JP3793559B2 - 高周波用磁器組成物および高周波用磁器 - Google Patents

高周波用磁器組成物および高周波用磁器 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体素子収納用パッケージや多層配線基板等に適用され、特に、マイクロ波やミリ波等の高周波帯で用いられる配線基板における絶縁基板として用いられる高周波用磁器組成物および高周波用磁器並びに高周波用磁器の製造方法、さらには高周波用磁器を絶縁基板とした配線基板に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、セラミック多層配線基板としては、アルミナ質焼結体からなる絶縁基板の表面または内部にタングステンやモリブデンなどの高融点金属からなる配線層が形成されたものが最も普及している。
【0003】
また、最近に至り、高度情報化時代を迎え、使用される周波数帯域はますます高周波化に移行しつつある。このような、高周波の信号の伝送を必要とする高周波配線基板においては、高周波信号を損失なく伝送する上で、配線層を形成する導体の抵抗が小さいこと、また絶縁基板の高周波領域での誘電損失が小さいことが要求される。
【0004】
ところが、従来のタングステン(W)や、モリブデン(Mo)などの高融点金属は導体抵抗が大きく、信号の伝搬速度が遅く、また、1GHz以上の高周波領域の信号伝搬も困難であることから、W、Moなどの金属に代えて銅、銀、金などの低抵抗金属を使用することが必要となっている。
【0005】
このような低抵抗金属からなる配線層は、融点が低く、アルミナと同時焼成することが不可能であるため、最近では、ガラス、またはガラスとセラミックスとの複合材料からなる、いわゆるガラスセラミックスを絶縁基板として用いた配線基板が開発されつつある。例えば、特開昭60−240135号のように、ホウケイ酸亜鉛系ガラスに、Al23、ジルコニア、ムライトなどのフィラーを添加したものを低抵抗金属と同時焼成した多層配線基板が提案されている。
【0006】
そこで、例えば、特開平10−120436号公報、特開平11−49531号公報では、ディオプサイド結晶相を析出可能なガラス粉末70〜100重量%に対して、アルミナ、ムライト等のセラミック粉末0〜30重量%を添加、混合して焼成した磁器が提案され、2GHzの周波数での誘電損失を3〜7×10-4と低減できることが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、MgCaSi、Ca(Mg,Al)(Si,Al)のディオプサイド型結晶相は、高周波帯における誘電損失が低い結晶であるが、表面結晶化しやすくガラス原料粒子内部にガラスが残存して磁器中のディオプサイド結晶相の割合を高めることが難しい材料であることが知られており、2GHzでの誘電損失を3〜7×10−4とすることはできるもののミリ波帯での誘電損失は高いものであり、特に、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス中にSrOを含有せしめた場合、低温での焼成によって磁器を緻密化ができる反面、磁器中のディオプサイド結晶相の結晶化度が低下して磁器中に誘電損失の大きなガラス相の割合が増大する結果、誘電損失が高くなるという問題があった。
【0008】
従って、本発明は、高周波領域における誘電損失をさらに低減できる磁器およびその製造方法並びにそれを作製可能な高周波用磁器組成物、さらにはそれを用いた配線基板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、SiO2、Al23、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラスに対して、フィラーとして少なくともγ−Al23を所定の比率で配合することによって、磁器中のディオプサイド型結晶相の析出割合を高めることができるとともに、誘電損失増加の原因となるガラスの残留量を低減することができる結果、高周波領域における誘電損失を大幅に低減できることを知見した。
【0010】
即ち、本発明の高周波用磁器組成物は、SiO2、Al23、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Al23を1〜60重量%との割合で含有することを特徴とするものである。
【0011】
ここで、前記ガラスは、SiO230〜55重量%と、Al234〜15重量%と、MgO14〜30重量%と、CaO5〜20重量%と、SrO10〜25重量%とからなることが望ましい。
【0012】
また、本発明の高周波用磁器は、少なくともMg、Ca、Si、Sr、Alを含むディオプサイド型結晶相と、少なくともγ−Al23結晶相とを含有し、且つ60〜77GHzでの誘電損失が30×10-4以下であることを特徴とするものである。
【0013】
なお、ガラス相を30重量%以下の割合で含有すること、該ガラス相が少なくともSiを酸化物(SiO2)換算で50重量%以上含有することが望ましい。
【0014】
また、室温から400℃における熱膨張係数が5×10−6/℃以上、誘電率が10以下、曲げ強度250MPa以上であること、熱伝導率が3W/m・K以上であることが望ましい。
【0015】
また、本発明の高周波用磁器の製造方法は、SiO2、Al23、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Al23を1〜60重量%とからなる混合物を成形後、800〜1000℃の温度で焼成して、少なくともMg、Ca、Si、Sr、Alを含むディオプサイド型結晶相と、少なくともγ−Al23結晶相と、を含有する磁器を作製することを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明の配線基板は、上記高周波用磁器からなる絶縁基板の表面および/または内部に、特に、CuまたはAgを主成分とするメタライズ配線層が配設されたものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の高周波用磁器組成物は、SiO2、Al23、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラスを40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Al23を1〜60重量%との割合で含有するものである。
【0018】
各成分組成を上記の範囲に限定したのは、上記ガラスが40重量%よりも少ないと、1000℃以下の温度での焼成により磁器を緻密化させることが困難であり、99重量%よりも多いと、磁器中の結晶化度が低下し磁器の誘電損失が高くなるためである。ガラスの特に望ましい範囲は、65〜97重量%、特に、80〜95重量%である。
【0019】
ここで、前記ガラスは、ガラスの軟化点が500〜800℃であることが望ましく、ガラスの組成は、SiO230〜55重量%、Al234〜15重量%、MgO14〜30重量%、CaO5〜20重量%、SrO10〜25重量%の割合であることが望ましい。
【0020】
上記ガラス成分のうち、SrOは磁器の緻密化を促進させる働きをなし、磁器中に含有可能なフィラー量を増加させて高価なガラス量を減らすことができることから、原料コストを下げることができるとともに、磁器の熱膨張係数向上、磁器の誘電率の調整、磁器の曲げ強度向上および熱伝導率向上等を図ることができる。
【0021】
上記ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラスは、焼結体中にガラス原料粒子の表面のみが結晶化して中心部に誘電損失の大きなガラス相が残存しやすいものであるが、本発明によれば、前記ガラスに対して、フィラーとして少なくともγ−Al23を所定の比率で配合することによって、磁器中のディオプサイド型結晶相の析出割合を高めることができ、特に1GHz以上、さらに20GHz以上、さらには50GHz以上、さらにまた70GHz以上の高周波領域における誘電損失を大幅に低減できる。
【0022】
また、上記のガラスからのディオプサイド型結晶相の析出割合を高める上では、ガラス中におけるCaOとMgOの合計量が35〜50重量%であることが望ましい。
【0023】
一方、上記組成物中にフィラーとして配合されるγ−Al23の含有量は、1〜60重量%であることが重要である。すなわち、γ−Al23の含有量が1重量%よりも少ないと、磁器中の結晶化率が低下してガラス相の割合が高くなり磁器の誘電損失が高くなるためであり、逆に、γ−Al23の含有量が60重量%を越えると、難焼結性となり、1000℃以下の焼成温度で緻密化することができないためである。γ−Al23の望ましい範囲は、低温焼成化の点で3〜35重量%、特に5〜20重量%である。
【0024】
また、上記組成物中にはフィラーとして、γ−Al以外にα−Al(コランダム)、β−Al、MgAl、ZnAl、3Al・2SiO、MgAlSi18、SiO、TiO、MgTiO、SrTiO、BaTiO、CaTiO、ZnTiO、CuO、CuO等、特に低誘電損失化の点で、MgAl、ZnAl、MgTiO、SrTiO、SiO、中でもSiO、MgTiO、磁器の曲げ強度の向上および熱伝導率の向上の点α−Al(コランダム)、β−Al、特にα−Al等の他の結晶相を含有してもよいが、上記組成物中のフィラー成分はγ−Alも含めて総量で60重量%以下であることが望ましい。
【0025】
上記の態様の磁器組成物は、800〜1000℃の温度範囲での焼成によって相対密度97%以上、特に99%以上まで緻密化することができる。
【0026】
また、本発明の高周波用磁器は、結晶相として、少なくともγ−Al23(γ−Al)と、少なくともMg、Ca、Si、Sr、Alを含むディオプサイド型結晶相であるCa(Mg,Al)(Si,Sr,Al)26(DI)とを含有するものである。
【0027】
また、上記磁器は、上記ディオプサイド型結晶相Ca(Mg,Al)(Si,Al)26(DI)のガラスからの析出すること割合が高いことが望ましく、また、それ以外に、Ca2MgSi27(akermanite)、CaMgSiO4(monticellite)、Ca3MgSi28(merwinite)等の類似の相が析出してもよく、また、SrOから(Ca,Sr)SiO3、SrSiO3等が析出してもよい。
【0028】
さらに、γ−Al23は、例えば、球状、針状、不定形等の粒状をなし、磁器中に分散して存在することが望ましく、また、焼成によってγ−Al23の一部が相変態したα−Al23が存在してもよい。
【0029】
なお、磁器中には上記の結晶相の粒界に非晶質ガラス(G)が残存するが、非晶質ガラス(G)は誘電損失を低減するため、また曲げ強度向上の点で磁器中のガラスの存在割合を30重量%以下、望ましくは10重量%以下、特に5重量%以下、さらに2重量%以下に低めること、また、誘電損失の低減の点でガラス中のSi成分の含有量がSiO換算で50重量%以上、特に60重量%以上、さらに65重量%以上であることが望ましい。
【0030】
上記態様の磁器は、60〜77GHzにおける誘電損失が30×10-4以下、望ましくは15×10-4以下、特に10×10-4以下の高周波帯で誘電損失の小さいものであり、1GHz以上、特に20GHz以上、さらには50GHz以上、またさらには70GHz以上の高周波用配線基板の絶縁層を形成するのに好適な磁器である。
【0031】
また、上記磁器中のガラスの結晶化度を高めるとともに、フィラー成分を添加することによって磁器の熱伝導率を3W/m・K以上と高めることができる。
【0032】
さらに、上記ディオプサイド型結晶相は、約8〜9×10−6/℃の高熱膨張特性を有することから、上記組成のガラスよりディオプサイド型結晶相を析出させるとともに、少なくともγ−Alを特定量添加し、少なくともγ−Alを析出させることにより、磁器の熱膨張係数を5×10−6/℃以上、特に7×10−6/℃以上に高めるとともに、磁器の誘電率を10以下、特に8以下と低く、磁器の曲げ強度250MPa以上、特に300MPa以上に高めることが可能である。
【0033】
すなわち、磁器の熱膨張係数は、実装するチップ部品等やプリント基板等の熱膨張係数に近似するように適宜調整することが望ましく、特に室温から400℃における熱膨張係数が5×10-6/℃以上、特に7×10-6/℃以上、さらに8×10-6/℃以上であることが望ましい。これは、上記の磁器の熱膨張係数が実装されるチップ部品等やプリント基板のそれと差がある場合、半田実装時や半導体素子の作動停止による繰り返し温度サイクルによって、チップ部品等やプリント基板とパッケージとの実装部に熱膨張差に起因する応力が発生し、実装部にクラック等が発生し、実装構造の信頼性を損ねてしまうためである。
【0034】
具体的には、GaAs系のチップ部品との整合を図る上ではGaAs系のチップ部品との熱膨張係数の差が2×10-6/℃以下であり、一方、プリント基板との整合を図る上では、プリント基板との熱膨張係数の差が2×10-6/℃以下であることが望ましい。なお、配線基板とプリント基板との実装については、ボールグリッドアレイ(BGA)やランドグリッドアレイ(LGA)等のように半田を介して直接プリント基板と実装される場合にとくに有効である。
【0035】
さらに、本発明の磁器を配線基板の絶縁基板として用いる場合、誘電率が10以下、特に8以下と低いために高周波伝送線路やアンテナの伝送損失を低めることができる。
【0036】
また、磁器の曲げ強度250MPa以上、特に300MPa以上と高めることによって、半導体素子等の電子部品の実装時、または入出力端子部に施すリード接続時に磁器にかかる応力による破損等を防止することができる。
【0037】
次に、本発明における高周波用磁器組成物を用い磁器を製造する方法について説明する。
【0038】
まず、出発原料として、SiO2、Al23、MgO、CaO、SrOを含みディオプサイド型結晶相を析出可能な結晶化ガラス粉末40〜99重量%と、γ−Al23を1〜60重量%との割合で秤量混合する。
【0039】
なお、上記γ−Al23としては、球状、針状、不定形状等の粉末状であることが望ましく、その平均粒径が0.5μm以上、特に1〜30μm、さらに1〜10μmであることが望ましく、該粉末中には低温焼成化の点で、例えばSi、Mg、Ca、Sr等の不可避不純物が8重量%以下、特に1重量%以下含有されていてもよい。
【0040】
そして、この混合粉末を用いてドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法の周知の成型法により所定形状の成形体を作製した後、該成形体を800〜1000℃の酸化性雰囲気または不活性雰囲気中で焼成することにより作製することができる。
【0041】
ここで、焼成温度を上記範囲に限定した理由は、焼成温度が800℃より低いと、磁器を緻密化できないとともにガラスの結晶化度が低く、高周波領域での誘電損失が増大するためであり、逆に1000℃を越えると、CuやAg等の低抵抗金属との同時焼成ができないためである。なお、焼成時にγ−Al23の一部がα−Al23に相変態してもよい。
【0042】
また、メタライズ配線層を具備する配線基板を作製するには、前記混合粉末に、適当な有機溶剤、溶媒を用い混合してスラリーを調製し、これを従来周知のドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法により、シート状に成形する。そして、このシート状成形体に所望によりスルーホールを形成した後、スルーホール内に、銅、金、銀のうちの少なくとも1種を含む金属ペーストを充填する。そして、シート状成形体表面には、高周波信号が伝送可能な高周波線路パターン等に前記金属ペーストまたは上記金属からなる金属箔を用いてスクリーン印刷法、グラビア印刷法、転写法などによって配線層の厚みが5〜30μmとなるように、印刷塗布または転写する。
【0043】
その後、複数のシート状成形体を位置合わせして積層圧着し、800〜1000℃の窒素ガスや窒素−酸素混合ガス等の雰囲気で焼成することにより、高周波用配線基板を作製することができる。
【0044】
そして、この配線基板の表面には、適宜半導体素子等のチップ部品が搭載され配線層と信号の伝達が可能なように接続される。接続方法としては、配線層上に直接搭載させて接続させたり、あるいは樹脂、Ag−エポキシ、Ag−ガラス、Au−Si等の樹脂、金属、セラミックス等の厚み50μm程度の接着剤によりチップ部品を絶縁基板表面に固着し、ワイヤーボンディング、TABテープなどにより配線層と半導体素子とを接続したりする。
【0045】
なお、半導体素子としては、Si系やGaAs系等のチップ部品が使用できるが、特に熱膨張係数の近似の点で、GaAs系のチップ部品の実装に有効である。
【0046】
さらに、半導体素子が搭載された配線基板表面に、絶縁基板と同種の絶縁材料や、その他の絶縁材料、あるいは放熱性が良好な金属等からなり、電磁波遮蔽性を有するキャップをガラス、樹脂、ロウ材等の接着剤により接合してもよく、これにより半導体素子を気密に封止することができる。
【0047】
(配線基板の構成)
本発明の磁器組成物を好適に使用しうる高周波用配線基板の一例である半導体素子収納用パッケージの具体的な構造とその実装構造について図1をもとに説明する。図1は、半導体素子収納用パッケージA、特に、接続端子がボール状端子からなるボールグリッドアレイ(BGA)型パッケージの概略断面図である。図1によれば、パッケージAは、絶縁材料からなる絶縁基板1と蓋体2によりキャビティ3が形成されており、そのキャビティ3内には、GaAs等のチップ部品4が前述の接着剤等により実装されている。
【0048】
また、絶縁基板1の表面および内部には、チップ部品4と電気的に接続された配線層5が形成されている。この配線層5は、高周波信号の伝送時に導体損失を極力低減するために、銅、銀あるいは金などの低抵抗金属を主成分とすることが望ましい。また、この配線層5に1GHz以上の高周波信号を伝送する場合には、高周波信号が損失なく伝送されることが必要となるため、配線層5は周知のストリップ線路、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路、誘電体導波管線路のうちの少なくとも1種から構成される。
【0049】
さらに、図1のパッケージAにおいて、絶縁基板1の底面には、接続用電極層6が被着形成されており、パッケージA内の配線層5と接続されている。そして、接続用電極層6には、半田などのロウ材7によりボール状端子8が被着形成されている。
【0050】
また、上記パッケージAを外部回路基板に実装するには、図1に示すように、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの有機樹脂を含む絶縁材料からなる絶縁基板9の表面に配線導体10が形成された外部回路基板Bに対して、ロウ材を介して実装される。具体的には、パッケージAにおける絶縁基板1の底面に取付けられているボール状端子8と、外部回路基板Bの配線導体10とを当接させてPb−Snなどの半田11によりロウ付けして実装される。また、ボール状端子8自体を溶融させて配線導体10と接続させてもよい。
【0051】
さらに、図1によれば、ボール状端子を用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、ボール状端子を用いず半田にて直接パッケージAの底面に形成された導体と外部回路基板Bの配線導体10とを接続することもできる。
【0052】
本発明によれば、GaAs等のチップ部品4のロウ付けや接着剤により実装したり、このようなボール状端子8を介在したロウ付けによりプリント基板等の外部回路基板に実装されたりするような表面実装型パッケージにおいて、GaAs等のチップ部品や外部回路基板の絶縁基板との熱膨張差を従来のセラミック材料よりも小さくできることから、かかる実装構造に対して、熱サイクルが印加された場合においても実装部での応力の発生を抑制することができる結果、実装構造の長期信頼性を高めることができる。
【0053】
【実施例】
下記の組成
ガラスA:SiO50.2重量%−Al5.0重量%−MgO16.1重量%−CaO15.1重量%−SrO13.6重量%
ガラスB:SiO47.5重量%−Al4.8重量%−MgO16.8重量%−CaO14.2重量%−SrO16.7重量%
ガラスC:SiO52.0重量%−Al5.0重量%−MgO18.0重量%−CaO25.0重量%
ガラスD:SiO10.4重量%−Al2.5重量%−B45.3重量%−CaO35.2重量%−NaO6.6重量%
からなる平均粒径2μmのSrOを含みディオプサイド結晶相析出可能なガラス粉末2種(ガラスA、B)と、SrOを含まずディオプサイド結晶相析出可能なガラス粉末Cと、ディオプサイド結晶相が析出しないガラス粉末Dを準備した。
【0054】
そして、上記ガラスに対して表1、2のフィラー(純度99%)を添加した。なお、各フィラーの平均粒径は、γ−Al23粉末については1μm、それ以外については2μmの粉末を用いた。
【0055】
さらに、この混合物に有機バインダ、可塑剤、トルエンを添加し、スラリーを調製した後、このスラリーを用いてドクターブレード法により厚さ300μmのグリーンシートを作製した。そして、このグリーンシートを10〜15枚積層し、50℃の温度で10MPaの圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を水蒸気含有/窒素雰囲気中、700℃で脱バインダ処理を行った後、乾燥窒素中で表1、2の焼成温度で2時間焼成し絶縁基板用磁器を得た。
【0056】
得られた磁器について、アルキメデス法により気孔率を測定した後、誘電率、誘電損失を以下の方法で評価した。測定は形状、直径2〜7mm、厚み1.5〜2.5mmの形状に切り出し、60GHzにてネットワークアナライザー、シンセサイズドスイーパーを用いて誘電体円柱共振器法により行った。測定では、NRDガイド(非放射性誘電体線路)で、誘電体共振器の励起を行い、TE021、TE031モードの共振特性より、誘電率、誘電損失を算出した。
【0057】
また、室温から400℃における熱膨張曲線をとり、熱膨張係数を算出した。さらに、焼結体中における結晶相をX線回折チャートから同定した。
【0058】
また、磁器中のガラス相の比率をリートベルト法より評価した。具体的には、評価する磁器を粉砕した後、内部標準試料としてZnOを所定の比率で添加し、エタノールを加えて湿式混合した。これを乾燥した後、X線回折測定を行い、ZnOの添加比率と、リートベルト法によって得られるZnOと磁器中の結晶相との比率から磁器中に存在するガラス相の比率を算出した。また、TEMによりガラス相中のSiの比率を測定してSiO2換算での比率を算出した。
【0059】
さらに、JISR1601に基づいて磁器の4点曲げ強度を測定し、1mm厚みの試料に対してレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。また、JISR1602−1995に準じて超音波パルス法によりヤング率を測定した。結果は表1、2に示した。
【0060】
【表1】
Figure 0003793559
【0061】
【表2】
Figure 0003793559
【0062】
表1、2の結果から明らかなように、SiO2、Al23、MgO、CaO、SrOを含むガラスA、Bの量が、40重量%より少ない試料No.1、20では、低温で焼結することが困難であり、相対密度97%以上には緻密化しなかった。
【0063】
また、γ−Alの添加量が1重量%よりも少ない試料No.10、24では、磁器中のガラス相の比率が高く、誘電損失が高くなり、また磁器の曲げ強度が低下した。さらに、γ−Alに代えてα−Alまたはムライトのみを添加した試料No.11、12でも、磁器中のガラス相の比率が高く、誘電損失のいものであった。
【0064】
また、ガラスとして、SrOを含まずディオプサイド結晶相析出可能なガラスCを用いた試料No.29では、1000℃以下の低温で磁器を緻密化させることができず、Bを多く含むガラスDを用いた試料No.30は溶融してしまい、また、試料No.31では、ホウ素を含むガラスが多く残留し、誘電損失が大きくなる傾向にあった。
【0065】
これに対して、本発明に従い、特定量のγ−Alを添加した試料では、磁器中にγ−Alの析出が見られ、また、いずれも60GHzにおける誘電損失が30×10−4以下、熱膨張係数が5×10−6/℃以上、誘電率が12以下曲げ強度250MPa以上の優れた特性を有するものであり、高周波信号を伝送するための配線基板として、また、GaAs等のチップ部品およびプリント基板等への実装信頼性を高めることができることがわかった。
【0066】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の高周波用磁器組成物によれば、1000℃以下の低温にて焼成できることから、銅などの低抵抗金属による配線層を形成でき、しかも60〜77GHzでの誘電損失が30×10-4以下と誘電損失が低いことから、1GHz以上の高周波領域において高周波信号を極めて良好に損失なく伝送することができる。
【0067】
しかも、この組成物を用いて得られる磁器は、曲げ強度が250MPa以上と高く、誘電率が10以下で、かつGaAsチップあるいはプリント基板と近似した熱膨張特性に制御できることから、特に配線基板の絶縁基板として優れた特性を有するとともに、GaAsチップを実装した場合、あるいは有機樹脂を含む絶縁基板を具備するプリント基板などのマザーボードに対してロウ材等により実装した場合において優れた耐熱サイクル性を有し、高信頼性の実装構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の組成物を焼成した磁器を用いた高周波用配線基板の一例である半導体素子収納用パッケージの実装構造の一例を説明するための概略断面図である。
【符号の説明】
A 半導体素子収納用パッケージ
B 外部回路基板
1 絶縁基板
2 蓋体
3 キャビティ
4 チップ部品
5 配線層
6 接続用電極層
7 ロウ材
8 ボール状端子
9 絶縁基板
10 配線導体
11 ロウ材

Claims (10)

  1. SiO、Al、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Alを1〜60重量%の割合で含有することを特徴とする高周波用磁器組成物。
  2. 前記ガラスが、SiO30〜55重量%と、Al4〜15重量%と、MgO14〜30重量%と、CaO5〜20重量%と、SrO10〜25重量%とからなることを特徴とする請求項1記載の高周波用磁器組成物。
  3. 少なくともMg、Ca、Si、Sr、Alを含むディオプサイド型結晶相と、少なくともγ−Al結晶相とを含有し、且つ60〜77GHzでの誘電損失が30×10−4以下であり、ガラス相を30重量%以下の割合で含有することを特徴とする高周波用磁器。
  4. 前記ガラス相が少なくともSiを酸化物(SiO)換算で50重量%以上含有することを特徴とする請求項記載の高周波用磁器。
  5. 室温から400℃における熱膨張係数が5×10−6/℃以上、誘電率が10以下、曲げ強度250MPa以上であることを特徴とする請求項3または4記載の高周波用磁器。
  6. 熱伝導率が3W/m・K以上であることを特徴とする請求項3乃至のいずれか記載の高周波用磁器。
  7. SiO、Al、MgO、SrOおよびCaOを含み、ディオプサイド型結晶相を析出可能なガラス40〜99重量%と、フィラーとして少なくともγ−Alを1〜60重量%とからなる混合物を成形後、800〜1000℃の温度で焼成して、少なくともMg、Ca、Si、Sr、Alを含むディオプサイド型結晶相と、少なくともγ−Al結晶相と、を含有する磁器を作製することを特徴とする高周波用磁器の製造方法。
  8. 前記ガラスが、SiO30〜55重量%と、Al4〜15重量%と、MgO14〜30重量%と、CaO5〜20重量%と、SrO10〜25重量%からなることを特徴とする請求項記載の高周波用磁器の製造方法。
  9. 絶縁基板の表面および/または内部に、メタライズ配線層が配設された配線基板において、前記絶縁基板が請求項3乃至のいずれか記載の高周波用磁器からなることを特徴とする配線基板。
  10. 前記メタライズ配線層が、CuまたはAgを主成分とすることを特徴とする請求項記載の配線基板。
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