JP3821969B2 - 電食防止転がり軸受 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば鉄道車両用電動機等に使用される電食防止転がり軸受に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、例えば鉄道車両用電動機等の回転支持部分に使用された転がり軸受には、電流が流れた際、内輪と外輪と転動体の接触部で金属表面が溶ける電食現象が生じ、転がり軸受性能が低下する。このため、内輪の内周面と外輪の外周面の少くとも一方の周面に絶縁被膜を形成して、外部から転がり軸受に流れる電流を遮断し、電食を防止することが行われている。例えば特開平３ー２７７８１８号には、電食防止のための絶縁被膜として、強化材としてのガラス繊維を含有したポリフェニレンサルファイド樹脂を使用したものが記載されている。このポリフェニレンサルファイド樹脂は、耐熱性が非常に高いため、積極的に使用されている。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の絶縁防止転がり軸受においては、絶縁被膜として、ガラス繊維を含有したポリフェニレンサルファイド樹脂を使用しているため、絶縁性を有し、電食防止には高い効果を有しているが、一方でポリフェニレンサルファイド樹脂は熱の放熱性すなわち熱伝導性が非常に悪い。このため、転がり軸受に発生した温度上昇時に熱が放熱されず、軸受内部が高温となり、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化等、軸受寿命に悪影響が出ることがある。特に、近年は転がり軸受の高速回転や急加減速の回転条件で使用されることが多くなってきており、上記転がり軸受の温度問題がますます浮かび上がってきている。
【０００４】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂は軸受使用中にどうしてもクリープが発生しやすく、軸受の相手部材に対する初期圧入荷重が維持できないという問題もある。
【０００５】
本発明は、上記課題に対処するためになされたものであり、絶縁性かつ熱伝導性が高くしかもクリープが防止される樹脂材料を絶縁被膜として使用することにより、軸受性能の低下を防止できる電食防止転がり軸受を提供することを目的としている。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、請求項１においては、内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、内輪の内周面と外輪の外周面との少なくとも一方の周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有したことを特徴とする。
【０００７】
請求項２においては、内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、外輪の外周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁被膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有した被膜であり、前記外輪は、外周面と端面との間が曲面であり、前記絶縁被膜は、前記外周面と端面とに連なっているとともに、前記外輪の曲面に沿った曲面を外周面端部に備え、前記絶縁被膜の端面部分は、前記外輪の内周面に形成された段付き部に備えられた径方向外方に窪んだ凹部に対しても径方向外方に突出して被覆した部分が連なることを特徴とする。
【０００８】
請求項３においては、フェノール樹脂にさらに変性剤を加えて柔軟性を与えたことを特徴とする。
【０００９】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の具体的な実施の形態について図面を参照しながら説明する。図１において、内輪１と、外輪２と、内外輪１，２間に転動可能に介装されかつ保持器４に保持された転動体３とを有している。上記外輪２の外周面２ａには２条の円周溝５，６が形成されるとともに、外輪２の両端面２ｂ内周部には段付き部７，８が形成されている。そして、上記外輪２の外周面２ａの全面に亘って、絶縁被覆９が後述する樹脂の射出成型にて被覆されている。この絶縁被覆９は、上記円周溝５，６に充填されることにより軸方向のずれが防止され、また上記段付き部７，８内面にまで被覆させることにより、絶縁被覆９の端部からの剥がれが防止される。
【００１０】
つぎに、上記絶縁被膜９の樹脂は以下の構成を有している。すなわち、強化材としてのガラス繊維を含有した絶縁性のあるフェノール樹脂を使用する。このフェノール樹脂は熱硬化性樹脂であるため熱による寸法収縮やクリープが小さい有利性を有している。そして、上記ガラス繊維を含有したフェノール樹脂に、さらに、水酸化アルミニウム粉末を含有させている。
【００１１】
この水酸化アルミニウム粉末は、体積固有抵抗が８．７×１０１３Ω・ｃｍ、熱伝導率０．７１Ｗ／ｍ・Ｋであり、非常に高い絶縁性と熱伝導性を有している。そして、上記水酸化アルミニウム粉末を使用することで、さらにクリープによる寸法収縮を低減できる。なお、この実施例の材料は、一例として、フェノール樹脂３５％、ガラス繊維３５％、水酸化アルミニウム粉末３０％の組成とされ、堆積固有抵抗１×１０１３Ω・ｃｍ、熱伝導率０．６２Ｗ／ｍ・Ｋを有している。
なお、上記水酸化アルミニウム粉末の体積固有抵抗および熱伝導率の測定値は、水酸化アルミニウムとポリエーテルを１００：１２５の比率でサンプルを作り、測定した値である。
【００１２】
また、上記フェノール樹脂に上記各充填剤を含有したため、材料の柔軟性がやや低下し、金属と樹脂間の線膨張係数の相違に起因する疲労によるクラック発生や、組み立て工程時の破損の恐れが生じた場合は、上記フェノール樹脂にさらに酢酸ビニル、ＮＢＲ、キシレン等の変性剤で変性して柔軟性を与えてもよい。この変性剤の充填量としては、耐クリープ性保持を考慮して５％以下とする。
【００１３】
なお、上記絶縁被膜９は外輪２外周面に形成する代わりに内輪１の内周面に形成してもよく、さらには、外輪２の外周面と内輪の内周面の両周面に形成してもよい。
【００１４】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明の電食防止転がり軸受は、絶縁性樹脂被膜が、強化材としてのガラス繊維を含有した絶縁性のあるフェノール樹脂に、さらに、水酸化アルミニウム材を含有したため、絶縁性かつ熱伝導性が高くなり、軸受内部の温度上昇が防止され、軸受寿命の向上を図ることができる。また、絶縁被膜のクリープが防止され、軸受の相手部材に対する初期圧入荷重が維持できる。
さらに、上記被覆材料に酢酸ビニル等の変性剤を充填すれば、柔軟性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】この発明の一実施形態である電食防止転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
１ 内輪
２ 外輪
３ 転動体
４ 保持器
５ 円周溝
６ 円周溝
７ 段付き部
８ 段付き部
９ 絶縁被膜
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば鉄道車両用電動機等に使用される電食防止転がり軸受に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来、例えば鉄道車両用電動機等の回転支持部分に使用された転がり軸受には、電流が流れた際、内輪と外輪と転動体の接触部で金属表面が溶ける電食現象が生じ、転がり軸受性能が低下する。このため、内輪の内周面と外輪の外周面の少くとも一方の周面に絶縁被膜を形成して、外部から転がり軸受に流れる電流を遮断し、電食を防止することが行われている。例えば特開平３ー２７７８１８号には、電食防止のための絶縁被膜として、強化材としてのガラス繊維を含有したポリフェニレンサルファイド樹脂を使用したものが記載されている。このポリフェニレンサルファイド樹脂は、耐熱性が非常に高いため、積極的に使用されている。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の絶縁防止転がり軸受においては、絶縁被膜として、ガラス繊維を含有したポリフェニレンサルファイド樹脂を使用しているため、絶縁性を有し、電食防止には高い効果を有しているが、一方でポリフェニレンサルファイド樹脂は熱の放熱性すなわち熱伝導性が非常に悪い。このため、転がり軸受に発生した温度上昇時に熱が放熱されず、軸受内部が高温となり、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化等、軸受寿命に悪影響が出ることがある。特に、近年は転がり軸受の高速回転や急加減速の回転条件で使用されることが多くなってきており、上記転がり軸受の温度問題がますます浮かび上がってきている。
【０００４】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂は軸受使用中にどうしてもクリープが発生しやすく、軸受の相手部材に対する初期圧入荷重が維持できないという問題もある。
【０００５】
本発明は、上記課題に対処するためになされたものであり、絶縁性かつ熱伝導性が高くしかもクリープが防止される樹脂材料を絶縁被膜として使用することにより、軸受性能の低下を防止できる電食防止転がり軸受を提供することを目的としている。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、請求項１においては、内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、内輪の内周面と外輪の外周面との少なくとも一方の周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有したことを特徴とする。
【０００７】
請求項２においては、内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、外輪の外周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁被膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有した被膜であり、前記外輪は、外周面と端面との間が曲面であり、前記絶縁被膜は、前記外周面と端面とに連なっているとともに、前記外輪の曲面に沿った曲面を外周面端部に備え、前記絶縁被膜の端面部分は、前記外輪の内周面に形成された段付き部に備えられた径方向外方に窪んだ凹部に対しても径方向外方に突出して被覆した部分が連なることを特徴とする。
【０００８】
請求項３においては、フェノール樹脂にさらに変性剤を加えて柔軟性を与えたことを特徴とする。
【０００９】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の具体的な実施の形態について図面を参照しながら説明する。図１において、内輪１と、外輪２と、内外輪１，２間に転動可能に介装されかつ保持器４に保持された転動体３とを有している。上記外輪２の外周面２ａには２条の円周溝５，６が形成されるとともに、外輪２の両端面２ｂ内周部には段付き部７，８が形成されている。そして、上記外輪２の外周面２ａの全面に亘って、絶縁被覆９が後述する樹脂の射出成型にて被覆されている。この絶縁被覆９は、上記円周溝５，６に充填されることにより軸方向のずれが防止され、また上記段付き部７，８内面にまで被覆させることにより、絶縁被覆９の端部からの剥がれが防止される。
【００１０】
つぎに、上記絶縁被膜９の樹脂は以下の構成を有している。すなわち、強化材としてのガラス繊維を含有した絶縁性のあるフェノール樹脂を使用する。このフェノール樹脂は熱硬化性樹脂であるため熱による寸法収縮やクリープが小さい有利性を有している。そして、上記ガラス繊維を含有したフェノール樹脂に、さらに、水酸化アルミニウム粉末を含有させている。
【００１１】
この水酸化アルミニウム粉末は、体積固有抵抗が８．７×１０１３Ω・ｃｍ、熱伝導率０．７１Ｗ／ｍ・Ｋであり、非常に高い絶縁性と熱伝導性を有している。そして、上記水酸化アルミニウム粉末を使用することで、さらにクリープによる寸法収縮を低減できる。なお、この実施例の材料は、一例として、フェノール樹脂３５％、ガラス繊維３５％、水酸化アルミニウム粉末３０％の組成とされ、堆積固有抵抗１×１０１３Ω・ｃｍ、熱伝導率０．６２Ｗ／ｍ・Ｋを有している。
なお、上記水酸化アルミニウム粉末の体積固有抵抗および熱伝導率の測定値は、水酸化アルミニウムとポリエーテルを１００：１２５の比率でサンプルを作り、測定した値である。
【００１２】
また、上記フェノール樹脂に上記各充填剤を含有したため、材料の柔軟性がやや低下し、金属と樹脂間の線膨張係数の相違に起因する疲労によるクラック発生や、組み立て工程時の破損の恐れが生じた場合は、上記フェノール樹脂にさらに酢酸ビニル、ＮＢＲ、キシレン等の変性剤で変性して柔軟性を与えてもよい。この変性剤の充填量としては、耐クリープ性保持を考慮して５％以下とする。
【００１３】
なお、上記絶縁被膜９は外輪２外周面に形成する代わりに内輪１の内周面に形成してもよく、さらには、外輪２の外周面と内輪の内周面の両周面に形成してもよい。
【００１４】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明の電食防止転がり軸受は、絶縁性樹脂被膜が、強化材としてのガラス繊維を含有した絶縁性のあるフェノール樹脂に、さらに、水酸化アルミニウム材を含有したため、絶縁性かつ熱伝導性が高くなり、軸受内部の温度上昇が防止され、軸受寿命の向上を図ることができる。また、絶縁被膜のクリープが防止され、軸受の相手部材に対する初期圧入荷重が維持できる。
さらに、上記被覆材料に酢酸ビニル等の変性剤を充填すれば、柔軟性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】この発明の一実施形態である電食防止転がり軸受の断面図である。
【符号の説明】
１ 内輪
２ 外輪
３ 転動体
４ 保持器
５ 円周溝
６ 円周溝
７ 段付き部
８ 段付き部
９ 絶縁被膜
Claims (3)
- 内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、内輪の内周面と外輪の外周面との少なくとも一方の周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有したことを特徴とする電食防止転がり軸受。
- 内輪と、外輪と、内外輪間に介装された転動体とを有し、外輪の外周面をその全面に亘って、合成樹脂からなる絶縁被膜で被覆した電食防止転がり軸受において、上記絶縁被膜は、ガラス繊維を含有するフェノール樹脂に水酸化アルミニウム材を含有した被膜であり、前記外輪は、外周面と端面との間が曲面であり、前記絶縁被膜は、前記外周面と端面とに連なっているとともに、前記外輪の曲面に沿った曲面を外周面端部に備え、前記絶縁被膜の端面部分は、前記外輪の内周面に形成された段付き部に備えられた径方向外方に窪んだ凹部に対しても径方向外方に突出して被覆した部分が連なることを特徴とする電食防止転がり軸受。
- 上記フェノール樹脂にさらに変性剤を加えて柔軟性を与えたことを特徴とする請求項１または２に記載の電食防止転がり軸受。
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| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP34934798A JP3821969B2 (ja) | 1998-11-24 | 1998-11-24 | 電食防止転がり軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP34934798A JP3821969B2 (ja) | 1998-11-24 | 1998-11-24 | 電食防止転がり軸受 |
Publications (2)
| Publication Number | Publication Date |
|---|---|
| JP2000161370A JP2000161370A (ja) | 2000-06-13 |
| JP3821969B2 true JP3821969B2 (ja) | 2006-09-13 |
Family
ID=18403168
Family Applications (1)
| Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
|---|---|---|---|
| JP34934798A Expired - Fee Related JP3821969B2 (ja) | 1998-11-24 | 1998-11-24 | 電食防止転がり軸受 |
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| Country | Link |
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Cited By (1)
| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| US10823229B2 (en) | 2017-03-24 | 2020-11-03 | Aktiebolaget Skf | Rolling-element bearing including an electrically insulating layer |
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|---|---|---|---|---|
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| JP6281717B2 (ja) * | 2016-03-10 | 2018-02-21 | 日本ガスケット株式会社 | 樹脂製部材 |
| RU198568U1 (ru) * | 2020-04-13 | 2020-07-16 | Открытое акционерное общество «Карпинский электромашиностроительный завод» | Подшипниковый узел асинхронного электродвигателя |
| DE102022106489A1 (de) | 2022-03-21 | 2023-09-21 | Schaeffler Technologies AG & Co. KG | Wälzlager |
| WO2024262144A1 (ja) * | 2023-06-23 | 2024-12-26 | 日本精工株式会社 | 絶縁軸受 |
-
1998
- 1998-11-24 JP JP34934798A patent/JP3821969B2/ja not_active Expired - Fee Related
Cited By (1)
| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| US10823229B2 (en) | 2017-03-24 | 2020-11-03 | Aktiebolaget Skf | Rolling-element bearing including an electrically insulating layer |
Also Published As
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|---|---|
| JP2000161370A (ja) | 2000-06-13 |
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