JP3825098B2 - 糖尿病診断剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖尿病診断剤、詳しくは少なくとも1以上の特定位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸を含む糖尿病診断剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
糖尿病診断の一次スクリーニングに一般的に用いられている検査法は、尿糖検査、空腹時血糖値検査である。これらの検査で陽性の場合、グルコース負荷テストを行い、確定診断に至る。最近では、過去の平均血糖値を反映する血中のHbAlCやフルクトサミンを検査する場合もあり、これは一次スクリーニングで陽性と出た場合に、グルコース負荷テストを行う前の二次スクリーニングとして主に用いられる。しかし、尿糖検査、空腹時血糖値検査では、多くの糖尿病患者で尿糖が陰性となり、血糖値が正常値を示すため、糖尿病患者を見逃してしまうことも多く、その感度の低さが問題となっている。また、グルコース負荷テストは優れた検査法であるが、大量のグルコースを採取したことによる副作用、数時間の拘束、度重なる採血が必要で、被験者の身体的負担が大きく、手間もかかるため現実には限られた対象者にしか実施できない。また、HbAlCやフルクトサミンの結果は次の来院時まで知ることができず、迅速性に欠けるという欠点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、被検者の負担が小さく、正確な検査結果を即時に得ることができる糖尿病診断剤を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも1以上の特定位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸を投与し、呼気中の13CO2 濃度の増加率を測定することにより糖尿病を正確に診断することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0005】
すなわち、本発明は、少なくとも1以上の特定位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸を含む糖尿病診断剤である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の糖尿病診断剤のピルビン酸は、少なくとも1以上の特定位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸である。
また、ピルビン酸は、ナトリウムやカリウム等との塩であってもよい。
13Cは安定同位体であるので、放射線被爆の危険は一切なく、検査を安全に行うことができる。
本発明におけるピルビン酸は、ピルビン酸の1〜3位の炭素のうち、いずれか1箇所が13Cで置換されたもの、いずれか2箇所が13Cで置換されたもの、また3箇所の全てが13Cで置換されたもののどれであってよいが、好適には3位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸である。具体的には3−13C−ピルビン酸ナトリウム (ICON社製) 等の市販品を用いることができる。
【0007】
本発明の糖尿病診断剤を用いた検査は、投与後の呼気中の13C濃度を測定し、投与後一定時間(例えば5分、10分、20分)経過後における呼気中の13CO2 の増加(Δ13C(‰))、あるいは投与後一定時間までの呼気中の13CO2 の増加(Δ13C(‰))の経時変化(立ち上がりの傾き、傾きの変化、ピークの時間等)のデータを評価する。また、かかる呼気テストによる評価は、単独でも有用であるが、血糖値等と組み合わせて総合的に判断することがより好ましい。
ここで、呼気中の13C濃度の測定は、ガスクロマトグラフ−質量分析法(GC-MS)、赤外分光法、質量分析法、光電音響分光法、NMR(核磁気共鳴)法で行うことができる。
【0008】
本発明の糖尿病診断剤は、上記の少なくとも1以上の特定位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸(以下、置換ピルビン酸という)を単独で、あるいは賦形剤または担体と混合し、投与経路に応じて経口剤(錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、液剤等)、注射剤などに製剤化される。賦形剤または担体としては、当分野で常套的に使用され、薬剤学的に許容されるものであればよく、その種類及び組成は、投与経路や投与方法によって適宜変更される。例えば、液状担体としては水が用いられる。固体担体としては、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウムなどの有機酸塩などが使用される。注射剤の場合、一般に水、生理食塩水、各種緩衝液が望ましい。また、凍結乾燥製剤とし経口剤として用いたり、それを投与時に注射用の適当な溶剤、例えば滅菌水、生理食塩水、電解質溶液等の静脈投与用液体に溶解して投与することもできる。
【0009】
製剤中における置換ピルビン酸の含量は、製剤の種類により異なるが、通常10〜100 重量%、好ましくは50〜100 重量%である。例えば注射剤の場合には、通常1〜40重量%となるよう置換ピルビン酸を添加すればよい。カプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉剤の場合は、置換ピルビン酸の含量は、約10〜100 重量%、好ましくは50〜100 重量%であり、残部は担体である。
【0010】
本発明の糖尿病診断剤の投与量は、投与による呼気中の13CO2 濃度の増加率を確認できる量が必要であり、患者の年齢、体重、検査目的により異なるが、例えば1回当たりの投与量は成人の場合、1〜2000mg/kg 体重程度である。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに何ら影響されることはない。
【0011】
【実施例】
〔試験例〕
[1] 材料および方法
(1) 被検動物
雄性Sprague-Dawley系(SD)ラットを、日本チャールズリバー社より購入した。新生児ラットについては、保育親とともに購入した。購入したラットは、23±2℃、湿度55±10%の条件で使用時まで飼育した。
【0012】
(2) 糖尿病ラットの作成
インスリン依存型糖尿病ラットとして、成熟ラットへのストレプトゾトシン(STZ)投与によりインスリン欠乏タイプの糖尿病を発症させた(細胞工学別冊、医学実験マニュアルシリーズ 糖尿病研究ストラテジー 清野進、岡芳和編、秀潤社刊)。
一晩絶食した成熟ラットにSTZ(SIGMA 製 No.S-0130)を90mg/kg 腹腔内投与した。投与後、餌を与えて飼育し、2 日後に尾静脈より血液を採取し、Terumoメディエース(血糖測定セット)を用いて随時血糖値を測定し、400mg/dl以上の個体を選抜した。STZは、クエン酸緩衝液(pH4.5) に溶解し、溶解後5分以内に投与が終了するようにした。
【0013】
一方、インスリン非依存型糖尿病ラットとして、新生児期ラットへのストレプトゾトシン(STZ)投与によりインスリン分泌不全タイプの糖尿病を発症させた(細胞工学別冊、医学実験マニュアルシリーズ 糖尿病研究ストラテジー 清野進、岡芳和編、秀潤社刊)。
生後2日目のラットにSTZを90mg/kg を皮下投与した。2日後に心臓より血液を採取しTerumoメディエース(血糖測定セット)を用いて随時血糖値を測定し、275mg/dl以上の個体を選抜した。STZは、クエン酸緩衝液(pH4.5) に溶解し、溶解後5分以内に投与が終了するようにした。
【0014】
(3) 13C呼気テスト
一晩絶食したラットをネンブタール腹腔内投与(50mg/kg)にて麻酔し、手術台に仰向けにして固定した。尾静脈より血液を採取し、Terumoメディエース(血糖測定セット)を用いて血糖値を測定した。大腿静脈より生理食塩水に溶解した13C−ピルビン酸ナトリウム(0.1 g/ml) を100mg/kgを投与し、頭部には円筒形のチューブを被せ、炭酸ガス計CAPSTAR-100(CWE, Inc) を用いて呼気を吸引し、ハミルトンシリンジで呼気を1回に約25μl採取した(図1)。この際、炭酸ガス濃度が3.5 ±0.5%となるように炭酸ガス計の流量を調整した。呼気中の13C濃度はガスクロマトグラフ−質量分析計(GC-MS)にて測定した。 GC-MSの分析条件は下記の通りである。
【0015】
[GC−MS条件]
装置 Shimadzu GC-MS QP-5000 [(株) 島津製作所]カラム 0.32mm×25m (ID ×L) fused silica capillary column PORAPLOT Q (CHROMPACK 社)
イオン化法 EI (electron impact) 法
気化室温度 60℃
カラム温度 60℃
GCインターフェース温度 230 ℃
キャリアガス He
キャリアガス圧力 20Kpa
測定モード SIM (selected ion monitoring)
測定イオン m/z=45, 46, 47
試料注入量 20μl
【0016】
尚、13C−ピルビン酸は3−13C−ピルビン酸ナトリウム(ICON 社、3位の炭素の13C純度が99atom%)を使用した。実験を通して直腸温をモニターし、保温マットにより体温を37℃に保った。実験に用いたラットは採血後、過剰量の麻酔薬を投与し屠殺した。
【0017】
[13C濃度計算方法]
酸素同位体存在比を天然存在比とし、m/z=45, 46のイオンピーク面積より13C濃度を下式により算出した。m/z=45, 46の面積比 (A45/A46)をaとする(特開平7-120434号に基づく)。
【0018】
【式1】
13C濃度(%) ={(0.004176-0.0007462a)/(0.9944396+0.0034298a) }×100
【0019】
13C(‰)計算方法]
各時点の呼気の13C 濃度(13C tmin)とCO2 標準ガスの13C 濃度(13C std) から下式により算出した。
【0020】
【式2】
Δ13C 濃度(‰)={(13C tmin-13C 0min)/13C std }×1000
【0021】
[2] 結果
3−13C−ピルビン酸呼気テスト
被検動物として雄性Sprague-Dawley系(SD)健常ラット(8週齢4匹、11週齢4匹) 、雄性SDインスリン非依存型糖尿病ラット(8週齢4匹、11週齢4匹) 、雄性SDインスリン依存型糖尿病ラット(8週齢4匹、9週齢4匹、11週齢4匹;7週齢でSTZを投与)を使用した。3−13C−ピルビン酸ナトリウムを100mg/kg静注投与後10分における呼気中の13CO2 の増加(Δ13C(‰))と同個体におけるピルビン酸投与直前の血糖値を測定した結果を図2に示す。
高血糖(血糖値200mg/dl以上) のインスリン依存型糖尿病ラットでは、Δ13C値が100 〜600(‰)の広範囲に分布している。しかしながら、100mg/dl程度の正常血糖域では、約400(‰)を境に健常ラットは低値を、インスリン非依存型糖尿病ラットおよび血糖値200mg/dl以下のインスリン依存型糖尿病ラットは高値を示した。
【0022】
糖尿病診断の一次スクリーニングに用いられていた血糖値検査では、約3分の2の糖尿病患者が正常値を示すために見逃されていると考えられる。しかし、本3−13C−ピルビン酸呼気テストでは、正常血糖値を示す集団の中の健常と糖尿病の判別を行えることから、感度の高い、優れた一次スクリーニング法になり得ると考えられる。
【0023】
〔製剤例1〕 (注射剤)
3−13C−ピルビン酸ナトリウム10重量部に対し、生理食塩水を加え全量を100重量部として、これを溶解後ミリポアフィルターを用いて除菌濾過した。この濾液をバイアル瓶にとり、密封して注射剤を得た。
【0024】
〔製剤例2〕 (内服液剤)
3−13C−ピルビン酸ナトリウム10重量部に対し、精製水を加え全量を100重量部として、これを溶解後ミリポアフィルターを用いて除菌濾過した。この濾液をバイアル瓶にとり、密封して内服液剤を得た。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、被験者の身体的負担が小さく、正確な検査結果を即時に知ることができ、かつ副作用がなく安全に使用できる糖尿病診断剤が提供される。本発明の糖尿病診断剤は、見逃しやすい状況下(正常血糖域)においても健常人と糖尿病患者の判断をも可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラットの呼気回収法の模式図を示す。
【図2】3−13C−ピルビン酸呼気テストと血糖値の関係を示す。

Claims (1)

  1. 3位の炭素が13Cで置換されたピルビン酸を含む糖尿病診断剤。
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