JP3796468B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」と言う。)に関するものであり、とりわけ、新規なクマリン誘導体を発光補助剤として用いる有機EL素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
情報表示の分野では、有機EL素子が次世代の表示素子として脚光を浴びている。現在、コンピューター端末機やテレビジョン受像機などの比較的大型の情報表示機器においては、主として、ブラウン管が用いられている。しかしながら、ブラウン管は体積、重量ともに大きく、動作電圧が高いので、民生用機器や携帯性を重視する小形の機器には適しない。小型機器には、もっと薄く、軽量のパネル状であって、動作電圧が低く、消費電力の小さいものが必要とされている。現在では、液晶素子が動作電圧が低く、消費電力が比較的小さい点が買われて、多方面で頻用されている。しかしながら、液晶素子を用いる情報表示機器は見る角度によってコントラストが変わるので、ある角度の範囲で読み取らないと明瞭な表示が得られないうえに、通常、バックライトを必要とするので、消費電力がそれほど小さくならないという問題がある。これらの問題を解決する表示素子として登場したのが有機EL素子である。
【0003】
有機EL素子は、通常、陽極と陰極との間に発光性化合物を含有する発光層を介挿してなり、その陽極と陰極との間に直流電圧を印加して発光層へ正孔及び電子をそれぞれ注入し、それらを互いに再結合させることによって発光性化合物の励起状態を作出し、その励起状態が基底状態に戻るときに放出される蛍光や燐光などの発光を利用する発光素子である。有機EL素子は、発光層を形成するに当たって、ホスト化合物として適切な有機化合物を用いるとともに、そのホスト化合物と組み合わせるゲスト化合物(ドーパント)を変更することにより、発光の色調を適宜に変えることができる特徴がある。また、ホスト化合物とゲスト化合物との組合わせによっては、発光の輝度や寿命を大幅に向上できる可能性がある。そもそも、有機EL素子は自ら発光する素子なので、消費電力を小さくできる利点があり、原理的に優れた発光素子であると言われている。
【0004】
ところが、ホスト化合物とゲスト化合物を主体に発光層を構成する従来の有機EL素子は、その多くが発光効率が低く、寿命も実用上満足し得るものではなかった。この問題を解決する方法の一つとして、有機EL素子の発光層へ発光性有機化合物による発光補助剤(コドーパント)を共存せしめることによって、ホスト化合物が獲得した励起エネルギーがゲスト化合物へ移動する効率を改善する提案がなされ、例えば、特開平9−134786号公報に開示された有機EL素子においては、発光補助剤として、ジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アントラセンなどが用いられている。しかしながら、従来の発光補助剤は、組み合わせて用いるホスト化合物やゲスト化合物によっては、発光の効率や寿命を所期のレベルにまで改善できなかったり、発光の色度そのものを変化させてしまうものも多いことから、従来公知のホスト化合物やゲスト化合物を効率的に活用するためにも、発光補助能に優れた発光性有機化合物の開発が鶴首されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
斯かる状況に鑑み、この発明の課題は、ホスト化合物とゲスト化合物とを組み合わせて用いる有機EL素子において、ゲスト化合物の望ましい発光特性を実質的に変化させることなく、発光の効率や寿命を改善する有機EL素子用発光補助剤とその用途を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決すべく、本発明者がクマリン誘導体に着目し、鋭意研究し、検索したところ、ユロリジン骨格及びフェナントロチアゾール骨格を有するクマリン誘導体は、安定であるうえに、有機EL素子において、適宜のホスト化合物及びゲスト化合物と組み合わせて用いると、自らは発光することなく、ホスト化合物の励起エネルギーがゲスト化合物へ移動するのを効果的に促進し、その結果として、高輝度の電界発光が長時間安定して持続することを見出した。
【0007】
すなわち、この発明は、発光補助剤として、ユロリジン骨格及びフェナントロチアゾール骨格を有するクマリン誘導体を用いる有機EL素子を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0008】
さらに、この発明は、斯かる有機EL素子を用いる表示パネルを提供することによって前記課題を解決するものである。
【0009】
さらに、この発明は、斯かる有機EL素子を用いる情報表示機器を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0010】
さらに、この発明は、ユロリジン骨格及びフェナントロチアゾール骨格を有するクマリン誘導体を含んでなる有機EL素子用発光補助剤を提供することによって前記課題を解決するものである。なお、この発明でいう「発光補助剤」とは、ホスト化合物及びゲスト化合物とともに有機EL素子の発光層を構成する発光性有機材料であって、自らは発光せず、専ら、ホスト化合物の励起エネルギーがゲスト化合物へ移動するのを促進するなどして、他の化合物の発光を補助するものを意味する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態につき説明すると、既述のとおり、この発明は、ユロリジン骨格及びフェナントロチアゾール骨格を有するクマリン誘導体の有機EL素子における発光補助剤としての用途に関するものである。この発明は、斯かるクマリン誘導体が有機EL素子における発光補助剤として有用であるという独自の知見に基づくものであって、いかなるクマリン誘導体であろうとも、それが分子内にユロリジン骨格とフェナントロアゾール骨格、好ましくは、フェナントロ〈9,10−d〉チアゾール骨格とをそれぞれ有し、かつ、有機EL素子において所期の発光補助能を発揮するものであるかぎり、この発明において有利に用いることができる。組み合わせて用いるホスト化合物やゲスト化合物の種類、さらには、有機EL素子の用途などにもよるけれども、特に好ましいクマリン誘導体としては、例えば、一般式1で表されるものが挙げられる。
【0012】
【化4】
一般式1:
【0013】
一般式1において、R1乃至R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表し、その炭化水素基は置換基を1又は複数有していてもよい。R1乃至R5における炭化水素基としては、通常、脂肪族炭化水素基、好ましくは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−ペンテニル基などの炭素数5までの短鎖長脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基、さらには、これらの組合わせによる炭化水素基が挙げられる。斯かる炭化水素基における水素原子は、その1又は複数が、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのエーテル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などのエステル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、さらには、これらの組合わせによる置換基によって置換されていてもよい。有機EL素子の用途にもよるけれども、好ましいのはR2乃至R5のすべてが脂肪族炭化水素基であるクマリン誘導体であり、とりわけ、R2乃至R5がすべてメチル基であるクマリン誘導体は、物性においても経済性においても特に優れている。
【0014】
一般式1におけるR6乃至R13は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。R6乃至R13における置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、2−ペンテニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基などの炭素数20までの脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプチル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのエーテル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などのエステル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、さらには、これらの組合わせによる置換基が挙げられる。
【0015】
この発明によるクマリン誘導体の具体例としては、例えば、化学式1乃至化学式23で表されるものが挙げられる。これらは、いずれも、有機EL素子において発光補助剤として用いると、ホスト化合物の励起エネルギーがゲスト化合物へ移動するのを効果的に促進する。しかも、一般式1で表される一群のクマリン誘導体は融点やガラス転移点が高く、その結果として、熱安定性が大きい。なお、この発明によるクマリン誘導体の融点、ガラス転移点は、例えば、後記する汎用の示差走査熱量分析(以下、「DSC分析」と略記する。)によって決定することができる。
【0016】
【化5】
化学式1:
【0017】
【化6】
化学式2:
【0018】
【化7】
化学式3:
【0019】
【化8】
化学式4:
【0020】
【化9】
化学式5:
【0021】
【化10】
化学式6:
【0022】
【化11】
化学式7:
【0023】
【化12】
化学式8:
【0024】
【化13】
化学式9:
【0025】
【化14】
化学式10:
【0026】
【化15】
化学式11:
【0027】
【化16】
化学式12:
【0028】
【化17】
化学式13:
【0029】
【化18】
化学式14:
【0030】
【化19】
化学式15:
【0031】
【化20】
化学式16:
【0032】
【化21】
化学式17:
【0033】
【化22】
化学式18:
【0034】
【化23】
化学式19:
【0035】
【化24】
化学式20:
【0036】
【化25】
化学式21:
【0037】
【化26】
化学式22:
【0038】
【化27】
化学式23:
【0039】
この発明で用いるクマリン誘導体は諸種の方法によって調製することができるけれども、経済性を重視するのであれば、例えば、クマリン骨格における3位へアルデヒド基が結合してなり、その3位以外の部位にユロリジン骨格を有する化合物と、隣接する炭素原子へチオール基及び第一級アミノ基が結合してなるフェナントレン化合物とを反応させる工程を経由する方法が好適である。この方法によるときには、例えば、一般式1に対応するR1乃至R5を有する一般式3で表される化合物と、一般式1に対応するR6乃至R13を有する一般式4で表される化合物とを反応させることによって、この発明のクマリン誘導体が好収量で生成する。
【0040】
【化28】
一般式3:
【0041】
【化29】
一般式4:
【0042】
すなわち、反応容器に一般式3及び一般式4で表される化合物をそれぞれ適量とり(通常、等モル前後)、必要に応じて、適宜溶剤に溶解し、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン、ピロリジン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリンなどの塩基性化合物、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、無水酢酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの酸性化合物、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化錫、四塩化チタンなどのルイス酸性化合物などを加えた後、例えば、加熱環流などにより、撹拌しながら周囲温度か周囲温度を上回る温度で反応させる。
【0043】
溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類及びフェノール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのエーテル類、酢酸、無水酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、酢酸エチル、炭酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチル燐酸トリアミドなどの酸及び酸誘導体、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物、水などが挙げられ、必要に応じて、これらは適宜組み合わせて用いられる。
【0044】
溶剤を用いる場合、一般に、溶剤の量が多くなると反応の効率が低下し、反対に、少なくなると、均一に加熱・撹拌するのが困難になったり、副反応が起こり易くなる。したがって、溶剤の量を重量比で原料化合物全体の100倍まで、通常、5乃至50倍にするのが望ましい。原料化合物の種類や反応条件にもよるけれども、反応は10時間以内、通常、0.5乃至5時間で完結する。反応の進行は、例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの汎用の方法によってモニターすることができる。化学式1乃至化学式23で表されるクマリン誘導体は、いずれも、この方法により所望量を得ることができる。ちなみに、一般式3及び一般式4で表される化合物は、いずれも、類縁化合物を調製するための汎用の方法によって得ることができ、市販品がある場合には、必要に応じて、精製したうえで用いればよい。
【0045】
斯くして得られるクマリン誘導体は、通常、使用に先立って、例えば、溶解、抽出、分液、傾斜、濾過、濃縮、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、蒸留、昇華、結晶化などの類縁化合物を精製するための汎用の方法により精製され、必要に応じて、これらの方法は組み合わせて適用される。クマリン誘導体の種類や有機EL素子の用途にもよるけれども、この発明のクマリン誘導体は、使用に先だって、例えば、蒸留、結晶化及び/又は昇華などの方法により高度に精製しておくのが望ましい。
【0046】
このうち、昇華は、1回の操作で高純度の結晶が容易に得られるうえに、操作に伴うクマリン誘導体の損失が少なく、しかも、溶剤が結晶中に取り込まれることがないので、特に優れている。適用する昇華方法は、常圧昇華法であっても減圧昇華法であってもよいが、通常、後者の減圧昇華法が採用される。クマリン誘導体を減圧昇華するには、例えば、適量のクマリン誘導体を昇華精製装置内へ仕込み、装置内を10−2Torrを下回る減圧、好適には、10−3Torr以下に保ちながら、クマリン誘導体が分解しないように、できるだけ低い温度、好ましくは、融点を下回る温度で加熱する。昇華精製へ供するクマリン誘導体の純度が比較的低い場合には、不純物が混入しないように、減圧度や加熱温度を加減することによって昇華速度を抑え、また、クマリン誘導体が昇華し難い場合には、昇華精製装置内へ希ガスなどの不活性ガスを通気することによって昇華を促進する。昇華によって得られる結晶の大きさは、昇華精製装置内における凝縮面の温度を加減することによって調節することができ、凝縮面を加熱温度よりも僅かに低い温度に保ち、徐々に結晶化させると比較的大きな結晶が得られる。
【0047】
この発明で用いるクマリン誘導体は、既述のとおり、有機EL素子において、適宜のホスト化合物及びゲスト化合物と組み合わせて用いると、ホスト化合物の励起エネルギーがゲスト化合物へ移動するのを効果的に促進するうえに、耐熱性が大きく、ガラス状態で安定な薄膜を形成することから、有機EL素子用発光補助剤として極めて有用である。この発明でいう有機EL素子とは斯かるクマリン誘導体を発光補助剤として用いる電界発光素子全般を意味し、とりわけ、正電圧を印加する陽極と、負電圧を印加する陰極と、正孔と電子とを再結合させて発光を取り出す発光層と、必要に応じて、さらに、陽極から正孔を注入し輸送する正孔注入/輸送層と、陰極から電子を注入し輸送する電子注入/輸送層と、正孔が発光層から電子注入/輸送層へ移動するのを抑制する正孔ブロック層とを設けてなる単層型及び積層型の有機EL素子が重要な適用対象となる。
【0048】
有機EL素子の動作は、周知のとおり、本質的に、電子及び正孔を電極から注入する過程と、電子及び正孔が固体中を移動する過程と、電子及び正孔が再結合し、一重項励起子又は三重項励起子を生成する過程と、その励起子が発光する過程とからなり、これらの過程は単層型及び積層型有機EL素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。しかしながら、単層型有機EL素子においては、発光性化合物の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改善し得るのに対して、積層型有機EL素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させるとともに、それぞれの材料を独立して最適化できることから、一般的には、単層型に構成するよりも積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0049】
そこで、この発明の有機EL素子につき、積層型有機EL素子を例に挙げて説明すると、図1はこの発明による積層型有機EL素子の概略図であって、図中、1は基板であり、通常、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、バリウム珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラスなどのガラスか、あるいは、アラミド、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリメチルアクリレート、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、弗素系樹脂、メラミン系樹脂などのプラスチック、アルミナ、シリコン、石英、炭化珪素などのセラミックをはじめとする基板材料を板状、シート状又はフィルム状に形成して用いられ、必要に応じて、これらは適宜積層して用いられる。好ましい基板材料としては、例えば、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス、硼珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラスなどの、アルカリ含量、熱膨張係数がともに小さく、表面が平滑で傷がなく、研磨し易いフォトマスク用ガラスや、隣接する電気伝導膜との親和性に優れ、水分を透過し難い、例えば、アラミド系、エポキシ系、フェノール系、ポリアリレート系、ポリイミド系、ポリエステル系、芳香族ポリエーテル系、ポリオレフィン系、メラミン系及び弗素系のプラスチックが挙げられ、シリコンなどの不透明なセラミック材料は透明な電極用材と組み合わせて用いられる。発光の色度を調節する必要があるときには、例えば、基板1の適所へフィルター膜、色度変換膜、誘電体反射膜などの色度調節手段を設ける。
【0050】
2は陽極であり、電気的に低抵抗率であって、しかも、全可視領域に亙って光透過率の大きい金属若しくは電気伝導性化合物の1又は複数を、例えば、真空蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層エピタクシー(ALE)、塗布、浸漬などの方法により、基板1の一側に密着させて、陽極2における抵抗率が1kΩ/□以下、好ましくは、5乃至50Ω/□になるように、厚さ10乃至1,000nm、好ましくは、50乃至500nmの単層又は多層に製膜することによって形成される。陽極2における電気伝導性材料としては、例えば、金、白金、アルミニウム、ニッケルなどの金属、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫と酸化インジウムとの混合系(以下、「ITO」と略記する。)などの金属酸化物、さらには、アニリン、チオフェン、ピロールなどを反復単位とする電気伝導性オリゴマー及び電気伝導性ポリマーが挙げられる。このうち、ITOは、低抵抗率のものが容易に得られるうえに、酸などを用いてエッチングすることにより、微細パターンを容易に形成できる特徴がある。
【0051】
3は正孔注入/輸送層であり、通常、陽極2におけると同様の方法により、陽極2に密着させて、正孔注入/輸送層用材を厚さ1乃至1,000nmに製膜することによって形成される。正孔注入/輸送層用材としては、陽極2からの正孔注入と輸送を容易ならしめるべく、イオン化電位が小さく、かつ、例えば、104乃至106V/cmの電界下において、少なくとも、10−6cm2/V・秒の正孔移動度を発揮するものが好ましい。個々の正孔注入/輸送層用材としては、有機EL素子において汎用される、例えば、アリールアミン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、スチルベン誘導体、テトラアリールエテン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールエテン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、N−ビニルカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポルフィリン誘導体などが挙げられ、必要に応じて、これらは適宜組み合わせて用いられる。このうち、芳香族第三級アミンである、例えば、モノアリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、テトラアリールアミンなどのアリールアミンの単量体及び多量体が特に好ましい。
【0052】
4は発光層であり、通常、陽極2におけると同様の方法により、正孔注入/輸送層3に密着させて、適宜のホスト化合物及びゲスト化合物とともに、この発明によるクマリン誘導体の1又は複数をそれらのホスト化合物及びゲスト化合物と混合するか混合することなく、単層若しくは隣接する多層に分離して厚さ1乃至1,000nm、好ましくは、2乃至200nmに製膜することによって形成される。組み合わせて用いるホスト化合物やゲスト化合物の種類にもよるけれども、通常、ゲスト化合物をホスト化合物の0.1乃至10モル%、好ましくは、0.5乃至5モル%の範囲で用い、そのゲスト化合物に対して、発光補助剤としてのこの発明のクマリン誘導体をモル比で、通常、0.1:10乃至10:0.1、好ましくは、0.5:5乃至5:0.5の範囲で用いる。なお、この発明の有機EL素子用発光補助剤は特定のクマリン誘導体以外の発光性有機化合物を配合することを妨げるものではなく、この発明の目的を逸脱しない範囲で、必要に応じて、他の発光補助剤の1又は複数を適宜配合することができる。他の発光補助剤の具体例としては、例えば、特願2002−45342号明細書(名称「有機電界発光素子」)に開示されたクマリン化合物が挙げられる。
【0053】
この発明の発光補助剤と組み合わせて用いるホスト化合物としては、有機EL素子に汎用されるキノリノール金属錯体や、例えば、アントラセン、クリセン、コロネン、トリフェニレン、ナフタセン、ナフタレン、フェナントレン、ピセン、ピレン、フルオレン、ペリレン、ベンゾピレンなどの縮合多環式芳香族炭化水素及びそれらの誘導体、クォーターフェニル、1,4−ジフェニルブタジエン、ターフェニル、スチルベン、テトラフェニルブタジエン、ビフェニルなどの環集合式炭化水素及びそれらの誘導体、オキサジアゾール、カルバゾール、ピリダジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどの複素環化合物及びそれらの誘導体、キナクリドン、ルブレン及びそれらの誘導体、さらには、スチリル系のポリメチン系色素などが挙げられる。
【0054】
このうち、エネルギー移動の効率の点で、キノリノール金属錯体、銅フタロシアニンや、例えば、N4,N4´−ジナフタレン−1−イル−N4,N4´−ジフェニル−ビフェニル−4,4´−ジアミン、N4,N4´−ジフェニル−N4,N4´−ジ−m−トリル−ビフェニル−4,4´−ジアミン、N4,N4,N4´,N4´−テトラキス−ビフェニル−4−イル−ビフェニル−4,4´−ジアミン、トリス−[4−(フェニル−m−トリル−メチル)−フェニル]−アミンなどの芳香族第三級アミンのオリゴマーが好ましい。この発明でいうキノリノール金属錯体とは、分子内にピリジン残基とヒドロキシ基とを有する、例えば、8−キノリノール類、ベンゾキノリン−10−オール類などの配位子としてのキノリノール類と、そのピリジン残基における窒素原子から電子対の供与を受けて配位子と配位結合を形成する、通常、中心原子としての一価、二価又は三価の、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、硼素、アルミニウム、ガリウム、インジウムなどの周期律表における第1族、第2族、第12族又は第13族に属する金属若しくはその酸化物からなる錯体一般を意味する。配位子が8−キノリノール類又はベンゾキノリン−10−オール類のいずれかである場合には、それらは置換基を1又は複数有していてもよく、ヒドロキシ基が結合している8位又は10位の炭素以外の炭素へ、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などの脂肪族炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのエーテル基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などのエステル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、さらには、これらの組合わせによる置換基が1又は複数結合することを妨げない。キノリノール金属錯体が分子内に2以上の配位子を有する場合、それらの配位子は互いに同じものであっても異なるものであってもよい。
【0055】
個々のキノリノール金属錯体としては、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(3,4−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4−メトキシ−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4,5−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−ブロモ−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−スルホニル−8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(5−プロピル−8−キノリノラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)アルミニウムオキシドなどのアルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(2−メチルー5−クロロ−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(3,4−ジメチル−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(5−クロロ−8−キノリノラート)亜鉛、ビス(5,7−ジクロロ−8−キノリノラート)亜鉛などの亜鉛錯体、ビス(8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(2−メチル−5−クロロ−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(3,4−ジメチル−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウムなどのベリリウム錯体、ビス(8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(2,4−ジメチル−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(2−メチル−5−クロロ−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(3,4−ジメチル−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(4,6−ジメチル−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラート)マグネシウム、ビス(5,7−ジクロロ−8−キノリノラート)マグネシウムなどのマグネシウム錯体、トリス(8−キノリノラート)インジウムなどのインジウム錯体、トリス(5−クロロ−8−キノリノラート)ガリウムなどのガリウム錯体、ビス(5−クロロ−8−キノリノラート)カルシウムなどのカルシウム錯体が挙げられ、必要に応じて、これらは適宜組み合わせて用いられる。なお、上記したホスト化合物は単なる例示であって、この発明で用いるホスト化合物は決してこれらに限定されてはならない。
【0056】
この発明の発光補助剤と組み合わせて用いるゲスト化合物としては、斯界において汎用される、例えば、キナクリドン、クマリン、チオピラン、ピラン、ペリレン、ルブレン及びそれらの誘導体が挙げられ、これらは、必要に応じて、適宜組み合わせて用いられる。ただし、これらは単なる例示であって、この発明の発光補助剤と組み合わせて用いるゲスト化合物は決してこれらに限定されてはならない。このうち、エネルギー移動の効率の点で、クマリン化合物や、例えば、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物などのピラン化合物が特に好ましい。斯かるクマリン化合物及びピラン化合物のうち、クマリン化合物については、例えば、特開2001−76875号公報、特開2001−76876号公報、特開2001−329257号公報などに開示されたものが、また、ピラン化合物のより具体的な例としては、例えば、一般式2で表されるものが挙げられる。
【0057】
【化30】
一般式2:
【0058】
一般式2において、Yは酸素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を表す。R14は2−(アミノフェニル)ビニレン基を表し、R15は第二の2−(アミノフェニル)ビニレン基か、又は炭化水素基を表し、その炭化水素基としては、例えば、メチル基、ビニレン基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などの短鎖長脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、メシチル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、ビフェニリル基などの芳香族炭化水素基、さらには、それらの組合わせによる炭化水素基が挙げられる。R14及びR15における2−(アミノフェニル)ビニレン基について言えば、そのアミノ基は第一級アミノ基、第二級アミノ基又は第三級アミノ基のいずれであってもよく、また、ベンゼン環における結合位置はビニレン基に対して2位の位置であっても4位の位置であってもよい。さらに、アミノ基がアルキルアミノ基である場合、そのアルキル基はベンゼン環と結合し合い、アルキルアミノ基の窒素原子を含んで、例えば、ピペリジン環、ユロリジン環などの環状構造を形成していてもよい。個々のピラン化合物としては、例えば、化学式24乃至化学式28で表されるものが挙げられる。
【0059】
【化31】
化学式24:
【0060】
【化32】
化学式25:
【0061】
【化33】
化学式26:
【0062】
【化34】
化学式27:
【0063】
【化35】
化学式28:
【0064】
5は電子注入/輸送層であり、通常、陽極2におけると同様の方法により、発光層4に密着させて、電子親和力の大きい有機化合物か、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボジイミド、ジスチリルピラジン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、シラザン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、トリアゾール誘導体、複素環化合物のテトラカルボン酸誘導体、フタロシアニン誘導体、フルオレノン誘導体、発光層4におけると同様のキノリノール金属錯体、さらには、アニリン、チオフェン、ピロールなどを反復単位とする電気伝導性オリゴマー又は電気伝導性ポリマーの1又は複数を厚さ10乃至500nmに製膜することによって形成される。複数の電子注入/輸送層用材を用いる場合には、その複数の電子注入/輸送層用材を均一に混合して単層に形成しても、混合することなく、電子注入/輸送層用材ごとに隣接する複数の層に形成してもよい。正孔ブロック層を設けるときには、電子注入/輸送層5の形成に先立って、陽極2におけると同様の方法により、発光層4に密着させて、例えば、2−ビフェニル−4−イル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−[1,3,4]オキサジアゾール、2,2−ビス−[5−(4−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル−1,4−フェニレン]ヘキサフルオロプロパン、1,3,5−トリス−(2−ナフタレン−1−イル−[1,3,4]オキサジアゾール−5−イル)ベンゼンなどのオキサジアゾール系化合物をはじめとする正孔ブロック用材による薄膜を形成する。正孔ブロック層の厚さは、電子注入/輸送層5の厚さや有機EL素子の動作特性などを勘案しながら、1乃至100nm、通常、10乃至50nmの範囲に設定する。
【0065】
6は陰極であり、通常、電子注入/輸送層5に密着させて、電子注入/輸送層5において用いられる化合物よりも仕事関数の低い(通常、5eV以下)、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、銀、銅、アルミニウム、インジウム、イッテルビウムなどの金属、合金若しくは金属酸化物又は電気伝導性化合物を単独又は組み合わせて蒸着することによって形成する。陰極6の厚さについては特に制限がなく、電気伝導性、製造コスト、素子全体の厚さ、光透過性などを勘案しながら、通常、抵抗率が1kΩ/□以下になるように、厚さを10nm以上、好ましくは、50乃至500nmに設定される。なお、陰極6と、有機化合物を含有する電子注入/輸送層5との間に、密着性を高めるために、必要に応じて、例えば、芳香族ジアミン化合物、キナクリドン化合物、ナフタセン化合物、有機シリコン化合物、有機燐化合物などを含んでなる界面層を設けてもよい。また、電子の陰極6から電子注入/輸送層5への移動を容易ならしめるために、陽極2におけると同様の方法により、陰極6における電子注入/輸送層5へ接する側に、例えば、弗化リチウム、酸化リチウムなどのアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物による厚さ0.1乃至2nmの薄膜を形成してもよい。
【0066】
このように、この発明の有機EL素子は、基板上に、陽極、発光層及び陰極、さらには、必要に応じて、正孔注入/輸送層、電子注入/輸送層及び/又は正孔ブロック層を隣接する層と互いに密着させながら一体に形成することによって得ることができる。各層を形成するに当たっては、有機化合物の酸化や分解、さらには、酸素や水分の吸着などを最小限に抑えるべく、高真空下、詳細には、10−5Torr以下で一貫作業するのが望ましい。また、発光層を形成するに当たっては、あらかじめ、ホスト化合物とゲスト化合物とを所定の割合で混合しておくか、あるいは、真空蒸着における両者の加熱速度を互いに独立して制御することによって、発光層における両者の配合比を調節する。斯くして構築した有機EL素子は、使用環境における劣化を最小限に抑えるべく、素子の一部又は全体を、例えば、不活性ガス雰囲気下で封止ガラスや金属キャップにより封止するか、あるいは、防湿塗料を塗布したり、紫外線硬化樹脂などによる保護膜で覆うのが望ましい。さらには、有機EL素子の構造にもよるけれども、発光層からの発光を効率良く素子外へ取り出すために、必要に応じて、素子内の適所へ、例えば、輪帯板や、一次元若しくは二次元の反射型又は透過型の回折格子などの、素子における発光取出面に対する発光の入射角を変化させる回折手段を単独又は適宜組み合わせて設け、素子内の有機層と無機層との界面、あるいは、発光取出面と大気との界面における全反射を抑制するようにしてもよい。
【0067】
この発明による有機EL素子の使用方法について説明すると、この発明の有機EL素子は、用途に応じて、比較的高電圧のパルス性電圧を間欠的に印加するか、あるいは、比較的低電圧の非パルス性電圧(通常、2乃至50V)を連続的に印加して駆動する。この発明の有機EL素子は、陽極の電位が陰極より高いときにのみ発光する。したがって、この発明の有機EL素子へ印加する電圧は直流であっても交流であってもよく、また、印加する電圧の波形、周期も適宜のものとすればよい。交流を印加すると、この発明の有機EL素子は、原理上、印加する交流の波形及び周期に応じて輝度が増減したり点滅を繰り返す。図1に示す有機EL素子の場合、陽極2と陰極6との間に電圧を印加すると、陽極2から注入された正孔が正孔注入/輸送層3を経て発光層4へ、また、陰極6から注入された電子が電子注入/輸送層5を経て発光層4へそれぞれ到達する。その結果、発光層4において正孔と電子との再結合が生じ、それにより生じた励起状態のゲスト化合物から目的とする発光が陽極2及び基板1を透過して放出されることとなる。この発明の有機EL素子は、クマリン誘導体と組み合わせて用いるホスト化合物とゲスト化合物の構造、配合割合などにもよるけれども、例えば、波長580乃至730nmの赤色域で発光するものの場合、その色度は、通常、国際照明委員会(CIE)によるxy色度図上において、xが0.35乃至0.73の範囲、好ましくは、0.55乃至0.65の範囲に、また、yが0.10乃至0.45の範囲、好ましくは、0.35乃至0.42の範囲にある。
【0068】
この発明の有機EL素子は、耐久性に優れているうえに、発光効率が高く、その結果として、輝度を大きくすることが容易なので、発光体や情報を視覚的に表示する情報表示機器において多種多様の用途を有することとなる。この発明の有機EL素子を光源とする発光体は、消費電力が小さいうえに、軽量のパネル状に構成することができるので、一般照明の光源に加えて、例えば、液晶素子、複写装置、印字装置、電子写真装置、コンピューター及びその応用機器、工業制御機器、電子計測装置、分析装置、計器一般、通信装置、医療用電子計測機器、民生用及び業務用の電子機器一般、さらには、車輌、船舶、航空機、宇宙船などへ搭載する機器一般、航空機の管制機器、インテリア、看板、標識などにおける省エネルギーにして省スペースな光源又は情報表示素子として極めて有用である。この発明の有機EL素子を、例えば、車輌、船舶、航空機、宇宙船などにおける計測器、コンピューター端末機、テレビジョン受像機、録画機、ゲーム機、時計、計算機、電話機、通信機、カーナビゲーション装置、オシロスコープ、レーダー、ソナー、看板、標識などの情報表示機器における表示手段として用いる場合には、この発明による有機EL素子を単用するか、あるいは、必要に応じて、青色域、緑色域及び/又は赤色域の可視光を発光する他の有機EL素子や、発光の色度、色調を調節するための適宜フィルター類と組合わせつつ、斯界において汎用される単純マトリックス方式やアクティブマトリックス方式の駆動回路を適用して駆動する。
【0069】
この発明の実施の形態につき、以下、実施例に基づいて説明する。
【0070】
【実施例1】
〈有機EL素子用発光補助剤〉
反応容器にN,N−ジメチルホルムアミド17mlをとり、化学式29で表される化合物2.7gと化学式30で表される化合物2.4gとを加えた後、1.5時間加熱還流して反応させた。反応混合物を周囲温度まで冷却し、析出した結晶を濾取し、クロロホルム/メタノール混液により再結晶したところ、化学式1で表されるクマリン誘導体の橙色結晶が2.1g得られた。
【0071】
【化36】
化学式29:
【0072】
【化37】
化学式30:
【0073】
結晶の一部をとり、常法にしたがって塩化メチレン溶液における可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定したところ、それぞれ、波長495nm及び521nmに吸収極大及び蛍光極大が観察された。また、常法にしたがってクロロホルム−d溶液における1H−核磁気共鳴スペクトル(以下、「1H−NMRスペクトル」と略記する。)を測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.35(6H、s)、1.63(6H、s)、1.78(2H、t)、1.85(2H、t)、3.28(2H、t)、3.37(2H、t)、7.25(1H、s)、7.63乃至7.76(4H、m)、8.15乃至8.18(1H、m)、8.68乃至8.71(2H、m)及び8.98乃至8.99(2H、m)の位置にピークが観察された。
【0074】
また、市販のDSC分析装置(商品名『DSC220U型』、セイコーインスツルメンツ株式会社製造)を用い、昇温速度10℃/分でDSC分析したところ、本例のクマリン誘導体は314乃至319℃に融点を、また、158℃付近にガラス転移点を示した。
【0075】
安定で、有機EL素子において、ホスト化合物からゲスト化合物へのエネルギー移動を効果的に促進する本例のクマリン化合物は、有機EL素子用発光補助剤として有用である。
【0076】
【実施例2】
〈有機EL素子用発光補助剤〉
反応容器にN,N−ジメチルホルムアミド60mlをとり、化学式31で表される化合物8.1gと化学式30で表される化合物6.8gとを加えた後、3時間加熱還流して反応させた。反応混合物を周囲温度まで冷却し、析出した結晶を濾取し、クロロホルム/メタノール混液により再結晶したところ、化学式2で表されるクマリン誘導体の橙色結晶が5.8g得られた。
【0077】
【化38】
化学式31:
【0078】
結晶の一部をとり、常法にしたがって塩化メチレン溶液における可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定したところ、それぞれ、波長456nm及び519nmに吸収極大及び蛍光極大が観察された。また、常法にしたがってクロロホルム−d溶液における1H−NMRスペクトルを測定したところ、化学シフトδ(ppm、TMS)が1.37(6H、s)、1.62(6H、s)、1.79乃至1.89(4H、m)、2.97(3H、s)、3.28(2H、t)、3.37(2H、t)、7.58(1H、s)、7.64乃至7.74(4H、m)、8.16乃至8.19(1H、m)、8.70乃至8.74(2H、m)及び8.87乃至8.90(1H、m)の位置にピークが観察された。さらに、実施例1におけると同様にしてDSC分析したところ、本例のクマリン誘導体は、322乃至324℃に融点を示したものの、100℃以下において明確なガラス転移点を示さなかった。
【0079】
安定で、有機EL素子において、ホスト化合物からゲスト化合物へのエネルギー移動を効果的に促進する本例のクマリン化合物は、有機EL素子用発光補助剤として有用である。
【0080】
【実施例3】
〈有機EL素子用発光補助剤〉
実施例1又は実施例2の方法により得た2種類のクマリン誘導体のいずれかを水冷式昇華精製装置内へ仕込み、常法にしたがって、装置内を減圧に保ちながら加熱することによってそれぞれ昇華精製した。
【0081】
本例のクマリン誘導体は、いずれも、高純度の発光補助剤を必要とする有機EL素子において有用である。
【0082】
なお、この発明で用いるクマリン誘導体は、構造によって仕込条件や収率に若干の違いはあるものの、例えば、上記以外の化学式1乃至化学式23で表されるものを含めて、いずれも、実施例1又は実施例2の方法によるか、あるいは、それらの方法に準じて所望量を得ることができる。
【0083】
【実施例4】
〈有機EL素子〉
この発明による有機EL素子用発光補助剤を用い、図1に示す構造の積層型有機EL素子を作製した。すなわち、常法にしたがって、臭化水素酸によりパターン化した厚さ150nmの透明ITO電極を有するガラス製基板を有機アルカリ洗浄剤及び純水を用いて順次超音波洗浄し、乾燥し、紫外線オゾンによりITO電極表面の有機物を除去した後、真空蒸着装置における前処理室内へ移した。前処理室内を1×10−5Torrまで減圧した後、アルゴン/酸素混合気を約1Torrまで導入し、ITO電極表面をプラズマ処理することによって陽極2としてのITO電極を有する清浄な基板1を得た。
【0084】
基板1を5×10−5Torr以下に減圧した真空蒸着装置の有機蒸着室内へ移し、陽極2としてのITO電極へ有機膜形成用マスクを装着した後、カーボン坩堝を加熱して、基板1におけるITO電極を有する側に、正孔注入用材としての化学式32で表される銅フタロシアニン(以下、「CuPc」と略記する。)と、正孔輸送用材としての化学式33で表されるトリフェニルアミン四量体(以下、「TPTE」と略記する。)とをこの順序でそれぞれ厚さ10nm及び30nmまで蒸着して正孔注入/輸送層3を形成した。引き続き、ホスト化合物としてのTPTE、赤色発光剤としての化学式25で表されるピラン誘導体(以下、「DCJT」と略記する。)及び発光補助剤としての実施例2の方法により得た化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体を100:0.5:1の重量比で厚さ20nmまで共蒸着して正孔注入/輸送層3に密着する発光層4を形成した後、さらに、トリス(8−キノリノラート)アルミニウムを厚さ20nmまで蒸着して、発光層4に密着する電子注入/輸送層5を形成した。
【0085】
【化39】
化学式32:
【0086】
【化40】
化学式33:
【0087】
その後、基板1を真空蒸着装置における金属蒸着室内へ移し、マスクを陰極形成用に変更して、弗化リチウム及びアルミニウムをこの順序でそれぞれ厚さ0.5nm及び150nmまで蒸着し、電子注入/輸送層5へ密着する陰極6を形成した後、窒素雰囲気下で、素子全体をガラス板及び紫外線硬化樹脂により封止して有機EL素子を得た。
【0088】
斯くして得られた有機EL素子につき、常法にしたがって、室温における電界発光特性及び寿命(初期輝度が半減する駆動時間)をそれぞれ測定した。結果は表1に示すとおりであった。なお、表1において、発光の極大波長及び色度は、いずれも、有機EL素子の発光輝度を1,000cd/m2に設定して測定したものであり、また、発光の輝度、電流効率及び視感効率は、いずれも、駆動電流を11mA/cm2に設定して測定したものである。また、寿命は、室温において、初期輝度を2,400cd/m2に設定して求めたものである。併行して、比較のために、化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体を省略した以外は上記と同様にして作製した有機EL素子(以下、「対照1」と言う。)と、化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体に代えて、発光補助剤として使用されているルブレン(5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン)を用いた以外は上記と同様にして作製した有機EL素子(以下、「対照2」と言う。)につき、本例の有機EL素子と同様に試験して対照とした。
【0089】
【表1】
【0090】
表1の結果に見られるとおり、本例の有機EL素子も対照の有機EL素子も、ともに、波長600nm付近の赤色域に発光極大を有していた。CIEによるxy色度図上における色座標は、本例の有機EL素子の場合、xが0.56、yが0.41であったのに対して、対照1の有機EL素子の場合、xが0.55、yが0.42であり、また、対照2の有機EL素子の場合、xが0.54、yが0.42と、いずれの有機EL素子もほぼ同様の色度を有していた。このことは、この発明のクマリン誘導体が、ルブレンと同様、有機EL素子の発光層において発光補助剤として機能し、発光に直接関与しないことを物語っている。
【0091】
ところが、表1の結果に見られるとおり、11mA/cm2で駆動すると、有機EL素子の輝度が、対照1の有機EL素子(149cd/m2)、対照2の有機EL素子(168cd/m2)、本例の有機EL素子(281cd/m2)の順に高くなり、電流効率も、対照1の有機EL素子(0.8cd/A)、対照2の有機EL素子(1.5cd/A)、本例の有機EL素子(2.1cd/A)の順に上昇した。このときの視感効率は、対照1の有機EL素子(0.46lm/W)、対照2の有機EL素子(0.70lm/W)、本例の有機EL素子(1.23lm/W)の順に高くなった。
【0092】
寿命について見ると、初期輝度2,400cd/m2という苛酷な条件で発光させると、対照1の有機EL素子(90時間)、対照2の有機EL素子(114時間)、本例の有機EL素子(162時間)の順に長くなった。なお、本例の有機EL素子においては、発光は駆動開始から安定して持続し、駆動開始から初期輝度が半減するまでの間、ダークスポットなどによる発光むらは観察されなかった。ちなみに、11mA/cm2で駆動するために要する印加電圧は、対照2の有機EL素子が6.8Vであったのに対して、本例の有機EL素子はそれより有意に低い、5.1Vで事足りた。これは、化学式2で表されるクマリン誘導体がルブレンより蛍光の発光効率が大きいことから、ホスト化合物が獲得した励起エネルギーをゲスト化合物へ移動させる遷移確率が向上し、その結果として、電流効率が改善されたためであると考えられる。また、電流効率が改善されたことにより、本例の有機EL素子は単位エネルギー遷移量当りの発光が大きくなり、その結果として、同じ発光輝度を得るためのエネルギー遷移量がルブレンを用いる場合より少なくて済むこととなり、その結果として、素子の寿命が長くなったものと推定される。
【0093】
これらの結果は、有機EL素子を構築するに当たって、発光補助剤としてのこの発明のクマリン誘導体を適当なホスト化合物及びゲスト化合物と組み合わせて用いることによって、ゲスト化合物の望ましい発光特性を実質的に変化させることなく、有機EL素子の発光効率や寿命を効果的に改善できることを物語っている。耐久性と発光の色純度に優れた本例の有機EL素子は、発光素子として有用である。
【0094】
【実施例5】
〈有機EL素子〉
実施例4におけると同様にして調製した基板1を5×10−5Torr以下に減圧した真空蒸着装置の有機蒸着室内へ移し、陽極2としてのITO電極へ有機膜形成用マスクを装着した後、カーボン坩堝を加熱して、基板1におけるITO電極を有する側に、正孔注入用材としてのCuPcと、正孔輸送用材としてTPTEとをこの順序でそれぞれ厚さ10nm及び50nmまで蒸着して正孔注入/輸送層3を形成した。引き続き、ホスト化合物としてのトリス(8−キノリノラート)アルミニウム、赤色発光剤としての化学式24で表されるピラン誘導体(以下、「DCM2」と略記する。)及び発光補助剤としての実施例2の方法により得た化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体を100:0.5:1の重量比で厚さ20nmまで共蒸着して正孔注入/輸送層3に密着する発光層4を形成した後、さらに、トリス(8−キノリノラート)アルミニウムを厚さ40nmまで蒸着して、発光層4に密着する電子注入/輸送層5を形成した。以後、実施例4におけると同様にして陰極6を形成した後、素子全体を封止して有機EL素子を得た。
【0095】
その後、本例の有機EL素子とともに、化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体を省略した以外は上記と同様にして作製した有機EL素子(以下、「対照3」と言う。)と、化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体に代えてルブレンを用いた以外は上記と同様にして作製した有機EL素子(以下、「対照4」と言う。)につき、実施例4におけると同様にして電界発光特性及び寿命をそれぞれ測定した。結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
表2の結果に見られるとおり、本例の有機EL素子も対照の有機EL素子も、ともに、波長610nm付近の赤色域に発光極大を有していた。CIEによるxy色度図上における色座標は、本例の有機EL素子の場合、xが0.58、yが0.39であったのに対して、対照3の有機EL素子の場合、xが0.57、yが0.41であり、また、対照4の有機EL素子の場合、xが0.58、yが0.38と、本例の有機EL素子におけると同様の色度を有していた。このことは、この発明のクマリン誘導体が、ルブレンと同様、有機EL素子において発光補助剤として機能し、発光に直接関与しないことを物語っている。
【0098】
ところが、表2の結果に見られるとおり、11mA/cm2で駆動すると、有機EL素子の輝度が、対照3の有機EL素子(294cd/m2)、対照4の有機EL素子(319cd/m2)、本例の有機EL素子(331cd/m2)の順に高くなり、電流効率も、対照3の有機EL素子(2.7cd/A)、対照4の有機EL素子(2.9cd/A)、本例の有機EL素子(3.2cd/A)の順に上昇した。ちなみに、このときの視感効率は、対照3の有機EL素子(1.15lm/W)、対照4の有機EL素子(1.38lm/W)、本例の有機EL素子(1.72lm/W)の順に高くなった。
【0099】
寿命について見ると、初期輝度2,400cd/m2という苛酷な条件で発光させると、対照3の有機EL素子(83時間)、対照4の有機EL素子(94時間)、本例の有機EL素子(121時間)の順に長くなった。なお、本例の有機EL素子においては、発光は駆動開始から安定に持続し、駆動開始から所期輝度が半減するまでの間、ダークスポットなどによる発光むらは観察されなかった。
【0100】
これらの結果は、有機EL素子を構築するに当たって、発光補助剤としてのこの発明のクマリン誘導体を適当なホスト化合物及びゲスト化合物と組み合わせて用いることによって、ゲスト化合物の望ましい発光特性を実質的に変化させることなく、有機EL素子の発光効率や寿命を効果的に改善できることを物語っている。耐久性と色純度に優れた本例の有機EL素子は、赤色発光素子として有用である。
【0101】
【実施例6】
〈有機EL素子〉
実施例4におけると同様にして、基板1を5×10−5Torr以下に減圧した真空蒸着装置の有機蒸着室内へ移し、陽極2としてのITO電極へ有機膜形成用マスクを装着した後、カーボン坩堝を加熱して、基板1におけるITO電極を有する側に、正孔注入用材としてのCuPcと、正孔輸送用材としてのTPTEと、赤色発光剤としてのDCJTと、発光補助剤としての化学式2で表されるクマリン誘導体とを共蒸着して第一の発光層を形成した。引き続き、ホスト化合物としての化学式34で表されるジスチリルアリーレン誘導体と、青色発光剤としての化学式35で表されるジスチリルアミン誘導体とを共蒸着して第二の発光層を形成した。以後、実施例4におけると同様に電子注入/輸送層5及び陰極6を順次形成した後、素子全体を封止して有機EL素子を得た。
【0102】
【化41】
化学式34:
【0103】
【化42】
化学式35:
【0104】
その後、本例の有機EL素子とともに、化学式2で表されるこの発明のクマリン誘導体を省略した以外は上記と同様にして作製した有機EL素子(以下、「対照5」と言う。)につき、実施例4におけると同様にして電界発光特性及び寿命をそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
表3の結果に見られるとおり、本例の有機EL素子と対照の有機EL素子は、ともに、波長460nm、500nm及び595nmにそれぞれ発光極大を有していた。CIEによるxy色度図上における色座標は、対照5の有機EL素子の場合、xが0.28、yが0.39であったのに対して、本例の有機EL素子は、xが0.33、yが0.34と、色純度の良い白色光を発光した。
【0107】
また、表3の結果に見られるとおり、11mA/cm2で駆動すると、本例の有機EL素子の輝度は1,380cd/m2であり、対照5の有機EL素子(1,001cd/m2)を上回っていた。電流効率も、対照5の有機EL素子が4.4cd/Aであったのに対して、本例の有機EL素子は6.0cd/Aであり、対照5を凌駕していた。ちなみに、このときの視感効率は、対照5の有機EL素子が2.8lm/Wであったのに対して、本例の有機EL素子は3.9lm/Wであった。
【0108】
寿命について見ると、初期輝度2,400cd/m2という苛酷な条件で発光させると、対照5の有機EL素子が154時間であったのに対して、本例の有機EL素子は181時間であり、しかも、発光は安定に持続し、駆動開始から初期輝度が半減するまでの間、ダークスポットなどによる発光むらは観察されなかった。
【0109】
これらの結果は、有機EL素子を構築するに当たって、発光補助剤としてのこの発明のクマリン誘導体を適当なホスト化合物及びゲスト化合物と組み合わせて用いることによって、ゲスト化合物の望ましい発光特性を実質的に変化させることなく、有機EL素子の発光効率や寿命を効果的に改善できることを物語っている。耐久性と色純度に優れた本例の有機EL素子は、白色発光素子として有用である。
【0110】
【実施例7】
〈表示パネル〉
図2に概略的に示すのは、この発明の有機EL素子を主体とする単純マトリックス方式による表示パネルの一例(水平方向に20電極列、垂直方向に30電極列)であり、斯かる表示パネルは次のようにして作製することができる。
【0111】
すなわち、先ず、実施例4の方法に準じてガラス製基板10の一側にITO透明電極による陽極14を形成した後、湿式エッチング法により陽極14をストライプ状に加工する。次いで、実施例4の方法に準じて正孔注入/輸送層16、発光層18などを順次形成し、メカニカルマスクを用いて陰極20をストライプ状に形成した後、ガラス板(図示しない)と紫外線硬化樹脂により有機EL素子を封止する。なお、本例の表示パネルにおいては、使用時の温度上昇を抑えるべく、必要に応じて、陰極20の背面側に放熱板や冷却ファンなどの放熱手段を設けてもよい。
【0112】
【実施例8】
〈情報表示機器〉
図3のブロックダイヤグラムに示すのは、実施例7の方法により作製した表示パネルを用いる情報表示機器の一例である。図3において、30は出力電圧4.5Vの直流電源であり、その出力端には二つの昇圧回路32、34が接続されている。昇圧回路32は5乃至12Vの範囲の直流電圧を供給することができ、その出力端はドライバ回路36へ接続されている。もう一方の昇圧回路34は、5Vの定電圧をマイクロコンピューター38へ供給するためのものである。
【0113】
マイクロコンピューター38は、外部と信号のやりとりをするI/Oインターフェース38aと、プログラムなどを記録するROM38bと、各種のデータを記録するRAM38cと、各種の演算を実行するCPU38dとを含んでなる。マイクロコンピューター38には、マイクロコンピューター38へ8MHzのクロック信号を供給するクロック発生回路40と、二つの発振回路42、44がそれぞれ接続されており、その二つの発振回路42、44は、マイクロコンピューター38へ、それぞれ、表示速度を制御する5乃至50Hzの信号と、走査周波数を制御する0.2乃至2kHzの信号を供給するためのものである。
【0114】
48はこの発明の有機EL素子を主体とする表示パネルであり、ドライバ回路36、46を介してマイクロコンピューター38へ接続されている。ドライバ回路36は、昇圧回路32からの直流電圧が表示パネル48へ印加されるのを制御する回路であって、表示パネル48における垂直方向の電極列へ個別に接続される複数のトランジスタを含んでなる。したがって、このドライバ回路36におけるトランジスタのいずれかがオンすると、そのトランジスタへ接続されている垂直方向の電極列へ昇圧回路32からの電圧が印加されることとなる。一方、ドライバ回路46は、表示パネル48の水平方向の電極列へ個別に接続される複数のトランジスタを含んでなり、ドライバ回路46におけるトランジスタのいずれかがオンすると、そのトランジスタへ接続されている水平方向の電極列が接地されることとなる。
【0115】
本例の情報表示機器は斯く構成されているので、マイクロコンピューター38の指示にしたがってドライバ回路36、46におけるトランジスタがオンすると、表示パネル48の垂直方向及び水平方向における対応する電極列間へ所定の電圧が印加され、その交点に位置する有機EL素子が発光することとなる。したがって、例えば、ドライバ回路46を適宜制御することによって水平方向の電極列を1列選択し、その電極列を接地しつつ、ドライバ回路36を適宜制御することによって垂直方向の電極列へ接続されたトランジスタを順次オンすれば、その選択された水平方向の電極列全体が水平方向に走査され、所与の画素が表示されることとなる。斯かる走査を垂直方向に順次繰り返すことによって、1画面全体を表示できる。なお、本例におけるドライバ回路36は、電極1列分のデータレジスタを有しているので、この記録されているデータに基づいてトランジスタを駆動するのが好適である。
【0116】
表示する情報は、表示の速度と周期に合わせて外部から供給するか、あるいは、例えば、文字情報などのように、一定のパターンを有する情報については、ROM38bにそのパターンをあらかじめ記憶させておき、これをデータとしてもよい。また、通常のNTSC方式によるテレビジョン放送を表示する場合には、先ず、受信した信号を放送規格に基づく水平周波数、垂直周波数にしたがって水平同期信号と垂直同期信号とに分離するとともに、映像信号を表示パネル48の画素数に応じたデジタル信号に変換する。これらの信号をマイクロコンピューター38へ適宜同期させて供給することにより、テレビジョン放送を表示パネル48へ表示することができる。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したとおり、この発明は新規なクマリン誘導体の創製と、その産業上有用な性質の発見に基づくものである。この発明で用いるクマリン誘導体は、有機EL素子において、適宜のホスト化合物やゲスト化合物と組み合わせて用いると、ホスト化合物の励起エネルギーがゲスト化合物へ移動するのを効果的に促進し、その結果として、色純度、発光効率などに優れた長寿命の有機EL素子を実現できることとなる。この発明の有機EL素子は発光効率や耐久性に優れているので、照明一般における発光体や、例えば、画像情報、文字情報などの情報を視覚的に表示する多種多様の情報表示機器において極めて有利に用いることができる。
【0118】
斯くも顕著な効果を奏するこの発明は、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による有機EL素子の概略図である。
【図2】この発明による表示パネルの概略図である。
【図3】この発明による情報表示機器のブロックダイヤグラムである。
【符号の説明】
1、10 基板
2、14 陽極
3、16 正孔注入/輸送層
4、18 発光層
5 電子注入/輸送層
6、20 陰極
30 直流電源
32、34 昇圧回路
36、46 ドライバ回路
38 マイクロコンピューター
40 クロック発生回路
42、44 発振回路
48 表示パネル
Claims (5)
- 請求項1又は2に記載の有機電界発光素子を用いる表示パネル。
- 請求項1又は2に記載の有機電界発光素子を用いる情報表示機器。
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