JP3812938B2 - 紫外線励起希土類付活塩化物蛍光体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光体の応用分野、特にディスプレイ用、蛍光ランプ用、蛍光表示管用等に応用し得る、安定で新規な塩化物系の蛍光体材料、その用途及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
蛍光体、特にディスプレイ用、蛍光ランプ、蛍光表示管等の表示用の蛍光体として、これまでに実用化されている蛍光体には、赤色系蛍光体では、ディスプレイ用蛍光体として、Y22S:Eu3+、YBO3:Eu3+;蛍光ランプ用蛍光体として、Y23:Eu3+が挙げられる。また、緑色系蛍光体では、ディスプレイ用蛍光体として、Zn2SiO4:Mn2+、CeMgAl1119:Tb;蛍光ランプ用蛍光体として、LaPO4:Ce3+,Tb3+、(Ba,Mg)2Al1624:Eu2+,Mn2+が挙げられる。青色系蛍光体では、ディスプレイ用蛍光体として、ZnS:Ag、BaMg2Al1424:Eu2+;蛍光ランプ用蛍光体として、Sr227:Sn2+、BaMg2Al1627:Eu2+が挙げられる。
【0003】
上記の蛍光体の例は、いずれも遷移元素又は希土類元素から構成された蛍光体である。このような蛍光体の調製方法としては、母体及び付活剤の各構成元素の酸化物や硫化物等を適宜選択し、適量を混合し、焼成して、蛍光体を得ることが挙げられる。
【0004】
無機化合物系蛍光体の付活剤として用いる元素は、遷移元素又は希土類元素が挙げられ、特に遷移元素が好ましい。しかし、遷移元素を付活剤として用いる場合、蛍光スペクトルがブロードであるため、色純度が悪く、温度変化により蛍光スペクトル形が変化するため、色調が変化する等という欠点がある。f−f遷移を有する希土類金属を付活剤に使用した場合、蛍光スペクトルが極めてシャープであるため、色純度がよい、温度が変化しても蛍光スペクトル形がほとんど変化しないため、色調も変化しないという特徴がある。
【0005】
しかし、従来の希土類元素を付活剤とする実用的な蛍光体は、ほとんどがユーロピウム(Eu)又はテルビウム(Tb)を用いた酸化物系である。それは、希土類イオンは、赤外から近紫外域において多くの鋭い発光帯を有するが、蛍光体として利用しやすい発光準位の数は少ないという欠点があるためである。言い換えれば、蛍光体の酸化物母体において、他の希土類イオンは、ほとんどの発光の始準位における無輻射遷移確率が非常に大きいため、発光効率が悪く、結果として充分に発光しない。
【0006】
蛍光体の発光効率は、発光準位からの輻射遷移確率と無輻射遷移確率によって、下記式(1):
発光効率=輻射遷移確率/(輻射遷移確率+無輻射遷移確率)………(1)
で表される。この式(1)から明らかなように、発光効率を高めるためには、母体に無輻射遷移確率の低いものを選択し、輻射遷移確率の高い物質を付活することが有効である。
【0007】
無輻射遷移確率は、媒質である母体を構成するイオン間の結合エネルギーに大きく依存している。例えば、結合エネルギーの大きい酸化物を母体とした場合、励起状態からの遷移の多くが無輻射遷移確率となってしまい、ほとんどの発光準位で充分な発光を得ることができない。したがって、より結合エネルギーの小さな化合物を用いることが有効である。そこで、母体として、上記の蛍光体よりも結合エネルギーの小さな塩化物を用いることが検討されている。
【0008】
更に、酸化物蛍光体は、一般的に、その合成工程において約1100〜1400℃の高温での焼成が必要である。この点においても、塩化物蛍光体は、約600〜900℃の比較的低温での焼成によって合成できるため、合成に要するエネルギー量を軽減でき、酸化物系よりも望ましい。
【0009】
しかし、塩化物蛍光体の原料となる塩化物無水塩は空気中では水分を吸収しやすく、原料塩が安定して得られない、ハロゲン化物の脱水工程や蛍光体合成工程においてオキシ塩化物を副生成しやすい等の欠点がある。これらの問題は未だ完全には解決されておらず、実用化に充分な性能を有する塩化物蛍光体は得られていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、このような事情を鑑み、紫外線励起により、新規な色調を高輝度で安定して発光し得る、新規な希土類付活塩化物蛍光体、その用途及びその製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、LnCl3を母体とし、Ln′を付活剤とする、蛍光物質LnCl3:Ln′(ここで、Lnは希土類元素であり、そしてLn′は、Lnと異なる希土類元素である)を含む、紫外線で励起する希土類を付活した塩化物蛍光体に関する。
【0012】
更に、本発明は、LnCl3を母体とし、Ln′を付活剤とする、蛍光物質LnCl3:Ln′において、Lnが、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ガドリニウム(Gd)及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる少なくとも1の元素であり、Ln′が、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)及びツリウム(Tm)からなる群から選ばれる少なくとも1の元素である、希土類付活塩化物蛍光体に関する。
【0013】
本発明の方法は、LnCl3の無水塩と、Ln′Cl3の無水塩とを、1500:1〜10:1のモル比で混合し、所望により添加剤を添加し、乾燥不活性ガス雰囲気下に600〜900℃で焼成し、粉砕する、蛍光体の製造方法に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のLnとしては、希土類元素、例えばSc、Y、La、Gd、Ybが挙げられ、Y、Gdが好ましい。
【0015】
本発明のLn′としては、希土類元素、例えばCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tmが挙げられ、Eu、Erが好ましい。
【0016】
本発明によれば、LnCl3:Ln′として、YCl3:Eu3+、YCl3:Er3+、GdCl3:Eu3+、GdCl3:Er3+が好ましく、発光強度に優れるため、YCl3:Eu3+、YCl3:Er3+がより好ましい。
【0017】
なお、本発明の希土類付活塩化物蛍光体には、LnCl3、Ln′及びその構成元素以外の物質を、更に加えて混合することができる。混合可能な物質は、例えばバナジウム(V)等である。
【0018】
本発明の蛍光体は、母体が希土類酸化物ではなく、希土類塩化物であるため、無輻射遷移緩和がほとんど生ぜず、発光効率が高い。したがって、酸化物蛍光体に比べてより広い範囲での、様々な遷移の発光を得ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、例えば、LnCl3無水塩とLn′Cl3無水塩を焼成する際等に添加剤を加え、添加剤を包含させることができる。添加剤としては、塩化物、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)等が挙げられる。NH4Clは、他の添加剤では副生成しやすかったオキシ塩化物の副生成がなく、非常に高品質の蛍光体が得られやすい。ここで、添加剤、例えばNH4Clの添加量は、母体のLnCl3無水塩対NH4Clの比で、1:4〜2:1が好ましく、0.5〜1:1がより好ましい。
【0020】
本発明によれば、Ln:Ln′の割合は、母体で吸収した励起エネルギーと付活剤量とのバランス及び濃度消光を考慮すると、1500:1〜10:1、好ましくは1000:1〜50:1、より好ましくは500:1〜50:1、最も好ましくは200:1〜100:1である。
【0021】
本発明の蛍光体は、例えば、下記のようにして製造することができる。まず、原料の希土類塩化物無水塩を製造するには、希土類酸化物又は希土類炭酸塩を塩酸に溶解させ、常圧下に加熱し、水分を蒸発させて、希土類塩化物の六〜八水和物を得る。これをシャーレに取り、減圧しながら乾燥し、塩化水素ガス雰囲気中に加熱し、脱水する。このようにして、それぞれの希土類塩化物無水塩、つまりLnCl3の無水塩、Ln′Cl3の無水塩を得る。
【0022】
つぎに、母体となるLnCl3無水塩と、付活剤となるLn′Cl3無水塩とをLnとLn′のモル比(Ln:Ln′)が所定の割合となるように秤量する。ついで、これらをるつぼに入れ、高純度の乾燥不活性ガス雰囲気下にて、600〜900℃で焼成し、粉砕、分級することにより、所望の希土類付活塩化物蛍光体を得ることができる。
【0023】
本発明によれば、焼成温度は、600〜900℃、好ましくは700〜900℃としてもよい。また、本発明によれば、焼成に用いる純度99.99%以上の乾燥不活性ガスとして、アルゴン、窒素等が挙げられる。
【0024】
本発明の蛍光体は、乾燥不活性ガス、例えばアルゴンガスの雰囲気下、50℃以下の温度で保存することが好ましい。その貯蔵安定性は、乾燥アルゴンガス置換した密閉容器で貯蔵した場合、約半年〜1年である。
【0025】
本発明の蛍光体は、ディスプレイ用、蛍光ランプ用、又は蛍光表示管用に用いることができる。これらの例としては、例えば、シンチレーター、蛍光ランプ用又はCRT若しくはLCD用のようなX線増感紙、コンピューター化ラジオグラフィー、ブラックライト、ジアゾ複写機ランプ、ゼログラフィー複写機ランプ、高演色ランプ、蛍光ランプ、一般照明ランプ、高圧水銀灯、夜光塗料、フライングスポットCRT若しくはLCD、カラーTV用CRT若しくはLCD、エレクトロルミネッセンス素子等が挙げられる。
【0026】
本発明の蛍光体によれば、母体を塩化物とするため、発光強度を低下させる要因となる無輻射遷移確率が非常に小さく、したがって、広範な波長の光を高効率に発光させることができる。加えて、紫外光励起によって、従来にない色調や、強い蛍光強度の発光を得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法によれば、上記の原料、原料配合、添加剤及び製造条件と同様にして、蛍光体を製造することができる。
【0028】
【実施例】
〔蛍光体原料の製造例〕
まず、酸化エルビウム(Er23)に、6mol/lの塩酸溶液を完全に溶解するまで添加した。そして、その溶液を、撹拌しながら、105℃で加熱して、溶液内の水分を蒸発させ、その後、127℃まで加熱した。これを放冷し、固化したものを粉砕して、塩化エルビウム・六水和物(ErCl3・6H2O)を得た。これをシャーレに取り、減圧乾燥器(ヤマト科学(株)製 DP23型)内に10mmHgの減圧下で、乾燥塩化水素ガスの雰囲気下に、130℃で24時間加熱した。装置内に乾燥アルゴンガスを加えながら、常圧に戻し、塩化エルビウム無水物(ErCl3)を得た。
また、塩化イットリウム無水物(YCl3)等の他の蛍光体原料についても上記と同様の方法で得た。
【0029】
〔蛍光体の合成方法〕
例1、2、5及び実施例3、4
上記の方法で製造したYCl3とErCl3を、表1に記載の所定のモル比になるように、所要重量を算出した。高純度の乾燥アルゴンガス雰囲気中に所要重量を秤量し、乳鉢に取り、撹拌混合した。つぎに、混合した原料粉末を、アルミナるつぼに入れ、装置内をあらかじめ高純度の乾燥アルゴンガス雰囲気にしておいた電気炉で焼成した。焼成は、高純度の乾燥アルゴン雰囲気下、800℃で2時間保持して行い、その後室温まで徐冷した。このようにして表1に示す5種類の蛍光体を得た。
【0030】
先の方法で得られた蛍光体に関し、それぞれ、381nmの紫外線を照射して励起することにより、発光の色調を観察し、蛍光スペクトルを測定し、最大ピーク波長及び蛍光強度(任意値)を算出した。表1に、最大ピーク波長、発光の色調及び蛍光強度を示す。
鮮やかな緑〜黄緑の強い発光が観察された。YCl3対ErCl3のモル比が、200:1付近の蛍光体が特に優れた発光強度を与えた。
【0031】
例6及び実施例7、8
例1、2、5及び実施例3、4におけるYCl3とErCl3の代わりに、塩化ユーロピウム無水物(EuCl3)を用い、高純度の乾燥窒素雰囲気下、焼成温度を850℃で焼成を行った以外は、例1、2、5及び実施例3、4と同様にして、表1のモル比を有する3種類の蛍光体を得て、評価した。表1、図3及び図4に、結果を示す。
鮮やかな赤〜赤橙の強い発光が観察された。純粋な赤色領域の近辺で、最大ピーク波長が得られた。YCl3対EuCl3のモル比が、100:1〜200:1の蛍光体が特に優れた発光強度を与えた。
【0032】
実施例9
例1、2、5及び実施例3、4におけるYCl3とErCl3の代わりに、EuCl3と塩化ガドリニウム無水物(GdCl3)を用い、高純度の乾燥窒素雰囲気下、焼成温度を850℃として焼成を行った以外は、例1、2、5及び実施例3、4と同様にして、調製して、表1のモル比を有する蛍光体を得て、評価した。表1、図3及び図4に、結果を示す。
付活剤に同じEu3+を用いた場合、母体にYCl3を用いた蛍光体の方がより発光強度が高かった。
【0033】
実施例10
添加剤としてNH4Clを、YCl3対NH4Clのモル比が100:400となるように添加した以外は、実施例7と同様にして、蛍光体を得て、評価した。表1、図5及び図6に、結果を示す(実施例7と対比させた)。
実施例10の蛍光強度は、実施例7よりも高かった。
【0034】
【表1】
Figure 0003812938
【0035】
比較例1
赤色酸化物蛍光体Y23:Eu3+(「蛍光体ハンドブック」蛍光体同学会編、(株)オーム社刊、1987)に基づき調製)について、例1と同様にして、発光の色調を観察し、蛍光スペクトルを測定し、最大ピーク波長及び蛍光強度(任意値)を算出した。表1に、最大ピーク波長、発光の色調及び蛍光強度を示す。
図7及び図8に、結果を実施例10の塩化物蛍光体YCl3:Eu3+と比較させて示す。
【0036】
赤色酸化物蛍光体Y23:Eu3+は、蛍光灯の赤色成分やディスプレイ用、蛍光表示管用等に広く使われている。その焼成温度は、約1400℃である。Y23:Eu3+のスペクトルは、本発明のYCl3:Eu3+よりも短波長側に位置しており、最大ピークは610nmであり、色調はYCl3:Eu3+よりも更に橙色を帯びていた。また、蛍光強度も実施例10の結果より低かった。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、紫外線励起により、様々な色調を高輝度で安定して発光し得る、新規な希土類付活塩化物蛍光体及びその製造方法である。
加えて、本発明の希土類付活塩化物蛍光体には、従来の酸化物蛍光体では用い得なかった希土類元素を付活剤として用いることができる。また、紫外線励起であるため、様々な色調に発光させることができ、フラットパネルディスプレイ、波長変換レーザー等に広く利用することができる。本発明の蛍光体は、酸化物蛍光体よりも低温合成ができるため、合成に要するエネルギーの面から考えても有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のYCl3:Er3+蛍光体の蛍光スペクトルである。
【図2】本発明のYCl3:Er3+蛍光体の蛍光スペクトル強度である。
【図3】本発明のYCl3:Eu3+蛍光体及びGdCl3:Eu3+蛍光体の蛍光スペクトルである。
【図4】本発明のYCl3:Eu3+蛍光体及びGdCl3:Eu3+蛍光体の蛍光スペクトル強度である。
【図5】本発明のYCl3:Eu3+蛍光体の蛍光スペクトルである。
【図6】本発明のYCl3:Eu3+蛍光体の蛍光スペクトル強度である。
【図7】本発明の蛍光体と従来の蛍光体の蛍光スペクトルである。
【図8】本発明の蛍光体と従来の蛍光体の蛍光スペクトル強度である。

Claims (6)

  1. LnCl3を母体とし、Ln′を付活剤とし、LnとLn′のモル比が、200:1〜100:1である、蛍光物質LnCl3:Ln′
    (ここで、Lnは、スカンジウム、イットリウム、ガドリニウム及びイッテルビウムからなる群から選ばれる少なくとも1の希土類元素であり、そしてLn′は、Lnと異なる希土類元素であり、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム及びツリウムからなる群から選ばれる少なくとも1の元素である)
    を含む、紫外線励起希土類付活塩化物蛍光体。
  2. 前記Lnが、イットリウム又はガドリニウムであり、前記Ln′が、ユーロピウム又はエルビウムである、請求項1記載の希土類付活塩化物蛍光体。
  3. LnCl3の無水塩と、Ln′Cl3の無水塩とを、500:1〜10:1のモル比で混合し、塩化アンモニウムを添加し、乾燥不活性ガス雰囲気下に600〜900℃で焼成し、粉砕して、LnCl 3 を母体とし、Ln′を付活剤とする、蛍光物質LnCl 3 :Ln′(ここで、Lnは希土類元素であり、そしてLn′は、Lnと異なる希土類元素である)を得る、蛍光物質の製造方法。
  4. 前記Lnが、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ガドリニウム及びイッテルビウムからなる群から選ばれる少なくとも1の元素であり、前記Ln′が、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム及びツリウムからなる群から選ばれる少なくとも1の元素である、請求項3記載の方法
  5. 前記塩化アンモニウムを、母体のLnCl 3 無水塩対NH 4 Clの比で、1:4〜2:1で添加する、請求項3又は4記載の方法。
  6. ディスプレイ用、蛍光ランプ用、又は蛍光表示管用の、請求項1又は2記載の蛍光体又は請求項3〜5のいずれか1項記載の方法により製造された蛍光物質
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