JP3823653B2 - 高炭素熱延鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炭素鋼板の製造方法に関し、特に熱間圧延後の球状化焼鈍を省略し、生産性良く加工性に優れた高炭素熱延鋼板を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高炭素鋼板は通常、加工性を向上させるため、熱延コイルを焼鈍し、炭化物を球状化させる。しかし、このような球状化焼鈍は、一旦、常温まで冷却したコイルを再度加熱し、極めて長い時間(全工程約4日)を要する。そこで、熱延後の熱処理で球状化焼鈍を行う技術が提案されている。
【0003】
特公昭55−37575号公報は、熱延後50〜90%のオーステナイトが層状パーライトに変態する状態にまで冷却して巻取り、コイル状態で徐冷ボックスに装入し、20℃/hr以下で冷却する技術である。復熱を利用して球状化処理を行なうため巻取温度が600℃未満のような場合、徐冷カバー内の温度が低く、球状化が十分なされず硬度低下が十分でない。
【0004】
特開昭63−183129号公報には、熱間圧延後、冷却速度20℃/S以上の急冷を行ない、変態点以上650℃以下で停止し、オーステナイトからパーライトへの変態が50%終了する以前に巻取り、保温カバー内に入れて600℃まで20℃〜200℃/hrで冷却する技術が提案されている。
しかし、この技術では、保温カバー内に入れてから600℃までの冷却速度が20〜200℃/hrと速く、フェライトの粒成長が十分なされず、通常の球状化焼鈍(バッチ焼鈍)ほど硬度が低下せず、十分な加工性が得られない。
【0005】
特公昭55−17087号公報には、熱間圧延後、500〜650℃の温度となっている巻取り直後の熱間圧延鋼帯を660℃以上Ac1変態点以下に再加熱し、600℃に達するまでを1.0℃/min以下の冷却速度で徐冷する技術が提案されている。この技術の場合、復熱を利用せず、かつ巻取温度が600〜650℃と低いため、再加熱に大きなエネルギーを必要とし生産コストが上昇する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、特別な加熱設備によらず、熱延鋼板の保有熱を利用し、ミクロ組織を制御することで、低コストで生産性良く、熱延ままでも球状化焼鈍材と同等の低硬度で、加工性に優れる高炭素熱延鋼板の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、高炭素熱延鋼板の軟質化に及ぼす製造条件の影響について詳細に検討した。その結果、圧延条件、徐冷カバーにおける冷却条件を適正に制御した場合、球状化焼鈍を省略しても、同等の低硬度が得られ、加工性に優れた高炭素熱延鋼板が得られることを見出した。本発明はこれら知見を基にさらに検討を加えてなされたものである。
【0008】
1. 質量%で、Cを0.2%以上1.0%以下含有する高炭素鋼を熱間圧延後急冷し、ランナウトテーブル上の鋼鈑温度 ( 中間温度 ) :550〜650℃で前記急冷を停止し、巻取温度600℃〜700℃、且つ巻取温度≧中間温度+20℃で巻取り、巻取り後20分以内に徐冷カバーに装入し、600〜720℃で10hr以上滞留させることを特徴とする高炭素熱延鋼鈑の製造方法。但し、「中間温度」とは、ランナウトテーブル上の高炭素鋼の急冷を停止する温度を意味する。
【0009】
2. 質量%で、Cを0.2%以上1.0%以下含有する高炭素鋼を熱間圧延後急冷し、ランナウトテーブル上の鋼鈑温度(中間温度):550〜650℃で前記急冷を停止し、その後復熱開始後10秒以内、且つ巻取温度600℃〜700℃で巻取り、巻取り後20分以内に徐冷カバーに装入し、600〜720℃で10hr以上滞留させることを特徴とする高炭素熱延鋼鈑の製造方法。但し、「中間温度」とは、ランナウトテーブル上の高炭素鋼の急冷を停止する温度を意味する。
【0010】
【発明の実施の形態】
[化学成分]
C量:0.2%以上1.0%以下
C量は強度を確保するため、0.2%以上含有する。一方、1.0%を越えると網目状炭化物が顕著となり、軟質化し難く、またその効果も小さいため、1.0%以下とすることが望ましい。尚、0.2%未満の場合、球状化焼鈍が要求されることはなく、軟質化の効果も小さい。
【0011】
[製造条件]
1.仕上げ熱延後急冷し、ランナウトテーブル上の鋼板温度(中間温度):550〜650℃で前記急冷を停止
本発明では、仕上げ熱延後に急速冷却を行ない、ランナウトテーブルの鋼鈑温度(以後、中間温度とする):550〜650℃で前記急速冷却を停止後、変態復熱により、軟質化を行なう。中間温度が550℃未満の場合、フェライト組織が過度に微細となり、又、復熱しても徐冷カバー内の滞留時間が短くなり、十分な軟質化が得られない。一方、650℃を越えると、過冷度が小さく、復熱量が小さくなるため軟質化に長時間を要する。従って、十分に復熱させ、軟質化させるため、中間温度:550〜650℃とする。
【0012】
2.巻取り条件:変態による復熱開始後巻取りまでの時間:10秒以内、且つ巻取温度:600〜700℃
巻取条件は、その後の徐冷カバー内での炭化物の球状化に大きな影響を及ぼし、軟質化の重要な条件である。本発明では、中間温度近傍から開始される変態による復熱過程で、鋼板温度が上昇し始めたところで巻取りを開始し、復熱開始後、巻き取りを開始するまでの時間を10秒以内、且つ巻取温度:600〜700℃とする。
【0013】
巻き取りを開始するまでの時間は、徐冷カバー内における球状化焼鈍に必要な復熱量を確保するため、10秒以内とし、且つ炭化物の球状化率が上昇し、硬度の低下が著しく軟質化が安定して得られる600℃以上において巻き取りを開始する。尚、700℃を超えるとその後の球状化焼鈍に必要な復熱量が十分確保できないため巻き取り温度の上限は700℃とする。尚、本発明では巻き取り開始時の温度を巻取温度とする。
【0014】
図1に、熱延後の硬度および炭化物の球状化率と巻取温度の関係を示す。
【0015】
S50C相当の鋼(C:0.50%,Si:0.2%,Mn:0.75%,P:0.018%,S:0.004%,Al:0.03%)の鋳造スラブを加熱後熱間圧延において、820℃で仕上げ圧延を終了し、急冷により中間温度を560〜640℃とし、その後の冷却帯で冷却速度を調節し、巻取温度を種々変化させ、巻取り後、直ちに(20分以内)徐冷カバーに装入し、冷却した。このとき、600℃までの滞留時間は15hrである。熱延板の板厚はいずれも3.2mmとした。得られた鋼板のコイルM部からサンプルを採取し、板面硬度測定(HRB),炭化物球状化率を測定した。
【0016】
その結果、巻取温度の上昇とともに球状化率が上昇し、特に巻取温度が600℃を超えると顕著となっている。
【0017】
3.巻取温度≧中間温度(ランナウトテーブル上の高炭素鋼の急冷を停止する温度)+20℃
本発明では巻き取り条件を本パラメータを満足し、且つ巻取温度:600〜700℃として規定することも可能である。巻取温度を中間温度+20℃以上とした場合、軟質化に必要な復熱量を確保することができ、上述した巻き取り条件による軟質化と同様な効果が安定して得られる。図2に熱延板の硬度と復熱量(中間温度から巻取温度までの温度上昇量)の関係を示す。S50C相当の鋼(C:0.50%,Si:0.2%,Mn:0.75%,P:0.018%,S:0.004%,Al:0.03%)の鋳造スラブを加熱後熱間圧延において、820℃で仕上げ圧延を終了し、急冷により中間温度を600℃とし、その後の冷却帯で冷却速度を調節し、巻取温度を種々変化させ、巻取り後、直ちに(20分以内)徐冷カバーに装入し、冷却した。このとき、600℃までの滞留時間は15hrである。熱延板の板厚はいずれも3.2mmとした。得られた鋼板のコイルM部からサンプルを採取し、板面硬度(HRB)を測定した。その結果、復熱量が20℃以上の場合、板面硬度(HRB)は87以下で十分軟質化している。
【0018】
3.徐冷カバーまでのコイル搬送時間:20分以内
コイルの搬送時間が20分を超えて長くなると、コイル温度が低下し、徐冷カバー内で600〜720℃で10hr以上の滞留時間が得られず、軟質化が達成できないため、20分以内とする。
【0019】
4.徐冷カバー冷却条件:600〜720℃で10hr以上
徐冷カバー装入後の熱延コイル冷却条件は、炭化物の球状化およびフェライトの粒成長に大きな影響を及ぼし、適正に制御すべき重要な要件である。
【0020】
徐冷カバー内におけるコイルの滞留温度(軟質化温度)が600℃未満の場合、炭化物の球状化に時間を要し、フェライト粒の成長も得られない。一方、720℃を超える場合、粗大パーライトが生成し、球状化の進行が極めて遅くなるため600〜720℃とする。
【0021】
滞留時間は軟質化の観点から長時間が好ましい。10hr未満の場合、炭化物の球状化が得られても、その後の炭化物のオストワルド成長によるフェライト粒の成長が十分でなく、球状化焼鈍材と同水準の軟質化が得られないため、10hr以上とする。尚、冷却終了は、生産性の観点から短時間が好ましく、滞留温度(軟質化温度)より低く、かつスケール変態終了後とするため400℃以下とする。
【0022】
本発明に係る鋼板の製造方法では、スラブ加熱後圧延する方法、連続鋳造後加熱処理を施して、あるいは該加熱工程を省略して、直ちに圧延する方法のいずれでもよい。粗圧延の際に、複数(2本以上)のスラブを接合して熱間圧延してもよい。また、熱間圧延中、バーヒータにより加熱を行なってもよい。鋼板の仕上圧延機出側温度は、材質確保の点からAr3点以上が好ましい。さらに、徐冷カバーの形態は、特に規定されるものでなく、巻取り時にそのまま保熱することが可能なコイルボックスでもよい。また、徐冷カバー内の雰囲気は、大気などの酸化雰囲気、不活性ガス、還元ガスなどの非酸化雰囲気のいずれでもよい。また、本発明による熱延鋼板を、その後、冷間圧延し、冷延鋼板とすることができる。
【0023】
【実施例】
本発明の効果を実施例を用いて詳細に説明する。
【0024】
表1に示す化学成分の供試鋼を連続鋳造にて鋳片とし、粗圧延後、A鋼は860℃、B鋼は820℃にて仕上圧延を終了した後、ランナウトテーブル上で制御冷却を行ない、中間温度(MT)および巻取温度を種々変化させた。
【0025】
巻取り後、徐冷カバーへ装入し、400℃まで種々の冷却速度で冷却し、その後、徐冷カバーを外し大気中にて放冷した。比較材として680℃×40hrの条件による球状化焼鈍材も製造した。熱延板の板厚はいずれも3.2mmとした。
【0026】
得られた鋼板のコイルのM部からサンプルを切り出し、板面硬度(HRB)測定および光学顕微鏡による炭化物の球状化率、フェライト粒径を測定した。
【0027】
表2に製造条件を、表3に測定結果を示す。表2の製造条件において、鋼No.A3、B3は,コイル搬送条件、徐冷カバー内の滞留条件が本発明の範囲外で請求項1,2記載の発明の比較例であり、鋼No.A4,A6,B4,B6は,巻取温度が本発明の範囲外で請求項1,2記載の発明の比較例となっている。
【0028】
鋼No.A5,B5はランナウトテーブル上における中間温度が請求項2記載の発明の範囲外で、比較例となっている。表3から明らかなように、本発明例では球状化焼鈍材と同等の軟質化が得られているのに対し、比較例では軟質化が十分でない。
【0029】
【表1】
Figure 0003823653
【0030】
【表2】
Figure 0003823653
【0031】
【表3】
Figure 0003823653
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、特別な加熱設備も必要とせず、熱延ままで球状化とともにフェライト粒成長がなされ、球状化焼鈍材と同等の低硬度が得られることから、従来の熱延後、球状化焼鈍材より低コストで、かつ短時間で加工性の優れた高炭素熱延鋼板を製造することが可能となり、又,その後冷延した場合、冷間圧延負荷が低減し、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】高炭素熱延鋼板(S50C)の炭化物球状化率および硬度に及ぼす巻取温度の影響を示す図
【図2】高炭素熱延鋼板(S50C)の硬度に及ぼす復熱量(巻取温度―中間温度)の影響を示す図

Claims (2)

  1. 質量%で、Cを0.2%以上1.0%以下含有する高炭素鋼を熱間圧延後急冷し、ランナウトテーブル上の鋼鈑温度 ( 中間温度 ) :550〜650℃で前記急冷を停止し、巻取温度600℃〜700℃、且つ巻取温度≧中間温度+20℃で巻取り、巻取り後20分以内に徐冷カバーに装入し、600〜720℃で10hr以上滞留させることを特徴とする高炭素熱延鋼鈑の製造方法。但し、「中間温度」とは、ランナウトテーブル上の高炭素鋼の急冷を停止する温度を意味する。
  2. 質量%で、Cを0.2%以上1.0%以下含有する高炭素鋼を熱間圧延後急冷し、ランナウトテーブル上の鋼鈑温度(中間温度):550〜650℃で前記急冷を停止し、その後復熱開始後10秒以内、且つ巻取温度600℃〜700℃で巻取り、巻取り後20分以内に徐冷カバーに装入し、600〜720℃で10hr以上滞留させることを特徴とする高炭素熱延鋼鈑の製造方法。但し、「中間温度」とは、ランナウトテーブル上の高炭素鋼の急冷を停止する温度を意味する。
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