JP3804444B2 - 山岳トンネル工事における下方先受け工法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、山岳トンネル工事における下方先受け工法に関し、特に、地質不良地山の掘削施工に適した工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在の山岳トンネル工事においては、NATM工法が主流になっている。NATM工法では、掘削直後の地山変形を極力小さくするために、従来、図4に示すように、加背割りと呼ばれる方法により断面を分割し、かつ、周辺地山強度を積極的に利用するために、掘削面に沿って支保部材を設置し、トンネルの安定性を図っている。
【0003】
図4に示した加背割りの例では、トンネル横断面は、▲1▼上半,▲2▼仮インバート,▲3▼下半(その1),▲4▼下半(その2),▲5▼インバートに分割されている。
【0004】
また、この種の工法では、支保部材の増大に伴う経済性を考慮して、掘削断面の早期閉合による安定性を第一義としている。
【0005】
一方、加背割りには、地山の状態により異なった分割状態が選択され、全断面を掘削する全断面工法、上半を先行掘削する上半先進工法、側壁導抗先進工法などの複数の掘削工法がある。
【0006】
また、支保部材には、吹付けコンクリート、ロックボルト、鋼製支保工などが一般に採用されている。
【0007】
ところで、例えば、上半先進工法で、膨張性地山など地質が不良な個所にトンネルを構築する際には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、地質不良地での上半先進工法の施工では、盤膨れなどにより、掘削面に当初計画した以上に変形が発生する場合があるが、このような場合には、インバートの早期閉合の観点から、当該断面での仮インバートの設置や、最終掘削断面における本インバートの施工を早期に行う必要がある。
【0009】
ところが、仮インバートを設置しても、いずれその撤去が必要になり、トンネルの安定を確認しながら仮インバートの撤去作業と下半の掘削作業とが交錯すると、下半のトンネル軸方向の掘削施工長に制約が発生し、その結果、上半の掘削作業にも悪影響を及ぼす。
【0010】
また、本インバートの施工を早期に行う場合には、トンネルの軸および横断面方向での分割施工を余儀なくされることがあり、分割施工をする際には、小規模施工による施工機械の制約,少量掘削,少量コンクリート打設など施工性の低下や、コストアップの要因となる。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、仮インバートの設置や本インバートの早期施工を要することなく、地質不良地で安全に施工するができる山岳トンネル工事における下方先受け工法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、膨張性地山などの地質不良地山における山岳トンネル工事で、上半を掘削した後に、下半を掘削する前に、上半盤の上面側から下方に向けて、パイルまたはロックボルトなどの補強材を、前記上半盤を貫通して、先端が本インバート下面の地盤に到達するように打設して、前記上半盤を前記本インバート下面の地盤に縫付けた擬似インバート部を形成し、しかる後に、前記上半の延長掘削ないしは下半の掘削を行うようにした。
【0013】
このように構成した山岳トンネル工事における下方先受け工法によれば、上半を掘削した後に、下半を掘削する前に、上半盤の上面側から下方に向けて、パイルまたはロックボルトなどの補強材を、下半掘削前の上半盤を貫通して、先端が本インバート下面の地盤に到達するように打設して、上半盤を本インバート下面の地盤に縫付けた擬似インバート部を形成するので、この時点で掘削された断面は、擬似インバート部により閉合されて安定化する。
【0014】
従って、膨張性地質などの不良地山においても、仮インバートの設置や、本インバートの早期施工をする必要がなくなる。
【0015】
本発明の仮インバート部は、下半掘削前の上半盤を貫通して、先端が本インバート下面の地盤に到達するように打設して、上半盤を本インバート下面の地盤に縫付けて形成されるので、下半を掘削した段階、および、本インバートを形成するために、その形成個所を掘削した段階、さらには、本インバート形成後の段階のそれぞれの場合でも、その一部が残留して、掘削断面を閉塞しているので、これらの各掘削段階においても、掘削断面の安定性に寄与する。
【0016】
前記補強材は、前記上半盤の全面において、トンネル軸方向および横断面方向に、それぞれ所定の間隔を隔てて複数設置することができる。
【0017】
この構成によれば、上半盤の全域において掘削断面の安定化を図ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1から図3は、本発明にかかる山岳トンネル工事における下方先受け工法の一実施例を示している。
【0019】
本実施例の下方先受け工法は、膨張性地山などの地質不良地山に好適に採用それる方法であって、図1〜図3に示した下方先受け工法は、本発明を上半先進ショートベンチ工法に適用した場合を示している。
【0020】
本実施例の下方先受け工法では、まず、上半先進工法により、図1に示すように、トンネル軸方向に沿って所定長さを有し、横断面がほぼ半円状の上半10が掘削される。
【0021】
このような形状の上半10を掘削する際には、その掘削直後の掘削面に吹付けコンクリートを形成したり、あるいは、掘削面に沿ってアーチ鋼材を設置することなどにより支保工12が設置される。
【0022】
本実施例の場合には、この段階で、上半10の掘削により露出した上半盤14から補強材16が、下方のほぼ鉛直方向を指向するようにして打設される。
【0023】
この補強材16は、鋼管,繊維強化合成樹脂製パイプ,超硬質塩ビ管などの中空パイルや、中実状のロックボルト、さらには、小径の杭であって、これらの補強材16は、上半盤14と、後述する本インバート18の形成予定部分の地盤を貫通し、本インバート18の下方地盤、すなわち、本インバート下面の地盤20に先端が到達するように打設する。
【0024】
この場合、補強材16の先端側や側面の一部にモルタルなどを充填して、補強材16を本インバート下面の地盤20に定着させてもよい。
【0025】
このような補強材16は、本実施例の場合には、上半盤14のほぼ半分の面(切羽21の後方側の半分)において、トンネル軸方向および横断面方向に所定の間隔を隔てて複数設置する。なお、この場合、補強材16は、図1に示した、上半盤14の全面において、前記した場合と同様な間隔で打設してもよい。
【0026】
上半盤14に、このような補強材16を打設設置すると、下半22を掘削する前に、図2に示すように、上半盤14の上面側から下方に向けて補強材16を、上半盤14を貫通して、先端が本インバート下面の地盤20に到達するように打設することで、上半盤14を本インバート下面の地盤20に縫付けた擬似インバート部24が形成される。
【0027】
本実施例の場合には、この擬似インバート部24は、上半盤14に相当する部分Aと、本インバート18の形成予定部分Bと、本インバート下面の地盤20に貫入した部分Cとから構成され、これらが深度方向に順次連なった形態になっている。
【0028】
このような安定化が図れると、まず、擬似インバート部24(A,B,C)を形成した段階で、上半10を掘削した断面は、支保工12の下端部分間に、この擬似インバート部24が結合された状態になり、その結果、この時点で掘削された断面は、擬似インバート部24により閉合されて安定化する。
【0029】
従って、膨張性地質などの不良地山においても、仮インバートの設置や、本インバートの早期施工をする必要がなくなり、地質不良地においても、施工性の低下やコストアップを招くことなく、安全に施工するができる。
【0030】
そして、擬似インバート部24の形成が終了すると、次に、図3に示すように、擬似インバート部24が形成されている上半盤14を掘削除去し、本インバート18を形成する部分の掘削、すなわち、下半22の掘削が行われる。
【0031】
本実施例では、この下半22の掘削と同時に、上半盤14の切羽13に近接した側の半分の面に、上記と同様に、補強材16の打設設置が、トンネル軸方向および横断面方向にそれぞれ所定の間隔を隔て行われる。
【0032】
ここで、本実施例の場合には、特に、図2に示すように、下半22の掘削により、擬似インバート部24の上半盤14に相当する部分Aはなくなるが、この下方の、本インバート18の形成予定部分Bと、本インバート下面の地盤20に貫入した部分Cとが残置しており、この結果、上半盤14を掘削除去する掘削作業中も、掘削断面が残置している部分により閉合されて、掘削断面の安定性が確保されている。
【0033】
また、下半22の掘削がさらに進行して、本インバート18を形成する部分の掘削が終了すると、擬似インバート部24は、本インバート18の形成予定部分Bがなくなるが、まだその下方の、本インバート下面の地盤20に貫入した部分Cが残置しており、この結果、本インバート18を形成するための掘削中および本インバート18を形成した後にも、掘削断面が残置している部分により閉合されて、掘削断面の安定性が確保されている。
【0034】
そして、本インバート18を形成する際には、これと支保工12とを連結する側壁部24を、本インバート18の両端に形成する。
【0035】
このようにして、下半22の掘削から本インバート18の形成に至る一連の工程が終了すると、切羽13の前方をさらに掘削して、現在の上半盤14の前方にこれを延長して、上述した工程を繰り返すことにより、所望のトンネルが構築される。
【0036】
さて、以上のように構成された下方先受け工法によれば、上半10を掘削した後に、下半22を掘削する前に、上半盤14の上面側から下方に向けて補強材16を、上半盤14を貫通して、先端が本インバート下面の地盤20に到達するように打設して、上半盤14を本インバート下面の地盤20に縫付けた擬似インバート部24を形成するので、掘削された断面は、擬似インバート部24により閉合されて安定化する。
【0037】
従って、膨張性地質などの不良地山においても、仮インバートの設置や、本インバートの早期施工をする必要がなくなり、施工の効率が向上し、コストアップも招かない。
【0038】
この場合、補強材16は、パイルまたはロックボルトで構成されているので、下半22や本インバート18を形成するための掘削の際に障害とならない。
【0039】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる山岳トンネル工事における下方先受け工法によれば、仮インバートの設置や本インバートの早期施工を要することなく、地質不良地で安全に施工するができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる山岳トンネル工事における下方先受け工法の一実施例を示す施工初期の説明図である。
【図2】図1の要部縦断面図図である。
【図3】図1に引き続いて行われる工程の説明図である。
【図4】従来のトンネル断面の分割状態の説明図である。
【符号の説明】
10 上半
12 支保工
14 上半盤
16 補強材
18 本インバート
20 本インバート下面の地盤
22 下半
24 擬似インバート部

Claims (2)

  1. 膨張性地山などの地質不良地山における山岳トンネル工事で、上半を掘削した後に、
    下半を掘削する前に、上半盤の上面側から下方に向けて、パイルまたはロックボルトなどの補強材を、前記上半盤を貫通して、先端が本インバート下面の地盤に到達するように打設して、前記上半盤を前記本インバート下面の地盤に縫付けた擬似インバート部を形成し、
    しかる後に、前記上半の延長掘削ないしは下半の掘削を行うことを特徴とする山岳トンネル工事における下方先受け工法。
  2. 前記補強材は、前記上半盤の全面において、トンネル軸方向および横断面方向に、それぞれ所定の間隔を隔てて複数設置することを特徴とする請求項1記載の山岳トンネル工事における下方先受け工法。
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