JP3826589B2 - 新規微生物およびそれを用いた汚泥処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、活性汚泥法による排水処理で発生する汚泥を分解する新規微生物、および該微生物を使用した汚泥の減容化もしくは発生をなくす汚泥の処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在の代表的な排水処理方法として活性汚泥法がある。活性汚泥法では、好気的条件下で微生物により排水中のBOD成分を分解させ、処理液を固液分離して上清を処理水として系外に排出する。固液分離で沈殿した汚泥の一部は曝気槽に返送する。余剰汚泥は、一部、土壌改良材、コンポスト材料として再利用されるが、大部分は処分する必要がある。余剰汚泥の処分方法としては、脱水、焼却などの前処理をした後、埋め立てなどで廃棄する方法が主流である。この方法では大量に発生する余剰汚泥の処理に、大きな動力を消費する脱水機や乾燥機を用意する必要がある。焼却する場合には大量の熱エネルギーが必要となる。また埋め立て処分場所の逼迫や規制の問題で埋め立て廃棄費用は年々上昇してきている。
【0003】
これに対し、汚泥を減容化して余剰汚泥発生量を減らす方法が各種試みられている。余剰汚泥の減容化を行う既存技術としては嫌気消化法があるが、滞留時間が10〜30日かかり、装置規模が大きくなるため普及していない。
【0004】
そのほかに提案されている方法としては、物理化学的方法や、生物的方法、各種の汚泥前処理工程と組み合わせた生物的方法による汚泥減容化などがある。
【0005】
特開平4-78496号公報にある湿式酸化による汚泥の処理、特開平9-276900号公報にある超臨界水による汚泥の処理などは、物理化学的方法を用いた汚泥減容化方法である。
【0006】
生物的方法では、特表平6-509986号公報にある好熱性生物消化と中温性生物消化を繰り返すことにより汚泥の減容化をする方法などがある。
【0007】
各種前処理工程と組み合わせた生物的方法では、汚泥を化学的または物理的に前処理した後、嫌気的あるいは好気的に微生物処理する方法などが検討されている。これは汚泥を強制的に前処理することにより、後段の微生物による処理時間を短縮することを狙った方法である。例えば特開昭59-105897号公報は、汚泥をオゾンで前処理をして、嫌気性消化法の消化効率を向上させるものである。特開平7-116685号公報、特開平8-19789号公報はオゾンで汚泥細胞壁を処理した後、好気槽で汚泥の減容化を行うものであり、特開平3-8496号公報では汚泥にアルカリまたは鉱酸を添加して、アルカリ条件または酸性条件下で処理した後に好気処理するものである。特開平4-326998号公報、特開平5-345200号公報は汚泥をアルカリ性にすると同時に加温することで熱アルカリ処理を行って可溶化を進めた後、中性付近で嫌気処理をする方法である。さらに特開平8-229595号公報、特開平8-243595号公報は汚泥の加温処理による可溶化を行う方法である。特開昭58-76200号公報は、超音波で汚泥を前処理し、嫌気消化法の消化効率を向上するものである。特開平9-117800号公報は、汚泥を界面活性剤存在下で加熱処理して汚泥を可溶化処理した後、曝気槽に返送することで汚泥処理を行うものである。特開平9-206785号公報は、汚泥を嫌気性処理した後、オゾン処理または高圧パルス放電処理をおこない、嫌気性処理工程に返送することで汚泥の減容化をおこなうものである。特公昭57-19719号公報、特開平6-206088号公報は汚泥をオゾン処理して曝気槽に返送し、汚泥を処理するものである。特開平8-1183号公報は、汚泥をオゾン処理と加熱処理をして、曝気槽に返送することで汚泥を処理するものである。特開平9-10791号公報は、汚泥を高温処理した後、曝気槽に返送することで汚泥を処理するものである。また、汚泥可溶化手段として特開平9-253699号公報にあるように好熱性微生物を添加する方法も提案されている。
【0008】
特開平9-136097号公報にあるようにアルカリ性条件下で好気性微生物の存在下で曝気して生物処理工程に返送する汚泥処理方法も提案されているが、これはアルカリ添加による可溶化後に中和のために添加する酸薬品量を従来よりも少なくすることを目的としたものである。
【0009】
しかしこれまでの湿式酸化、超臨界水、超音波、オゾン、高圧パルス放電などの汚泥処理方法は設備やランニングコストが高くつく。好熱性生物消化と中温性生物消化を繰り返す方法では多くの槽が必要となる。酸やアルカリ、界面活性剤を添加する方法は使用薬品のコストが問題となる。さらに、酸やアルカリを添加した場合には中和のための設備および薬品コストも必要である。高温に加熱する方法では加熱のためのコストアップが問題となっている。また、汚泥を前処理した後、嫌気的あるいは好気的に微生物処理する方法では、少なくとも前処理槽と微生物処理槽が必要になり、スペースを多くとる点なとが問題となる。微生物処理槽を活性汚泥槽と兼用し、前処理した汚泥を返送する場合でも、前処理工程では汚泥を可溶化するのみでBOD負荷自体は処理前とほとんど変わっていないため、活性汚泥槽の負荷を大きく上げてしまい、活性汚泥槽の処理能力に余裕がある場合にしか適用できないといった問題があり、少ない槽構成で汚泥の可溶化のみならず減容化を大幅に行うことのできる方式が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
活性汚泥法による排水処理の問題点の一つとして、余剰汚泥の発生があげられる。本発明の目的は、汚泥の減容化もしくは発生をなくす方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、より高効率に汚泥の減容化を行うため鋭意検討した結果、高アルカリ性・高温という微生物の生育には不適な汚泥可溶化条件で生育可能な、汚泥分解能を持つ新規な微生物を取得し、該微生物を汚泥に添加することにより、長期間の馴養を必要とせず、かつ汚泥を画期的に減容化できることを見出し、本発明に至った。
本発明の新規な微生物は、汚泥を分解する能力を有する生命工研菌寄第16922号として寄託されたバチルス sp. Q2-1 株であり、また、汚泥を分解する能力を有する生命工研菌寄第16923号として寄託されたバチルス sp. Q3 株である。
本発明の汚泥処理方法は、上記したバチルス sp. Q2-1 株、又は、バチルス sp. Q3 株を単独あるいは混合して汚泥に添加し、温度が40℃以上かつpH8〜13のアルカリ性条件にて処理するものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、高アルカリ性・高温という微生物の成育には不適な汚泥可溶化条件で生育可能な、汚泥分解能を持つ新規な微生物を取得し、該微生物を利用することにより、高アルカリ性・高温条件で汚泥を可溶化すると同時に微生物による汚泥の分解を行うことを目標とした。
【0014】
本発明で特定した新規な汚泥分解微生物は、「活性汚泥法により発生する汚泥を含有する培養液を、pHが8以上の条件下で培養することができる汚泥分解微生物であり、以下のような方法により取得することができたものである。
【0015】
(1)活性汚泥法により発生する汚泥を含有する培養液を、pHが8以上の条件下で培養することを特徴とする、汚泥分解微生物の取得方法。
【0016】
(2)条件としてpHが9以上12以下に維持されることを特徴とする(1)の汚泥分解微生物の取得方法。
【0017】
(3)温度条件が40℃以上であることを特徴とする(1)または(2)記載の汚泥分解微生物の取得方法。
【0018】
(4)好気的条件であることを特徴とする(1)乃至は(3)記載の汚泥分解微生物の取得方法。
【0019】
(5)一旦pHを9以上まで上昇させることを特徴とする(1)乃至は(4)記載の汚泥分解微生物の取得方法。
【0020】
(6)一旦pHを9以上にまで上昇させることを繰り返す事を特徴とする(5)記載の汚泥分解微生物の取得方法。
【0021】
(7)一旦pHを9以上まで上昇させたのち、pHを徐々に低下させることを特徴とする(5)記載の汚泥分解微生物の取得方法。
【0022】
(8)pHを8以上に維持するために使用する薬剤として、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種以上を使用することを特徴とする(1)記載の汚泥分解微生物取得方法。
【0023】
pHが8以上の条件で培養することにより、この条件下で優先的に生育し、汚泥を含有する培養液を栄養源とする、すなわちこの培養液を分解処理する能力を有する微生物の比率を高め、究極的にはそれのみにすることが可能となる。また、この微生物の能力を更に高め、あるいは更に顕在化させる事も可能となる。すなわち、汚泥を含有する培養液を特定の条件下で培養し、微生物の生育が認められた後、新たな培養液にその一部を移して更に培養を続ける作業を繰り返すことで、汚泥分解に関与する微生物が集積され、分解活性をある程度まで高めることができる。更にこの微生物を種として連続的に培養を繰り返すことにより、その活性を安定化することができる。なお、低下した結果の最低pHは8以上であるべきであるが、最適pHが8から10の微生物の中には、限界生育pHが中性以下のものも多く存在するため、有機酸などによるpHの低下現象が進みすぎたり、pHを上げる操作が若干遅れたりして、一時的にpHが8を下回ることがあっても良いし、保存状態にしたり、微生物取得作業や汚泥処理作業を休止する際にもpHが8を下回ることがあってもよい。
【0024】
本発明におけるアルカリ化の方法には、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの添加が挙げられるが、最も好ましいのは水酸化カルシウム、または水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを単独あるいは併用して用いる事である。添加量は、汚泥の種類、温度、状態によって異なるが、pH8以上を達成できる量であればよく、固体状態または水溶液の状態で添加すればよい。例えば炭酸ナトリウムの場合、MLSS濃度が20g/Lの汚泥に対し、総重量の0.1%の添加でpHを8.5まで上げることができる。水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムの場合は、更に少量の添加でより高アルカリにすることができるが、その分汚泥に対する可溶化作用が強いため、汚泥分解物によってpHが低下しやすい傾向を示す。また、炭酸ナトリウムは、pH緩衝作用によって初期のpHをある程度維持する傾向が見られる。そこで、これらの試薬の組み合わせみよって、より適正な処理条件が得られる。また水酸化カルシウムを使用した場合、処理汚泥の沈降性が向上する。恐らくカルシウムイオンの一部が何らかの形で汚泥中に取り込まれるためであろうと推測されるが、詳細は不明である。比較的安価な水酸化カルシウムをアルカリ化剤の一部または全部に使用することは、減容化処理後の汚泥を処分する上でも、意味のあることであると思われる。
【0025】
本発明で汚泥処理に用いられる微生物は、アルカリ性条件(pH8〜13好ましくは9〜12の範囲)、好ましくはアルカリ性条件および40℃以上の範囲で生育可能な汚泥分解能を持つ微生物であり、即ち、バチルス sp. Q2-1株(生命工研菌寄第16922号)、バチルス sp. Q3株(生命工研菌寄第16923号)、またはその組み合わせが好ましい。
これら2株の生理学的性質を表1から4に示す。生理学的性質の確認方法は、改訂版微生物の分類と同定<下>、長谷川武治編著、学会出版センター(1990)に従った。培養でpHをアルカリ性にする場合には、炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムを添加することで調整した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
結果をBergey's manual of systematic bacteriology volume 2(1984)に照らし合わせた結果、これら2株はBacillus pumilus類縁の株であることがわかった。しかしこれら2株は硝酸塩還元が陽性である点、またバチルス sp. Q2−1株はVPテストが陰性である点がBacillus pumilusと異なり、バチルス属に属する新菌種であった。
【0031】
本発明の新規微生物で処理する汚泥は、工業排水を活性汚泥法で処理した際に発生する汚泥を使用しているが、これに限定されるものではなく、BOD負荷に菌体が多くあるような被処理材、たとえば下水汚泥などにも充分に適用できる。
【0032】
本発明の新規微生物を汚泥に添加する場合は、汚泥に種菌を加えて汚泥中で増殖させてもよいし、汚泥または培養液等で培養した微生物を培養液ごと、または微生物を濃縮して汚泥に添加してもよい。さらに微生物の分泌物を利用するために微生物の培養液上清を汚泥に添加してもよい。また、これらの添加方法を適宜組み合わせて使用してもよい。上記のように添加することで、高アルカリ性・高温での長期間の馴養を必要とせず、汚泥処理を開始することができる。
【0033】
本発明の新規微生物による汚泥処理のpH条件は、pH8〜13、さらにはpH9〜12が好ましい。これは、pHが8以上であれば、加温のみを行ったときと比較して汚泥の可溶化が効率よく行えるが、高すぎるpHでは薬液コストが高くつく上に微生物の生育が困難になるためである。温度条件としては、40℃以上80℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下が好ましい。一般的に微生物の繁殖に好ましいと考えられる生育条件は、pH中性付近、温度条件は室温付近である。たとえば活性汚泥槽の微生物は20〜30℃であり最高でも35℃前後とされている。汚泥処理条件を、高アルカリ性・高温条件にすることにより、汚泥を可溶化すると同時に、本発明の新規微生物を優先的に生育させることが可能となる。
【0034】
【実施例】
以下、実施例を用いて発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定される物ではない。実施例中で用いた汚泥は、化学工場排水処理施設から採集した余剰汚泥をMLSSが20,000 ppmになるまで希釈したものを使用した。各実施例と比較例の結果は表5に示す。
【0035】
実施例1
乾燥ブイヨン(日水製薬)30 g/L、炭酸ナトリウム 10 g/Lの培養液5 mlを試験管(18 mm径×180 mm長)に入れ、滅菌した後Bacillus sp. Q2-1株(生命工研微生物寄第16922号)を植菌し、45℃で往復振盪120 rpmで24時間培養し、前培養液を得た。汚泥32 mlと炭酸ナトリウム100 g/L液4 mlを混合して200 ml容バッフル付きフラスコに入れ、前培用液4 mlを添加した。45℃で回転振盪120 rpmした。処理3日後のMLSS減容化率は44.5%であった。
【0036】
実施例2
乾燥ブイヨン(日水製薬)30 g/L、炭酸ナトリウム 10 g/Lの培養液5 mlを試験管(18 mm径×180 mm長)に入れ、滅菌した後Bacillus sp. Q3株(生命工研微生物寄第16923号)を植菌し、45℃で往復振盪120 rpmで24時間培養し、前培養液を得た。汚泥32 mlと炭酸ナトリウム100 g/L液4 mlを混合して200 ml容バッフル付きフラスコに入れ、前培用液4 mlを添加した。45℃で回転振盪120 rpmした。処理3日後のMLSS減容化率は43.7%であった。
【0037】
実施例3
実施例1と2で得たBacillus sp. Q2-1株(生命工研微生物寄第16922号)とBacillus sp. Q3株(生命工研微生物寄第16923号)の前培用液を用い、汚泥32 mlと炭酸ナトリウム100 g/L液4 mlを混合して200 ml容バッフル付きフラスコに入れ、前培用液各2 mlを添加した。45℃で回転振盪120 rpmした。処理3日後のMLSS減容化率は44.8%であった。
【0038】
比較例1
汚泥32 mlと炭酸ナトリウム100 g/L液4 mlを混合して200 ml容バッフル付きフラスコに入れ、水 4 mlを添加した。45℃で回転振盪120 rpmした。処理3日後のMLSS減容化率は26.4%であった。
【0039】
【表5】
【0040】
【発明の効果】
本発明の実施により、従来の活性汚泥による排水処理工程に汚泥分解処理工程を設けると、汚泥の分解処理を行うことが容易に可能となるので、余剰汚泥の発生量を減少、または発生をなくすことが出来る。
Claims (3)
- 汚泥を分解する能力を有する生命工研菌寄第16922号として寄託されたバチルス sp. Q2-1株。
- 汚泥を分解する能力を有する生命工研菌寄第16923号として寄託されたバチルス sp. Q3株。
- 請求項1又は2に記載のバチルス属に属する微生物を単独あるいは混合して汚泥に添加し、温度が40℃以上かつpH8〜13のアルカリ性条件にて処理することを特徴とする汚泥処理方法。
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JP31811898A JP3826589B2 (ja) | 1998-11-09 | 1998-11-09 | 新規微生物およびそれを用いた汚泥処理方法 |
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1998
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