JP3803949B2 - アスペクト比が大きい建物の免震方法及び免震構造 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、アスペクト比が大きい建物の地震時のロッキング振動に伴う浮き上がり現象を利用し、建物の転倒は防止しつつ、同建物に作用する地震入力を低減させる免震方法及び免震構造の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アスペクト比が大きく、地震時のロッキング振動に伴う浮き上がり現象を発生する建物の転倒を防止しつつ、同建物に作用する地震入力を低減させる免震方法及び免震構造の技術としては、(1)例えば実公平6−18996号公報に開示された免震装置は、分離した建物下部と基礎との間を弾性を有する多数の垂直な棒状部材によって結合し、且つ常時は接触しない構造の滑り板から成る摩擦型免震装置を設置した構成であり、前記棒状部材によって建物重量を支持せしめ、また、転倒モーメントによる引っ張りに抵抗させる。そして、棒状部材の弾塑性変形及び滑り板の摩擦によって地震力を減衰させる技術である。
【0003】
(2)また、特許第2631486号公報(平成9年7月16日発行)に開示された免震方法及び免震装置は、やはり分離された建物下部と基礎との間のいわゆる免震層において、建物重量を支持する長期荷重用の積層ゴム体(免震ゴム)及び転倒モーメントによる引っ張りに抵抗する転倒防止用の積層ゴム体とを併用した構成である。
【0004】
いずれにしても、建物とこれを支持する支持版との接点は上下方向に緊結した構成を基本としている。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
上記従来の免震方法及び免震装置は、図1Aのように建物1が水平方向に大きく変位することを許容する考えに立脚している。上下方向にはできるだけ変位を生じさせないようにする考えである。しかし、建物の高さと幅の比(アスペクト比)が大きい建物の場合は、地震時の建物1の動きは図1Bに例示したように上下変位を基本とするロッキング振動が支配的となり、免震装置2には大きな引張り軸力が作用する。そのため上記した従来技術(1)、(2)のように建物1と基礎3とを緊結した構造の場合には、前記引張り軸力に耐える免震装置及び基礎が必要となり、多数の棒状部材で結合したり、或いは転倒防止用の積層ゴム体を併用するほかない。
【0006】
その上、建物の柱及び基礎にも同様な引張り軸力が作用するから、柱及び基礎もそれなりに高強度な構造に構築する必要がある。
【0007】
更に、都市部の建物のように隣接する建物との間隔が少ない場合には、免震層が大変形を起こすと、地表部分において周辺の附属施設へ建物が衝突し二次災害を起こす危険性もある。
【0008】
そこで本発明の目的は、特にアスペクト比が大きい建物を対象とし、同建物の地震時のロッキング振動に伴う浮き上がり現象を利用し、建物の転倒を防止しつつ、同建物に作用する地震入力を低減させる免震方法及び免震構造を提供することである。
【0009】
本発明の次の目的は、建物と基礎とを緊結しないで、建物への地震入力に対して建物底面の浮き上がりを許容し、又は浮き上がり量を制御して地震力の低減化を図る技術、そして、積層ゴム等の免震装置を使用する必要がなく、地震が終了したときには残留変位がない免震方法及び免震構造を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、基礎を支持する杭及び建物の柱に引張り軸力が発生しないためそれらの設計を簡略に行え、ひいては既存建物の建て替えに際して、基礎部の設計、施工の大幅な合理化を図れる免震方法及び免震構造を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明に係るアスペクト比が大きい建物の免震方法は、
アスペクト比が大きい建物10とこれを支持する支持版11との接点12は完全に分離して上下方向に緊結せず、同建物10における少なくとも左右二つの接点12、12を水平方向の変位を拘束するに足る深さの凹部14と凸部15の嵌め合わせ構造によって支持せしめると共に、同建物10とこれを支持する支持版11との前記凹凸構造14と15間に上下方向の落下衝撃力を緩和する緩衝材16を設置することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明に係るアスペクト比が大きい建物の免震構造は、
アスペクト比が大きい建物10とこれを支持する支持版11との接点12は完全に分離され上下方向には緊結されておらず、同建物10における少なくとも左右二つの接点12、12を水平方向の変位を拘束するに足る深さの凹部14と凸部15の嵌め合わせ構造によって支持されていると共に、同建物10とこれを支持する支持版11の前記凹凸構造14と15間に上下方向の落下衝撃力を緩和する緩衝材16が設置されていることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態及び実施例】
図2と図3に、請求項2記載の発明に係るアスペクト比が大きい建物の免震構造の実施形態を示している。
【0014】
アスペクト比が例えば3倍以上に大きい建物10の底面と、これを支持する支持版11とは完全に分離されており、両者はその接点12(支持点)を含めて上下方向には一切緊結しない。そして、両者の接点12は、図3に示したように、建物10の水平方向の変位を拘束する手段として、水平方向の変位を拘束するに足る深さの凹部14と凸部15を嵌め合わせた構造によって支持せしめ、且つ建物10とこれを支持する支持版11との接点間(凹部14と凸部15の間)に上下方向の落下衝撃力を緩和する緩衝材16が設置されている。緩衝材16には、厚さが数cm程度の積層ゴムシート、或いは鉛板などを使用できる。
【0015】
なお、地盤の耐力が不足し、杭が必要であれば支持版11の下に杭支持部17を構築し支持させる。隣合う接点12と12の間隔Lは、設計浮き上がりが発生する地震の大きさに応じて調整する。接点12を構成する凹部14と凸部15の形態は、図示した半球形状の限りではなく、角錘形状、多角錘形状或いはこれらの複合化形状などであっても支障なく実施できる。或いは建物の外周部又は躯体構造の内部を拘束する擁壁とか、カンザシ形状のストッパ類であっても良い(図5の実施例における地下外壁21も参照)。
【0016】
建物10と支持版11とはエネルギー吸収装置18で連結し、浮き上がり後の建物の応答を低減することも実施される。
【0017】
本発明の原理思想は、要するに、請求項1記載の発明に係る免震方法のとおり、アスペクト比が大きい建物10と、これを支持する支持版11との接点12は上下方向に緊結せず、建物の水平方向の変位を拘束し、建物とこれを支持する支持版との接点間に上下方向の衝撃力を緩和する緩衝材16を設置して、地震時に浮き上がりが生じ易い構造とすることを特徴とする。建物の支持部で上下方向に変位させることにより、建物重心が上下に動き、もって地震により建物に入るエネルギーを消費させるのである。
【0018】
図4により従来技術と対比させて、浮き上がり現象の特徴を説明する。
【0019】
図4の上段に示す従来技術の場合、建物重量Wは二つの接点にW/2ずつ等分に支持されるが、中小の地震力Q1が作用した場合には、一方の接点でのみ建物重量Wを支持する場合がある。大地震Q2が作用したときは、接点が緊結され浮き上がりが無いので、一方の接点には引張り軸力(−F)が働き、他方の接点には建物重量Wと同時に同じ大きさの圧縮軸力(+F)も働くことになる。そうした支持力−上下変位の関係をグラフに示すと、右端欄に示すように原点を通る直線状に圧縮と引っ張りの二領域へ対称的な大きさで支持力及び変位が発生する。
【0020】
一方、本発明のように建物10と支持版11とを緊結せず、地震力による建物の浮き上がりを許容すると、図4の下段に示したように、建物重量Wは二つの接点でW/2ずつ等分に支持され、中小の地震力Q1が作用した場合に一方の接点でのみ建物重量Wを支持することは従来と同じであるが、大地震Q2が作用したときには、一方の接点は浮き上がって抵抗力を一切発生せず、他方の接点で建物重量Wのみを支持することになる。よって、その支持力−上下変位の関係は図4下段の右端欄のグラフに示すように、原点から圧縮側にのみ支持力と変位が発生するのである。
【0021】
本発明は、通常の建物10は、支持版11に緊結しなくとも、スケール効果によって、地震力では転倒しないとの考えにも立脚している。
【0022】
次に、図5はアスペクト比が大きい建物の建て替え時に本発明の免震方法及び免震構造を実施する要領を示している。
【0023】
即ち、既存建物の解体工事において、既存の基礎20、及び外周を山留め22に囲まれた地下外壁21は残して、新築建物の躯体23と基礎20との間、又は地下外壁の上端に接点12を設け、緊結することなく支持させる構成とする。この場合は、新築建物の躯体23は地下外壁21によって水平方向の変位を拘束されるので、各接点12の構成は更に簡易なものとなる。
【0024】
【本発明が奏する効果】
請求項1、2に記載した発明に係る免震方法及び免震構造は、従来技術のように免震ゴムなどの免震装置を使用しないで、アスペクト比が大きい建物の免震化を実現でき、そうした装置類の設置を前提とする免震層は殆ど零に近く縮小化でき、建物の有効利用度が高くなる。
【0025】
しかも地震が終了したときには残留変位が発生しない。
【0026】
地震時に建物の浮き上がりが発生すると、同建物に作用する地震力はそれ以上に増加しない(図4の下段を参照)。従って、建物に作用する地震力の上限を定めることが可能となり、想定地震以上に大きい地震が作用した場合にも、建物の損傷を一定のレベル以下にできる。
【0027】
杭支持建物の場合でも、杭に引張り軸力が作用しないので、その検討の必要がなく、杭の設計を簡略化できる。同様に、建物の柱にも引張り軸力が作用しないので、その検討の必要がなく、柱の設計を簡略化できる
【0028】
図5のように既存建物を建て替える場合には、既存の基礎及び地下外壁、地下躯体も残して、その上に接点を設けて新築建物を構築することにより、基礎部の設計や施工の大幅な合理化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Aは従来の、Bは本発明による地震エネルギーの低減化原理の説明図である。
【図2】本発明の実施例を示した立面図である。
【図3】接点部分の拡大図である。
【図4】従来技術と本発明との浮き上がり現象と軸力の関係を説明した図である。
【図5】建て替え時に本発明を実施する要領を示した断面図である。
【符号の説明】
10 アスペクト比が大きい建物
11 支持版
12 接点
16 緩衝材
14 凹部
15 凸部
Claims (2)
- アスペクト比が大きい建物とこれを支持する支持版との接点は完全に分離して上下方向に緊結せず、同建物における少なくとも左右二つの接点を水平方向の変位を拘束するに足る深さの凹部と凸部の嵌め合わせ構造によって支持せしめると共に、同建物とこれを支持する支持版の前記凹凸構造間に上下方向の落下衝撃力を緩和する緩衝材を設置することを特徴とする、アスペクト比が大きい建物の免震方法。
- アスペクト比が大きい建物とこれを支持する支持版との接点は完全に分離され上下方向には緊結されておらず、同建物における少なくとも左右二つの接点を水平方向の変位を拘束するに足る深さの凹部と凸部の嵌め合わせ構造によって支持されていると共に、同建物とこれを支持する支持版の前記凹凸構造間に上下方向の落下衝撃力を緩和する緩衝材が設置されていることを特徴とする、アスペクト比が大きい建物の免震構造。
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