JP3834378B2 - カンチレバーチップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、走査型プローブ顕微鏡によって試料の表面情報を測定する際に、そのチップ先端と試料表面との間の相互作用(原子間力、分子間力、磁気力、摩擦力、粘性力、弾性力等)を検出するために用いられるカンチレバーチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のカンチレバーチップを用いた装置例えば走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope )が知られており、特にSPMの一例として、ビニッヒ(Binnig)やローラー(Rohrer)等によって、走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope )が発明されている。しかし、STMでは、観察できる試料が導電性の試料に限られている。そこで、サーボ技術を始めとするSTMの要素技術を利用し、絶縁性の試料を原子オーダーの分解能で観察できる装置として原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope )が提案されている(特開昭62−130302号公報参照)。
【0003】
なお、本明細書中において、カンチレバーチップとは、自由端が変位自在なカンチレバーと、このカンチレバーの自由端に形成された探針と、カンチレバーの基端を支持する支持部とから構成されたものとする。
【0004】
AFM構造は、STMに類似しており、走査型プローブ顕微鏡の一つとして位置付けられており、自由端に尖鋭化した探針を持つカンチレバーと、探針と試料とを相対的に移動させるスキャナとを備えている。
【0005】
このような構成において、探針を試料に対向して近接させると、探針先端の原子と試料表面の原子との間に働く相互作用(原子間力)によって、カンチレバーの自由端が変位する。そして、この自由端に生じる変位量を電気的あるいは光学的に検出しながら、探針を試料表面に沿ってXY方向に相対的に走査することによって、試料の表面情報等(例えば、凹凸情報)が三次元的に測定される。
【0006】
また、AFMに用いられるカンチレバーは、アルブレヒト(Albrecht)等が半導体IC製造プロセスを応用して作製したSiO2 (二酸化シリコン)製カンチレバーを提案して以来、この半導体IC製造プロセスによって作製したカンチレバーが主流となっている(Thomas R.Albrecht,Calvin F.Quate:Atomic resolution Imaging of a nonconductor by Atomic force Microscopy J.Appl.Phys,62(1987)2599)。なお、半導体IC製造プロセスを用いた作製法の利点の1つは、マイクロメータ(μm)オーダーの精度で且つ極めて再現性の良いカンチレバーを作製できる点であり、他の利点は、バッチプロセス法を用いることによって、低コストで且つ優れたカンチレバーを作製できる点である。
【0007】
更に、アルブレヒト等は、二酸化シリコンの代わりに窒化シリコンを探針並びにカンチレバーの構成材料として使用した窒化シリコン(Si3 N4 )製カンチレバーを提案している(「J.Vac.Sci.Technol.A8(4)3386 1990:T.Albrecht, S.Akamine,T.E.Caver and C.F.Quate 」以下、文献1という)。この文献1の窒化シリコン製カンチレバーの寸法は、長さ約100〜200μm、厚さ約0.4〜0.8μmであり、その形状は、例えば中抜き三角形や長方形である。また、その機械的特性として、バネ定数は、0.02〜0.8N/m程度であり、共振周波数は、20〜90kHz程度である。
【0008】
このようなカンチレバーを用いたAFMの測定法(AFM測定法)としては、探針接触圧設定時のカンチレバーの撓み状態を一定に維持するように、カンチレバーを励振させること無く、探針を試料に沿って走査するスタティックモードAFM測定法と、所定の共振周波数でカンチレバーを励振させた状態において、振動中心と試料表面との間の距離を一定に維持するように、探針を試料に沿って走査するダイナミックモードAFM測定法とが知られている。
【0009】
スタティックモードAFM測定法は、探針先端を試料に接触させながら走査するコンタクトモードAFM測定法と、探針先端を試料に接触させること無く走査するノンコンタクトモードAFM測定法とに大別され、特に、コンタクトモードAFM測定法には、バネ定数が1N/m以下(0.02〜0.8N/m程度)で共振周波数が10〜90kHzのカンチレバーが用いられる。
【0010】
なお、コンタクトモードAFM測定法は、探針を試料に一定の接触圧で押し付けながら、試料の凹凸情報を測定するコンスタントフォースモードAFM測定法と、探針の走査面を一定に維持した状態において、試料の凹凸状態に対応して試料に対する探針の接触圧の変化に基づいて、試料の凹凸情報を測定するコンスタントハイトモードAFM測定法とに大別される。
【0011】
このようなコンタクトモードAFM測定法では、探針や試料の損傷を防止する観点から、試料に対する探針の接触圧を如何に小さくするかが重要であり、バネ定数の小さなカンチレバーを用いることが求められる。
【0012】
一方、ダイナミックモードAFM測定法には、大きな機械的Q値を有するカンチレバーを用いることが必要である。具体的には、この測定法に用いられるカンチレバーは、コンタクトモードAFM測定法のカンチレバーと比べて、バネ定数(2〜50N/m)が大きく且つ共振周波数(70〜300kHz)が高くなっている。なお、USP5051379に示されているように、このような測定法には、通常、単結晶シリコンで形成された探針及びカンチレバーが用いられている。
【0013】
上述したようなAFM測定法によれば、絶縁材料から成る試料の測定だけで無く、液体中の試料を測定することもできる。このため、生物試料を生きた状態或いはそれに近い状態で測定することが可能であり、走査型電子顕微鏡に代わる新たな測定及び観察装置として期待されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、AFM測定には、ある程度の時間を必要とするため、動かない試料(例えば、金属、非金属の絶縁対試料、加工された生物試料など)を測定することがほとんどであった。しかし、現在、生物試料を生きた状態で測定したいというニーズが高まりつつある。即ち、測定中に動いたり、変化したりするような不安定な試料(例えば、液体中の生物試料)を測定したいという要求である。この要求に応えるため、測定時間を短縮することが課題となっている。
【0015】
一般的に、コンタクトモードAFM測定法を用いれば、ダイナミックモードAFM測定法と比較して、測定に要する時間の短縮化を図ることが可能であるが、数秒以下の短時間に動いたり、反応したりする生きた生物試料を測定するには、コンタクトモードAFM測定法であっても時間が掛かり過ぎるといった問題がある。
【0016】
従来、AFM測定に要する時間を長引かせる1つの要因として、カンチレバーが、ある一定以上の長さ及び厚さを有することに起因する機械的共振周波数特性が考えられる。ここで、カンチレバーの共振周波数特性は、長さ寸法の2乗に反比例し且つ厚さ寸法に比例して変化する。
【0017】
前述のコンタクトモードAFM測定法では、カンチレバー先端に形成された探針の先端と試料とを接触させた状態で、両者を相対的に走査する。このため、探針は、試料の凹凸を追従するように変位し、このとき得られるカンチレバーの変位は、試料の凹凸を反映する。
【0018】
試料の凹凸情報(空間周波数情報)はAFM装置により時間軸上の情報に変換される。測定時間を短縮するために走査速度を上げると、単位時間当たりに通過する試料の凹凸が増加し、この時間軸上の周波数は、高周波数側にシフトする。そして、この周波数がカンチレバーの共振周波数に近づくと、カンチレバーは、試料の凹凸に追従せず、発振してしまう。
【0019】
つまり、同程度の周波数のカンチレバーを使用したのでは、カンチレバーが試料の凹凸に追従できなくなり、時にはその機械的共振周波数で振動してしまうのである。
【0020】
従って、測定時間を短縮し、安定したAFM測定を行うには、走査速度に伴い高周波数側にシフトする周波数より充分高い機械的共振周波数を示すカンチレバーを使用する必要がある。言い換えれば、コンタクトモードAFM用のカンチレバーの機械的共振周波数を高く設定すれば、振動ノイズに強く、高速の走査が可能となる。
【0021】
そこで、前述の通り、カンチレバーの共振周波数は、カンチレバーの長さの2乗に反比例するので、カンチレバーを短くすれば、カンチレバーの共振周波数は高く設定できる。
【0022】
しかし、カンチレバーを短くすると、カンチレバーのバネ定数が長さの3乗に比例して大きく(硬く)なるため、探針が試料の凹凸に追従したとしても、カンチレバーの大きな変位量が期待できず、正確な試料の凹凸を検出することが困難になる。
【0023】
よって、バネ定数が大きくなるのを抑えながら、共振周波数を高く設定するには、短くて薄いカンチレバーとすることが有効である。
しかしながら、カンチレバーの長さ寸法を短くすると、以下のような問題が生じる。
【0024】
即ち、カンチレバー作製用装置のばらつき精度の影響を受けることによって、作製後のカンチレバーの長さ寸法のばらつきに基づいて、共振周波数やバネ定数のばらつきの度合が大きくなってしまう。
【0025】
例えば上述した文献1に開示された窒化シリコン製カンチレバーは、その支持部にパイレックスガラスが用いられており、このパイレックスガラスは、陽極接合によって、カンチレバーの基端に接合されている。
【0026】
このようなカンチレバー作製方法において、陽極接合時のアライメント精度がカンチレバーの長さ寸法のばらつきに影響を与える。なお、このアライメント精度は、約5〜10μm程度である。
【0027】
更に、パイレックスガラスは、ダイシングソーという円盤状砥石によって加工されるため、ガラスのチッピングがカンチレバーの長さ寸法のばらつきに影響を与える。なお、ガラスのチッピングは、ガラスを機械加工した際に、機械的ストレスが生じるためガラスが欠ける現象を言う。従って、例えば長さ寸法が50μm以下のカンチレバーを作製する場合、共振周波数は、最大で約5倍程度、そして、バネ定数は、最大で約10倍程度のばらつきが生じてしまうため、歩留まり良くカンチレバーを作製することが困難であった。
【0028】
また、上述したAFMには、カンチレバーの変位を光学的に測定する光てこ方式の変位センサが設けられている。一般に、光てこ方式の変位センサのセンサー光のスポット径は、30μm程度である。このため、カンチレバーの背面(探針が形成された面とは反対側の面)は、上記スポット径のセンサー光が照射可能な寸法を有していることが必要となる。
【0029】
更に、精度良くAFM測定を行うためには、例えば光路のけられ等の光学的影響を受けること無く、カンチレバーの背面にセンサー光を円滑且つ確実に照射させる必要がある。
【0030】
しかしながら、一般的なAFMにおいて、カンチレバー2は、試料4の表面4aに対して所定の傾斜角度θ(例えば、約5°〜15°程度の傾斜角度)で位置決めされている(図4(a)参照)。
【0031】
このため、図4(a)に示すように、例えば上述した文献1に開示された窒化シリコン製カンチレバー2をAFMに位置決め配置すると、支持部を成すパイレックスガラス6の端面6aが、カンチレバー2から垂直に立ち上がった状態となる。このため、端面6aの高さ寸法が大きい場合、その端面6aの角部6bによってセンサー光R1の一部がけられてしまう場合があり、この場合には、カンチレバー2の背面にセンサー光R1を円滑且つ確実に照射させることができなくなってしまう。
【0032】
この場合、AFM測定中において、半導体レーザ8から集光レンズ10を介して射出されたセンサー光R1は、角部6bによって、その一部がけられた状態でカンチレバー2の背面に照射される。このとき、カンチレバー2の背面から反射した反射光R2は、上記のけられの光学的影響を受けることによって、その光量が不規則に変化する。この結果、フォトディテクタ12によって検出される反射光R2の光強度が不規則に変化するため、AFM測定精度が低下してしまう。
【0033】
このような弊害を解消するために、カンチレバー2の基端近傍に位置するパイレックスガラス6の端面6aの高さ寸法を低くするように、パイレックスガラス6に機械加工を施すと、前述の機械的ストレスによるガラスのチッピング現象でカンチレバー2の基端近傍に位置するパイレックスガラス6が折れ易くなり、歩留まりが低下してしまうといった新たな問題が生じる。
【0034】
更に、一般的なAFMにおいて、カンチレバーチップ14は、カンチレバー2の自由端に設けられた探針のみが試料4の表面4aに接触するように取り付けられている。
【0035】
しかしながら、図4(b)に示すように、カンチレバーチップ14が、カンチレバー2の長手軸を中心に所定角度だけ傾斜(回転)した際に、支持部を成すパイレックスガラス6の両端(両肩)6cの一方が、試料4の表面4aに接触する場合がある。特に、カンチレバーチップ14の取付角度を小さくした場合(カンチレバー2が試料4の表面4aと略平行になる場合)や支持部を成すパイレックスガラス6の寸法を変化させること無く、カンチレバー2の長さ寸法を短くした場合、パイレックスガラス6の両端(両肩)6cの一方が、試料4の表面4aに接触する可能性が高くなる。この場合、AFM測定が困難或いは不可能になってしまう。
【0036】
このような弊害を解消するために、支持部を成すパイレックスガラス6の幅寸法を小さくすることも考えられるが、カンチレバーチップ14をAFMに取り付けるためには、支持部の幅寸法を一定値以下にすることはできない。現行のAFM技術において、支持部の幅寸法は、約1.5mm以下に小さくすることができない。
【0037】
本発明は、このような課題を解決するために成されており、その目的は、機械的特性のばらつきが少なく且つ高い歩留まりで作製可能であって、共振周波数が高く且つバネ定数が小さなカンチレバーを有するカンチレバーチップを提供することにある。
【0038】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明のカンチレバーチップは、第1の支持部と、この第1の支持部から延出したカンチレバーと、前記第1の支持部を支持する第2の支持部と、を備えており、前記第1の支持部の幅寸法は前記第2の支持部の幅寸法よりも小さくなっていて、前記第1の支持部は、前記カンチレバーの基端を支持すると共に、前記カンチレバーの長さ寸法を規定するための基準面を有し、前記基準面は前記カンチレバーの長手軸に対して垂直方向に延出しており、前記第2の支持部は、前記第1の支持部の前記基準面に対して所定の傾斜角度で傾斜した側周面を有する、ことを特徴としている。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態に係るカンチレバーチップについて、添付図面を参照して説明する。
図1(a),(b),(c)に示すように、本実施の形態のカンチレバーチップ16は、支持部18と、この支持部18から延出したカンチレバー20と、このカンチレバー20の延出端即ち自由端に形成された探針22とを備えて構成されている。
【0040】
本実施の形態に適用したカンチレバー20は、略三角形状を成しており、窒化シリコンから構成されている。
本実施の形態において、このカンチレバー20は、その一例として、その長手軸方向に沿った長さ寸法L即ち基端から自由端までの長さ寸法Lが略50μm、基端の幅寸法Wが略50μm、厚さ寸法Tが略0.2μmに設定されている(図1(b),(c)参照)。
【0041】
本実施の形態に適用した探針22は、略四角錐形状(ピラミッド形状)を成しており、窒化シリコンから構成されている。
本実施の形態において、この探針22は、その一例として、その高さ寸法Hが略3μmに設定されている(図1(b)参照)。なお、この探針22は、後述するカンチレバーチップの作製プロセスにおいて、カンチレバー20の表面(支持部18に当接した面とは反対側の面)に形成される。従って、以下の説明において、カンチレバー20の背面とは、探針22が形成された面(表面)とは反対側の面を言うこととする。
【0042】
支持部18は、単結晶シリコンから成る第1の支持部24及び第2の支持部26で構成されている。また、これら第1及び第2の支持部24,26は、異なる形状をしているが、後述するプロセスを用いて、同一単結晶シリコン基板から成形されている。
【0043】
第1の支持部24は、直方体形状を成しており、カンチレバー20の基端部を支持すると共に、カンチレバー20の長さ寸法Lを規定するための基準面24aが形成されている。また、第2の支持部26には、所定の傾斜角度で傾斜した側周面26aが形成されている。
【0044】
本実施の形態において、第1の支持部24は、その一例として、長さ寸法D1が略3.7mm、幅寸法D2が略0.5mm、厚さ寸法D3が略0.02mmに設定されている(図1(a),(b)参照)。
【0045】
この第1の支持部24の基準面24aは、カンチレバー20の長手軸に対して垂直方向に延出しており、後述する作製プロセスにおいて、カンチレバー20の長さ寸法Lのばらつきを最小限に抑えるための機能を有している。
【0046】
また、後述する作製プロセスによって形成される複数のカンチレバーチップ16を1枚のウェハ(図示しない)に保持させるために、第1の支持部24の両側には、夫々、保持部28が一体的に突設されている。このため、所望のカンチレバーチップ16をウェハから取り出す場合、カンチレバーチップ16を把持しながら引っ張る(又は、捻る)等の作業を行って保持部28を切断することによって、所望のカンチレバーチップ16を安全(カンチレバーチップ16を損傷させること無く)且つ簡単に取り出すことができる。なお、本実施の形態に適用した保持部28は、夫々、単結晶シリコンから構成されており、その一例として、幅寸法F1が略0.1mm、厚さ寸法F2が略0.02mmに設定されている(図1(c)参照)。
【0047】
本実施の形態に適用した第2の支持部26は、第1の支持部24側に第1面26b(図1(c)参照)を有し、また、この第1面26bに対向して第2面26c(図1(a)参照)を有している。また、この第2面26cは、カンチレバーチップ16を所定のAFM装置(図示しない)に取り付けるための取付面として機能する。
【0048】
第2面26cの寸法は、第1面26bの寸法よりも縮小されており、第1面26bと第2面26cとの間に形成された側周面26aは、第1の支持部24の基準面24aに対して所定の傾斜角度を成して傾斜している。
【0049】
なお、本実施の形態に適用した第2の支持部26の第1面26bの寸法は、その一例として、長さ寸法S1が略3.65mm、幅寸法S2が略1.6mm、厚さ寸法S3が略0.5mmに設定されている(図1(a),(b)参照)。
【0050】
このように本実施の形態のカンチレバーチップ16によれば、第1の支持部24の厚さ寸法D3を略0.02mmと薄くし、且つ、第2の支持部26の側周面26aを傾斜させたことによって、カンチレバー20の背面上方の空間を広げることができる。この結果、カンチレバーチップ16をAFM装置に取り付けてAFM測定を行う場合、図4(a)に示されたようなけられ等の光学的影響を受けること無く、センサー光R1を円滑且つ確実にカンチレバー20の背面に照射させることが可能となる。従って、従来技術に比べてAFM測定精度を向上させることが可能となる。
【0051】
更に、本実施の形態のカンチレバーチップ16によれば、第2の支持部26の幅寸法S2よりも第1の支持部24の幅寸法D2を小さくしたことによって、支持部18の両端(両肩)に空所(逃げ部)30を形成することができる。この結果、AFM測定中、カンチレバーチップ16が、カンチレバー20の長手軸を中心に所定角度だけ傾斜(回転)した場合でも、空所(逃げ部)30によって、支持部18の両端(両肩)の一方が試料4の表面4aに接触すること(図4(b)参照)を防止することが可能となる。また、第2の支持部26は、AFM装置にカンチレバーチップ16を取り付けるための幅寸法を確保している。なお、この効果は、特に、長さ寸法Lの短いカンチレバー20を用いてAFM測定を行う場合に非常に有効である。
【0052】
次に、上述したような構成を有するカンチレバーチップ16の作製プロセスについて、図2を参照して説明する。
本実施の形態の作製プロセスでは、その一例として、2枚のシリコンウェハ即ち第1及び第2のシリコンウェハ32,34(図2(a),(d)参照)をスタートウェハとして用いており、これら第1及び第2のシリコンウェハ32,34によってカンチレバーチップ16を作製する。
【0053】
まず、図2(a)に示すように、LP−CVD法(低圧化学蒸着法)によって第1のシリコンウェハ32の表裏面に窒化シリコン膜36,38(膜厚300nm)を形成した後、フォトリソグラフィ法によって表面に形成された窒化シリコン膜36に四角形状の開口36aを形成する。続いて、この窒化シリコン膜36をマスクとして用いながら、開口36aを介して露出している第1のシリコンウェハ32に対して水酸化カリウム水溶液によって湿式異方性エッチングを施す。そして、第1のシリコンウェハ32に倒立略四角錐形状(倒立ピラミッド形状)の凹部32aを形成する(第1のステップ)。
【0054】
このとき用いられる第1のシリコンウェハ32の面方位は、(100)であって、湿式異方性エッチングにより露出する第1のシリコンウェハ32の面に傾斜する凹部32aの4つの面の面方位は、(111)である。
【0055】
次に、図2(b),(c)に示すように、マスクとして用いた窒化シリコン膜36を除去した後、再びLP−CVD法によって第1のシリコンウェハ32の表面に窒化シリコン膜40(膜厚200nm)を形成した後、フォトリソグラフィ法によって窒化シリコン膜40をカンチレバー形状(図1に示されたカンチレバー20と同一形状)にパターニングする(第2のステップ)。このとき、第1のステップで形成した凹部32aにも、窒化シリコン膜40が形成され、後述するステップを経て探針部となる。なお、同図(b)は、同図(c)のb−b線に沿う断面図である。
【0056】
続いて、図2(d),(e)に示すように、フォトリソグラフィ法を用いて第2のシリコンウェハ34の表面の一部を除去することによって、所定の深さを有する掘り下げ部34aを形成する。具体的には、第2のシリコンウェハ34の掘り下げ部34aを除く部分にマスク(例えば、窒化シリコン膜)を形成し、ドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング(RIE))によって第2のシリコンウェハ34の表面の一部を掘り下げる。なお、このときのマスク形状に基づいて、第1の支持部24及び保持部28の形状が決定される。この後、マスクを除去し、第2のシリコンウェハ34の表面に酸化シリコン膜42を形成すると共に、第2のシリコンウェハ34の裏面に窒化シリコン膜44を形成する。そして、裏面に形成された窒化シリコン膜44を所定形状(後述する作製プロセスでマスクとなるような形状)にパターニングする(第3のステップ)。なお、同図(d)は、同図(e)のd−d線に沿う断面図である。
【0057】
次に、図2(f)に示すように、陽極接合法によって、第1のシリコンウェハ32の表面に第2のシリコンウェハ34の表面を貼り合わせる。具体的には、第1のシリコンウェハ32の表面に第2のシリコンウェハ34の表面を重ねた後、加熱しながら第1及び第2のシリコンウェハ32,34に電圧を印加する。この結果、静電引力作用と熱作用によって、カンチレバー形状の窒化シリコン膜40と酸化シリコン膜42とが接合される(第4のステップ)。
【0058】
続いて、図2(g)に示すように、第1のシリコンウェハ32の裏面に残留している窒化シリコン膜38を除去した後、この第1のシリコンウェハ32を水酸化カリウム水溶液でエッチング除去すると共に、窒化シリコン膜44をマスクとして用いながら、第2のシリコンウェハ34の一部を水酸化カリウム水溶液でエッチング除去する(第5のステップ)。
【0059】
最後に、図2(h)に示すように、残留している酸化シリコン膜42をフッ酸でエッチング除去する(第6のステップ)。この結果、図1に示された本実施の形態のカンチレバーチップ16が作製される。なお、同図(h)では、図1に示されたカンチレバーチップ16と同一の構成に対応させて符号を付した。
【0060】
また、同図(h)で示した酸化シリコン膜42は、作製プロセスで示したが、図1には図示していない。
更に、同図(g),(h)は、同図(a),(b),(d)に習いカンチレバー20を断面図にしたものであり、基準面24aを有する第1の支持部24と側周面26aを有する第2の支持部26とを支持部18として一体に示している。
【0061】
また、特に図示しないが、第6のステップ終了後、カンチレバー20の背面に例えば図4(a)に示したセンサー光R1を反射するための金属等の光反射膜を蒸着させても良い。
【0062】
このような作製プロセスによれば、第5及び第6のステップを介して第1の支持部24の基準面24aを高精度に(即ち、位置ずれすること無く正確に)形成することができる。この結果、設計通りの長さ寸法L(図1(b)参照)を有するカンチレバー20を作製することが可能となる。即ち、共振周波数が高くなるように長さ寸法Lを短くする場合でも、基準面24aを正確に位置決め形成することができるため、長さ寸法L(共振周波数)のばらつき度合を縮減させることが可能となる。
【0063】
このような効果は、第3のステップ(図2(d),(e)参照)において、第1のシリコンウェハ34に掘り下げ部34aを形成したことが要因となる。
ここで、例えば掘り下げ部34aを形成すること無く、図2(f)に示すように第1及び第2のシリコンウェハ32,34を接合し(第4のステップ)、図2(g),(h)に示すような湿式異方性エッチングを進める(以下、参考用作製プロセスという)と、エッチングレートのばらつきによって正確にカンチレバー20の長さ寸法Lを規定できなくなってしまう。
【0064】
具体的には、図3(a)に示すように、窒化シリコン膜44をマスクとして用いながら、第2のシリコンウェハ34を水酸化カリウム水溶液でエッチング除去すると、エッチングレートのばらつきによって、第2のシリコンウェハ34のエッチング面34b(カンチレバー20の長さ寸法Lを規定する基準面)は、符号Pで示すように、カンチレバー20の長手軸方向に沿って前後する。
【0065】
そして、この現象は、使用するシリコンウェハの厚さ寸法S3(図1(b)参照)のばらつき度合によっても生じる。通常、シリコンウェハの厚さ寸法S3のばらつき度合は、0.01〜0.02mm程度である。従って、上記の参考用作製プロセスを行った場合、基準面のずれ量に対応して長さ寸法Lのばらつき度合が大きくなり過ぎる。このため、使用に適した長さ寸法Lを有するカンチレバー20を作製することができなくなってしまう。
【0066】
しかしながら、本実施の形態に適用した作製プロセスによれば、第1の支持部24の基準面24a(図1参照)となるべき第2のシリコンウェハ34の端面34cは、酸化シリコン膜42によって最終プロセス(第6のステップ)まで保護される。即ち、第2のシリコンウェハ34の端面34cは、その形成位置が変動すること無く、一定位置に正確に形成される。この結果、基準面24aを正確に位置決め形成することができるため、長さ寸法L(共振周波数)のばらつき度合を縮減させることができる。
【0067】
更に、第2のシリコンウェハ34の端面34c即ち基準面24aをカンチレバー20の長手軸に対して垂直方向に形成することができるため、第1及び第2のシリコンウェハ32,34を接合する行程(第4のステップ)において、基準面24aに対するカンチレバー20のアライメント精度を高くすることが可能となる。そして、このような高いアライメント精度の実現によって、1つのウェハに複数のカンチレバーチップ16を作製する際の歩留まりを向上させることが可能となる。
【0068】
このように本実施の形態の作製プロセスによれば、ばらつきの無い長さ寸法Lの短いカンチレバー20を形成できる効果に加えて、LP−CVD法によって厚さ寸法T(図1(b)参照)の薄い窒化シリコン膜40(膜厚200nm)即ちカンチレバー20を形成することができる。この結果、共振周波数が高く且つバネ定数が小さなカンチレバー20を有するカンチレバーチップ16を提供することができるため、従来の技術と比較して走査速度を上げてもカンチレバーが発振せず、AFM測定時間を短縮することが可能となる。
【0069】
また更に、本実施の形態の作製プロセスによれば、図2(g),(h)に示された第5及び第6のステップにおいて、第2のシリコンウェハ34の一部に湿式異方性エッチング処理を施すことによって、図3(b)に示すように、第2の支持部26の側周面26a(即ち、カンチレバー20の基端近傍の側周面26a)を滑らかにテーパを施すことができると同時に、支持部18に必要な強度を確保しつつ第1の支持部24を歩留まり良く形成することができる。
【0070】
この場合、図3(c)に示すように、例えばガラス製の支持部18に対してダイシングソー加工法(従来技術の加工法)を施し、カンチレバー20の基端近傍の側周面26aに階段状の傾斜を付けることによって、カンチレバー20の基端近傍の側周面26aに沿ったテーパを施すことも想定できる。しかしながら、この従来技術の加工法では、加工時間が長くなると共に加工プロセスが複雑化するだけでなく、更に、厚さ寸法D3(図1(b)参照)が0.02mm程度の第1の支持部24に機械的なストレスが加えられてしまう。このため、ガラスのチッピング現象等の問題が発生し、歩留まりを高めることができない。
【0071】
これに対して本実施の形態に適用した作製プロセスによれば、支持部18をシリコンで形成したことによって、第1の支持部24に対する機械的なストレスを加えること無く、所望の形状に支持部18を短時間且つ簡単に加工することができる。
【0072】
このように上記作製プロセスを適用した本実施の形態によれば、機械的特性のばらつきが少なく且つ高い歩留まりで作製可能であって、共振周波数が高く且つバネ定数が小さなカンチレバー20を有するカンチレバーチップ16を提供することが可能となる。
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば、機械的特性のばらつきが少なく且つ高い歩留まりで作製可能であって、共振周波数が高く且つバネ定数が小さなカンチレバーを有するカンチレバーチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係るカンチレバーチップの構成を示す図であって、同図(a)は、支持部の側から見たカンチレバーチップの斜視図、同図(b)は、カンチレバーチップの側面図、同図(c)は、カンチレバーの側から見たカンチレバーチップの斜視図。
【図2】(a)〜(h)は、カンチレバーチップの作製プロセスを示す図。
【図3】(a)は、作製プロセスにおいて、第3のシリコンウェハに対するエッチングレートのばらつき状態を示す図、(b)は、カンチレバー近傍の構成を拡大して示す図、(c)は、従来技術の加工法によって形成した支持部の構成を概略的に示す図。
【図4】(a)は、AFM測定中において、カンチレバーの背面に照射されるセンサー光が、けられの光学的影響を受けている状態を示す図、(b)は、AFM測定中において、カンチレバーチップの支持部の両端(両肩)の一方が、試料表面に接触してしまった状態を示す図。
【符号の説明】
16 カンチレバーチップ
18 支持部
20 カンチレバー
22 探針
24 第1の支持部
24a 基準面
26 第2の支持部
26a 側周面
Claims (3)
- 第1の支持部と、
この第1の支持部から延出したカンチレバーと、
前記第1の支持部を支持する第2の支持部と、
を備えており、
前記第1の支持部の幅寸法は前記第2の支持部の幅寸法よりも小さくなっていて、
前記第1の支持部は、前記カンチレバーの基端を支持すると共に、前記カンチレバーの長さ寸法を規定するための基準面を有し、前記基準面は前記カンチレバーの長手軸に対して垂直方向に延出しており、
前記第2の支持部は、前記第1の支持部の前記基準面に対して所定の傾斜角度で傾斜した側周面を有する、
ことを特徴とするカンチレバーチップ。 - 前記カンチレバーの長さが50μm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のカンチレバーチップ。
- 前記第1及び第2の支持部は同一単結晶シリコンから形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のカンチレバーチップ。
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