JP3819553B2 - チクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法 - Google Patents

チクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はチクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
チクソキャスティング法の実施に当っては、加熱装置によりFe系鋳造材料を加熱して固相と液相とが共存する半溶融状態にし、次いでその半溶融Fe系鋳造材料を加圧鋳造装置まで搬送してその射出スリーブ内に設置し、その後加圧プランジャを作動させて半溶融Fe系鋳造材料を鋳型のキャビティ内に充填して加圧下で凝固させる、といった方法が採用される。
【0003】
従来は、半溶融Fe系鋳造材料の搬送を実行すべく、Fe系鋳造材料の半溶融化に先立って、その材料表面に酸化物被覆層を形成し、その酸化物被覆層を、半溶融主体部の搬送用コンテナとして機能させる、といった手段が採用されている(特開平5−44010号公報参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来法によると、酸化物被覆層の形成のために、Fe系鋳造材料を高温下にて、所定時間加熱しなければならないので、多くの熱エネルギを必要とし不経済である、という問題があった。また酸化物被覆層が金型のゲート通過中に粉砕され、微細粒子としてFe系鋳物中に残留する場合には不具合を生じないとしても、十分な粉砕が行われずに粗大粒子としてFe系鋳物中に残留すると、その粗大粒子を起点とした破壊を生じる等、Fe系鋳物の機械的特性を損うことになる、といった問題もあった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、半溶融Fe系鋳造材料を、誘導加熱の適用下で搬送用コンテナ内にて調製し得るようにし、またコンテナの構成材料および誘導加熱の周波数を特定することによってFe系鋳造材料を効率良く加熱して半溶融化すると共にその半溶融Fe系鋳造材料の保温性を向上させることができるようにした前記調製方法を提供することを目的とする。
【0006】
前記目的を達成するため本発明によれば、Fe系鋳造材料を、非磁性金属材料よりなる搬送用コンテナ内に入れ、次いで周波数f1 をf1 <0.85kHzに設定した1次誘導加熱を行うことにより前記Fe系鋳造材料を常温よりキュリー点まで昇温させ、その後、周波数f2 をf2 ≧0.85kHzに設定した2次誘導加熱を行うことにより前記Fe系鋳造材料をキュリー点から、固相と液相とが共存した半溶融状態を呈する調製温度まで昇温させる、チクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法が提供される。
【0007】
半溶融Fe系鋳造材料はコンテナ内にて調製されるので、その材料をコンテナ内に入れた状態で容易、且つ確実に搬送することができる。またコンテナは繰返し使用可能であるから経済的である。
【0008】
Fe系鋳造材料は、常温およびキュリー点未満の温度領域では強磁性体であり、一方、コンテナは非磁性体であるから、1次誘導加熱においてその周波数f1 を前記のように比較的低く設定することによって、Fe系鋳造材料をコンテナに対し優先して、迅速に、且つ均一に昇温させることが可能である。
【0009】
Fe系鋳造材料はキュリー点まで昇温すると、磁気変態により強磁性体から常磁性体に変化するので、キュリー点以上の温度領域では周波数f2 を前記のように比較的高く設定した2次誘導加熱を行うことにより、Fe系鋳造材料およびコンテナを共に昇温させることができる。この場合、コンテナの昇温がFe系鋳造材料の昇温に優先するので、コンテナを、それに保温機能を持たせるべく十分に加熱し、またFe系鋳造材料の過熱を防止して、所定の調製温度、つまり鋳造開始時の温度である鋳造温度よりも高い温度を持つ半溶融Fe系鋳造材料を調製することができる。
【0010】
その後の半溶融Fe系鋳造材料の搬送過程では、その材料を、加熱されたコンテナによって鋳造温度以上に保温することが可能である。
【0011】
前記2次誘導加熱による昇温過程でFe系鋳造材料の温度Tmが、調製温度Tとの関係で、T−100℃≦Tm≦T−50℃に到達したとき、加熱方式を、周波数f3 をf3 <f2 に設定した3次誘導加熱に切換えてFe系鋳造材料の優先的昇温を現出し、これにより搬送中における半溶融Fe系鋳造材料の温度低下をさらに抑制することが可能である。
【0012】
なお、1次誘導加熱における周波数がf1 ≧0.85kHzではFe系鋳造材料の昇温が鈍化する。また2次誘導加熱における周波数f2 がf2 <0.85kHzでは、前記同様にFe系鋳造材料の昇温が鈍化する。
【0013】
【発明の実施の形態】
Fe系鋳造材料1としては、Fe−C系合金、Fe−C−Si系合金等よりなり、図1に示すように短円柱状をなすものが用いられる。
【0014】
また搬送用コンテナ2としては、図2〜4に示すように、上向きの開口3を有する箱形本体4と、その開口3を通じ箱形本体4に対して着脱される蓋板5とよりなるものが用いられる。コンテナ2は、非磁性金属材料としての非磁性ステンレス鋼板(例えばJIS SUS304)、Ti−Pd系合金板等より構成される。
【0015】
図3に明示するように、コンテナ2は、その箱形本体4および蓋板5内面に半溶融Fe系鋳造材料1の溶着を防止する積層皮膜6を有する。その積層皮膜6は、箱形本体4および蓋板5内面に密着し、且つ厚さt1 が0.009mm≦t1 ≦0.041mmであるSi3 4 層7と、Si3 4 層7表面に密着し、且つ厚さt2 が0.024mm≦t2 ≦0.121mmである黒鉛層8とよりなる。
【0016】
Si3 4 は、優れた断熱性を有し、また半溶融Fe系鋳造材料1と反応することはなく、その上箱形本体4等に対して密着性が良く、剥れにくい、という特性を有する。ただし、Si3 4 層7の厚さt1 がt1 <0.009mmではその層7が剥れ易くなり、一方、t1 >0.041mmに設定しても効果の程度は変わらないので、不経済である。黒鉛層8は耐熱性を有してSi3 4 層7を保護する。ただし、黒鉛層8の厚さt2 がt2 <0.024mmではその層8が剥れ易くなり、一方t2 >0.121mmに設定しても効果の程度は変らないので、不経済である。
[実施例]
図1に示すように、Fe系鋳造材料1として、Fe−2重量%C−2重量%Si合金よりなり、且つ直径50mm、長さ65mmの短円柱体を製造した。このFe系鋳造材料1は、鋳造法により製造されたもので、金属組織上、多数のデンドライトを有する。またFe系鋳造材料1のキュリー点は750℃、共晶温度は1159℃および液相線温度は1319℃であった。
【0017】
またコンテナ2として、非磁性ステンレス鋼板(JIS SUS304)より構成され、また厚さ0.86mmの積層皮膜6を有するものを用意した。積層皮膜6において、Si3 4 層7の厚さt1 はt1 =0.24mm、黒鉛層8の厚さt2 はt2 =0.62mmであった。
【0018】
図4に示すように、Fe系鋳造材料1をコンテナ2の箱形本体4内に入れ、その材料1に蓋板5を被せた。次いでコンテナ2を横型誘導加熱炉内に設置し、次のような方法で、半溶融Fe系鋳造材料1を調製した。
(a) 1次誘導加熱
周波数f1 をf1 =0.75kHzに設定して、Fe系鋳造材料1を常温からキュリー点(750℃)まで昇温させた。
(2) 2次誘導加熱
周波数f2 をf2 =1.00kHz(f2 >f1 )に設定して、Fe系鋳造材料1をキュリー点から、固相と液相とが共存した半溶融状態を呈する調製温度まで昇温させた。この場合、鋳造温度が1200℃であることから、調製温度は1220℃に設定された。
【0019】
その後、コンテナ2を誘導炉から取出して、半溶融Fe系鋳造材料1の温度が調製温度から鋳造温度まで降温する間の時間を測定した。以上のプロセスを実施例とする。
【0020】
比較のため、周波数を0.75kHz(一定)に設定した誘導加熱を行って、前記と同様のFe系鋳造材料1を常温より調製温度まで昇温させた。その後、コンテナ2を誘導炉から取出して、半溶融Fe系鋳造材料1の温度が調製温度から鋳造温度まで降温する間の時間を測定した。以上のプロセスを比較例1とする。
【0021】
さらに比較のため、周波数を1.00kHz(一定)に設定した誘導加熱を行って、前記と同様のFe系鋳造材料1を常温より調製温度まで昇温させた。その後、コンテナ2を誘導炉から取出して、半溶融Fe系鋳造材料1の温度が調製温度から鋳造温度まで降温する間の時間を測定した。以上のプロセスを比較例2とする。
【0022】
表1は、実施例および比較例1,2において、Fe系鋳造材料1の温度がキュリー点、調製温度および鋳造温度に達するまでの時間を示す。また図5は実施例および比較例1,2に関する昇温段階における時間とFe系鋳造材料1の温度との関係を示す。この図5には、実施例におけるコンテナ4の温度変化も示されている。さらに図6は実施例および比較例1,2に関する降温段階における時間とFe系鋳造材料1の温度との関係を示す。
【0023】
【表1】
Figure 0003819553
【0024】
表1および図5,6から明らかなように、実施例は、比較例1,2に比べて、調製温度に昇温するまでの時間が短く、また鋳造温度に降温するまでの時間が長いことが判る。
【0025】
図7は、実施例による半溶融Fe系鋳造材料1の金属組織を示す顕微鏡写真であり、この組織は1220℃の材料1を急冷して得られたものである。図7において、多数の球状固相と相隣る両固相間を埋める液相とが観察される。このような金属組織が得られる理由は、図5から明らかなように、Fe系鋳造材料1の加熱速度が速いことに起因してデンドライトの分断が効率良く行われたからである。
【0026】
図8は、比較例2による半溶融Fe系鋳造材料1の金属組織を示す顕微鏡写真であり、この組織は1220℃の材料1を急冷して得られたものである。図8において、多量のデンドライトが観察される。このような金属組織が得られる理由は、図5からも明らかなように、Fe系鋳造材料1の加熱速度が遅いことに起因してデンドライトが残存し、固相の球状化が行われなかったからである。
【0027】
前記1次誘導加熱における周波数f1 は、それを低く設定するといった理由から、0.65kHz≦f1 <0.85kHz、好ましくは0.7kHz≦f1 ≦0.8kHzである。また前記2次誘導加熱における周波数f2 は、それを高く設定するといった理由から、0.85kHz≦f2 ≦1.15kHz、好ましくは0.9kHz≦f2 ≦1.1kHzである。
【0028】
前記実施例について、コンテナ2における積層皮膜6の耐久性を調べたところ、半溶融Fe系鋳造材料1の調製回数20回にて再生の必要のあることが認められた。このように前記構成の積層皮膜6は優れた耐久性を有するので、生産性の向上を図る上で有効である。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、前記のような手段を採用することによって、半溶融Fe系鋳造材料を効率良く調製すると共にその搬送性を良好にし、またその搬送に当り前記材料の保温性を向上させることが可能な前記調製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Fe系鋳造材料の斜視図である。
【図2】コンテナの正面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】コンテナにFe系鋳造材料を入れた状態を示す断面図で、図3の4−4線断面図に相当する。
【図5】昇温段階における時間とFe系鋳造材料の温度との関係を示すグラフである。
【図6】降温段階における時間とFe系鋳造材料の温度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例による半溶融Fe系鋳造材料の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【図8】比較例による半溶融Fe系鋳造材料の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 Fe系鋳造材料
2 コンテナ
6 積層皮膜
7 Si3 4
8 黒鉛層

Claims (3)

  1. Fe系鋳造材料(1)を、非磁性金属材料よりなる搬送用コンテナ(2)内に入れ、次いで周波数f1 をf1 <0.85kHzに設定した1次誘導加熱を行うことにより前記Fe系鋳造材料(1)を常温よりキュリー点まで昇温させ、その後、周波数f2 をf2 ≧0.85kHzに設定した2次誘導加熱を行うことにより前記Fe系鋳造材料(1)をキュリー点から、固相と液相とが共存した半溶融状態を呈する調製温度まで昇温させることを特徴とするチクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法。
  2. 前記1次誘導加熱における周波数f1 の下限値は0.65kHzであり、前記2次誘導加熱における周波数f2 の上限値は1.15kHzである、請求項1記載のチクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法。
  3. 前記コンテナは、その内面に半溶融Fe系鋳造材料(1)の溶着を防止する積層皮膜(6)を有し、その積層皮膜(6)は、前記コンテナ(2)内面に密着し、且つ厚さt1 が0.009mm≦t1 ≦0.041mmであるSi3 4 層(7)と、Si3 4 層(7)表面に密着し、且つ厚さt2 が0.024mm≦t2 ≦0.121mmである黒鉛層(8)とよりなる、請求項1または2記載のチクソキャスティング用半溶融Fe系鋳造材料の調製方法。
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