JP3826826B2 - 紙糸用原紙 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、紙糸用原紙に関し、さらに詳しくは乾燥強度、湿潤強度、アルカリ強度に優れ、染色性の良好な紙糸が得られる紙糸用原紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、和紙を細長い短冊状に切り、撚って紙糸にして、得られた紙糸を製織した紙布は、古くは鎌倉時代より紙衣として使用されている。しかし、紙糸の製造に想像以上に手間がかかるため、一般に普及することはなかった。こうぞ、みつまた等の原料を使用した機械漉和紙製の紙糸が、約20年程前から製造されている。しかし、この紙糸は、伸びがなく、織機で紙糸を製織する際に糸切れが頻繁におこるため、手織りでないと製織するのは困難である。また、手織りで得られた紙布は、洗濯時の耐水性が悪く、数回洗濯すると破れてしまうという問題点があり、広く普及するには至っていなかった。
【0003】
また、特開平8−60473号公報には耐水性を改善した紙糸およびそれを用いた編織物が開示されているが、針葉樹から得られるパルプを使用しているため、強度、特にアルカリ強度が弱いので染料に制限があり、その編織物も強度、伸縮性ですべての編織物に加工可能までには至っていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の解決しようとする課題は、強度、特にアルカリ強度が高く、水分の吸排出性および耐洗濯性に優れ、毛羽立ちが生じにくく、肌触りが良く、しかも、機械織りおよび機械編み可能で、断熱性が高く、染色性に優れる紙糸が得られる、紙糸用原紙を提供することである。
【0005】
本発明者らは、強度、特にアルカリ強度が高く、染色性に優れた紙糸用原紙につき、鋭意種々、検討を重ねた結果、原料にアスペクト比が150以上からなる天然繊維を配合し、紙の縦横比を7以上にすること、紙料に耐水剤やカルボキシメチル化グアーガムを内添、または、且つ外添することにより、本課題を解決するに至ったのである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)アスペクト比が150以上であるマニラ麻を原料としたパルプを、JIS P 8113に準じて測定された引張り強度の縦横比が7以上となるように傾斜ワイヤー型抄紙機を用いて抄紙し、耐水剤の含有量が、1平方メートル当たり、0.015〜1.0g/m 2 であって、湿潤裂断長が 7 km以上であることを特徴とする紙糸用原紙。
(2)耐水剤とカルボキシメチル化グアーガムを含有する(1)に記載の紙糸用原紙。
(3)前記紙糸用原紙を2mm巾にスリット加工して450回撚糸したときの糸のJIS L 1095.5に準じて測定された強度が1.2g/D以上である(1)〜(2)のいずれかに記載の紙糸用原紙。
【0007】
本発明者らは、細くテープ状にスリットし、撚って糸にするという紙糸用原紙の加工方法及び、糸としての強度や染色性、毛羽立ちが少ない方が良いという紙糸の要求品質からから、紙糸用原料パルプのアスペクト比、即ち、繊維巾に対する繊維長の比率(繊維長÷繊維巾)、及び紙の縦横比に注目し、鋭意研究を重ねた結果、150以上のアスペクト比を有するマニラ麻を原料としたパルプを使用し、且つ、傾斜ワイヤー型抄紙機を用いて抄紙して、紙のJIS P 8113に準じて測定された引張り強度の縦横比を7以上とすることで、極めて優れた縦強度を有する紙糸用原紙が製造できることを見出すに至った。
【0008】
製紙用原料として、広く用いられている材料は、広葉樹、針葉樹に大別される木材原料である。樹種により、多少のバラツキがあるが、木材パルプ由来のクラフトパルプやサルファイトパルプ等、化学パルプのアスペクト比は、通常、広葉樹由来で40程度、針葉樹由来で70程度である。
【0009】
本発明の繊維のアスペクト比は、繊維巾に対する繊維長の比率(繊維長÷繊維巾)にて算出できるが、繊維長については、カヤニ繊維長測定器にて測定した長さ加重平均繊維長を使用した。また、繊維巾については、繊維を接着剤のアロンアルファ(商標:東亜合成社製)で固めた後剃刀で切断し、切断面をレーザー顕微鏡で観察し、写真から実測し求めた(100本の平均値)を使用した。
【0010】
アスペクト比が150以上となる天然繊維としては、麻パルプが上げられる。麻にはタイマ(大麻)、チョマ(苧麻、カラムシ)、ボウマ(騒麻、イチビ)、コウマ(黄麻、ジュード、ツナソ)、アマ(亜麻)、ケナフ(洋麻)、マニラ麻、サイザル麻などがあるが、特にマニラ麻は、アスペクト比が大きいため望ましく、本発明においてはこれを使用する。
【0011】
アスペクト比の上限については実際の抄紙を考えると300以下が好ましい。300を超えるような繊維は抄造に問題がなければ、紙糸用原料としては優れているが、実際は、抄紙時に扱いにくく、除塵装置や原料送りポンプでヨレ易いため、紙に原料塊が混入しやすく、欠陥を生じやすくなるため好ましくない。
【0012】
また、アスペクト比が150以上であるマニラ麻を原料としたパルプの配合率は全パルプ中100質量%である。100%質量未満であると得られる原紙は縦強度が不十分であるため、紙糸にしたときも十分な強度が発現せず好ましくない。
【0014】
紙糸用原料パルプはカナディアンスタンダードフリーネス(CSF)が300mLから680mLに叩解することが好ましい。CSFが300mLを下回るまで叩解を進めると、微細な繊維が増えるため、引張強さの低下や通気性、水の吸放出性に影響を及ぼす。また、ワイヤー上での脱水性や乾燥性が悪化するため、操業上も好ましくない。逆にCSFが680mLを越えると、十分な引張強さが発現しなく好ましくない。
【0015】
本発明にて得られる紙糸用原紙のJIS P 8135に準じて測定される引張り強度の縦横比は7以上である。縦横比が7を下回ると、テープに加工する際、加工性が低下したり、断紙が生じやすくなったり、スリットの刃の磨耗が早くなったりし、望ましくない。また、紙糸に加工した場合、十分な強度が得られないため、その用途に制限を受けることとなり、望ましくない。また、縦横比が、15以上となると、抄紙機のインレット濃度が濃くなることで紙の地合が悪化したり、また、紙の巻返しや加工の際、縦割れが等のトラブルが発生し望ましくない。
【0016】
一般的な、長網抄紙機やギャップフォーマーを用いて、紙の縦横比が7以上の紙を抄紙するのは、良好な地合が得られず、きわめて困難である。本発明にて得られる乾燥強度の縦横比が7以上の紙糸用原紙は、傾斜型抄紙機にて製造することが、良好な地合が得られるため望ましい。
【0017】
本発明の紙糸用原紙の湿潤裂断長は7km以上である。本発明でいう湿潤裂断長は浸漬時間を1分間とする以外は、JIS P 8135に準じて湿潤引張強さを測定し、その強度(kgf)を測定試験片巾(15mm)で除し、さらに調湿坪量(g/m2)で除し、さらには1000倍にした数値をkmで表す。湿潤裂断長さで7km以上であるものは撚糸された後の染色などの加工工程での強度に優れる。また糸及び織物にした時に耐洗濯性に優れるため好ましい。
【0018】
本発名で使用する耐水剤としては、特に限定はなく、例えば、尿素ホルマリン樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂アクリル酸エステル、メラミン樹脂、ポリアミド−アミンエピクロロヒドリン、ジアルデヒドスターチ、ポリエチレンイミン等が使用可能で、グリオキサル、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール、デンプン、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等の紙力増強剤を併用しても構わない。
【0019】
また、本発明では耐水剤にさらにカルボキシメチル化グアーガムを含有させることが好ましい。本発明で使用するカルボキシメチル化グアーガムはカチオン性の紙力増強剤、耐水剤と併用すると、湿潤強度が向上し、さらには、優れたアルカリ強度が得られるため、より望ましい。これらの耐水剤、紙力増強剤、カルボキシメチルグアーガムの添加方法に、特に限定はなく、例えば、水中に分散させた状態のパルプに湿潤紙力増強剤を含む耐水剤を添加してから抄紙する方法、湿潤紙力増強剤を含む耐水剤を既にパルプを抄紙して得られた紙に含浸させたり、塗工機で塗布する方法が挙げられる。なお、含浸させたり、塗工機で塗布する方法については、既にテープになっている紙に適用してもよい。
【0020】
耐水剤の使用量については、パルプから得られる紙1平方メートル当たり、0.015〜1.0g含有させる。耐水剤の含有量が0.015g/m2未満であると、十分に紙糸に耐水性・耐洗濯性を付与することはできず、毛羽立ちが生じ、紙糸を機械織りまたは機械編みするのが困難となる。耐水剤の含有量が1.0g/m2を超えると、得られる紙が硬くなり、耐水剤の使用量に応じた耐水性向上の効果は得られなくなる。
【0021】
本発明では紙の坪量は、特に限定はないが、得られる紙糸の強度を保持し、機械による編織作業を容易にするためには、8〜40g/m2の範囲にある薄い紙が好ましい。8g/m2未満であると紙糸が弱く糸切れし易くなり、40g/m2を超えると紙糸が硬くなり取扱いにくくなる。
【0022】
本発明で得られる紙糸用原紙は、紙糸に加工するために、まず、テープ状に加工される。テープ状に加工する方法については、特に限定はないが、一例を挙げると、本発明から得られた紙を、所望のテープ幅にセットした複数の回転刃からなるスリッターを使用して、紙の流れ方向にスリット加工し、テープ状に加工し、取扱の容易なロール状に巻き取ることができる。
続いて、紙紐製造機等を使用し紙テープを撚ることで紙糸にすることができる。
【0023】
本発明の撚糸紙糸用原紙を2mm巾にスリット加工して450回撚糸したときの糸のJIS L 1095.5に準じて測定された強度が1.2g/D以上である。1.2g/D以上の強度を持つ糸であれば強度が強いため、編織物にした場合、油絵のキャンバス、床ずれ防止シーツ、浴衣の帯、自動車のシートカバーに使用可能である。更にい草よりも数倍強度が高いため、ゴザおよび畳の表材としても最適である。この紙糸で編んだものは、セーター、カーディガン、カーテン等だけでなく下着、靴下、さらには強度が必要なジーンズなどにも使用できる。
【0024】
また、本発明の紙糸用原紙を使用して得られる紙糸は、通常の糸の染色と同様の方法で、紙糸の状態で任意の色に染色することができる。使用される染料は化学染料、藍のような天然染料、紅花、くちなし等の天然色素のいずれも使用することができる。本発明から得られる紙糸用原紙から製造された紙糸は、アルカリ処理も可能で、染色性がよく、様々な色に染めることが可能である。本発明により得られた紙糸用原紙は、特に縦方向に優れた乾燥強度、湿潤強度、アルカリ強度が得られ、結果として、撚糸した場合、得られる紙糸は、湿潤時、乾燥時のいずれの状態にあっても優れた強度を有し、強靱で、耐水性・耐洗濯性に優れ、毛羽立ちが生じにくく、機械織りおよび機械編み可能な紙糸が得られる。
【0025】
【実施例】
以下に、本発明の具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されない。
実施例1
エクアドル産マニラ麻を原料としたサルファイト蒸解パルプ(アスペクト比205)をパルプ濃度2質量%にてダブルディスクリファイナーで叩解し、フリーネス640mLCSFの原料を得た。続いて、ブレンダーにて攪拌しながら、絶乾パルプ重量に対し、湿潤強度剤(WS−547 日本PMC社製、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂)1.5質量%添加し、白水で希釈後、ファンポンプにて粘剤(PF 住友精化製)を0.5質量%添加し、傾斜ワイヤー型抄紙機にてJ/W比0.5で抄紙し坪量22g/m2のシートを得た。
【0027】
実施例2
ブレンダーにて、湿潤強度剤に加え、絶乾パルプ重量に対し、硫酸バンド1.0質量%、カルボキシメチル化グアーガム(メイプロイド−870 三晶社製)1.5質量%添加すること以外は実施例1と同様にして、坪量22g/m2のシートを得た。
【0028】
比較例1
J/W比0.7とすること以外は実施例2と同様にして、坪量22g/m2のシートを得た。
【0029】
比較例2
針葉樹を原料とする晒しクラフトパルプ(アスペクト比78)のみを、パルプ濃度3質量%にてダブルディスクリファイナーで叩解し、叩解フリーネス400mLの原料を得た。続いて、ブレンダーにて撹拌しながら、絶乾パルプ重量に対し、湿潤強度剤(WS−547 日本PMC社製、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂)を1.5質量%添加し、さらに、紙力増強剤(ポリストロン194−7 荒川化学社製)を1.0質量%添加し、白水で希釈後、ファンポンプにて粘剤(PF 住友精化製)を0.5質量%添加し、傾斜ワイヤー型抄紙機にてJ/W比0.7で抄紙し坪量22g/m2のシートを得た。
【0030】
比較例3
フィリピン産マニラ麻を原料としたサルファイト蒸解パルプ(アスペクト比190)と針葉樹を原料とする晒しクラフトパルプ(アスペクト比78)を20:80で混合した原料を使用し、フリーネスを400mlCSFとすること以外は実施例1と同様にして、坪量22g/m2のシートを得た。
比較例4
実施例1で使用したエクアドル産マニラ麻を原料としたサルファイト蒸解パルプと針葉樹を原料とする晒しクラフトパルプ(アスペクト比78)を55:45で混合した原料を使用し、フリーネスを480mlCSFとする以外は実施例1と同様にして、坪量22g/m 2 のシートを得た。
【0031】
撚糸方法
抄紙機にて得られた紙糸用原紙を2mm巾にスリット加工し、紙テープを製造した後、紙テープを紙紐製造機にて450回撚糸し、紙糸を作製した。
【0032】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた原紙および紙糸について以下の試験を行った。その結果を表1に示す。
(1) 原紙の引張強さ
JIS P 8113に準じて測定し、kN/mで表した。
(2) 原紙の縦横比
縦方向引張強度を横方向引張強度で除して表した。
(3) 原紙の湿潤裂断長
浸漬時間を1分間とする以外は、JIS P 8135に準じて湿潤引張強さを測定し、その強度(kgf)を測定試験片巾(15mm)で除し、さらに調湿坪量(g/m2)で除し、さらには1000倍にした数値を湿潤裂断長としてkmで表した。
(4) 原紙のアルカリ引張強さ
イオン交換水に替えて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を使用し、浸漬時間を1分間する以外は、JIS P 8135に準じて測定し、kN/mで表した。
(5) 紙糸の強度
JIS L 1095の7.5に準じて測定した。
【0033】
【表1】
【0034】
【発明の効果】
表1から明らかなように、本発明にて得られる紙糸用原紙は優れた強度を有し、原紙をスリット、撚糸して得られる紙糸もまた、優れた強度を有する。
Claims (3)
- アスペクト比が150以上であるマニラ麻を原料としたパルプを、JIS P 8113に準じて測定された引張り強度の縦横比が7以上となるように傾斜ワイヤー型抄紙機を用いて抄紙し、耐水剤の含有量が、1平方メートル当たり、0.015〜1.0g/m 2 であって、湿潤裂断長が7km以上であることを特徴とする紙糸用原紙。
- 耐水剤とカルボキシメチル化グアーガムを含有することを特徴とする請求項1に記載の紙糸用原紙。
- 前記紙糸用原紙を2mm巾にスリット加工して450回撚糸したときの糸のJIS L 1095.5に準じて測定された強度が1.2g/D以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の紙糸用原紙。
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