JP3830315B2 - 圧電磁器組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばセラミックフィルタ、超音波応用振動子、圧電ブザー、圧電点火ユニット、超音波モータ、圧電ファン、および、加速度センサ、ノッキングセンサ、AEセンサなどで、特に圧電アクチュエータに適する圧電磁器を作製するための組成物に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、インクジェクター用プリンターヘッドや車載用の燃料噴射弁等の高速連続駆動が要求される用途に対して圧電アクチュエータの応用が広がりつつある。この圧電アクチュエータは、圧電体に電圧を印可して圧電体が歪む逆圧電効果を利用するものであり、圧電歪定数の大きな圧電磁器が要求されている。
【0003】
圧電アクチュエータの誘電率はキュリー温度付近で爆発的に増大し、その結果、駆動時の応答速度が極度に低下する。特に、燃料噴射弁に圧電アクチュエータを使用する場合、高い雰囲気温度に加えて、連続駆動による自己発熱が加わり、アクチュエータが200℃程度の高温に曝される危険性があり、キュリー温度付近の急激な誘電率上昇を避ける為に、圧電磁器はこれまで以上に高いキュリー温度が求められている。
【0004】
さらに、圧電アクチュエータの小型化、低電圧駆動を可能ならしめるためには、薄層磁器と内部電極との同時焼成をすることが容易に考えられるが、焼成温度を1000℃以下に低下させることによって、鉛の飛散を抑えることによる特性の安定化を図ることができる。また、1000℃以下の焼成温度にすると鉛の大気中への飛散が大幅に削減でき、環境汚染の観点でも好ましい。しかし、1000℃以下で焼成すると、磁器の緻密化が十分進まず、圧電特性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、キュリー温度を高く維持するとともに、圧電歪定数を大きくするために、従来からPb( Zr,Ti)O3 (PZT、ジルコン酸チタン酸鉛)にキュリー温度が140℃と比較的高い複合ペロブスカイト化合物Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 を固溶させることによって優れた圧電特性と高いキュリー温度とを有する圧電材料が開示されている。
【0006】
例えば、PbZrO3 −PbTiO3 (ジルコン酸チタン酸鉛)に複合ペロブスカイト化合物Pb(Zn1/3 Nb2/3 )を固溶させ、Pbサイトの一部をLa等の希土類元素やアルカリ土類元素で置換することによって200℃程度の比較的高いキュリー温度と大きな圧電歪定数を合わせ持つ組成物が開示されている(特開平6−24841号公報)。
【0007】
一方、焼結温度を低下させた材料として、Pb(Zr,Ti)O3 −Pb(Mn1/3 Sb2/3 )O3 −Pb(Zn1/3 Nb2/3 ) O3 系圧電磁器材料が、特開平9−194258号公報に開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平6−24841号公報で開示されているPb(Zn1/3 Nb2/3 ) O3 を固溶させたジルコン酸チタン酸鉛では、大きな圧電歪定数を有しているがキュリー温度は、最大210℃と燃料噴射弁用の圧電アクチュエータとしては不十分あった。さらに、この組成では1000℃以下の焼成で密度が低くなり特性がさらに悪化するという問題があった。
【0009】
また、特開平9−194258号公報の圧電磁器材料は、1000℃以下での低温焼成を可能とした上でキュリー温度も最大300℃程度と非常に優れた特性を有しているものの、キュリー温度が250℃以上になると圧電歪定数が400ppm/V以下となり大きな歪みを確保することができなかった。
【0010】
このように、圧電歪定数の大きな材料は、キュリー温度が低下してしまう傾向があり、そのため応答性が極端に悪化して実用上問題となり、低温焼成の可能な組成で、かつ高い圧電歪定数とキュリー温度を実現した圧電磁器を実現することは困難であった。
【0011】
したがって、本発明では、キュリー温度および圧電歪定数が優れていることに加え、1000℃以下の焼結温度が可能な圧電磁器組成物を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の圧電磁器組成物は、Pb( Zr,Ti)O3 からなる主成分に対して、副成分としてPb(Yb1/2 Nb1/2 )O3 と、Pb( Co1/3 Nb2/3 ) O3 と、Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 、Pb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 の少なくとも1種とが固溶してなるABO3 型ペロブスカイト型複合酸化物からなることを特徴とする。
【0013】
このように、主成分のPb( Zr,Ti)O3 に、少なくとも3種類のABO3 型ペロブスカイト型複合酸化物を固溶させることにより、キュリー温度を高く維持しつつ圧電歪定数を大きくできるとともに、焼成温度を1000℃以下にできるため、電極との同時焼成を可能にし、環境の鉛汚染を低減することができる。その結果、応答速度の温度変化を小さくでき、安定して特性が得られる。
【0014】
また、副成分の含有量を全量中10〜20モル%とすることが、さらに圧電歪定数とキュリー温度を向上させるので好ましい。
【0015】
さらに、Aサイト中にアルカリ土類元素および/または希土類元素を8モル%以下の割合で含有させることが、圧電歪定数を向上させるうえで好ましい。
【0016】
また、Bサイト中にさらにNbを1モル%以下の割合で含有させることが、圧電歪定数を向上させるうえで好ましい。
【0017】
さらに、副成分であるPb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 および/またはPb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 の少なくとも一部をPb(Fe2/3 W1/3 )O3 で置換することが、圧電磁器の圧電歪定数を維持したまま、さらに焼成温度を低下させることができるので、好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の圧電磁器組成物は、ABO3型ペロブスカイト型複合酸化物で広く用いられているPb(Zr,Ti)O3(以下、PZTと記する場合もある。)を主成分とすることによって、キュリー温度を高く維持することができる。しかし、PZTは、1000℃以下の温度では焼成できず、また、圧電歪定数が小さい。
【0019】
これに対し、本発明に従い、Pb(Zr,Ti)O3にPb(Yb1/2Nb1/2)O3およびPb(Co1/3Nb2/3)O3を固溶させることにより、焼成温度温度の低温化が可能となる。また、合わせてPb(Zn1/3Nb2/3)O3、Pb(Zn1/3Sb2/3)O3の少なくとも1種を添加することにより、1000℃以下の温度で焼成が可能となり、圧電歪定数を高めることができる。
【0020】
副成分を個々に添加しても、キュリー温度、圧電歪定数および焼成温度を十分に改善できないが、上記のように少なくとも特定の3種のABO3型ペロブスカイト型複合酸化物を固溶させることにより、これらの特性を同時に改善することができる。なお、Pb(Zr,Ti)O3は、PbZrO3とPbTiO3との固溶体であり、PbZrO3は45乃至50モル%、PbTiO3は50乃至55モル%であることが望ましい。
【0021】
したがって、PZTをベースとし、Bサイトの一部を(Yb1/2Nb1/2)と、(Co1/3Nb2/3)と、(Zn1/3Nb2/3)、(Zn1/3Sb2/3)のうち少なくとも1種で置換することで、高いキュリー温度で、大きな圧電歪定数を有し、低い焼成温度が実現できる。
【0022】
特に、上記副成分の含有量が、全量中10モル%未満では圧電歪定数向上の効果が顕著ではなく、20モル%以上より多いとPZTの割合が少なくなり、PZT自体の有する高いキュリー温度が低下してしまう恐れがある。したがって、副成分の含有量を、全量中10〜20モル%とすることにより、高いキュリー温度と大きな圧電歪定数を同時に達成することができる。
【0023】
なお、Pb(Yb1/2 Nb1/2 )O3 は3〜8モル%、Pb( Co1/3 Nb2/3 ) O3 は3〜6モル%、Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 またはPb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 は3〜9モル%が好適である。
【0024】
さらに、Aサイト中にCa、Sr、Baなどのアルカリ土類元素および/またはY、La、Ce、Nd、Sm、Er、Yb、Luなどの希土類元素を8モル%以下の割合で含有させると、さらに圧電歪定数を高めることができる。すなわち、d33を33方向の圧電歪定数、K33を33方向の電気機械結合係数、ε33 T を33方向の誘電率、S33 E をコンプライアンスとした時に、圧電歪定数は、d33=K33(ε33 T ・S33 E )1/2 で表されるため、Aサイト中にアルカリ土類元素および/または希土類元素を8モル%以下の割合で含有させると、ε33を高める効果が大きいため、その結果d33を大きくすることができる。しかし、Aサイト中にアルカリ土類元素および/または希土類元素を、8モル%を越える割合で含有させると、高いキュリー温度が得られなくなってしまう。
【0025】
さらにまた、Bサイト中にさらにNbを1モル%以下の割合で含有させると、K33を大きくし、その結果d33を大きくすることができる。しかし、Bサイト中にNbを1モル%を超える割合で含有させるとその効果が低下し、大きなK33が得られない。
【0026】
また、副成分であるPb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 および/またはPb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 の少なくとも一部をPb(Zn1/2 W1/2 )O3 で置換すると、ε33を高めるとともに、焼成温度を低下させる効果が著しくなる。
【0027】
なお、副成分についてはPb(Yb1/2 Nb1/2 )O3 、Pb( Co1/3 Nb2/3 ) O3 、Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 、Pb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 またはPb(Fe1/3 W1/2 )O3 以外のPb系ABO3 型ペロブスカイト型複合酸化物を固溶しても良いが、6モル%以下であれば特に問題はない。
【0028】
特に、本発明の圧電磁器組成物によれば、全体組成として、Pba-x Bax (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Nb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-yO3 で表わした時、前記a、b、c、d、e、xおよびyが、0.995≦a≦1.005、0.03≦b≦0.08、0.03≦c≦0.09、0.08≦b+c≦0.15、0.03≦d≦0.06、0.10≦b+c+d≦0.2、0.45≦e≦0.5、x≦0.08、y≦0.01を満たすことで、1000℃以下の低い焼成温度が可能となり、かつキュリー温度と圧電歪定数を顕著に高めることができる。
【0029】
本発明の圧電磁器組成物は以下のように製造することができる。原料粉末として、例えばPb3 O4 、ZrO2 、TiO2 、BaCO3 、ZnO、Nb2 O5 、Yb2 O3 、Sb2 O3 およびCo3 O4 の各原料粉末を所定量秤量し、ボールミル等で10〜24時間湿式混合し、次いで、この混合物を脱水、乾燥した後、700〜900℃で2〜3時間仮焼して得られた仮焼物を再びボールミル等で湿式粉砕した後、この粉砕物に有機バインダーを混合し、造粒して得られる。得られた粉末を所定の圧力でプレス成形を行い脱バイ、焼成することにより得られる。
【0030】
本発明の圧電磁器組成物は径方向の電気機械結合係数Kr も大きくすることができるため、フィルターや圧電ブザーなどにも使用することができる。
【0031】
なお、本発明における圧電組成物はABO3 で表わされるペロブスカイト型結晶を主結晶相とするものであるが、他の結晶相としてパイロクロア相等が少々存在していてもよい。また、Al、S、Cl、Eu、Y、K、P、Cu、Mg、Si等が不可避不純物として混入する場合もあるが、特性上は何ら問題はない。
【0032】
【実施例】
実施例1
原料粉末として高純度のPb3 O4 、ZrO2 、TiO2 、BaCO3 、ZnO、Nb2 O5 、Yb2 O3 およびCo3 O4 の各原料粉末を所定量秤量し、ボールミル等で18時間湿式で混合し、次いで、この混合物を脱水、乾燥した後で、700〜900℃で2時間仮焼し、当該仮焼物を再びボールミル等で湿式粉砕する。
【0033】
その後、この粉砕物に有機バインダーを混合し、造粒した。得られた粉末を1.5ton/cm2 の圧力で円柱形状となるようにプレス成形を行い、1000℃で焼成を3時間行った。純粋なPZTは、1000℃では通常焼結せず、相対密度が75%と低く使用できるものは得られなかった。しかし、本発明の圧電磁器組成物の焼結体は1000℃の焼成温度にもかかわらず、すべて99%以上の相対密度を有しており、緻密であることがわかった。
【0034】
圧電歪定数の評価試料は直径3mm、長さ5mmの円柱状となるよう焼結体を研磨加工を行い、両面にそれぞれ銀電極を焼き付け、80℃のシリコンオイル中で1.5kV/mmの直流電界を印加することで分極処理を行い、分極処理された円柱状試料を24時間放置した。このようにして得られた磁器について電子材料工業会の規格に基づきd33の評価を行った。
【0035】
また、キュリー温度(Tc )の算出は、静電容量の温度依存性をマルチメーターで測定し、最大値を示す温度をキュリー温度とした。
【0036】
これらの結果を表1に示した。なお、表1中のx,y,a,b,c,dおよびeは、Pba-x Bax (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Nb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-yO3 で表わした組成式で与えられる原子比を百分率換算したものである。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明の試料No.1〜21、26および27は、いずれも焼成温度1000℃で緻密な焼結体が得られ、d33が400pm/V以上、Tc が250℃以上と大きな値が得られた。
【0039】
一方、Pb(Yb1/2 Nb1/2 )O3 の添加していない試料No.22はd33が530pm/Vと高いものの、Tc が200℃と低かった。また、Pb(Co1/3 Nb2/3 )O3 とPb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 との添加してない試料No.23,Pb( Co1/3 Nb2/3 ) O3 の添加していない試料No.24、およびPb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 の添加していない試料No.25はいずれも、d33が400pm/V未満と小さな値となった。
【0040】
実施例2
Pba-x Srx (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Sb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-yO3 で表わした組成式になるように、実施例1と同様に試料を作製した。ただし、BaCO3 の代わりにSrCO3 を用い、またSb2 O3 を新規に加えて原料を作製し、SrをAサイトに置換した試料を作製した。測定法も実施例1と同様に行った。これらの結果を表2に示した。なお、表2中のx,y,a,b,c,dおよびeは、Pba-x Srx (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Nb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-yO3 で表わした組成式で与えられる原子比を百分率換算したものである。
【0041】
【表2】
【0042】
SrをAサイトに置換した本発明の試料No.28〜33は、いずれもd33が400pm/V以上、Tc が250℃以上と大きな値が得られた。
【0043】
実施例3
Pba-x Lax (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Nb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d ( Fe2/3 W1/3 ) f Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-f-yO3 で表わした組成式になるように、実施例1と同様に試料を作製した。ただし、BaCO3 の代わりにLa2 O3 を用い、新たにFe2 O3 とWO3 を加えてて原料を作成し、SrをAサイトに置換した試料を作製した。測定法も実施例1と同様に行った。これらの結果を表3に示した。表3中のx,y,a,b,c,d,eおよびfは、Pba-x Lax (Yb1/2 Nb1/2 )b ( Zn1/3 Nb2/3 ) c ( Co1/3 Nb2/3 ) d ( Fe2/3 W1/3 ) f Nby (Zre Ti1-e )1-b-c-d-f-yO3 で表わした組成式で与えられる原子比を百分率換算したものである。
【0044】
【表3】
【0045】
LaをAサイト置換した本発明の試料No.34とおよび( Fe2/3 W1/3 ) f Nbを3モル%添加した本発明の試料No.35とは、いずれもいずれもd33が400pm/V以上、Tc が250℃以上と大きな値が得られた。
【0046】
【発明の効果】
PZTをベースに種々のペロブスカイト型複合酸化物を加えることによって1000℃以下の低温の焼成できるとともに、かつ高いキュリー温度と大きな圧電歪定数を併せ持つ圧電磁器組成物を提供することができる。
Claims (5)
- Pb( Zr,Ti)O3 からなる主成分に対して、副成分としてPb(Yb1/2 Nb1/2 )O3 と、Pb( Co1/3 Nb2/3 ) O3 と、Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 、Pb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 の少なくとも1種とが固溶してなるABO3 型ペロブスカイト型複合酸化物からなることを特徴とする圧電磁器組成物。
- 副成分の含有量を、全量中10〜20モル%とすることを特徴とする請求項1記載の圧電磁器組成物。
- Aサイト中にアルカリ土類元素および/または希土類元素を、8モル%以下の割合で含有してなることを特徴とする請求項1または2記載の圧電磁器組成物。
- Bサイト中にさらにNbを1モル%以下の割合で含有してなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧電磁器組成物。
- 副成分であるPb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 および/またはPb(Zn1/3 Sb2/3 )O3 の少なくとも一部をPb(Fe2/3 W1/3 )O3 で置換したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の圧電磁器組成物。
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