JP3817216B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材および鋼溶接部材 - Google Patents

溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材および鋼溶接部材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)の靭性に優れた鋼材および鋼溶接部材に関し、特に、400〜600N/mm2 級の引張強度を有する低炭素低合金組成の鋼材を対象にした、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材および鋼溶接部材に関するものである。
本発明は、鉄鋼業において、厚鋼板、H形鋼、UO鋼管などの製品へ適用される。本発明を適用した鋼材は、造船、建築、橋梁、タンク、海洋構造物、ラインパイプなどの分野で溶接構造物に使用され、溶接施工能率の高い大入熱溶接を用いるときに好適である。
【0002】
【従来の技術】
HAZにおいては溶融線に近づくほど溶接時の加熱温度は高くなり、特に溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域では加熱オーステナイト(γ)が著しく粗大化してしまい、結果的に冷却後のHAZ組織が粗大化して、HAZの靭性が劣化する。溶接入熱量の大きな高能率溶接を適用するほどHAZ組織は粗大化し、HAZの脆化は顕著となる。
【0003】
このような課題に対して、例えば下記特許文献1には、HAZにおけるγ粒成長をピン止めによって抑制し、場合によってはγ粒内のフェライト変態を促すことで、エレクトロガス溶接やエレクトロスラグ溶接のような大入熱溶接においてHAZ組織を微細化し、良好なHAZ靭性を達成する発明が開示されている。さらに、同文献の実施例では、溶接入熱量が20、31、92kJ/mmの場合のHAZについて、0℃あるいは−5℃でシャルピー衝撃特性が良好であることが示されている。また、下記特許文献2に記載の発明の実施例では、溶接入熱量が20kJ/mmの場合のHAZについて−40℃でシャルピー衝撃特性が良好であることが示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−279684号公報
【特許文献2】
特開2001−342537号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年、溶接能率を高めるために溶接入熱量の増加傾向が著しく、その一方で溶接部に要求される靭性は厳格化の一途をたどっている。構造物の施工費用低減、構造物の信頼性向上、構造物の使用環境厳格化、などが背景にある。近い将来、20〜150kJ/mmの大入熱溶接を採用しつつも、今よりもさらに厳しいHAZ靭性が要求されることが想定される。例えば、エレクトロスラグ溶接を採用しつつも、そのHAZに対して−10℃でのCTOD特性や、−40℃のシャルピー衝撃特性が要求される可能性が考えられる。このような場合には、先の従来技術に依っても安定的に良好なHAZ靭性を得ることは困難である。
【0006】
そこで本発明は、厚鋼板、H形鋼、UO鋼管などとして各種の溶接構造物に使用され、溶接施工能率の高い大入熱溶接を用いた場合に好適な、特に、400〜600N/mm2 級の母材の引張強度を有し、20〜150kJ/mmの溶接入熱量で溶接されたHAZにて、−40℃でのシャルピー衝撃特性(平均値≧70J)、あるいは−10℃でのCTOD特性(限界CTOD≧0.2mm)を満足することのできる、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材および鋼溶接部材を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、下記の通りである。
(1) 質量%で、
C :0.01〜0.2%、 Si:0.5%以下、
Mn:0.1〜3%、 P :0.02%以下、
S :0.001〜0.01%、 Al:0.001〜0.1%、
Ti:0.005〜0.03%、 Mg:0.0005〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.01%、 N :0.001〜0.01%、
O :0.001〜0.01%
を含有すると同時に、下記式(1)と式(2)を満たし、
O−0.4Ca≧0 …………(1)
Mg−1.5(O−0.4Ca)≧0 …………(2)
残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼成分を有し、
Mg含有酸化物を核としてその周辺にTi含有窒化物を有する、粒子径が0.005〜0.2μmの複合粒子(A粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.005〜0.2μmのMg含有硫化物(B粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.2〜5μmのCa含有酸化物(C粒子)が1×102 〜1×104 個/mm2 であり、
これら3種類の粒子が、複合せずに独立に存在しつつ、下記式(3)ないし式(5)を満たすことを特徴とする、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
A粒子数+B粒子数=1×10 5 〜1×10 7 個/mm2 ……(3)
A粒子数/B粒子数=0.1〜10 ……(4)
(A粒子数+B粒子数+C粒子数)/C粒子数≦10000 ……(5)
【0008】
(2) 前記鋼成分として、さらに、質量%で、Cu:0.1〜2%、Ni:0.1〜3%、Cr:0.05〜1%、Mo:0.05〜1%、Nb:0.005〜0.1%、V:0.005〜0.2%、B:0.0001〜0.005%、REM:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.02%の1種以上を含むことを特徴とする、上記(1)に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【0009】
(3) 上記(1)または(2)に記載の鋼材の溶接継手の溶接方向に垂直な溶接部断面内で、母材板厚中心線上の、溶融線からXmm離れた溶接熱影響部の点を通る、母材板厚中心線に直交する直線(以下、HAZ代表線という。)を横切る、フェライト、フェライトサイドプレートあるいはベイナイトの内の、結晶粒の長径の大きい順の5つの平均値が300μm以下であることを特徴とする、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
ここで、X=log10(HI)(単位:mm)
HI:溶接入熱量(単位:kJ/mm)
【0010】
(4) 前記HAZ代表線を含む部分のビッカース硬さの平均値が150〜250であることを特徴とする、上記(3)に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
(5) 前記HAZ代表線上で、MA(Martensite Austenite constituent)が占める長さの割合が5%以下であることを特徴とする、上記(3)または(4)に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
(6) 前記HAZ代表線を横切るパーライトの結晶粒の長径の大きい順の5つの平均値が100μm以下であることを特徴とする、上記(3)ないし(5)のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
【0011】
(7) 前記HAZ代表線を含む、溶接方向に垂直な前記溶接部断面内の、前記HAZ代表線から±0.5mmの領域内で、直径が5μmを超える酸化物、硫化物、窒化物および/またはこれらの複合体が、10個/mm2 以下であることを特徴とする、上記(3)ないし(6)のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材
【0012】
【発明の実施の形態】
まず、20〜150kJ/mmの大入熱溶接を適用したHAZで、−40℃のシャルピー衝撃特性と−10℃のCTOD特性を達成するための、本発明の主要な要件である下記の4点について、それぞれ説明する。
(1)HAZにおける脆化位置の特定
(2)上記脆化位置においてHAZ靭性を支配する組織要因の解明
(3)上記脆化位置においてHAZ靭性を支配する粗大介在物要因の解明
(4)上記脆化位置においてHAZの組織と介在物を適正に制御する手段の検討
【0013】
まず、(1)のHAZにおける脆化位置の特定について説明する。
引張強度が400〜600N/mm2 級の鋼材を用いて20〜150kJ/mmで溶接し、突合せ継手、T継手、十字継手、角継手、などの種々の継手を作製した。そして、HAZでのノッチ位置を細かく変化させて−40℃でのシャルピー衝撃特性を調べた。図1に示すごとく、溶接方向に垂直な溶接部断面の、母材板厚中心線上で、溶融線からの距離を細かく刻んで2mmVノッチの位置を変化させ、HAZのシャルピー衝撃試験を行った。
【0014】
その結果、図2(a)に示すように、溶融線からXmm離れた位置でのHAZ靭性が最も低くなる傾向を見つけた。ここで、X=log10(HI)(単位:mm)であり、HIは20〜150kJ/mmの溶接入熱量(単位:kJ/mm)を示す。Xの値は溶接入熱量の増大ととも大きくなり、例えば、20kJ/mmの場合はX=1.3mm、150kJ/mmの場合はX=2.2mmとなる。このようなHAZ脆化位置を特定する際、溶接熱サイクルをシミュレートする再現HAZ試験では精度が低い。再現HAZ試験片では、ノッチ近傍はほぼ均一な組織と硬さを有する。これに対し、実際の溶接継手では、組織や硬さの異なる溶接金属部とHAZの両方がノッチ近傍に存在し、このような巨視的な不均一性がノッチ底に作用する歪や応力の分布に影響するのである。
【0015】
このように、溶接構造用として一般的に用いられる引張強度が400〜600N/mm2 級の鋼材と溶材との組み合わせであれば、20〜150kJ/mmの大入熱溶接において、HAZ脆化位置の目安として上述のXを用いて把握することが可能である。図2の(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、種々の継手形状に対して母材板厚中心線上でHAZ脆化位置を罫書くことができる。
【0016】
次に、前記(2)のHAZ脆化位置においてHAZ靭性を支配する組織要因の解明について説明する。
引張強度が400〜600N/mm2 級の鋼材を用いて20〜150kJ/mmで溶接した。そして、図3に示すごとく、上述のXで表されるHAZ脆化位置にノッチを入れ、−40℃でシャルピー衝撃特性を調べた。このとき、本発明鋼も含めて種々の鋼材を試した。溶接入熱量も上記の範囲で種々に変化させた。靭性と組織の関係を詳細に検討した結果、フェライト、フェライトサイドプレート、ベイナイトの中で大きい結晶粒が靭性を支配することを突き止めた。
【0017】
図4は調べられたHAZ組織を模式的に示したものである。旧γ粒内で変態する組織に比べて、旧γ粒界から変態する組織の方が結晶粒径は圧倒的に大きい。このような旧γ粒界から変態する粗大組織は、フェライト、フェライトサイドプレート、ベイナイト(以上の三つの組織を総称してここではαと表す)である。これらの組織の特徴は、結晶粒のアスペクト比(長径/短径)が2以上で、互いに網目状に連結する傾向が強い。
【0018】
図5はHAZ脆化位置(X)での靭性に及ぼすα結晶粒の長径の影響を示す。ここでは、図3に示すように、ノッチ底に対応する罫書き線(HAZ代表線)を作成し、このHAZ代表線を横切る対象組織の結晶粒の長径を、図4のような要領で大きい順に5個測定し、その平均値を求めた。図5から、大きい順に測定された5個の長径の平均値が小さくなるほど靭性は向上する。このとき、HAZ代表線を横切る対象組織の全ての長径を測定して平均化しても靭性との相関は弱いことがわかった。
【0019】
つまり、大きい長径を有する結晶粒が靭性を支配しており、このような大きい結晶粒の存在に着目して靭性の向上をはかる必要があることがわかった。このとき、HAZ代表線上にて、母材板厚中心線との交点を含む5mm幅の線上でα長径が測定されることが好ましい。図5から、−40℃で70J以上のシャルピー吸収エネルギーを達成するためには、大きい側に5個測定された長径の平均値を300μm以下に制御する必要があることが分かる。
【0020】
さらに、HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上でのHAZ組織を上述のように制御したうえで、ビッカース硬さ、MA(Martensite Austenite constituent)量、パーライト結晶粒径などを適正に制御することで、靭性をさらに向上できることを見出したので、以下に説明する。
【0021】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上でのビッカース硬さの平均値を150〜250に制御することで靭性はさらに高まる。図2の罫書き線(HAZ代表線)上で3点以上の硬さを測定して平均値を求める。このとき、罫書き線上にて、母材板厚中心線との交点を含む5mm幅の線上で硬さが測定されることが好ましい。硬さの測定荷重は98Nが好ましい。硬さが150より小さくなると、溶接金属部に対して相対的に軟化したHAZ脆化位置(X)に歪が局所的に集中し、靭性は向上しない。一方、硬さが250より大きくなると、溶接金属部に対して相対的に硬化したHAZ脆化位置(X)に応力が局所的に集中し、靭性は向上しない。
【0022】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上でのMA(Martensite Austenite constituent:産報出版株式会社、「鉄鋼材料の溶接」、平成10年11月10日初版第一刷発行、p73〜81参照)量を所定の量まで低減することで、靭性はさらに高まる。図2の罫書き線(HAZ代表線)上で図4のようにMAが占める長さの割合を5%以下にすることが有効である。このときHAZ代表線上で、母材板厚中心線との交点を含む5mm幅の線上でMA割合が測定されることが好ましい。
【0023】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上でのパーライト結晶粒の長径を小さくすることで靭性はさらに高まる。図2の罫書き線(HAZ代表線)を横切るパーライトの長径を図4のように大きい順に5個測定し、その平均値を100μm以下にすることが有効である。このときHAZ代表線上で、母材板厚中心線との交点を含む5mm幅の線上でパーライト長径が測定されることが好ましい。
【0024】
次に、前記(3)のHAZ脆化位置におけるHAZ靭性を支配する粗大介在物要因の解明について説明する。
上述したHAZ組織制御は、−40℃でのシャルピー衝撃特性を達成するために必要である。これよりさらに厳しい−10℃でのCTOD特性を達成するためには、粗大な介在物からの脆性破壊の発生を抑制する必要がある。この点について、本発明が対象とする大入熱溶接のHAZ脆化位置(X)を前提に検討した。
【0025】
図2と類似の要領で、溶接方向に垂直な溶接部断面の、前記HAZ代表線から±0.5mmの領域内で、直径が5μmを超える酸化物、硫化物、窒化物および/またはこれらの複合体を、10個/mm2 以下に制御し、上述のHAZ組織制御をこれに組み合わせることで、−10℃の限界CTODが0.2mmを超える靭性が得られることを突き止めた。このとき、前記HAZ代表線から±0.5mmの領域に沿って、母材板厚中心線との交差部を含む5mm幅の領域で粗大介在物粒子の個数が測定されることが好ましい。
【0026】
本発明が対象とする20〜150kJ/mmの大入熱では、溶融線に近いHAZ脆化位置(X)の近傍は、溶接時に高温で長時間加熱されるので、溶け残った介在物が成長して大きくなる恐れがある。介在物の大きさが5μmを超えると、脆性破壊の起点として悪影響を及ぼす恐れがあり、CTOD特性が不安定となる。そこで、このような有害な介在物を10個/mm2 以下に低減したうえで、上述のHAZ組織制御を組み合わせることで、−10℃のCTOD特性を安定化できるのである。この有害な粗大介在物の個数が10個/mm2 を超えて多く存在すると、たとえ上述のHAZ組織制御を組み合わせてもCTOD特性が不安定になる恐れがある。
【0027】
次に、前記(4)のHAZ脆化位置においてHAZの組織と粗大介在物を適正に制御する手段について説明する。
HAZの組織と粗大介在物を上述のような適正な状態に制御し、大入熱溶接において従来より格段に良好なHAZ靭性を得るためには、鋼成分と微細粒子の分散状態を制御する必要があることを以下に説明する。
【0028】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上において、α結晶粒の長径の最大値を300μm以下に小さくするためには、微細粒子を従来にもまして高度に活用する必要がある。つまり、γ成長時にはピン止め効果を利用してγ粒径を小さく保ち、その後のγ→α変態時にはγ粒界上にあるピン止め粒子を変態核として利用してαの微細核生成を促し、その後のα成長時には再びピン止め効果を利用してα粒径を小さく保つ必要がある。
【0029】
そのためには、Mg含有酸化物を核としてその周辺にTi含有窒化物を有する、粒子径が0.005〜0.2μmの複合粒子(A粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.005〜0.2μmのMg含有硫化物(B粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.2〜5μmのCa含有酸化物(C粒子)が1×102 〜1×104 個/mm2 であり、これら3種類の粒子が、複合せずに独立に存在しつつ、下記式(3)ないし式(5)を満足することが必要となる。
A粒子数+B粒子数=1×105 〜1×107 個/mm2 ……(3)
A粒子数/B粒子数=0.1〜10 ……(4)
(A粒子数+B粒子数+C粒子数)/C粒子数≦10000 ……(5)
【0030】
γやαのピン止め効果を従来よりも安定的に強化するためには、大きさと形状と組成(硬さ)の異なる微細粒子を適正な個数割合のもとで組み合わせ、鋼中に均一に分散させることが有効であることを発見した。A粒子とB粒子の大きさは同程度であるが、その形状と組成(硬さ)が異なる。A粒子は直方体に近い形状であり硬い。一方、B粒子は球形に近い形状でありA粒子よりも軟らかい。さらに、C粒子はA粒子やB粒子に比べて大きい特徴がある。このような3種類の異種粒子が適当な個数割合の組み合わせでγ粒界に存在すると、全体的なピン止め力が安定的に強化され、部分的に結晶粒が粗大化するような不具合(ピン止め効果の不安定性)が解決できることを見出した。
【0031】
本発明が対象とする大入熱溶接のHAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上で、αの長径を安定的に300μm以下に抑えるためには、まず、各々の粒子数の下限値を上述のように規定する必要がある。加えて、前記式(3)に示される粒子数の下限値と、式(4)と式(5)に示される個数割合を規定する必要がある。
【0032】
前記式(3)で規定されるA粒子とB粒子の合計個数のうち、どちらか一方の粒子が少なくとも10%以上含まれることが式(4)で規定されている。どちらか一方の粒子が10%未満であると、異種粒子の組み合わせが不適当となり、ピン止め力とα核生成能が不安定となる領域が生じて、局所的に300μmを超える長径のαが生成する恐れがある。式(5)はA粒子とB粒子とC粒子を合わせた総個数のうち、少なくとも10000個に1個は比較的サイズの大きいC粒子であることを規定している。C粒子がこれより少ないと、異種粒子の組み合わせが不適当となり、ピン止め力とα核生成能が不安定となる領域が生じて、局所的に300μmを超える長径のαが生成する恐れがある。
【0033】
各々の粒子数の上限値と、式(3)に示される粒子数の上限値は、鋼の延性の観点から規定される。粒子数がこれらの上限値より多くなると、鋼の延性が劣化するために、HAZのノッチ底での塑性変形能が低下し、脆性破壊の発生が容易になるためにHAZ靭性が劣化する。また、比較的サイズの大きいC粒子の個数が上限値を超えると、脆性破壊の発生特性に悪影響が及び、CTOD特性が不安定になる。以上の理由から、三種類の粒子数の上限値を上述のように規定する必要がある。
【0034】
以上の微細粒子の分散状態を達成するためには、鋼の化学成分における各々の元素の量を後述するように規定したうえで、質量%を用いて計算される式下記 (1)と式(2)を満たす必要がある。
O−0.4Ca≧0 …………(1)
Mg−1.5(O−0.4Ca)≧0 …………(2)
【0035】
以上の式は、A粒子を構成するMg含有酸化物、B粒子であるMg含有硫化物、C粒子であるCa含有酸化物を構成するCaとMgとOについて、適正な量的バランスを示したものである。製鋼工程において、本発明では、脱酸力のもっとも強いCaがOと結合してCa含有酸化物を最初に生成すると考える。次に、残ったOがMgと結合してMg含有酸化物が生成すると考える。最後に、残ったMgがSと結合してMg含有硫化物が生成すると考える。式(1)の左辺はCaOが生成した後に残るO量を見積もっている。式(1)が満たされなければ、Mgと結合するためのOを安定的に確保することが難しくなる。従って、Mg含有酸化物を生成させる条件として式(1)を満たす必要がある。
【0036】
次に、式(2)の左辺はMgOが生成した後に残るMg量を見積もっている。ここでは、CaOが生成した後に残るOがMgと結合してMgOを形成すると仮定して式(1)と式(2)を導いている。実際には、CaOやMgOにAlなどの他の脱酸元素が入り込む場合もある。式(2)が満たされなければ、Sと結合するためのMgを安定的に確保することが難しくなる。従って、Mg含有硫化物を生成させる条件として式(2)を満たす必要がある。以上のCaとMgとOの量的バランスを保ちつつ、上述した順番にCa含有酸化物、Mg含有酸化物、Mg含有硫化物を生成させる。このあと、Mg含有酸化物を核としてTiNが複合析出し、A粒子が形成される。
【0037】
以上の製鋼工程では、CaとMgが溶鋼に添加されてから連続鋳造によって鋼が凝固するまでの時間を、90分以内にとどめることが重要である。CaとMgを耐火物レンガや鍋スラグを通じて溶鋼中へ添加することも可能であるが、本発明ではこれを避ける工夫を施し、単体金属あるいは合金などの添加剤としてCaとMgを溶鋼に添加することが重要である。このとき、CaとMgの添加順序に規制はないが、これらの元素を添加した後にAl、Ti、REM、Zrなどの脱酸元素や脱硫元素を添加しないことが重要である。
【0038】
HAZ脆化位置において、ビッカース硬さの平均値を150〜250に制御したり、MA量を5%以下に低減するためには、本発明が対象とする溶接後の遅い冷却速度を前提に、微細粒子の分散状態と化学成分的な焼入性を適正化する必要がある。A粒子、B粒子、C粒子の分散状態を上述のように制御すれば、γ粒成長、γ粒界上の微細粒子を核とするα変態、α粒成長を通じて、硬さとMA低減に相応しいHAZ組織を造り込むことができる。同時に、化学成分的な焼入性を考慮する必要があり、この点については化学成分の限定理由として後に説明する。
【0039】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上において、パーライト結晶粒の長径の最大値を100μm以下に小さくするためには、α結晶粒の長径の最大値を小さくするために規定した微細粒子の分散状態を目指せば良い。加えて、パーラートを構成する層状セメンタイト(Fe3 C)の生成量を抑える必要があり、後述するようにC量の上限を限定する。
【0040】
HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線上において、5μmを超える粗大な酸化物や硫化物や窒化物やこれらの複合体を10個/mm2 以下に低減するには、これらの粗大介在物を構成しうるO、S、Nの上限量を後述するように限定する。そして、0.005〜5μmの微細なA粒子(酸化物+窒化物)、B粒子(硫化物)、C粒子(酸化物)の分散状態を上述したように制御すればよい。これらの微細粒子はO、S、Nから構成されるから、微細粒子として適正にO、S、Nを消費すれば、残るO、S、Nによって粗大介在物が構成されても、その個数が10個/mm2 を上回ることはない。
【0041】
このように、本発明においては微細粒子を制御することが粗大介在物の制御につながる。微細粒子の分散状態を無視すれば、粗大介在物だけを制御するのは比較的容易である。本発明は、微細粒子を活用したHAZ組織制御と連動させて粗大介在物を制御するものである。
【0042】
次に、化学成分について説明する。まず、必須元素の限定理由について説明する。成分含有量は質量%である。
Cは、母材とHAZの強度と靭性を確保するために0.01%以上必要である。しかし0.2%を超えると、HAZにおいてビッカース硬さが上昇しすぎたり、MA生成量が増えすぎたり、パーライト結晶粒径が大きくなりすぎたりすることで、HAZ靭性に不利となる。またCが0.2%を超えると、母材の靭性にも不利となるうえ、小入熱溶接時に溶接割れが発生する恐れも出てくる。以上の理由から、Cの上限は0.2%である。
【0043】
Siは、脱酸のために添加することができる。しかし、0.5%を超えるとHAZにMAが生成し易くなりHAZ靭性に不利となる。本発明ではCa、Mg、Al、Ti、Mnによっても脱酸は可能であり、HAZ靭性の観点からSiは少ないほどよい。
【0044】
Mnは、母材とHAZの強度(硬さ)と靭性を確保するために0.1%以上必要である。溶鋼Oが多い段階で脱酸元素として使うこともできる。MnはHAZの焼入性に大きく影響するから、HAZのビッカース硬さを制御する観点で重要である。Mnが0.1%未満になると、HAZのビッカース硬さが150を下回る危険がある。一方、Mnが3%を超えると、HAZのビッカース硬さが250を上回る危険がある。従って、Mnは0.1〜3%に規定する必要がある。
【0045】
Pは、本発明において不純物元素であり、良好な母材とHAZの材質を確保するためには0.02%以下に低減する必要がある。
【0046】
Sは、本発明で重要な元素である。SはMgと結合してB粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。B粒子の個数の下限を確保するために、0.001%以上のSが必要である。しかし、Sが0.01%を超えると、B粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。さらに、5μmを超えるような粗大な硫化物の個数が増えて、HAZのCTOD特性が劣化する。従って、Sの上限は0.01%である。
【0047】
Alは、溶鋼O量が多い段階で脱酸元素として用いられる。また、MgやCaが溶鋼中で脱酸反応を生じるときにAlが共存すれば、Mg含有酸化物やCa含有酸化物の中にAlが入り込んで、A粒子やC粒子の個数を増加させることにも貢献できる。そのためには、0.001%以上のAlが必要である。しかし、Alが0.1%を超えるとMgやCaが溶鋼に添加される前のO量が少なくなりすぎて、A粒子やC粒子を構成するためのOが不足し、これらの粒子数が下限を下回る。さらに、Alが0.1%を超えると、AlNが生成してA粒子を構成するTiNの生成を妨害したり、5μmを超える粗大な窒化物の個数を増やしたりすることで、HAZ靭性を不安定にする。従って、0.1%がAlの上限である。
【0048】
Tiは、TiNを形成してMg含有酸化物に複合析出することでA粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。A粒子の個数の下限を確保するために、0.005%以上のTiが必要である。しかし、Tiが0.03%を超えると、TiNが大きくなって個数が減少し、A粒子の個数の下限を確保することが難しくなる。ここで、TiNの粗大化を抑える工夫を施すと、逆にA粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。従って、Tiの上限は0.03%である。Tiは溶鋼O量が多い段階で脱酸元素として使うことも可能である。
【0049】
Mgは、本発明で重要な元素である。MgはOやSと結合して、A粒子やB粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。A粒子やB粒子の個数の下限を確保するために、0.0005%以上のMgが必要である。さらに、前記式(2)を満足する必要がある。しかし、Mgが0.01%を超えると、A粒子やB粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。従って、Mgの上限は0.01%である。Mgは単体金属あるいは合金などの添加剤として溶鋼に添加する。そして、製鋼工程の条件を上述のように適正に制御する。
【0050】
Caは本発明で重要な元素である。CaはOと結合してC粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。Cの個数の下限を確保するために0.0005%以上のCaが必要である。さらに、前記式(1)と式(2)を満足する必要がある。しかしCaが0.01%を超えると、C粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。従ってCaの上限は0.01%である。
Caは単体金属あるいは合金などの添加剤として溶鋼に添加する必要がある。そして製鋼工程の条件を上述のように適正に制御する。
【0051】
Nは、TiNを形成してMg含有酸化物に複合析出することでA粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。A粒子の個数の下限を確保するために、0.001%以上のNが必要である。しかしNが0.01%を超えると、TiNが大きくなって個数が減少し、A粒子の個数の下限を確保することが難しくなる。ここで、TiNの粗大化を抑える工夫を施すと、逆にA粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。さらに、5μmを超えるような粗大な窒化物の個数が増えて、HAZのCTOD特性が劣化する。従ってNの上限は0.01%である。
【0052】
Oは、本発明で重要な元素である。OはMgやCaと結合して、A粒子やC粒子を構成し、HAZの組織制御に貢献してHAZ靭性を高める。A粒子やC粒子の個数の下限を確保するために、0.001%以上のOが必要である。さらに、前記式(1)と式(2)を満足する必要がある。しかし、Oが0.01%を超えると、A粒子やC粒子が多くなりすぎて個数の上限を確保できなくなる。さらに、5μmを超えるような粗大な酸化物の個数が増えて、HAZのCTOD特性が劣化する。従ってOの上限は0.01%である。
【0053】
続いて、選択元素の限定理由を説明する。
Cu、Ni、Cr、Moは、母材の機械的性質、耐火特性、耐食性や溶接性を向上させることに利用できる。そのために必要な各元素の下限値は、上記の順に0.1%、0.1%、0.05%、0.05%である。これらの元素が下限値よりも少なく含まれる場合、不可避的不純物とみなされる。HAZのビッカース硬さとMA量を制御するために、各元素の上限値は上記の順に2%、3%、1%、1%と規定される。
【0054】
NbとVは、母材の強度と靭性を向上させることに利用できる。そのためには、ともに0.005%以上必要である。これよりも少なく含まれる場合、不可避的不純物とみなされる。Nbが0.1%を超えたり、Vが0.2%を超えたりすると、これら元素は窒化物の析出・成長挙動に影響する。つまり、NbNやVNを生成してA粒子を構成するTiNの生成を妨害したり、5μmを超える粗大な窒化物の個数を増やしたりすることで、HAZ靭性を不安定にする。従って、NbとVの上限値はそれぞれ0.1%、0.2%である。
【0055】
Bは、母材の強度と靭性や溶接性を向上させるために利用することができる。そのためには0.0001%以上必要である。これよりも少なく含まれる場合、不可避的不純物とみなされる。しかし0.005%を超えると、粗大な析出物を生成して、母材やHAZの機械的性質に悪影響を及ぼす。従ってBの上限は0.005%である。
【0056】
REMとZrは、脱硫剤として添加することで、母材やHAZの機械的性質に有害な粗大な硫化物の個数を低減したり、その形態を制御して無害化するために利用できる。そのためには0.0005%以上必要である。これよりも少なく含まれる場合、不可避的不純物とみなされる。これらの元素が0.02%を超えると、硫化物の析出・成長挙動に影響する。つまり、B粒子であるMg含有硫化物の生成を妨害したり、5μmを超える粗大な硫化物の個数を増やしたりすることで、HAZ靭性を不安定にする。従って、REMとZrの上限値は0.02%である。
【0057】
次に、本発明を適用した鋼材の製造方法の例を説明する。
鉄鋼業の製鋼工程において、所定の化学成分と微細粒子の分散状態を制御した鋼片を連続鋳造によって造る。この際、前記式(1)と式(2)に示されるCaとMgとOの量的バランスに配慮しつつ、CaとMgを添加剤として溶鋼に添加し、その後にAl、Ti、REM、Zrなどの脱酸元素や脱硫元素を添加することなく、CaとMgの添加から90分以内に鋼を凝固させる。
【0058】
鋳造後の冷却途中段階あるいは冷却完了段階から鋼片を再加熱し、熱間加工して冷却した後、熱処理、冷間加工、溶接、切断などの工程を必要に応じて適用し、母材の形状、寸法、機械的質を造り込むことで、厚鋼板、H形鋼、UO鋼管などの製品として製造される。引張強度は400〜600N/mm2 級である。HAZ靭性は鋼の化学成分と微細粒子の分散状態できまるから、母材の製造工程の影響を大きく受けない。従って、HAZ靭性は母材の製造工程に大きく依存せず、安定的に達成できる。
【0059】
本発明で規定した介在物の分散状態は、例えば以下のような方法で定量的に測定される。A粒子とB粒子の個数は、母材の任意の場所から抽出レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて10000〜50000倍の倍率で少なくとも1000μm2 以上の面積にわたって観察し、各粒子の個数を測定し、これを単位面積当たりの個数(個/mm2 )に換算する。
【0060】
このとき、A粒子とB粒子の識別は、TEMに付属のエネルギー分散型X線分光法装置(EDS)による組成分析と、TEMによる電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。簡易的には、粒子の形態の違いによって識別することも可能である。例えば、TiNと思われる四角い粒子を伴う複合粒子はA粒子であり、それ以外をB粒子と認識する。この際、最初の数個は組成分析や結晶構造解析も併用して同定を行い、粒子の種類が同定されたTEM像を見本として、それ以降に観察される粒子をTEM像の形態からA粒子とB粒子とに識別する。
【0061】
比較的大きいC粒子の個数は、上述のTEM観察によって測定する以外に、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても測定が可能である。例えば、母材の任意の場所から小片試料を切り出して鏡面研磨試料を作製し、これを光学顕微鏡の1000倍の倍率で少なくとも3mm2 以上の面積にわたって観察し、対象となる大きさの粒子の個数を測定し、これを単位面積あたりの個数(個/mm2 )に換算する。
【0062】
続いて、同一試料をSEMに付属のEDSや波長分散型X線分光法装置(WDS)を用いて、対象となる大きさの粒子を少なくとも10個以上をランダムに組成分析する。このとき、粒子の分析値に地鉄のFeが検出される場合は、分析値からFeを除外して粒子の組成を求める。こうして測定した粒子のうち、CaとOが同時に検出されるをC粒子とみなし、その個数割合を求める。そして、はじめに光学顕微鏡で測定された個数にこの割合を掛け合わせる。簡易的には、上記試料について元素マッピングを行い、CaとOが共存する0.2〜5μmの粒子の個数を測定すればよい。また、5μmを超える有害な介在物の個数は、上述した光学顕微鏡で測定が可能である。
【0063】
本発明で規定したHAZ組織の結晶粒径やMA量は、目的とする組織を現出させるための適当なエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて測定できる。光学顕微鏡像を画像解析処理によってα結晶粒の長径やMAの長さ割合を測定することもできる。α結晶粒の長径の測定には、EBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern)法によって、ほぼ同一な結晶方位を有する領域を一つの結晶粒と認識する方法も役に立つ。
【0064】
【実施例】
高炉と転炉と連続鋳造によって鋼片を作製した。このとき、本発明鋼については、製鋼工程において規定した化学成分と上述した操業条件を遵守することで、微細粒子の分散状態を制御した鋼片を作製した。表1に鋼の化学成分を示す。鋼片を再加熱して加工熱処理プロセス(TMCP)によって30mmあるいは80mmの板厚を有する引張強度が400〜600N/mm2 級の厚鋼鈑を製造した。表2に鋼中の微細粒子の分散状態を示す。
【0065】
製造された同じ板厚の鋼鈑を突合せ溶接した。板厚30mmの鋼板は20kJ/mmのエレクトロガス溶接を用いた。板厚80mmの鋼板は150kJ/mmのエレクトロスラグ溶接を用いた。いずれも1パスで溶接した。そして、図2 (a)に示すようにHAZ脆化位置(X)を定め、図3のようにシャルピー試験片を作製してHAZ靭性を調べた。同様にしてCTOD特性も調べた。このHAZ脆化位置に罫書き線(HAZ代表線)を引いて、本発明で規定した方法で結晶粒径や硬さやMA量や粗大介在物個数を測定した。表3にHAZ脆化位置の組織因子と靭性を示す。
【0066】
鋼1〜7は本発明鋼であり、鋼の化学成分と製鋼工程での操業条件が適正であるために微細粒子の分散状態が高度に制御され、その結果、HAZ脆化位置の組織因子が狙いどおりに制御されて、非常に良好なHAZ靭性が達成されている。
【0067】
一方、鋼8〜17は比較鋼であり、鋼の化学成分が不適切であるために微細粒子の分散状態の制御が不十分であり、その結果、HAZ脆化位置の組織因子が不適切となって、HAZ靭性が劣っている。鋼8と鋼9は、前記式(1)と式(2)で規定するCaとMgとOの量的バランスを満たさないため、微細粒子の個数が不足し、HAZ組織因子の制御が不十分となってHAZ靭性が劣化している。鋼11と鋼13と鋼15と鋼17は、微細粒子を構成するCaやMgやOやSが多すぎるため、微細粒子の個数が多くなりすぎて鋼の延性が低下し、HAZ靭性が劣化している。粗大介在物が増えることも脆化を促している。逆に鋼10と鋼12と鋼14と鋼16は、CaやMgやOやSが少なすぎるため、微細粒子の個数が不足し、HAZ組織因子の制御が不十分となってHAZ靭性が劣化している。
【0068】
【表1】
Figure 0003817216
【0069】
【表2】
Figure 0003817216
【0070】
【表3】
Figure 0003817216
【0071】
【発明の効果】
本発明によって、高能率な大入熱溶接を適用しても良好なHAZ靭性を維持できる鋼材が提供可能となった。その結果、溶接施工コストの低減と溶接構造物の安全性向上を従来にない高い次元で両立することが可能となった。本発明鋼は、造船、建築、橋梁、タンク、海洋構造物、ラインパイプなどの分野で利用され、経済性と安全性に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接部断面におけるシャルピー試験片の採取要領を示す図である。
【図2】種々の継手形状の溶接部断面におけるHAZ脆化位置(X)の決定と罫書き線(HAZ代表線)の作成の要領を示す図である。
【図3】溶接部断面におけるHAZ脆化位置(X)からのシャルピー試験片の採取要領を示す図である。
【図4】罫書き線(HAZ代表線)に交わるベイナイト結晶粒の長径の測定方法の例を示す図である。
【図5】HAZ脆化位置(X)ないしHAZ代表線で大きい順に5個測定されたα結晶粒長径と靭性との関係を示す図である。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C :0.01〜0.2%、
    Si:0.5%以下、
    Mn:0.1〜3%、
    P :0.02%以下、
    S :0.001〜0.01%、
    Al:0.001〜0.1%、
    Ti:0.005〜0.03%、
    Mg:0.0005〜0.01%、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    N :0.001〜0.01%、
    O :0.001〜0.01%
    を含有すると同時に、下記式(1)と式(2)を満たし、
    O−0.4Ca≧0 …………(1)
    Mg−1.5(O−0.4Ca)≧0 …………(2)
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼成分を有し、
    Mg含有酸化物を核としてその周辺にTi含有窒化物を有する、粒子径が0.005〜0.2μmの複合粒子(A粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.005〜0.2μmのMg含有硫化物(B粒子)が1×104 〜1×107 個/mm2 であり、粒子径が0.2〜5μmのCa含有酸化物(C粒子)が1×102 〜1×104 個/mm2 であり、
    これら3種類の粒子が、複合せずに独立に存在しつつ、下記式(3)ないし式(5)を満たすことを特徴とする、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
    A粒子数+B粒子数=1×105 〜1×107 個/mm2 ……(3)
    A粒子数/B粒子数=0.1〜10 ……(4)
    (A粒子数+B粒子数+C粒子数)/C粒子数≦10000 ……(5)
  2. 前記鋼成分として、さらに質量%で、
    Cu:0.1〜2%、
    Ni:0.1〜3%、
    Cr:0.05〜1%、
    Mo:0.05〜1%、
    Nb:0.005〜0.1%、
    V :0.005〜0.2%、
    B :0.0001〜0.005%、
    REM:0.0005〜0.02%、
    Zr:0.0005〜0.02%
    の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の鋼材の溶接継手の溶接方向に垂直な溶接部断面内で、母材板厚中心線上の、溶融線からXmm離れた溶接熱影響部の点を通る、母材板厚中心線に直交する直線(以下、HAZ代表線という。)を横切る、フェライト、フェライトサイドプレートあるいはベイナイトの内の、結晶粒の長径の大きい順の5つの平均値が300μm以下であることを特徴とする、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。 ここで、X=log10(HI)(単位:mm)
    HI:溶接入熱量(単位:kJ/mm)
  4. 前記HAZ代表線を含む部分のビッカース硬さの平均値が150〜250であることを特徴とする、請求項3に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
  5. 前記HAZ代表線上で、MA(Martensite Austenite constituent)が占める長さの割合が5%以下であることを特徴とする、請求項3または4に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
  6. 前記HAZ代表線を横切るパーライトの結晶粒の長径の大きい順の5つの平均値が100μm以下であることを特徴とする、請求項3ないし5のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
  7. 前記HAZ代表線を含む、溶接方向に垂直な前記溶接部断面内の、前記HAZ代表線から±0.5mmの領域内で、直径が5μmを超える酸化物、硫化物、窒化物のいずれかまたはこれらの複合体が、10個/mm2 以下であることを特徴とする、請求項3ないし6のいずれか1項に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼溶接部材。
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