JP3802233B2 - 合成樹脂成形用金型およびその加熱・冷却方法 - Google Patents

合成樹脂成形用金型およびその加熱・冷却方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成樹脂成形用金型およびその加熱・冷却方法に係り、詳しくは、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂の射出成形あるいは圧縮成形において、繰り返し加熱・冷却される合成樹脂成形用金型およびその加熱・冷却方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂を射出成形あるいは圧縮成形する場合、高温にした金型に溶融樹脂を充填し、その後金型を低温にして溶融樹脂を冷却して、取り出し後の製品の変形を防止することが望ましい。
【0003】
熱硬化性樹脂を射出成形あるいは圧縮成形する場合においても、高温にした金型に溶融樹脂を充填し硬化反応を行ない、その後金型温度を下げて溶融樹脂を冷却して、取り出し後の製品の変形を防止することが望ましい。
【0004】
通常、熱可塑性樹脂の射出成形あるいは圧縮成形においては、金型温度を上下する時間によって成形サイクルが延びることを避けるために、溶融樹脂をなんとか充填することができて取り出し後の製品の変形もなんとか防止できる共通の金型温度領域を見付け、金型温度を一定にして成形を行なっている。
【0005】
また、熱硬化性樹脂の射出成形あるいは圧縮成形においては、金型の温度低下と冷却時間をできるだけ少なくして成形サイクルが延びないようにしている。
【0006】
しかしながら、熱可塑性樹脂の射出成形において、溶融樹脂を金型に充填する際に金型温度を高くしておくと、樹脂の流動性がよいので薄肉成形に有利であるのみならず金型表面の転写が良好であり、ウエルドラインも目立たなくなることから、溶融樹脂を金型に充填する間だけ金型表面のみを加熱する発明が数多く提案されている。
【0007】
例えば、特公昭45−22020号公報には熱風による加熱方法、特開昭51−22759号公報には電気ヒータによる加熱方法と水冷の組み合わせ、特開昭55−109639号公報には高周波誘導加熱方法、特開昭57−165229号公報にはキャビティ内に蒸気を吹きこむ方法、特開昭61−79614号公報にはキャビティとコアの間に熱板を挟む方法、特開昭64−42217号公報にはハロゲン電球で加熱する方法、特開平4−265720号公報には電気伝導層による金型表面加熱方法などが提案されている。
【0008】
蒸気や熱水あるいは油などの加熱媒体を冷却媒体と共通の回路に通す例としては、特開昭56−55219、特開昭58−12739、特開昭60−54828各号公報などがある。
【0009】
しかし、共通の回路を用いて加熱と冷却を行なうと、金型の深部まで加熱され必要以上に冷却を行なうことになるのみならず、加熱と冷却の切り換えに時間がかかることやキャビティ以外の部分も同時に加熱されたり冷却されたりする不必要な作業が行なわれ加熱と冷却の応答性が悪くなる。応答性を改良する目的で、特昭58−215309号公報には加熱媒体と冷却媒体を別個のタンクから供給しそれぞれに戻す方法、特開昭62−208918号公報には共通回路部分を極力少なくする方法、特開平1−269515には金型加熱時だけ媒体経路の途中で媒体を加熱する方法、特開昭56−37108には閉ループで熱水加熱する方法などが提案されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術の前段で説明した、熱風による加熱方法は加熱能力が小さい、電気ヒータによる加熱方法や電気伝導層による金型表面加熱方法は装置が複雑で高価になる、高周波誘導加熱方法は加熱装置の出し入れに時間がかかるとともに装置が高価になる、キャビティ内に蒸気を吹きこむ方法は適用範囲が金型が濡れても差し支えない成形方法に限られる、キャビティとコアの間に熱板を挟む方法やハロゲン電球で加熱する方法は製品の取り出しとは別に加熱装置の出し入れに時間がかかるという問題点があった。
【0011】
また、従来技術の後段で説明した、加熱媒体と冷却媒体を別個のタンクから供給しそれぞれに戻す方法、共通回路部分を極力少なくする方法、金型加熱時だけ媒体経路の途中で媒体を加熱する方法、閉ループで熱水加熱する方法などは、すべて、金型内で加熱媒体と冷却媒体を共通回路に通すという金型内の加熱冷却方式自体を改良しようとするものではなく、金型内の加熱冷却方式は従来のままで金型外の部分を改良して成形サイクルを短縮しようとするものである.加熱能力の点から言って、熱媒体による加熱、とりわけ蒸気による加熱が有利であることは言うまでもない。すなわち、蒸気と水の組み合わせで加熱と冷却を行なう方法が、設備が簡単で成形サイクルも短く、最も経済的である。にもかかわらず、蒸気加熱以外の発明が長年にわたり多数提案されてきたゆえんは、次に説明するように、蒸気加熱の場合、従来の考え方では成形サイクルが延びることにある。
【0012】
通常の金型冷却回路の設計は、例えば、三谷景造著「射出成形金型(シグマ出版、1997年初版)第13章『金型の温調』に記載されているように、必要とされる単位あたりの除熱量に対応して、実務的には製品の厚みに対応して冷却回路の径が決められ、金型表面の温度分布が均一になるように、回路径の2〜3倍の深さの所に回路径の3倍程度の間隔で埋められる。回路径は通常、キャビティ深さ2mm以下のものに対して8〜10mm、4〜6mmのものに対して10〜12mm、6mm以上のものに対して12〜15mmのものが使われる。
【0013】
こういう冷却回路に蒸気を通すと、金型表面だけではなく金型の深部まで加熱され、その冷却に余分な時間がかかるとともに、回路が金型の深部にあるため加熱や冷却の応答性が遅い。
【0014】
また、加熱と冷却の切り換えの時間を短縮する目的で、金型表面の温度分布が均一になるような回路配置の条件下で加熱と冷却の回路を交互に配置しようとすると、回路間の距離が短くなり金型強度に問題を起こす。
【0015】
このように、媒体による繰り返し加熱冷却を経済的に短時間で行なうことは、従来の考え方を以てしては不可能であった。金型表面を加熱する発明が蒸気加熱以外の方法に集中し、蒸気加熱を含む媒体加熱の方法ではもっばら金型外の改良が提案されてきた理由がここにある。
【0016】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであって、金型表面の加熱と、金型の冷却を経済的に短時間で行ないうる合成樹脂成形用金型およびその加熱・冷却方法を提供することを課題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を次のようにして解決した。すなわち、金型表面に近い位置に水蒸気加熱・水冷却用回路を設け、金型表面から水蒸気加熱・水冷却用回路よりも遠い位置に水冷却用回路を設け、水蒸気加熱・水冷却用回路の回路径を、4mm以下かつ水冷却用回路の回路径の1/2〜1/3とし、水冷却用回路を、金型表面から水冷却用回路の回路径の2〜3倍の深さの所に、水冷却用回路の回路径の2.8〜5倍の間隔、より好ましくは3〜5倍の間隔で配置した。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明による合成樹脂成形用金型の模式図である。同図に示すように、金型の壁部には、通常の冷却用回路Bが設けられ、この冷却用回路Bよりも金型表面(キャビティ面)1に近い位置に加熱・冷却用回路Aが設けられている。
【0019】
前記冷却用回路Bを水冷却用回路として、終始冷却水を通して金型の冷却を継続する一方、加熱・冷却用回路Aを水蒸気加熱・水冷却用回路とし、金型表面1を加熱する時に加熱媒体として水蒸気、冷却する時に冷却媒体として冷却水を通すことが望ましい。なお、水冷却から水蒸気加熱に切り換える時には、水蒸気を通す前に冷却水をエアーで排出すると好都合である。
【0020】
前記加熱・冷却用回路Aを水蒸気加熱用回路として、金型表面1を加熱する時のみ水蒸気を通しても差し支えない。
【0021】
前記加熱・冷却用回路(または加熱用回路、以下同じ)Aの回路径は、4mm以下、好ましくは3.5mm以下、更に好ましくは3mm以下である。回路径の下限は、孔の長さと工作機械の能力により決まる。
【0022】
通常、冷却用回路Bの回路径8mm以上であるのに対して、加熱・冷却用回路Aの回路径はその1/2〜1/3以下でよい。これは、冷却水の伝熱係数が1〜6KW/m2Kであるに対して、飽和蒸気の伝熱係数が5〜17KW/m2Kであることで説明される。
【0023】
冷却用回路Bは、金型表面1の温度分布が均一になるように回路径の2〜3倍の深さCの所に回路径の3〜5倍程度の間隔Dで配置されている。また、加熱・冷却用回路Aの回路径は、冷却用回路Bの回路径の1/2〜1/3であるので、加熱・冷却用回路Aを、冷却用回路Bに対し、より金型表面1に近い位置に、加熱時の金型表面1の温度分布が均一になるように配置できる。その際、加熱・冷却用回路Aも冷却用回路Bの回路と同様に配置してもよい。
【0024】
本発明による合成樹脂成形用金型は、上述したように構成されているので、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂の射出成形あるいは圧縮成形において、金型を繰り返し加熱冷却する場合に最適である。
【0025】
熱可塑性樹脂を射出成形あるいは圧縮成形する場合、高温にした金型に溶融樹脂を充填し、その後金型を低温にして溶融樹脂を冷却して、取り出し後の製品の変形を防止することができる。
【0026】
熱可塑性樹脂の射出成形において、溶融樹脂を金型に充填する際に金型温度を高くしておくと、溶融樹脂の流動性がよいので薄肉成形に有利であるのみならず金型表面の転写が良好であり、ウエルドラインも目立たない。
【0027】
この場合、金型の加熱温度は、樹脂の熱変形温度以上、加熱分解温度以下が好ましいが、これにこだわることなく任意の温度を選ぶことができる。また、金型の冷却温度には、成形雰囲気で金型が結露しない範囲で任意の温度を選ぶことができる。
【0028】
熱硬化性樹脂を射出成形あるいは圧縮成形する場合においても、短い成形サイクルで、高温にした金型に溶融樹脂を充填して硬化反応を行ない、その後金型温度を下げて溶融樹脂を冷却し、取り出し後の製品の変形を防止することができる。
【0029】
この場合、金型の加熱温度は、溶融樹脂の硬化を進めるために必要にして充分な温度とする。また、金型の冷却温度には、成形雰囲気で金型が結露しない範囲で任意の温度を選ぶことができる。
【0030】
【実施例】
本発明の実施例について説明する。
【0031】
本発明による合成樹脂成形用金型を使用して金型の加熱・冷却試験を行った。
【0032】
使用した合成樹脂成形用金型(図1参照)の仕様および加熱・冷却条件は下記の通りである。
【0033】
Figure 0003802233
図2は、金型表面加熱の試験データで、加熱時間に対する金型表面温度を示している。
【0034】
加熱条件(イ)回路A:加熱、 回路B:連続冷却
(ロ)回路A:不使用、回路B:加熱
(ハ)回路A:加熱、 回路B:不使用
本発明による加熱条件(イ)では、従来技術の加熱条件(ロ)に比べ、金型表面温度の上昇が速くなる。加熱条件(ハ)は、金型表面加熱の点だけみれば金型表面温度の上昇が格段速くなる。
【0035】
図3は、金型表面冷却の試験データで、金型の冷却前温度に対する6sec冷却後の金型表面温度を示している。
【0036】
冷却条件(イ)回路A:冷却、 回路B:連続冷却
(ロ)回路A:不使用、回路B:冷却
(ハ)回路A:冷却、 回路B:不使用
本発明による冷却条件(イ)では、従来技術の(または本発明による他の)冷却条件(ロ)に比べ、冷却後の金型表面温度の低下が格段速くなる。冷却条件(ハ)は、冷却条件(イ)に比べ金型表面温度の低下が遅くなる。
【0037】
【発明の効果】
本発明による合成樹脂成形用金型では、金型表面に近い位置に設けた回路に、金型表面を加熱する時のみ水蒸気などの加熱媒体を通し、金型表面より遠い位置に設けた回路に常時冷却水などの冷却媒体を通すことにより、金型は常に冷却され、溶融樹脂が充填される時にのみ金型表面が加熱されるので、金型表面の加熱と金型の冷却を経済的に短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による合成樹脂成形用金型の模式図である。
【図2】金型表面加熱の試験データで、加熱時間に対する金型表面温度を示している。
【図3】金型表面冷却の試験データで、金型の冷却前温度に対する6sec冷却後の金型表面温度を示している。
【符号の説明】
1 金型表面
A 回路(加熱・冷却用回路、加熱用回路)
B 回路(冷却用回路)
C 深さ
D 間隔

Claims (7)

  1. 金型表面(1)に近い位置に水蒸気加熱・冷却用回路(A)を設け、前記金型表面(1)から前記水蒸気加熱・水冷却用回路(A)よりも遠い位置に冷却用回路(B)を設け
    前記水蒸気加熱・水冷却用回路(A)の回路径を、4mm以下かつ前記水冷却用回路(B)の回路径の1/2〜1/3とし、
    前記水冷却用回路(B)を、前記金型表面(1)から前記水冷却用回路(B)の回路径の2〜3倍の深さ(C)の所に、前記水冷却用回路(B)の回路径の2.8〜5倍の間隔(D)で配置した
    ことを特徴とする合成樹脂成形用金型。
  2. 前記水冷却用回路(B)を、該水冷却用回路(B)の回路径の3〜5倍の間隔(D)で配置したことを特徴とする、請求項1に記載の合成樹脂成形用金型。
  3. 金型表面(1)に近い位置に水蒸気加熱用回路(A)を設け、前記金型表面(1)から前記水蒸気加熱用回路(A)よりも遠い位置に水冷却用回路(B)を設けたことを特徴とする合成樹脂成形用金型。
  4. 金型表面(1)から回路径の2〜3倍の深さ(C)の所に回路径の2.8〜5倍の間隔(D)で配置された冷却用回路(B)と、前記冷却用回路(B)よりも前記金型表面(1)に近い位置に設けられ、回路径が4mm以下かつ前記冷却用回路(B)の回路径の1/2〜1/3である回路(A)とを用いる合成樹脂成形用金型の加熱・冷却方法であって、
    前記金型表面(1)に近い位置に設けられた前記回路(A)には、前記金型表面(1)を加熱する時に加熱媒体として水蒸気を通し、冷却する時に冷却媒体として水を通し、前記金型表面(1)から遠い位置に設けられた前記冷却用回路(B)には、常時冷却媒体として水を通すことを特徴とする合成樹脂成形用金型の加熱・冷却方法。
  5. 前記冷却用回路(B)は回路径の3〜5倍の間隔(D)で配置されていることを特徴とする請求項4に記載の合成樹脂成形用金型の加熱・冷却方法。
  6. 金型表面(1)に近い位置に設けられた回路(A)には、前記金型表面(1)を加熱する時のみ加熱媒体を通し、前記金型表面(1)から遠い位置に設けられた冷却用回路(B)には、常時冷却媒体を通すことを特徴とする合成樹脂成形用金型の加熱・冷却方法。
  7. 前記加熱媒体が水蒸気、冷却媒体が冷却水であることを特徴とする請求項6に記載の合成樹脂成形用金型の加熱・冷却方法。
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