JP3819717B2 - 人工歯およびこれを用いた有床義歯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、義歯床への埋設・固定状態を向上させた人工歯およびこれを用いた有床義歯に関する。具体的には義歯床に対して従前には無かった新しい方法で植設できる人工歯、および当該人工歯を従前には無かった新しい方法で植設した有床義歯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、義歯床に対する人工歯の植設には、光や熱によるレジンの重合反応を利用した接合(重合、結合)によって相互に固着する方法等が汎用されているが、必ずしも万全ではなく構造的、機能的、経済的な問題点も少なからずあった。
【0003】
例えば、従来知られているこの種の有床義歯には、図12に示すように、埋込部の外面を覆う床材の縁部が外縁に向かうに従って徐々に薄くなった状態とされていたために、これを口腔内に装着して食物を咀嚼する咬合力が作用したときに次のような問題点が生じていた。
a、人工歯の外面を覆う床材の外縁が徐々に薄くなる形となっていたために当該薄い縁が咀嚼中の食物等との当接によってめくれや、破損が生じ易く、汚れの付着や溜まりが生じ易い。
b、人工歯と床材とは硬度差が大きいことから咀嚼による咬合力に基づく挙動が異なり、人工歯と床材との界面に応力集中が生じたり、咀嚼等を繰り返すことで人工歯と床材との界面が剥離したり、破損したりすることになり、人工歯が義歯床から比較的短い期間で脱落する。
c、人工歯を埋設した有床義歯は、作業模型上で人工歯を配列した後にワックスで義歯床部を形成する工程、これにより得られた蝋義歯を石膏型に埋没する工程、流蝋してできた空洞部にレジンペースト(または餅状物)を填入する工程、これを重合硬化させる工程を順に行って製作するが、この製作の途中で、蒸気または熱湯を以て埋込部の表面や石膏型の空洞部の内表面等にワックスが残らないように流蝋後のレジンペースト等の填入前に施すことを行うがワックスの完全な除去が難しく、僅かに埋込部の表面等にワックスが残ることが往々にあって、このワックスの残りが埋込部と義歯床との接着に悪影響を及ぼす。
d、蒸気または熱湯によるワックスクリーニング後には、石膏型の空洞部の内表面等に分離を良好にするために分離材を塗布し、用済み後には余分な分離材をエアーによって除去していたが、分離材が埋込部に僅かながら残り、これも、埋込部と義歯床との接着に悪影響を及ぼす。
e、人工歯の外面を覆う部分の床材を肉厚とし且つ人工歯の埋込部を延長することで埋設部分を多くすることによって義歯床への人工歯の固定を強化することも考えられるが、このように人工歯の外面を覆う部分を肉厚なものとすることは、患者の口腔内での装着感が悪くなると共に歯冠部の義歯床からの露出度が少なくなって、審美性が低下する等の新たな問題点が発生するので実用的とは言いがたい。
【0004】
したがって、義歯床から人工歯が脱落することなく長期間にわたり使用できるようにすることが必要であり、短期間のうちに脱落するようなことがおきると歯科医院としてのイメージダウンにも繋がる。
【0005】
そこで、本発明者は、上記の問題点を解消しようとして鋭意研究した結果本発明すなわち、人工歯の埋込部に義歯床の床材が流入する貫通孔を、また同埋込部の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝を設けた人工歯を開発することができたのである。
【0006】
そして、これによって、(1)審美性に優れた有床義歯が簡単容易に実施できる、(2)有床義歯から人工歯が脱落しない、(3)埋込部の外面を覆う床材の縁が咀嚼中の食物との当接によって動きにくい、(4)埋込部の外面を覆う床材の縁が咀嚼中の食物との当接によってめくれたり、破損したりしない、(5)上記縁の動きやめくれや破損が原因で汚れの付着や溜まりが生じたりしない、等の諸効果を発揮できるようにしたものである。
【0007】
なお、従前、人工歯の埋込部に義歯床の床材が流入する貫通孔をまた同埋込部の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝を設けた人工歯およびこれを用いた有床義歯は、見当たらなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点を解消しようとして鋭意研究した結果創案された新規の人工歯、およびこれを利用した新規の有床義歯、すなわち咀嚼等による咬合力により力学的作用を繰り返し受けても上記ようなめくれや、剥離、破損が生じ難く、人工歯の脱落等の恐れの極めて少ない、審美性にも優れた人工歯および当該人工歯をもつ有床義歯を新規に提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、床材で形成された義歯床に植設して使用するための人工歯であって、上記床材に被覆される埋込部と、上記埋込部の上記床材の外縁との接合部位に設けられた横向き凹溝とを有し、上記横向き凹溝に上記床材が流入して固化した場合に、上記横向き凹溝において上記人工歯と上記義歯床とを係合させうる玉縁状部が形成され、上記人工歯は、上記玉縁状部を介して上記義歯床に固定されるものである。
【0010】
【作用】
すなわち、人工歯における埋込部が義歯床に植設された状態では、人工歯における埋込部を被覆する床材の外縁が同人工歯に設けた凹溝内に流入して当該凹溝内で玉縁状態に固化し、よって人工歯と義歯床との係合面積を充分に増量し且つ当該玉縁状部によって床材の縁個所が確実に強化されると共に埋込部を被覆する床材が貫通孔に流入充填して逢着糸状態に固化し、よって人工歯と義歯床との分離を阻止する機械的な維持の強化を上記の玉縁状部の係合と相俟って果たすものである。
【0011】
つまり、本発明において上記玉縁状部および逢着糸状部は、咀嚼等の繰返で義歯床の縁がめくれたり、人工歯が義歯床から脱落したりすることを確実に防止する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に依拠して説明する。
【0013】
図1に示す第1実施例は、臼歯型の人工歯本体1における義歯床2への埋込部3に義歯床の床材が流入する貫通孔4を設けたものであって、その使用の一例を図2に示す。
【0014】
図3に示す第2実施例は、人工歯本体1における義歯床2への埋込部3に義歯床の床材が流入する貫通孔4を設けると共に埋込部3の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝5を設けたものであって、その使用の一例を図4に示す。
【0015】
図5に示す第3実施例は、人工歯本体1における義歯床2への埋込部3に義歯床の床材が流入する貫通孔4を設けると共に埋込部3の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝5と縦向き凹溝6を、当該縦向き凹溝6の一端が横向き凹溝5に、同じく他端が埋込部3の底面にそれぞれ連通させて設けたものであって、その使用の一例を図6に示す。
【0016】
図7に示す第4実施例は、人工歯本体1における義歯床2への埋込部3に義歯床の床材が流入する貫通孔4を設けると共に埋込部3の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝5を設け、この横向き凹溝5に貫通孔4の一端が連通しまた同貫通孔4の他端を埋込部3の外周面壁に連通させた状態で設けたものであって、その使用の一例を図8に示す。
【0017】
図9に示す第5実施例は、人工歯本体1における義歯床2への埋込部3に義歯床の床材が流入する貫通孔4を設けると共に同埋込部3の外周面壁に義歯床の床材が流入する横向き凹溝5を、当該横向き凹溝5に貫通孔4の両端が連通した状態で設けたものであって、その使用の一例を図10に示す。
【0018】
図11に示す第6実施例は、前歯型人工本体8に貫通孔4および横向き凹溝5を設けたものである。
【0019】
また、凹溝の形すなわち幅や深さは、上記接着面積を充分増加できるようにしたり、横向き凹溝の断面形状をほぞ溝形状等の抜けにくいようにしたり、玉縁状部による機械的な維持強化構造の機能を十分に発揮できるようにしたりすること、歯冠部の外周面と玉縁状部の外面が唇側から観察したときに段差を形成して審美性を損なうことのないようにすること等を勘案し、歯の種類、大小等に応じて決定されている。
【0020】
なお、人工歯には、陶歯、レジン歯、金属歯等が採用でき、また歯科用の床材にはポリアミド(ナイロン)、その他等の軟質合成樹脂でも、アクリル系樹脂やメチルメタクリレート樹脂、その他等の硬質合成樹脂でも採用でき、また義歯床は合成樹脂繊維・金属繊維・金属線・金属撚り線・網体・不織布プリプレグ帯体等で補強することも自由であり、更に本発明に係る人工歯は全部床義歯にも部分床義歯にも利用できるものである。
【0021】
【発明の効果】
請求項1に係る人工歯は、これを用いて請求項7及び8に係る次のような効果を備えた有床義歯の提供を可能とする著効を奏するものである。すなわち、
(1)審美性に優れた完成品を簡単且つ容易に実施することを可能にする。
(2)人工歯が脱落しない。
(3)埋込部を覆う床材の縁が咀嚼中の食物との当接によって動かない。
(4)埋込部を覆う床材の縁が咀嚼中の食物との当接によってめくれたり、破損したりしない。
(5)上記縁の動きやめくれや破損が原因する汚れの付着や溜まりを回避できる。
【0022】
請求項2及び3に係る人工歯は、貫通孔内で固化した逢着糸状の床材が横向き溝内で固化した玉縁状部を所謂吊り込み止めるものであって、横向き溝内で固化した玉縁状部の機能を尚一層強く確実にする利点を有するものである。
【0023】
請求項4に係る人工歯は、縦向き凹溝内にも床材が流入して固化するようにしたものであって、当該縦向き凹溝内の床材が横向き溝内で固化した玉縁状部を一層強く確実にする利点を有するものである。
【0024】
請求項5に係る人工歯は、横向き凹溝が全周に設けられたので、横向き溝内で固化した玉縁状部の機能を尚更一層強く確実にする利点を有するものである。
【0025】
請求項6に係る人工歯は、横向き凹溝の断面形状がほぞ溝形状等の抜けにくい形状とされたので、めくれ防止等を尚一層強く確実にする利点を有するものである。
【0026】
請求項7に係る有床義歯は、床部が軟質合成樹脂製で緩衝機能を備えているものであって、着用者にソフト感を与えるものであり、しかも咀嚼等による咬合力により力学的作用を繰り返し受ける等の場合にはこれに対応して人工歯が僅かに動くことが可能であって頗る具合がよいものである。
【0027】
請求項8に係る有床義歯は、床部が硬質合成樹脂製であるので、ハード性を必要とする場合には好適なものである。
【0028】
更に、本発明は、上記したように逢着糸状部による結び止め機能および玉縁状部による係止機能によって人工歯の植設をなすものであるので、上記した従来例のように必ずしも、光や熱によるレジンの重合反応を利用した接合(重合、結合)で相互に固着しなくともよい(勿論、してもよい)ものであって、人工歯を今までにできなかったような形として実施することを可能にする著効を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す臼歯型人工歯を斜め下方から見た斜視図である。
【図2】同じく使用の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す臼歯型人工歯を斜め下方から見た斜視図である。
【図4】同じく使用の状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第3実施例を示す臼歯型人工歯を斜め下方から見た斜視図である。
【図6】同じく使用の状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施例を示す臼歯型人工歯を斜め下方から見た斜視図である。
【図8】同じく使用の状態を示す断面図である。
【図9】本発明の第5実施例を示す臼歯型人工歯を斜め下方から見た斜視図である。
【図10】同じく使用の状態を示す断面図である。
【図11】本発明の第6実施例を示す前歯型人工歯を使用の状態で示す断面図である。
【図12】従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 臼歯型人工歯本体
2 義歯床
3 埋込部
4 貫通孔
5 横向き凹溝
6 縦向き凹溝
8 前歯型人工歯本体
Claims (7)
- 床材で形成された義歯床に植設して使用するための人工歯であって、
上記床材に被覆される埋込部と、上記埋込部の上記床材の外縁との接合部位に設けられた横向き凹溝と、上記埋込部を貫通すると共に、端部が上記横向き凹溝に開口するように形成された貫通孔とを有し、
上記横向き凹溝と上記貫通孔に上記床材が流入して固化した場合に、上記横向き凹溝において上記人工歯と上記義歯床とを係合させうる玉縁状部と、上記貫通孔において上記人工歯と上記義歯床との分離を阻止しうる逢着糸状部が形成され、
上記人工歯は、上記玉縁状部と上記逢着糸状部を介して上記義歯床に固定されることを特徴とする人工歯。 - 上記横向き凹溝は、上記人工歯の幅方向両端部に夫々設けられ、上記貫通孔の両端部が、上記横向き凹溝に開口するように形成されることを特徴とする請求項1記載の人工歯。
- 上記埋込部には、一端が横向き凹溝と連続する共に、他端が埋込部の底面に開口するように形成された縦向き凹溝を有することを特徴とする請求項1及び2記載の人工歯。
- 上記横向き凹溝は、上記埋込部の全周に形成されていることを特徴とする請求項1〜3記載の人工歯。
- 上記横向き凹溝の断面形状は、ほぞ溝形状等の抜けにくい形であることを特徴とする請求項1〜4記載の人工歯。
- 上記義歯床が軟質合成樹脂製であることを特徴とする請求項1〜5記載の人工歯が義歯床に植設された有床義歯。
- 上記義歯床が硬質合成樹脂製であることを特徴とする請求項1〜5記載の人工歯が義歯床に植設された有床義歯。
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