JP3816646B2 - 弾性表面波装置用圧電基板および弾性表面波装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波装置と、この弾性表面波装置に用いる圧電基板とに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話機を始めとした移動体通信端末機が急速に普及してきている。この端末機は、持ち運びの利便さから、特に小型軽量であることが望まれている。端末機の小型軽量化を達成するには、そこに使われる電子部品も小型軽量であることが必須であり、このため、端末機の高周波部や中間周波部には、小型軽量化に有利な弾性表面波装置、すなわち弾性表面波フィルタが多用されている。弾性表面波装置は、圧電基板上に、弾性表面波を励振、受信、反射、伝搬するための交差指状電極を形成したものである。
【0003】
弾性表面波装置に使われる圧電基板に重要な特性として、弾性表面波の表面波速度(SAW速度)、フィルタを構成した場合の中心周波数または共振子を構成した場合の共振周波数の温度係数(周波数温度係数:TCF)、電気機械結合係数(k2)が挙げられる。これまでに弾性表面波装置用圧電基板として多用されているものの特性を、表1に示す。以後、これらの圧電基板を、表1の記号で区別することとする。
【0004】
【表1】
Figure 0003816646
【0005】
表1から、これまで多用されている圧電基板は、速いSAW速度と大きな電気機械結合係数をもつ128LN、64LN、36LTと、比較的遅いSAW速度と小さな電気機械結合係数をもつLT112、ST水晶との、二つの組に大別できることがわかる。速いSAW速度と大きな電気機械結合係数をもつ圧電基板(128LN、64LN、36LT)は、端末機高周波部での弾性表面波フィルタに使用され、一方、比較的遅いSAW速度と小さな電気機械結合係数をもつ圧電基板(LT112、ST水晶)は、端末機中間周波部での弾性表面波フィルタに使用される。この理由は以下の通りである。すなわち、弾性表面波フィルタの場合、その中心周波数は、使用する圧電基板のSAW速度にほぼ比例し、基板上に形成する交差指状電極の電極指の幅にほぼ反比例する。したがって、高周波部で使用されるフィルタを構成する基板は、SAW速度の大きなものであることが好ましい。加えて、端末機高周波部に使用されるフィルタには、通過帯域幅が20MHz以上である広帯域のものが要求されるので、電気機械結合係数の大きいことも必要である。
【0006】
一方、移動体端末機の中間周波数としては、70〜300MHzの周波数帯が使用されている。この周波数帯を中心周波数とするフィルタを弾性表面波装置を用いて構成する場合、圧電基板として前記SAW速度の速い基板を使用すると、基板上に形成する電極指の幅を、前記高周波部に使用されるフィルタに比べてその中心周波数低下量に応じ非常に大きくする必要があり、弾性表面波装置そのものが大きくなってしまうという問題がある。
【0007】
そこで、中間周波用弾性表面波フィルタの圧電基板としては、SAW速度の遅いLT112、ST水晶が使われる。特に、ST水晶は一次の周波数温度係数が零であるため、好ましい。ST水晶の電気機械結合係数は小さく、通過帯域の狭いフィルタしか構成できないが、中間周波フィルタの役割は、狭い一つのチャンネルの信号のみを通過させることなので、電気機械結合係数が小さいということは、従来あまり問題とはならなかった。
【0008】
移動体端末機をより一層小型なものとし、携帯の利便性を高める場合、中間周波用弾性表面波フィルタの実装面積を小さくする必要があるが、従来、中間周波用弾性表面波フィルタに適しているとされているST水晶、LT112は、いずれもSAW速度が3000m/sを超えており、小型化には限界がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、弾性表面波装置の小型化に有用なSAW速度の低い弾性表面波装置用圧電基板と、これを用いた小型の弾性表面波装置とを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記(1)〜(3)のいずれかの構成により達成される。
(1) 化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶のX軸またはY軸に垂直な主面を有する弾性表面波装置用圧電基板。
(2) 一方の主面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波装置であって、
前記圧電基板が、化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶を、X面(結晶X軸に垂直な面)でカットしたものであり、弾性表面波伝搬方向が前記単結晶の結晶Y軸方向である弾性表面波装置。
(3) 一方の主面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波装置であって、
前記圧電基板が、化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶を、Y面(結晶Y軸に垂直な面)でカットしたものであり、弾性表面波伝搬方向が前記単結晶の結晶X軸方向である弾性表面波装置。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の弾性表面波装置の主要部の構成例を、図1に示す。この弾性表面波装置は、圧電基板1の一方の主面に、一対の交差指状電極2を設けたものである。
【0012】
本発明では、化学式Nd3Ga5SiO14で表され、点群32に属する単結晶を圧電基板の材料として用いる。そして、この単結晶のX軸に垂直な面が主面となるように基板を切り出し、前記主面に、弾性表面波伝搬方向が結晶Y軸方向となるように交差指状電極を形成する。すなわち、カット方向を示す図1のz軸が結晶X軸方向となり、弾性表面波伝搬方向を示す図1のx軸が結晶Y軸方向となるXカットY伝搬とする。これにより、3000m/sを下回る遅いSAW速度の弾性表面波を利用することができる。また、前記単結晶のY軸に垂直な面が主面となるように基板を切り出し、前記主面に、弾性表面波伝搬方向が結晶X軸方向となるように交差指状電極を形成することによっても、すなわち、図1のz軸が結晶Y軸方向となり、図1のx軸が結晶X軸方向となるYカットX伝搬とすることによっても、3000m/sを下回る遅いSAW速度の弾性表面波を利用することができる。したがって、本発明では、弾性表面波装置の小型化が可能となる。
【0013】
本発明者らは、Nd3Ga5SiO14単結晶を、XカットY伝搬またはYカットX伝搬の弾性表面波装置用圧電基板として利用する場合に、周波数温度係数TCFが正であることを実験的に見いだした。したがって、これらの圧電基板に、一般に負の周波数温度係数をもつとされる圧電薄膜を形成することにより、圧電性の向上と共に、温度特性の補償が可能となる。前記圧電薄膜としては、SAW速度の遅いc軸配向ZnO膜が適している。c軸配向ZnO膜は、スパッタ法により容易に圧電基板上に形成することができる。
【0014】
なお、Nd3Ga5SiO14は、酸素欠陥を有するものであってもよい。
【0015】
【実施例】
まず、化学式Nd3Ga5SiO14で表され、点群32に属する単結晶を用いた弾性表面波装置用圧電基板の作製について述べる。単結晶育成は、高周波加熱によるCZ法、すなわち回転引き上げ法により行った。原料にはそれぞれ純度99.99%のNd23、Ga23およびSiO2の各酸化物粉末を化学量論比で混合したものを用い、ルツボには直径50mmのPtルツボを用いた。育成雰囲気はArに2体積%の酸素を混合したものとし、育成時の結晶回転数20rpm、引き上げ速度1.5mm/hrとし、引き上げ方位は(001)とした。これにより、直径約22mm、長さ約150mmの単結晶を得た。X線回折測定より、引き上げられた結晶は単相であることを確認した。また、ボンド法による格子定数測定の結果、a=8.0664オングストローム、c=5.0633オングストロームであることがわかった。得られた結晶から、Xカット板、Yカット板を切り出し、それぞれ弾性表面波装置用圧電基板とした。
【0016】
次に、試験用弾性表面波装置の作製とその性能とについて説明する。試験用弾性表面波装置は、図1に示すように、前記単結晶から切り出した圧電基板1の表面に、入出力用の一対の交差指状電極2を形成したものである。交差指状電極は、蒸着Al膜をフォトエッチング法で形状加工することにより形成し、電極指の周期(弾性表面波波長λ)は60μm、対数は20対、交差幅は60λ(3600μm)、厚さは3000オングストロームとした。図1のx軸は弾性表面波伝搬方向、y軸は基板面内で弾性表面波伝搬方向と直交する方向、z軸は基板表面と垂直な方向を示す。
【0017】
XカットY伝搬とした場合の周波数特性を、図2に示す。図2から、39〜40MHzに中心周波数をもつフィルタが構成されているのがわかる。この中心周波数からSAW速度を求めると2358m/sであり、また、入出力いずれかの交差指状電極2の入力アドミッタンスから電気機械結合係数を求めると0.21%であり、ST水晶と同程度の電気機械結合係数をもちながら、SAW速度がST水晶に比較して非常に遅く、弾性表面波フィルタの小型化に好適であることがわかった。なお、図3に、電気機械結合係数を求めるために測定した、交差指状電極入力アドミッタンスの周波数特性を示す。図3(a)がアドミッタンスの実部であるコンダクタンス、図3(b)がアドミッタンスの虚部であるサセプタンスである。図3(a)において、縦方向は0.05mS/divであり、横方向は1MHz/divである。また、図3(b)において、縦方向は0.2mS/divであり、横方向は1MHz/divである。この測定値をもとに、よく知られたスミスの等価回路モデルから導かれる関係式により、前記電気機械結合係数を得た。
【0018】
図4に、前記XカットY伝搬で構成した弾性表面波装置の中心周波数の温度特性を示す。この弾性表面波装置の周波数温度係数TCFは、+39ppm/℃であった。このように周波数温度係数が正の値であるということは、従来の64LN、128LN、36LTおよびLT112にはない特性であり、本発明者らが実験的に見いだしたものである。そこで、この基板上にさらに圧電薄膜を形成すれば、圧電薄膜の負の温度係数と基板の正の温度係数とが相殺され、かつ圧電性能も向上させることができる。
【0019】
なお、前記単結晶から切り出したYカット板についても、YカットX伝搬となるように弾性表面波装置を構成し、同様の検討を行った。その結果、この構成では、SAW速度が2265m/s、電気機械結合係数が0.12%であり、前述したXカットY伝搬の場合と同様に、SAW速度が遅く、弾性表面波装置を小型化できることが明らかとなった。さらに、この装置の周波数温度係数を測定した結果、+44ppm/℃であり、前述したXカットY伝搬の場合と同様に正の値を示すことが見いだされた。したがって、この場合も、圧電薄膜の形成により圧電性能の向上と温度補償とが同時に達成できる。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、弾性表面波装置の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の弾性表面波装置の構成例を示す斜視図である。
【図2】XカットY伝搬の場合の周波数特性を示すグラフである。
【図3】(a)は、交差指状電極の入力コンダクタンスの周波数特性を示すグラフであり、(b)は、交差指状電極の入力サセプタンスの周波数特性を示すグラフである。
【図4】XカットY伝搬の場合の中心周波数の温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 圧電基板
2 交差指状電極

Claims (3)

  1. 化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶のX軸またはY軸に垂直な主面を有する弾性表面波装置用圧電基板。
  2. 一方の主面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波装置であって、
    前記圧電基板が、化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶を、X面(結晶X軸に垂直な面)でカットしたものであり、弾性表面波伝搬方向が前記単結晶の結晶Y軸方向である弾性表面波装置。
  3. 一方の主面に交差指状電極を設けた圧電基板を有する弾性表面波装置であって、
    前記圧電基板が、化学式Nd3Ga5SiO14で表され点群32に属する単結晶を、Y面(結晶Y軸に垂直な面)でカットしたものであり、弾性表面波伝搬方向が前記単結晶の結晶X軸方向である弾性表面波装置。
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