対向ターゲット式スパッタリング法により酸化チタンを成膜した場合、低温でアナターゼリッチの光触媒膜を作製することができ、特にアルゴンガスと酸素ガスとの比率を上記の比率とすることにより、アナターゼ型結晶がよりリッチな光触媒膜を形成し得ること、また、投入パワーを高くすることで膜質を粗くし、表面積を大きくすることができるので、触媒活性をより高くし得ることを知見し、また光触媒膜をこのようにスパッタリング法で作製する場合は、上記金属又はその酸化物薄膜を気相コーティング法にて行うことで効率的に光触媒積層膜を形成することができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は下記光触媒積層膜を提供する。
請求項1:酸化チタンからなる光触媒膜と白金、ニッケル、クロム、コバルト、錫、ニオブ、タンタル、銅、セリウム、鉛、鉄、バナジウム、金、銀、ジルコニウム、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、マンガン、亜鉛、ガリウム、セレン、モリブデン、インジウム、ストロンチウム、テルル、バリウム、タングステン、ビスマス、及びイットリウムから選ばれる1種又は2種以上である金属又はその酸化物薄膜とが交互に積層されていると共に、最表面層が光触媒膜であり、かつ最表面層から最下層に至る深さの孔又は溝を多数形成してなることを特徴とする光触媒積層膜。
請求項:光触媒膜が、酸素分子を有するガスを含有する不活性ガス中で金属ターゲットを用いたリアクティブスパッタリングを行うことによって得られたものである請求項1記載の光触媒積層膜。
請求項:スパッタリングが、互いに対向するターゲット間のスパッタ空間の側方に基板を配置し、該基板上にスパッタ膜を形成する対向ターゲット式スパッタリングである請求項記載の光触媒積層膜。
請求項:金属又はその酸化物薄膜が気相コーティング法により形成されたものである請求項1、2又は3記載の光触媒積層膜。
請求項:気相コーティング法が真空蒸着又はスパッタリング法である請求項記載の光触媒積層膜。
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の光触媒膜は、図1に示すように、光触媒膜11と金属又はその酸化物薄膜12を最表面層が光触媒膜11となるように交互に積層すると共に、最表面層から最下層に達する深さの孔又は溝13を多数形成してなるものである。なお、図中14は基板を示す。
【0012】
この場合、光触媒膜の形成方法は特に制限されるものではないが、酸素分子を有するガスを含有する不活性ガス中で金属ターゲットを用いてリアクティブスパッタリングリングによって形成することが好ましい。
【0013】
ここで、スパッタリングは公知の方法にて行うことができ、通常のマグネトロンスパッタリング法等にて形成することができるが、特に対向ターゲット式スパッタリング法を採用することが好ましい。
【0014】
この対向ターゲット式スパッタリング装置としては、公知の装置を用いることができ、例えば図2に示す装置を使用し得る。即ち、図2において、1は内部を脱気真空可能な装置本体で、この装置本体1内に一対の金属ターゲット2,2が互いに所定間隔離間対向して配置されたものである。これらターゲット2,2は、それぞれ支持部3a,3aを有するホールド3,3に保持され、これらホールド3,3を介して直流電源(スパッタ電源)4の陰極に接続されていると共に、上記ターゲット2,2の背後に磁石5,5が互いに異なる磁極が対向するように配置され、上記ターゲット2,2間のスパッタ空間6にターゲット2,2に対して垂直方向の磁界が発生するようになっている。そして、上記スパッタ空間の側方には、スパッタ膜を形成すべき基板7が配置されたものである。なお、8は基板7を所定方向に移動可能に支持する支持部材である。
【0015】
上記のような装置を用いてスパッタリングを行い、基板上に光触媒膜を形成するに際し、使用する金属ターゲットとしては、光触媒作用を有する金属酸化物MeOx(MeはAl,Co,Cu,Fe,In,Mg,Sn,Ti,Zn等の金属を示し、xは金属の種類によって異なるが、0〜10、好ましくは0〜5の範囲の正数であり、xは必ずしも金属の価数に相当していなくてもよい)を得るための金属酸化物に対応した金属が選定されるが、特には酸化チタン膜を形成するチタンが好ましい。
【0016】
また、上記スパッタリングを行う上で真空度は0.1〜100mTorr、特に1〜30mTorrとした後、不活性ガスと酸素分子を有するガスが導入される。ここで、上記スパッタ空間に供給される酸素分子を有するガス(酸化性ガス)としては、公知のガスを使用することができ、具体的には、酸素、オゾン、空気、水等が挙げられ、通常は酸素が用いられる。また、不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができ、特に工業的に安価なアルゴンが好適に使用し得る。
【0017】
この場合、不活性ガスと酸素分子を有するガスとは、不活性ガスと酸素ガスとの比率が2:1〜1:3、特に1.5:1〜1:2(容量比)となるように導入することが好ましい。これにより酸化チタンを成膜する場合は高活性のアナターゼ型リッチの酸化チタン結晶を形成し得る。上記比率を逸脱すると、ルチル型結晶が多くなるおそれがある。なお、上記ガスの流量は、チャンバーの大きさ、カソードの数などにより適宜選定されるが、不活性ガスと酸素分子を有するガスとの合計量で、通常2〜1000cc/min程度である。
【0018】
投入電力も適宜選定されるが、高い投入電力とすることが好ましく、例えば2枚の直径100mmのターゲットを用いた場合、400ワット以上、特に800ワット以上とすることが推奨され、この場合、ターゲット面積当りのエネルギー量を1.3W/cm2以上、好ましくは2.6W/cm2以上、特に5.1W/cm2以上とすることが推奨され、これにより得られる光触媒膜の膜質を粗くすると共に、表面積を大きくできるので、光触媒膜の性能を更に向上させることができる。この場合、供給電力が400ワット未満、ターゲット面積当りのエネルギー量が1.3W/cm2未満であると、活性の高い光触媒膜を得ることができなくなる場合がある。
【0019】
なお、電源は、図示の例では直流電流であるが、これに限られず、例えば高周波電源等を使用することができ、また装置の構成も図示の例に限定されるものではない。
【0020】
更に、スパッタリングのその他の条件は公知の条件でよく、例えばスパッタリング時の圧力は1mTorr〜1Torrとし得、金属酸化物膜(光触媒膜)が形成される基板の種類なども適宜選定される。
【0021】
一方、金属又はその酸化物薄膜としては、真空蒸着、スパッタリング等の気相コーティング法にて形成でき、この場合弁で仕切られた一つのチャンバー内に光触媒膜形成用スパッタリング装置と、金属又はその酸化物薄膜形成用スパッタリング装置を配設し、弁の切り換えにより交互に光触媒膜と金属又はその酸化物薄膜とを形成することが好適である。
【0022】
この場合、金属としては、白金、ニッケル、クロム、コバルト、錫、ニオブ、タンタル、銅、セリウム、鉛、鉄、バナジウム、金、銀、ジルコニウム、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、マンガン、亜鉛、ガリウム、セレン、モリブデン、インジウム、ストロンチウム、テルル、バリウム、タングステン、ビスマス、及びイットリウムから選ばれる1種又は2種以上とすることができ、中でも白金、ニッケル、クロム、コバルト、錫、ニオブ、タンタルが好ましい。
【0023】
光触媒膜の厚さは適宜選定し得るが、10Å〜1μm、特に20〜2000Åとすることが好ましく、また金属又はその酸化物薄膜の厚さは5〜2000Å、特に10〜500Åとすることが好ましい。更に、光触媒膜と金属又はその酸化物薄膜との合計積層数も適宜なものとし得るが、数層乃至数十層である。
【0024】
上記孔又は溝は、レーザー等によって形成し得るが、その形状は図示のV字状に限られず、種々選定し得る。孔又は溝の形成個数も限定されないが、通常0.001〜5mm間隔で形成することができる。
【0025】
以上のようにして得られる光触媒積層膜は、公知の光触媒膜と同様にして使用することができ、例えばこの光触媒膜に光を照射することによって光触媒が励起し、殺菌、脱臭等の作用を発揮するもので、水浄化、空気浄化、消臭、油分の分解などに用いることができる。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、高い触媒活性を有する光触媒膜を作製することができる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0028】
〔実施例1、比較例1〜3〕
図2に示すような対向ターゲット式スパッタリング装置とマグネトロンスパッタリング装置が、弁で仕切られた一つのチャンバー内にある装置を用いて、表1に示す条件でステンレス板(5×5cm2)上にTiO2薄膜とPt薄膜を交互に積層した。
【0029】
【表1】
Figure 0003838297
【0030】
実施例1:この積層膜にレーザーで約0.1mm間隔のV字状の溝を切った。
比較例1:TiO2膜のみ
比較例2:Pt/TiO2積層膜のみ(表面加工なし)
比較例3:TiO2膜にレーザーで約0.1mm間隔のV字状の溝を切った。
【0031】
これらの光触媒積層膜を22mlアマランス(赤色顔料)溶液(3mg/l)中に浸し、250W超高圧水銀灯(300mn以下カット)を照射して、その濃度変化をUV−可視光度計で測定し、アマランスの分解率を求めた。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
Figure 0003838297
【0033】
〔実施例2、比較例4〕
実施例1において、金属薄膜の形成にNiターゲットを用いてNi薄膜を形成した以外は実施例1と同様にして光触媒積層膜を得た。また、比較例としてはNi積層膜のみを形成し、上記と同様にしてアマランスの分解率を調べた。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
Figure 0003838297
【0035】
以上の結果より、本発明法によれば、光触媒活性の非常に高い薄膜を形成し得ることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光触媒積層膜の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施に用いる対向ターゲット式スパッタリング装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1 装置本体
2 金属ターゲット
3 ホールド
3a 支持部
4 直流電源
5 磁石
6 スパッタ空間
7 基板
8 支持部材
11 光触媒膜
12 金属又はその酸化物薄膜
13 孔又は溝
14 基板

Claims (5)

  1. 酸化チタンからなる光触媒膜と白金、ニッケル、クロム、コバルト、錫、ニオブ、タンタル、銅、セリウム、鉛、鉄、バナジウム、金、銀、ジルコニウム、ナトリウム、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、マンガン、亜鉛、ガリウム、セレン、モリブデン、インジウム、ストロンチウム、テルル、バリウム、タングステン、ビスマス、及びイットリウムから選ばれる1種又は2種以上である金属又はその酸化物薄膜とが交互に積層されていると共に、最表面層が光触媒膜であり、かつ最表面層から最下層に至る深さの孔又は溝を多数形成してなることを特徴とする光触媒積層膜。
  2. 光触媒膜が、酸素分子を有するガスを含有する不活性ガス中で金属ターゲットを用いたリアクティブスパッタリングを行うことによって得られたものである請求項1記載の光触媒積層膜。
  3. スパッタリングが、互いに対向するターゲット間のスパッタ空間の側方に基板を配置し、該基板上にスパッタ膜を形成する対向ターゲット式スパッタリングである請求項記載の光触媒積層膜。
  4. 金属又はその酸化物薄膜が気相コーティング法により形成されたものである請求項1、2又は3記載の光触媒積層膜。
  5. 気相コーティング法が真空蒸着又はスパッタリング法である請求項記載の光触媒積層膜。
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