JP3810521B2 - 窒素酸化物除去用素材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、有害ガス除去用素材、特に、窒素酸化物除去用素材に関する。
【0002】
【従来の技術】
公害防止の観点から、工場や自動車から排出される有害ガス、特に窒素酸化物や硫黄酸化物を除去するための方法が種々研究されており、一定の成果が得られている。既に提供されている一般的な有害ガスの除去方法は、有害ガスを薬液に吸収させる方法や、金属触媒を用いて有害ガスを酸化または還元することにより無害な物質に変換する方法などである。ところが、これらの除去方法は、大型の有害ガス固定発生源や自動車エンジンなどの内燃機関を対象としたものであり、通常、数百℃以上の高温の排気ガス中の高濃度有害ガスの除去を目的としたものである。このため、上述の除去方法によれば、常温において、低濃度の有害ガスを効果的に除去するのは困難である。
【0003】
ところで、近年、生活環境の安全・衛生に対する関心が高まりつつあり、例えば家屋やビル内の空気中に含まれる有害ガスの除去についての要望が高まっている。ところが、上述の除去方法は、高温高濃度の有害ガスの除去を目的としているため、それを実施するための装置が大掛かりになり、家屋やビルに適用するのは困難である。
【0004】
このため、低濃度の有害ガスを常温において効果的に除去することができる方法として、ゼオライトや活性炭などの多孔質物質に対して有害ガスを接触させて吸着させ、これにより有害ガスを除去する方法が提案されている。しかし、ここで用いられる多孔質物質は、有害ガスの吸着量に限界があり、また、寿命も短い。そこで、有害ガスの吸着量を高めて長寿命化した多孔質物質が提案されている。例えば、特公昭54−2297号公報には、活性炭の表面に鉄や銅などの金属酸化物を付着させたものが示されており、また、特許第2480429号特許掲載公報には、活性炭繊維の表面にアルカリ金属を担持させたものが示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述の各種多孔質物質は、いずれも活性炭の表面に金属類を担持させたものであるため、その製造時には、担体としての活性炭に対して金属類の微粒子を分散させて付着させる必要や、このようにして金属類を担持させた活性炭をさらに焼成する必要があるなど、煩雑な工程や高度な技術が要求される。
【0006】
また、上述の多孔質物質は、有害ガスの除去性能が低下し易い。これは、活性炭に担持された金属類が劣化したり剥落し易いためと考えられる。
【0007】
本発明の目的は、窒素酸化物の除去性能が低下しにくく、しかも製造が容易な窒素酸化物除去用素材を実現することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る窒素酸化物除去用素材は、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む活性炭前駆体に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施した後にさらに賦活処理を施すことにより得られるものである。
【0009】
ここで、活性炭前駆体は、例えばピッチである。また、この活性炭前駆体は、例えば上述の金属を0.01〜5重量%含んでいる。さらに、この窒素酸化物除去用素材は、例えば繊維状に形成されている。
【0010】
また、本発明に係る窒素酸化物除去用素材は、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を表面および内部に含む活性炭からなる。
【0011】
本発明に係る窒素酸化物除去用素材の製造方法は、次の工程を含んでいる。
◎マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の化合物と、活性炭前駆体とを溶媒の存在下で混合して混合物を得るための工程。
◎混合物に対して炭素化処理および不融化処理のうちの一の処理を施すための工程。
◎炭素化および不融化のうちの一の処理が施された混合物を賦活するための工程。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の窒素酸化物除去用素材は、所定の金属を含む活性炭前駆体から活性炭を調製するための工程を経由して得られるものである。
【0013】
本発明で用いられる金属は、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれたものである。これらの金属は、それぞれ単独で用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0014】
本発明で用いられる活性炭前駆体は、炭素化や不融化などの手法により容易に活性炭になり得、しかも後述する金属化合物と溶媒を用いて混合可能なものであれば特に限定されない。このような活性炭前駆体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂およびピッチなどの、活性炭を製造するために一般的に用いられる有機物を例示することができる。このうち、炭化時の理論炭化収率の点で、ピッチを用いるのが好ましい。
【0015】
上述の金属を含むこのような活性炭前駆体は、通常、上述の金属の化合物と活性炭前駆体とを溶媒を用いて混合することにより調製することができる。ここで、上述の金属の化合物としては、溶媒に溶解可能なものが好ましく用いられる。この金属化合物は、無機化合物であってもよいし、有機化合物であってもよい。
【0016】
無機化合物としては、例えば、上述の金属の塩化物、硝酸塩および酢酸塩などの無機塩類が用いられる。より具体的には、塩化マグネシウム,塩化ストロンチウムなどの塩化物、硝酸マグネシウム,硝酸ストロンチウムなどの硝酸塩、酢酸マグネシウム,酢酸ストロンチウムなどの酢酸塩を例示することがきる。
【0017】
また、有機化合物としては、例えば、上述の金属とアセチルアセトンやシクロペンタジエンなどとの有機金属錯体が用いられる。より具体的には、ビスアセチルアセトナトジアコマグネシウム,ビスアセチルアセトナトジアコストロンチウムなどのアセチルアセトン錯体を例示することができる。
【0018】
一方、ここで用いられる溶媒は、活性炭前駆体および上述の金属化合物の双方を溶解することができるものである。このような溶媒は、特に限定されるものではないが、利用する活性炭前駆体および金属化合物の種類に応じて適宜選択することができる。
【0019】
このような溶媒を用いて活性炭前駆体と金属化合物とを混合する場合、金属化合物が溶解された溶媒中に活性炭前駆体を加えて混合してもよいし、活性炭前駆体中に金属化合物が溶解された溶媒を加えて混合してもよい。なお、このような混合操作においては、攪拌や加熱などの操作が適宜加えられてもよい。
【0020】
なお、上述の金属を含む活性炭前駆体を調製する際には、通常、活性炭前駆体に含まれる金属の量が活性炭前駆体の0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%になるよう活性炭前駆体と混合する金属化合物の量を設定する。但し、ここで言う金属の量は、金属化合物としての量ではなく、金属元素換算の量である。
【0021】
ここで、活性炭前駆体に含まれる金属の量が0.01重量%未満の場合は、本発明の窒素酸化物除去用素材が所要の窒素酸化物除去性能を発揮しない場合がある。逆に、5重量%を超える場合は、活性炭前駆体より調製される活性炭中で金属が凝集し易くなり、結果的に本発明の窒素酸化物除去用素材が所要の窒素酸化物除去性能を発揮しにくくなる場合がある。また、後述するような繊維状の窒素酸化物除去用素材を製造する場合において、活性炭前駆体の紡糸性が損なわれる場合がある。
【0022】
上述のようにして調製される金属化合物と活性炭前駆体との混合物(以下、活性炭前駆体混合物と表現する)からは、通常、溶媒を除去しておくのが好ましい。溶媒の除去方法としては、減圧蒸留などの慣用手段を採用することができる。
【0023】
また、活性炭前駆体としてピッチを用いる場合は、後述するような繊維状の活性炭を製造する際の紡糸工程の安定性の点で、溶媒を除去した後の活性炭前駆体混合物に酸素含有気体を吹き込んで処理するのが好ましい。ここで用いられる酸素含有気体としては、空気、オゾン含有空気、酸素富化空気および酸素を例示することができる。なお、吹き込み処理の温度条件は、250〜500℃程度に設定するのが好ましく、300〜400℃程度に設定するのがより好ましい。また、酸素含有空気の吹き込み量は、ピッチ1kg当たり、0.1〜10l/分程度に設定するのが好ましく、0.2〜5l/分程度に設定するのがより好ましい。
【0024】
本発明の窒素酸化物除去用素材は、上述の活性炭前駆体混合物を用いて活性炭を調製することにより得られる。ここで、活性炭前駆体混合物から活性炭を調製する場合には、活性炭前駆体混合物に対し、炭素化処理または不融化処理を施した後、さらに賦活処理を施す。
【0025】
活性炭前駆体混合物の炭素化処理方法、不融化処理方法および賦活処理方法は、常法に従って実施することができ、特に限定されるものではない。例えば炭素化処理は、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、活性炭前駆体混合物を1分当たり5〜10℃程度の割合で800〜1,200℃程度まで加熱し、そのときの最高温度を最大限10分間程度保持することにより実施することができる。一方、不融化処理は、不活性ガスまたは酸素含有ガスの雰囲気下で1分当たり0.1〜5℃程度の割合で活性炭前駆体混合物を融点以下の温度から400℃程度まで加熱すると実施することができる。さらに賦活処理は、水蒸気、二酸化炭素、酸素およびこれらの混合物並びにこれらのガスを窒素などの不活性ガスで希釈したガス雰囲気下において、炭素化または不融化した活性炭前駆体混合物を800〜1,200℃程度に加熱して5〜120分程度保持すると実施することができる。
【0026】
このようにして調製される活性炭、すなわち本発明の窒素酸化物除去用素材は、特に形状が限定されるものではないが、通常は、フイルターを構成し易いなど、多様な加工を適用し易いことから繊維状に形成されるのが好ましい。繊維状の活性炭を得る場合は、上述の炭素化工程または不融化工程を適用する前に、活性炭前駆体混合物を予め紡糸しておくことができる。ここでは、紡糸性を高めるために、活性炭前駆体混合物を調製する際に用いる活性炭前駆体の重合度を調整しておくのが好ましい。
【0027】
上述のように、本発明の窒素酸化物除去用素材は、所定の金属化合物を含む活性炭前駆体から常法に従って活性炭を調製することにより得ることができるため、製造過程において従来のような煩雑な操作や高度な技術を必要とせず、容易に製造することができる。また、本発明の窒素酸化物除去用素材は、それに含まれる上述の金属の賦活反応促進作用に由来して活性炭細孔構造の変化が起こること、および当該金属が有害ガスに対して化学的または触媒的作用を発現することにより、窒素酸化物除去性能を発揮し得るものと考えられる。ここで、本発明の窒素酸化物除去用素材を構成する活性炭は、上述のような金属を予め含有する活性炭前駆体を用いて調製されているため、その表面部位のみならず、その内部にも上述の金属が分散した状態で含まれる。したがって、本発明の窒素酸化物除去用素材は、金属の劣化や剥落が起こりにくく、窒素酸化物除去性能が低下しにくい。
【0028】
なお、本発明の窒素酸化物除去用素材は、押出成形や湿式成形などの慣用手法に従って、例えばフィルター形状に加工して利用することもできる。このような加工を施す場合、本発明の窒素酸化物除去用素材には賦形剤やバインダーなどを適宜混合することができる。
【0029】
また、本発明の窒素酸化物除去用素材は、所望により抗菌性が付与されてもよい。抗菌性は、例えば、上述の活性炭前駆体混合物に対して抗菌性金属、例えば銀や銅などを添加することにより本発明の窒素酸化物除去用素材に付与することができる。なお、抗菌性金属は、通常、酢酸銀やビスアセチルアセトナト銅などの化合物として活性炭前駆体に添加される。
【0030】
【実施例】
実施例1(マグネシウム含有活性炭繊維の製造)
水分およびキノリン不溶分を除去したコールタール1,100gを窒素雰囲気下で80℃加温し、これにビスアセチルアセトナトジアコマグネシウム[Mg(CH 3 COCHCOCH 3 ) 2 ・2H 2 O]29.8gを溶解したキノリン100mlを徐々に滴下しながら5時間攪拌した。
【0031】
次に、これを減圧蒸留し、その後5l/分の割合で空気を吹き込みながら330℃で3時間反応させ、活性炭前駆体混合物であるマグネシウム含有コールタールピッチを得た。
【0032】
次に、得られたマグネシウム含有コールタールピッチを下記の条件で溶融押出紡糸し、ピッチ繊維を製造した。
ノズル:径=0.35mm、24穴
吐出量:18.9g/分
溶融温度:320℃
【0033】
このピッチ繊維を、空気中で常温から375℃まで2℃/分の割合で昇温し、375℃に達した後に15分間保持することにより不融化した。さらに、不融化されたピッチ繊維を窒素雰囲気下において850℃で40分間飽和水蒸気に暴露し、賦活した。
【0034】
このようにして得られたマグネシウム含有活性炭繊維は、比表面積が1,322m2/gであり、金属(マグネシウム)含有率が2.30重量%であった。なお、ここでの比表面積は窒素吸着量からBET式に基づいて求めた値であり、また、金属含有量はICP発光分析法により測定した値である。この点、特に言及のない限り、以下の実施例についても同様である。
【0035】
実施例2(ストロンチウム含有活性炭繊維の製造)
ビスアセチルアセトナトジアコマグネシウム[Mg(CH 3 COCHCOCH 3 ) 2 ・2H 2 O]29.8gに代えてビスアセチルアセトナトジアコストロンチウム[Sr(CH3COCHCOCH3)2・2H2O]10.2gを用いた点を除いて実施例1の場合と同様に操作し、ストロンチウム含有活性炭繊維を得た。この活性炭繊維は、比表面積が987m2/g であり、ストロンチウム含有量が2.90重量%であった。
【0036】
比較例1〜6(金属含有活性炭繊維の製造)
上述の各実施例に倣い、次の物性を有する金属含有活性炭繊維を得た。
(比較例1)
アルミニウム含有活性炭繊維:比表面積=1,528m2/g、アルミニウム含有量=1.00重量%。
(比較例2)
ロジウム含有活性炭繊維:比表面積=1,447m2/g、ロジウム含有量=2.20重量%。
(比較例3)
バナジウム含有活性炭繊維:比表面積=1,301m2/g、バナジウム含有量=1.70重量%。
(比較例4)
銀含有活性炭繊維:比表面積=1,453m2/g、銀含有量=1.00重量%。
【0037】
評価
(二酸化窒素ガス除去性能評価)
実施例1〜2および比較例1〜4で得られた活性炭繊維、市販の活性炭繊維(株式会社アドールの商品名“A−10”)並びに市販の添着粒状活性炭(クラレケミカル株式会社の商品名“クラレコール”)について、二酸化窒素ガスの除去性能を評価した。ここでは、検体約0.5gを充填したカラムに約100ppmの二酸化窒素を含有する空気(温度=23℃)を流速2.0l/分、線速度3.9m/秒で流し、カラムの下流側の二酸化窒素濃度の経時変化を追跡した。15分後の二酸化窒素除去率を表1に示す。表1から、各実施例の活性炭繊維の二酸化窒素除去性能は、比較例および市販の活性炭繊維並びに市販の添着粒状活性炭に比べて顕著に優れていることがわかる。
【0038】
【表1】
【0039】
【発明の効果】
本発明の窒素酸化物除去用素材は、上述のような特定の金属を含む活性炭前駆体を用いて調製されているので、製造が容易であり、しかも窒素酸化物除去性能が低下しにくい。
【0040】
また、本発明に係る窒素酸化物除去用素材の製造方法は、上述のような特定の金属の化合物と活性炭前駆体との混合物を調製し、この混合物を炭素化または不融化した後に賦活しているので、窒素酸化物除去性能が低下しにくい窒素酸化物除去用素材を容易に製造することができる。
Claims (6)
- マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含む活性炭前駆体に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施した後にさらに賦活処理を施すことにより得られる窒素酸化物除去用素材。
- 前記活性炭前駆体がピッチである、請求項1に記載の窒素酸化物除去用素材。
- 前記活性炭前駆体が前記金属を0.01〜5重量%含んでいる、請求項1または2に記載の窒素酸化物除去用素材。
- 繊維状に形成されている、請求項1、2または3に記載の窒素酸化物除去用素材。
- マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を表面および内部に含む活性炭からなる窒素酸化物除去用素材。
- マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の化合物と、活性炭前駆体とを溶媒の存在下で混合して混合物を得るための工程と、
前記混合物に対して炭素化処理および不融化処理のうちの一の処理を施すための工程と、
前記処理が施された前記混合物を賦活するための工程と、
を含む窒素酸化物除去用素材の製造方法。
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JP15797797A JP3810521B2 (ja) | 1997-05-30 | 1997-05-30 | 窒素酸化物除去用素材およびその製造方法 |
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