JP3825139B2 - オゾン分解用素材およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、オゾン分解用素材、特に、活性炭前駆体を用いて調製されるオゾン分解用素材に関する。
【0002】
【従来の技術】
人体に有害なオゾンガスの処理方法として、オゾンを分解する方法が知られている。このようなオゾン分解法は、通常、加熱分解法、薬液洗浄法および触媒分解法の3種類に大別することができる。ここで、加熱分解法および薬液洗浄法は、それぞれガス加熱装置およびアルカリ性薬液との接触装置などの特別な装置を必要とするために採用が困難であるのに対し、触媒分解法は、オゾン分解用素材と接触させるだけで簡便にオゾンガスを分解することができることから、現在最も広く採用されている。
【0003】
ところで、上述の触媒分解法では、通常、オゾン分解用素材として二酸化マンガンなどの金属化合物や活性炭が用いられている。しかし、これらのオゾン分解用素材は、一般に、低温下でのオゾン分解効率が低く、また、寿命も短い。このため、この種のオゾン分解用素材に関しては、従来から種々の改良が試みられている。この結果、例えば、酸化マンガンをセラミック繊維上に担持させたもの(特許第2552175号特許掲載公報参照)、貴金属を活性炭繊維上に担持させたもの(特許第2547328号特許掲載公報参照)、活性炭繊維の細孔を改良したもの(特許第2480429号特許掲載公報参照)およびアルカリ金属を活性炭繊維上に担持させたもの(特許第2480429号特許掲載公報参照)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述の各種オゾン分解用素材は、いずれも活性炭などの無機材料担体に金属類を担持させたものであるため、その製造時には、無機材料担体に対して金属類の微粒子を分散させて付着させる必要や、このようにして金属類を担持させた無機材料担体をさらに焼成する必要があるなど、煩雑な工程や高度な技術が要求される。
【0005】
また、上述のオゾン分解用素材は、オゾン分解性能が低下し易い。これは、無機材料担体に担持された金属類が劣化し易く、また、無機材料担体の表面の炭素分がオゾンにより酸化されてガスとして失われる際に、無機材料担体表面の細孔が破壊されるとともに無機材料担体表面に担持された金属類が剥落し易いためと考えられる。
【0006】
本発明の目的は、オゾン分解性能が低下しにくく、しかも製造が容易なオゾン分解用素材を実現することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るオゾン分解用素材は、イットリウムを含む活性炭前駆体に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施した後にさらに賦活処理を施すことにより得られるものである。
【0008】
ここで、活性炭前駆体は、例えばピッチである。また、活性炭前駆体は、例えば、イットリウムを0.01〜5重量%含んでいる。さらに、このオゾン分解用素材は、例えば繊維状に形成されている。
【0009】
また、本発明に係るオゾン分解用素材は、イットリウムを含有する活性炭からなる。
【0010】
本発明に係るオゾン分解用素材の製造方法は、次の工程を含んでいる。
イットリウム化合物と、活性炭前駆体とを溶媒の存在下で混合して混合物を得るための工程。
◎混合物に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施すための工程。
◎炭素化および不融化のうちの一の処理が施された混合物を賦活するための工程。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のオゾン分解用素材は、イットリウムを含む活性炭前駆体を炭素化または不融化した後に賦活することにより得られるものである。
【0012】
本発明で用いられる活性炭前駆体は、炭素化や不融化などの手法により容易に活性炭になり得、しかも後述するイットリウム化合物と溶媒を用いて混合可能なものであれば特に限定されない。このような活性炭前駆体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂およびピッチなどの、活性炭を製造するために一般的に用いられる有機物を例示することができる。このうち、炭化時における理論炭化収率の点で、ピッチを用いるのが好ましい。
【0013】
イットリウムを含むこのような活性炭前駆体は、通常、イットリウム化合物と活性炭前駆体とを溶媒を用いて混合することにより調製することができる。ここで、イットリウム化合物としては、溶媒に溶解可能なものが好ましく用いられる。このイットリウム化合物は、無機化合物であってもよいし、有機化合物であってもよい。
【0014】
無機化合物としては、例えば、イットリウムの塩化物、硝酸塩および酢酸塩などの無機塩類が用いられる。
【0015】
また、有機化合物としては、例えば、イットリウムとアセチルアセトンやシクロペンタジエンなどとの有機金属錯体が用いられる。より具体的には、トリスアセチルアセトナトジアコイットリウムなどのアセチルアセトン錯体、トリスシクロペンタジエニルイットリウムなどのシクロペンタジエン錯体を例示することができる。
【0016】
一方、ここで用いられる溶媒は、活性炭前駆体およびイットリウム化合物の双方を溶解することができるものである。このような溶媒は、特に限定されるものではないが、利用する活性炭前駆体およびイットリウム化合物の種類に応じて適宜選択することができる。
【0017】
このような溶媒を用いて活性炭前駆体とイットリウム化合物とを混合する場合、イットリウム化合物が溶解された溶媒中に活性炭前駆体を加えて混合してもよいし、活性炭前駆体中にイットリウム化合物が溶解された溶媒を加えて混合してもよい。なお、このような混合操作においては、攪拌や加熱などの操作が適宜加えられてもよい。
【0018】
なお、イットリウムを含む活性炭前駆体を調製する際には、通常、活性炭前駆体に含まれるイットリウムの量が活性炭前駆体の0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%になるよう活性炭前駆体と混合するイットリウム化合物の量を設定する。但し、ここで言うイットリウムの量は、イットリウム化合物としての量ではなく、イットリウム元素換算の量である。
【0019】
ここで、活性炭前駆体に含まれるイットリウムの量が0.01重量%未満の場合は、本発明のオゾン分解用素材が所要のオゾン分解性能を発揮しない場合がある。逆に、5重量%を超える場合は、活性炭前駆体より調製される活性炭中でイットリウムが凝集し易くなり、結果的に本発明のオゾン分解用素材が所要のオゾン分解性能を発揮しにくくなる場合がある。また、後述するような繊維状のオゾン分解用素材を製造する場合において、活性炭前駆体の紡糸性が損なわれる場合がある。
【0020】
上述のようにして調製されるイットリウム化合物と活性炭前駆体との混合物(以下、活性炭前駆体混合物と表現する)からは、通常、予め溶媒を除去しておくのが好ましい。溶媒の除去方法としては、減圧蒸留などの慣用手段を採用することができる。
【0021】
本発明のオゾン分解用素材は、上述の活性炭前駆体混合物を用いて活性炭を調製することにより得られる。ここで、活性炭前駆体混合物から活性炭を調製する場合には、活性炭前駆体混合物に対し、炭素化処理または不融化処理を施した後、さらに賦活処理を施す。
【0022】
活性炭前駆体混合物の炭素化処理方法、不融化処理方法および賦活処理方法は、常法に従って実施することができ、特に限定されるものではない。例えば炭素化処理は、窒素などの不活性ガス雰囲気下において、活性炭前駆体混合物を1分当たり5〜10℃程度の割合で800〜1,200℃程度まで加熱し、そのときの最高温度を最大限10分間程度保持することにより実施することができる。一方、不融化処理は、不活性ガスまたは酸素含有ガスの雰囲気下で1分当たり0.1〜5℃程度の割合で活性炭前駆体混合物を融点以下の温度から400℃程度まで加熱すると実施することができる。さらに賦活処理は、水蒸気、二酸化炭素、酸素およびこれらの混合物並びにこれらのガスを窒素などの不活性ガスで希釈したガス雰囲気下において、炭素化または不融化した活性炭前駆体混合物を800〜1,200℃程度に加熱して5〜120分程度保持すると実施することができる。
【0023】
このようにして調製される活性炭、すなわち本発明のオゾン分解用素材は、特に形状が限定されるものではないが、通常は、フイルターを構成し易いなど、多様な加工を適用し易いことから繊維状に形成されるのが好ましい。繊維状の活性炭を得る場合は、上述の炭素化工程または不融化工程を適用する前に、活性炭前駆体混合物を予め紡糸しておくことができる。ここでは、紡糸性を高めるために、活性炭前駆体混合物を調製する際に用いる活性炭前駆体の重合度を調整しておくのが好ましい。
【0024】
上述のように、本発明のオゾン分解用素材は、イットリウム化合物を含む活性炭前駆体から常法に従って活性炭を調製することにより得ることができるため、製造過程において従来のような煩雑な操作や高度な技術を必要とせず、容易に製造することができる。また、本発明のオゾン分解用素材は、多数の細孔を有し、また、それに含まれるイットリウムによりオゾン分解性能を発揮し得る。ここで、本発明のオゾン分解用素材を構成する活性炭は、イットリウムを予め含有する活性炭前駆体を用いて調製されているため、その表面部位のみならず、その内部にもイットリウムが分散した状態で含まれる。したがって、本発明のオゾン分解用素材は、金属の劣化や剥落が起こりにくく、オゾン分解性能が低下しにくい。
【0025】
なお、本発明のオゾン分解用素材は、押出成形や湿式成形などの慣用手法に従って、例えばフィルター形状に加工して利用することもできる。このような加工を施す場合、本発明のオゾン分解用素材には賦形剤やバインダーなどを適宜混合することができる。
【0026】
【実施例】
実施例1(イットリウム含有活性炭繊維の製造)
水分およびキノリン不溶分を除去したコールタール1,100gを窒素雰囲気下で80℃に加温し、これにトリスアセチルアセトナトジアコイットリウム[Y(CH3COCHCOCH32・2H2O]4.0gを溶解したキノリン100mlを徐々に滴下しながら5時間攪拌した。
【0027】
次に、これを減圧蒸留し、その後5l/分の割合で空気を吹き込みながら330℃で3時間反応させ、活性炭前駆体混合物であるイットリウム含有コールタールピッチを得た。得られたコールタールピッチは、メトラー法で測定した軟化点が264.1℃、ICP発光分析法で測定したイットリウムの含有量が0.3重量%であり、また、光学的等方性組織を示した。
【0028】
次に、得られたイットリウム含有コールタールピッチを下記の条件で溶融押出紡糸し、ピッチ繊維を製造した。
ノズル:径=0.35mm、24穴
吐出量:18.9g/分
溶融温度:320℃
【0029】
このピッチ繊維を、空気中で常温から375℃まで2℃/分の割合で昇温し、375℃に達した後に15分間保持することにより、不融化した。さらに、不融化されたピッチ繊維を、窒素雰囲気下において875℃で30分間飽和水蒸気に暴露し、賦活した。
【0030】
このようにして得られたイットリウム含有活性炭繊維は、比表面積が1,324m2/gであり、金属(イットリウム)含有量が0.84重量%であった。なお、ここでの比表面積は窒素吸着量からBET式に基づいて求めた値であり、また、金属含有量はICP発光分析法により測定した値である。この点、特に言及のない限り、以下についても同様である。
【0031】
比較例1〜11(金属含有活性炭繊維の製造)
上述の実施例1に倣い、次の物性を有する金属含有活性炭繊維を得た。
(比較例1)
マグネシウム含有活性炭繊維:比表面積=1,322m2/g、マグネシウム含有量=2.30重量%。
(比較例2)
アルミニウム含有活性炭繊維:比表面積=1,528m2/g、アルミニウム含有量=1.00重量%。
(比較例3)
カルシウム含有活性炭繊維:比表面積=923m2/g、カルシウム含有量=1.60重量%。
(比較例4)
チタン含有活性炭繊維:比表面積=1,406m2/g、アルミニウム含有量=1.10重量%。
(比較例5)
バナジウム含有活性炭繊維:比表面積=1,301m2/g、バナジウム含有量=1.70重量%。
(比較例6)
クロム含有活性炭繊維:比表面積=1,505m2/g、クロム含有量=0.70重量%。
(比較例7)
銅含有活性炭繊維:比表面積=1,563m2/g、銅含有量=2.40重量%。
(比較例8)
亜鉛含有活性炭繊維:比表面積=1,461m2/g、亜鉛含有量=0.01重量%
(比較例9)
ストロンチウム含有活性炭繊維:比表面積=987m2/g、ストロンチウム含有量=2.90重量%。
(比較例10)
ロジウム含有活性炭繊維:比表面積=1,447m2/g、ロジウム含有量=2.20重量%(但し、JIS K 0102に従って測定した値)。
(比較例11)
銀含有活性炭繊維:比表面積=1,453m2/g、銀含有量=1.00重量%。
【0032】
比較例12
市販の活性炭繊維(株式会社アドールの商品名“A−10”)を過マンガン酸カリウムの1重量%水溶液に浸漬した後に80℃で4時間乾燥し、表面にマンガンを担持する活性炭繊維を得た。この活性炭繊維は、比表面積が784m2/gであり、マンガン含有量が20重量%であった。
【0033】
評価
実施例1および比較例1〜12で得られた活性炭繊維、並びに市販の活性炭繊維(株式会社アドールの商品名“A−10”)について、オゾン分解性能を評価した。ここでは、各活性炭繊維を充填したカラムに8ppmのオゾンを含有する空気を流速9.4l/分、線速度(LV)0.5m/秒で流し、カラムの下流側のオゾン濃度の経時変化を追跡した。そして、そのオゾン濃度が4ppmに到達した時間を50%破過時間とした。結果を表1に示す。また、実施例1および比較例1,4,12の活性炭繊維、並びに市販の活性炭繊維については、オゾンの除去率(%)と時間(分)との関係を図1に示す。
【0034】
【表1】
Figure 0003825139
【0035】
表1および図1より、各実施例の活性炭繊維は、各比較例の活性炭繊維および市販の活性炭繊維に比べてオゾン除去の初期性能および耐久性(寿命)が格段に優れていることがわかる。
【0036】
【発明の効果】
本発明のオゾン分解用素材は、イットリウムを含む活性炭前駆体を用いて調製されているので、製造が容易であり、しかもオゾン分解性能が低下しにくい。
【0037】
また、本発明に係るオゾン分解用素材の製造方法は、イットリウム化合物と活性炭前駆体とを混合した混合物を調製し、この混合物を炭素化または不融化した後に賦活しているので、オゾン分解性能が低下しにくいオゾン分解用素材を容易に製造することができる。
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1および比較例1,4,12の活性炭繊維、並びに市販の活性炭繊維についてのオゾン除去率と時間との関係を示す図。

Claims (6)

  1. イットリウムを含む活性炭前駆体に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施した後に賦活処理を施すことにより得られるオゾン分解用素材。
  2. 前記活性炭前駆体がピッチである、請求項1に記載のオゾン分解用素材。
  3. 前記活性炭前駆体がイットリウムを0.01〜5重量%含んでいる、請求項1または2に記載のオゾン分解用素材。
  4. 繊維状に形成されている、請求項1、2または3に記載のオゾン分解用素材。
  5. イットリウムを含有する活性炭からなるオゾン分解用素材。
  6. イットリウム化合物と、活性炭前駆体とを溶媒の存在下で混合して混合物を得るための工程と、
    前記混合物に対して炭素化および不融化のうちの一の処理を施すための工程と、
    前記処理が施された前記混合物を賦活するための工程と、
    を含むオゾン分解用素材の製造方法。
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