JP3832205B2 - 無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機を備えた車両の加減速度を制御する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
状態空間法を用いたモデルフォローイング制御装置として、図13に示すように、制御対象の状態量x(t)、規範モデルの状態量xm(t)、および規範モデルの出力ym(t)と制御対象の出力y(t)との偏差e(t)の積分値のすべてを状態量とした拡大システムを定義し、状態フィードバックを施すことによってロバスト性を改善したモデル追従型サーボコントローラーが知られている(例えば、「航空宇宙における誘導と制御」西村、金井、村田共著 コロナ社 pp101〜pp103参照)。
【0003】
また、線形制御理論に基づく線形コントローラーを実際の非線形な制御対象に適用する際に、”モデル化誤差”に起因した”安定性劣化”を解消するために、制御途中で制御ゲインを切り換える”ゲインスケジューリング”がよく行われる。
【0004】
さらに、モデルフォローイング制御の具体的な応用例として、CVTなどの無段変速機を備えた車両の駆動力制御装置がある。この装置では、エンジンの最適燃費(効率)運転線、あるいは燃料カット時のエンジンブレーキ特性線に基づいて決定したエンジン運転点拘束条件、すなわちエンジントルクとエンジン回転速度との関係を満たしながら、第1目標である目標駆動力に推定駆動力を一致させるために必要なエンジントルク指令値と無段変速機の変速比指令値を演算し、それぞれ別個に制御して二つの指令値を同時に達成するフィードバック補償器を構成している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置では、サーボコントローラーの内部状態量と無関係に、状態フィードバックゲインを制御途中で切り換えているので、切り換え前後において操作量(コントローラーの出力値)が急変し、応答が乱れたりして制御性能が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、フィードバック制御系の制御性能を安定に保ちながら、状態フィードバックゲインを制御途中で切り換えことにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明の一実施の形態を示す図1および図8に基づいて本発明を説明すると、
(1) 請求項1の発明は、車速を検出する車速検出手段8と、車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段4と、車両の目標加速度αw*を設定する目標加速度設定手段4と、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値αwfを目標加速度αw*に一致させるための操作量を演算してエンジン1と無段変速機3を制御する制御手段4であって、目標加速度αw*を入力し加速度指令値αrefを出力する規範モデル手段4aと、加速度指令値αrefと加速度推定値αwfとの偏差を積分する積分手段4bと、積分手段4bの出力を用いて操作量を演算する状態フィードバック手段4cとを有する制御手段4と、状態フィードバックゲインKを切り換えるときに、切り換え前後で操作量が連続的に変化するように積分手段の初期値を設定する初期値設定手段4とを備え、これにより上記目的を達成する。
(2) 請求項2の発明は、車速を検出する車速検出手段8と、車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段4と、車両の目標加速度αw*を設定する目標加速度設定手段4と、無段変速機入力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段11と、無段変速機入力軸の目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段4と、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値αwfを目標加速度αw*に一致させるための無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*を演算してエンジン1と無段変速機3を制御する制御手段4であって、目標加速度αw*を入力し加速度指令値αrefを出力する規範モデル手段4aと、加速度指令値αrefと加速度推定値αwfとの偏差を積分する第1の積分手段4bと、無段変速機入力軸の目標回転速度と回転速度検出値との偏差を積分する第2の積分手段4eと、第1および第2の積分手段4b、4eの出力を用いて無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*を演算する状態フィードバック手段4cとを有する制御手段4と、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*が連続的に変化するように第1および第2の積分手段4b、4eの各初期値を設定する初期値設定手段4とを備え、これにより上記目的を達成する。
(3) 請求項3の無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置は、車速検出値と無段変速機入力トルクとに基づいて状態フィードバックゲインKを切り換えるようにしたものである。
【0008】
上述した課題を解決するための手段の項では、説明を分かりやすくするために一実施の形態の図を用いたが、これにより本発明が一実施の形態に限定されるものではない。
【0009】
【発明の効果】
(1) 請求項1の発明によれば、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための操作量を演算してエンジンと無段変速機を制御する場合に、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で操作量が連続的に変化するように、規範モデル出力の加速度指令値と加速度推定値の偏差積分手段の初期値を設定するようにしたので、状態フィードバックゲインの切り換え前後においても操作量が連続的に変化し、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
(2) 請求項2の発明によれば、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値を演算してエンジンと無段変速機を制御する場合に、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値が連続的に変化するように、規範モデル出力の加速度指令値と加速度推定値の偏差を積分する第1の積分手段の初期値と、無段変速機入力軸の目標回転速度と回転速度検出値の偏差を積分する第2の積分手段の初期値とを設定するようにしたので、状態フィードバックゲインの切り換え前後においても無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値が連続的に変化し、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
(3) 請求項3の発明によれば、車速検出値と無段変速機入力トルクとに基づいて状態フィードバックゲインを切り換えるようにしたので、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い車速域と広いトルク域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は一実施の形態の構成を示す図である。
一実施の形態の車両のパワートレインはエンジン1、ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター2および無段変速機(CVT)3から構成される。エンジン1は、電子制御式スロットルバルブアクチュエーター(不図示)による吸入空気量制御と、インジェクター(不図示)による燃料噴射制御と、点火装置(不図示)による点火時期制御とにより、エンジントルクが制御される。
【0011】
ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター2のロックアップクラッチは、極低速域でのみ開放して停車と発進とを可能にし、さらに振動をダンピングする。一方、中高速域ではロックアップクラッチを締結して伝達効率を向上させる。無段変速機3は、ベルトを張るプライマリープーリーとセカンダリープーリーの有効半径を油圧機構(不図示)で調節して変速比を可変にする。なお、無段変速機3はベルト式に限定されず、例えばトロイダル式でもよい。
【0012】
加減速度コントローラー4、エンジントルクコントローラー5およびCVT&クラッチコントローラー6はそれぞれ、マイクロコンピューターとROM、RAM、A/Dコンバーター、各種タイマーなどの周辺回路や、通信回路、各種アクチュエーターの駆動回路などを備え、互いに高速通信線13を介して通信を行う。
【0013】
加減速度コントローラー4は、車速検出値にバンドパスフィルター処理を施して車両の加速度αwfを推定し、目標加速度αw*に対して加速度推定値αwfをフィードバックして加速度フィードバック制御を行う。加減速度コントローラー4には、アクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル開度と呼ぶ)Apoを検出するアクセルセンサー7と、駆動輪14の周速(以下、車輪速と呼ぶ)Vwを検出するための車輪速センサー8とが接続される。なお、車輪速Vwは車速に等しい。
【0014】
エンジントルクコントローラー5は、吸入空気量制御、燃料噴射制御および点火時期制御によりエンジン1のトルクを制御する。エンジントルクコントローラー5には、エンジン1の回転速度ωeを検出するためのクランク角センサー9が接続される。CVT&クラッチコントローラー6は、油圧機構(不図示)を制御して無段変速機3の変速比を制御する。CVT&クラッチコントローラー6には無段変速機3のプライマリープーリーの回転速度ωpを検出するためのプライマリー速度センサー10と、セカンダリープーリーの回転速度ωsを検出するためのセカンダリー速度センサー11とが接続される。
【0015】
図2は、一実施の形態の加速度制御プログラムを示すフローチャートである。このフローチャートにより、一実施の形態の動作を説明する。
加減速度コントローラー4のマイクロコンピューターは、所定の時間間隔、例えば10msecごとにこの制御プログラムを実行する。
【0016】
ステップ1において、アクセルセンサー7からアクセル開度Apoを読み込む。ステップ2では、車輪速センサー8からのパルス信号を計測してタイヤの有効半径Rに対する駆動輪14の周速、すなわち車輪速Vwを検出する。なお、この車輪速Vwは車速に等しい。続くステップ3で、CVT&クラッチコントローラー6から高速通信線13を介して無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度ωp、セカンダリープーリー(出力軸)の回転速度ωsおよび変速比Ip(=ωp/ωs)を読み込むとともに、エンジントルクコントローラー5から高速通信線13を介してエンジン1の回転速度ωeを読み込む。
【0017】
ステップ4において、アクセル開度Apoと車輪速Vwとに基づいて目標加速度αw*を演算する。具体的には、図3に示すようなアクセル開度Apoと車輪速Vwに対する目標加速度αw*のマップを設定しておき、検出したアクセル開度Apoと車輪速Vwに対する目標加速度αw*を表引き演算する。なお、目標加速度αw*の設定方法はこの実施の形態の設定方法に限定されず、例えばアクセル開度Apoのみに応じて目標加速度αw*を設定するようにしてもよい。
【0018】
ステップ5では、車輪速Vwにバンドパスフィルター処理を施して加速度推定値αwfを演算する。以下、加速度推定値αwfの演算方法を説明する。
【0019】
まず、車輪速Vwを入力とし加速度推定値αwfを出力とする連続時間系の伝達関数Gbp(s)を次のように記述する。
【数1】
(1)式において、sはラプラス演算子、ωnは固有角周波数、ζnは減衰率であり、ωnとζnは車輪速検出値Vwに含まれるノイズレベルに応じて決定する。
【0020】
次に、この伝達関数Gbp(s)を状態ベクトルによる表現に変換すると、図4に示すブロック線図で表され、状態変数ベクトルxfを用いた状態方程式と出力方程式は次のように記述される。
【数2】
(2)式において、Af、Bf、Cf、Dfは固有角周波数ωnや減衰率ζnから決まる定数行列である。
【0021】
バンドパスフィルターの出力である加速度推定値αwf以外に、バンドパスフィルターの内部状態変数ベクトルxfを算出するために、(2)式に示す連続時間系の状態方程式と出力方程式の形で演算を行う。また、加速度制御用状態フィードバック補償器の設計を連続時間系で行うために積分演算をオイラー積分とすると、上記(2)式の状態方程式と出力方程式を、実際にマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式として次のように表すことができる。
【数3】
(3)式において、Tsmpはサンプリング周期であり、この実施の形態では10msecである。また、(k)は現在値、(k−n)はnサンプリング周期前の値を示す。この数式3を実行して加速度推定値αwfを求める。
【0022】
ステップ6では、エンジントルク指令値Te*から実際のエンジントルクTeまでを簡易な一次遅れモデルとし、エンジントルク指令値Te*に対する実際のエンジントルクTeを推定する。まず、エンジントルク指令値Te*から実際のエンジントルクTeまでの連続時間系の伝達関数Gengを次のように記述する。
【数4】
(4)式において、Tengは時定数である。
【0023】
(4)式をタスティン近似などで離散化し、実際にマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式を求めて実行する。
【数5】
(5)式において、TEN0、TEN1、TED1は、時定数Tengおよびサンプリング周期Tsmpから決まる定数である。
【0024】
ステップ7では、図5に示すような予め設定したエンジン運転点拘束線マップから、エンジントルク推定値Teに対応するエンジン回転速度ωeを表引き演算する。エンジン運転点拘束線マップ図5において、正のトルク域ではエンジン最適燃費(効率)運転線を拘束線として用い、負のトルク域ではエンジンブレーキ特性線を拘束線として用いる。なお、エンジン最適燃費運転線はエンジン等出力線上の最も燃料消費量が少ないエンジン運転点を連ねた特性線である。また、エンジンブレーキ特性線はスロットルバルブ全閉で、且つ燃料カット時のエンジン運転点であり、このエンジンブレーキ特性線に沿って制御することにより、無段変速機3のダウンシフト時のエンジンブレーキ制御を可能にする。
【0025】
この実施の形態では、トルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結された状態のみを考えるので、エンジン回転速度ωeは無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度ωpに等しい。そこで、図5のマップから表引き演算して求めたエンジン回転速度ωeを目標プライマリープーリー回転速度(無段変速機入力軸回転速度)ωp*とする。そして、目標プライマリープーリー回転速度ωp*と実際のプライマリープーリーの回転速度ωpとの偏差を積分した値Zを算出する。
【数6】
【0026】
ステップ8において、加速度フィードバック制御でゲイン切り換えを行うための運転領域判定を行う。この実施の形態では、図6に示すように、車輪速Vwの値と無段変速機3の入力トルクTpの符号とに基づいて運転領域を6分割し、ゲイン切り換えを行う。なお、この一実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結された状態のみを考えるので、無段変速機3の入力トルクTpはエンジントルクTeに等しい。1サンプル周期前の運転領域と今回の運転領域とが同一領域の場合はステップ10へ進み、異なる場合はステップ9へ進む。
【0027】
ステップ9では、状態フィードバックゲインの切り換えの準備として、加速度制御用フィードバック補償器内の2個の積分器の初期値を算出する。具体的には、予めROMに記憶した各運転領域に対応した状態フィードバックゲイン定数行列の中から、1サンプル周期前の運転領域に対応したKold、今回の運転領域に対応したKnewを選択する。ゲイン切り換え前後で補償器出力Uが連続的に変化するように、後述する状態フィードバック演算の(14)式を解いた次式を用いて、加速度偏差積分器の初期値xi_iniと、プライマリープーリー回転速度偏差積分器の初期値Ziniを算出する。
【数7】
(7)式において、(k)は現在値を、(k−1)は1サンプル周期前の値を示す。
【0028】
ステップ10において、加速度制御用フィードバック補償器の演算を行う。この実施の形態では、実用的な線形制御手法の一つである、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法を用いる。以下にその制御系設計手法を説明する。
【0029】
まず、制御系設計用のプラントモデルの導出を行う。この実施の形態では、実際の車両モデルに対して、上述したバンドパスフィルターモデルと、上述したエンジン運転点拘束条件に関する偏差積分モデル(状態変数Z)とを結合した拡大系モデルを制御系設計用プラントモデルとする。なお、エンジン運転点拘束条件に関する偏差積分モデルは、非線形マップを特定点で線形近似した次式を用いる。
【数8】
(8)式において、kaは図5に示すエンジン運転点拘束線マップの傾きである。
【0030】
拡大系のプラントモデルを、図7に示す状態ベクトルを用いたブロック線図で表し、連続時間系の状態方程式および出力方程式の形で次のように記述する。なお、上述したようにこの実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチの締結状態のみを考えるので、無段変速機3の入力トルクTpはエンジントルクTeに等しいとする。
【数9】
(9)式において、入力数2、出力数1、状態数6であり、Ap、Bp、Cp、Dpは定数行列である。また、Tp*は無段変速機3の入力トルク指令値、Ip*は無段変速機3の変速比指令値である。さらに、xf1、xf2は、数式1に示す二次式で表したバンドパスフィルターの内部状態変数ベクトルxfの要素である。
【0031】
目標加速度αw*に対する推定加速度αwfの望ましい応答性を示す規範モデルを一次遅れとし、その伝達関数、状態方程式および出力方程式を次のように表す。
【数10】
(10)式において、Tαwは時定数である。
【0032】
以上の拡大系プラントモデルと規範モデルに、状態フィードバック(状態空間法)によるモデルフォローイング制御手法を用いて加速度フィードバック制御系を構築した場合の制御ブロック図を図8に示す。なお、図8において太線はベクトルを表し、細線はスカラーを表す。
【0033】
このような加速度フィードバック補償器を構築することによって、規範モデル出力の加速度指令値αrefに推定加速度αwfが定常偏差なく追従する。また同時に、状態フィードバックによってすべての状態変数が安定化される。つまり、状態変数の一つである無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度偏差積分値Zも安定化されるため、結果として無段変速機3のプライマリープーリーの目標回転速度ωp*に実回転速度ωpが定常偏差なく追従する。
【0034】
図8に示す状態フィードバックゲインK(定数行列)は、上述した拡大系プラントモデルと規範モデルをさらに結合した図9に示す結合モデルに対して、一般的な最適レギュレーター手法などを用いて求める。ただし、規範モデル出力の加速度指令値αrefと推定加速度αwfの偏差積分量をxiとする。
【数11】
【0035】
次に、実際の処理をマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式の形に表す。まず、規範モデルの演算は次の差分方程式により実行する。
【数12】
(12)式において、MAN0、MAN1、MAD1は上記(10)式をタスティン近似などで離散化して得られた定数である。次に、加速度の偏差積分演算は次の差分方程式により実行する。
【数13】
さらに、状態フィードバック演算は次式により実行する。
【数14】
ただし、状態フィードバックゲイン行列は、現在の運転領域に対応したKnewを用いる。また、上述したようにこの実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結されている状態のみを考えるので、
【数15】
とする。
【0036】
ステップ11において、加速度制御用モデルフォローイング補償器で演算されたエンジントルク指令値Te*、変速比指令値Ip*に上下限リミッター処理を施し、エンジントルクコントローラー5およびCVT&クラッチコントローラー6で達成可能な値にそれぞれ制限し、最終的なエンジントルク指令値Te*および変速比指令値Ip*とする。続くステップ12では、エンジントルク指令値Te*をエンジントルクコントローラー5へ、変速比指令値Ip*をCVT&クラッチコントローラー6へそれぞれ高速通信線13を介して出力する。エンジントルクコントローラー5はエンジントルクTeが指令値Te*となるように制御し、CVT&クラッチコントローラー6は無段変速機3の変速比Ipが目標値Ip*となるように制御する。
【0037】
次に、上記一実施の形態の中の本願発明に係わる部分を整理して説明する。
【0038】
上述したように、従来の加減速度制御装置では線形制御理論に基づく線形コントローラーを、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象に適用する際に、例えば図13に示すように、サーボコントローラーの内部状態量、すなわち規範モデルの出力ym(t)と制御対象の出力y(t)との偏差e(t)の積分値と無関係に、状態フィードバックゲインK1、K2、K3を制御途中で切り換えているので、ゲイン切り換え前後で操作量、すなわちコントローラーの出力u(t)が急変し、応答が乱れたりして制御性能が悪化するという問題がある。
【0039】
このような従来の加減速度制御装置の問題を解決するために、この実施の形態では、目標加速度と目標無段変速機入力軸回転速度(この実施の形態では、目標エンジン回転速度に等しい)を同時に達成するための無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置に対して、二つの操作量(コントローラーの出力値)、すなわちエンジントルク指令値Te*(=Tp*)および変速比指令値Ip*が、状態フィードバックゲインKの切り換え前後で連続的に変化するように、モデルフォローイングコントローラー内の2個の積分器の初期値、すなわち図8に示す規範モデル(4a)出力の加速度指令値αrefと制御対象プラント(4d)出力の加速度推定値αwfとの偏差を積分する第1の積分器(4b)の積分値xiの初期値xi_iniと、無段変速機入力軸の目標回転速度ωp*と回転速度検出値ωpとの偏差を積分する第2の積分器(4e)の積分値Zの初期値Ziniとを、状態フィードバックゲインKの切り換え時に設定する。
【0040】
「モデルフォローイング制御手法を用いた加速度制御」を行うために、ステップ10において、図6に示す運転領域に対応した状態フィードバックゲイン行列Knewを用いて、(14)式に示す状態フィードバック演算を行う。運転点が同一の運転領域にあり続ける場合は、同一のフィードバックゲイン行列が用いられて連続的な制御がなされるが、別の運転点へ移行する場合には、フィードバックゲイン行列がKoldからKnewへ切り換わるので、制御が不連続となって操作量の無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が急変しないようにしなければならない。
【0041】
一実施の形態では、ステップ8で運転領域の切り換えが判定された場合に、ステップ9で加速度フィードバック補償器の出力(操作量)、すなわち無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*がゲイン行列Kの切り換え前後で連続的に変化するように、補償器内の積分器の初期値、すなわち加速度偏差積分値xiと無段変速機入力軸回転速度偏差積分値Zの初期値を演算する。
【0042】
具体的には、次式を[Z(k),xi(k)]で解いた(7)式で算出する。
【数16】
【0043】
図10および図11に、一実施の形態の加減速度制御装置のシュミレーション結果を示す。なお、図10および図11の下部の数字は図6に示す運転領域番号を表す。また、この実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチ締結状態のみを想定しているので、無段変速機(CVT)3の入力トルク指令値Tp*はエンジントルク指令値Te*に等しい。
【0044】
図10は、状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定し直さなかった場合、つまり従来の加減速度制御装置の応答結果を示す。ゲイン切り換え前後で加速度フィードバック補償器出力の無段変速機3の入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が大きく急変し、加速度αwfやプライマリープーリー回転速度ωpの応答波形が大きく乱れている。
【0045】
一方、図11は、状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定した場合、つまり上述した一実施の形態の加減速度制御装置の応答結果を示す。ゲイン切り換え前後で加速度フィードバック補償器出力の無段変速機3の入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が急変することなく、連続的に推移し、加速度αwfやプライマリープーリー回転速度ωpの応答波形が乱れることなく、目標値によく追従している。
【0046】
このように、上述した一実施の形態では、目標加速度と目標無段変速機入力軸回転速度とを同時に達成するための無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置において、2つの操作量すなわち無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)と変速比指令値Ip*とが、状態フィードバックゲインKの切り換え前後で連続的に変化するように、モデルフォローイングコントローラー内の規範モデル出力の加速度指令値αrefと制御対象出力の加速度推定値αwfとの偏差積分値xiの初期値xi_iniと、無段変速機入力軸の目標回転速度ωp*と回転速度検出値ωpとの偏差積分値Zの初期値Ziniとを、状態フィードバックゲインKの切り換え時に設定するようにした。これにより、状態フィードバックゲインの切り換え前後でも操作量Te*、Ip*が連続的に推移するので、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、CVTなどの無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定で応答が速い制御性能を実現することができる。
【0047】
また、上述した一実施の形態では、車輪速Vw(車速に相当)と無段変速機入力トルクTp(=エンジントルクTe)に基づいて状態フィードバックゲインKを切り換える。
【0048】
図12は、エンジン1と無段変速機3を含むパワートレインの非線形モデルを示す。図において、Tineはイナーシャトルク、Mは車両重量、Rはタイヤの有効半径、Ifはファイナルギア比、T1はエンジントルク系時定数、T2は変速比系時定数、J1はエンジン1から無段変速機3のプライマリープーリーまでのイナーシャである。
【0049】
図12に示す非線形車両モデルを、運転点(Tpo,Ipo,Vwo)で線形近似した簡易線形モデルを次式に示す。
【数17】
この簡易線形モデルは(9)式に示す制御系設計用モデルに利用される。
【0050】
車輪速Vwと無段変速機入力トルクTpは大きく値が変化するので、非線形車両モデルを線形近似した場合のモデル化誤差による影響が大きくならないように、上述した一実施の形態ではこれら2つの車両状態量Vw、Tpに基づいて線形補償器のゲイン切り換えを行う。
【0051】
さらに、(9)式に示す制御系設計用モデルには、(6)式に示すプライマリープーリー回転速度偏差積分モデルも包含している。つまり、図5に示すエンジン運転点拘束線マップの傾きka((8)式参照)を含んでいるので、最適効率運転線を用いる正トルク域と、エンジンブレーキ特性線を用いる負トルク域では、必ず傾きkaの符号が切り換わる。したがって、これに起因した線形モデル化誤差の影響は大きく、無段変速機入力トルクTpの符号に対応した状態フィードバックゲインKの切り換えが必須となる。
【0052】
このように、この一実施の形態によれば、車輪速Vwと無段変速機入力トルクTp(=エンジントルクTe)に基づいて状態フィードバックゲインKを切り換えるようにしたので、無段変速機を備えた車両などの非線形な制御対象であっても、広い車速域、広いトルク域において安定で応答が速い制御性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】 一実施の形態の加速度制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】 目標加減速度を設定するためのマップ例を示す図である。
【図4】 車輪速を入力とし加速度推定値を出力とする連続時間系の伝達関数を状態ベクトルにより表現したブロック図である。
【図5】 エンジン運転点拘束線マップを示す図である。
【図6】 車速と無段変速機入力トルクとに基づいて分割した運転領域例を示す図である。
【図7】 一実施の形態の制御系設計用拡大モデルを状態ベクトルにより表現したブロック図である。
【図8】 一実施の形態のモデルフォローイング制御手法を用いた加速度フィードバック制御系を示すブロック図である。
【図9】 拡大系プラントモデルと規範モデルを結合したモデルを示すブロック図である。
【図10】 状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定し直さなかった場合、つまり従来の加減速度制御装置の応答結果を示す図である。
【図11】 状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定した場合、つまり上述した一実施の形態の加減速度制御装置の応答結果を示す図である。
【図12】 非線形車両モデルを示す図である。
【図13】 従来のモデル追従型サーボコントローラーの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター
3 無段変速機
4 加減速度コントローラー
4a 規範モデル
4b 第1の積分器
4c 状態フィードバック
4d 制御対象のプラント
4e 第2の積分器
5 エンジントルクコントローラー
6 CVT&クラッチコントローラー
7 アクセルセンサー
8 車輪速センサー
9 クランク角センサー
11 プライマリー速度センサー
12 セカンダリー速度センサー
13 高速通信線
14 駆動輪
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機を備えた車両の加減速度を制御する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
状態空間法を用いたモデルフォローイング制御装置として、図13に示すように、制御対象の状態量x(t)、規範モデルの状態量xm(t)、および規範モデルの出力ym(t)と制御対象の出力y(t)との偏差e(t)の積分値のすべてを状態量とした拡大システムを定義し、状態フィードバックを施すことによってロバスト性を改善したモデル追従型サーボコントローラーが知られている(例えば、「航空宇宙における誘導と制御」西村、金井、村田共著 コロナ社 pp101〜pp103参照)。
【0003】
また、線形制御理論に基づく線形コントローラーを実際の非線形な制御対象に適用する際に、”モデル化誤差”に起因した”安定性劣化”を解消するために、制御途中で制御ゲインを切り換える”ゲインスケジューリング”がよく行われる。
【0004】
さらに、モデルフォローイング制御の具体的な応用例として、CVTなどの無段変速機を備えた車両の駆動力制御装置がある。この装置では、エンジンの最適燃費(効率)運転線、あるいは燃料カット時のエンジンブレーキ特性線に基づいて決定したエンジン運転点拘束条件、すなわちエンジントルクとエンジン回転速度との関係を満たしながら、第1目標である目標駆動力に推定駆動力を一致させるために必要なエンジントルク指令値と無段変速機の変速比指令値を演算し、それぞれ別個に制御して二つの指令値を同時に達成するフィードバック補償器を構成している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置では、サーボコントローラーの内部状態量と無関係に、状態フィードバックゲインを制御途中で切り換えているので、切り換え前後において操作量(コントローラーの出力値)が急変し、応答が乱れたりして制御性能が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、フィードバック制御系の制御性能を安定に保ちながら、状態フィードバックゲインを制御途中で切り換えことにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明の一実施の形態を示す図1および図8に基づいて本発明を説明すると、
(1) 請求項1の発明は、車速を検出する車速検出手段8と、車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段4と、車両の目標加速度αw*を設定する目標加速度設定手段4と、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値αwfを目標加速度αw*に一致させるための操作量を演算してエンジン1と無段変速機3を制御する制御手段4であって、目標加速度αw*を入力し加速度指令値αrefを出力する規範モデル手段4aと、加速度指令値αrefと加速度推定値αwfとの偏差を積分する積分手段4bと、積分手段4bの出力を用いて操作量を演算する状態フィードバック手段4cとを有する制御手段4と、状態フィードバックゲインKを切り換えるときに、切り換え前後で操作量が連続的に変化するように積分手段の初期値を設定する初期値設定手段4とを備え、これにより上記目的を達成する。
(2) 請求項2の発明は、車速を検出する車速検出手段8と、車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段4と、車両の目標加速度αw*を設定する目標加速度設定手段4と、無段変速機入力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段11と、無段変速機入力軸の目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段4と、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値αwfを目標加速度αw*に一致させるための無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*を演算してエンジン1と無段変速機3を制御する制御手段4であって、目標加速度αw*を入力し加速度指令値αrefを出力する規範モデル手段4aと、加速度指令値αrefと加速度推定値αwfとの偏差を積分する第1の積分手段4bと、無段変速機入力軸の目標回転速度と回転速度検出値との偏差を積分する第2の積分手段4eと、第1および第2の積分手段4b、4eの出力を用いて無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*を演算する状態フィードバック手段4cとを有する制御手段4と、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で無段変速機入力トルク指令値Tp*と変速比指令値Ip*が連続的に変化するように第1および第2の積分手段4b、4eの各初期値を設定する初期値設定手段4とを備え、これにより上記目的を達成する。
(3) 請求項3の無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置は、車速検出値と無段変速機入力トルクとに基づいて状態フィードバックゲインKを切り換えるようにしたものである。
【0008】
上述した課題を解決するための手段の項では、説明を分かりやすくするために一実施の形態の図を用いたが、これにより本発明が一実施の形態に限定されるものではない。
【0009】
【発明の効果】
(1) 請求項1の発明によれば、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための操作量を演算してエンジンと無段変速機を制御する場合に、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で操作量が連続的に変化するように、規範モデル出力の加速度指令値と加速度推定値の偏差積分手段の初期値を設定するようにしたので、状態フィードバックゲインの切り換え前後においても操作量が連続的に変化し、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
(2) 請求項2の発明によれば、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値を演算してエンジンと無段変速機を制御する場合に、状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値が連続的に変化するように、規範モデル出力の加速度指令値と加速度推定値の偏差を積分する第1の積分手段の初期値と、無段変速機入力軸の目標回転速度と回転速度検出値の偏差を積分する第2の積分手段の初期値とを設定するようにしたので、状態フィードバックゲインの切り換え前後においても無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値が連続的に変化し、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
(3) 請求項3の発明によれば、車速検出値と無段変速機入力トルクとに基づいて状態フィードバックゲインを切り換えるようにしたので、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い車速域と広いトルク域において安定でかつ応答の速い制御性能を実現することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は一実施の形態の構成を示す図である。
一実施の形態の車両のパワートレインはエンジン1、ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター2および無段変速機(CVT)3から構成される。エンジン1は、電子制御式スロットルバルブアクチュエーター(不図示)による吸入空気量制御と、インジェクター(不図示)による燃料噴射制御と、点火装置(不図示)による点火時期制御とにより、エンジントルクが制御される。
【0011】
ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター2のロックアップクラッチは、極低速域でのみ開放して停車と発進とを可能にし、さらに振動をダンピングする。一方、中高速域ではロックアップクラッチを締結して伝達効率を向上させる。無段変速機3は、ベルトを張るプライマリープーリーとセカンダリープーリーの有効半径を油圧機構(不図示)で調節して変速比を可変にする。なお、無段変速機3はベルト式に限定されず、例えばトロイダル式でもよい。
【0012】
加減速度コントローラー4、エンジントルクコントローラー5およびCVT&クラッチコントローラー6はそれぞれ、マイクロコンピューターとROM、RAM、A/Dコンバーター、各種タイマーなどの周辺回路や、通信回路、各種アクチュエーターの駆動回路などを備え、互いに高速通信線13を介して通信を行う。
【0013】
加減速度コントローラー4は、車速検出値にバンドパスフィルター処理を施して車両の加速度αwfを推定し、目標加速度αw*に対して加速度推定値αwfをフィードバックして加速度フィードバック制御を行う。加減速度コントローラー4には、アクセルペダルの踏み込み量(以下、アクセル開度と呼ぶ)Apoを検出するアクセルセンサー7と、駆動輪14の周速(以下、車輪速と呼ぶ)Vwを検出するための車輪速センサー8とが接続される。なお、車輪速Vwは車速に等しい。
【0014】
エンジントルクコントローラー5は、吸入空気量制御、燃料噴射制御および点火時期制御によりエンジン1のトルクを制御する。エンジントルクコントローラー5には、エンジン1の回転速度ωeを検出するためのクランク角センサー9が接続される。CVT&クラッチコントローラー6は、油圧機構(不図示)を制御して無段変速機3の変速比を制御する。CVT&クラッチコントローラー6には無段変速機3のプライマリープーリーの回転速度ωpを検出するためのプライマリー速度センサー10と、セカンダリープーリーの回転速度ωsを検出するためのセカンダリー速度センサー11とが接続される。
【0015】
図2は、一実施の形態の加速度制御プログラムを示すフローチャートである。このフローチャートにより、一実施の形態の動作を説明する。
加減速度コントローラー4のマイクロコンピューターは、所定の時間間隔、例えば10msecごとにこの制御プログラムを実行する。
【0016】
ステップ1において、アクセルセンサー7からアクセル開度Apoを読み込む。ステップ2では、車輪速センサー8からのパルス信号を計測してタイヤの有効半径Rに対する駆動輪14の周速、すなわち車輪速Vwを検出する。なお、この車輪速Vwは車速に等しい。続くステップ3で、CVT&クラッチコントローラー6から高速通信線13を介して無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度ωp、セカンダリープーリー(出力軸)の回転速度ωsおよび変速比Ip(=ωp/ωs)を読み込むとともに、エンジントルクコントローラー5から高速通信線13を介してエンジン1の回転速度ωeを読み込む。
【0017】
ステップ4において、アクセル開度Apoと車輪速Vwとに基づいて目標加速度αw*を演算する。具体的には、図3に示すようなアクセル開度Apoと車輪速Vwに対する目標加速度αw*のマップを設定しておき、検出したアクセル開度Apoと車輪速Vwに対する目標加速度αw*を表引き演算する。なお、目標加速度αw*の設定方法はこの実施の形態の設定方法に限定されず、例えばアクセル開度Apoのみに応じて目標加速度αw*を設定するようにしてもよい。
【0018】
ステップ5では、車輪速Vwにバンドパスフィルター処理を施して加速度推定値αwfを演算する。以下、加速度推定値αwfの演算方法を説明する。
【0019】
まず、車輪速Vwを入力とし加速度推定値αwfを出力とする連続時間系の伝達関数Gbp(s)を次のように記述する。
【数1】
(1)式において、sはラプラス演算子、ωnは固有角周波数、ζnは減衰率であり、ωnとζnは車輪速検出値Vwに含まれるノイズレベルに応じて決定する。
【0020】
次に、この伝達関数Gbp(s)を状態ベクトルによる表現に変換すると、図4に示すブロック線図で表され、状態変数ベクトルxfを用いた状態方程式と出力方程式は次のように記述される。
【数2】
(2)式において、Af、Bf、Cf、Dfは固有角周波数ωnや減衰率ζnから決まる定数行列である。
【0021】
バンドパスフィルターの出力である加速度推定値αwf以外に、バンドパスフィルターの内部状態変数ベクトルxfを算出するために、(2)式に示す連続時間系の状態方程式と出力方程式の形で演算を行う。また、加速度制御用状態フィードバック補償器の設計を連続時間系で行うために積分演算をオイラー積分とすると、上記(2)式の状態方程式と出力方程式を、実際にマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式として次のように表すことができる。
【数3】
(3)式において、Tsmpはサンプリング周期であり、この実施の形態では10msecである。また、(k)は現在値、(k−n)はnサンプリング周期前の値を示す。この数式3を実行して加速度推定値αwfを求める。
【0022】
ステップ6では、エンジントルク指令値Te*から実際のエンジントルクTeまでを簡易な一次遅れモデルとし、エンジントルク指令値Te*に対する実際のエンジントルクTeを推定する。まず、エンジントルク指令値Te*から実際のエンジントルクTeまでの連続時間系の伝達関数Gengを次のように記述する。
【数4】
(4)式において、Tengは時定数である。
【0023】
(4)式をタスティン近似などで離散化し、実際にマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式を求めて実行する。
【数5】
(5)式において、TEN0、TEN1、TED1は、時定数Tengおよびサンプリング周期Tsmpから決まる定数である。
【0024】
ステップ7では、図5に示すような予め設定したエンジン運転点拘束線マップから、エンジントルク推定値Teに対応するエンジン回転速度ωeを表引き演算する。エンジン運転点拘束線マップ図5において、正のトルク域ではエンジン最適燃費(効率)運転線を拘束線として用い、負のトルク域ではエンジンブレーキ特性線を拘束線として用いる。なお、エンジン最適燃費運転線はエンジン等出力線上の最も燃料消費量が少ないエンジン運転点を連ねた特性線である。また、エンジンブレーキ特性線はスロットルバルブ全閉で、且つ燃料カット時のエンジン運転点であり、このエンジンブレーキ特性線に沿って制御することにより、無段変速機3のダウンシフト時のエンジンブレーキ制御を可能にする。
【0025】
この実施の形態では、トルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結された状態のみを考えるので、エンジン回転速度ωeは無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度ωpに等しい。そこで、図5のマップから表引き演算して求めたエンジン回転速度ωeを目標プライマリープーリー回転速度(無段変速機入力軸回転速度)ωp*とする。そして、目標プライマリープーリー回転速度ωp*と実際のプライマリープーリーの回転速度ωpとの偏差を積分した値Zを算出する。
【数6】
【0026】
ステップ8において、加速度フィードバック制御でゲイン切り換えを行うための運転領域判定を行う。この実施の形態では、図6に示すように、車輪速Vwの値と無段変速機3の入力トルクTpの符号とに基づいて運転領域を6分割し、ゲイン切り換えを行う。なお、この一実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結された状態のみを考えるので、無段変速機3の入力トルクTpはエンジントルクTeに等しい。1サンプル周期前の運転領域と今回の運転領域とが同一領域の場合はステップ10へ進み、異なる場合はステップ9へ進む。
【0027】
ステップ9では、状態フィードバックゲインの切り換えの準備として、加速度制御用フィードバック補償器内の2個の積分器の初期値を算出する。具体的には、予めROMに記憶した各運転領域に対応した状態フィードバックゲイン定数行列の中から、1サンプル周期前の運転領域に対応したKold、今回の運転領域に対応したKnewを選択する。ゲイン切り換え前後で補償器出力Uが連続的に変化するように、後述する状態フィードバック演算の(14)式を解いた次式を用いて、加速度偏差積分器の初期値xi_iniと、プライマリープーリー回転速度偏差積分器の初期値Ziniを算出する。
【数7】
(7)式において、(k)は現在値を、(k−1)は1サンプル周期前の値を示す。
【0028】
ステップ10において、加速度制御用フィードバック補償器の演算を行う。この実施の形態では、実用的な線形制御手法の一つである、状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法を用いる。以下にその制御系設計手法を説明する。
【0029】
まず、制御系設計用のプラントモデルの導出を行う。この実施の形態では、実際の車両モデルに対して、上述したバンドパスフィルターモデルと、上述したエンジン運転点拘束条件に関する偏差積分モデル(状態変数Z)とを結合した拡大系モデルを制御系設計用プラントモデルとする。なお、エンジン運転点拘束条件に関する偏差積分モデルは、非線形マップを特定点で線形近似した次式を用いる。
【数8】
(8)式において、kaは図5に示すエンジン運転点拘束線マップの傾きである。
【0030】
拡大系のプラントモデルを、図7に示す状態ベクトルを用いたブロック線図で表し、連続時間系の状態方程式および出力方程式の形で次のように記述する。なお、上述したようにこの実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチの締結状態のみを考えるので、無段変速機3の入力トルクTpはエンジントルクTeに等しいとする。
【数9】
(9)式において、入力数2、出力数1、状態数6であり、Ap、Bp、Cp、Dpは定数行列である。また、Tp*は無段変速機3の入力トルク指令値、Ip*は無段変速機3の変速比指令値である。さらに、xf1、xf2は、数式1に示す二次式で表したバンドパスフィルターの内部状態変数ベクトルxfの要素である。
【0031】
目標加速度αw*に対する推定加速度αwfの望ましい応答性を示す規範モデルを一次遅れとし、その伝達関数、状態方程式および出力方程式を次のように表す。
【数10】
(10)式において、Tαwは時定数である。
【0032】
以上の拡大系プラントモデルと規範モデルに、状態フィードバック(状態空間法)によるモデルフォローイング制御手法を用いて加速度フィードバック制御系を構築した場合の制御ブロック図を図8に示す。なお、図8において太線はベクトルを表し、細線はスカラーを表す。
【0033】
このような加速度フィードバック補償器を構築することによって、規範モデル出力の加速度指令値αrefに推定加速度αwfが定常偏差なく追従する。また同時に、状態フィードバックによってすべての状態変数が安定化される。つまり、状態変数の一つである無段変速機3のプライマリープーリー(入力軸)の回転速度偏差積分値Zも安定化されるため、結果として無段変速機3のプライマリープーリーの目標回転速度ωp*に実回転速度ωpが定常偏差なく追従する。
【0034】
図8に示す状態フィードバックゲインK(定数行列)は、上述した拡大系プラントモデルと規範モデルをさらに結合した図9に示す結合モデルに対して、一般的な最適レギュレーター手法などを用いて求める。ただし、規範モデル出力の加速度指令値αrefと推定加速度αwfの偏差積分量をxiとする。
【数11】
【0035】
次に、実際の処理をマイクロコンピューターのソフトウエアで実行可能な差分方程式の形に表す。まず、規範モデルの演算は次の差分方程式により実行する。
【数12】
(12)式において、MAN0、MAN1、MAD1は上記(10)式をタスティン近似などで離散化して得られた定数である。次に、加速度の偏差積分演算は次の差分方程式により実行する。
【数13】
さらに、状態フィードバック演算は次式により実行する。
【数14】
ただし、状態フィードバックゲイン行列は、現在の運転領域に対応したKnewを用いる。また、上述したようにこの実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチが締結されている状態のみを考えるので、
【数15】
とする。
【0036】
ステップ11において、加速度制御用モデルフォローイング補償器で演算されたエンジントルク指令値Te*、変速比指令値Ip*に上下限リミッター処理を施し、エンジントルクコントローラー5およびCVT&クラッチコントローラー6で達成可能な値にそれぞれ制限し、最終的なエンジントルク指令値Te*および変速比指令値Ip*とする。続くステップ12では、エンジントルク指令値Te*をエンジントルクコントローラー5へ、変速比指令値Ip*をCVT&クラッチコントローラー6へそれぞれ高速通信線13を介して出力する。エンジントルクコントローラー5はエンジントルクTeが指令値Te*となるように制御し、CVT&クラッチコントローラー6は無段変速機3の変速比Ipが目標値Ip*となるように制御する。
【0037】
次に、上記一実施の形態の中の本願発明に係わる部分を整理して説明する。
【0038】
上述したように、従来の加減速度制御装置では線形制御理論に基づく線形コントローラーを、無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象に適用する際に、例えば図13に示すように、サーボコントローラーの内部状態量、すなわち規範モデルの出力ym(t)と制御対象の出力y(t)との偏差e(t)の積分値と無関係に、状態フィードバックゲインK1、K2、K3を制御途中で切り換えているので、ゲイン切り換え前後で操作量、すなわちコントローラーの出力u(t)が急変し、応答が乱れたりして制御性能が悪化するという問題がある。
【0039】
このような従来の加減速度制御装置の問題を解決するために、この実施の形態では、目標加速度と目標無段変速機入力軸回転速度(この実施の形態では、目標エンジン回転速度に等しい)を同時に達成するための無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置に対して、二つの操作量(コントローラーの出力値)、すなわちエンジントルク指令値Te*(=Tp*)および変速比指令値Ip*が、状態フィードバックゲインKの切り換え前後で連続的に変化するように、モデルフォローイングコントローラー内の2個の積分器の初期値、すなわち図8に示す規範モデル(4a)出力の加速度指令値αrefと制御対象プラント(4d)出力の加速度推定値αwfとの偏差を積分する第1の積分器(4b)の積分値xiの初期値xi_iniと、無段変速機入力軸の目標回転速度ωp*と回転速度検出値ωpとの偏差を積分する第2の積分器(4e)の積分値Zの初期値Ziniとを、状態フィードバックゲインKの切り換え時に設定する。
【0040】
「モデルフォローイング制御手法を用いた加速度制御」を行うために、ステップ10において、図6に示す運転領域に対応した状態フィードバックゲイン行列Knewを用いて、(14)式に示す状態フィードバック演算を行う。運転点が同一の運転領域にあり続ける場合は、同一のフィードバックゲイン行列が用いられて連続的な制御がなされるが、別の運転点へ移行する場合には、フィードバックゲイン行列がKoldからKnewへ切り換わるので、制御が不連続となって操作量の無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が急変しないようにしなければならない。
【0041】
一実施の形態では、ステップ8で運転領域の切り換えが判定された場合に、ステップ9で加速度フィードバック補償器の出力(操作量)、すなわち無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*がゲイン行列Kの切り換え前後で連続的に変化するように、補償器内の積分器の初期値、すなわち加速度偏差積分値xiと無段変速機入力軸回転速度偏差積分値Zの初期値を演算する。
【0042】
具体的には、次式を[Z(k),xi(k)]で解いた(7)式で算出する。
【数16】
【0043】
図10および図11に、一実施の形態の加減速度制御装置のシュミレーション結果を示す。なお、図10および図11の下部の数字は図6に示す運転領域番号を表す。また、この実施の形態ではトルクコンバーター2のロックアップクラッチ締結状態のみを想定しているので、無段変速機(CVT)3の入力トルク指令値Tp*はエンジントルク指令値Te*に等しい。
【0044】
図10は、状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定し直さなかった場合、つまり従来の加減速度制御装置の応答結果を示す。ゲイン切り換え前後で加速度フィードバック補償器出力の無段変速機3の入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が大きく急変し、加速度αwfやプライマリープーリー回転速度ωpの応答波形が大きく乱れている。
【0045】
一方、図11は、状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定した場合、つまり上述した一実施の形態の加減速度制御装置の応答結果を示す。ゲイン切り換え前後で加速度フィードバック補償器出力の無段変速機3の入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)および変速比指令値Ip*が急変することなく、連続的に推移し、加速度αwfやプライマリープーリー回転速度ωpの応答波形が乱れることなく、目標値によく追従している。
【0046】
このように、上述した一実施の形態では、目標加速度と目標無段変速機入力軸回転速度とを同時に達成するための無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置において、2つの操作量すなわち無段変速機入力トルク指令値Tp*(=エンジントルク指令値Te*)と変速比指令値Ip*とが、状態フィードバックゲインKの切り換え前後で連続的に変化するように、モデルフォローイングコントローラー内の規範モデル出力の加速度指令値αrefと制御対象出力の加速度推定値αwfとの偏差積分値xiの初期値xi_iniと、無段変速機入力軸の目標回転速度ωp*と回転速度検出値ωpとの偏差積分値Zの初期値Ziniとを、状態フィードバックゲインKの切り換え時に設定するようにした。これにより、状態フィードバックゲインの切り換え前後でも操作量Te*、Ip*が連続的に推移するので、フィードバック制御系の応答が乱れることがない。したがって、状態フィードバックゲインの切り換えを比較的自由にできるので、CVTなどの無段変速機を備えた車両のような非線形な制御対象であっても、広い運転領域において安定で応答が速い制御性能を実現することができる。
【0047】
また、上述した一実施の形態では、車輪速Vw(車速に相当)と無段変速機入力トルクTp(=エンジントルクTe)に基づいて状態フィードバックゲインKを切り換える。
【0048】
図12は、エンジン1と無段変速機3を含むパワートレインの非線形モデルを示す。図において、Tineはイナーシャトルク、Mは車両重量、Rはタイヤの有効半径、Ifはファイナルギア比、T1はエンジントルク系時定数、T2は変速比系時定数、J1はエンジン1から無段変速機3のプライマリープーリーまでのイナーシャである。
【0049】
図12に示す非線形車両モデルを、運転点(Tpo,Ipo,Vwo)で線形近似した簡易線形モデルを次式に示す。
【数17】
この簡易線形モデルは(9)式に示す制御系設計用モデルに利用される。
【0050】
車輪速Vwと無段変速機入力トルクTpは大きく値が変化するので、非線形車両モデルを線形近似した場合のモデル化誤差による影響が大きくならないように、上述した一実施の形態ではこれら2つの車両状態量Vw、Tpに基づいて線形補償器のゲイン切り換えを行う。
【0051】
さらに、(9)式に示す制御系設計用モデルには、(6)式に示すプライマリープーリー回転速度偏差積分モデルも包含している。つまり、図5に示すエンジン運転点拘束線マップの傾きka((8)式参照)を含んでいるので、最適効率運転線を用いる正トルク域と、エンジンブレーキ特性線を用いる負トルク域では、必ず傾きkaの符号が切り換わる。したがって、これに起因した線形モデル化誤差の影響は大きく、無段変速機入力トルクTpの符号に対応した状態フィードバックゲインKの切り換えが必須となる。
【0052】
このように、この一実施の形態によれば、車輪速Vwと無段変速機入力トルクTp(=エンジントルクTe)に基づいて状態フィードバックゲインKを切り換えるようにしたので、無段変速機を備えた車両などの非線形な制御対象であっても、広い車速域、広いトルク域において安定で応答が速い制御性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】 一実施の形態の加速度制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】 目標加減速度を設定するためのマップ例を示す図である。
【図4】 車輪速を入力とし加速度推定値を出力とする連続時間系の伝達関数を状態ベクトルにより表現したブロック図である。
【図5】 エンジン運転点拘束線マップを示す図である。
【図6】 車速と無段変速機入力トルクとに基づいて分割した運転領域例を示す図である。
【図7】 一実施の形態の制御系設計用拡大モデルを状態ベクトルにより表現したブロック図である。
【図8】 一実施の形態のモデルフォローイング制御手法を用いた加速度フィードバック制御系を示すブロック図である。
【図9】 拡大系プラントモデルと規範モデルを結合したモデルを示すブロック図である。
【図10】 状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定し直さなかった場合、つまり従来の加減速度制御装置の応答結果を示す図である。
【図11】 状態フィードバックゲイン切り換え時に加速度フィードバック補償器内の積分器初期値を設定した場合、つまり上述した一実施の形態の加減速度制御装置の応答結果を示す図である。
【図12】 非線形車両モデルを示す図である。
【図13】 従来のモデル追従型サーボコントローラーの構成を示す図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター
3 無段変速機
4 加減速度コントローラー
4a 規範モデル
4b 第1の積分器
4c 状態フィードバック
4d 制御対象のプラント
4e 第2の積分器
5 エンジントルクコントローラー
6 CVT&クラッチコントローラー
7 アクセルセンサー
8 車輪速センサー
9 クランク角センサー
11 プライマリー速度センサー
12 セカンダリー速度センサー
13 高速通信線
14 駆動輪
Claims (3)
- 車速を検出する車速検出手段と、
車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段と、
車両の目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、
状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための操作量を演算してエンジンと無段変速機を制御する制御手段であって、前記目標加速度を入力し加速度指令値を出力する規範モデル手段と、前記加速度指令値と前記加速度推定値との偏差を積分する積分手段と、前記積分手段の出力を用いて前記操作量を演算する状態フィードバック手段とを有する制御手段と、
状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で操作量が連続的に変化するように前記積分手段の初期値を設定する初期値設定手段とを備えることを特徴とする無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置。 - 車速を検出する車速検出手段と、
車速検出値に基づいて車両の加速度を推定する加速度推定手段と、
車両の目標加速度を設定する目標加速度設定手段と、
無段変速機入力軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
無段変速機入力軸の目標回転速度を設定する目標回転速度設定手段と、
状態空間法を用いたモデルフォローイング制御手法により加速度推定値を目標加速度に一致させるための無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値を演算してエンジンと無段変速機を制御する制御手段であって、前記目標加速度を入力し加速度指令値を出力する規範モデル手段と、前記加速度指令値と前記加速度推定値との偏差を積分する第1の積分手段と、無段変速機入力軸の目標回転速度と回転速度検出値との偏差を積分する第2の積分手段と、前記第1および第2の積分手段の出力を用いて前記無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値を演算する状態フィードバック手段とを有する制御手段と、
状態フィードバックゲインを切り換えるときに、切り換え前後で無段変速機入力トルク指令値と変速比指令値が連続的に変化するように前記第1および第2の積分手段の各初期値を設定する初期値設定手段とを備えることを特徴とする無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置。 - 請求項1または請求項2に記載の無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置において、
車速検出値と無段変速機入力トルクとに基づいて状態フィードバックゲインを切り換えることを特徴とする無段変速機を備えた車両の加減速度制御装置。
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