JP3835911B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置及び空燃比制御方法に係り、特に、実空燃比検出の遅れ時間に対処し空燃比補正の応答性を高めたエンジンの空燃比制御装置及び空燃比制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のエンジンにおいては、エンジンの排気管内の排気ガス中の酸素濃度を空燃比センサで検出し、この検出値に基づいてエンジンに供給する混合気の空燃比を所定の値、例えば理論空燃比付近にフィードバックすることが行われており、その場合の空燃比制御の一手段として、インジェクタで燃料が噴射されてから、燃焼室で燃焼し、空燃比センサで酸素濃度が検出されるまでのガス遅れ時間を考慮して、空燃比補正制御の応答性を高めた技術が、特許第2600824号公報に開示されている。
前記技術は、空燃比センサの出力信号の変化が正から負、または負から正に反転変化したときにフィードバック補正量を所定のスキップ量だけ変化させることにより応答性を高めたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記技術は、応答性はある程度高められるが、前述したガス遅れ時間に基づいてスキップ量を求めていないので、ガス遅れ時間に対する補償が十分でない場合がある。例えば、近年特に北米において、エミッションに対する法規制値が厳しくなってきており、さらなるエミッション低減が求められている。また、エバポガスの放出に関する法規制値も厳しくなってきているために、一旦キャニスタに吸着したエバポガスを、大量にエンジンの吸気管内にパージする必要があり、その際の空燃比のずれを最小限に抑えて、エミッションの悪化を防止することも必要となっている。これらのためには、更なる空燃比補正制御における応答性を高めることが必要であるが、従来技術では、ガス遅れ時間に対する十分な補償ができないのが現状である。
【0004】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、燃料を供給してから燃焼後に空燃比センサで検出されるまでの遅れ時間を補償して、空燃比の補正制御を精度よく、かつ、高い応答性で行うことのできるエンジンの空燃比制御装置と空燃比制御方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成すべく、本発明のエンジンの空燃比制御装置は、基本的には、排気ガス中の酸素濃度に応じた空燃比信号を出力する空燃比センサと、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間に関する値を運転パラメータに応じて算出する遅れ時間演算手段と、前記遅れ時間に関する値と前記空燃比信号とに基づいて実空燃比が目標空燃比となるように空燃比補正係数を設定する空燃比補正係数設定手段と、前記空燃比補正係数に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、前記空燃比制御装置は、混合気の空燃比を変化させてから前記空燃比信号が変化するまでの遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、該遅れ時間の検出結果と予め記憶されている値に基づいて前記遅れ時間を修正する遅れ時間修正手段を備え、前記遅れ時間演算手段は、前記遅れ時間の修正値と他の前記運転パラメータに基づいて遅れ時間に関する値を演算することを特徴としている。
【0006】
また、本発明のエンジンの空燃比制御装置の好ましい態様は、前記空燃比補正係数設定手段が、前記目標空燃比と前記実空燃比との空燃比偏差を検出する空燃比偏差検出手段と、前記遅れ時間に関する値と前記空燃比補正係数とに基づいて前記空燃比偏差を修正して修正空燃比偏差を算出する空燃比偏差修正手段とを備え、前記修正空燃比偏差に基づいて空燃比補正係数を設定し、前記遅れ時間演算手段が、エンジンの回転速度、負荷、吸入空気量の少なくともひとつの運転パラメータに応じて前記遅れ時間に関する値を求めることを特徴としている。
【0007】
また、本発明のエンジンの空燃比制御装置の好ましい他の態様は、該制御装置が、運転パラメータに応じて前記遅れ時間に関する値を予め記憶しておく遅れ時間記憶手段を備え、前記遅れ時間演算手段は、実際の運転パラメータに応じて前記遅れ時間記憶手段に記憶された値に基づき前記遅れ時間に関する値を演算することを特徴とし、かつ前記空燃比補正係数にリミッタを設けて該係数の値を制限したことを特徴としている。
【0008】
更に、本発明のエンジンの空燃比制御方法は、排気ガス中の酸素濃度に応じた実空燃比信号を出力する空燃比センサにより実空燃比を検出し、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間に関する値を運転パラメータに応じて算出し、前記遅れ時間に関する値と前記実空燃比信号とに基づいて実空燃比が目標空燃比となるように空燃比補正係数を設定し、前記空燃比補正係数に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を制御することを特徴としている。
【0009】
更にまた、本発明のエンジンの空燃比制御方法の好ましい態様は、排気ガス中の酸素濃度に応じた実空燃比信号を出力する空燃比センサにより実空燃比を検出し、実空燃比信号に基づいて空燃比が目標空燃比となるように空燃比補正係数を設定し、前記空燃比補正係数に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を制御し、エンジンの運転状態の変化等に伴って、前記空燃比補正係数を更新する際に、少なくとも、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間よりも短い時間内に前記更新を実質的に終了させること、及び、エンジンの運転状態の変化等に伴って、前記空燃比補正係数を更新する際に、前記空燃比補正係数を設定するための制御ゲインを初期に大きく設定し、順次減少させることを特徴としている。
【0010】
前記の如く構成された本発明に係るエンジンの空燃比制御装置及び空燃比制御方法は、排気ガス中の酸素濃度に応じた実空燃比を検出すると共に、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間に関する値を運転パラメータに応じて算出して、前記遅れ時間に関する値と前記実空燃比信号とに基づいて実空燃比が目標空燃比となるように空燃比補正係数を設定し、前記空燃比補正係数に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を制御するようにしたので、燃料を供給して燃焼後に空燃比センサで検出されるまでの遅れ時間を補償して、空燃比補正制御の応答性を高めることができ、エミッションを低減することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明のエンジンの空燃比制御装置の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のエンジンの空燃比制御装置を含むエンジンシステムの全体構成を示したもので、エンジン1は、シリンダ1aを備え、該シリンダ1aには吸気管20と排気管21とが接続され、前記エンジン1には冷却水温センサ5が取付られていると共に、前記吸気管20側には、エアクリーナ2、吸入空気量を検出するエアフローセンサ3、吸入空気量を制御するスロットル弁17、スロットル弁開度センサ4が備えられていると共に、前記排気管21側には、空燃比センサ6が備えられている。
【0012】
本実施形態のエンジンシステムには、制御ユニット(以下、ECUと云う)7が配備され、前記各センサの検出出力は、前記ECU7に入力されるように配備されている。前記ECU7は、エンジン1に供給される混合気の空燃比制御や点火制御、アイドルスピード制御(ISC)を行うように構成されている。
燃料は、燃料タンク14から燃料ポンプ11によって圧送されて、燃圧レギュレータ12にて所定の圧力に保持され、インジェクタ8に供給されて、該インジェクタ8から前記吸気管20内に噴射される。吸入空気は、スロットル弁17にてその流量が調整される共に、ISCバルブ10を介してスロットル弁17をバイパスするようになっており、該ISCバルブ10によっても空気が調整されてアイドル時の回転速度等が制御される。供給された燃料と空気は、エンジン1の燃焼室1b内に流入し、点火プラグ9にて点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは、排気管21から触媒装置13に流入し、該触媒装置13によって排気ガス中の有害成分が浄化される。
【0013】
燃料タンク14内で発生したエバポガスは、一旦キャニスタ15に吸着され、所定のエンジン運転状態のときに、エンジン1の吸気系にパージされるが、そのパージ量は、パージコントロールバルブ16によって制御される。
空燃比センサ6は、燃焼後の排気ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力し、酸素濃度は、供給された混合気の空燃比により決まるため、空燃比センサ6の信号により実際の空燃比を検出することができる。
【0014】
空燃比と空燃比センサ信号との関係の一例を示すと図2のようになる。本実施形態のエンジンの空燃比制御装置は、前記空燃比センサ6にて検出した実空燃比に基づいて、エンジン1が目標空燃比となるように、該エンジン1に供給する混合気の空燃比をフィードバック制御している。例えば、触媒13が酸化還元反応により有害成分を浄化する、いわゆる、3元触媒の場合には、十分な浄化効率を得るために、空燃比を理論空燃比付近に保持する必要があるため、前記空燃比センサ6にて検出した実空燃比に基づいて、エンジン1が理論空燃比となるように、該エンジン1に供給する混合気の空燃比をフィードバック制御している。
【0015】
図3は、前記ECU7の内部構成を示したものであり、前記エアフローセンサ3、スロットル弁開度センサ4、冷却水温センサ5、及び、空燃比センサ6の各信号3a、4a、5a、6a、及び、図示しない回転速度センサ18や気筒判別センサ19の信号が入力回路21に入力される。CPU20は、ROM25に記憶されたプログラムや定数に基づいて、これらの入力信号を読み込み、演算処理を行う。更に、演算処理の結果として、点火時期やインジェクタ駆動パルス幅がI/O22を介して点火出力回路23やインジェクタ駆動回路24に出力され、点火や燃料噴射が実行される。RAM26は、入力信号の値や演算結果等の記憶に用いられる。
【0016】
ここで、インジェクター8から燃料を供給してから前記空燃比センサ6で空燃比信号が発生するまでの間の遅れ時間について説明する。遅れ時間は、むだ時間(輸送遅れ)と応答遅れ時間とからなっており、応答遅れは、例えば、インジェクタ8から噴射された燃料の一部が吸気管20の内壁に付着して徐々に燃焼室内に流入するために生じる。また、空燃比センサ6自体にも応答遅れが存在する。通常、空燃比センサ6の信号には、ハードおよび/またはソフトによるフィルタをかけてから使用しているが、これらのフィルタも応答遅れとして作用する。以上の応答遅れは、例えば、1次遅れや、2次遅れにより近似できる。
【0017】
また、無駄時間は、インジェクタ8で噴射された燃料が、燃焼室1bの入り口に輸送されるまでの時間と、燃焼室1bに入ってから燃焼して排気されるまでの時間(4ストロークエンジンではクランク軸2回転程度)と、排気ガスが、燃焼室1bから排気されてから空燃比センサ6の設置された位置まで輸送されるまでの時間とによって決定される。
【0018】
応答遅れと無駄時間とは、エンジンの運転状態の影響を受ける。即ち、インジェクタ8や空燃比センサ6の設置位置等にもよるが、例えば、回転速度と負荷、又は、吸入空気量によって決まるものである。更に、エンジン1が冷えているときには、応答遅れが大きくなるが、この応答遅れは、例えば冷却水温で推定することができる。また、空燃比センサの温度でも応答遅れが変化することがあり、その他、燃料の性状でも多少変化するので、燃料の性状を検出する手段を設けて、その検出結果に応じて推定することが望ましい。更に、エンジン1の吸気バルブにデポジットが付着しても、応答遅れは大きくなるので、例えば走行距離や燃料噴射量の累計値等で推定することが望ましい。
【0019】
図4は、本実施形態のエンジンの空燃比制御装置の機能構成を示す制御ブロック図である。エンジン1の各検出手段で各運転パラメータを検出し、該検出された運転パラメータ、例えば、回転速度、負荷、吸入空気量に基づいて、遅れ時間演算手段30で、燃料を供給してから空燃比信号が発生するまでの遅れ時間に関する値を求める。遅れ時間に関する値としては、前述の如く、無駄時間や応答遅れ時間、または、応答遅れに相当するフィルタを構成するためのフィルター定数等がある。これらの値は、前記運転パラメータに対応して、ROM25に記憶しておくか、運前記転パラメータから算出するために、式をROM25にプログラミングしておけばよい。
【0020】
次に、空燃比補正係数設定手段31で、前記遅れ時間に関する値と空燃比センサ6からの空燃比信号とに基づいて、空燃比補正係数を設定する。更に、設定された空燃比補正係数に基づいて、空燃比制御手段32にて、インジェクタ8の駆動パルス幅を設定して、エンジン1に供給される混合気の空燃比を制御する。
図5は、エンジン1の各検出手段で検出した各運転パラメータから遅れ時間に関する値を演算するまでの制御過程の例を示した制御ブロック図である。遅れ時間記憶手段39には、前記エンジン1の運転パラメータに応じた遅れ時間に関する値を予め記憶しておく。
【0021】
遅れ時間検出手段38では、混合気の空燃比を変化させてから前記空燃比センサ6の空燃比信号が変化するまでの実際の遅れ時間を検出し、遅れ時間修正手段40では、前記遅れ時間検出結果と前記遅れ時間記憶手段39に予め記憶してある遅れ時間に関する値とに基づいて遅れ時間に関する値の修正値を演算する。この修正値は、例えば、実際の遅れ時間と予め記憶された値との比や差であるが、これらに限定するものではない。
【0022】
前記遅れ時間演算手段30は、前記修正値と前記予め記憶してある遅れ時間に関する値とに基づいて遅れ時間に関する値を演算して、空燃比補正係数設定手段31に出力する。
図6は、前記空燃比補正係数設定手段31の詳細な機能構成を示す制御ブロック図である。空燃比偏差検出手段33にて空燃比センサ6の信号と目標空燃比とから空燃比偏差を検出する。検出された空燃比偏差と、遅れ時間演算手段30にて求めた遅れ時間に関する値と、空燃比補正係数設定手段31の出力である空燃比補正係数とから空燃比偏差修正手段34にて修正空燃比偏差を求める。さらに、PIコントローラ35により上記修正空燃比偏差をなくすように空燃比補正係数を設定する。
【0023】
図7は、空燃比補正係数を設定するまでの処理の制御フローを説明したものである。この処理は、例えば、所定時間毎(例えば、10ms毎)に実行される。まず、ステップS101で、空燃比センサ信号LAFを読み込む。なお、このステップについては、より速い周期(1から2ms)で実行し、ソフトフィルタをかけることが好ましい。次に、ステップS102で、空燃比センサ信号LAFから実空燃比RAFを検索する。図2に示した空燃比センサの特性をROM25に記憶しておき、テーブル検索により求めることができる。
【0024】
次に、ステップS103で、空燃比偏差DAF=RAF−目標空燃比を求める。次に、ステップS104にて修正空燃比偏差DAFRを演算する。詳細は、後述する。次に、ステップS105にていわゆるPI制御を行う。P分LPをDAFRとゲインKPを用いて求める。I分LIをゲインKIとDAFRとLIの前回の値とから求める。燃料補正係数LALPをLPとLIとから求める。ゲインKPとKIとは、ROM25に、例えば回転速度と負荷とのマップデータとして記憶しておき、マップ検索により求める。
【0025】
次に、空燃比偏差修正手段34の構成を図8に基づき詳細に説明する。遅れ時間演算手段30にて、エンジン1の運転パラメータに基づいて演算された応答遅れに相当するフィルタを構成するためのフィルター定数と、むだ時間とが求められ、該フィルター定数は、フィルター手段37に入力され、応答遅れに相当するフィルタが構成される。むだ時間は、遅延手段36に入力される。この例では、応答遅れを一次遅れとして近似し、その時定数(63%応答時間)をτcとする。むだ時間はLcとする。実際の応答遅れをτe、むだ時間をLeとすると、理想的には、τc=τe、Lc=Leとすることが好ましいが、Lc/Le=0.9〜1.1程度であれば、実用上問題無いことを確認している。さらに、τc/τe=0.5〜2程度まで実用上問題無い。なお、運転状態や、インジェクタ8や空燃比センサ6の位置等にもよるが、τeもLeも100msから1s程度である。
【0026】
また、遅延手段36は、例えば、RAM26にデータを時系列的に記憶して、所定回数前のデータを出力するように構成すればよい。処理フローの起動周期毎にデータを記憶すると、大量のRAMを必要とするため、例えば、20から100ms毎に記憶するようにしてもよい。インジェクタ8から空燃比センサ6の位置までの距離が非常に近い場合等で、むだ時間が主に回転数に依存する場合には、遅延手段36を回転同期で処理するようにしてもよい。
【0027】
フィルター手段37は、空燃比補正係数LALPを入力し、フィルター後出力Xを出力する。ここで、空燃比補正係数から空燃比相当の単位換算も行う。遅延手段36は、フィルター後出力Xを入力し、遅延後出力Yを出力する。さらに、Z(=X−Y)を求め、空燃比偏差DAFから減算して、修正空燃比偏差DAFRを求める。DAFRは、PIコントローラ35に入力され、空燃比補正係数LALPが出力される。
【0028】
図9は、目標空燃比をステップ状に変化させた場合の各信号の挙動を示したものである。この例は、理想的にτc=τe、Lc=Leとした場合の例であり、誤差がある場合には、多少挙動が異なるが、前記の誤差範囲であれば、実用上は問題無い。本実施形態における利点は、修正後空燃比偏差DAFRに対してフィードバック制御(本実施例ではPI制御)を行っていることであり、空燃比センサ6により検出される空燃比偏差RAF、が変化するよりも前に、制御を収束させることが可能である。
【0029】
また、空燃比偏差DAFと修正後空燃比偏差DAFRとを比較して分かるように、見かけ上の空燃比偏差(修正空燃比偏差)が急速に0に収束するので、前記のPI制御のゲインKP、KIを本実施形態によらない場合のゲインに対して、2〜10倍程度に大きく設定することができる。本実施形態によらない通常のPI制御でそのように大きなゲインを設定すると、発振が発生してしまう。このことにより、空燃比の応答性を高めることが可能である。
【0030】
なお、空燃比センサ6で検出される空燃比RAFの応答性の向上のみを目的として、PI制御のゲインを大きくしていくと、図10に示すように、空燃比補正係数LALPがスパイク状にオーバーシュートする。このため、例えば、エンジン1の燃焼室内の混合気の空燃比がリーンになりすぎて失火したり、リッチになりすぎて未燃焼ガスが多量に発生したり、失火したりすることがある。このためLALPに対して上下限のリミッタを設け、制限することが好ましい。リミッタとしては、固定値の他、目標空燃比の変化に応じて設定してもよい。
【0031】
図11は、エバポガスをステップ的にパージした場合の空燃比等の挙動の従来方式(PI制御)との比較を示したものである。空燃比が理論空燃比からずれている部分の面積が、エミッション悪化につながるが、本実施形態では、その面積を従来方式に対して大幅に低減することが可能となっている。
図12は、目標空燃比を変化させた場合の空燃比等の挙動の従来方式(PI制御)との比較を示したものであり、従来方式に対して、実空燃比を高応答に目標空燃比に追随させることが可能である。従来方式では、図11のように、応答性が悪いので、目標空燃比が変化するような場合、一旦フィードバック制御を止めて、空燃比補正係数を目標空燃比の変化分だけスキップさせた後に、所定時間後フィードバックを再開する等の処理が必要になる。本実施形態では、フィードバックを停止する必要がないので、処理の簡素化、定数の適合工数低減、さらに外乱等で空燃比がずれた場合の修正が可能である等の利点がある。
【0032】
以上記載した本実施形態は、PI制御を用いる場合について説明したものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、PID制御やP制御等であっても本発明は適用できる。
更に、遅れ時間に関する値に基づいて、空燃比偏差を修正し、修正空燃比偏差に対してフィードバック制御する場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、空燃比補正係数を設定するための制御ゲインを初期には大きく設定しておいて、空燃比補正係数が急変した時に、遅れ時間に関する値に基づいて制御ゲインを減少させるようにしてもよい。この例の場合、初期値として常に制御ゲインを大きな値に設定しておくと、小さな外乱等により過剰な空燃比補正を行ってしまう可能性があるので、例えば、通常は、小さめの制御ゲインに設定しておき、パージコントロールバルブ16を制御する際や、スロットル弁17が変化したことをスロットル弁開度センサ4の信号の変化で検出した際等、空燃比が変化することが予想されるような条件が成立した場合にのみ初期値として大きな制御ゲインを設定することが好ましい。
【0033】
次に、混合気の空燃比を変化させてから空燃比RAFが変化するまでの遅れ時間を検出し、検出結果に基づいて遅れ時間に関する値を修正する方法について説明する。図13に示すように、空燃比補正係数にわずかな振幅の摂動を重畳し、無駄時間Lxと応答遅れτxを測定し、Lcやτcと比較する。あるいはτxに相当するフィルター定数に換算してτcに相当する値として設定されているフィルター定数と比較する。そして大幅にずれている場合には、ずれを小さくする方向に補正する。無駄時間はずれることが少ないが、応答遅れは、前述したような各種条件により変化することが多い。補正の仕方としては、例えば、補正係数を設け、フィルター定数にかけて使用するようにすればよい。さらに、 Lxとτxを複数回測定し、平均してから比較に用いることが好ましい。
【0034】
なお、補正係数をエンジンの全運転領域にわたって測定、演算する必要はなく、特定の運転領域で測定し、他の運転領域はその測定結果から推定し演算すればよい。例えば、エンジンの劣化(吸気管等への汚れの付着等)による応答遅れの増大は、初期の応答遅れに掛け合わせる係数を補正係数として設定すれば、特定の運転領域での測定、演算結果を他の運転領域にも適用することが可能である。
【0035】
また、摂動を重畳しないでも、例えば、目標空燃比を変化させたときの空燃比RAFの挙動等からも同様に遅れ時間に関する値を修正することが可能である。
以上の実施形態は、空燃比センサを使う場合について説明したが、これに限定されるものではない。排気ガス中の未燃焼ガス(HC)濃度を検出するHCセンサを用いて、未燃焼ガスの濃度を所定の目標値にフィードバック制御する場合にも本発明を適用することが可能である。
【0036】
更に、燃料の供給量を補正することにより空燃比を制御する場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、スロットル弁17の開度をモータ等により制御可能なシステムにおいて、スロットル弁開度を開閉して吸入空気量を制御することにより空燃比を目標空燃比にフィードバック制御する場合や、ISCバルブ10により吸入空気量を制御することにより空燃比を目標空燃比にフィードバック制御する場合にも適用が可能である。
【0037】
例えば、スロットル弁17を開けても、空気は、まず吸気系の空間に充填されるために、燃焼室に吸入されるまでに遅れ時間が存在する。その後は、燃料供給の場合と同様な遅れ時間が存在するため、結果として、空燃比センサで空燃比として検出されるまでに種々の遅れ時間が存在する。それらの遅れ時間を運転パラメータに応じて求めるようにして、燃料供給の場合の実施形態と同様に空燃比補正係数を設定して、空燃比補正係数に応じてスロットル弁17の開度や、ISCバルブ10の制御量を補正制御する構成とすればよい。ただし、この場合には、遅れ時間に影響する運転パラメータは燃料供給の場合と異なる。例えば、スロットル弁17の開度、吸入空気量、回転速度、吸入負圧(または負荷)であり、冷却水温や、燃料性状の影響は少ない。
【0038】
また、急激に吸入空気量を変化させた場合には、吸入負圧が急変することにより燃料の蒸発速度も急変するため、結果として供給燃料の遅れ時間も急変してしまう。したがって、吸入空気量の制御だけで目標空燃比を保持する構成の場合には、吸入空気の遅れ時間の中には、供給燃料の遅れ時間も考慮しなければならない運転領域があると云うことである。
【0039】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明によるエンジンの空燃比制御装置と空燃比制御方法は、燃焼室に燃料を供給して燃焼し、その燃焼排ガスが空燃比センサで検出されるまでの遅れ時間を、エンジンの運転パラメータに応じて求めて、その遅れを補償するようにしたので、空燃比補正制御の応答性を高めることができ、エミッションを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態のエンジンの空燃比制御装置を備えたエンジンシステムの全体構成図。
【図2】空燃比と空燃比センサの出力信号との関係を示す図。
【図3】図1の空燃比制御装置の制御ユニット(ECU)の内部構成図。
【図4】図1のエンジンの空燃比制御装置の全体の制御ブロック図。
【図5】図4の制御ブロックの遅れ時間演算手段の詳細な制御ブロック図。
【図6】図4の制御ブロックの空燃比補正係数設定手段の詳細な制御ブロック図。
【図7】図1のエンジンの空燃比制御装置の制御フローチャート。
【図8】図6の制御ブロックの空燃比偏差修正手段の詳細な制御ブロック図。
【図9】図1のエンジンの空燃比制御装置の空燃比等の挙動を示す図。
【図10】図1のエンジンの空燃比制御装置の他の空燃比等の挙動を示す図。
【図11】図1のエンジンの空燃比制御装置と従来方式との空燃比等の挙動の差を説明した図。
【図12】図1のエンジンの空燃比制御装置と従来方式との他に空燃比等の挙動の差を説明した図。
【図13】図1のエンジンの空燃比制御装置の遅れ時間の測定方法を説明した図。
【符号の説明】
1…エンジン、6…空燃比センサ、7…制御ユニット、8…インジェクタ、30…遅れ時間演算手段、31…空燃比補正係数設定手段、32…空燃比制御手段、33…空燃比偏差検出手段、34…空燃比偏差修正手段、38…遅れ時間検出手段、39…遅れ時間記憶手段、40…遅れ時間修正手段、
Claims (7)
- 排気ガス中の酸素濃度に応じた空燃比信号を出力する空燃比センサと、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間に関する値を運転パラメータに応じて算出する遅れ時間演算手段と、前記遅れ時間に関する値と前記空燃比信号とに基づいて実空燃比が目標空燃比となるように空燃比補正係数を設定する空燃比補正係数設定手段と、前記空燃比補正係数に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えたエンジンの空燃比制御装置であって、
前記空燃比制御装置は、混合気の空燃比を変化させてから前記空燃比信号が変化するまでの遅れ時間を検出する遅れ時間検出手段と、該遅れ時間の検出結果と予め記憶されている値に基づいて前記遅れ時間を修正する遅れ時間修正手段を備え、前記遅れ時間演算手段は、前記遅れ時間の修正値と他の前記運転パラメータに基づいて遅れ時間に関する値を演算することを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - 前記空燃比補正係数設定手段は、前記目標空燃比と前記実空燃比との空燃比偏差を検出する空燃比偏差検出手段と、前記遅れ時間に関する値と前記空燃比補正係数とに基づいて前記空燃比偏差を修正して修正空燃比偏差を算出する空燃比偏差修正手段とを備え、前記修正空燃比偏差に基づいて空燃比補正係数を設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記遅れ時間演算手段は、エンジンの回転速度、負荷、吸入空気量の少なくともひとつの運転パラメータに応じて前記遅れ時間に関する値を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記運転パラメータに応じて前記遅れ時間に関する値を予め記憶しておく遅れ時間記憶手段を備え、前記遅れ時間演算手段は、実際の運転パラメータに応じて前記遅れ時間記憶手段に記憶された値に基づき前記遅れ時間に関する値を演算することを特徴とする請求項3記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記空燃比補正係数にリミッタを設けて該係数の値を制限したことを特徴とする請求項1記載のエンジンの空燃比制御装置。
- エンジンの運転状態の変化等に伴って、前記空燃比補正係数を更新する際に、少なくとも、燃料を供給してから前記空燃比信号が発生するまでの遅れ時間よりも短い時間内に前記更新を実質的に終了させることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- エンジンの運転状態の変化等に伴って、前記空燃比補正係数を更新する際に、前記空燃比補正係数を設定するための制御ゲインを初期に大きく設定し、順次減少させることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
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