JP3793934B2 - 半絶縁性InP単結晶の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、OEIC、HEMT、イオン注入型FETなどの電子デバイスに用いる半絶縁性化合物半導体の製造方法に関し、特に熱処理により半絶縁性化を図る技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
III −V 族化合物半導体を抵抗率が106 Ω・cm以上に高抵抗化(即ち、半絶縁性化)するにあたり、浅いドナーとなるSiやSを含む結晶では、深いアクセプタとなるFe、CoまたはCr等を添加する方法が工業的に用いられている。この半絶縁性化は、浅いドナーを深いアクセプタで補償するという機構によるものである。従って、深いアクセプタとなる元素を、結晶中に含有されている浅いドナーの濃度よりも多くなるように添加しなければ、半絶縁性化することはできない。
【0003】
ところが、Fe、CoまたはCr等をドープして半絶縁性化する場合、これらの含有濃度はできるだけ少ないことが望ましい。なぜならば、Fe、Co、Cr等は、深いアクセプタとして作用するため、イオン注入型の電子デバイス(FETなど)においてはイオン注入した浅いドナー型不純物の活性化率を低下させたり、また高周波で動作させるデバイス(OEICやHEMTなど)においてはエピタキシャル成長膜中にこれらの元素が拡散し、トラップとして作用するため高周波かつ高速化を妨げてしまうからである。さらに、これらFe等の元素は偏析し易く、結晶の上下でFe等の濃度が異なり上記の活性化率が不均一となり、歩留りが低くなってしまう。
【0004】
従来、例えば半絶縁性のInPとしてはFeドープInPが主として用いられている。しかし、Fe等の含有濃度が0.2ppmw未満であると、抵抗率が106 Ω・cmより低くなってしまい、半絶縁性が低下してしまう。これを半絶縁性結晶とするためには、Fe等の含有濃度を一定濃度(0.2ppmw)以上にしなければならなかった。一般に、III −V 族化合物半導体でFe、Cr等の含有濃度が低くなると抵抗率が下がってしまうのは、浅いドナーとなる不純物元素がその水準まで残留不純物として結晶中に存在するためと考えられていた。ところが、本発明者は、InP単結晶の半絶縁性化の機構は、浅いドナーと深いアクセプタによる補償のみでなく、さらに電気的に活性な点欠陥も関与していると考え、鋭意研究の結果、結晶を熱処理して点欠陥の濃度を制御することにより、深いアクセプタの不純物元素濃度が従来に比して格段に低くても半絶縁性のIII −V 族化合物半導体を得ることができることを見い出した。
【0005】
本出願人は、これにより先に、Fe、CoまたはCrの何れか1種以上の含有濃度の合計が0.2ppmw以下でありかつ抵抗率が107 Ω・cm以上である化合物半導体の製造技術を提案した(特公平5−29639号)。これは、同時に複数のウェハを処理するために、治具を用い各ウェハを略等しい間隔を開けて整列させ、石英アンプル内に配置する方法を応用して、Fe、CoまたはCrを0.2ppmw以下含有する例えば融液成長法で作製した単結晶より切り出したInPウェハ(化合物半導体)を石英アンプル内に真空封入するとともに、石英アンプル内に例えば赤リンを配置してアンプル内のリン分圧をInPの解離圧以上となる圧力とし、石英アンプルを400〜640℃で加熱するというものである。この先願発明にあっては、その後の我々の研究により、アンドープまたはFe、CoまたはCrの何れか1種以上の不純物元素の含有濃度が0.05ppmw以下のInP単結晶を熱処理しても、半絶縁性化しないことが分かった。
【0006】
そこで、本出願人はさらに研究を重ね、その改良案として先に、石英アンプル内に赤リンとともに、故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrの何れか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInPウェハを、6kg/cm2 を超えるリン分圧を有する雰囲気で熱処理する方法により、それら不純物元素の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であり、かつ300Kでの抵抗率が106 Ω・cm以上で、移動度が3000cm2 /V ・s を超える半絶縁性のIII −V 族化合物半導体(InP)を製造する技術を提案した(特開平3−279299号、「半絶縁性InP単結晶及びその製造方法」)。これより得られる半絶縁性のIII −V 族化合物半導体(InP)は、結晶中に含有する不純物、特にFe、CoまたはCrの何れか1種以上の含有濃度の合計を0.05ppmw以下とすることで、含有不純物による移動度の低下を抑え、移動度を所望の値以上としたものである。しかし、その後の我々の研究により特開平3−279299号において提案した発明にあっては、高抵抗率でかつ高移動度のInP単結晶を得ることができるが、複数枚のウェハを同時に熱処理すると、高抵抗化かつ高移動度化しないウェハが発生することがあり、高抵抗率でかつ高移動度のInP単結晶を必ずしも安定して得られるとは限らないことが分かった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本出願人はさらに研究を重ね、故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶を、6kg/cm2 を超えるリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程の後、該InP単結晶の解離圧以上のリン蒸気圧雰囲気で400〜640℃の範囲の温度でもって熱処理する第2の熱処理工程を行なうことにより半絶縁性のInP単結晶を製造する技術を提案した(特願平6−244166号、「半絶縁性InP単結晶の製造方法」)。
【0008】
しかし、その後の我々の研究により特願平6−244166号の発明にあっては、高抵抗率でかつ高移動度のInP単結晶を安定して得ることができるが、ウェハ面内の抵抗率及び移動度の均一性という点で十分に満足できるレベルであるとは言えず、ウェハ面内の均一性を良くするために改善の余地があることが分かった。
【0009】
また、本出願人は、先にリン蒸気圧が低い雰囲気(リン圧=1atm )での熱処理について研究を行った結果について報告した(Pro.of 7th Conf.on InP and Related Materials,Sapporo,P37-40 (1995))。その中で、ウェハ面内の抵抗率の均一性は24%であると報告されているが、工業的な規模で熱処理を実施すると面内の抵抗率と移動度の均一性はさらに悪くなるので、十分なレベルであるとは言えなかった。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ウェハ面内の抵抗率及び移動度の均一性が良い半絶縁性のInP単結晶を得ることのできる半絶縁性InP単結晶の製造方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、ウェハ面内の移動度の均一性が10%以下であるような半絶縁性InP単結晶基板、またはウェハ面内の移動度の均一性が10%以下でかつウェハ面内の抵抗率の均一性が20%以下であるような半絶縁性InP単結晶基板を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、アンドープのInP単結晶を高温かつ低リン蒸気圧雰囲気で熱処理した後に、低温かつ高リン蒸気圧雰囲気で熱処理すると、面内の抵抗率及び移動度の均一性がともに良い半絶縁性InP単結晶を得ることができることを見い出した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶を、930℃以上1000℃未満の温度で、かつその温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程の後、640℃を越えて900℃未満の温度で、かつ15 atm 以上50 atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程を行なうことを特徴とする。この発明において、前記第1の熱処理工程のリン蒸気圧は、好ましくは0.5atm より大きく10atm 未満、より好ましくは1.0atm より大きく5atm 未満であるとよい。
【0014】
なお、InPの解離圧については、その一例が、フィリップスリサーチレポート(Philips Res.Rep.)12巻 (1957) 127 〜140 頁「THE P-T-x PHASE DIAGRAMS OF THE SYSTEMS In-As,Ga-As AND In-P」の第138頁Fig.8.に示されている。そのFig.8.において左側の線及びその線を外挿することによりInPの解離圧が求まる。
【0015】
ここで、第1の熱処理工程において、熱処理温度が930℃以上1000℃未満であるのは、930℃に満たないとInPが半絶縁性化しないからであり、一方1000℃以上ではInPが分解してしまうからである。また、第1の熱処理工程において、リン蒸気圧が熱処理温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下であるのは、解離圧未満ではInPが分解してしまうからであり、一方15atm を超えると熱処理温度が高いため、Fe,Co,Cr,Ni等の汚染が顕著になる。
【0016】
第2の熱処理工程において、熱処理温度が640℃を越えて900℃未満であるのは、640℃以下の温度でも特に特性上の不都合は生じないが620℃未満ではアニール時間がかかりすぎて実用的でないことと、本出願人による特願平6−244166号の第2の熱処理工程における熱処理温度範囲(400〜640℃)との重複を避けるためであり、一方900℃以上では平衡欠陥濃度が高くなるため均一化の効果が現れないからである。また、第2の熱処理工程において、リン蒸気圧が15 atm 以上50 atm 以下であるのは、15 atm 未満では抵抗率の均一性が20%を超えてしまうからであり、一方50 atm を超えると工業的生産性に欠けるからである。
【0017】
上記手段によれば、第1の熱処理工程により、NiやCo等の不純物の混入を抑制しながらInP単結晶中の微量なFeが活性化されるとともに、リンの空孔に関連した浅いドナー(シャロードナー)の濃度が低減されてInP単結晶が半絶縁性化される。そして、第2の熱処理工程により、InP単結晶中に残留した前記シャロードナーがさらに低減されるので、InP単結晶の面内の抵抗率が均一化される。
【0019】
また、本発明の半絶縁性InP単結晶基板は、故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶を、930℃以上1000℃未満の温度で、かつその温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程の後、640℃を越えて900℃未満の温度で、かつ15atm以上50atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程を行なうことによって得られ、ウェハ面内の移動度の均一性が10%以下であり、かつウェハ面内の抵抗率の均一性が20%以下であることを特徴とするものである。
【0020】
なお、上記の「ウェハ面内の抵抗率の均一性」または「ウェハ面内の移動度の均一性」とは、ウェハの外周部5mmを除いた部分を、ある特定の方向(ウェハの中心部を通る)に等間隔で測定したときの、得られた値の標準偏差/加算平均値×100(%)である。すなわち、データy1 、y2 、y3 、・・・、yn が得られたとき、均一性は、yavをデータy1 、y2 、y3 、・・・、yn の加算平均とすれば、
【0021】
【数1】
であらわされる。
【0022】
【発明の実施の形態】
故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶より切り出したウェハ(薄板)1,1,…を、図1に示すように、石英アンプル2内にスペーサとなる石英製治具4を用いて間隔を開けて複数並べる。続いて、石英アンプル2内が、熱処理温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下のリン蒸気圧雰囲気となるような適量の高純度の赤リン3を石英アンプル2内に配置して真空排気した後、酸水素バーナーにより石英アンプル2の開口部を封止する。続いて、この石英アンプル2を横型加熱炉6内に設置し、ヒータ5により930℃以上1000℃未満の熱処理温度で所定時間加熱保持する(第1の熱処理工程)。
【0023】
この第1の熱処理工程では、熱処理温度が930℃に満たないとInPが半絶縁性化せず、1000℃以上ではInPが分解してしまう。また、リン蒸気圧雰囲気がInPの解離圧未満ではInPが分解してしまい、15atm を超えるとCrやNi等の汚染によりInPが半絶縁性化しない。さらに、リン蒸気圧雰囲気が好ましくは0.5atm より大きく10atm 未満、より好ましくは1.0atm より大きく5atm 未満であれば、同一ロット中のウェハ間での特性のバラツキがより小さくなる。
【0024】
続いて、室温まで冷却し、各ウェハ1,1,…を石英アンプル2から取り出した後、再び各ウェハ1,1,…を別の石英アンプル2内に、そのアンプル2内が5atm 以上50atm 以下のリン蒸気圧雰囲気となるような適量の高純度の赤リン3とともに真空封入する。その石英アンプル2を横型加熱炉6内に設置し、ヒータ5により640℃を越えて900℃未満の熱処理温度で所定時間加熱保持する(第2の熱処理工程)。
【0025】
この第2の熱処理工程では、熱処理温度が640℃以下、特に620℃に満たないとアニールに長時間を要し、900℃以上ではウェハ面内の抵抗率の均一化の効果が現れない。また、リン蒸気圧が5atm 未満では移動度の均一性が10%を超えてしまい、50atm を超えると工業的生産に向かない。さらに、リン蒸気圧は好ましくは15atm 以上50atm 以下であるとよい。その理由は、15atm 未満では抵抗率の均一性が20%を超えてしまうからである。
【0026】
しかる後、室温まで冷却し、石英アンプル2からInPウェハ1,1,…を取り出す。
【0027】
上記実施形態によれば、第1の熱処理工程によりInP単結晶が半絶縁性化され、第2の熱処理工程によりInP単結晶中に残留した欠陥が低減されるので、InP単結晶の面内の抵抗率が均一化される。従って、ウェハ面内の抵抗率及び移動度の均一性が良く、かつ半絶縁性のInP単結晶が得られる。
【0028】
なお、上記横型加熱炉6は密閉型で100kg/cm2 の圧力まで加圧できるものを使用し、昇降温時に、その温度に対応するリン分圧に見合う圧力のアルゴンガスを加熱炉内に導入して、石英アンプル2の内外の圧力のバランスを保ち、石英アンプル2の破壊を防止する。
【0029】
また、上記実施形態では、第1の熱処理工程から第2の熱処理工程に移行する際に、一旦石英アンプル2からウェハ1,1,…を取り出し、それを別の石英アンプル2内に再び真空封入するとしたが、2温度帯をもつ横型加熱炉を使用し、アンプルの一端の温度を調節することでアンプル内のリン蒸気圧を所定の圧力に制御できるようにし、同一の石英アンプル2内にウェハ1,1,…を封入したまま、第1の熱処理工程から第2の熱処理工程ヘ直接移行するようにしてもよい。
【0030】
【実施例】
以下に、具体的な実施例を挙げて、本発明の特徴とするところを明らかとするが、本発明は以下の各実施例によって何ら制限されるものではない。
【0031】
(実施例1)
InPの原料多結晶から液体封止チョクラルスキー(LEC)法で引き上げたFeの含有濃度が0.03ppmw、Co、Crの含有濃度がいずれも分析検出下限(0.005ppmw)以下である単結晶を用いて、厚さ0.5mmのInPウェハ1,1,…を切り出した。そして、図1に示すように、複数の石英アンプル2内に石英製治具4を用いて間隔を開けてInPウェハ1,1,…を30枚ずつ並べた。続いて、純度が7Nの赤リン3を各石英アンプル2内に配置して1×10-6Torrまで真空排気した後、酸水素バーナーにより各石英アンプル2の開口部を封止した。この際、各石英アンプル2の赤リン3の量は、910℃、925℃、940℃、950℃、960℃、970℃、980℃及び990℃の各熱処理温度でリン(P4 )分圧が1atm となるように調整した。続いて、それらの石英アンプル2を一つずつ横型加熱炉6内に設置し、ヒータ5により各熱処理温度で40時間加熱保持した(第1の熱処理工程に相当)。その後、毎分2℃の降温速度で室温まで冷却し、各石英アンプル2からInPウェハ1,1,…を取り出した。
【0032】
熱処理後、(001)方位のInPウェハ1,1,…の〈110〉方位に対して、3端子ガードリング法(ホール測定)でウェハ面内の抵抗率と移動度を調べた。測定間隔は100μmで、測定点は401点である。
【0033】
その結果を図2〜図5に示す。図2及び図4は、それぞれ一枚のウェハの面内の抵抗率及び移動度を示しており(エラーバーは、1枚のウェハ面内におけるバラツキを表す)、図3及び図5は、それぞれ一枚のウェハの面内の抵抗率の均一性及び移動度の均一性を示している。それらのグラフより、熱処理温度が940〜990℃の範囲においてInPが半絶縁性化(抵抗率=106 Ω・cm〜2×108 Ω・cm)することが確認された。また、グラフより、熱処理温度が930℃でもInPの抵抗率が106 Ω・cm以上となり、InPが半絶縁性化することが推測される。また、第1の熱処理工程において、熱処理温度が940℃以上970℃以下とすることで、第1の熱処理工程後の面内の抵抗率、移動度の均一性を小さくすることができることがわかる。
【0034】
(実施例2)
上記実施例1と同様にして得られたInPインゴットから切り出したInPウェハ1,1,…を、複数の石英アンプル2内に石英製治具4を用いて30枚ずつ並べた。続いて、純度が7Nの赤リン3を各石英アンプル2内に配置して1×10-6Torrまで真空排気した後、酸水素バーナーにより各石英アンプル2の開口部を封止した。この際、各石英アンプル2の赤リン3の量は、950℃の熱処理温度でリン分圧が1atm となるように調整した。続いて、それらの石英アンプル2を一つずつ横型加熱炉6内に設置し、ヒータ5により950℃で40時間加熱保持した(第1の熱処理工程)。その後、毎分2℃の降温速度で室温まで冷却し、各石英アンプル2からInPウェハ1,1,…を取り出した。
【0035】
得られたウェハ1のうち数枚について、抵抗率と移動度をホール測定により調べた結果、一枚のウェハの面内の抵抗率は8.2×106 〜3.5×107 Ω・cmで、その均一性は22.5〜53.7%であった。また、一枚のウェハの面内の移動度は3750〜4600cm2 /V ・s で、その均一性は3.0〜35%であった。
【0036】
続いて、取り出した各ウェハ1,1,…を再び別の複数の石英アンプル2内に、各アンプル2内が熱処理温度807℃でそれぞれ0.5atm 、1atm 、5atm 、10atm 、15atm 、30atm 、40atm 及び50atm のリン蒸気圧雰囲気となるような適量の高純度の赤リン3とともに真空封入した。それらの石英アンプル2を横型加熱炉6内に設置し、807℃で所定時間加熱保持した(第2の熱処理工程)。その後、毎分2℃の降温速度で室温まで冷却し、各石英アンプル2からInPウェハ1,1,…を取り出した。
【0037】
得られたウェハ1,1,…について、抵抗率と移動度をホール測定により調べた。その結果を図6〜図9に示す。図6及び図8は、それぞれ第2の熱処理工程時のリン蒸気圧と一枚のウェハの面内の抵抗率及び移動度との関係を示しており(エラーバーは、1枚のウェハ面内におけるバラツキを表す)、図7及び図9は、それぞれ一枚のウェハの面内の抵抗率の均一性及び移動度の均一性を示している。
【0038】
それらのグラフより、第2の熱処理工程のリン蒸気圧が5atm 以上の時に面内の移動度の均一性が10%以下のInP単結晶が得られることがわかった。また、第2の熱処理工程のリン蒸気圧が15atm 以上の時に面内の抵抗率の均一性が20%以下のInP単結晶が得られることがわかった。なお、第2の熱処理工程のリン蒸気圧を50atm より高くしても面内の抵抗率のばらつきに大きな改善は見られなかったので工業的な生産性を考慮すると50atm 以下であるのが適当である。
【0039】
【発明の効果】
本発明に係る半絶縁性InP単結晶の製造方法によれば、故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶を、930℃以上1000℃未満の温度で、かつその温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下、好ましくは0.5atm より大きく10atm 未満、より好ましくは1.0atm より大きく5atm 未満のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程の後、640℃を越えて900℃未満の温度で、15atm 以上50atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程を行なうようにしたため、ウェハ面内の移動度及び抵抗率の均一性がともに良い半絶縁性のInP単結晶、特にウェハ面内の移動度の均一性が10%以下でウェハ面内の抵抗率の均一性が20%以下の半絶縁性のInP単結晶が得られる。
【0040】
また、本発明者らは、上述した本発明により得られる効果について、先にPro.of 8th Conf.on InP and Related Materials,Germany (1996) の43〜46頁に記載された「Reproducibility in the Fabrication of Undoped Semi-Insulating InP 」の中で報告している。
【0041】
なお、化合物半導体単結晶を2段階の熱処理を行うことによって、その面内の電気特性を均質化する従来の技術として、特開昭62−226900号公開公報に開示されたものがある。この技術は、1段目及び2段目の各熱処理温度を、育成結晶の融点のそれぞれ0.85〜0.9倍の温度(InPの場合には、861〜928℃に相当する)及び0.7〜0.75倍の温度(InPの場合には、661〜728℃に相当する)とするものである。しかし、この従来技術は、本願の発明とは1段目の熱処理温度が異なるため、当然のことながら本願発明とは効果も異なるものと推測される。すなわち、特開昭62−226900号の技術では、単にフォトルミネッセンス強度が安定しているため結晶が均質であり、この結晶から作られるウェハの諸物性の均質性が良くなるという効果が得られるだけであり、本願発明のような移動度及び抵抗率の面内均一性がそれぞれ10%以下及び20%以下のInP単結晶が得られるか否かは不明である。
【0042】
また、化合物半導体単結晶を熱処理することによって、その面内の電気特性を均一化する従来の技術として、特開平2−120300号公開公報に開示されたものがある。この技術は、育成結晶を800〜1200℃で熱処理した後、室温までの冷却速度を2段階で変化させるものであり、2段階の熱処理を行う本願発明とは本質的に異なるものである。従って、その得られる効果も本願発明とは異なり、特開平2−120300号の技術では基板上に作製したFETの閾値を極めて均一化することができるだけであり、本願発明のような移動度及び抵抗率の面内均一性がそれぞれ10%以下及び20%以下のInP単結晶が得られるか否かは不明である。
【0043】
また、化合物半導体単結晶を2段階の熱処理を行う従来の技術として、本出願人による特開平2−192500号公開公報に開示されたものがある。この技術は、1段目の熱処理温度を1100℃を超え育成結晶の融点未満の温度とするとともに、2段目の熱処理温度を750〜1100℃とすることによって、ABエッチングにより出現する微小欠陥(ABピット)の少ないウェハを得ることができるというものである。しかし、この従来技術は、本願の発明とは1段目の熱処理温度が明らかに異なるものであり、本願発明とは本質的に異なる。
【0044】
また、化合物半導体単結晶の熱処理技術として、ある上限温度Th(Thは、800℃以上で育成結晶の融点以下の温度)と下限温度Tl(Tlは、800℃以上でTh以下の温度)との間で2回以上繰り返し加熱冷却する技術が、特開平8−119800号公開公報に開示されている。しかし、この技術は、1段目の熱処理温度に相当する上限温度Thと2段目の熱処理温度に相当する下限温度Tlとの間の加熱冷却を2回以上繰り返す点で、本願発明とは本質的に異なる。すなわち、本願発明では、1段目と2段目の熱処理を繰り返し行うものではない。しかも、特開平8−119800号により得られる効果は、熱処理後の単結晶インゴットから切り出されたウェハを用いてエピタキシャル成長させた場合に線状性欠陥(slip-like defect)が発生しないというものであり、本願発明の効果とは明らかに異なる。
【0045】
また、R.Fornari らは、Materials Science and Engineering B28 (1994)の95〜100頁に記載された「Preparation and characterization of semi-insulating undoped indium phosphide」の中で、真空雰囲気下で910℃の熱処理を2回行った結果、抵抗率が4.4×107 Ω・cmで、移動度が3940cm2 /V ・s の半絶縁性InP単結晶が得られた(サンプルA−S8)との報告をしているが、熱処理雰囲気が真空であるため、リン圧を印加して2段階熱処理を行う本願発明とは明らかに異なるものである。
【0046】
また、G.Hirtらは、Pro.of 7th Conf.on InP and Related Materials,Sapporo (1995) の37〜40頁に記載された「Preparation of Homogeneous InP Substrates by VGF-Growth and Wafer Annealing」の中で、900℃の熱処理を行った結果、抵抗率が1.4×107 Ω・cmの半絶縁性InP単結晶が得られた(annealed VGFのサンプル)との報告をしているが、2段階の熱処理を行う本願発明とは本質的に異なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】半絶縁性InP単結晶の製造に使用される加熱炉内にウェハを設置した状態の概略図である。
【図2】実施例1により得られたInPウェハの熱処理温度と面内の抵抗率との関係を示す特性図である。
【図3】実施例1により得られたInPウェハの熱処理温度と面内の抵抗率の均一性との関係を示す特性図である。
【図4】実施例1により得られたInPウェハの熱処理温度と面内の移動度との関係を示す特性図である。
【図5】実施例1により得られたInPウェハの熱処理温度と面内の移動度の均一性との関係を示す特性図である。
【図6】実施例2により得られたInPウェハのリン蒸気圧と面内の抵抗率との関係を示す特性図である。
【図7】実施例2により得られたInPウェハのリン蒸気圧と面内の抵抗率の均一性との関係を示す特性図である。
【図8】実施例2により得られたInPウェハのリン蒸気圧と面内の移動度との関係を示す特性図である。
【図9】実施例2により得られたInPウェハのリン蒸気圧と面内の移動度の均一性との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1 ウェハ(InP単結晶)
2 石英アンプル
3 赤リン
4 石英製治具
5 ヒータ
6 横型加熱炉
Claims (1)
- 故意に不純物を添加することなく、かつ残留不純物として存在するFe、CoまたはCrのいずれか1種以上の含有濃度の合計が0.05ppmw以下であるInP単結晶を、930℃以上1000℃未満の温度で、かつその温度で平衡するInPの解離圧以上15atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程の後、640℃を越えて900℃未満の温度で、かつ15atm 以上50atm 以下のリン蒸気圧雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程を行なうことを特徴とする半絶縁性InP単結晶の製造方法。
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