JP3821878B2 - 離型膜形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、離型膜形成方法に関し、詳しくは、レンズ等の光学素子のプレス成形において、成形品と成形用金型との離型性を高めるために、ガラスブランクの表面に離型膜を形成する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学機器の高性能化、軽量化に伴い、高精度の光学素子が必要とされている。このため、非球面レンズ等をプレス成形により形成することが行われている。このプレス成形においては、上型、下型および胴型からなる成形用金型を使用し、窒素ガス等の非酸化性雰囲気中において成形用金型に熱を加えつつ上型と下型との間にレンズの素材となるガラスブランクを充填し、上型および下型の成形面に形成されたレンズ形状をガラスブランクに転写することにより成形品であるレンズを成形するリヒートプレスが行われている。
【0003】
このようなガラスブランクのプレス成形において良好な成形品を得るためには、ガラスブランクと成形用金型との間の融着を防止して、成形品と成形用金型との離型性を向上させることが必要である。このため、成形素材であるガラスブランクに、成形用金型との融着を防止するための離型膜を形成する方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特公平2−31012号公報には、ガラスブランクの表面に50〜5000オングストロームの炭素膜を形成する方法が記載されている。また、特公平7−45329号公報には、ガラスブランクの表面に炭化水素膜を形成する方法が記載されている。そしてこれらの方法により、成形用金型とガラスブランクとの融着が防止され、成形品と金型との離型性を向上することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特公平2−31012号公報に記載された方法においては、炭素膜が50〜5000オングストロームと比較的厚いため、成形を重ねるごとに炭素膜が金型の成形面に残留し、これが徐々に堆積して成形面の形状が変化してしまうことがある。このように成形面の形状が変化すると、成形により得られるレンズの形状も変化することになり、とくに非球面レンズにおいては、サブμmのオーダーで設計されているため、レンズ性能に悪影響を及ぼすこととなる。このようなレンズへの悪影響は、成形面に堆積した炭素膜を除去することにより防止することができるが、炭素膜が厚いと炭素膜を除去する作業を頻繁に行う必要があるため、連続してレンズの成形を行うことができずレンズの生産性が低下する。また、レンズを成形した後に成形品に酸素プラズマ処理等を施して炭素膜を除去する必要があるが、その除去もまた困難となる。
【0006】
一方、上記特公平7−45329号公報に記載された方法においても、レンズを成形した後に酸素プラズマ処理等により、成形品から炭化水素膜を除去する必要がある。しかしながら、炭化水素と酸素を反応させると一酸化炭素あるいは二酸化炭素の他に水蒸気が発生し、炭化水素膜除去処理を行う装置内に水分が付着し、処理の再現性を損なう要因になるとともにレンズ表面の曇りの原因ともなる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、光学素子の生産性を低下させることなく、かつ離型膜を除去する際に水分を発生させることなく、金型とガラスブランクとの離型性を向上することができる離型膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による離型膜形成方法は、プレス成形により光学素子を製造する際に、成形用材料として用いられるガラスブランクの表面に離型膜を形成する方法において、
前記ガラスブランクの表面を酸素プラズマでクリーニングして該表面上の有機物系の汚れを除去した後、前記ガラスブランクの表面をアルゴンプラズマでクリーニングして、前記酸素プラズマでは除去し得ない、該表面上の無機物系の汚れを除去し、
その後に、前記ガラスブランクの表面に50オングストローム未満の厚さの炭素膜を形成することを特徴とするものである。
【0009】
また、前記炭素膜が10オングストローム未満であることが好ましい。さらに、前記アルゴンプラズマによるクリーニングの際、ガス圧を0.3torr、放電電力を400Wとすることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本実施形態により離型膜が形成されたガラスブランクを示す断面図である。図1に示すように、ガラスブランク1としては、所望の光学的特性のレンズを得るために必要な屈折率および分散値を有する光学ガラスを使用する。このガラスブランク1は最終的に形成されるレンズ形状に適した形状および寸法を有している。
【0011】
このガラスブランク1の光学機能面が形成される面、すなわち後述する成形用金型の上型および下型の成形面に接触する面には、炭素膜2が形成されている。この炭素膜2の厚さは50オングストローム未満、好ましくは10オングストローム未満である。
【0012】
図2はガラスブランク1の表面に炭素膜2を形成するための炭素膜形成装置の構成を示す概略図である。図2に示すように、炭素膜形成装置10は真空槽11と、真空槽11に形成された排気口12と、真空槽11内にガスを導入するガス導入口13とからなる。排気口12は図示されない真空源と接続され、ガス導入口13は図示されないガス源に接続されている。真空槽11内には、ガラスブランク1を保持するためのブランクホルダ20と、真空槽11内に高周波を印加するための陽極21および陰極22が配されている。
【0013】
なお、陽極21は、真空槽11と同様にアースされており、表面に多数の孔が形成された有孔電極であって、これらの孔から種々のガスが真空槽11内に供給される。
【0014】
次いで、図2に示す炭素膜形成装置により、ガラスブランク1の表面に炭素膜2を形成する方法について説明する。
まず、ガラスブランク1をブランクホルダ20により保持して真空槽11内の所定位置にセットする。次いで、排気口12より排気を行って真空槽11内を10-4〜10-5Torr程度まで減圧し、ガス導入口13から酸素ガス(O2 )を0.3torrとなるまで導入する。酸素ガスの導入後、陽極21と陰極22間に400Wの高周波を印加して酸素プラズマを形成する。そしてこの酸素プラズマによる高周波放電を1分間行い、ガラスブランク1に付着している、有機物等の酸素と結合する汚れをアッシング(灰化)することにより除去する。
【0015】
その後、ガス導入口13からの酸素ガスの導入を停止するとともに、ガス導入口13からアルゴンガス(Ar)を0.3Torrとなるまで真空槽11内に導入する。アルゴンガスの導入後、陽極21と陰極22間に400Wの高周波を印加してアルゴンプラズマを形成する。そしてアルゴンプラズマによる高周波放電を1分間行ってガラスブランク1のプラズマクリーニングを行い、ガラスブランク1に付着している金属等の無機物の如く、酸素プラズマにより除去できない汚れを除去する。
【0016】
このようにして、ガラスブランク1に付着した汚れを除去した後、ガス導入口13からのアルゴンガスの導入を停止するとともに、ガス導入口13からメタンガス(CH4 )を0.3torrとなるまで真空槽11内に導入する。メタンガスの導入後、陽極21と陰極22間に50Wの高周波を印加してメタンプラズマを形成する。そしてメタンプラズマによる高周波放電を30秒間行い、ガラスブランク1の表面に50オングストローム未満の厚さの炭素膜2を形成する。
【0017】
この酸素プラズマ、アルゴンプラズマおよびメタンプラズマの条件を以下の表1に示す。
【表1】
Figure 0003821878
【0018】
本発明においては、酸素プラズマによりガラスブランク1の有機物の汚れを除去するとともに、アルゴンプラズマによりガラスブランク1の無機物の汚れを除去しているため、ガラスブランク1の表面には、汚れによる凹凸のない良好な炭素膜2を形成することができる。
このようにして炭素膜2が形成されたガラスブランク1は以下のようにしてプレス成形がなされる。
【0019】
図3は炭素膜2が形成されたガラスブランク1を成形するプレス成形機の概略構成を示す断面図である。図3に示すように、プレス成形機30は、所望とするレンズ形状が成形面に精密鏡面加工された上型31および下型32と、内周面が精密鏡面加工された型孔33aを有する胴型33とを備えてなる。なお、上型31、下型32および胴型33はタングステンカーバイド等の超硬合金からなり、上型31および下型32の成形面には成形品の離型性を向上させるとともに、上型31および下型32の酸化を防止するために、TiAlN膜(チタン−アルミニウム窒化膜)が形成されている。上型31は駆動台34に固定されるとともに、胴型33の型孔33aに挿入されてその内周面を上下に摺動するように図示されない駆動装置により駆動される。一方、下型32は胴型33に対して摺動しないように支持台35に固定される。
【0020】
胴型33の周囲には誘導加熱コイル36が巻回されており、この誘導加熱コイル36に電力を供給することにより、胴型33がガラスブランク1の成形に必要な温度(500〜600℃)に加熱される。なお、胴型33に熱電対等の温度測定手段を取付け、胴型33の温度を測定して所望とする温度を維持できるように制御することが好ましい。
【0021】
プレス成形機30は真空槽40内に配されている。真空槽40には排気口41と、真空槽内に窒素ガスを導入するガス導入口42とが形成されている。排気口41は図示されない真空源と接続され、ガス導入口42は窒素ガスを真空槽40内に導入するためのガス源に接続されている。これにより、ガス導入口42より窒素ガスが導入され、窒素雰囲気中においてガラスブランク1の成形が行われる。
【0022】
次いで、図3に示すプレス成形機30によりガラスブランク1を成形する方法について説明する。
まず、炭素膜2が形成された面が成形時に上型31および下型32の成形面に接触するように胴型33の型孔33a内にガラスブランク1を挿入する。次いで、排気口41より排気を行って真空槽40内を減圧し、ガス導入口42から窒素ガスを導入する。その後、誘導加熱コイル36に電力を供給して、胴型33を所望とする温度(500〜600℃)に加熱する。窒素ガスの導入後、上型31を下型32に向けて駆動して、ガラスブランク1を所定の圧力により所定の加圧時間だけ保持する。これにより、上型31および下型32の成形面に形成されたレンズ形状がガラスブランク1に転写される。この際、ガラスブランク1の表面には炭素膜2が、上型31および下型32の成形面にはTiAlN膜がそれぞれ形成されているため、ガラスブランク1と上型31および下型32との融着が防止される。
【0023】
その後、誘導加熱コイル36への電力の供給を停止し、胴型33を徐々に冷却する。そして、上型31を上方に駆動して型を開き、成形品であるレンズを取り出す。この際、ガラスブランク1には炭素膜2が形成され、かつ上型31および下型32にはTiAlN膜が形成されていることから、成形品であるレンズと上型31および下型32とは融着せず、したがってレンズを上型31および下型32から容易に離型することができる。
【0024】
なお、レンズの表面には炭素膜2が付着されているため、レンズに対して酸素プラズマ処理あるいはアニーリングを施すことにより、炭素膜2を一酸化炭素または二酸化炭素にガス化させて除去し、最終的な製品としてのレンズを得る。
このようなレンズの成形を繰り返し行った後、上型31および下型32の成形面を観察したところ、炭素膜2の堆積を大幅に低減できることが本願発明者の実験により確認された。とくに炭素膜2の厚さを10オングストローム未満とした場合には、炭素膜2が堆積している形跡はほとんど見られなかった。
【0025】
このように、本発明はガラスブランク1の表面に厚さが50オングストローム未満、好ましくは10オングストローム未満の炭素膜2を形成したため、ガラスブランク1と上型31および下型32との融着を防止し、上型31および下型32と成形品との離型性を向上することができる。また、炭素膜2の厚さが50オングストローム未満であるため、上型31および下型32の成形面への炭素膜2の堆積を大きく減少させることができ、これにより、成形面の清掃回数を低減して金型の連続成形数を大幅に増加させ、レンズの生産性を向上させることができる。さらに、成形品からも容易に短時間で炭素膜2を除去することができるため、レンズの生産性をさらに向上することができる。また、成形品から炭素膜2を除去する際にも、炭化水素膜と異なり水蒸気が発生することがないため、炭素膜2を除去する装置内に水分が付着して悪影響を及ぼすこともない。さらに、炭素膜2は炭化水素膜と比較して一般的に硬度が低いため、炭化水素膜よりもその除去が容易なものとなる。
【0026】
また、ガラスブランク1の表面に炭素膜2を形成する前に、酸素プラズマによるアッシングおよびアルゴンプラズマによるプラズマクリーニングによってガラスブランク1に付着した汚れを除去しているため、50オングストローム未満の薄い炭素膜2を汚れによる凹凸なくガラスブランク1の表面に形成することができ、これにより成形面のレンズ形状をガラスブランク1に良好に転写することができる。
【0027】
なお、上記実施形態においては、上記表1に示す条件により酸素プラズマ、アルゴンプラズマおよびメタンプラズマによる各処理を行っているが、成形するガラスブランクの素材の種類等に応じて種々の条件に変更することができる。
また、上記実施形態においては、プレス成形機30の胴型33のみを加熱するようにしているが、真空槽40内の全体を加熱するようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施形態においては、上型31のみを駆動してガラスブランク1を成形しているが、上型31と下型32の双方、あるいは下型32のみを駆動してガラスブランク1の成形を行うようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、ガラスブランクからレンズを成形しているが、プリズム、フィルタ等種々の光学素子を成形する際にも、本発明を適用することができる。
【0029】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明による離型膜形成方法では、ガラスブランクの表面に厚さが50オングストローム未満、好ましくは10オングストローム未満の炭素膜を形成したため、成形用金型の成形面への炭素膜の堆積を大きく減少させることができる。これにより、成形面の清掃回数を減少させて金型の連続成形数を大幅に増加させることができ、したがって、光学素子の生産性を向上させることができる。さらに、成形品からも容易に短時間で炭素膜を除去することができるため、光学素子の生産性をさらに向上することができる。また、成形品から炭素膜を除去する際に水蒸気が発生することがないため、装置内に水分が付着して処理の再現性を損なう要因となったり、成形品に水蒸気による曇りが発生する原因となる等のおそれがない。
【0030】
また、ガラスブランクに炭素膜を形成する前に、酸素プラズマによりアッシングを行ってガラスブランクに付着した汚れを除去しているため、50オングストローム未満の薄い炭素膜を汚れによる凹凸なくガラスブランクの表面に形成することができ、これにより成形面の形状をガラスブランクに良好に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による離型膜形成方法により炭素膜が形成されたガラスブランクを示す概略図
【図2】ガラスブランクに炭素膜を形成する炭素膜形成装置の構成を示す概略図
【図3】ガラスブランクを成形するプレス成形機の構成を示す図
【符号の説明】
1 ガラスブランク
2 炭素膜
10 炭素膜形成装置
11、40 真空槽
12、41 排気口
13、42 ガス導入口
21 陽極
22 陰極
30 プレス成形機
31 上型
32 下型
33 胴型

Claims (3)

  1. プレス成形により光学素子を製造する際に、成形用材料として用いられるガラスブランクの表面に離型膜を形成する方法において、
    前記ガラスブランクの表面を酸素プラズマでクリーニングして該表面上の有機物系の汚れを除去した後、前記ガラスブランクの表面をアルゴンプラズマでクリーニングして、前記酸素プラズマでは除去し得ない、該表面上の無機物系の汚れを除去し、
    その後に、前記ガラスブランクの表面に50オングストローム未満の厚さの炭素膜を形成することを特徴とする離型膜形成方法。
  2. 前記炭素膜が10オングストローム未満であることを特徴とする請求項1記載の離型膜形成方法。
  3. 前記アルゴンプラズマのクリーニングの際、ガス圧を0.3torr、放電電力を400Wとすることを特徴とする請求項1または2記載の離型膜形成方法。
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