JP3816429B2 - 体液吸収性物品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生理用ナプキン、紙おむつ等の体液を吸収保持する体液吸収性物品に関し、特に吸収体内への体液の速やかな受け入れや、吸収体内での体液の拡散性の向上等を図った体液吸収性物品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の積層吸収構造体を有する体液吸収性物品としては、例えば2層構造体のもの(特許文献1)や、3層構造体のもの(特許文献2)などがある。前者は生理用ナプキンの排泄部当接部に下層よりも小さい上層を設けて立体的な膨らみをもたせたものであり、後者は略全領域にそれぞれ高密度の層からなる三層吸収体を設け、材料の良好な流体吸い上げ特性を嵩の増加にかかわらずに保持できるというものである。
【0003】
一方、体液の流れをエンボスパターンにより遮り漏れ防止を図ることも知られている。吸収体層にエンボスパターンを付与したものとしては、例えば連続網状のエンボスパターンを付与したもの(特許文献3,4)もある。
【特許文献1】
特開2001−170111号公報
【特許文献2】
特表平8−503397号公報
【特許文献3】
特開昭57−205503号公報
【特許文献4】
特開昭64−45801号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
特表平8−503397号公報に示されるように、体液吸収性物品においては体液を素早く吸収体内に受け入れる能力(スポット吸収性)と、それを吸収体内全体にわたるように拡散させる能力(拡散性)は、使用感や漏れ防止の観点から極めて重要な要素であるが、従来の技術ではこれらの能力は未だ不十分であった。そして、本発明者らが鋭意研究したところによれば、従来の構成のままでは根本的な改善は困難であると考えられた。
【0005】
そこで、本発明の主たる課題は、スポット吸収性および拡散性を更に向上させることのできる技術を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明は下記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
体液透過性表面材と体液不透過性裏面材との間に、パルプにより形成した吸収体を介在させてなる吸収性物品において、
前記吸収体は、前記表面材側から順に上層及び下層を有するとともに、この下層の上面における前記上層と対応する部分に、ハニカム状に連続する凹部を圧縮加工してなり、
前記ハニカム状に連続する凹部は、物品の前後方向とのなす角が45度以下である線状部分と、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分とを有し、
前記凹部における圧縮前後における厚さの比として定まる圧縮率は30〜55%であり、
前記上層の密度は20〜50kg/m 3 であり、前記下層における上層と対応する部分の密度は60〜100kg/m 3 である、
ことを特徴とする体液吸収性物品。
【0007】
(作用効果)
一般にこの種の体液吸収性物品に用いられる吸収体は密度が低いほど体液を素早く透過する傾向があり、また密度が高くなるほど体液を透過し難くなるが体液を保持し易くなる傾向がある。本発明は、かかる特性を巧みに利用したものであり、吸収体を上層およびこれよりも密度の高い下層を有するものとなし、吸収体の厚さ方向に密度勾配をもたせることにより、スポット吸収性及び体液拡散性を更に改善できるようになしたものである。
【0008】
すなわち、本発明に従って上層及び下層の密度を設定すれば、吸収体に受け入れられた体液は上層を素早く通過して下層表面に到達する。この際、下層は体液を透過し難いため、体液は上層と下層との間、上層下部(下層側部分)および下層上部を通じて下層表面方向に拡散する。
【0009】
特に本発明では、エンボスパターンの凹部により体液が広範囲に均一に拡散できる。また、高密度部が連続しているため体液は非常に拡散し易くなる。また、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分は、体液の前後方向拡散を遮り、幅方向拡散を助長する。これは所謂横漏れを防止する観点から好ましくない。しかるに、本発明のように、物品の前後方向に対して45度以下である線状部分をも有していると、この凹部によって上層から下層に移行した体液は物品幅方向への拡散が遮られ、この凹部に沿って物品前後方向に効率良く拡散するようになる。
【0010】
さらに、本発明の圧縮率で下層に凹部を設けることで、後述の実施例からも明らかなように、スポット吸収性および拡散性の両特性に優れるようになる。
【0011】
よって、全体として、スポット吸収性及び体液拡散性の両方に優れるものとなり、またその結果、使用感が良好(体液の逆戻りや、体液によるベタツキ感が少ない)で、漏れも生じ難いものとなるのである。
【0012】
なお、このような観点は、上記従来技術には全く存在していない。例えば、特許文献1及び2は、吸収体を複数層構造とすることを開示しているが、それらの間で密度に差異をもたせるという観点が全くないものであり、スポット吸収性と体液拡散性の両方を向上させることができるとしても、その質・程度は本発明と比べうるものではない。
【0013】
また特許文献3及び4は、吸収体にエンボスを付与するため部分的に、すなわち圧搾部は高密度になるものであるが、その圧搾部(高密度部)は非圧搾部(低密度部)とは吸収体厚さ方向の積層関係にあるものではないから、その密度を如何に調整しても、本発明のように体液を素早く吸収ししかる後にそれを拡散させるような吸収形態となり得るものではない。その結果、この特許文献3及び4に開示された技術の場合、体液が透過し難く且つ体液吸収保持性の高い高密度部が、肌と接する表面層に接することになるため、体液の逆戻りが発生したり、装着者にベタツキ感をもたらすという問題点がある。
【0014】
他方、体液吸収性物品における横漏れ防止策として、吸収構造体の表面から裏面に向けて圧搾加工を施し、吸収性物品の両側部において前後方向に延びる圧搾線を形成することにより、前後方向の液体分配を増大させる方法等もあるが、肌に当接する高密度部に多量の体液が保持されるため、逆戻りやベタツキ感の問題は特許文献3及び4の場合よりも顕著になるものであり、また、これらの方法では吸収構造体が硬くなって装着者に不快感を与えたり、クッション性が失われて装着者の身体との間に隙間が発生したりするという問題点もある。
【0015】
これに対して、本発明の吸収材は、複数層構造を有するものであるため、クッション性や体へのフィット性を損なわれることなく、また製品厚が薄くなって安心感が損なわれることなく、使用感や漏れ防止性能を向上させることができる。
【0016】
<請求項2記載の発明>
前記下層の少なくとも両脇部が前記上層の端部より食み出しており、
前記上層の密度をA、前記下層における前記上層と対応する部分の密度をB、前記下層の食み出し部の密度をCとしたとき、B>AかつB>Cの関係を有するように構成されている、
請求項1記載の体液吸収性物品。
【0017】
(作用効果)
本発明に従って吸収体の下層を高密度にしたとき、これが吸収体の周縁部まで存在していると、当該周縁部が硬い角張った肌触り感をもたらす。本請求項2記載の発明はこれを解決するものであり、敢えて吸収体の上層から下層を食み出させるとともに、下層における上層対応部分の密度を上層よりも高くして、上記本発明の基本的作用効果を維持しつつも、下層の食み出し部の密度は下層の上層対応部分の密度よりも低くして吸収体周縁部における硬い角張った肌触り感を低減したものである。
【0018】
<請求項3記載の発明>
前記上層の密度Aと前記下層の食み出し部の密度Cとが、C>Aの関係を有する、請求項2記載の体液吸収性物品。
【0019】
(作用効果)
請求項2記載の発明において、下層の食み出し部の密度が上層の密度よりも低いと、下層に吸収された体液が食み出し部まで拡散せずに上層に逆戻りし易くなる。よって、本請求項3記載のように下層の食み出し部の密度を上層の密度より高くするのが望ましい。
【0020】
<請求項4記載の発明>
前記下層の食み出し部の密度が20〜80kg/m3である請求項2または3に記載の体液吸収性物品。
【0021】
(作用効果)
下層の食み出し部をかかる密度範囲とすることにより、吸収体周縁部における肌触り感を良好にすることができる。
【0022】
<請求項5記載の発明>
物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状部分の長さが、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分の長さよりも長くなっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の体液吸収性物品。
【0023】
(作用効果)
本項記載のように構成されていると、物品の前後方向とのなす角が45度以下の部分が占める割合が多くなり、上層から下層に移行した体液を物品前後方向に効率良く拡散させることができるようになる。
【0024】
<請求項6記載の発明>
物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状部分の幅が、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分の幅よりも太くなっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の体液吸収性物品。
【0025】
(作用効果)
前述のとおり、圧搾部分は体液を遮る機能によって体液の拡散を促進するものである。また、体液物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状部分は、体液の前後方向拡散を促進するものである。よって、本項記載の発明のように、体液の前後方向拡散を促進する部分の線幅を相対的に太くすると、当該部分における体液を遮る機能が相対的に高くなる結果、体液の前後方向拡散が促進されるようになる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について生理用ナプキンへの適用例を引いて詳述するが、本発明はパンツ型若しくはテープ式紙おむつへの適用も可能である。また生理用ナプキンとしては、実質的に前後対称形状の昼用のものであるか、臀部側に延在し、その臀部側が大きく張り出した形状をした夜用のもの、側部に張り出すウイングを有するいわゆるウイングタイプのものであるか、ウイングを有さない非ウイングタイプの生理用ナプキンであるかは問わず適用できることはもちろんである。夜用のものやウイングタイプの生理用ナプキンのものは、周知であるのため構造説明は省略する。
【0027】
<基本構造>
図1及び図2は、本発明に係る生理用ナプキンの一例1を示したものである。この生理用ナプキンの例1は、ポリエチレンシート、ポリプロピレンシートなどからなる不透液性裏面シート(裏面材)2と、経血やおりものなどを速やかに透過させる透液性トップシート(表面材)3とを有する。これら両シート2,3間には、綿状パルプまたは合成パルプなどからなり、必要に応じてクレープ紙によりその略全体を包んでなる吸収体4が介在されている。
【0028】
不透液性裏面シート2としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂シートなどの少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他にポリエチレンシート等に不織布を積層したラミネート不織布や、さらには防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した不織布シート(この場合には防水フィルムと不織布とで不透液性裏面シートを構成する。また通常、製品外面側に不織布が位置する積層形態が採られる)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートがある。
【0029】
透液性トップシート3としては、有孔または無孔の不織布や多孔性プラスチックシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高でソフトである点で優れている。
【0030】
透液性トップシート3には、図示しない表面エンボスを付与することができる。ここにいう表面エンボスは、透液性トップシート3が吸収コア4と組み合わされる前の工程で付与されるので、吸収体4の変形はないものである。
【0031】
吸収体4は、主にフラッフ状パルプと高吸収性ポリマーとにより形成できる。高吸収性ポリマーは吸収体4を構成するパルプ中に例えば粉粒体として混入できるほか、吸収体4の表面に保持させることもできる。パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。吸収コア4は、図面では概略的に示したため平坦になっているが、通常はフィット性向上のために前後方向及び幅方向中央が周囲に対して膨出する中高に形成される。
【0032】
他方、本実施形態においては、生理用ナプキン1の表面がわ両側部にそれぞれ、長手方向に沿って、かつ吸収性物品のほぼ全長に亘ってサイド不織布6,6が設けられているとともに、このサイド不織布6,6の一部6bが側方に延在されるとともに、前記不透液性裏面シート2の一部が側方に延在され、これら側方に延在されたサイド不織布6部分と不透液性裏面シート2部分とがホットメルト接着剤等により接合されている。
【0033】
サイド不織布6としては、重要視する機能に応じてそれぞれ撥水処理不織布または親水処理不織布を使用することができる。たとえば、経血やおりもの等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの機能を重視するならば、シリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングした撥水処理不織布を用い、前記ウイング状張り出し部W、Wにおける経血等の吸収性を重視するならば、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた親水処理不織布を用いるようにする。サイド不織布6として親水処理不織布を用いるのが望ましい。かかるサイド不織布6としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができるが、好ましくは目付け量を抑えて通気性を持たせた不織布を用いるのがよい。
【0034】
サイド不織布6,6の内側部分6Cは、吸収コア4の側縁より内方に延在し、二重シート状態で透液性トップシート3上にホットメルト接着剤に接着され、その接着側縁より外方に折り返され、その折り返し部分に糸ゴムなどの弾性伸縮部材6A,6Aが伸張状態でホットメルト接着剤により接着されている。サイド不織布6の折り返し部分の長手方向前後端部は、重ね合わせ状態で相互がホットメルト接着剤に接着されているが、中間部分は接着されていない。したがって、使用状態においては、弾性伸縮部材6A,6Aの収縮力により折り返し部分が起立し、経血の横漏れ防止バリヤーとして機能する。
【0035】
<本発明のポイント>
本実施形態の吸収体4は、図2及び図3に示すように、透液性トップシート3に接する上層4Uと、上面が上層に接し且つ下面が不透液性裏面シート2に接する下層4Lとからなる二層構造を有しており、下層4Lに(本実施形態では下層のみに)エンボス加工等により圧縮加工を施すことにより、下層4Lの密度を上層4Uよりも高くしている。この場合、下層4Lと上層4Uとは同じ大きさ・形状を有していても良いし、下層4Lを大きくして一部を上層4Uの端部から食み出させても良いが、この場合、より密度が高く硬い下層4Lが吸収体の縁部を形成するため、当該部分が角張った肌触りを装着者に与えるため、好ましくない。一方、この問題点を解決するために、上層4Uを下層4Lの端部から食み出させることもできるが、体液透過性が高くかつ体液保持性の低い低密度上層4Uが食み出していると、当該部分における体液の逆戻り等を発生させるおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態では、下層4Lの少なくとも両脇部(当該部分が太股の内側に当たるため上記肌触りに対する影響が最も大きい)、好適には周縁部全体を上層4Uの端部より食み出させるとともに、上層4Uの密度をA、下層4Lにおける上層と対応する部分LLの密度をB、下層の食み出し部LEの密度をCとしたとき、B>AかつB>Cの関係を有するように構成している。かくして、下層の高密度部よりも密度の低い下層の食み出し部LEが吸収体4の周縁部を形成することになるため、肌触りが良好となる。
【0037】
またこの場合に密度C>密度Aの関係を有すると、すなわち、密度B>密度C>密度Aの関係を有すると、下層に吸収された体液が上層に逆戻りせずに食み出し部まで拡散し易くなるため、特に好ましい。かかる密度関係を形成するために、密度Aの上層を形成するとともに、密度Cの下層を形成し、その上層と重なる部分をエンボス加工または全体圧縮加工により密度Bまで圧縮し、両者を積層することができる。
【0038】
そして、本発明では、上層4Uの密度Aは20〜50kg/m3、特に25〜40kg/m3となし、下層4Lにおける上層対応部分LLの密度は60〜100kg/m 3 とする。また、下層4Lの食み出し部LEの密度は20〜80kg/m3、特に25〜60kg/m3とすることが推奨される。かかる範囲においては、スポット吸収性および体液拡散性を向上させることができ、また吸収体周縁部の肌触り感の向上および逆戻りの防止を図ることができる。
【0039】
また、本発明では、下層4Lの上層対応部分LLに対して圧縮加工を行い、その形態としては、図4(c)に示すように、連続する溝状凹部dがハニカム状(すなわちエンボス凸部が六角形)をなすハニカムエンボスパターンとされる。符号pはエンボスにより圧搾されていない凸部を示している。この他に、図4に示すように、物品の前後方向および幅方向に連続する溝状凹部dを有する格子状エンボスパターン(同図(a))、溝状凹部dが前後方向に対して傾斜した斜め格子状エンボスパターン(同図(b))、円形のエンボス凸部pが離間配列され、それらの間に連続網状の凹部dが形成されたエンボスパターン(同図(d))等も考えられたが、本発明はこれらのパターンを含まない。
【0040】
また、他の圧縮加工例として、図5に示すように、エンボスパターンの凹部d,d相互が表面方向において離間配列された形態も考えられたが、本発明はこれらのパターンを含まない。なお、同図からも明らかなように、図5の各形態は、前述の図4の各パターンの凹凸を反対にすることにより形成できる。
【0041】
さらに、別の圧縮加工例として、図6に示すように所定部位、例えば下層4Lにおける上層対応部分の全領域を実質的に平坦に圧縮し凹部dとなした形態も考えられたが、本発明はこれらのパターンを含まない。
【0042】
また、別の圧縮加工例として、図7に示すように、物品前後方向(吸収体長手方向)等の所定方向に連続する線状の凹部d,d…が相互に平行に複数列設けられたエンボスパターンを採用する形態も考えられたが、本発明はこれらのパターンを含まない。
【0043】
本発明では、凹部(圧縮部)dの圧縮率(圧搾前後における厚さの比として定まる)を30〜55%の範囲内として体液拡散性を良好ならしめる。さらに、本発明におけるエンボス加工では、エンボス凸部pの面積率(エンボス凸部の面積/(エンボス凸部の面積+エンボス凹部の面積)×100)は、20〜100%の範囲内で適宜設定できる。
【0044】
また本発明では、図8(a)及び(b)に示すように、長手方向と物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状凹部d1と、長手方向と物品の前後方向とのなす角βが45度より大きい線状凹部d2とを有する(図示例ではこれらの凹部により網状パターンが形成されている)。物品の前後方向とのなす角αが45度以下の線状凹部d1は、下層4Lに到達した体液を凹部d1に沿って移動させ、物品幅方向(前後方向と直交する方向)への体液拡散を抑制するとともに、前後方向への体液拡散を促進させ、所謂横漏れを発生し難くする。
【0045】
さらに、このようなエンボスパターンにおいては、図8(a)に示すように、前者の凹部d1の長さbを後者d2の長さaよりも長くすることもできる。この場合、体液の前後方向拡散を促進する線状凹部d1の占める割合が多くなり、上層4Uから下層4Lに移行した体液を物品前後方向に効率良く拡散させることができるようになる。
【0046】
さらに同様のエンボスパターンにおいて、図8(b)に示すように、物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状凹部d1の幅eを、物品の前後方向とのなす角βが45度より大きい線状凹部d2の幅cよりも太くするのも好ましい。この場合、体液の前後方向拡散を促進する凹部d1の幅eが相対的に太くなり、当該部分d1における体液を遮る機能が相対的に高くなる結果、体液の前後方向拡散が促進されるようになる。
【0047】
なお、図8(d)の形態は、図8(c)の形態と組み合わせることもできる。
【0048】
(その他)
上記説明からも明らかなように、本発明の吸収体4の密度調整は、エンボス加工に限らず、各層の製造時、例えばパルプ積繊後に、その全体を圧搾することにより行うこともできる。また上記実施形態では、エンボス加工等の圧縮加工を下層4Lにのみ施しているが、本発明の密度の大小関係を満たす限り、上層4Uにもエンボス加工等の圧縮加工を施すこともできる。
【0049】
【実施例】
(実験1)
厚さ方向の密度勾配(下層密度/上層密度)を異ならせた上層および下層(それぞれ積繊パルプからなる)の二層構造を有する吸収体サンプルを種々製造し、上層から下層への体液の移行し易さ(スポット吸収性)を評価した。具体的な手順は下記のとおりである。
(1) 上層の目付、厚みを一定にし、下層の密度を異ならしめた種々の吸収体サンプルを作成する。
(2) 3ccの馬血をシリンダーにて自然滴下させ、30秒後の拡散面積を測定する。
(3) 3分後、同様に馬血をシリンダーにて自然滴下させ、30秒後の拡散面積を測定する。
(4) 10分後、上層の重量を測定する。
【0050】
サンプルの種類および測定結果等を表1に示す。また、密度勾配と上層吸収量の相関を図9に示す。この結果からも、吸収体を上層及び下層を有する構造とするとともに、下層の密度を上層の密度よりも高くすることによって、スポット吸収性及び拡散性を向上できることが判る。
【0051】
【表1】
【0052】
(実験2)
積繊パルプからなる下層にエンボスパターンを付与した種々の吸収体サンプルを製造し、スポット吸収性および拡散性を評価した。具体的な手順は下記のとおりである。
(1) 下層にエンボス板を重ね、各例共通の条件下でエンボスパターンを付与した。また、加圧前後の厚みを測定し、圧縮率(%)(=加圧後の厚み/加圧前の厚み×100)を求めた。なお、当然ではあるが圧縮率が小さいほど密度が高い。
(2) 圧縮した下層に上層を重ねる。この際、上層、下層の重量を測定しておく。
(3) 直径5mmのガラス管で約0.85gの馬血を3回、1分ごと滴下し、10分放置後の下層拡散面積を測定した。なお、下層拡散面積は、拡散領域を楕円に近似して長軸と短軸とをそれぞれ測定し、これらの測定値に基づいて算出した。
(4) また、血液の下層への移行しやすさを次式より求める。
移行容易性(%)=下層増加重量/(上層増加重量+下層増加重量)×100
【0053】
サンプルの種類および測定結果等を表2に示す。また、エンボス凸率と血液の下層のへの移行容易性との関係、ならびに圧縮率と血液の下層のへの移行容易性との関係を図10及び図11にそれぞれ示す。
【0054】
この実験2の結果から、次のことが判る。
(イ)エンボス凸率が大きいほど圧縮される傾向があり、圧縮されるほど血液が下層に移行しやすい。
(ロ)血液が下層へ移行しやすいほど、上層・下層間でスポット的に吸収される。
(ハ)エンボス高さが小さく、エンボス間距離が小さいほど圧縮されやすいため、血液が下層に移行しやすい。
(ニ)エンボス間距離が0のパターン(エンボスH)では、血液がエンボスに沿って大きく拡散する。
(ホ)血液を上層から下層に50%以上移行させ、下層で良好に内部拡散させるためには、圧縮率55%以下であること、およびエンボス間距離が0であることが必要である。
【0055】
【表2】
【0056】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によればスポット吸収性および拡散性を改善できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る生理用ナプキン例を示す平面図である。
【図2】 要部縦断面図である。
【図3】 吸収体の平面図である。
【図4】 圧縮加工の第1の具体例を示す要部平面図である。
【図5】 圧縮加工の第2の具体例を示す要部平面図である。
【図6】 圧縮加工の第3の具体例を示す平面図である。
【図7】 圧縮加工の第4の具体例を示す図である。
【図8】 他の好適な圧縮加工の例を示す要部平面図である。
【図9】 密度勾配と上層吸収量の相関を示すグラフである。
【図10】 エンボス凸率と血液の下層のへの移行容易性との関係を示すグラフである。
【図11】 圧縮率と血液の下層のへの移行容易性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…生理用ナプキン、2…不透液性裏面シート、3…透液性トップシート、4吸収体、4U…上層、4L…下層。
Claims (6)
- 体液透過性表面材と体液不透過性裏面材との間に、パルプにより形成した吸収体を介在させてなる吸収性物品において、
前記吸収体は、前記表面材側から順に上層及び下層を有するとともに、この下層の上面における前記上層と対応する部分に、ハニカム状に連続する凹部を圧縮加工してなり、
前記ハニカム状に連続する凹部は、物品の前後方向とのなす角が45度以下である線状部分と、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分とを有し、
前記凹部における圧縮前後における厚さの比として定まる圧縮率は30〜55%であり、
前記上層の密度は20〜50kg/m 3 であり、前記下層における上層と対応する部分の密度は60〜100kg/m 3 である、
ことを特徴とする体液吸収性物品。 - 前記下層の少なくとも両脇部が前記上層の端部より食み出しており、
前記上層の密度をA、前記下層における前記上層と対応する部分の密度をB、前記下層の食み出し部の密度をCとしたとき、B>AかつB>Cの関係を有するように構成されている、
請求項1記載の体液吸収性物品。 - 前記上層の密度Aと前記下層の食み出し部の密度Cとが、C>Aの関係を有する、請求項2記載の体液吸収性物品。
- 前記下層の食み出し部の密度が20〜80kg/m3である請求項2または3に記載の体液吸収性物品。
- 物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状部分の長さが、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分の長さよりも長くなっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の体液吸収性物品。
- 物品の前後方向とのなす角が45度以下の線状部分の幅が、物品の前後方向とのなす角が45度より大きい線状部分の幅よりも太くなっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の体液吸収性物品。
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