JP3812775B2 - 1ビット信号処理装置及びデルタ−シグマ変調装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は1ビット信号処理装置及びデルタ−シグマ変調装置に関し、特にn(≧1)次のデルタ−シグマ変調装置を備えた1ビット信号処理装置に関する。なお、本発明の実施例では、音声信号処理装置について述べているが、本発明は、音声信号処理装置に限定されるものではない。
【0002】
【従来の技術】
アナログ信号をナイキスト周波数以上の周波数でサンプリングし、得られるサンプルの振幅をmビットで量子化することによって、アナログ信号をディジタル信号に変換することが知られている。例えばm=8のときは、サンプル値は、8ビットの精度で量子化される。一般的に、mは1以上とされる。
【0003】
アナログ信号を1ビットのディジタル信号に量子化するアナログ/ディジタル変換器(以下、A/D変換器という。)として、「シグマ−デルタA/D変換器」又は「デルタ−シグマA/D変換器」が知られている。ここでは、「デルタ−シグマ」の用語を用いる。そのようなデルタ−シグマA/D変換器は、例えば、クレイグ・マービン(Craig Marven)、ギリアン・イーワース(Gillian Ewers)著、1993年、テキサスインストルメント(Texas Instruments)出版の「ディジタル信号処理への簡単なアプローチ(A Simple Approach to Digital Signal Processing)」(ISBN 0-904.047-00-8)に記述されている。
【0004】
デルタ−シグマA/D変換器では、図7に示すように、アナログ入力信号と、1ビットの出力信号の積分値(シグマ)との差分(デルタ)が加算器101によって求められ、1ビット量子化器102に供給される。出力信号は、論理0と論理1のビットよりなるが、論理0と論理1は、実際の値としては−1と+1をそれぞれ表している。積分器103は、1ビットの出力信号を累積し、アナログ入力信号の値に追従する累積値を出力する。1ビット量子化器102は、生成するビット毎に、累積値を増加(+1)又は減少(−1)させる。デルタ−シグマA/D変換器のサンプリング周波数は、累積値がアナログ入力信号に追従するような出力ビットストリームを生成することができるように、高い周波数とされる。
【0005】
特許請求の範囲及び以下の説明で用いている「1ビット」信号の用語は、例えばデルタ−シグマA/D変換器によって生成され、1ディジタルビットの精度で量子化された信号を意味する。
【0006】
デルタ−シグマ変調器(以下、DSMという。)は、1ビット信号を直接処理するn次のフィルタとして構成され、このn次のフィルタは、1993年10月7日〜10日に行われた第95回AES(Audio Engineering Society)会議でエヌ・エム・ケーシー(N.M. Casey)、ジェームス・エー・エス・アンガス(James A.S. Angus)によって発表された論文「音声信号の1ビットディジタル処理(One Bit Digital Processing of Audio Signals)」−信号処理:音声研究グループ、電気部門、ヨーク大学、ヘスリングトン、ヨークY01 5DD 英国(Signal Processing : Audio Research Group, The Electronics Department, The University of York, Heslington, York YO1 5DD England)で提案されたものである。図8は、DSMの3(n=3)次のフィルタ部分の構成を示すブロック図である。
【0007】
DSMは、図8に示すように、1ビット信号が入力される入力端子111と、処理された1ビット信号を出力する出力端子117とを備える。1ビット信号の各ビットは、DSM全体において所定のクロック(図示せず)に同期して処理される。出力ビット信号は、例えば閾値が0の比較器からなる1ビット量子化器115によって生成される。DSMは、入力端子111に接続された1ビット乗算器1121,1122,1123と、出力端子117に接続された1ビット乗算器1161,1162,1163と、加算器1131,1132,1133と、積分器1141,1142,1143とを備えている。
【0008】
1ビット乗算器1121〜1123は、入力端子111を介して供給される1ビット信号にpビットからなる係数A1〜A3をそれぞれ乗算し、得られるpビットの乗算値を加算器1131〜1133にそれぞれ供給し、1ビット乗算器1161〜1163は、出力信号にpビットの係数C1〜C3をそれぞれ乗算し、得られるpビットの乗算値を加算器1131〜1133にそれぞれ供給する。加算器1131〜1133は、それらの乗算値をそれぞれ加算し、得られる加算値を積分器1141〜1143に供給する。また、中間段の加算器1132,1133は、前段の積分器1141,1142の出力もそれぞれ加算する。最終段は、入力端子111に接続された1ビット乗算器1124と、加算器1134とを備え、1ビット乗算器1124は、入力1ビット信号にpビットの係数A4を乗算し、加算器1134は、この乗算値に前段の積分器1143の出力を加算する。そして、得られる加算値は、1ビット量子化器115に供給される。
【0009】
DSMでは、正及び負のpビットの数を表すために2の補数計算が用いられる。1ビット量子化器115は、正の値が入力されると、それを+1(論理1)に量子化し、負の値が入力されると、それを−1(論理0)に量子化して出力する。
【0010】
ケーシー及びアンガス著の論文には、「1ビットの処理装置は、雑音により許容できないほど不明瞭な音声信号を含む1ビットの出力信号を生成するので、・・・量子化雑音を適切に除去しなければならない。」との記載がある。音声信号を不明瞭にする雑音は、1ビット量子化器115によって発生する量子化雑音である。
【0011】
1ビット量子化器115は、音声信号が供給される第1の入力端子と、音声信号と実質的に相関がないランダムビットストリーム(量子化雑音)が供給される第2の入力端子とを有する加算器と見なすことができる。このモデルでは、入力端子111を介して入力される音声信号は、1ビット乗算器1121〜1124によって出力端子117にフィードフォワードされるとともに、1ビット乗算器1161〜1163によってフィードバックされる。したがって、フィードフォワードパスにおける係数A1〜A4は、音声信号の伝達関数のz変換における零点を定め、フィードバックパスにおける係数C1〜C3は、伝達関数のz変換における極を定めている。
【0012】
一方、雑音信号は、1ビット量子化器115から1ビット乗算器1161〜1163によってフィードバックされ、係数C1〜C3は、雑音信号の伝達関数の極を定めている。雑音信号の伝達関数は、入力信号の伝達関数とは異なっている。
【0013】
係数A1〜A4,C1〜C3は、他の所望の特性の中で回路安定度が得られるように定められる。
【0014】
係数C1〜C3は、例えば図9に実線120で示すように、音声帯域内における量子化雑音を除去して最小にするように定められる。
【0015】
係数A1〜A4,C1〜C3は、また所望の音声信号特性が得られるように定められる。
【0016】
係数A1〜A4,C1〜C3は、以下のようにして定めることができる。
【0017】
a)例えば雑音除去機能を有する所望のフィルタ特性の伝達関数をz変換してH(z)を求める。
【0018】
b)H(z)を係数に変換する。
【0019】
これは、「5次のシグマ−デルタA/D変換器の理論と実践(Theory and Practical Implementation of a Fifth Order Sigma-Delta A/D Converter)」、オーディオ・エンジニアリング・ソサィティ・ジャーナル、39巻、No.7/8、1991年、7月/8月、アール・ダブル・アダムス等著(Journal of AudioEngineering Society, Volume 39, no. 7/8, 1991 July/August by R.W Adamset al.)、及びアンガスとケーシーの上述した論文に記述されている方法を用いて、行うことができる。
【0020】
ここで、係数を定める具体的な方法について説明する。
【0021】
5次のDSMを解析する過程と、所望のフィルタ特性が得られる係数を計算する過程とを概説する。
【0022】
5次のDSMは、図10に示すように、係数a〜fの乗算器1211〜1216と、加算器1221〜1225と、積分器1231〜1235と、係数A〜Eの乗算器1251〜1255とを備えている。積分器1231〜1235は、それぞれ単位遅延時間を有する。積分器1231〜1235は、それぞれ信号s[n],t[n],u[n],v[n],w[n]を出力する。DSMには、信号x[n]が入力される。ここで、[n]は、クロックに同期した連続のサンプルにおける1つのサンプルを表している。量子化器124は、信号y[n]を出力し、この信号y[n]は、DSMの出力信号でもある。量子化器124を信号にランダム雑音を加える単なる加算器として動作すると見なしたモデルに基づいて解析する。したがって、量子化器124は、この解析では無視される。
【0023】
サンプル[n]における出力信号y[n]は、入力信号x[n]に係数fを乗算し、それに前段の積分器1235の出力信号w[n]を加算したものであり、例えばy[n]=fx[n]+w[n]で表される。
【0024】
同じ原理を積分器1231〜1234の各出力信号に適用すると、下記式1が得られる。
【0025】
y[n]=fx[n]+w[n]
w[n]=w[n−1]+ex[n−1]+Ey[n−1]+v[n−1]
v[n]=v[n−1]+dx[n−1]+Dy[n−1]+u[n−1]
u[n]=u[n−1]+cx[n−1]+Cy[n−1]+t[n−1]
t[n]=t[n−1]+bx[n−1]+By[n−1]+s[n−1]
s[n]=s[n−1]+ax[n−1]+Ay[n−1]
・・・式1
これらの式1をz変換すると、下記式2が得られる。
【0026】
Y(z)=fX(z)+W(z)
W(z)(1−z−1)=z−1(eX(z)+EY(z)+V(z))
V(z)(1−z−1)=z−1(dX(z)+DY(z)+U(z))
U(z)(1−z−1)=z−1(cX(z)+CY(z)+T(z))
T(z)(1−z−1)=z−1(bX(z)+BY(z)+S(z))
S(z)(1−z−1)=z−1(aX(z)+AY(z))
・・・式2
z変換式2において、Y(z)をX(z)の単一関数として解くと、下記式3が得られる。
【0027】
【数1】
【0028】
DSMの伝達関数は、Y(z)/X(z)であり、下記式4に示すように、zの級数で表される。この式4の右辺の1行目は、式3に基づいて2行目に示すように表すことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
式4において、所望の伝達関数を満足するように係数αn,βnを決め、係数α0〜α5から係数f〜aを、係数β0〜β5から係数E〜Aを導く。
【0031】
右辺の2行目の分子におけるz0の項はfだけであり、したがって、f=α0である。
【0032】
次に、右辺の1行目の分子からα0(1−z−1)5を引くと、α0+α1z−1・・・+・・・α5z−5−α0(1−z−1)5が得られる。
【0033】
同様に、右辺の2行目の分子からf(1−z−1)5を引く。このとき、z−1の項はeだけであり、このeは、右辺の1行目の対応したα1と等しい。
【0034】
以上の処理を、式4の分子の全ての項に対して繰り返して、係数d〜aを求める。また、この処理を式4の分母の全ての項に対して繰り返して、係数E〜Aを求める。
【0035】
【発明の解決しようとする課題】
ところで、DSM間で信号をフィルタリングし、またDSM間で1ビット信号のストリームを維持することが望ましい。このフィルタリングが必要な理由は、例えば縦続接続されたDSMにおいて望ましくない量子化雑音が蓄積されるのを防止するためである。しかしながら、適切なディジタルフィルタは、少なくともビットストリームの各ビットを加算して多ビットの信号を生成し、及び/又はビットストリームにp(≧1)ビットの係数で乗算する。そして、このようなフィルタに縦続接続されたDSMの全ての係数乗算器には、pビットの信号が供給され、これらの係数乗算器は、pビットの乗算器でなければならず、非常に不経済である。
【0036】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、1ビット信号を処理する直列又は縦続接続された複数のデルタ−シグマ変調器を備える1ビット信号処理装置を提供することである。なお、上述した論文には、このような提案については何ら記載も示唆もなされていない。
【0037】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る1ビット信号処理装置は、縦続接続された1ビットのn(≧1)次のデルタ−シグマ変調手段を備える。各n次のデルタ−シグマ変調手段は、1ビット信号が入力される入力手段と、処理された1ビット信号を出力する出力手段と、入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、所定の周波数特性を有し、線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、フィルタリング手段の出力に設けられ、フィリタリング手段でフィルタリングされた信号と線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、出力手段を介して出力する量子化手段とを備える。
【0038】
また、本発明に係るデルタ−シグマ変調装置は、互いに縦続接続された1ビットのn(≧1)次のデルタ−シグマ変調装置において、1ビット信号が入力される入力手段と、処理された1ビット信号を出力する出力手段と、入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、所定の周波数特性を有し、線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、フィルタリング手段の出力に設けられ、フィルタリング手段でフィルタリングされた信号と線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、出力手段を介して出力する量子化手段とを備える。
【0039】
また、本発明に係るデルタ−シグマ変調装置は、1ビット信号が入力される入力手段と、処理された1ビット信号を出力する出力手段と、入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、所定の周波数特性を有し、線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、フィルタリング手段の出力に設けられ、フィルタリング手段でフィルタリングされた信号と線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、出力手段を介して出力する量子化手段とを備えるデルタ−シグマ変調装置。
【0040】
本発明では、フィルタリング手段は、DSM内に設けられており、p(>1)ビットの信号で動作し、DSM及び縦続接続されたDSMにおけるpビットの乗算器の数を最少にする。
【0041】
本発明では、フィルタリング手段は、ローパスフィルタからなり、信号帯域外の雑音を低減し、後段のDSMの安定度を維持する。
【0042】
ローパスフィルタは、遅延回路と遅延されたビットを加算する加算器で構成することができる。また、ローパスフィルタは、1以上の係数乗算器で構成するようにしてもよい。各係数乗算器は、pビットの係数を乗算することによってpビットの信号を出力するが、非線形部、例えば量子化器によって1ビット信号に戻される。したがって、後段のDSMに入力される信号は、1ビット信号である。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る1ビット信号処理装置及びデルタ−シグマ変調装置について図面を参照して説明する。
【0044】
本発明を適用した1ビット信号で動作する音声信号処理装置は、例えば図1に示すように、縦続接続された複数のデルタ−シグマ変調器(以下、DSMという。)11,12,13,14を備える。これらのDSM11〜14はミキサ又はフェーダとして用いられる。なお、本発明は、このような音声信号処理装置に限定されるものではない。
【0045】
ここで、本発明を適用したこれらのDSMについて説明する。図2は、図1に示すDSMの具体的な構成を示すブロック図である。
【0046】
図2に示すn次のDSMは、1ビット信号が供給される線形の音声信号処理部20と、線形の雑音除去部30と、音声信号処理部20の出力をフィルタリング(濾波)するローパスフィルタ(以下、LPFという。)41と、LPF41の出力と雑音除去部30の出力を加算する加算器42と、加算器42の出力信号を1ビット信号に変換し、この1ビット信号をDSMの出力端子44を介して出力する量子化器43とを備える。このDSMは、クロック発生回路(図示せず)によって制御される。
【0047】
DSMの次数nは、例えば3次であり、音声信号処理部20及び雑音除去部30は、3つの積分部をそれぞれ有する(なお、図2には2つの積分部を示している)。音声信号処理部20及び雑音除去部30の第1段目の積分部は、少なくとも1つの1ビット係数乗算器211,311と、積分器221,321とを備える。第1段目の積分部以外の例えば第2段目の積分部は、少なくとも1つの1ビット係数乗算器212,312と、積分器222,322と、前段の積分器221,321の出力と現段の1ビット係数乗算器212,312の出力を加算する加算器232,332とを備える。積分部ではない最終段は、図2に示すように、少なくとも1つの1ビット係数乗算器214,314と、前段の積分器223,323の出力と現段の1ビット係数乗算器214,314の出力を加算する加算器234,334とを備える。
【0048】
1ビット係数乗算器211〜214は、入力される1ビット信号に係数A1〜A4をそれぞれ乗算し、得られるpビットの信号を積分器221、加算器232〜234に供給する。一方、1ビット係数乗算器311〜314は、このDSMの出力信号である1ビット信号に係数C1〜C4をそれぞれ乗算し、得られるpビットの信号を積分器321、加算器332〜334に供給する。
【0049】
図3は、積分器221〜223,321〜323の具体的な構成を示すブロック図である。積分器221〜223,321〜323は、それぞれ加算器51と、加算器51の出力を単位時間遅延して加算器51にフィードバックする遅延回路52とを有する。そして、積分器221〜223,321〜323は、1ビット係数乗算器211〜213,311〜313から供給されるpビットの信号を累積(積分)して、積分値を出力する。
【0050】
加算器232〜234は、それぞれ前段の積分器221〜223からの積分値と、現段の1ビット係数乗算器212〜214の出力とを加算して、得られる加算値をLPF41に供給する。また、加算器332〜334は、それぞれ前段の積分器321〜323からの積分値と、現段の1ビット係数乗算器312〜314の出力とを加算して、得られる加算値を加算器42に供給する。
【0051】
なお、例えば1ビット係数乗算器212、加算器232、積分器222からなる第2段目の積分部に、加算器232と加算器51の両方を必ずしも設ける必要はなく、2つの加算器を1つの加算器とするようにしてもよい。また、他の段の積分部においても同様である。
【0052】
係数A1〜A4,C1〜C4は、図10を参照して説明した方法で計算される。
【0053】
図4は、LPF41の具体的な構成を示すブロック図である。LPF41は、縦続接続された2つの遅延回路素子61,62と、加算器63と、係数乗算器64とを備える。加算器63は、加算器234から供給されるpビットの加算値の中の連続した3つのサンプル値を加算して、加算器234からの加算値にフィルタリングを施す。乗算器64は、そのフィルタリングされた加算値に単一の係数Kを乗算して積を生成し、この積を加算器42に供給する。加算器42は、この積に雑音除去部30の出力を加算して量子化器43に供給する。量子化器43は、例えば比較器からなり、加算器42の出力を再量子化して、1ビット信号を生成する。
【0054】
LPF41は、例えば図5に破線45で示す周波数特性を有する。音声帯域における量子化雑音(帯域内雑音)は、低減されるが、除去されない。しかし、縦続接続されたDSM中の前段のDSMからの音声帯域外の雑音(帯域外雑音)は、除去されるか、少なくともかなり低減される。帯域内であれ、帯域外であれ、あらゆる雑音の累積は、回路の安定度を下げるので、帯域外雑音の除去又は低減は、縦続接続されたDSMの安定度を維持するのに有効である。
【0055】
図2に示すように、音声信号処理部20及び雑音除去部30の出力と量子化器43との間に設けられているLPF41は、高価な多ビットの係数乗算器63を有するが、係数乗算器211〜214,311〜314は、安価な1ビットの乗算器とすることができる。ところで、LPF41をDSMの上段に設けた場合は、係数乗算器211〜214,311〜314は、望ましくない高価な多ビットの乗算器とする必要がある。
【0056】
音声信号処理部20よって決まる零点は、回路安定度の観点では、雑音除去部30によって決まる極を補償するので、音声信号処理部20と雑音除去部30を分離すると、回路が不安定になると考えられる。例えば、論理1の長い連続は、積分器の1つにおいて累積され、大きな積分値となり、実際に、回路が不安定となる。DSMの実際の例においては、2の補数が用いられ、積分器の加算器は、例えば1が連続して入力されると、巡回(ラップラウンド)する。すなわち、加算器51の値が最大値に達すると、その値は0になった後、再び増加し始める。これにより、音声信号処理部20と雑音除去部30を分離したことに起因する回路の不安性を防止することができる。
【0057】
上述したDSMを用いた音声信号処理装置の具体例、例えば音声信号ミキサが、関連出願(英国出願番号9624671.5)に記述されている。
【0058】
具体的には、この音声信号ミキサは、例えば図6に示すように、2つの入力信号を混合する混合器71,72,73,74を備え、これらの混合器71〜74は、図2に示すDSMからなる。混合器71,72の出力対は、加算器75に供給され、混合器73,74の出力対は加算器76に供給される。これらの混合器71〜74は、例えば係数A1〜A4,C1〜C4が可変である内部にLPF41を有するDSMからなり、加算器75,76は、例えば係数A1〜A4,C1〜C4が固定の内部にLPF41を有するDSMからなる。最終の加算器77は、加算器75,76と同様に、固定の係数を有するDSMからなる。このように、この音声信号ミキサは、DSMを縦続接続して構成されるが、DSMの内部にLPFを有することにより、回路の安定度が損なわれることはない。
【0059】
【発明の効果】
本発明に係る1ビット信号処理装置は、縦続接続された1ビットのn(≧1)次のデルタ−シグマ変調手段を備える。各n次のデルタ−シグマ変調手段は、1ビット信号が入力される入力手段と、処理された1ビット信号を出力する出力手段と、入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、所定の周波数特性を有し、線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、フィルタリング手段の出力に設けられ、フィリタリング手段でフィルタリングされた信号と線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、出力手段を介して出力する量子化手段とを備える。これにより、複数のデルタ−シグマ変調手段を直列又は縦続接続しても、1ビット信号処理装置の安定度が損なわれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 縦続接続された複数のn次のデルタ−シグマ変調器を有する音声信号処理装置の具体的な構成を示すブロック図である。
【図2】 図1に示す音声信号処理装置におけるn次のデルタ−シグマ変調器の具体的な構成を示すブロック図である。
【図3】 図2に示すn次のデルタ−シグマ変調器における積分器の具体的な構成を示すブロック図である。
【図4】 図2に示すn次のデルタ−シグマ変調器におけるローパスフィルタの具体的な構成を示すブロック図である。
【図5】 図2に示すn次のデルタ−シグマ変調器におけるローパスフィルタの周波数特性を示す図である。
【図6】 本発明を適用したデルタ−シグマ変調器を用いた音声信号ミキサの具体的な構成を示すブロック図である。
【図7】 従来のデルタ−シグマ変調器の構成を示すブロック図である。
【図8】 n次のフィルタとして構成されたデルタ−シグマ変調器の構成を示すブロック図である。
【図9】 雑音除去特性を示す図である。
【図10】 5次のデルタ−シグマ変調器の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
20 音声信号処理部、211〜214 1ビット係数乗算器、221〜223 積分器、232〜234 加算器、30 雑音除去部、311〜334 1ビット係数乗算器、積分器321〜323 積分器、332〜334 加算器、41 LPF、42 加算器、43 量子化器
Claims (8)
- 縦続接続された1ビットのn(≧1)次のデルタ−シグマ変調手段を備え、
上記各n次のデルタ−シグマ変調手段は、
1ビット信号が入力される入力手段と、
処理された1ビット信号を出力する出力手段と、
上記入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、
所定の周波数特性を有し、上記線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、
上記出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、
上記フィルタリング手段の出力に設けられ、該フィリタリング手段でフィルタリングされた信号と上記線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、
上記加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、上記出力手段を介して出力する量子化手段とを備えることを特徴とする1ビット信号処理装置。 - 上記フィルタリング手段は、上記量子化手段で発生する量子化雑音を低減するローパスフィルタからなることを特徴とする請求項1記載の1ビット信号処理装置。
- 上記入力手段に入力される1ビット信号は、音声信号からなることを特徴とする請求項1又は2記載の1ビット信号処理装置。
- 上記デルタ−シグマ変調手段の次数nは、3以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の1ビット信号処理装置。
- 互いに縦続接続された1ビットのn(≧1)次のデルタ−シグマ変調装置において、
1ビット信号が入力される入力手段と、
処理された1ビット信号を出力する出力手段と、
上記入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、
所定の周波数特性を有し、上記線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、
上記出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、
上記フィルタリング手段の出力に設けられ、該フィルタリング手段でフィルタリングされた信号と上記線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、
上記加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、上記出力手段を介して出力する量子化手段とを備えるデルタ−シグマ変調装置。 - 上記次数nは、3以上であることを特徴とする請求項5記載のデルタ−シグマ変調装置。
- 上記フィルタリング手段は、ローパスフィルタからなることを特徴とする請求項5又は6記載のデルタ−シグマ変調装置。
- 1ビット信号が入力される入力手段と、
処理された1ビット信号を出力する出力手段と、
上記入力手段に入力される1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形信号処理手段と、
所定の周波数特性を有し、上記線形信号処理手段からのpビットの信号をフィルタリングするフィルタリング手段と、
上記出力手段を介して出力する処理された1ビット信号に応じてpビットの信号を生成する線形雑音除去手段と、
上記フィルタリング手段の出力に設けられ、該フィルタリング手段でフィルタリングされた信号と上記線形雑音除去手段からのpビットの信号とを加算する加算手段と、
上記加算手段の出力信号を1ビット信号に変換して上記処理された信号を生成し、上記出力手段を介して出力する量子化手段とを備えるデルタ−シグマ変調装置。
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