JP3834891B2 - 耐震性に優れたh形鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に建築・土木用の構造部材などに使用されるH形鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築用の構造部材に用いられるH形鋼においては、地震時に大変形を受けた場合、柱部材としては軸方向荷重を支えつつ大きな曲げ荷重に耐え得ること、梁部材としては曲げ荷重に耐え得ることが要求される。いずれの場合においても、早期の局部座屈を防止することにより耐荷力及び塑性変形能力を増大ならしめることがポイントとなる。
【0003】
H形鋼は、主に軸力及びせん断力を負担するウェブ及び曲げモーメントを負担するフランジからなる。ウェブは、地震時において、柱部材として軸力及びせん断力に抵抗し、フランジの塑性化後には局部座屈の拘束をする部位であり、梁部材としてはせん断力に抵抗し局部座屈を拘束する部位となる。従って、ウェブは降伏後も剛性が低下しないこともしくは降伏点が高いことが、構造物として地震時の大変形に対する塑性変形能力を増すことになる。一方、フランジは、柱部材、梁部材ともに、地震時の終局状態においてウェブに先立って全面降伏に達する。
【0004】
従って、フランジの塑性変形能が高く塑性エネルギー吸収量が大きいことが、構造物として地震による大変形に対する安全性を増すことになる。
上述した低降伏比H形鋼は、降伏点が低いため高降伏比型の鋼材と比較して部材の塑性吸収エネルギーは増大するが、早期に降伏することにより部材の剛性は低減する。梁部材として曲げモーメントを受けた場合、低降伏比で塑性変形能に富むフランジには塑性エネルギーの吸収が期待できるが、変形が大規模に及ぶとウェブも降伏して弾性剛性を失い、フランジの局部座屈を早期に誘発する。また柱部材として地震時の終局状態において圧縮と曲げの組合せ荷重を受けた場合、軸力を負担するウェブが降伏して剛性が低下しフランジに軸力が流れるため、これもフランジの局部座屈を早期に誘発する。従って、いずれの場合においても構造物の損壊につながる部材の早期の局部座屈が避けられないことが想定される。
【0005】
また、特公平7-68738 号の公報に開示されているように、ウェブにフランジより降伏点の高い鋼を用いたハイブリッドH形鋼、さらに、ウェブを高張力鋼、フランジを軟鋼としたハイブリッドH形鋼が提案されている。ハイブリッドH形鋼は、ウェブにフランジより降伏点の高い鋼を用いることでフランジ降伏後もウェブを弾性範囲内に留め、ウェブがフランジの局部座屈に対する拘束をする結果、柱部材及び梁部材としての塑性変形能力の向上を図ろうとするものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図9の(1)のように、ハイブリッドH形鋼は、ウェブの降伏点がフランジより高くても、地震時の終局状態において大変形を受けウェブまで降伏が及んだ場合、図9の(2)に示すようにウェブ降伏後の公称応力/公称歪み勾配が0あるいは負となる個所があると、つまり、領域Cに入ったとき、ウェブの剛性が低下するためフランジの局部座屈に対する抵抗は著しく低下し十分な塑性変形能力を得ることはできない。
【0007】
また、図9の(1)のように降伏後のウェブの剛性が高く維持されていても、図9の(2)に示すようにフランジの応力上昇率(最大応力/降伏応力)が低い場合には、フランジが塑性化後すぐ剛性が低下し、局部座屈耐力が低下するために、十分な塑性変形能力を得ることはできない。なお、図9において、記号A〜Cは各々以下のウェブとフランジの応力・歪み状態を示す。
【0008】
A:ウェブとフランジ両方が弾性。
B:フランジは降伏しているがウェブは弾性状態を保持している。
C:ウェブとフランジ両方が降伏している(ウェブの応力の方が高い)。
【0009】
さらに、ウェブに高張力鋼、フランジに軟鋼を用いるハイブリッドH形鋼は、以下の理由により、必ずしも満足のいく性能を有するものとはいいがたい。
(1)ハイブリッドH形鋼は、ウェブにフランジより降伏点の高い鋼を用いることで、フランジ降伏後もウェブを弾性範囲内に留め、ウェブがフランジの局部座屈に対する拘束をする結果、柱部材及び梁部材としての塑性変形能力の向上を図ろうとするものであるため、ウェブとフランジの降伏点の差が大きくないと顕著な変形能力の向上を認められない。
(2)高張力鋼は普通鋼よりもコスト高となるため、ハイブリッドH形鋼は普通鋼H形鋼よりもコスト高となる。
(3)ウェブに高張力鋼、フランジに軟鋼という組み合わせのため、ビルトアップH形鋼とならざるを得ない。従って、溶接工程が含まれるが、高張力鋼は溶接性に劣るため普通鋼よりも厳しい溶接条件及び溶接管理が要求され、より一層のコスト高を招く。
(4)ウェブに高張力鋼を使用しても、フランジの降伏が先行するため、部材としての許容応力度としてはフランジの値を使わざるをえず、高張力鋼を用いるメリットを生かせない。
【0010】
本発明の目的は、大地震時の終局的大変形に対して、局部座屈を起こしにくく、特に各種建築物の柱部材及び梁部材として好適な耐震性に優れた安価なH形鋼を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明は以下に示す手段を用いている。
(1)本発明のH形鋼は、ウェブ及びフランジを有する形鋼において、ウェブの幅厚比(板幅/板厚)が50以下であり、ウェブの降伏後から、歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配が弾性勾配の5%以上であり、かつフランジの応力上昇率が1.25以上であることを特徴とする耐震性に優れたH形鋼である。
(2)本発明のH形鋼は、ウェブ及びフランジを有する形鋼において、ウェブとフランジが同一の鋼種であり、重量%で、C:0.02〜0.22%、Si:0.05〜0.35%、Mn:0.45〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.008%以下であり、炭素当量:0.46%以下及び溶接割れ感受性組成:0.26%以下の鋼であることを特徴とする上記(1)に記載の耐震性に優れたH形鋼である。
但し、
炭素当量=C%+Mn%/6+Si%/24+Ni%/40+Cr%/5
+Mo%/4+V%/14
溶接割れ感受性組成=C%+Si%/30+Mn%/20+Cu%/20
+Ni%/60+Cr%/20+Mo%/15+V%/10+5B%
(3)本発明の製造方法は、ウェブとフランジが同一の鋼種であり、上記(2)に記載のウェブとフランジの機械的特性を有するH形鋼を製造する方法において、
鋼を1100〜1350℃に加熱する工程と、加熱された鋼のウェブ部は仕上げ圧延温度700〜800℃で最終圧下率30〜90%の熱間圧延を行い、フランジ部は仕上げ圧延温度760〜950℃で最終圧下率20〜80%の熱間圧延を行う工程と、仕上げ圧延終了後、ウェブ部は700〜500℃の間を1℃/sec以上の冷却速度で冷却し、フランジ部は放冷以上の冷却速度で冷却する工程と、を備えたことを特徴とする耐震性に優れたH形鋼の製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者は、地震時の終局的大変形挙動を受けた場合のH形鋼各部位の最適機械的特性について検討し、ウェブとフランジの材質が異なるように設計された安価な耐震性に優れたH形鋼及びその製造方法について、鋭意研究した。
【0013】
その結果、地震時の終局的大変形挙動を受けた場合のH形鋼各部位の最適機械的特性においては、ウェブの降伏点のみが重要な要素ではなく、最も重要なのは降伏後の剛性であるという知見を得た。
図8に本発明のフランジ及びウェブの機械的性質を模式的に示す。フランジ及びウェブの機械的性質はウェブとフランジの応力・歪み状態によって以下のA〜Dに分類される。
【0014】
A :ウェブとフランジ両方が弾性。
B :フランジは降伏しているがウェブは弾性状態を保持している。
C :ウェブとフランジ両方が降伏している(ウェブの応力の方が高い)。
【0015】
C´:ウェブとフランジ両方が降伏している(フランジの応力の方が高い)。
D :ウェブは降伏しているがフランジは弾性を保持している。
特公平7-68738 号公報では塑性変形能力の向上効果としてBの状態をなるべく長くすることを目的としたものであるが、本発明のウェブは、図8の(1)のようにたとえ降伏点がフランジと同等でも降伏後の剛性が高いために、降伏点がフランジより高い(2)のウェブとほぼ同等の塑性変形能力を示す。また、(3)のように降伏点がフランジより低い場合でも降伏後の剛性が高いために、降伏点がフランジより高い(2)のウェブの変形能力とほぼ同等である。
【0016】
また、ウェブとフランジに同一の鋼種を用いる場合、特定の圧延工程により、上記の特性を付与することができるという知見を得た。
以上の知見に基づき、本発明者は、ウェブとフランジの降伏後の剛性を最適にして、降伏後の高い剛性を有するウェブがフランジの局部座屈を拘束し、高い塑性変形能を有するフランジが建築物に入力されるエネルギーを吸収することにより、(1)ハイブリッドH形鋼のフランジとウェブの降伏点が近くても十分な塑性変形能力を得られる。(2)ハイブリッドH形鋼のウェブの降伏点がフランジの降伏点と同等もしくはそれ以下でも十分な塑性変形能力を得られる。(3)ハイブリッドH形鋼のように異なる鋼種の板を組み合わせることなしに上記課題を解決することができる本発明のH形鋼及びその製造方法を見出だし、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は、H形鋼各部位の機械的特性を下記範囲に限定することにより、大地震時の終局的大変形に対して、局部座屈を起こしにくく、特に各種建築物の柱部材及び梁部材として好適な耐震性に優れた安価なH形鋼を得ることができる。
【0018】
また、ウェブとフランジに同一の鋼種を用いる場合は、製造条件を下記範囲に限定することにより、上記特性を有する耐震性に優れたH形鋼を得ることができる。
【0019】
以下に、本発明の機械的特性、製造条件の限定理由について説明する。
(1)ウェブとフランジの機械的特性
ウェブ及びフランジを有する形鋼において、ウェブの降伏点がフランジの降伏点を超える場合、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配を弾性勾配の5%以上、かつフランジの応力上昇率を1.25以上に限定する。
【0020】
ウェブの降伏後から歪み量5%までの公称応力/公称歪みの勾配及びフランジの応力上昇率を上記範囲に限定する理由は、H形鋼各部位(ウェブ及びフランジ)の軸方向の引張特性と試験体(H形鋼)の局部座屈発生挙動との相関性から設定したものであり、ウェブの降伏後から歪み量5%までの公称応力/公称歪みの勾配が弾性勾配の5%未満、またはフランジの応力上昇率が1.25未満では、いずれの場合も良好な耐座屈性能が得られない。ウェブ及びフランジの機械的特性を上記範囲に限定すれば、降伏後の高い剛性を有するウェブがフランジの局部座屈を拘束し、高い塑性変形能を有するフランジが塑性エネルギーを吸収することにより、良好な耐座屈性能を有する本発明のH形鋼を得ることができる。
【0021】
このことを以下の実験によりさらに説明する。
H形鋼の曲げ荷重に対する耐座屈性を評価するために、材質とウェブの幅厚比が種々異なるH形鋼について、図1に示す試験機を用いて短柱圧縮実験と称する局部座屈試験、ならびに各種材質調査試験を行い、H形鋼各部位の材質的な特性と局部座屈発生挙動との相関を調査した。
【0022】
短柱圧縮試験は図1の(a)に示すとおり、圧縮試験機のロードセル1の上にH形鋼試験体2を載せて、H形鋼試験体2の上部から圧縮荷重を負荷するものである。なお、H形鋼試験体2には座屈歪みを測定するための変位計3が取り付けられている。また、試験体の形状は、H形鋼試験体2の拡大断面図である図1の(b)に示すとおりであり、ウェブ4の幅厚比(板幅/板厚)20〜50、フランジ5の幅厚比10、標点間距離は試験体長さ(はりせいの3倍またはフランジ幅の5倍の小さい方の長さ)とした。
【0023】
その結果、試験体の公称歪み量で5%の圧縮試験における局部座屈の発生の有無は、H形鋼各部位の軸方向の引張特性と以下のような相関があることを見出だした。すなわち、試験片長手方向をH形鋼の軸方向に一致させてウェブとフランジから採取した引張試験片を用いて引張試験を行い、ウェブの降伏点がフランジの降伏点を超え、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配が弾性勾配(公称弾性応力/公称弾性歪み)の5%以上、特に好ましくは10%であり、かつフランジの応力上昇率が1.25以上であるH形鋼は、図2に示すとおり、ウェブの降伏点がフランジの降伏点と同等以下、あるいはウェブの降伏後から歪み量5%までの公称応力/公称歪みの勾配0または負、あるいはフランジの応力上昇率が1.25未満であるH形鋼に比較して、局部座屈を起こす限界のウェブの幅厚比が著しく大きく、局部座屈を起こしにくいことを見出だした。
【0024】
さらに、上記局部座屈試験において局部座屈発生時の最大応力をフランジの降伏応力で除した応力上昇率は、H形鋼各部位の軸方向の引張特性と以下のような相関があることを見出だした。すなわち、ウェブの降伏点がフランジの降伏点を超え、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配が弾性剛性の5%以上であり、かつフランジの応力上昇率が1.25以上であるH形鋼は、図3に示すとおり、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配0または負、あるいはフランジの応力上昇率が1.25未満であるH形鋼に比較して、応力上昇率が1以下となる限界のウェブの幅厚比が著しく大きく、局部座屈発生までの載荷能力が高い。
また、ウェブの降伏点がフランジの降伏点と同等、またはフランジの降伏点より低い場合も、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配を弾性勾配の5%以上、かつフランジの応力上昇率を1.25以上に限定することにより、上記と同様の優れた耐座屈性能を有するH形鋼が得られた。
【0025】
なお、本発明のH形鋼の製造方法は特に限定されず、圧延、溶接などいずれの方法であっても、ウェブとフランジの機械的特性が上記所定の特性を満足するものであればよい。また、上記特性は、H形鋼の化学成分や溶接前の例えば鋼板の圧延条件を制御することによって付与しても、また圧延中や圧延後のH形鋼に熱処理や加工処理を施すことによって付与してもよく、化学組成や製造条件については特に限定されない。
【0026】
ただし、化学組成としては、重量%で、C:0.02〜0.22%と、Si:0.05〜0.35%と、Mn:0.45〜1.6%と、P:0.02%以下と、S:0.008%以下とを含有し、炭素当量:0.46%以下及び溶接割れ感受性組成:0.26%以下となるものが好ましい。このような成分範囲の鋼が好ましいのは以下の理由による。
【0027】
C:0.02%未満では十分な強度が得られず、また0.22%を超えると溶接性が劣化する。従って、C量は0.02〜0.22%が好ましい。
Si:0.05%未満では十分な脱酸が行われず、健全な鋼材が得られない。また0.35%を超えた場合には溶接性が劣化する。従って、Si量は0.05〜0.35%が好ましい。
【0028】
Mn:0.45%未満では十分な強度が得られず、また1.6%を超えると溶接性が劣化する。従って、Mn量は0.45〜1.6%が好ましい。
P:0.02%を超えると母材の靭性、溶接性が劣化するため、P量は0.02%以下が好ましい。
【0029】
S:0.008%を超えると母材の靭性、溶接性、溶接部の靭性が劣化するため、S量は0.008%以下が好ましい。
炭素当量:0.46%を超えると溶接性が著しく劣化し、予熱、後熱が必要となる。従って、炭素当量は0.46%以下が好ましい。
【0030】
溶接割れ感受性組成:0.26%を超えると、溶接性が著しく劣化し、溶接部に割れが生じるようになる。従って、溶接割れ感受性組成は0.26%以下が好ましい。
【0031】
なお、炭素当量及び溶接割れ感受性組成は、それぞれ次式で求められる。
炭素当量=C%+Mn%/6+Si%/24+Ni%/40+Cr%/5+Mo%/4+V%/14
溶接割れ感受性組成=C%+Si%/30+Mn%/20+Cu%/20+Ni%/60+Cr%/20+Mo%/15+V%/10+5B%
また、このような組成の鋼板に対して、圧延条件を制御したり、または圧延中や圧延後のH形鋼に熱処理や加工処理を加えることにより、例えば圧延後にウェブには制御冷却、フランジには空冷を施すことにより、ウェブの金属組織を例えばフェライトとベイナイトあるいはフェライトとマルテンサイトの複合組織、フランジをフェライト・パーライト組織とすることにより、上記特性を付与することができる。
ウェブとフランジの機械的特性(降伏後の剛性)を上記範囲に限定することにより、大地震時の終局的大変形に対して、局部座屈を起こしにくく、特に各種建築物の柱部材及び梁部材として好適な耐震性に優れた安価なH形鋼を得ることができる。
【0032】
また、ウェブとフランジが同一の鋼種である場合は、以下の製造方法により上記特性を付与することが可能である。
(2)鋼板の製造方法
上記の好ましい成分範囲に調整した鋼を1100〜1350℃に加熱し、熱間圧延を施す。
【0033】
鋼の加熱温度が1100℃未満の場合、圧延終了温度が下がりすぎるため、成形ができなくなる。また、1350℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化するため、靭性が低下する。従って、鋼の加熱温度は1100〜1350℃である。
【0034】
加熱された鋼のウェブ部は仕上げ圧延温度700〜800℃で最終圧下率30〜90%の熱間圧延を行い、フランジ部は仕上げ圧延温度760〜950℃で最終圧下率20〜80%の熱間圧延を行う。
仕上げ圧延温度は、ウェブ部の場合、700℃未満になると、加速冷却開始温度が下がるため加速冷却の効果が得られず、フェライトの析出量が多くなり、強度が低下する。一方、800℃を超えると、オーステナイト粒の微細化効果が期待できず、靭性が低下する。従って、ウェブ部の仕上げ圧延温度は700〜800℃である。また、フランジ部の場合、760℃未満では、フェライト析出量が少なく降伏強度が高くなり、低降伏比鋼が得られない。一方、950℃を超えると、オーステナイト粒の微細化効果が期待できず、靭性が低下する。従って、フランジ部の仕上げ圧延温度は760〜950℃である。
【0035】
最終圧下率は、ウェブ部の場合、30%未満あるいは90%超えでは、オーステナイト粒の細粒化が十分になされず、靭性が低下する。従って、ウェブ部の最終圧下率は30〜90%である。
また、フランジ部の場合、20%未満あるいは80%超えでは、オーステナイト粒の細粒化が十分になされず、靭性が低下する。従って、フランジ部の最終圧下率は20〜80%である。
【0036】
仕上げ圧延終了後、ウェブ部は700〜500℃の間を1℃/sec以上の冷却速度で冷却し、フランジ部は放冷以上の冷却速度で冷却する。
ウェブ部の場合、加速冷却を500℃を超える温度で停止すると、ベイナイト変態が未完了になり、強度が低下する。一方、加速冷却を700℃を超える温度で開始すると、フェライト析出量が少なく降伏強度が低くならず、低降伏比鋼が得られない。従って、ウェブの加速冷却温度は、700〜500℃である。また、この間の冷却速度を1℃/sec以上とする理由も、冷却速度が1℃/sec未満ではベイナイト変態が未完了になり、強度が低下するためである。
また、フランジ部の場合、冷却速度を放冷以上とする理由は、冷却速度が放冷未満ではフェライトの析出量が少なく降伏強度が高くなり、低降伏比鋼が得られないためである。
【0037】
このようにして、ウェブの金属組織をフェライトとベイナイトの複合組織、フランジをフェライト・パーライト組織とすることにより、上記(1)の特性を付与することができる。
以下に本発明の実施例を挙げ、本発明の効果を立証する。
【0038】
【実施例】
表1に示した化学成分を有する鋼を熱間圧延して表2に示すH形鋼(記号A〜H,I〜I''' は本発明H形鋼、記号J〜Rは比較H形鋼)を得た。表2中、記号A〜Iは、スラブを1280℃加熱とし、フランジは950℃以下で40%圧下・850℃仕上り、ウェブは900℃以下で60%圧下・700℃仕上りで圧延を終了後、フランジは放冷、ウェブは700℃〜500℃の間を2℃/sec の制御冷却、その後放冷とした場合の結果である。
【0039】
記号I' 〜I''' はフランジに通常のSN490を用い、ウェブに表1のNo.1の化学成分を有しスラブを1280℃加熱とし、フランジは950℃以下で40%圧下・850℃仕上り、ウェブは900℃以下で60%圧下・700℃仕上りで圧延を終了後、フランジは放冷、ウェブは700℃〜500℃の間を2℃/sec の制御冷却、その後放冷とした鋼板を用いたビルトアップH形鋼である。
【0040】
記号J〜Lは、ウェブをSN400、フランジをSN490としたビルトアップH形鋼の結果である。記号M〜Oは、スラブを1280℃加熱とし、フランジ、ウェブともに950℃以下で40%圧下・850℃仕上り、その後放冷とした場合の結果である。
【0041】
記号P〜Rは、スラブを1280℃加熱とし、フランジは950℃以下で40%圧下・850℃仕上り、ウェブは900℃以下で60%圧下・700℃仕上りで圧延を終了後、フランジ、ウェブともに700℃〜500℃の間を2℃/sec の制御冷却をした場合の結果である。
【0042】
これらH形鋼のウェブとフランジから試験片を採取して長手方向の引張試験を行い、降伏点、引張強さ、公称応力/公称歪みの勾配を求めた。表3に、長手方向の引張試験におけるウェブ降伏点とフランジ降伏点の比、ウェブの5%公称歪みまでの公称応力/公称歪みの最小勾配、フランジの応力上昇率を示す。
【0043】
またこれらH形鋼を用い、図1に示す短柱圧縮試験を実施した。試験体長さははりせいの3倍またはフランジ幅の5倍の小さい方の長さとし、加力は中央圧縮単調載荷とした。載荷板間の変位を試験体長さで除した値を試験体の歪み、載荷荷重を試験体断面積で除した値を試験体の応力とした。表3中に、試験体が到達した最大応力をフランジの降伏応力で除して得られる応力上昇率、及び最大応力時の歪みをフランジの降伏歪み(降伏応力/ヤング率)で除して得られる塑性率を示す。
【0044】
図4はウェブの幅厚比と応力上昇率の関係、図5はウェブの幅厚比と塑性率の関係を示す。これらの図からもわかるように、ウェブの降伏点がフランジの降伏点を超えるか同等またはそれより低く、ウェブの降伏後から歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配が5%以上であり、かつフランジの応力上昇率が1.25以上である本発明H形鋼のA〜H及びI〜I''' は、いずれのウェブの幅厚比においても、応力上昇率及び塑性率が比較H形鋼のJ〜Rを上回る値を示し、優れた耐局部座屈性を示した。
【0045】
比較H形鋼のJ〜Lは、ウェブの降伏後の公称応力/公称歪みの最小勾配が5%未満であるために、座屈に対する抵抗が小さく早期に座屈を誘発する結果となっている。比較H形鋼のM〜Oは、ウェブの降伏点はフランジの降伏点を超えてはいるものの、ウェブの降伏後の公称応力/公称歪みの勾配が負となる個所があって座屈抵抗が低下し、やはり局部座屈の早期発生を招いている。比較H形鋼のP〜Rは、フランジの応力上昇率が1.25未満で塑性変形能が不足するため試験体に加わるエネルギーを吸収できず、早期破壊が発生している。
【0046】
図6にウェブの幅厚比が20、30、40の場合のウェブ降伏点とフランジの降伏点の比と応力上昇率及び塑性率との関係を示す。いずれの場合も本発明の方が従来法よりも良いことがわかる。
【0047】
図7にウェブの幅厚比が20、30、40の場合のフランジの応力上昇率と応力上昇率及び塑性率との比較を示す。これもいずれの場合にも本発明の方が従来法よりも良いことがわかる。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、ウェブとフランジの機械的性質(降伏後の剛性)を特定することにより、大地震時の終局的大変形に対して、ウェブが薄肉でも局部座屈を起こしにくい塑性変形能力に優れたH形鋼を得ることができる。
【0052】
従って、本発明のH形鋼を用いることにより、H形鋼の鋼重を増大させることなしに、構造物の耐震性を向上させることが可能となり、大地震が発生した際に、高層建築物の損壊などの災害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る局部座屈試験を説明するための図。(a)は短柱圧縮試験機の模式図。(b)は試験体の拡大断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る公称歪み量が5%の局部座屈試験における座屈発生に及ぼすウェブの幅厚比及びウェブ及びフランジの引張特性の影響を示す図。
【図3】本発明の実施の形態に係る局部座屈試験における座屈発生時の応力上昇率に及ぼすウェブの幅厚比及びウェブ及びフランジの引張特性の影響を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る各ウェブの幅厚比と応力上昇率の関係を示す図。
【図5】本発明の実施例に係る各ウェブの幅厚比と塑性率の関係を示す図。
【図6】本発明の実施例に係る各ウェブの幅厚比のウェブ降伏点とフランジ降伏点の比と応力上昇率及び塑性率との関係を示す図。
【図7】本発明の実施例に係る各ウェブの幅厚比のフランジの応力上昇率と応力上昇率及び塑性率との関係を示す図。
【図8】本発明のフランジ及びウェブの機械的性質を説明するための模式図。(1)はウェブの降伏点とフランジの降伏点が同等の場合のウェブ及びフランジの応力−歪み線図。(2)はウェブの降伏点がフランジの降伏点より高い場合のウェブ及びフランジの応力−歪み線図。(3)はウェブの降伏点がフランジの降伏点より低い場合のウェブ及びフランジの応力−歪み線図。
【図9】従来のハイブリッドH形鋼のフランジ及びウェブの機械的性質を説明するための模式図。(1)は従来のハイブリッドH形鋼のウェブ及びフランジの応力−歪み線図。(2)はウェブの降伏後の剛性が低く、フランジの応力上昇率が低い場合のウェブ及びフランジの応力−歪み線図。
【符号の説明】
1…ロードセル
2…H形鋼試験体
3…変位計
4…ウェブ
5…フランジ
Claims (3)
- ウェブ及びフランジを有する形鋼において、ウェブの幅厚比(板幅/板厚)が50以下であり、ウェブの降伏後から、歪み量5%までのいずれの歪み量においても公称応力/公称歪みの勾配が弾性勾配の5%以上であり、かつフランジの応力上昇率が1.25以上であることを特徴とする耐震性に優れたH形鋼。
- ウェブ及びフランジを有する形鋼において、ウェブとフランジが同一の鋼種であり、重量%で、C:0.02〜0.22%、Si:0.05〜0.35%、Mn:0.45〜1.6%、P:0.02%以下、S:0.008%以下であり、炭素当量:0.46%以下及び溶接割れ感受性組成:0.26%以下の鋼であることを特徴とする請求項1に記載の耐震性に優れたH形鋼。
但し、
炭素当量=C%+Mn%/6+Si%/24+Ni%/40+Cr%/5
+Mo%/4+V%/14
溶接割れ感受性組成=C%+Si%/30+Mn%/20+Cu%/20
+Ni%/60+Cr%/20+Mo%/15+V%/10+5B% - ウェブとフランジが同一の鋼種であり、請求項2に記載のウェブとフランジの機械的特性を有するH形鋼を製造する方法において、
鋼を1100〜1350℃に加熱する工程と、加熱された鋼のウェブ部は仕上げ圧延温度700〜800℃で最終圧下率30〜90%の熱間圧延を行い、フランジ部は仕上げ圧延温度760〜950℃で最終圧下率20〜80%の熱間圧延を行う工程と、仕上げ圧延終了後、ウェブ部は700〜500℃の間を1℃/sec以上の冷却速度で冷却し、フランジ部は放冷以上の冷却速度で冷却する工程と、を備えたことを特徴とする耐震性に優れたH形鋼の製造方法。
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