JP3797026B2 - ブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ブレーキペダルの踏込み時の制動力を、マスタシリンダ圧とは異なる制動用圧発生手段で発生した制動用圧を制御することにより発生させるようにしたブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のブレーキ制御装置としては、例えば特開平8−324407号公報に記載されているものが知られている。
この従来例では、通常のブレーキ作動時には、マスタシリンダとホイールシリンダとを直接接続してブレーキペダルの踏込量に応じた制動力を発生させ、一方、車両安定制御を行う場合には、電動モータによって液圧ポンプを駆動しリザーバのブレーキ液を吸引し、その加圧ブレーキ液を電磁弁を介してホイールシリンダに供給するようにしている。そして、電磁弁を開閉制御し、液圧ポンプからのブレーキ液圧を調圧することによってブレーキ非作動状態であってもホイールシリンダから所望の制動力を発生させるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記ブレーキ制御装置には、液圧ポンプの最大吐出圧を規制するリリーフ弁が設けられている。油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプからのブレーキ液圧を調圧してホイールシリンダ圧を制御する場合に、油圧ポンプの吐出圧がリリーフ弁作動圧に達するとリリーフ弁が作動する。このとき、リリーフ弁の出側はマスタシリンダに接続されているため、リリーフ弁からの脈圧がマスタシリンダに伝わり、ブレーキペダルにキックバックが伝わる。このため、運転者がブレーキペダルを踏んでいると違和感を与えるという問題がある。
【0004】
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、リリーフ弁が作動することに起因してブレーキペダルにキックバックが伝達されることを回避することの可能な、ブレーキ制御装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るブレーキ制御装置は、ブレーキペダルの踏込量に応じた制動圧の作動流体を出力するマスタシリンダと、車両を制動する制動力を発生する制動手段と、所定制動圧を発生する制動用圧発生手段と、前記制動用圧発生手段で発生する制動用圧を減圧制御して任意の制動圧を前記制動手段に出力する圧力制御弁と、前記マスタシリンダと前記制動手段との間に介挿された第1の電磁開閉弁と、前記マスタシリンダと前記制動用圧発生手段との間に介挿された第2の電磁開閉弁と、前記圧力制御弁の戻りポートと前記マスタシリンダのリザーバとの間に介挿された第3の電磁開閉弁と、当該第3の電磁開閉弁と前記制動用圧発生手段との間に介挿された当該第3の電磁開閉弁側からの作動流体の流れのみを許容する逆止弁と、前記制動用圧発生手段の出側と、前記第2の電磁開閉弁よりも前記制動用圧発生手段側との間に介挿され前記制動用圧発生手段で発生する制動用圧の最大値を規制するリリーフ弁と、前記ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量検出手段と、少なくとも前記ブレーキ踏込量検出手段で検出したブレーキペダル踏込量に基づいて前記圧力制御弁、第1の電磁開閉弁、第2の電磁開閉弁、第3の電磁開閉弁及び制動用圧発生手段を制御する制動制御手段と、前記リリーフ弁が作動するかどうかを予測する予測手段と、を備え、前記制動制御手段は、前記予測手段で前記リリーフ弁が作動すると予測したときには前記第2の電磁開閉弁を閉状態に制御するようになっていることを特徴としている。
【0006】
この請求項1に係るブレーキ制御装置では、予測手段によってリリーフ弁が作動するかどうかが予測され、リリーフ弁が作動すると予測されたときには、第2の電磁開閉弁が閉状態に制御される。ここで、第2の電磁開閉弁が開状態であった場合、リリーフ弁が作動し脈圧が発生すると、この脈圧が前記制動圧発生手段の入側に伝わり第2の電磁開閉弁を介してマスタシリンダに伝達されることになる。そのため、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいると、キックバックが生じて運転者に違和感を与えることになる。
【0007】
しかしながら、リリーフ弁が作動したときには前記第2の電磁開閉弁を閉状態に切り換えるようになっているから、リリーフ弁の脈圧がマスタシリンダに伝達されることはなく、運転者に違和感を与えることが回避される。
また、本発明の請求項2に係るブレーキ制御装置は、前記予測手段は、前記制動用圧発生手段が前記制動圧の発生を開始した時点からの前記制動用圧発生手段から出力される作動流体の累計値Qp、前記制動手段で消費される作動流体の累計値Qw及び前記圧力制御弁の内部リーク流量の累計値Qiをそれぞれ推定し、これらが、Qp−(Qw+Qi)>qを満足するとき、前記リリーフ弁が作動すると予測するようになっていることを特徴としている。ただし、qは予め設定したしきい値である。
【0008】
この請求項2に係る発明では、制動用圧発生手段が制動圧の発生を開始した時点からの制動用圧発生手段から出力される作動流体の累計値Qpが推定され、同様に制動用圧発生手段が制動圧の発生を開始した時点からの制動手段で消費される作動流体の累計値、つまり、各輪にホイールシリンダが設けられているときには、全てのホイールシリンダで消費される作動流体の合計値の累計値が推定される。さらに、圧力制御弁の内部リーク流量の累計値、つまり、各車輪に対応して圧力制御弁が設けられているときには全ての圧力制御弁の内部リーク流量の累計値が推定される。
【0009】
ここで、前記制動用圧発生手段と前記圧力制御弁との間の作動流体圧がリリーフ弁に達するとリリーフ弁が作動するから、この作動流体圧、すなわち、作動流体の流量からリリーフ弁の作動を予測することが可能となる。この流量は、制動用圧発生手段から出力された流量と、前記圧力制御弁から出力された流量つまり制動手段で消費される流量及び圧力制御弁の内部リーク流量との和との差であるから、この差がリリーフ弁が作動するために必要な流量を越えたときにリリーフ弁が作動すると予測することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明の請求項3に係るブレーキ制御装置は、前記ブレーキ踏込量検出手段は、ブレーキペダルのストローク、ブレーキペダルの踏力及びマスタシリンダ圧の何れかを少なくとも検出するように構成されていることを特徴としている。
この請求項3に係るブレーキ制御装置では、ブレーキペダルのストローク、ブレーキペダルの踏力及びマスタシリンダ圧の何れかを少なくとも検出することにより、ブレーキペダルの踏込みによる運転者の要求減速度を確実に検出することができる。
【0011】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係るブレーキ制御装置によれば、予測手段でリリーフ弁が作動するかどうかを予測し、リリーフ弁が作動すると予測されたときには、第2の電磁開閉弁を閉状態に制御するようにしたから、リリーフ弁の脈圧に起因して運転者に違和感を与えることを回避することができる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係るブレーキ制御装置によれば、制動用圧発生手段が制動圧の発生を開始した時点からの制動用圧発生手段から出力される作動流体の累計値Qp、制動手段で消費される作動流体の累計値Qw及び圧力制御弁の内部リーク流量の累計値Qiに基づいてリリーフ弁の作動を予測するようにしたから、新たにセンサ等を設けることなく容易確実に予測することができる。
【0013】
さらに、本発明の請求項3に係るブレーキ制御装置によれば、少なくともブレーキペダルのストローク、ブレーキペダルの踏力及びマスタシリンダ圧の何れかを少なくとも検出するようにしたから、ブレーキペダルの踏込みによる運転者の要求減速度を確実に検出することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を前輪駆動車におけるブレーキ制御装置に適用した場合の一実施形態を示す概略構成図であり、図中、1はブレーキペダル2の踏込量に応じて駆動輪としての前輪側及び従動輪としての後輪側に対する2系統の前輪側マスタシリンダ圧PMfの作動流体及び後輪側マスタ圧PMrの作動流体を発生する共通の加圧室を有し、両マスタシリンダ圧PMf及びPMrをそれぞれ前輪側出力ポートp1及び後輪側出力ポートp2から出力するマスタシリンダである。
【0015】
このマスタシリンダ1から出力される前輪側マスタ圧PMfの作動流体は2ポート2位置の第1の電磁開閉弁3FL及び3FRの一方のポートp1にそれぞれ供給され、後輪側マスタ圧PMrの作動流体も同様の2ポート2位置の第1の電磁開閉弁3RL及び3RRの一方のポートp1にそれぞれ供給される。
そして、各電磁開閉弁3FL,3FR及び3RL,3RRの他方のポートp2は、左右の前輪4FL,4FR及び4RL,4RRに制動力を作用させる制動手段としてのホイールシリンダ5FL,5FR及び5RL,5RRに連通されている。
【0016】
また、電磁開閉弁3FL〜3RRのそれぞれは、ソレノイドs1に供給される後述するコントロールユニット30からの制御信号SD がオフ状態であるときにノーマル位置となってポートp1及びポートp2間が連通され、ソレノイドs1に供給される制御信号SD がオン状態であるときにオフセット位置に切り換わってポートp1及びp2間が遮断される。
【0017】
一方、マスタシリンダ1とは別に制動用圧を発生する制動用圧発生手段としての制動用圧発生機構6が設けられている。この制動用圧発生機構6は、電動モータ7によって回転駆動される油圧ポンプ8と、この油圧ポンプ8の吐出側に接続されたその最大吐出圧を規制するリリーフ弁9とで構成され、油圧ポンプ8の吸い込み側が第2の電磁開閉弁10を介してマスタシリンダ1の前輪側ポートp1に接続されると共に、逆止弁16及び第3の電磁開閉弁12を介してマスタシリンダ1のリザーバ1aに接続されている。
【0018】
ここで、油圧ポンプ8は、電動モータ7が後述するコントロールユニット30によって回転駆動されることにより駆動されて、吸い込み側に供給される作動流体を昇圧して高圧の制動用圧を発生する。
また、第2及び第3の電磁開閉弁10及び12は、共に2ポート2位置に構成され、ソレノイドs1に供給される後述するコントロールユニット30からの制御信号SE 及びSF がオフ状態であるときにノーマル位置となってポートp1及びポートp2間が遮断され、ソレノイドs1に供給される制御信号SE 及びSF がオン状態であるときにオフセット位置に切り換わってポートp1及びp2間が連通される。
【0019】
さらに、逆止弁16は、リザーバ1aから油圧ポンプ8への作動流体の流れを許容し、これとは逆方向の作動流体の流れを阻止し、この逆止弁16と第3の電磁開閉弁12との間に前述したリリーフ弁9の戻りポートが接続されている。
さらに、圧力制御弁11FL〜11RRのそれぞれは、弾性体で一方向に付勢されたスプールをソレノイドの電磁力で摺動させることにより、入力ポートps及び戻りポートpdと制御ポートpcとの間の開度を制御することによって、図2に示すように、ソレノイドに供給される制御信号CSFL〜CSRRの電流値に比例した制動圧PcFL〜PcRRを制御ポートpcから出力するように構成されている。
【0020】
また、圧力制御弁11FL〜11RRの制御ポートpcから出力される制動圧PcFL〜PcRRが、直接ホイールシリンダ5FL,5FR及び5RL,5RRと第1の電磁開閉弁3FL,3FR及び3RL,3RRとの間に接続され、戻りポートpdが第3の電磁開閉弁12の一方のポートp1に接続されている。
また、ブレーキペダル2には、そのストロークを検出するストロークセンサ22が配設され、またマスタシリンダ1の前輪側ポートp1に接続された油圧配管には、マスタシリンダ1から吐出される作動流体の前輪側マスタシリンダ圧PMfを検出するブレーキ踏込量検出手段としてのマスタ圧センサ23が配設されている。
【0021】
そして、第1の電磁開閉弁3FL〜3RR、電動モータ7、第2の電磁開閉弁10、圧力制御弁11FL〜11RR、第3の電磁開閉弁12が、例えばマイクロコンピュータを含んで構成される制動制御手段としてのコントロールユニット30によって制御される。
このコントロールユニット30には、ストロークセンサ22で検出したペダルストロークPS、マスタ圧センサ23で検出されるマスタ圧検出値PM 及び車両の適所に配設された図示しない、前後加速度センサ、横加速度センサ或いは車輪速センサ等の車両挙動を検出する各種センサの検出信号が入力され、これらに基づいて所定の演算処理を行って、第1の電磁開閉弁3FL〜3RR、電動モータ7、第2の電磁開閉弁10、圧力制御弁11FL〜11RR、第3の電磁開閉弁12を制御する。
【0022】
すなわち、第1の電磁開閉弁3FL〜3RRを閉状態、第2の電磁開閉弁10及び第3の電磁開閉弁12を開状態に制御し、ブレーキペダル2を踏み込んだ制動時には電動モータ7を回転駆動し、且つマスタ圧センサ23で検出したマスタ圧検出値PM 、ストロークセンサ22で検出したペダルストロークPS及び図示しない車両挙動を検出する各種センサからの検出信号に基づいて要求減速度を求め、この要求減速度に応じた減速度となる制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * を算出する一方、他のアンチロックブレーキ制御装置31、トラクション制御装置32、横滑り抑制制御装置33からの制動圧指令値があるときには、これらの制動圧指令値により補正した制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * を算出する。そして、この制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に制動圧PcFL〜PcRRが一致するように圧力制御弁11FL〜11RR及び第2の電磁開閉弁10を制御する。また、リリーフ弁9の作動状態を予測し、これに基づいて第2の電磁開閉弁10を制御する。
【0023】
次に、上記実施の形態の動作を、コントロールユニット30で実行する図3に示す制動制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートを伴って説明する。
すなわち、コントロールユニット30では、常時図3に示す制動制御処理を実行し、まず、ステップS1で、第1の電磁開閉弁3FL〜3RRを閉状態、第2の電磁開閉弁10及び第3の電磁開閉弁12を開状態に制御する制御信号SD ,SE 及びSF を出力する。
【0024】
次いでステップS2に移行し、ストロークセンサ22で検出したペダルストロークPS、マスタ圧センサ23で検出したマスタ圧検出値PM 、その他各種センサからの検出信号を読み込み、次いでステップS3に移行して、ステップS2で読み込んだマスタ圧検出値PM が予め設定した比較的小さい所定しきい値P0 (例えば0.1MPa程度の小さい値)を超えているか否かを判定する。そして、PM ≦P0 であるときには、ブレーキペダル2を踏み込んでいない非制動時であると判断してステップS4に移行する。
【0025】
このステップS4では、他のアンチロックブレーキ制御装置31、トラクション制御装置32及び横滑り抑制制御装置33の何れかからの制動圧指令値が入力されているか否かを判定し、これらが入力されていないときには、ステップS5に移行して電動モータ7を停止させると共に、圧力制御弁11FL〜11RRに対する制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * を零に設定する。また、後述の消費流量累計値Qw、吐出流量累計値Qp、リーク流量累計値Qiを零にリセットする。そして、後述するステップS10に移行する。
【0026】
一方、ステップS3の判定結果が、PM >P0 であるとき、又はステップS4で、他のアンチロックブレーキ制御装置31、トラクション制御装置32及び横滑り抑制制御装置33の何れかからの制動圧指令値が入力されていると判定されるときには、圧力制御弁11FL〜11FRを使用した制動制御を必要とするものと判断してステップS6に移行する。
【0027】
このステップS6では、前記ステップS2で読み込んだマスタ圧検出値PM 及び各種センサの検出信号に基づいて運転者の要求する減速度に応じた要求制動力を算出し、この要求制動力を発生することができる制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * を算出してから、ステップS7に移行する。
このステップS7では、前述したアンチロックブレーキ制御装置31、トラクション制御装置32及び横滑り抑制制御装置33から制動圧指令値が入力されているか否かを判定し、これらから制動圧指令値が入力されていないときには、直接ステップS9に移行する。一方、ステップS7で他の制御装置から制動圧指令値が入力されているときにはステップS8に移行し、アンチロックブレーキ制御装置31からの制動圧指令値である場合には、この制動圧指令値をステップS6で算出した制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に優先させて置換し、残りのトラクション制御装置32及び横滑り抑制制御装置33の制動圧指令値であるときには、これらの制動圧指令値をステップS6で算出した制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に加算した値を新たな制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * として設定した後、ステップS9に移行する。
【0028】
このステップS9では、電動モータ7を回転駆動する。そして、ステップS10に移行する。
このステップS10では、制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に基づいて、ホイールシリンダ5FL〜5RRのうち、少なくとも何れか一つのホイールシリンダが増圧状態であるかどうかを判定する。そして、何れか一つのホイールシリンダが増圧状態であるときにはステップS11に移行し、第2の電磁開閉弁10を開状態にするための制御信号SE を出力する。
【0029】
次いで、ステップS12に移行し、予測手段としての、後述のリリーフ弁作動予測処理を実行した後、ステップS13に移行し、制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に対応する電流値の制御信号CSFL〜CSRRを圧力制御弁11FL〜11RRに出力してから前記ステップS2に戻る。
一方、前記ステップS10で、何れのホイールシリンダも増圧状態でないときには、ステップS14に移行し、第2の電磁開閉弁10を閉状態にするための制御信号SE を出力した後、前記ステップS13に移行する。
【0030】
前記ステップS12のリリーフ弁作動予測処理は、図4に示す手順で行う。すなわち、まず、ステップS21で、各圧力制御弁11FL〜11RRへの制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * を読み込む。次いで、ステップS22に移行し、ステップS21で読み込んだ制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * をもとに、各ホイールシリンダ5FL〜5RRで消費される作動流体量について、その累計値Qwを推定する。この消費流量累計値Qwの推定は次のように行う。
【0031】
すなわち、予め圧力制御弁11への制動圧指令値Pc* とホイールシリンダ圧との対応を表す、図5(a)に示す、制動圧指令値−ホイールシリンダ圧特性図を生成しておく。また、ホイールシリンダ圧とホイールシリンダ液量との対応を表す、図5(b)に示すホイールシリンダ圧−ホイールシリンダ液量特性図を生成しておく。
【0032】
そして、各ホイールシリンダ5FL〜5RR毎に、制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * と前記図5(a)及び(b)に基づいて、単位時間当たりにホイールシリンダで消費される作動流体量を推定し、各ホイールシリンダ毎の単位時間当たりの消費流量の合計を、前回推定して保持している累計値Qwに加算して、ステップS21で読み込んだ制動圧指令値PcFL * 〜PcRR * に基づき圧力制御弁11FL〜11RRを制御した場合の消費流量の累計値Qwを推定する。
【0033】
次いで、ステップS23に移行し、マスタ圧センサ23からのマスタ圧検出値PM を読み込んでからステップS24に移行し、油圧ポンプ8の駆動を開始した時点からの油圧ポンプ8の吐出流量の累計値Qpを推定する。この推定は次のようにして行う。
つまり、油圧ポンプ8の吐出流量はポンプの容量やポンプの吸入効率等によって決まり、ポンプ入り口の圧力つまりマスタシリンダ圧が上がればポンプの吸入効率が上がり、ポンプの吐出流量も上がる。したがって、予めマスタシリンダ圧とポンプ吸入効率との対応を表す図6(a)に示すマスタシリンダ圧−ポンプ吸入効率特性図を生成しておく。また、ポンプ吸入効率とポンプ吐出流量との対応を表す図6(b)に示すポンプ吸入効率−ポンプ吐出流量特性図を生成しておく。
【0034】
そして、マスタ圧検出値PM と図6(a)及び(b)に基づいて、単位時間当たりのポンプ吐出流量を算出し、これを前回算出した吐出流量の累計値Qpに加算して今回の吐出流量の累計値Qpを推定する。
次いで、ステップS25に移行し、油圧ポンプ8を駆動してからの、圧力制御弁11FL〜11RRの内部リーク流量の合計値の累計値Qiを推定する。この累計値Qiの推定は次の手順で行う。
【0035】
つまり、各圧力制御弁11FL〜11RRの単位時間当たりの内部リーク流量は、圧力制御弁のスプール、スリーブのクリアランス等といった特性によって決まるため、各圧力制御弁11FL〜11RR毎の内部リーク流量の合計を求めておく。そして、各圧力制御弁11FL〜11RRの単位時間当たりの内部リーク流量の合計値を、前回算出した内部リーク流量の累計値Qiに加算し、今回の累計値Qiを推定する。
【0036】
次いで、ステップS26に移行し、前記消費流量の累計値Qw、吐出流量の累計値Qp及び内部リーク流量の累計値Qiが次式(1)を満足するかどうかを判定する。なお、式中のqは予め実験等によって求めたしきい値である。
Qp−(Qw+Qi)>q ……(1)
ここで、前記(1)式においてQp−(Qw+Qi)をΔQとすると、この差分値ΔQは、すなわち、油圧ポンプ8と圧力制御弁11FL〜11RRとの間の作動流体圧に応じた値となる。この作動流体圧がリリーフ弁作動圧を越えたときに、リリーフ弁9が作動するから、前記ΔQが、作動流体圧がリリーフ弁作動圧を越えるときの差分値ΔQ* を越えたときに、リリーフ弁9が作動すると予測することができる。したがって、前記しきい値qは、作動流体圧がリリーフ弁作動圧を越えるときの差分値ΔQ* に基づいて設定され、リリーフ弁9が作動する前にその作動を予測することの可能な値に設定される。
【0037】
そして、ステップS26で前記(1)式を満足するときにはステップS27に移行し、第2の電磁開閉弁10を閉状態にするための制御信号SE を出力し、処理を終了して図3に戻る。一方、前記(1)式を満足しないときにはステップS28に移行し、第2の電磁開閉弁10を開状態にするための制御信号SE を出力し、処理を終了して図3に戻る。
【0038】
したがって、今、ブレーキペダル2が開放された非制動状態で車両が走行しているときには、マスタシリンダ圧が略零となるから、ステップS3からS4に移行し、他の制御装置から制動圧指令値Pcを入力していない場合には、ステップS5に移行して電動モータ7を駆動しない。そして、何れのホイールシリンダ5FL〜5RRも増圧状態ではないから、ステップS10からS14に移行し、第2の電磁開閉弁10を閉状態に切り換え、制動圧指令値Pc* =0として、これに応じた制御信号CSを出力する。
【0039】
このとき、第1及び第2の電磁開閉弁3FL〜3RR及び10は閉状態、第3の電磁開閉弁12は開状態に制御され、電動モータ7は停止しており、また圧力制御弁11FL〜11RRに対する制動圧指令値Pc* は略零となるから、各ホイールシリンダ5FL〜5RRに供給される制動圧も略零となって非制動状態を維持する。
【0040】
この状態から、ブレーキペダル2を踏み込んで制動状態とすると、これに応じてマスタシリンダ1のマスタ圧検出値PM が増加し、マスタ圧検出値PM がしきい値P0 を越えたときに、ブレーキペダル2が踏み込まれたと判定して、ステップS3からステップS6に移行する。そして、マスタ圧検出値PM や各種センサの検出信号をもとに、制動圧指令値Pc* が算出され、このとき、他の制御装置からの制動圧指令値Pcが入力されていなければ、ステップS7からS9に移行し、電動モータ7を駆動し油圧ポンプ8を起動する。
【0041】
そして、ブレーキペダル2が踏み込まれてホイールシリンダ圧を増圧する状態であるから、ステップS10からS11を経てステップS12に移行し、図4に示すリリーフ弁作動推定処理が実行される。
このリリーフ弁作動推定処理では、全ホイールシリンダ5FL〜5RRの消費流量の累計値Qw(ステップS22)、油圧ポンプ8の吐出流量の累計値Qp(ステップS24)、全圧力制御弁11FL〜11RRの内部リーク流量の累計値Qi(ステップS25)が算出されるが、制動開始時点では、各累計値Qw,Qp,Qiは零であるから、前記(1)式を満足しないため、ステップS26からS28に移行し第2の電磁開閉弁10は開状態を維持する。
【0042】
そして、図3のステップS13に戻って、制動圧指令値Pc* に対応する制御信号CSが出力され、これに応じて各圧力制御弁11FL〜11RRが制御される。
このため、リザーバ1aの作動流体及びマスタシリンダ圧の一部が油圧ポンプ8の吸い込み側に供給されると共に油圧ポンプ8が作動し、油圧ポンプ8の吐出圧が圧力制御弁11FL〜11RRによって調圧されて各ホイールシリンダ5FL〜5RRに供給され、マスタシリンダ圧PMfや車両挙動に応じた運転者の要求する減速度に応じた制動圧が各ホイールシリンダ5FL〜5RRによって発生される。
【0043】
以後、マスタシリンダ圧PMfや各種センサの検出信号に基づいて車両挙動に応じた制動圧指令値Pc* が算出され、ホイールシリンダ5FL〜5RRが増圧状態を維持し、前記(1)式を満足しない間は、第2の電磁開閉弁10が開状態に制御され、マスタシリンダ圧PMfを油圧ポンプ8に吸わせることによって油圧ポンプ8の吸入効率を向上させ、油圧ポンプ8の吐出圧の増圧応答を向上させる。そして、ブレーキペダル2の踏込み量が小さくなった場合等、何れのホイールシリンダ5FL〜5RRも増圧状態でなくなったときには、ステップS10かS14に移行し、第2の電磁開閉弁10を閉状態に制御する。
【0044】
そして、この制動状態で旋回状態に移行することにより、車両の横滑り量が目標横滑り量より大きい場合に、この横滑り量を目標横滑り量に一致させるように、所定輪に対して制動力を増加させる制動圧指令値が横滑り抑制制御装置33からコントロールユニット30に入力されると、これに応じてステップS8で該当輪における制動圧指令値Pc* に横滑り抑制用制動圧指令値が加算され、その加算値が制動圧指令値としてホイールシリンダに供給されることにより、その制動圧が増加して制動制御を行いながら横滑り抑制制御を行うことができる。
【0045】
また、ブレーキペダル2を踏み込んでいない非制動状態で、トラクション制御装置32からの駆動輪のスリップを抑制する制動圧指令値がコントロールユニット30に入力されたときには、マスタシリンダ圧PMfが零を継続することにより、ステップS3からS4に移行するが、ステップS4からステップS6に移行することになり、電動モータ7が回転駆動されて、油圧ポンプ8が始動する。これにより、リザーバ1aから第3の電磁開閉弁12、逆止弁16を介して作動流体が油圧ポンプ8に吸い込まれ、これが昇圧されて制動用圧が形成されることにより、ステップS8で設定されるトランクション制御用制動圧指令値に応じた制動圧指令値Pc* に対応する制動圧が圧力制御弁11FL及び11FRからホイールシリンダ5FL及び5FRに出力されて、駆動輪のスリップが抑制されてトラクション制御が行われる。
【0046】
このトラクション制御中に旋回状態となって、横滑り抑制制御装置33から横滑り量を抑制する制動圧指令値がコントロールユニット30に供給されたときには、該当する車輪の制動圧指令が増加されて、トラクション制御と横滑り抑制制御とが同時に実行される。
一方、制動状態が継続し、ホイールシリンダ圧を増圧する状態が継続すると、全ホイールシリンダ5FL〜5RRの消費流量の累計値Qw、油圧ポンプ8の吐出流量の累計値Qp、全圧力制御弁11FL〜11RRの内部リーク流量の累計値Qiは増加し、消費流量の累計値Qwと内部リーク流量の累計値Qiとの和及び吐出流量の累計値Qpは、例えば図7に示すように増加する。
【0047】
つまり、時間の経過と共に消費流量の累計値Qw及び内部リーク流量の累計値Qiは増加し、同様に吐出流量の累計値Qpも増加するが、吐出流量の累計値Qpの傾きに比較して、消費流量の累計値Qwと内部リーク流量の累計値Qiとの和の傾きが小さいから、これらの差が徐々に広がってくる。
そして、吐出流量の累計値Qpと、消費流量の累計値Qw及び内部リーク流量の累計値Qiの和との差、つまり、油圧ポンプ8と圧力制御弁11FL〜11RRとの間の作動流体量が増加すると、これにつれて、その流体圧も増加し、時点t2 で作動流体圧がリリーフ弁作動圧に達すると、リリーフ弁9が作動する。
【0048】
一方、前記リリーフ弁作動推定処理では、前記(1)式に基づいて、吐出流量の累計値Qpと、消費流量の累計値Qw及び内部リーク流量の累計値Qiの和との差が、しきい値qを越えるかどうかを判定しているから、吐出流量の累計値Qpと、消費流量の累計値Qw及び内部リーク流量の累計値Qiの和との差が、しきい値qを越え、時点t1 でリリーフ弁9が作動すると予測した時点でステップS26からステップS27に移行して、第2の電磁開閉弁10を閉状態に切り換える。これによって、第2の電磁開閉弁10とマスタシリンダ1との間が遮断される。
【0049】
ここで、時点t2 でリリーフ弁9が作動すると、リリーフ弁9に脈圧が発生し、この脈圧は第3の電磁開閉弁12を経てリザーバ1aに伝達されると共に、逆止弁16を経て第2の電磁開閉弁10に伝達されるが、第2の電磁開閉弁10は閉状態に制御されているから、脈圧がマスタシリンダ1に伝達されることはない。
【0050】
そして、時点t3 でブレーキペダル2が開放状態にされ、非制動状態となると、図3において、ステップS3からステップS4を経てステップS5に移行するから、油圧ポンプ8の駆動が停止され、消費流量の累計値Qw及び内部リーク流量の累計値Qi及び吐出流量の累計値Qpは零リセットされる。
このように、リリーフ弁9が作動したときには、ホイールシリンダ圧を増圧する状態であっても、第2の電磁開閉弁10を閉状態に切り換えるようにしたから、リリーフ弁9の脈圧が、逆止弁16、第2の電磁開閉弁10、マスタシリンダ1を介してブレーキペダル2に伝わることはなく、ブレーキペダル2のキックバックが伝わって、運転者に違和感を与えることはない。
【0051】
また、リリーフ弁9の作動を予測し、リリーフ弁9が作動する以前に第2の電磁開閉弁10を閉状態に切り換えるようにしているから、確実に違和感を与えることを回避することができる。
また、リリーフ弁9の作動を演算により予測するようにしているから、例えば油圧ポンプ8の吐出圧を検出するための圧力センサ等のセンサを新たに設ける必要がなく、容易に実現することができる。
【0052】
なお、ブレーキ踏込量検出手段として、マスタ圧センサ23を適用した場合について説明したが、これに限らず、ストロークセンサ22を適用することも可能であり、ブレーキペダル2にかかる踏力を磁歪センサやストレンゲージ等のトルクセンサで検出するようにしてもよい。
また、上記各実施の形態においては、前輪を駆動輪とした場合について説明したが、後輪を駆動輪とする場合も適用することができる。
【0053】
さらに、上記各実施の形態においては、制動制御の他に、トラクション制御や横滑り量制御を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ハイブリッド車両や電気自動車での回生制動制御を併用することもできる。
また、他の制御装置31〜33からの制動圧指令値がコントロールユニット30に入力される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、これらを省略するようにしてもよい。
【0054】
さらに、上記各実施の形態においては、第1〜第3の電磁開閉弁3FL〜3 RR,10及び12を設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第1の電磁開閉弁3FL〜3RR及び第3の電磁開閉弁12を省略し、これに代えて圧力制御弁11FL〜11RRの制御ポートpcから出力される制動圧とマスタシリンダ1から出力されるマスタシリンダ圧とを選択する電磁方向切り換え弁を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の圧力制御弁の制動圧指令値に対する出力圧特性を示す特性線図である。
【図3】制動制御処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】制動制御処理におけるリリーフ弁作動推定処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5(a)は、制動圧指令値−ホイールシリンダ圧特性を表す特性図、図5(b)は、ホイールシリンダ圧−ホイールシリンダ液量特性を表す特性図である。
【図6】図6(a)は、マスタシリンダ圧−ポンプ吸入効率特性を表す特性図、図6(b)は、ポンプ吸入効率−ポンプ吐出流量特性を表す特性図である。
【図7】本発明の動作説明に供する説明図である。
【符号の説明】
1 マスタシリンダ
2 ブレーキペダル
3FL〜3RR 第1の電磁開閉弁
4FL〜4RR 前輪
5FL〜5RR ホイールシリンダ
6 制動用圧発生機構
7 電動モータ
8 油圧ポンプ
9 リリーフ弁
10 第2の電磁開閉弁
11FL〜11RR 圧力制御弁
12 第3の電磁開閉弁
22 ストロークセンサ
23 マスタ圧センサ
30 コントロールユニット
Claims (3)
- ブレーキペダルの踏込量に応じた制動圧の作動流体を出力するマスタシリンダと、
車両を制動する制動力を発生する制動手段と、
所定制動圧を発生する制動用圧発生手段と、
前記制動用圧発生手段で発生する制動用圧を減圧制御して任意の制動圧を前記制動手段に出力する圧力制御弁と、
前記マスタシリンダと前記制動手段との間に介挿された第1の電磁開閉弁と、
前記マスタシリンダと前記制動用圧発生手段との間に介挿された第2の電磁開閉弁と、
前記圧力制御弁の戻りポートと前記マスタシリンダのリザーバとの間に介挿された第3の電磁開閉弁と、
当該第3の電磁開閉弁と前記制動用圧発生手段との間に介挿された当該第3の電磁開閉弁側からの作動流体の流れのみを許容する逆止弁と、
前記制動用圧発生手段の出側と、前記第2の電磁開閉弁よりも前記制動用圧発生手段側との間に介挿され前記制動用圧発生手段で発生する制動用圧の最大値を規制するリリーフ弁と、
前記ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量検出手段と、
少なくとも前記ブレーキ踏込量検出手段で検出したブレーキペダル踏込量に基づいて前記圧力制御弁、第1の電磁開閉弁、第2の電磁開閉弁、第3の電磁開閉弁及び制動用圧発生手段を制御する制動制御手段と、
前記リリーフ弁が作動するかどうかを予測する予測手段と、を備え、
前記制動制御手段は、前記予測手段で前記リリーフ弁が作動すると予測したときには前記第2の電磁開閉弁を閉状態に制御するようになっていることを特徴とするブレーキ制御装置。 - 前記予測手段は、前記制動用圧発生手段が前記制動圧の発生を開始した時点からの前記制動用圧発生手段から出力される作動流体の累計値Qp、前記制動手段で消費される作動流体の累計値Qw及び前記圧力制御弁の内部リーク流量の累計値Qiをそれぞれ推定し、これらが次式を満足するとき、前記リリーフ弁が作動すると予測するようになっていることを特徴とする請求項1記載のブレーキ制御装置。
Qp−(Qw+Qi)>q
ただし、qは予め設定したしきい値である。 - 前記ブレーキ踏込量検出手段は、ブレーキペダルのストローク、ブレーキペダルの踏力及びマスタシリンダ圧の何れかを少なくとも検出するように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブレーキ制御装置。
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