JP3799807B2 - 分光光度計 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分光光度計に関し、特に光路が2つに分割され、一方の光路にサンプルセルを備え、他方の光路をレファレンス側としたダブルビーム分光光度計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
分光光度計のノイズ成分は、試料に起因するもの、光源の揺らぎに起因するもの、及び受光素子や増幅回路のノイズに起因するものに分けることができる。これらのノイズを除去するために検出器回路にノイズ除去フィルタを備えて光量信号や吸光度信号などを処理している。
【0003】
図1は従来の吸光光度計を表す概略構成図である。分光光学系は省略されている。
光源2からの光路には図示しない分光光学系が備えられており、さらに分光光学系からの光をサンプル側光路とレファレンス側光路に分割するセクターミラー4が備えられている。
サンプル側光路にはサンプルセル6が備えられており、さらにサンプルセル6を透過した光を信号に変換するサンプル側受光素子8sが備えられている。サンプル側受光素子8sは、その信号を増幅する増幅器10sを介して、サンプル側受光素子8sからの信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去フィルタ12sに接続されている。
【0004】
レファレンス側光路にはセクターミラー4からの光を信号に変換するレファレンス側受光素子8rが備えられている。レファレンス側受光素子8rは、その信号を増幅する増幅器10rを介して、レファレンス側受光素子8rからの信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去フィルタ12rに接続されている。
ノイズ除去フィルタ12s,12rは、除算器14に接続されている。除算器14は、その出力からの信号値を対数変換して吸光度として出力する対数変換器16に接続されている。
【0005】
通常、ダブルビーム型分光光度計は、サンプル側とレファレンス側ができるだけ同じ条件になるように、全く同一の信号処理系を備えている。これにより、サンプル側及びレファレンス側に共通に含まれる光源の揺らぎに起因するノイズを除去することができる。
ノイズ除去フィルタ12s,12rの信号源の変化速度とノイズ除去性能は同時に満足しえない特性であり、これらはノイズ除去フィルタ12s,12rの時定数に支配されるので、目的に応じて時定数を変更する必要がある。例えば時定数を小さくして高速応答を優先するとノイズ除去性能は低下する。
【0006】
受光素子や増幅回路のノイズは、サンプル側、レファレンス側で無相関なので、ダブルビームにすることで除去されず、むしろサンプル側、レファレンス側のノイズが加算されるが、光源の揺らぎやサンプルセルに起因するノイズが支配的な場合は、そのノイズの除去効果が大きいので、ダブルビームにすることにより全体のノイズを低減することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近年、光源の改良により、光源の揺らぎの小さいものが利用可能となり、光源の揺らぎが必ずしも支配的なノイズではなくなった。その結果、サンプル側とレファレンス側とに同じ特性をもつノイズ除去フィルタをそれぞれ備えて光源の揺らぎによるノイズの除去効果を期待するよりも、信号応答速度を考慮しなくてもよいレファレンス側のノイズ除去フィルタに、より大きな時定数を設定してレファレンス側の受光素子及び増幅器のノイズを低減する方が分光光度計全体のノイズを低減することができるようになった。
【0008】
しかし、レファレンス側のノイズ除去フィルタの時定数を大きくするだけでは、サンプル側とレファレンス側とでノイズ除去フィルタの遅延時間が異なることから光源の揺らぎによるノイズの除去効果が非常に低下するという問題が生じる。例えば、図2は、光源の揺らぎと、その光源の揺らぎに起因するノイズを含むサンプル側及びレファレンス側の増幅器出力を表す波形図である。横軸は時間を表す。サンプル側のノイズ除去フィルタとレファレンス側のノイズ除去フィルタとで遅延時間差があると両信号で割算をしても、光源の揺らぎに起因するノイズを除去できないことがわかる。
【0009】
そこで本発明は、レファレンス側のノイズ除去フィルタに、より大きな時定数を設定してレファレンス側の受光素子及び増幅器のノイズを低減し、かつサンプル側のノイズ除去フィルタとレファレンス側のノイズ除去フィルタの遅延時間差による光源の揺らぎによるノイズの除去効果低下を抑えることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によるダブルビーム型分光光度計は、サンプル側及びレファレンス側に分割された光路を備え、それぞれの光路の検出回路の出力側にノイズ除去フィルタを備えたダブルビーム型分光光度計において、レファレンス側ノイズ除去フィルタの時定数がサンプル側ノイズ除去フィルタの時定数よりも大きく設定されており、サンプル側ノイズ除去フィルタとレファレンス側ノイズ除去フィルタでそれぞれに送られた信号に含まれるノイズを除去した際に、両ノイズ除去フィルタの遅延時間差を算出する遅延時間計算機構と、サンプル側ノイズ除去フィルタの出力側に配置され、サンプル側とレファレンス側とで遅延時間が等しくなるように、遅延時間計算機構からの情報に基づいてサンプル側の信号到達時間を調節する可変遅延機構と、可変遅延機構を経たサンプル側信号とレファレンス側ノイズ除去フィルタを経たレファレンス側信号との割り算を行う除算器と、を備える。
【0011】
レファレンス側の受光素子及び増幅器のノイズを低減するために、レファレンス側ノイズ除去フィルタにサンプル側ノイズ除去フィルタよりも大きな時定数を設定する。レファレンス側ノイズ除去フィルタとサンプル側ノイズ除去フィルタの時定数が異なるので、レファレンス側とサンプル側で遅延時間差が生じる。この遅延時間差を遅延時間計算機構により算出し、その値に基づいて可変遅延機構によりサンプル側の信号到達時間を遅延することにより、レファレンス側とサンプル側との間の遅延時間差を補正する。
【0012】
【実施例】
図3は本発明を吸光光度計に適用した一実施例を表す概略構成図である。ここでも分光光学系は省略されている。
光源22からの光路には図示しない分光光学系が備えられており、さらに分光光学系からの光をサンプル側光路とレファレンス側光路に分割するセクターミラー24が備えられている。
【0013】
サンプル側光路にはサンプルセル26が備えられ、さらにサンプルセル26を透過した光を信号に変換するサンプル側受光素子28sが備えられている。サンプルセル26はフローセルでもよい。サンプル側受光素子28sは、その信号を増幅する増幅器30sを介して、サンプル側受光素子28sからの信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去フィルタ32sに接続されている。
【0014】
レファレンス側光路にはセクターミラー24からの光を信号に変換するレファレンス側受光素子28rが備えられている。レファレンス側受光素子28rは、信号を増幅する増幅器30rを介して、レファレンス側受光素子28rからの信号に含まれるノイズを除去するノイズ除去フィルタ32rに接続されている。
【0015】
ノイズ除去フィルタ32s,32rには、ノイズ除去フィルタ32rと32sとの遅延時間差を算出する遅延時間計算機構18が接続されている。ノイズ除去フィルタ32sは遅延時間計算機構18からの情報に基づいてサンプル側の信号到達時間を調節する可変遅延器20に接続され、可変遅延器20とノイズ除去フィルタ32rは、サンプル側の信号/レファレンス側の信号を算出する除算器34に接続されている。除算器34は、その出力信号値を対数変換して吸光度として出力する対数変換器36に接続されている。
レファレンス側受光素子28r及び増幅器30rのノイズを低減するために、ノイズ除去フィルタ32rはノイズ除去フィルタ32sよりも大きな時定数をもつように設定されている。
【0016】
光源22から照射した光を図示しない分光光学系により分光し、所定の波長の光をセクターミラー24に送る。その光をセクタミラー24により2つに分割し、分割した光をサンプル側光路ではサンプルセル26を介してサンプル側受光素子28sに送り、レファレンス側光路ではレファレンス側受光素子28rに送る。光の入射により発生するサンプル側受光素子28s及びレファレンス側受光素子28rからの信号を増幅器30s、30rでそれぞれ増幅して、それぞれノイズ除去フィルタ32s,32rに送り、それぞれの信号に含まれる受光素子及び増幅器に起因するノイズを除去する。
【0017】
このとき、ノイズ除去フィルタ32rはノイズ除去フィルタ32sよりも大きな時定数をもっているのでノイズ除去フィルタ32rの出力の方が時間遅れが大きくなり、遅延時間差が生じる。この遅延時間差を遅延時間計算機構18により計算し、その情報に基づいて可変遅延器20によりノイズ除去フィルタ32sからの信号を遅らせて遅延時間差がなくなるように補正する。その結果、レファレンス側受光素子28r及び増幅器30rのノイズをより大きく低減し、かつ光源22による光の揺らぎに起因するノイズも低減することができる。
【0018】
その後、サンプル側光路及びレファレンス側光路からの信号は除算器34及び対数変換器36に送られ、吸光度が算出される。
この実施例では吸光光度計を用いているが、本発明は吸光光度計以外の分光光度計にも適用することができる。
【0019】
次に、遅延時間計算機構18での遅延時間計算方法例を説明する。
遅延時間計算方法として、例えば、実測する方法(方法1)、ノイズ除去フィルタの群遅延特性から計算する方法(方法2)などの方法を利用することができる。
【0020】
方法1を具体的に説明する。設計時に、あらかじめサンプル側及びレファレンス側のノイズ除去フィルタの遅延時間を時定数毎に測定しておき、テーブルとして記憶させておく。動作中はその時の時定数に対応した遅延時間を用い、ノイズ除去フィルタ32sの遅延時間がノイズ除去フィルタ32rの遅延時間と等しくなるように遅延時間計算機構18により可変遅延器20を制御する。
【0021】
遅延時間の測定は、処理を時間方向に離散化されたディジタル処理とすると、例えば次のような手順で行なう。
(1)ノイズ除去フィルタの入力にインパルス信号を印加し、同時に時間計測を開始する。
(2)ノイズ除去フィルタの出力を各サンプル点で観測する。値がそれまでの最大値以上になったときは最大値を変更し、(1)を基点とするその時点の時刻を記憶させる。
(3)十分な時間の観測後、停止する。
ノイズ除去フィルタの出力が最大値をとった時刻が記憶されており、この時刻をそのノイズ除去フィルタの遅延時間とする。
【0022】
次に、方法2を具体的に説明する。まず、伝達関数H(z-)のディジタルフィルタの、ある規格化角周波数ωにおける遅延時間τ(ω)を求める。位相特性θ(ω)のフィルタの遅延時間τ(ω)は、
【数1】
Figure 0003799807
(Tは標本化間隔(秒)、jは虚数単位)
また、位相特性θ(ω)は、
【数2】
Figure 0003799807
(Re[],Im[]はそれぞれ関数の実部、虚部)
【0023】
次に、(1)式及び(2)式を用いてω=0での遅延時間を計算する。
例えば図4に示すような遅延器Z-1、乗算器a0,a1及び加算器からなる1次のFIRディジタルフィルタの場合は、
伝達関数H(Z)=a0+a1・Z-1 ・・・(3)
θ(ω)=tan-1{−a1sin(ω)/(a0+a1cos(ω))}・・・(4)
τ(ω)=−jT・d(ω)/dω ・・・(5)
となる。実際に計算する場合は、(1)式を(2)式に代入し、ω=0として周波数0での遅延時間を計算することができる。
【0024】
【発明の効果】
本発明は、サンプル側ノイズ除去フィルタとレファレンス側ノイズ除去フィルタの遅延時間差を算出する遅延時間計算機構と、遅延時間計算機構からの情報に基づいてサンプル側の信号到達時間を調節する可変遅延機構を備え、レファレンス側の受光素子及び増幅器のノイズを低減するために、レファレンス側ノイズ除去フィルタにサンプル側ノイズ除去フィルタよりも大きな時定数を設定し、レファレンス側ノイズ除去フィルタとサンプル側ノイズ除去フィルタの時定数の相違により生じる遅延時間差を遅延時間計算機構により算出し、その値に基づいて可変遅延機構によりサンプル側の信号到達時間を遅延し、遅延時間を補正するようにしたので、サンプル側とレファレンス側の相関性を高め、光源の揺らぎに起因するノイズを除去することができるようになる。その結果、レファレンス側の受光素子及び増幅器のノイズを低減し、かつ光源の揺らぎに起因するノイズを除去効果も保持することができ、分光光度計のノイズを減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の吸光光度計を表す概略構成図である。
【図2】光源の揺らぎと、その光源の揺らぎに起因するノイズを含むサンプル側及びレファレンス側の増幅器出力を表す波形図である。
【図3】本発明を吸光光度計に適用した一実施例を表す概略構成図である。
【図4】1次のFIRディジタルフィルタを表す構成図である。
【符号の説明】
18 遅延時間計算機構
20 可変遅延器
28s,28r 受光素子
30s,30r 増幅器
32s,32r ノイズ除去フィルタ

Claims (1)

  1. サンプル側及びレファレンス側に分割された光路を備え、それぞれの光路の検出回路の出力側にノイズ除去フィルタを備えたダブルビーム型分光光度計において、
    レファレンス側ノイズ除去フィルタの時定数がサンプル側ノイズ除去フィルタの時定数よりも大きく設定されており、
    サンプル側ノイズ除去フィルタとレファレンス側ノイズ除去フィルタでそれぞれに送られた信号に含まれるノイズを除去した際に、両ノイズ除去フィルタの遅延時間差を算出する遅延時間計算機構と、
    サンプル側ノイズ除去フィルタの出力側に配置され、サンプル側とレファレンス側とで遅延時間が等しくなるように、前記遅延時間計算機構からの情報に基づいてサンプル側の信号到達時間を調節する可変遅延機構と、
    該可変遅延機構を経たサンプル側信号と前記レファレンス側ノイズ除去フィルタを経たレファレンス側信号との割り算を行う除算器と、
    を備えたことを特徴とするダブルビーム型分光光度計。
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