JP3821720B2 - 眼光学特性測定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検眼眼底に投影された視標像の光量強度分布特性に基づき被検眼の視力値を推定演算可能な眼光学特性測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、被検眼眼底に視標像を投影する為の視標投影系と、前記視標像を光電検出器上に導く為の受光光学系を有し、前記光電検出器に検出された視標像の光量強度分布に基づき、被検眼眼底に視標像を投影した場合に形成されるであろう眼底上のシミュレーション画像を演算し、この演算結果により、被検眼眼底上にどの様な画像が形成されるかを観察可能にした装置を本出願人が既に出願している。
【0003】
この装置に於いては、実際に各種の視標像を投影しなくても、各種視標像がどの様な状態で被検眼眼底に投影されるかを演算により算出して観察できるという効果を有する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
然し乍ら、この既に出願をしている装置に於いて、シミュレーションで得られた画像自体を観察できるという利点がある反面、被検眼の視力値に関しては観察結果から検者自身が視力値を推測しなければならず、正確な視力値を得ることは困難であるという問題を有していた。
【0005】
本発明は斯かる実情に鑑み、従来の眼光学特性測定装置の有する問題点を解決することを目的とするものであり、被検者に視認結果を問うことなく、測定データより客観的に正確な視力値を得る様にするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、被検眼眼底に視標像を投影する為の視標投影系と、前記視標像を光電検出器に導く為の受光光学系と、前記光電検出器により検出された視標像の光量強度分布に基づき被検眼の眼球光学系の光伝達関数を算出する為の算出部と、前記光伝達関数と所定のスレッシュホールド値との交点により被検者の視力値を演算する演算部を具備する眼光学特性測定装置に係り、又前記光伝達関数は矩形波周波数特性である眼光学特性測定装置に係り、又前記スレッシュホールド値はモジュレーションスレッシュホールドである眼光学特性測定装置に係り、更に又前記モジュレーションスレッシュホールドは年代に応じて複数用意され、被検者に対応したモジュレーションスレッシュホールドが用いられる眼光学特性測定装置に係るものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
【0008】
先ず、人眼の眼底組織について略述する。
【0009】
図1は人眼の眼底組織の模式図を示しており、31は視細胞層、32は網膜色素上皮層、33は脈絡膜、34は強膜を示している。
【0010】
前記視細胞層31は前記網膜色素上皮層32に対して垂直な繊維状の視細胞の集合である。前記視細胞層31(視細胞)を透過した光束は、前記網膜色素上皮層32により鏡面反射される一方、一部の光束は該網膜色素上皮層32を透過し、その後方の前記脈絡膜33、強膜34で散乱反射される。但し、この散乱反射光は人が認識する像としては殆ど影響を与えない。
【0011】
ここで、前記視細胞層31に入射した光束が視細胞を透過する際、視細胞内で略全反射を繰返して透過することが実験上確かめられている。
【0012】
図2は本実施の形態に係る眼光学特性測定装置の基本構成を示している。
【0013】
図中、1は被検眼、2は投影光学系、3は受光光学系を示す。
【0014】
前記投影光学系2は光源5、該光源5から発せられた投影光束を集光する投影レンズ6、該投影レンズ6の光軸上に配設されたハーフミラー7、該ハーフミラー7を透過した投影光束を前記被検眼1に向け第1の偏光方向の直線偏光成分(P直線偏光)を反射して投影すると共にP直線偏光とは偏光方向が90°異なるS直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタ8、該偏光ビームスプリッタ8の投影光軸上に該偏光ビームスプリッタ8側から配設されたリレーレンズ9、対物レンズ11、該対物レンズ11と前記被検眼1との間に配設され球面レンズで構成される矯正光学系12、1/4波長板13を有する。更に、前記ハーフミラー7に対向して固視標15、集光レンズ16を有する固視標系17が配設されている。前記光源5、固視標15は前記被検眼1の眼底と共役な位置にあり、後述する様に、前記光源5、固視標15は眼底に結像する。尚、前記光源5と投影レンズ6とは一体に構成され、後述の合焦レンズ19と連動して光軸方向に沿って移動可能となっている。
【0015】
前記受光光学系3は、前記偏光ビームスプリッタ8、該偏光ビームスプリッタ8の投影光軸上に配設された前記リレーレンズ9、対物レンズ11、矯正光学系12、1/4波長板13を前記投影光学系2と共用している。
【0016】
前記偏光ビームスプリッタ8を透過する反射光軸上には反射光軸に沿って移動可能な合焦レンズ19、結像レンズ20が配設され、該結像レンズ20は前記被検眼1の眼底と共役な位置にある光電検出器21上に反射光束を結像させる。
【0017】
該光電検出器21からの受光信号は信号処理部26を介して記憶部27に記憶される。前記信号処理部26から前記記憶部27へのデータの書込みは制御部28によって制御され、又該制御部28は視力演算部を有し前記記憶部27に記憶されたデータを基に所要の演算をして推定視力値を演算し、又演算結果を表示部29に表示する。
【0018】
以下、上記光学系の作用について説明する。
【0019】
前記合焦レンズ19を基準位置とし、前記被検眼1に前記固視標15を注視させる。この時、前記矯正光学系12は矯正量0に設定する。
【0020】
前記被検眼1に前記固視標15を注視させた状態で、前記投影光学系2により投影光束が前記被検眼1の眼底に投影され、該被検眼1の眼底には点光源像が形成される。尚、前記固視標15に関しては、可視光が用いられ、前記投影光束については赤外光が用いられる。
【0021】
前記光源5からの投影光束(赤外光)が前記投影レンズ6、ハーフミラー7を透過して前記偏光ビームスプリッタ8に至り、該偏光ビームスプリッタ8でP直線偏光分が反射され、前記リレーレンズ9を経て前記対物レンズ11、矯正光学系12により前記1/4波長板13を経て前記被検眼1の眼底に投影され、該眼底上に第1視標像が結像される。
【0022】
P直線偏光が前記1/4波長板13を透過することで、右円偏光となる。前記被検眼1の眼底で投影光束が全反射され、全反射光束は眼底で反射されることで左円偏光となる。更に、全反射光束が前記1/4波長板13を透過することで、前記P直線偏光とは偏光方向が90°異なるS直線偏光となる。
【0023】
S直線偏光は前記矯正光学系12、対物レンズ11、リレーレンズ9により前記偏光ビームスプリッタ8に導かれる。該偏光ビームスプリッタ8はP直線偏光を反射し、S直線偏光を透過するので、前記全反射光束は該偏光ビームスプリッタ8を透過し、前記合焦レンズ19、結像レンズ20により前記光電検出器21上に第2視標像として結像される。
【0024】
ところで、前記被検眼1の眼底に投影された投影光束は眼底表面で全て鏡面反射されるわけではなく、一部は眼底表面から表層内部に侵入し、散乱反射される現象、所謂にじみ反射が発生する。この散乱反射光束が、鏡面反射光束と共に前記光電検出器21に受光されると、第2視標像の光量強度分布のノイズとなり、正確な眼球光学系の眼光学特性が測定できない。
【0025】
斯かる散乱反射による光束の偏光状態はランダム状態である。この為、前記1/4波長板13を透過し、直線偏光となった場合にS直線偏光と合致するものは限られた部分に限定され、前記偏光ビームスプリッタ8により散乱反射光束でS直線偏光と合致するもの以外は反射される。従って、前記被検眼1の眼底で鏡面反射されたS直線偏光分に対して散乱反射光束によるS直線偏光分の比率は無視できる程度に小さくなる。
【0026】
従って、前記光電検出器21が受光するのは実質上散乱反射光束分が除去された鏡面反射光束となる。而して、前記1/4波長板13を投影光学系2、受光光学系3の構成要素とすることで、正確な眼球光学系の眼光学特性測定を可能とする。前記制御部28は前記光電検出器21からの受光信号及び前記記憶部27に記憶されたデータを基に光量強度分布特性、眼球光学系の光伝達関数を演算し、更に光伝達関数に基づき被検眼1の推定視力値を演算する。
【0027】
以下の手順により、眼底光学特性を測定することができる。
【0028】
ここで図3(A)は眼底上に光束のピントが合った状態であり、図3(B)は眼底上に光束のピントが合っていない状態を示すが、前述した眼底の細部構造の影響により、いずれの状態でも前記被検眼1の眼球光学系の振幅透過率をP(x,y)、前記網膜色素上皮層32での反射特性を含む視細胞の振幅透過率をR(x,y)、二次元検出器(光電検出器21)からの受光信号に基づき演算され、測定される二次元検出器上の二次元光量強度分布をI(x,y)とすると下記式が成立する。
Figure 0003821720
ここで、※はコンボルーション積分を意味する。
【0029】
次に、(1)式の両辺をフーリエ変換する。
ここで、眼球光学系の光伝達関数をp(u,v)、視細胞の光伝達関数をr(u,v)、二次元検出器上の二次元光伝達関数をi(u,v)とすると下記式が成立する。
FT[P(x,y)]=p(u,v)
FT[R(x,y)]=r(u,v)
FT[I(x,y)]=i(u,v)
従って、(1)式をフーリエ変換すると、
p(u,v)×{r(u,v)}2 ×p(u,v)=i(u,v) (2)
となる。
従って、略下記式が成立する。
[p(u,v)r(u,v)]2 =i(u,v) (3)
従って、
p(u,v)r(u,v)=√[i(u,v)] (4)
となる。
ここで、|FT[I(x,y)]|=i(u,v) (5)
であるから、測定される二次元検出器上の二次元光量強度分布I(x,y)をフーリエ変換し、(5)式でi(u,v)を求め、(4)式に代入して眼球光学系と視細胞の光伝達関数p(u,v)r(u,v)を算出する。
【0030】
以下、この光伝達関数に基づき、被検眼の視力値を推定する為の演算方法に関して述べる。
【0031】
ここで前述の式で計算され得られる光伝達関数p(u,v)r(u,v)は、正弦波の光量強度分布に対するものであり、正弦波チャートに対する眼の周波数特性は、いわゆるMTFと呼ばれる。以下、前記光伝達関数を一次元関数として、
MTF(u)=p(u)r(u)とする。 (6)
【0032】
一方視力値を判断する場合、例えば視力検査用視標として用いられる白黒ランドルト環であれば、切れ目をどの程度の大きさまで認識できるかを測定するものであるので、切れ目の大きさには矩形波の光量強度分布が対応する。
【0033】
ここで、矩形波チャートに対する眼の周波数特性(光伝達関数)は、Square- MTF(矩形波周波数特性)(以下、S- MTFという)と呼ばれる。視力を測定する場合は、矩形波チャートに対する周波数特性に基づいて測定されるので、上記正弦波チャートに対する眼の周波数特性、MTFをS- MTFに換算する必要がある。
【0034】
上記S- MTF(u)は、上記(6)式に基づき下記(7)式で演算される。S- MTF(u)=4/π{MTF(u)−(MTF(3u))/3+(MTF(5u))/5−(MTF(7u))/7+・・・} (7)
【0035】
この(7)式の演算結果を示したのが図4に示されるS- MTF曲線であり、図中縦軸はS- MTF値を示し、横軸は周波数uを示す。
【0036】
ここで、このS- MTF曲線から被検者の視力値を推定する際、一定のスレッシュホールド値を決め、スレッシュホールド値とS- MTF曲線との交点により視力値を推定することも可能であるが、S- MTFの値が小さな被検者にとっては、その方法では推定値に誤差が生じやすい。その為、本発明では、一定のスレッシュホールド値ではなく、視覚系の中の神経系の閥値を示す、いわゆるModulation−Threshold(モジュレーションスレッシュホールド)(以下、MT(u)とする)を使用する。
【0037】
MT(u)は、眼球に2光束を入光させ、眼底網膜上に干渉縞を直接形成し、干渉縞の状態を観察することで実験的に求められるものである。尚、求められるMT(u)は、正弦波MT(u)であり、閥値として使用されるのは矩形波に対するSquare- MT(以下、S- MT)であるので、前記正弦波MT(u)から換算される。
【0038】
換算はS- MTFを求めたのと同様、下記式によって得られる。
S- MT(u)=4/π{MT(u)−(MT(3u))/3+(MT(5u))/5−(MT(7u))/7+・・・} (8)
【0039】
ここで求められたS- MT(u)は被検眼が識別可能な境界値を示すものであり、S- MT(u)より大きな値では被検眼が識別可能、又S- MT(u)より小さな値では被検眼が識別できないことを示す。
【0040】
更に、前記S- MT(u)は、一般的には年代により変化するもので、10才台での関数S- MT10(u)、20才台でのS- MT20(u)、30才台でのS- MT30(u)、…を用意し、被検者の年代に対応したModulation−Threshold(S- MTa (u)) を用いて、被検者のS- MTFを示す図4のグラフにS- MTa (u)を重合せ、S- MTF曲線とS- MTa(u)曲線との交点に対応する周波数uを算出する。
【0041】
例えば、被検者が10代の場合、図4中、S- MT10とS- MTFとの交点に対応する周波数u10が求められる。
【0042】
いわゆる小数視力値(D.V.A.)とuとの関係は、D.V.A.=u/100の関係があり、前記求められた周波数u10を基に小数視力値D.V.A.が求められる。而して、被検者の年代のMT(u)に相応したスレッシュホールド値を用いて視力値を求めるので、推定値の誤差を低減できる。
【0043】
而して、被検者の応答によることなく、被検眼の視力値を測定することができる。
【0044】
尚、本実施の形態では、合焦レンズ19を基準位置とし、且つ、矯正光学系12は矯正量0に設定して測定を行い、その測定結果に基づき被検者の裸眼での視力値を推定する例で説明を行ったが、その場合に限らず、矯正光学系を調整し、或は、合焦レンズを移動させ、所定量の屈折矯正を行った状態で測定を行い同様な演算を行えば、所定量の屈折矯正後の視力値をも推定することができる。
【0045】
【発明の効果】
以上述べた如く本発明によれば、被検眼眼底に視標像を投影する為の視標投影系と、前記視標像を光電検出器に導く為の受光光学系と、前記光電検出器により検出された視標像の光量強度分布に基づき被検眼の眼球光学系の光伝達関数を算出する為の算出部と、前記光伝達関数と所定のスレッシュホールド値との交点により被検者の視力値を演算する演算部を具備するので、各種大きさの視力検査用視標を見せて被検者の応答により視力値を測定するといういわゆる自覚式検眼方法を使用せずに、所定の視標像を眼底に投影し、その視標像の光量強度分布を測定することだけで、演算処理により、被検眼の視力値を正確に推測できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】人眼の眼底の模式図である。
【図2】本実施の形態に係る眼光学特性測定装置の基本構成図である。
【図3】(A)(B)は該眼光学特性測定装置に於ける被検眼眼底での反射状態を示す説明図である。
【図4】被検眼の光伝達関数と各年代に応じたスレッシュホールド値との関係を示す線図である。
【符号の説明】
1 被検眼
2 投影光学系
5 光源
12 矯正光学系
13 1/4波長板
15 固視標
17 固視標系
19 合焦レンズ
21 光電検出器
26 信号処理部
29 表示部

Claims (4)

  1. 被検眼眼底に視標像を投影する為の視標投影系と、前記視標像を光電検出器に導く為の受光光学系と、前記光電検出器により検出された視標像の光量強度分布に基づき被検眼の眼球光学系の光伝達関数を算出する為の算出部と、前記光伝達関数と所定のスレッシュホールド値との交点により被検者の視力値を演算する演算部を具備することを特徴とする眼光学特性測定装置。
  2. 前記光伝達関数は矩形波周波数特性である請求項1の眼光学特性測定装置。
  3. 前記スレッシュホールド値はモジュレーションスレッシュホールドである請求項1の眼光学特性測定装置。
  4. 前記モジュレーションスレッシュホールドは年代に応じて複数用意され、被検者に対応したモジュレーションスレッシュホールドが用いられる請求項3の眼光学特性測定装置。
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