JP3800567B2 - 鋼材の防食方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、橋梁や、プラント、建築鉄骨等の大気中に存在する塗装又は未塗装の鋼構造物の鋼材の防食方法に関し、特に鋼材を長期間効果的に腐食から保護できる、外部電源方式による電気防食法を利用する鋼材の防食方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から海洋鋼構造物や、土壌中の鋼構造物の防食方法の一方法として、外部電源方式や、流電陽極方式による電気防食方法が広く利用されている。一方、大気環境にある鋼構造物に対しては、海洋鋼構造物や土壌中の鋼構造物のように水に接触しておらず、それ故防食電流の経路の確保が困難とされ、電気防食方法は全く利用されていなかった。従って、大気中に存在する鋼構造物は、通常、防食塗料の塗装による防食方法が主流となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、このような従来技術を背景になされたものであり、無塗装の鋼材に対しても、あるいはピンホール等の塗膜欠陥のある塗装された鋼材に対しても、大気中に存在する鋼材を長期間腐食から保護できる防食方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、腐食が進行するのは降雨時あるいは結露時など水が存在する場合であり、その時に腐食電流の経路の確保ができていれば腐食を防止できるとの想定の基に、既に大気中に存在する塗装又は未塗装の鋼材表面に、表面抵抗値が107 Ω/cm2 以下の導電性塗膜又は水に対する接触角が70度以下の親水性塗膜、もしくは両者の特性を同時に満足する塗膜を形成させ、外部電源方式による電気防食法によって防食電流を流すことを特徴とする鋼材の防食方法を出願している(特願平8−272126号)。
しかしながら、日照時においては防食電流は、未だ、十分とはいえず、部分的に水分、腐食性物質が凝縮したような場所では十分に電気防食が達成されるとはいえない。そこで、本発明者らは、酸化チタンの光伝導効果に着目し、日照時の電導性をこれで補うことにより、乾燥時においても十分に電気防食が達成されるという知見を得、この知見に基づいて、本発明を完成したものである。
【0005】
即ち、本発明は、大気中に存在する塗装又は未塗装の鋼材表面に、光導電性を有する酸化チタンを含有する光導電性塗膜を形成し、次いで、表面抵抗値が107 Ω/cm2 以下の導電性塗膜又は水に対する接触角が70度以下の親水性塗膜を形成させ、外部電源方式による電気防食法により防食電流を流すことを特徴とする鋼材の防食方法を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用される塗装又は未塗装の鋼材の防食方法においては、未塗装の鋼材そのものでも良く、その表面に下地処理が施されている鋼材でもよい。
本発明で使用される鋼材としては、例えば、冷延鋼板や、熱延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、合金亜鉛メッキ鋼板、亜鉛−鉄合金メッキ鋼板、亜鉛−アルミ合金メッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、クロムメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、亜鉛−ニッケル合金鋼板、錫メッキ鋼板等が挙げられる。
鋼材に任意に施される下地処理としては、例えば、水洗や、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研磨、クロメート処理、リン酸処理、リン酸亜鉛処理、ブラスト処理、複合酸化被膜処理等が挙げられ、これらの処理は、単独で又は組合せで行うことができる。また、必要により、鋼材表面には、ポリエステル系や、ウレタン系のプライマーを、例えばロールコーターや、カーテンフローコーター、静電塗装機、ブレードコーター、ダイコーター等で塗装し、次いで常温放置や、熱風炉、誘導加熱炉、誘導加熱と熱風の併用炉、近赤外炉、遠赤外炉、活性エネルギー線照射炉等で常法に従って硬化乾燥させて、通常0.5〜30μm 程度の膜厚に塗装したものでもよい。
【0007】
本発明では、まず、塗装又は未塗装の鋼材表面に、光導電性を有する酸化チタンを含有する光導電性塗膜を形成する。
光導電性塗膜は、光導電性を有する酸化チタンと、バインダーとから構成される。
バインダーとしては、含まれる光導電性を有する酸化チタンの機能に影響を与えない限り、各種の樹脂を使用することができる。そのような樹脂としては、例えば、加水分解性ケイ素化合物や、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリp−フェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性バインダー樹脂、水酸基や、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、スルホン基等の親水性を有する水溶性又は水分散性のアクリル系や、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、ウレタン系、フェノール系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリビニルアルコール系、若しくはこれらの変性樹脂(場合により、メラミン樹脂や、ポリイソシアネート化合物、ポリエチレンイミン等の架橋剤を併用してもよい)等を特に制限されることなく各種の樹脂を使用することができる。この内、特に、加水分解性ケイ素化合物が好ましい。
【0008】
加水分解性ケイ素化合物としては、加水分解性を有するシリル基含有ビニル系共重合体、オルガノシランの加水分解物及びオルガノシランの加水分解物の部分縮合物が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
シリル基含有ビニル系共重合体は、一般式(I):>C=C<の基を少なくとも1個含むエチレン性不飽和単量体の少なくとも1種と、下記一般式(II)で示されるシリル基含有単量体の少なくとも1種とから形成された共重合体である。
RSiXn R1 (3-n) (II)
(式中、Rは、ラジカル重合性の基、例えば、エチレン性不飽和結合を有する1価の官能基であり、R1 は炭素原子数1〜10個、好ましくは1〜8個のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、Xはハロゲン、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アシロキシ、ケトキシメート、アミノ、酸アミド、アミノオキシ、メルカプト及びアルケニルオキシ基からなる群から選ばれる加水分解性基であり、nは1〜3の整数である。)
上記式中、官能基Rの具体例を挙げると、アクリル基や、メタクリル基、ビニル基等、若しくはそれらの官能基を含有するアルキル基、好ましくは炭素数が1〜8のアルキル基等が挙げられる。
【0009】
R1 としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等がある。R1 としてのアリール基としては、例えば、フェニル基や、ナフチル基等が挙げられる。また、R1 としてのアラルキル基としては、例えば、置換基としてアリール基、例えば、フェニル基やナフチル基を有する上記アルキル基が挙げられる。
Xとしてのハロゲンとしては、例えば、弗素原子や、臭素原子、塩素原子等を挙げることができる。
アルコキシ基としては、アルキル基が上記アルキル基であるアルコキシ基、例えば、メトキシ基や、エトキシ基、プロポキシ基、等を挙げることができる。
【0010】
アルコキシアルコキシ基としては、各アルコキシ基が上記アルコキシ基に対応するものを好適に使用することができる。
アシロキシ基としては、例えば、炭素数が1〜6個のアシロキシ基、例えば、アセチル基や、プロピオニル基等を挙げることができる。
アルケニルオキシ基としては、アルケニル基の炭素数が例えば1〜6個のアルケニルオキシ基、具体的には、プロペニルオキシ基等を挙げることができる。
上記シリル基含有単量体の例を挙げると、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシシラン等がある。
また、前記シリル基含有ビニル系共重合体の製造に適したエチレン性不飽和単量体の例を挙げると、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−メチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等のアルキルアクリレート;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;炭素原子数1〜12個の飽和脂肪酸のビニルエステル、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等があり、これらを単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0011】
本発明のシリル基含有ビニル系共重合体を製造する場合、前記エチレン性不飽和単量体とシリル基含有単量体とを、任意の割合で用いることができるが、シリル基含有単量体は0.5〜25モル%、エチレン性不飽和重合体は99.5〜75モル%の割合で用いるのが好ましい。この共重合体を製造する場合、従来から公知の方法を用いることができる。該シリル基含有ビニル系共重合体の分子量は、3,000〜1,000,000、特に、10,000〜300,000とするのが好ましい。
オルガノシランの加水分解物は、下記一般式(III−A)、(III−B)又は(IV)で示される化合物である。
R2 Si(OR3)3 (III−A)
Si(OR3)4 (III−B)
R2 2Si(OR3)2 (IV)
(式中、R2 は炭素原子数1〜8個の有機基であり、R3 は炭素原子数1〜4個のアルキル基であり、一つの式中に複数のR2 及びR3 が存在する場合には、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。)
加水分解性ケイ素化合物としては、上記一般式(III−A)、(III−B)又は(IV)で示される化合物の部分縮合化合物を使用することができる。部分縮合化合物のポリスチレン換算分子量は、1,000〜5,000、好ましくは1,500〜3,000である。
【0012】
この加水分解物又はその部分縮合物を使用する場合、固形分の10〜80重量%、好ましくは20〜70重量%を含有する溶剤溶液とするのが好ましい。
上記一般式(III−A)、(III−B)又は(IV)における有機基R2 の具体例を挙げると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基等のアルキル基、例えば、ハロゲン原子や、グリシドキシ基、メタクリロオキシ基、アクリロイオキシ基、メルカプト基等の置換基で置換されたアルキル基、例えば、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メタクリルオキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基等や、ビニル基、フェニル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基等がある。また、アルキル基R3 の具体例を挙げると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等がある。
【0013】
また、一般式、(III−A)で示されるオルガノシランの具体例を挙げると次のとおりである:メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン等であり、特にメチルトリメトキシシラン及びメチルトリエトキシシランが好ましい。
【0014】
前記一般式(III−B)で示されるオルガノシラン(アルキルシリケート)の具体例を挙げると、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケート、テトラ−i−ブチルシリケート、テトラ−sec−ブチルシリケート等がある。
また、前記一般式(IV)のオルガノシランの具体例を挙げると、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等があり、特にジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランが好ましい。本発明では、これらの加水分解性ケイ素化合物を、単独で、または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
これらの一般式(III−A)、(III−B)及び(IV)のオルガノシラン類を併用する場合、オルガノシラン換算で(III−A)対(III−B)の混合比(重量比)を100:0〜30とし(即ち、(III−B)を含有しない場合もある)、オルガノシラン換算で(III−A)と(III−B)との合計量対(IV)の混合比(重量比)を100:5〜150、特に100:10〜120とするのが好ましい。一般式(IV)のオルガノシランの混合比が、前記範囲よりも大きい場合には、形成された塗膜に亀裂が入り易く、逆に前記範囲よりも小さい場合、硬化性が低下し、かつ塗膜硬度が低下する傾向がある。
本発明では、オルガノシランの加水分解物又はその部分縮合物が用いられるが、この加水分解及び部分縮合を行うために水を添加する。水の添加量は一般式(III−A)、(III−B)及び(IV)のオルガノシランのアルコキシ基1当量に対して、通常0.1〜1.0モル、特に0.15〜0.7モルとするのが好ましい。水の添加モル数が前記範囲よりも小さいと貯蔵安定性が悪くなる傾向があり、また水の添加モル数が前記範囲よりも大きいと硬化乾燥が遅くなる傾向がある。また、この様なオルガノシランの縮合物を生成させるために生成促進剤を用いてもよい。
【0016】
このような促進剤としては、一般式(V):M(OR)x で表わされる化合物や鉱酸等を用いることができる。一般式(V)において、MはTi、Al、B、Zr等の金属であり、Rは炭素原子数2〜5個のアルキル基であり、xは2〜4の整数である。
式(V)において、Rで示されるアルキル基としては、例えば、エチル基や、プロピル基、ブチル基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。
一般式(V)の具体例を挙げると、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、トリ−i−プロポキシアルミニウム、モノ−sec−ブトキシ−ジ−i−プロポキシアルミニウム、ジエトキシホウ素、ジ−n−プロポキシホウ素、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等、及び鉱酸として塩酸、硫酸等がある。その添加量はオルガノシラン100重量部に対して0.05〜2.0重量部の範囲にするのが好ましい。
【0017】
本発明で使用される光導電性を有する酸化チタンは、アナターゼ型TiO2 に触媒機能を有する金属を固定化したものである。このような光導電性を有する酸化チタンの製造方法は、公知であり、例えば、TiO2 ゾルを基板材料に塗布して薄膜を形成し、この薄膜に触媒機能を有する金属塩の水溶液又は金属の微粉末の懸濁液を塗布又は含浸し、次いでルチル型TiO2 への相転移点以下の温度である800℃以下の温度で熱処理して、アナターゼ型TiO2 薄膜に前記金属を固定化して作られる。
上記のTiO2 ゾルとは、例えば硝酸、塩酸等の酸性水溶液又はアンモニア等の塩基性水溶液中に平均粒径0.01〜0.05μm 程度のアナターゼ型TiO2 がゾル状態で数%〜数十%存在している。触媒機能を有する金属としては、Cu、Ag、Fe、Pb、Pt等が挙げられ、塩としては硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等でよい。
光導電性塗膜中における光導電性酸化チタンの形態としては、例えば、粉末又は粒状の形態で配合することができる。
【0018】
本発明で形成される光導電性塗膜中には、光導電性酸化チタンは、塗膜重量に基づいて、好ましくは45〜85重量%、特に好ましくは50〜80重量%の量で配合することが適当である。
光導電性塗膜は、バインダー樹脂と、光導電性を有する酸化チタンとを含有する塗料組成物を塗布することによって形成することができる。
光導電性塗膜における酸化チタンの顔料重量濃度(PWC)は、45〜85、好ましくは50〜80とすることが適当である。ここで、顔料重量濃度(PWC)は、Pigment Weight Concentration(顔料重量濃度)のことであり、下記の式により算出される。この顔料重量濃度(PWC)の範囲内において、光導電性塗膜中に上記の範囲で光導電性酸化チタンを配合することができる。
PWC=〔含有顔料重量(%)〕/〔塗料中の全固形分重量(%)〕×100
なお、顔料重量濃度(PWC)が45未満では、光触媒効果が十分に発揮されにくく、好適ではない。逆に、顔料重量濃度が85を越えると成膜性が低下し、割れ、剥離等が発生し易いので好ましくない。
【0019】
本発明においては、酸化チタンの光導電性を高めるための、活性炭や、シリカゲル、ゼオライト、モルデナイト等を配合してもよい。
モルデナイトは、例えば
(Ca,Na,K)5 〜6 Al7 (SiAl)Si32O80・nH2 O(n≒22)で示される鉱物である。
これらの添加剤は、酸化チタンの重量に基づいて、好ましくは、10〜50重量%、特に好ましくは20〜40重量%の量で使用することが適当である。この量は、10重量%未満では、酸化チタンの光導電性の改善効果が小さく、一方、50重量%よりも多くなると、逆に光導電性の効果を低下させる可能性があるので、好ましくない。
【0020】
設けられる光導電性塗膜の厚みは、好ましくは5〜50μm 、特に好ましくは10〜40μm が適当である。
本発明で使用する光導電性塗膜を形成するための塗料組成物は、上記成分の他に、必要に応じ各種顔料、有機溶剤又は添加剤等を配合してもよい。
顔料としては、通常塗料用として利用されている顔料がそのまま使用可能である。具体的には、(光導電性のない)酸化チタンや、亜鉛華、酸化鉄、黄鉛等の着色無機顔料、フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の着色有機顔料、石英粉、酸化アルミナ、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料、ステンレス粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母粉等の金属粉等が代表的なものとして挙げられる。
【0021】
また、有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、イソホロン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤等が代表的なものとして挙げられる。
また、添加剤としては、表面調整剤や、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、反応調整触媒等の通常塗料用添加剤として知られている添加剤が挙げられる。
塗装方法としてはエアースプレー、エアレススプレー、静電スプレー、シャワーコート、ディップ塗装、ハケ塗装、ロール塗装等の従来から一般に行なわれている方法がそのまま採用できる。
【0022】
本発明において、光導電性塗膜の上に設けられる導電性塗膜は、外部電源により防食電流が流れるようにするために形成される。この観点から、導電性塗膜の表面抵抗値は、107 Ω/cm2 以下、好ましくは105 Ω/cm2 以下である必要がある。
導電性塗膜を形成する塗料としては、例えば、ポリアニリンや、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ−p −フェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性バインダー樹脂等や、カーボンブラック、黄銅、アルミニウム、酸化亜鉛、グラファイト等の粉末状、フレーク状あるいは繊維状の導電性充填剤を配合して前記表面抵抗値範囲の導電性を付与した塗料が挙げられる。
本発明で使用される親水性塗膜は、導電性塗膜と同様に、外部電源により防食電流が流れるようにするために使用され、塗装又は未塗装の鋼材表面に形成する。そのため、親水性塗膜は、水に対する接触角が70度以下、好ましくは40度以下である必要がある。
親水性塗膜を形成する塗料としては、水酸基や、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、スルホン基等の親水基を有する水溶性又は水分散性のアクリル系や、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、ウレタン系、フェノール系、ポリエーテル系、ポリアミド系、ポリビニルアルコール系、もしくはこれらを変性したバインダー樹脂(場合によりメラミン樹脂や、ポリイソシアネート化合物、ポリエチレンイミン等の架橋剤を併用してもよい。)や、界面活性剤などを配合して前記の水に対する接触角範囲の親水性を付与した塗料が挙げられる。
【0023】
なお、親水性塗膜には、塗膜表面の水保持性を良くするために粗面化するのが望ましく、粗面化するために、アクリル樹脂や、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂等からなる有機粒子や、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、カオリン等からなる無機粒子を配合するのが望ましい。
設けられる導電性塗膜の厚みは、好ましくは5〜50μm 、特に好ましくは10〜40μm であることが適当である。
また、設けられる親水性塗膜の厚みは、好ましくは5〜50μm 、特に好ましくは10〜40μm であることが適当である。
【0024】
次に本発明の鋼材の防食方法について説明する。
図1は、本発明の代表的な電気防食処理を施した鋼材の側断面図であり、この図に基づき、本発明の防食方法について説明する。
鋼材1の表面を必要に応じて通常の前処理を施した後、プライマー、防食塗料等を塗装して通常100〜300μm の膜厚の防食塗膜2を形成する。
このように形成した防食塗膜2の上に、まず、光導電性を有する酸化チタンを含有する光導電性塗膜3を形成し、次いで、導電性塗膜又は親水性塗膜4を形成する。
次いで、このようにして形成された導電性又は親水性塗膜4上に陽極板5を積層させる。なお、本発明においては、導電性又は親水性塗膜4と陽極板5との間に、水に濡れてない時は絶縁性であっても、水に濡れると通電性を発揮する材料を介在させてもよい。陽極板5の固定方法は、例えば、ボルトなどによる従来の方法により固定する。陽極板5は、長期耐久性を必要とするので大気中において風雨にさらされても溶けにくく、かつ電気を流す都合上、導電性の材料であり、具体的には、白金や、黒鉛、鋳鉄、アルミニウム合金等が適当である。
【0025】
このように形成された陽極板5と鋼板1とを、表面を絶縁被覆した銅線等のリード線7で電源6を介して接続する。陽極板5と鋼材1との間に、電源より直流電圧を加えることにより防食電流を流し、鋼材1の腐食を防止するものである。前記直流電圧は、5〜20V、好ましくは10〜15Vが適当である。
なお、直流電圧が前記範囲より小さいと十分な防食電流が流れにくく、防食効果が小さくなり、逆に大きいと陽極板の消耗が生じやすくなる傾向にある。本発明の方法により、鋼材と、導電性又は親水性塗膜との間に、光導電性塗膜を介在させているので、日照時においても、陽極板5、光導電性塗膜3、導電性又は親水性塗膜4、及び(塗装されている場合は、その塗膜自体が導電性である時はその塗膜を経由して、また塗膜自体が絶縁性である時は塗膜のピンホール部あるいは損傷部を経由して)鋼材間に防食電流が流れ、効果的に腐食を防止する。
【0026】
【実施例】
以下、本発明について実施例により、更に詳細に説明する。
<実施例1>
メチルトリエトキシシリケート40部及びイソプロピルアルコール54部を40℃で攪拌混合し、これに0.1N塩酸0.3部及び水5.7部からなる混合物を90分間かけて滴下した。滴下後40℃で更に4時間攪拌し、不揮発分40%のメチルトリエトキシシリケートの加水分解縮合物溶液(以下、「加水分解縮合物A−1」という)を得た。この縮合物のポリスチレン換算重量平均分子量は、10,000であった。この加水分解縮合物A−1 100部に光導電性酸化チタンSSP−25(堺化学工業(株)社製商品名;平均粒径9nm、比表面積270m2/g)160部、キシロール10部、イソプロピルアルコール10部を加えて塗料化した。この時の顔料重量濃度(PWC)は80であり、この濃度は、形成する光導電性塗膜の重量に基づいて80重量%であった。これに硬化促進剤(ジブチル錫ラウレート)0.1部を添加した塗料を1×50×1000(mm)の磨き軟鋼板にエポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚100μm になるように塗布し、24時間乾燥させた塗膜表面に、乾燥膜厚50μm となるように塗布し、以下の表1に示す表面抵抗値を有する導電性塗膜を形成し、裏面及び側面をエポキシ樹脂でシールし、7日間常温で乾燥させた。次いで、表面の端に、3×50×50(mm)の大きさのアルミニウム製陽極板を張り付けた。更に、そこから800mm離れた位置に直径1mmのドリルで素地に達する塗膜欠陥を作った。最後に、前記陽極板と軟鋼板との間を図1に示すように電源を介してリード線を接続し、10Vの電圧をかけ、その状態で12ケ月間屋外暴露した。暴露後の塗膜欠陥の電位、外観は表1に示す通りであった。
【0027】
<実施例2>
テトラエトキシシリケート〔「エチルシリケート40」(日本コルコート社製商品名)〕35部及びイソプロピルアルコール61部を40℃で攪拌混合し、次いでこれに1N塩酸1部及び水3部からなる混合物を90分間かけて滴下した。滴下後40℃で更に4時間攪拌し、不揮発分35%のテトラエトキシシリケートの加水分解縮合物溶液(以下、「加水分解縮合物A−2」という)を得た。この縮合物のポリスチレン換算重量平均分子量は、13,000であった。この加水分解縮合物A−2 100部に光導電性酸化チタンSSP−25、120部、モレキュラーシーブ4A(ユニオン昭和(株)社製商品名;ゼオライト)40部、キシロール10部、イソプロピルアルコール10部を加えて塗料化した。この塗料の顔料重量濃度(PWC)は80であり、この濃度は、形成する光導電性塗膜の重量に基づいて60重量%であった。これに硬化促進剤(ジブチル錫ラウレート)0.1部を添加した塗料を使用して、実施例1と同様に試験片を調製し、実施例1と同様の試験を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0028】
<実施例3>
キシレン45部及びイソブタノール40部を混合し、攪拌しながら85℃に加熱した。次に、イソブチルメタクリレート50部、2−エチルヘキシルメタクリレート35部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン15部及びアゾビスイソバレロニトリル1.5部の混合溶液を85℃で3時間かけて滴下し、その後90℃に昇温し、2時間維持して、反応を終了させ、不揮発分55%のシリル基含有ビニル系樹脂溶液(以下、「ビニル系樹脂A」という)を得た。このビニル系樹脂の重量平均分子量は、14,000であり、ポリマー1分子あたり平均約7個のシリル基を有している。このビニル系樹脂A100部に光導電性酸化チタンSSP−25、165部、モレキュラーシーブ4A、55部、キシロール10部、イソプロピルアルコール10部を加えて塗料化した。この時の顔料重量濃度(PWC)は80であり、この濃度は、形成する光導電性塗膜の重量に基づいて60重量%であった。これに硬化促進剤(ジブチル錫ラウレート)0.1部を添加した塗料を使用して、実施例1と同様にして試験片を調製し、実施例1と同様に試験を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0029】
<比較例1>
磨き軟鋼板にエポキシ樹脂塗料を厚さ(乾燥後)200μm になるように塗布し、7日間常温で乾燥させた後、塗膜欠陥を作り、6ヶ月間屋外暴露し、暴露後の塗膜欠陥部の電位及び外観を調べた。結果を以下の表1に示した。
<比較例2>
光導電性酸化チタンを使用しない以外は、実施例1と同様に試験片を調製した。また、実施例1と同様にして試験を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0030】
【表1】
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、塗装又は未塗装の鋼材と、導電性又は親水性塗膜との間に、光導電性塗膜を介在させているので、日照時においても、陽極板5、光導電性塗膜3、導電性又は親水性塗膜4、及び(塗装されている場合は、その塗膜自体が導電性である時はその塗膜を経由して、また塗膜自体が絶縁性である時は塗膜のピンホール部あるいは損傷部を経由して)鋼材間に防食電流が流れ、効果的に腐食を防止する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で使用する電気防食処理の概略を示す図。
【符号の説明】
1鋼材 2防食塗膜 3光導電性塗膜
4導電性又は親水性塗膜 5陽極板 6電源
7リード線
Claims (3)
- 大気中に存在する、非ジンクリッチペイント防食塗料を塗装した、又はそのような防食塗料を塗装していない鋼材表面に、光導電性を有する酸化チタン(TiO 2 )を45〜85重量%含有する光導電性塗膜を形成し、次いで表面抵抗値が107Ω/cm2 以下の導電性塗膜又は水に対する接触角が70度以下の親水性塗膜を形成させ、外部電源方式による電気防食法により防食電流を流すことを特徴とする鋼材の防食方法。
- 前記光導電性塗膜が、更に、活性炭、シリカゲル、ゼオライト及びモルデナイトからなる群から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項1記載の防食方法。
- 前記導電性塗膜又は親水性塗膜上に、難溶性でかつ導電性の材料からなる陽極板を積層し、鋼材を陰極として陽極板と鋼材間に直流電圧を加えて防食電流を流すことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材の防食方法。
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