JP3805048B2 - スラブ構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレキャスト製軽量コンクリートパネルを用いた床や屋根等のスラブ構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の構造としては、図12に示すように、木製の支持部材2の上面に固着された合板10上面間にALC床材を差し渡す床構造が、特公昭62−57769号公報に開示されている。又、図13に示すように、鋼製の横架材にプレキャスト製パネルをビスにより取り付ける構造が、特開平5−148929号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記の特公昭62−57769号公報に開示された構造では、合板を介して取り付けられているから、建物に横ゆれや歪などが生じた際、合板のフレキシブル性で外力を回避し床構造部分には損傷が生じないという特徴があったが、反面、床面が外力に抵抗しない為に、建物の柱梁などの軸組に大きな外力が加わり建物全体としては外力に対して抵抗力が弱いという致命的な問題点があった。さらに、木製の支持部材の上に合板を固着するのが面倒であるし、合板の厚さの分だけ階高が大きくなるという問題点もあった。
【0004】
又、特開平5−148929号公報に開示された構造では、床工事の作業性についての考慮に留まり、スラブに加わる水平方向のせん断力に対する抵抗要素としてスラブを用いる事ができないという問題点が残されていた。
本発明は上述の事情を鑑みてなされたもので、せん断剛性およびせん断耐力に優れたスラブ構造により、建物に加わった水平力で建物が水平面内でせん断変形するのを防止し、水平力に対して優れた抵抗力を持つスラブ構造を有する建物を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、その要旨は、プレキャスト製軽量コンクリートパネルが固定金具により横架材に取り付けられたスラブ構造において、該プレキャスト製軽量コンクリートパネルの長辺方向の端部には、短辺方向の補強筋が長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に配され、かつ、該プレキャスト製軽量コンクリートパネルが、該長辺方向の端部において、前記の2段の短辺方向の補強筋の内側で、固定金具により該横架材に取り付けられている事を特徴とするスラブ構造である。
また、隣接するプレキャスト製軽量コンクリートパネル相互が、その長辺方向の目地において、固定手段により長辺方向に拘束されている構造とすればより好ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
本発明で使用するプレキャスト製軽量コンクリートパネルとしては、短辺方向の補強筋が長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に埋設されたALCパネルを用いる事ができる。従来、床および屋根等のスラブに用いられるALCパネルとしては、図11に示すように、短辺方向の補強筋を下部寄りに1段のみ配したものが多く用いられてきたが、本発明では、短辺方向の補強筋を2段に配したものを用いる。さらに、特に好ましいALCパネルとしては、図3に示すように、短辺方向の補強筋4aが長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に配され、短辺方向の補強筋4aおよび長辺方向の補強筋4bがその全ての交点で溶接され、さらに短辺方向の両端において、上段の長辺方向の補強筋4bと下段の長辺方向の補強筋4bがスペーサー9と呼称される部材により予め連結されている構造のものである。このALCパネル1はその内部の上下2段の補強筋がスペーサー9により連結されているため、補強筋を型枠内に埋設し周囲にコンクリートスラリーを流し込むプロセスおよび通常ALCパネルの生産の際に行われる発泡プロセス等のALCパネル生産時の様々なプロセスを通じて上下2段の短辺方向の補強筋4aの位置関係が一定に保持され、さらに各々の補強筋の位置精度も良好に保たれやすい。
【0007】
又、上下2段の短辺方向の補強筋4aの構造は、図4に示すように、複数のC字形に折曲された短辺方向の補強筋4aが各々の相対する辺において、複数の長辺方向の補強筋4bとその交点において溶接され、さらにC字形の開口側の端部に位置する上下2段の長辺方向の補強筋4bがスペーサー9と呼称される部材により連結されている構造のものでもよい。
前記の短辺方向の補強筋4aおよび長辺方向の補強筋4bは、補強の為ALCパネルの内部に設置される補強材であり、長さ方向と幅方向に、荷重等に応じた所要の本数の補強筋が配される。
【0008】
本発明で使用するALCパネルの大きさは特に限定されないが、普通用いられている厚さ35〜150mm、長さ600〜3000mm、幅300〜650mmの程度のものを用いることができる。
本発明で使用する横架材はALCパネルを支持する部材であり、木製やは鋼製のものを用いることができる。木製の横架材の場合、その幅は90〜120mmのものが一般的に用いられる。中でも下記の実施例に見られるような幅105mm、背丈360mmの横架材が特によく用いられる。又、木製の横架材の場合、固定金具は、直接横架材に打ち込むのが好ましいが、特別な設計上の要求がある場合は、例えば、50mm角の木製角材などを、木製横架材に十分に固着し、この角材に固定金具を取付けてもよい。
【0009】
又、鋼製の横架材の場合、幅が100〜200mm、背丈200〜400mmのH形鋼がよく用いられるが、一般的には、ビスを容易に打ち込むことができるように、鋼製の横架材の上面に、厚さ1から4mm程度のリップ付き溝形鋼などの下地材を固着し、この下地材にビスを取りつけるとよい。
木製の横架材は主として木造建築物に用いられ、鋼製の横架材は鉄骨造建築物に用いられるが、木造建築物の場合でも、大スパンの横架材には鋼製のものが用いられることがあるし、鉄骨造建築物でも、要求される耐火性、耐久性が低い場合などでは、木製の横架材が用いられることがある。
【0010】
本発明で使用する固定金具は、ALCパネルを横架材に固定するために用いられるもので、木製横架材の場合はビスや釘等が、鋼製の横架材の場合はビス、特に好ましくはセルフドリルビスが用いられる。この固定金具はALCパネルを鉛直方向に固定すると共に、地震時等に建物に加わる水平方向力をALCパネルに伝達し、ALCパネルの水平方向のせん断抵抗により、軸組などの躯体が水平方向にせん断変形するのを防止するためのものである。
固定金具によりALCパネルを横架材に取り付ける方法としては例えば固定金具であるビスを横架材の面に対して垂直に打ち込む方法が一般的である。この際、ビスはALCパネルの短辺方向の補強筋より内側に打ち込まなければビスに水平方向力が加わった際にALCパネルに損傷が生じ易くなる。従って、ビスは短辺方向の補強筋の内側の位置に打ち込む必要がある。
【0011】
さらに、木製の横架材の場合は、横架材へ打ち込まれたビスの木製の横架材との縁からの距離が小さいと、ビスが水平力を受けた際に横架材に損傷が生じやすくなる。従って、木製の横架材の場合、ALCパネルの長辺方向の端部におけるビスの取付けは、短辺方向の補強筋4aの内側ぎりぎりの位置に、ビスを横架材の中心に向かってやや斜めに打ち込むと、垂直に打ち込んだ場合より縁からの距離を大きくとれるので、好ましい。
【0012】
上記の場合、ALCパネルの長辺方向の端部に短辺方向の鉄筋4aが上下2段で配置されていると、短辺方向の補強筋4aの内側にビスを打ち込むのは容易である。即ち、ビスを表面からの距離が近い上部の短辺方向の補強筋4aの内側に打ち込む事は容易であり、さらに、上部の短辺方向の補強筋4aの内側を通ったビスは、余程大きな角度で打ち込まない限り、下段の短辺方向の補強筋4aの外側を通る事はなく、容易にビスを下段の短辺方向の補強筋4aの内側に打ち込む事ができる。
【0013】
又、本発明において、前記のように上下の補強筋をスペーサーにより連結していると、上下の補強筋間の位置関係の精度に極めて優れるとともに、各々の補強筋のALCパネル内の位置精度も良好となる。従って、前記のビス3の打ち込み作業が容易となるのである。
ビスの木製の横架材への打ち込み深さは一般的には30〜60mmである。又、打ち込み作業は下穴をあけずにおこなってもよいが、集成材のように、硬質の横架材を用いる場合は、ドリルを用いて1度下穴をあけておいてから打ち込んだ方が、施工効率は良い。又、鋼製の下地材にビスを打ち込む場合は、1度下穴をあけてから打ち込む方法をとってもよいが、セルフドリルビスと呼ばれる先端にドリリング機能を有する下穴が不要なタイプのビスを用いれば施工効率はよい。
【0014】
木造建築物の場合は、軸組には火打ち材が設けられる程度であり、軸組自体の水平方向のせん断剛性およびせん断耐力は小さく、又、火打ち材が設けられない事も多いため、パネルが水平方向力に対するせん断剛性およびせん断耐力を持たなければならない。
又、鉄骨造建築物の場合は、通常は水平ブレースが設けられるが、ブレース材は、粘りのない構造であり、予想外の水平力が働くと、ブレースが破断し、急激にせん断耐力を失うという問題があった。又、設計施工の合理化の観点から、スラブ面にせん断剛性およびせん断耐力を持たせ、水平ブレースを減少もしくは省略する技術が強く望まれている。
【0015】
ALCパネルの水平方向のせん断抵抗を十分に発揮するには、ALCパネル自体の抵抗力より小さな水平力で、ALCパネルが固定金具位置で局部的に損傷破壊するのを防がなければならない。ビス等の固定金具をALCパネルの端部に設ける場合、ALCパネルは固定金具の位置で損傷しやすい。又、横架材自体の固定金具位置での損傷については、鋼製の横架材は、横架材の端部に打ち込んだ固定金具に水平力が作用した場合でも、脆性的な損傷が生じる事なく粘りがあるが、一方、木製の横架材の場合は、比較的損傷が生じ易く、かつ、損傷が急激に致命的なものとなる傾向がある。
【0016】
いずれの場合もALCパネルの損傷を防ぐため、ALCパネルの内部に短辺方向の補強筋4aが長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に配され、さらに、このALCパネルの長辺方向の端部において、前記の2段の短辺方向の補強筋の内側で、固定金具により横架材に取り付けると、固定金具取付位置でのALCパネルの水平方向の抵抗力が大幅に向上し、ALCパネルのせん断剛性およびせん断耐力を十分に発揮する事ができるようになり、本発明のスラブ構造は、スラブ全体のせん断剛性およびせん断耐力に優れる。上記のように、短辺方向の補強筋を長辺方向の端部から同じ位置に上下に2段に配すると、下段のみに配した場合に比べ、固定金具の上部側において、ビスの変位やパネルの損傷が生じにくい。さらに、本発明のスラブ構造を用いた建物では、建物全体に作用する水平力が各垂直構面に分散され、建物全体の水平力に対する抵抗力が向上する。
【0017】
又、本発明では、ALCパネルの長辺方向の端部を横架材に固定金具により取り付ける場合、上下2段の短辺方向の補強筋4aの内側に固定金具を打ち込むので、ALCパネルに鉛直荷重が加わり、ALCパネルに曲げ変形が生じる際も、ALCパネルの固定金具位置での割れも生じにくくなる。この場合は、特にALCパネルの上部側において、大きな力が生じるため、上部側の短辺方向の補強筋4aが有効である。
【0018】
本発明の更に好ましいスラブ構造では、隣接するALCパネル1の長辺目地に接着剤8やコッター18等の固定手段により、この隣接するALCパネル1が長辺方向にズレないように拘束する。隣接するALCパネル1の長辺方向の動きが拘束されていない場合、複数のALCパネルからなる床スラブに水平せん断力が加わると、1枚1枚のALCパネルに別個にせん断変形が生じる。この時、1枚のALCパネルに作用する幅方向と長さ方向のせん断力は、ALCパネルの長さと幅に反比例する為、ビスに作用する水平力は一般に長さ方向の方が大きくなる。ところが、請求項2のスラブ構造では、隣接するALCパネルの相互を長辺方向に拘束しているので、本来ビスが負担すべき長さ方向のせん断力を隣接するALCパネル相互間で負担し合い、ビスに働く長さ方向のせん断力は大幅に小さくなる。従って、スラブ全体のせん断剛性およびせん断耐力が向上する。
【0019】
軽量気泡コンクリートパネル相互の1固定手段として用いられる接着剤8は、エポキシ系、シリカアルミナ系、ウレタン系、酢酸ビニール系、ゴム系など様々なものを用いる事ができるが、エポキシ系等の硬化後硬質となる接着剤を用いるとALCパネル相互の拘束が強まり好ましい。
軽量気泡コンクリートパネル相互の1固定手段として用いられるコッター18は、ALCパネル相互の長辺方向の動きを拘束するために、隣接する長辺目地に所要の間隔をおいて配されるもので、一般に隣接するALCパネルの長辺目地に跨って円筒状、直方体状等の欠き込みを設け、この欠き込みにモルタルを充填して作成される。このモルタルは特に限定されるものではないが、充填後の収縮の小さいものを用いると、隣接するALCパネル相互の拘束が増し好ましい。
【0020】
又、コッター18は、座堀穴にモルタルを充填する湿式施工以外に、外径5〜100mmで金属製、プラスチック製およびモルタル成型品等の厚さ1〜6mmの中空もしくは中実の円筒状のコッター金物を用いてもよい。中でも、肉厚1.2mm、外径60mm、高さ60mmの鋼製の中空状の円筒のものが、コスト、施工性、性能のバランスが良く好ましい。中空状のコッター金物は、ALCパネル1に下穴をあけずに打ち込むと、この中空状のコッター金物とALCパネル1との間に隙間が生じずに好ましいが、一般には、打ち込み作業の際にALCパネル1に損傷が生じ易いため、予めコアドリルを用いて円筒状のスリットを穿孔しておくと、ALCパネル1に割れが生じる事がなく好ましい。又、スリットの幅は、この中空状のコッター金物の板厚よりやや小さくしておくとALCパネルとコッター金物の密着性が向上し好ましい。
【0021】
又、コッター金物は円筒状のものに限定されるものではなく、+字状、□字状等、様々な形状のものを用いる事ができる。
ここで、特に、隣接するALCパネル間相互を接着剤により接着した場合は、隣接するALCパネルが一体化されるため、せん断剛性およびせん断耐力向上の程度は大きいが、接着剤の1部に剥がれが生じると、長辺目地全体に亘って剥がれが進行する。又、1度接着剤に剥がれが生じると、剛性および耐力の減少の程度が大きい。一方、コッターを用いた場合は、一般にALCパネルとコッターの間に若干のゆるみが生じるため、前記の接着剤を用いた場合に比べると、剛性はやや劣るが、コッターに1度損傷が生じても、剛性および耐力の減少の程度は僅かである。
【0022】
又、隣接するALCパネル間の短辺方向の動きを拘束しても、せん断剛性および耐力は向上するが、長辺方向を拘束する場合に比べると、向上の程度は小さく、実用上は、長辺を拘束するのみでよいことが多い。
尚、ビスの打ち込み位置は、ALCパネルにせん断力が加わった場合にビス周辺のALCパネルにその端部に貫通する割れが生じない範囲で、幅方向の端部寄りにビスを打ち込み、短辺方向のビスの間隔を大きくすると、ALCパネルからなるスラブ面にせん断力が加わった場合、1本1本に加わる力が小さくなり好ましい。特に、ALCパネルの長辺目地を拘束しない場合は、できる限り短辺方向のビスの間隔を大きくするのが好ましい。
【0023】
【実施例1】
図1および図2は本発明に係る第1の実施例の断面図であり、図1と図2は互いに直交する断面を表している。又、図3は第1の実施例に用いたALCパネルの補強筋の構成に関する斜視図である。
図1において、ALCパネル1の長辺方向の端部5が木製の横架材2の上に載置されている。ALCパネル1は格子状に連結された短辺方向の補強筋と長辺方向の補強筋が前記ALCパネルの内部の厚さ方向の両側に2段に埋設されている。直径5mmの短辺方向の補強筋4aは長辺方向の端部5から15mm内部に入った位置に上下2段に配され、この短辺方向の補強筋4aよりさらに内部に入った長辺方向の端部5から25mmの位置で、短辺方向に3箇所打たれた直径6mmのビス3によって、木製の横架材2に取りつけられている。尚、短辺方向に3箇所打たれたビス3のうち、両側のビス3は、ALCパネル1の長辺方向の端部5より60mm内部に入った位置に取りつけられている。ALCパネル1の長辺目地5および短辺目地7にはシリカアルミナ系の接着剤8を用いて接着した。
【0024】
本実施例では、長辺方向の端部から15mmの位置に短辺方向の補強筋が配された厚さ100mm、長さ1800mm、幅606mmのALCパネルを使用した。このようなパネルを床および屋根等のスラブとして使用すると木製の横架材の上に直接パネルをビスで取りつけた際に、このビスよりもパネルの端部寄りに補強筋が存在する構造となる。市販されているパネルでは短辺方向の補強筋の中心位置は長辺方向の端部から少なくとも20mm以上内部に配されており、幅の狭い横架材の上に直接ビス等で取りつけようとするビスは短辺方向の補強筋の外側を通るか、或いは横架材の端部を通るかのいずれかとなる事が多く、この場合十分な強度が得られない。そこで、先に述べた特公昭62−57769号公報のように補助的な部材が必要となっていたのである。
【0025】
この図3に示したALCパネル1を使用した場合の短辺方向の補強筋4およびビス3の位置関係について図8により説明する。
最初にALC版の製造時の制約について具体的に説明すれば、長辺方向の補強筋4bと短辺方向の補強筋4aはその交点において溶接されるため、長辺方向の補強筋4bの先端と短辺方向の補強筋4aとの距離d2は2.5〜7.5mm必要である。又短辺方向の補強筋4aの内側でビス止めする場合、施工上の誤差および余裕を見込むと短辺方向の補強筋4aの内側からビスの中心までの距離d4は少なくとも15mm程度とするのが好ましい。又、図8においてd3は、短辺方向の補強筋4aの直径を示し、通常5mmである。従って、ピアノ線の緩み幅を加味して長辺方向の補強筋の先端から長辺方向の端部までの距離d1を15mmとすると、通常のALCパネルを用いた場合の長辺方向の端部5からビス中心までの距離dはd1+d2+d3+d4で求められ、市販のALCパネルのように製造すると、この値は37.5〜42.5mmとなる。
【0026】
ところで一般には幅105mmの木製の横架材2が用いられているが、この場合、木製の横架材2の中心にALCパネル1の短辺目地6を設け、従来の通常のALCパネルを用いるとビスの中心位置は木製の横架材の幅方向の中心から37.5〜42.5mmになるから、木製の横架材2の端部からは15〜10mmとなりビスに水平力等が加わった場合、木製の横架材が損傷を受けやすい。そこで、本実施例では長さ方向の最端部の短辺方向の補強筋4aの中心位置を長辺方向の端部5から25mmとして製作したALC版の長辺方向の端部を工場において切断し、長辺方向の端部から15mmの位置に短辺方向の補強筋4aの中心を配している。さらにこれらの短辺方向の補強筋4aの間にも100〜600mmの間隔で短辺方向の補強筋4aを配している。
【0027】
又、長辺方向の端部からビス打ち込み位置までの距離は、パネルが負担するせん断耐力を大きくするためには、幅方向のビス間隔をできるだけ大きくし、かつ各々のビスを長辺方向の補強筋4bの内側にするのが好ましいが、ビスが長辺方向の補強筋4bの外側に打ち込まれた場合でも、ALCパネルがせん断変形を受けた場合に生じるせん断力は、ALCパネルの長さ方向のほうが大きいため、短辺方向の補強筋4aの外側に打たれた場合に比べれば、パネルのせん断耐力の低下の程度は小さい。
【0028】
このように、図3に示す本実施例に用いるALCパネル1は、長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に配された短辺方向の補強筋4aの内側で、かつ横架材の端部から十分な距離を持つ位置にビス3を打ち込む事が容易にできるので、ビスが水平力等を受けた場合、ビス周辺でのALCパネル1および木製の横架材の損傷が生じにくく、水平力に対する床のせん断剛性およびせん断耐力に優れる。又、建物に水平力が加わった場合に、ALCパネルに損傷が生じにくく、又、ALCパネルに部分的な損傷が生じても、大きな損傷に至ることなく粘り強い構造となる。又、本実施例のスラブ構造は、せん断耐力およびせん断剛性に優れるため、木造の柱梁からなる各々の垂直構面がスラブ面により連係して挙動するため、建物の部分部分に加わった力が、建物全体に分散平均化され、建物の水平力に対する抵抗力が向上する。
又、下地部材を用いず木製の横架材に直接ALCパネルを取りつけることができるので、施工効率が高く、又、取付用の下地部材がない分だけ階高を低くすることができる。
【0029】
【実施例2】
次に、図により第2の実施例について説明する。図5において、ALCパネル1は長さ1820mm、幅606mm、厚さ75mmである。ALCパネル1はその長辺方向の両端部および長辺方向の中央部において、幅105mm、背丈360mmの木製の横架材2の上に載置され、3本の木製の横架材2に各々3本のビス3で取りつけられている。
【0030】
その他の構成は実施例1とほぼ同様であり,ALCパネル1の補強筋4は、長辺方向、短辺方向とも2段に配されている。長辺方向の端部5に配された上下2段の短辺方向の補強筋4aは、長辺方向の端部から15mmの位置に配され、さらに長辺方向の端部5から25mmの位置にビス3が配されている。又、長辺目地7、短辺目地6にはシリカアルミナ系の接着剤8を用いている。本実施例ではALCパネル1を長辺方向の端部5ばかりでなく、長辺方向の中央でも、ビス3で木製の横架材2に取りつけているため、第1の実施例のようにALCパネル1をその長辺方向の両端部のみで木製の横架材に取りつけた場合に比べると、水平力に対しより大きなせん断剛性およびせん断耐力を確保できる。又、目地の接着剤の一部もしくは全部を省略しても、せん断剛性およびせん断耐力の低下の程度は小さい。又、3本の横架材にALCパネルを載置しているので、鉛直荷重による撓みが小さく、床遮音性も向上する。
【0031】
【実施例3】
次に、図により第3の実施例について説明する。図6、7において、鋼製の横架材13の上面に、下地材16が溶接されており、この下地材16にALCパネル1の長辺方向の端部5が載置され、さらにセルフドリルビス15によりこの鋼製の下地材16に締結されている。
又、ALCパネル1の長辺目地7および短辺目地6にはシリカアルミナ系の接着剤8およびセラミックファイバーと呼称される耐火目地材14が充填され、隣接するALCパネル1相互を固着すると共に、火災時の目地からの火の進入を防いでいる。
【0032】
鋼製の横架材13は、H−300×150×6.5×9と呼称される寸法のH形鋼を用いており、下地材16には、リップ溝形鋼120×60×20×2.3を用いている。 ALCパネル1は前記第1の実施例で用いたものと同様であり、短辺方向の補強筋4aおよび長辺方向の補強筋4bとも厚さ方向に2段に配されている。
セルフドリルビス15は、ALCパネル1の長辺方向の両端部に各々2本ずつ、長辺方向の端部5から80mm、短辺方向の端部から40mm入った位置で、ALCパネル1の短辺方向の補強筋4aおよび長辺方向の補強筋4bの内側で、下地材16に締結されている。
本実施例は、前記のような構成なので、建物に水平力が加わった場合に、水平力に対するスラブ構造のせん断耐力に優れ、ALCパネルに部分的な損傷が生じても、大きな損傷に至ることなく粘り強い構造となる。
【0033】
又、本実施例のスラブ構造は、せん断耐力およびせん断剛性に優れるため、柱梁からなる各々の垂直構面がスラブ面により連係して挙動するため、建物の部分部分に加わった力が、建物全体に分散平均化され、建物の水平力に対する抵抗力が向上する。
尚、本実施例のスラブ構造は、第1、第2の実施例に比べると、相対的にせん断剛性がやや低い傾向があったが、一般的な低層の鉄骨造の建物のスラブとして用いる場合、水平ブレースを省略するに十分な性能は確保できた。
又、本実施例のスラブ構造は、せん断耐力およびせん断剛性に優れるため、建物の部分部分に加わった力が、建物全体に分散平均化され、建物の水平力に対する抵抗力が向上する。
【0034】
【実施例4】
次に、図により第4の実施例について説明する。
図9および図10は本発明に係る第4の実施例の斜視図および断面図である。ALCパネル1は長さ1820mm、幅606mm、厚さ75mmであり、内部に、格子状に連結された短辺方向の補強筋4aおよび長辺方向の補強筋4bを厚さ方向に2段に有しており、さらに短辺方向の両端において上段の長辺方向の補強筋4bと下段の長辺方向の補強筋4bがスペーサー9と呼称される部材により連結されている。スペーサー9は、まず長辺方向の両端部から500mm以内の位置に配され、さらに両端部のスペーサーの間には500〜1500mmの間隔で配されている。両端部の短辺方向の補強筋4aは、上部下部とも長辺方向の端部5から22mmに位置し、両端の長辺方向の補強筋4bは、上部下部とも短辺方向の端部から40mmに位置している。各補強筋の直径は5mmであり、上部側の短辺方向の補強筋4aはALCパネル1の上面から24mmに、下部側の短辺方向の補強筋4aALCはパネル1の下面より24mmの位置に配されており、上下の短辺方向の補強筋4a間の距離は52mmである。
【0035】
ALCパネル1はその長辺方向の両端部および長辺方向の中央部において、幅105mm、背丈360mmの木製の横架材2の上に載置され、3本の木製の横架材2に各々2本のビス3で取りつけられている。ALCパネル1の長さ方向の両端の4本のビス3はALCパネル1の表面において、長辺目地7(短辺方向の端部)から60mm、長辺方向の端部5から35〜40mmの位置から木製の横架材の中心に向かってやや斜めに打ち込まれている。本実施例のALCパネル1はその内部に両端部の短辺方向の補強筋4aが上下2段に配されているため、ビス3をALCパネル1の表面から端部の短辺方向の補強筋4aの内側に斜めに打っても、前記上下2段の短辺方向の補強筋4aの内側を通す事は容易である。即ち、ALCパネル1の表面において、長辺方向の端部5から30〜40mmの位置から木製の横架材の中心に向かってやや斜めに打ち込まれたビスは、容易に上部の短辺方向の補強筋4aの内側を通り、この後、施工ミスにより万が一、上部の短辺方向の補強筋4aと下部の短辺方向の補強筋4aの間に向かったとしても、ビス3は上部の短辺方向の補強筋4aもしくは下部の短辺方向の補強筋4aに接触するため、下部の短辺方向の補強筋4aの外側を通る事を防ぐ事ができる。
【0036】
このように、ビス3の直径、ALCパネル1の厚さ、上下の短辺方向の補強筋4aの位置および間隔とビス3の表面からの打ち込み位置との関係を適切に設計すれば、上下の短辺方向の補強筋4aの間を通る事を防ぐ事は容易である。
又、本実施例では、前記のように補強筋をスペーサーにより連結しているため、上下の補強筋の位置関係の精度に極めて優れるとともに、各々の補強筋のALCパネル内の位置精度も良好となる。従って、前記のビス3の打ち込み作業において、長辺方向の両端部のビスを端部の短辺方向の補強筋4aの内側直近の位置を通し、さらに横架材の中心に向かって斜めに打ち込む事が容易となる。
【0037】
ALCパネル1の長辺目地7には長辺方向の両端部から300mmの位置およびほぼ中央にコッター18が設けられている。コッター18は長辺目地7にほぼ均等に跨って穿孔された直径60mm、深さ60mmの座堀穴に収縮の小さいALC専用モルタルが充填されてなるものである。この座堀穴は予めALCパネルの横架材への敷き込み前に半円ずつ穿孔しておいてもよいし、ALCパネル1を横架材へ敷き込んだ後に、ドリルで穿孔してもよい。又、モルタルは特に限定されるものではないが、充填後の収縮の小さいものを用いると、隣接するALCパネル相互の拘束が増し好ましい。
【0038】
【発明の効果】
本発明によると、プレキャスト製軽量コンクリートパネルが、その内部に配された上下2段の短辺方向の補強筋の内側に固定金具を通して横架材に固定されるので、固定金具部分に水平力が加わった場合に、固定金具周辺のプレキャスト製軽量コンクリートパネルおよび横架材に損傷が生じにくい。従って、建物に水平力が加わった場合に、水平力に対するスラブのせん断剛性およびせん断耐力に優れる。又、スラブを構成するプレキャスト製軽量コンクリートパネルに部分的な損傷が生じても、大きな損傷に至ることなく粘り強い構造となる。又、本発明のスラブ構造は、せん断耐力およびせん断剛性に優れるため、木造の柱梁からなる各々の垂直構面がスラブ面により連係して挙動し、建物の部分部分に加わった力が、建物全体に分散平均化され、建物全体の水平力に対する抵抗力が向上する。更に、建物に作用するせん断力と本発明のスラブの耐力とを適切に評価、設計すれば火打ち材、ブレース等の構造材を省略することができ、施工の合理化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る第1の実施例の断面説明図である。
【図2】本発明に係る第1の実施例の断面説明図である。
【図3】本発明に係る第1の実施例に用いたALC床板の補強筋の構成に関する斜視説明図である。
【図4】本発明に係るALC床板の補強筋の構成に関する斜視説明図である。
【図5】本発明に係る第2の実施例の断面説明図である。
【図6】本発明に係る第3の実施例の断面説明図である。
【図7】本発明に係る第3の実施例の断面説明図である。
【図8】本発明に係るALCパネルの補強筋およびビスの位置関係に関する平面説明図である。
【図9】本発明に係る第4の実施例の斜視説明図である。
【図10】本発明に係る第4の実施例の断面説明図である。
【図11】従来のALC床板の補強筋の構成に関する斜視説明図である。
【図12】従来の技術に関する断面説明図である。
【図13】従来の技術に関する斜視説明図である。
【符号の説明】
1 ALCパネル
2 木製の横架材
3 ビス
4 補強筋
4a 短辺方向の補強筋
4b 長辺方向の補強筋
5 長辺方向の端部
6 短辺目地
7 長辺目地
8 接着剤
9 スペーサー
10 合板
11 ボルト
12 ナット
13 鋼製の横架材
14 耐火目地材
15 セルフドリルビス
16 下地材
d 長辺方向の端部からビス中心までの距離、
d1 長辺方向の補強筋の先端から長辺方向の端部までの距離
d2 短辺方向の補強筋の外側から長辺方向の補強筋の先端までの距離
d3 短辺方向の補強筋の直径
d4 短辺方向の補強筋の内側からビス中心までの距離
18 コッター
Claims (2)
- プレキャスト製軽量コンクリートパネルが固定金具により横架材に取り付けられたスラブ構造において、該プレキャスト製軽量コンクリートパネルの長辺方向の端部には、短辺方向の補強筋が長辺方向の端部から同じ位置に上下2段に配され、かつ、該プレキャスト製軽量コンクリートパネルが、該長辺方向の端部において、前記の2段の短辺方向の補強筋の内側で、前記固定金具により該横架材に取り付けられている事を特徴とするスラブ構造。
- 隣接するプレキャスト製軽量コンクリートパネル相互が、その長辺方向の目地において、固定手段により長辺方向に拘束されている事を特徴とする請求項1記載のスラブ構造。
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