JP3831643B2 - 耐震補強構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造などの既存建物の耐震性能の向上を図る目的で用いられる耐震補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の耐震補強構造としては、既存建物の躯体の構面内において構築されるブレースや耐震壁からなる補強架構を既存建物にあと施工アンカーによって一体化させるものや、建物の内部で工事できない場合には、既存建物の躯体外側に接して構築される補強架構を建物にあと施工アンカーによって一体化させるものが知られている。
【0003】
ここで、補強架構とは、既存建物と一体化することで不足している既存建物の剛性や耐力を補い、耐震性能を向上させるもので、柱と梁からなるラーメン構造に、ブレースや壁などを組み合わせた架構が一般的である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような耐震補強構造では、あと施工アンカーにより地震力に抵抗する補強架構と既存建物とを一体化する必要があり、かかるアンカーの打ち込みによって発生する騒音や振動・粉塵などが使用中の建物における執務環境を非常に悪化させてしまうので、実質的には、使用中の建物への適用は相当に困難となっている。
【0005】
また、実際の施工で打設可能なアンカーの数や太さに制限があったり、既存躯体の内部の鉄筋が邪魔となって設計通りに打設できないことから、地震力を受けた場合には、補強架構及び既存建物の接合面でずれが発生し、両者の一体性が損なわれることも懸念される。このような接合面でのずれによるタイムラグが、既存建物の地震時応答を大きくしてしまい、耐震性能の向上効果が設計通り発揮されない場合も多いと考えられる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、使用中の既存建物への適用を促進するために、工事による建物内部の執務環境への影響を極力小さくし、補強効果も設計通り確実に得られる耐震補強構造を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明に係る耐震補強構造は、既存建物の躯体外側に接して構築される補強架構と、前記補強架構の軸組方向に配設される緊張材とからなり、前記緊張材に緊張力を導入することによって前記既存建物に前記補強架構の梁を圧着する耐震補強構造であって、前記既存建物に圧着される前記梁には、該梁に緊張力を導入する前記緊張材の両端が定着されていることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、補強架構を既存建物に緊張材を用いて一体化させることとしたので、従来のようにあと施工アンカー打設による騒音や振動・粉塵などが発生せず、工事による建物内部の執務環境への影響を極力小さくすることが可能となるとともに、導入する緊張力を大きくすることで終局でも補強架構及び既存建物の接合面でずれが発生せず、補強効果も設計通り確実に得られる耐震補強構造を提供することが可能となる。
【0009】
このような技術的手段において、前記補強架構としては、既存建物の躯体外側に接して構築されるものであれば、ラーメン架構やトラス架構等の構造形式の別や、耐力壁や鉄骨ブレース等の要素を含むか否かなどの別を問わない。
【0010】
ただし、圧着によって余計な曲げ応力が既存建物の柱に生じないようにするためには、前記補強架構は、梁及び緊張材の少なくともいずれか一方で前記既存建物の梁又はスラブの高さ位置を囲う構造を含むことが好ましい。
【0011】
ここでいう梁には、緊張材が配設されて既存建物に圧着されるもののみならず、そのような圧着作用を奏しない単なる構造部材であるものをも包含する。
【0012】
これらの場合において、前記補強架構は、前記既存建物の複数スパンごとに設けられる大型の柱を有する大型ラーメン架構で形成されるものとすれば、各スパンにおける様々な変位が累積されて増幅されるので、ブレースやダンパーの性能を十分に活用することができ、制震補強にも対応しやすくなる。
【0013】
一方、前記緊張材としては、前記補強架構の軸組方向に配設され、緊張力を導入することにより既存建物に該補強架構を圧着し得るものであれば十分であり、導入が必要な緊張力の大きさなどに対応して、例えばPC鋼材等の中からPC鋼棒、PC鋼線、PC鋼より線などを適宜選定して用いることができる。
【0014】
ここで、軸組方向とは、必ずしも緊張材が既存建物の外壁面と平行な方向に直線を形成しながら配設されている場合に限られず、緊張材が、該外壁面と平行ではない方向に直線を形成しながら配設されている場合であってもよく、又は、曲線を形成しながら配設されている場合であっても差し支えない。それゆえ、同じ補強架構において、既存建物の外壁面と平行な方向に直線を形成する緊張材と該外壁面と平行ではない方向に直線を形成する緊張材を併用する態様や直線を形成する緊張材と曲線を形成する緊張材を併用する態様もあり得る。
【0015】
また、前記緊張材としては、どのような方式により緊張力が導入されていてもよく、それゆえ、実際の施工が可能である限り、緊張後にグラウトして付着力を付与するボンド方式のみならず、アンボンド鋼材を利用しても差し支えない。
【0016】
ただし、ポストテンション方式を採用する場合において、補強架構の既存建物への圧着をさらに確実にしようとする観点からすれば、前記緊張材は、前記補強架構のうち既存建物に圧着しようとする部分において、中央部に近づく程外側を通り、両端部に近づく程内側を通るように湾曲して配設され、該部分の両端部にそれぞれ定着されることが好ましい。
【0017】
この場合、前記緊張材の前記両端部への定着方法は、使用しようとするPC鋼材等の種類や材料の性質などに対応して、適宜選定して採用することができる。
【0018】
なお、既存建物の水平構面が矩形ではなく凹凸があるような場合に十分な耐震性能の向上効果を得るには、既存建物の凹部に水平ブレースを入れて水平構面を調節することが必要となる。また、補強架構の構成部材としてプレキャストコンクリート材や鉄骨又は鋼管を用いる場合には、圧着力を既存躯体に伝達して一体性を確保するために、補強架構と既存建物の接合部に適宜グラウト材を充填することが必要となる。さらに、補強架構及び既存建物の一体化による地震時の層せん断力の増加分を既存建物の基礎構造が負担しきれない場合には、前記補強架構は、直下に設けられる基礎構造を含むことが必要となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
◎実施の形態1
図1は本発明の実施の形態1に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)、図2は該耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。
【0021】
なお、以下の説明では、既存建物及び補強架構として鉄筋コンクリート構造を採用するが、これ以外の構造形式を採用する場合についても妥当性を有するものである。
【0022】
この実施の形態1において、耐震補強構造は、これらの図に示すように、補強架構1と、シース2と、緊張材3とから構成されている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0023】
(1)補強架構1
補強架構1は、既存建物Kの躯体外側に接して構築されるものである。
【0024】
ここで、補強架構1としては、必要とされる耐震性能に対応して、正面側にあっては、図1(a)に示すように、後述する環構造11と、上部構造からの荷重を支え基礎構造に伝える大型の柱12と、地震力による補強架構1の変形を防ぐブレース13とからなる骨組を、また、背面側にあっては、図1(b)に示すように、環構造11と、大型の柱12とからなる骨組を、さらに、側面側にあっては、図1(c)に示すように、環構造11と、大型の柱12と、部分的に配設されるブレース13とからなる骨組を、それぞれ採用している。
【0025】
具体的には、この補強架構1は、図2に示すように、梁11aで既存建物Kの梁の高さ位置を囲う四角形の環構造11を含むものとして構成されている。
【0026】
なお、既存建物Kの水平構面が矩形ではなく凹凸がある形状を呈していることから、既存建物Kの凹部に水平ブレース11bを入れて水平構面を調節することとし、もって十分な耐震性能の向上効果を得ることとしている。
【0027】
このような環構造11を含む補強架構1に緊張力を導入して既存建物Kと一体化することにより、確実に耐震性能を向上させることが可能となっている。
【0028】
そして、このような補強架構1は、既存建物Kの複数スパンごとに設けられる大型の柱12を有する大型ラーメン架構で形成されている。これにより、各スパンの変位が累積されて増幅されるので、ブレースやダンパーの性能を十分に活用することができ、制震補強にも対応可能となっている。
【0029】
なお、このような補強架構1及び既存建物Kを一体化した上部構造を採用する場合には、補強架構1の付加に伴う地震時の層せん断力の増加分を既存建物Kが本来的に有している基礎構造14が負担することとなるが、一般的には、補強架構1も含めた上部構造の全体を支える程の余裕はない。
【0030】
そこで、この実施の形態1においては、補強架構1は、図1に示すように、直下に設けられる基礎構造14を含むものとして構成されている。
【0031】
(2)シース2
シース2は、図2に示すように、補強架構1のうち既存建物Kに圧着しようとする梁11aにおいて、軸組方向に配設されるものであり、中央部に近づく程外側を通り、両端部に近づく程内側を通るように湾曲しているものである。
【0032】
なお、この実施の形態1においては、PC鋼より線及びコンクリートの間における付着力の確保の観点から、緊張材3を梁11aの両端部にそれぞれ定着した後、シース2の内部にグラウトを注入することとしている。
【0033】
(3)緊張材3
緊張材3は、図2に示すように、補強架構1のうち既存建物Kに圧着しようとする梁11aにおいて、軸組方向に配設されるものであり、中央部に近づく程外側を通り、両端部に近づく程内側を通るように湾曲しているものである。
【0034】
具体的には、この緊張材3は、シース2を通され緊張状態とされて梁11aの両端部にそれぞれ定着され、終局時でも一体性を確保できるように必要な緊張力を導入し、補強架構1aを既存建物Kに圧着する役割を果たす。
【0035】
この実施の形態1における緊張材3としては、PC鋼より線を用いている。これにより、梁11aにおいてシース2が描く曲線に容易に対応することが可能となっている。また、定着方法としては、油圧ジャッキで緊張状態におかれたPC鋼より線の両端部を鋼製のくさびで定着する方法を採用している。
【0036】
すなわち、補強架構1を既存建物Kにあと施工アンカーを用いないで緊張材3を用いて一体化させて既存建物Kの剛性や耐力を改善することができる。
【0037】
それゆえ、施工時に発生する騒音や振動・粉塵などを最小限に抑え、工事による既存建物K内部の執務環境への影響を極力小さくすることが可能となる。
【0038】
一方、終局時においても一体化が確保されるように、補強架構1が既存建物Kに圧着されるので、補強架構1及び既存建物Kの接合面でのずれによって履歴エネルギー吸収が低下し、既存建物Kの応答が大きくなるような事態を回避することができる。また、小さい変位領域においても、ブレースやダンパーが所定の性能を発揮できるので、確実な補強効果が得られる。
【0039】
◎実施の形態2
図3は本発明の実施の形態2に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)、図4は該耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。なお、実施の形態1と同様な構成要素については実施の形態1と同様な符号を付してここではその詳細な説明を省略する。
【0040】
この実施の形態2に係る耐震補強構造の基本的な構成は、これらの図に示すように、実施の形態1と略同様であるが、既存建物Kの梁又はスラブの高さ位置を囲う四角形の環構造11が、梁11aのみからなるものではなく、梁11a及び緊張材11cからなるものとして構成されている。ここで、緊張材11cは、緊張状態とされて両側に隣接する梁11aの端部にそれぞれ定着されている。
【0041】
一方、この場合においても、補強架構1を既存建物Kにアンカーを用いないで緊張材3を用いて一体化させることができる。それゆえ、工事による既存建物K内部の執務環境への影響を極力小さくでき、補強効果も設計通り確実に得られる点においては、実施の形態1と異なるところがない。
【0042】
したがって、実施の形態1と略同様な効果が得られることに加えて、補強架構1が既存建物Kの四周全面に必要とされない場合においても、使用中の既存建物Kへの適用が可能となっている。
【0043】
◎実施の形態3
図5は本発明の実施の形態3に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)、図6は該耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。なお、実施の形態1と同様な構成要素については実施の形態1と同様な符号を付してここではその詳細な説明を省略する。
【0044】
この実施の形態3に係る耐震補強構造の基本的な構成は、これらの図に示すように、実施の形態1と略同様であるが、既存建物Kの梁又はスラブの高さ位置を囲う四角形の環構造11が、梁11aのみからなるものではなく、梁11a及び変形梁11dからなるものとして構成されている。ここで、変形梁11dは、中央に外側に突出する突出部を備えるものである。
【0045】
そして、シース2及び緊張材3は、図6に示すように、補強架構1のうち既存建物Kに圧着しようとする変形梁11dの部分において、軸組方向に配設されるが、変形梁11dの突出部に近づく程外側を通り、端部に近づく程内側を通る直線を形成し、緊張材3は、シース2を通され緊張状態とされて変形梁11dの端部と変形梁11dの突出部にそれぞれ定着されている。
【0046】
一方、このような実施の形態3においても、補強架構1を既存建物Kにあと施工アンカーを用いないで緊張材3を用いて一体化させることが可能となっており、したがって、実施の形態1と略同様な効果が得られることとなる。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、あと施工アンカーを用いずに補強架構と既存建物を一体化できるので、工事による建物内部の執務環境への影響を極力小さくし、補強効果も設計通り確実に得られる耐震補強構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る耐震補強構造の全体構成を示す図((a)は正面図、(b)は背面図、(c)は側面図)である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る耐震補強構造の部分構成を示す平断面図である。
【符号の説明】
1…補強架構
2…シース
3…緊張材
11…環構造
11a…梁
11b…水平ブレース
11c…緊張材
11d…変形梁
12…大型の柱
13…ブレース
14…基礎構造
K…既存建物

Claims (3)

  1. 既存建物の躯体外側に接して構築される補強架構と、
    前記補強架構の軸組方向に配設される緊張材とからなり、
    前記緊張材に緊張力を導入することによって前記既存建物に前記補強架構の梁を圧着する耐震補強構造であって、
    前記既存建物に圧着される前記梁には、該梁に緊張力を導入する前記緊張材の両端が定着されていることを特徴とする、
    耐震補強構造。
  2. 前記緊張材は、前記既存建物の外壁面とは平行ではない方向に直線を形成しながら配設されていることを特徴とする、
    請求項1に記載の耐震補強構造。
  3. 前記緊張材は、前記梁において中央部に近づく程外側を通り、両端部に近づく程内側を通るように湾曲して配設されることを特徴とする、
    請求項1に記載の耐震補強構造。
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