JP3793490B2 - 強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は乗用車、トラック、バス等の自動車、自動二輪車や産業用機械等に使用することを企図した強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車車体の軽量化と衝突時の乗員安全確保を主な背景として、加工用高強度鋼板の需要が増大してきた。特に引張強さTS590MPa級(60kgf/mm2級)或いは、それ以上のTS780〜980MPa級(80〜100kgf/mm2級)等の適用が急速に拡大しつつある。
【0003】
かかる用途に供される鋼板として、残留オ−ステナイトやマルテンサイトを有する複合組織鋼板が広く知られている。例えば、特開平9−104947号公報に記載されているように残留オ−ステナイトを適量含有させることにより、優れた強度−伸びバランス(引張強さ60〜69kgf/mm2では全伸び33.8〜40.5%、引張強さ110kgf/mm2では全伸び22.0%)を有するものが得られている。しかしながら、強度−穴広げバランスに対する技術は不十分であり、強度−穴広げバランスを改善するための化学成分、ミクロ組織や介在物の最大長制御に対する技術要件は全く考慮されていないため、その特性レベルも低く(引張強さ60〜69kgf/mm2では穴広げ比d/d0で1.46〜1.68、穴広げ率に換算して46〜68%、引張強さ110kgf/mm2では穴広げ比d/d0で1.2、穴広げ率に換算して20%)、伸びフランジ割れが発生し易いことから適用用途が限定されていた。
【0004】
一方、強度−穴広げバランスに優れた鋼板として特開平3−180426号公報に記載されているようなベイナイト鋼板(引張強さ60〜67kgf/mm2では穴広げ比d/d0で1.72〜2.02、穴広げ率に換算して72〜102%、引張強さ77kgf/mm2では穴広げ比d/d0で1.75、穴広げ率に換算して75%)があるが、穴広げ率向上のためベイナイトの単一組織化を指向しているため、逆に強度−伸びバランスはかならずしも高くなく(引張強さ60〜67kgf/mm2では全伸び27〜30%、引張強さ77kgf/mm2では全伸び23%)、さらには引張強さの観点でも引張強さ77kgf/mm2に留まっており、それ以上の強度では特性劣化を生じ、ハイテン化要望に十分には応えられず、適用用途が限定されているのが実情である。
【0005】
即ち、自動車部品のプレス成形においては強度−伸びバランスに代表される張り出し成形と強度−穴広げバランスに代表される伸びフランジ成形が二大成形要素であるが、相反する性質であり、両立は困難であってその両者に秀でることが適用用途拡大の鍵であった。
【0006】
近年、地球環境問題から60kgf/mm2以上の強度を有する、例えば、80kgf/mm2、100kgf/mm2等の加工用高強度鋼板(超ハイテン)への置換が加速度的に進む中、成形難度の高い部品への適用が検討されるに及び強度−伸びバランスと強度−穴広げバランスの両者に優れた鋼板が要求されている。特に、80kgf/mm2を超える鋼板(超ハイテン)では強度が大きくなるので、上記両バランスの両立が一層困難となると共に材質特性のバラツキも大きくなり、それによるプレス成形品でのスプリングバック増大等の寸法精度の劣化(いわゆる形状凍結性の劣化)が顕著となり、実用上、大きな問題となっており、強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度鋼板が渇望されていたのである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の鋼板が持つ問題点を解消し、優れた強度−穴広げバランス(引張強さ×穴広げ率で40000MPa・%以上、好ましくは50000MPa・%以上)と優れた強度−伸びバランス(引張強さ×全伸びで10000MPa・%以上、好ましくは15000MPa・%以上、より好ましくは17000MPa・%以上)と形状凍結性とを兼備した鋼板、即ち強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、製鋼〜熱延の一貫製造の視点から、鋭意検討を加え、強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板とその製造方法を発明するに到った。
【0009】
一般に加工用鋼板においては、TSを増大させれば、成形性(穴広げ率や伸び)、形状凍結性は劣化することが知られている。
【0010】
しかしながら、本発明者が、加工用高強度熱延鋼板について鋭意研究したところ、鋼の化学成分、特にP、S、C、Si、Al等の含有量を制御し、かつ、組織、介在物を仕上温度等によって制御し、そしてこれらを組み合わせることによって、強度の増大と穴広げ性の向上を両立させ、さらには伸びの劣化の抑制が可能であることを知見し、穴広げ性と伸びとが高く形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板が得られることを見出し、本発明を完成した。本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1) 化学成分として、質量%で
C:0.02〜0.16%、
P≦0.010%、
S≦0.003%、
SiとAlの内の1種又は2種を合計量で0.2〜4%、
Mn、Ni、Cr、Mo、Cuの内の1種又は2種以上を合計量で0.5〜4%を含み、
C/(Si+Al+P)が0.1以下で、
残部Fe及び不可避的不純物よりなる鋼板であって、該鋼板断面のミクロ組織として、マルテンサイトと残留オーステナイトの内の1種又は2種を合計面積率で3%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種を合計面積率で80%以上、残部がパーライトよりなると共に、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの最大長が10ミクロン以下であり、さらに、鋼板断面内に20ミクロン以上の介在物が1平方mm当たり0.3ケ以下であることを特徴とする強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0012】
(2) ベイナイト硬さ(Hv)/フェライト硬さ(Hv)が1.0〜1.3であることを特徴とする上記(1)記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0013】
(3) パ−ライト面積率が7%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種の合計面積率が90%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0014】
(4) 化学成分として、質量%でさらにNb、V、Tiの内の1種又は2種以上を合計量で0.3%以下含むことを特徴とする上記(1)〜(3)に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0015】
(5) 化学成分として、質量%で
さらにBを0.01%以下含むことを特徴とする上記(1)〜(4)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0016】
(6) 化学成分として、質量%で
さらにCa、REMの内の1種又は2種を、
Caにおいては0.01%以下、
REMにおいては0.05%以下、
含むことを特徴とする上記(1)〜(5)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0017】
(7) 化学成分として、質量%で、さらに
N:0.02%以下を含むことを特徴とする上記(1)〜(6)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0018】
(8) 鋼板の板幅方向の引張強さTSの偏差ΔTSが100MPa以下であることを特徴とする上記(1)〜(7)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
【0019】
(9) 質量%で、
C:0.02〜0.16%、
P≦0.010%、
S≦0.003%を含み、
SiとAlの内の1種又は2種を合計量で0.2〜4%含み、
Mn、Ni、Cr、Mo、Cuの内の1種又は2種以上を合計量で0 .5〜4%含み、
C/(Si+Al+P)が0.1以下で、
残部Fe及び不可避的不純物よりなる成分の鋼板で、該鋼板断面のミクロ組織として、マルテンサイトと残留オーステナイトの内の1種又は2種を合計面積率で3%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種を合計面積率で80%以上、残部がパーライトよりなると共に、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの最大長が10ミクロン以下であり、さらに、鋼板断面内に20ミクロン以上の介在物が1平方mm当たり0.3ケ以下である熱延鋼板の製造方法であって、
溶鋼を溶製するに際し、溶鋼脱硫時の脱硫用フラックス添加後に二次精錬装置内溶鋼の1回の還流量の1.5倍以上の還流量になるように溶鋼を二次精錬装置内に環流させ、さらに該溶鋼の鋳造後に得られた鋼片を熱間圧延して鋼板を製造するに際し、仕上圧延を仕上入側温度≧1000℃、仕上出側温度>920℃、かつ仕上圧延の圧下率を90%以上で実施し、600℃以下で得られた鋼板を巻き取ることを特徴とする強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0020】
(10) 化学成分として、質量%で
さらにNb、V、Tiの内の1種又は2種以上を合計量で0.3%以下含むことを特徴とする上記(9)に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0021】
(11) 化学成分として、質量%で
さらにBを0.01%以下含むことを特徴とする上記(9)又は(10)に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0022】
(12) 化学成分として、質量%で
さらにCa、REMの1種又は2種を、
Caにおいては0.01%以下、
REMにおいては0.05%以下、
含むことを特徴とする上記(9)〜(11)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0023】
(13) 仕上圧延出側における板幅方向の温度偏差を20℃以下にすることを特徴とする上記(9)〜(12)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0024】
(14) 仕上圧延出側における板幅方向の温度偏差を20℃以下となるように仕上圧延前又は仕上圧延中に鋼板を加熱することを特徴とする上記(9)〜(12)の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0026】
まず、鋼板の化学成分について述べる。なお、以下に記載する化学成分の単位の「%」は全て「質量%」を意味する。
【0027】
Cは強度を確保するために必要な元素であり、0.02%以上とする。好ましくは0.05%以上とする。但し、その上限は溶接性の劣化を避け、穴広げ率への悪影響を避けるため、0.16%以下とする。好ましくは0.12%以下とする。
【0028】
【表1】
【0029】
Pは本発明の添加元素において、非常にポイントとなる元素である。図1にその効果を示す。図1は表1の鋼番1の成分の鋼板を用いて、P濃度と鋼板の穴広げ率の関係を調査した結果を示す。穴広げ率は日本鉄鋼連盟規格JFS T1001−1996より求めた。図1よりPを0.010%以下とすることにより穴広げ率は指数関数的に顕著に向上し、従来の延長上では想定しえない穴広げ率への効果が認められる。それによりプレス割れの回避が可能となるのである。その理由は未だ明らかでない面はあるが、粒界に存在するPが破壊に際し悪影響を生じる原因となると考えられ、Pの低減によって打ち抜き穴端面性状が改善され(破断面の破面サイズ極小化や粗さ低減やミクロクラックの低減等、剪断面のミクロ組織の加工劣化抑制等)、穴広げ率の向上につながったものと考えられる。
【0030】
また、穴広げ率を向上させるためには、プレス割れの発生や亀裂の伝播を抑制することが必要となる。そのためには炭化物の生成抑制が有効であり、炭化物生成の抑制指標としてのC/(Si+Al+P)の値を0.1以下にしなければならない。C/(Si+Al+P)の値が0.1を超えると、本発明が目的とする優れた引張強さ×穴広げ率と優れた引張強さ×全伸びを兼備した鋼板が得られない。
【0031】
Sは硫化物系介在物による穴広げ率と溶接性の劣化防止の観点から、その含有量は0.003%以下(好ましくは≦0.001%)とする。
【0032】
Si、Alは炭化物の生成を抑制しフェライトを強化することにより、フェライトとベイナイトの硬度差を減じ組織の一様性を高めることに寄与する。また、脱酸元素としても作用する。上記観点から、SiとAlの内の1種もしくは2種の合計添加下限量は0.2%以上とする必要がある。コストと効果の兼ね合いから、その合計添加上限量は4%以下とする。
【0036】
耐火物溶損やノズル閉塞等の製鋼上デメリットや材質との関連で、Al≦0.2%(好ましくはAl≦0.1%)としてもよい。
【0037】
Mn、Ni、Cr、Mo、Cuは強化元素である。上記観点から、それらの内の1種もしくは2種以上の合計添加下限量は0.5%以上とする必要がある。但し、コストと効果の兼ね合いから、その合計添加上限量は4%以下とする。
【0038】
さらに、選択元素として、Nb、V、Ti、B、Ca、REMの1種又は2種以上を添加してもよい。
【0039】
Nb、V、Tiは高強度化に有効な元素であるが、効果とコストの兼ね合いから、それら添加量は1種又は2種以上を合計量で0.3%以下とする。
【0040】
Bは強化元素としての作用があり、0.01%以下添加してもよい。また、Pの悪影響を軽減する作用も有する。
【0041】
Caは硫化物系介在物の形態制御(球状化)により、穴広げ率をより向上させるために0.01%以下添加してもよい。
【0042】
また、REMも同様の理由から0.05%以下添加してもよい。
【0043】
なお、オ−ステナイトの安定化や高強度化等を狙って、必要に応じて、Nを0.02%以下、含有してもよい。
【0044】
次にミクロ組織について述べる。
【0045】
優れた穴広げ率を得るためには、極低P化により改善された打ち抜き穴端面性状を損なわないという観点から、ミクロ組織の均一性とサイズ及び量、介在物の量及びサイズの制御が特に重要なポイントであり、まず、これについて述べる。
【0046】
ミクロ組織の均一性は打ち抜き穴端面の性状改善(破断面の破面サイズ極小化や粗さ低減やミクロクラックの低減等、剪断面のミクロ組織の加工劣化抑制等)に影響を及ぼすため、穴広げ率に大きく影響を及ぼす。
【0047】
図2は表1の鋼番2の成分の鋼板を用いて、鋼板内のパーライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトのミクロ組織の最大長と鋼板の穴広げ率の関係を調査した結果を示す。マルテンサイトはフェライトとベイナイトに比べ、非常に硬質であり、組織の均一性を害するため、穴広げ率に著しい悪影響を及ぼす。また、残留オ−ステナイトもマルテンサイトに変態するため、組織の均一性に対しては好ましくない。その観点からマルテンサイトと残留オーステナイトの内の1種又は2種を合計面積率で3%未満とすることが必要である。また、パ−ライトはマルテンサイトより軟質ではあるものの穴広げ率に対しては好ましくないため、その面積率を7%未満とすることが好ましい。パ−ライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトは組織の均一性の観点からは一切含まれないことが好ましいが、工業生産の見地から多少の混入を許容するため、そのサイズ制御により、その悪影響を抑制することができる。図2に示すようにパーライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトの最大長が10ミクロン以下の場合に穴広げ率は指数関数的に顕著に向上し、従来の延長上では想定しえない穴広げ率への効果が認められる。なお、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの1個1個の結晶粒が微細であっても、複数個が連鎖状に存在している場合、その連鎖形状の最大長が穴広げ率に悪影響を及ぼすことを見出し、それを制御することにより従来の延長上では想定しえない穴広げ率の顕著な改善を果たしたのである。好ましくは、最大長を2ミクロン以下とすることにより、その効果は一層高まる。
【0048】
さらにフェライトとベイナイトの1種又は2種の合計面積率を80%以上(好ましくは90%以上)とすることにより、組織の均一性が高まると共に、フェライトとベイナイト以外の硬質組織が連鎖状もしくはネットワーク状に存在することに起因するプレス成形性劣化を抑制して優れた強度−伸びバランスと優れた強度−穴広げバランスが得られる。
【0049】
フェライトとベイナイトの内の1種又は2種の合計面積率が80%未満では組織の均一性等が劣化し、成形性の改善効果を安定して得ることができなくなるため80%を下限とし、好ましくは90%を下限とする。
【0050】
さらに、より均一な組織とし、より穴広げ率を向上させるためには、ベイナイト硬さ(Hv)/フェライト硬さ(Hv)の比を1.0〜1.3とすることが好ましい。
【0051】
なお、伸びを高くしたい場合には、残留オーステナイトは含有させた方が有利である。但し、前記した理由により、その上限は3%未満とする。
【0052】
なお、形状凍結性等の観点から、低い降伏比(降伏比YR=降伏応力/引張強さ×100で75%未満)が望まれる場合にはマルテンサイトを含有させた方が有利である。但し、前記した理由により、その上限は3%未満とする。
【0053】
なお、パーライト、マルテンサイト及び残留オーステナイトの最大長は特開昭59−219473号公報に開示された試薬及び特開平5−163590号公報で開示された試薬により鋼板圧延方向断面を腐食した倍率1000倍の光学顕微鏡写真から板厚方向の全断面を加味して、算出した。
【0054】
また、介在物制御においては粗大介在物の個数を低減することにより穴広げ率を改善できる。介在物は研磨仕上げした鋼板圧延方向断面を顕微鏡観察(倍率400倍)し、最大長が20ミクロン以上の粗大介在物の数を積算した。図3は表1の鋼番2の成分の鋼板を用いて鋼板内の粗大介在物(最大長20ミクロン以上)の個数と穴広げ率の関係を調査した結果を示す。粗大介在物(最大長20ミクロン以上)が一定個数以下(1平方mm当たり0.3ケ以下)の場合に穴広げ率が大幅に向上することが判る。
【0055】
以上述べた効果により、優れた強度−穴広げバランス(引張強さ×穴広げ率で40000MPa・%以上、好ましくは50000MPa・%以上)と優れた強度−伸びバランス(引張強さ×全伸びで10000MPa・%以上、好ましくは15000MPa・%以上、より好ましくは17000MPa・%以上)の両立が可能となり、プレス成形性が大幅に向上する。
【0056】
次に、その製造方法について述べる。
【0057】
まず製鋼工程においては、溶鋼を溶製するに際し、RH等の2次精練装置を用いた溶鋼脱硫時の脱硫用フラックス添加後に二次精錬装置内溶鋼の1回の還流量の1.5(還流回数1.5回)倍以上の還流量になるように溶鋼を二次精錬装置内に環流させることがポイントである。ここでの溶鋼の還流量とは、単位時間当たりRH等の2次精練装置内を循環させる溶鋼環流速度、例えば「大量生産規模における不純物元素の精練限界」((社)日本鉄鋼協会 高温精練プロセス部会精練フォーラム 日本学術振興会 製鋼第19委員会反応プロセス研究会,平成8年3月,184頁〜187頁)に開示されている溶鋼環流速度Qの式を用いて、下記(1)で表される溶鋼還流量を1回と定義したものである。
還流量=Q(=11.4×V1/3×D4/3×{ln(P1/P0)}1/3 )×k(式1)を1回とした。
Q:溶鋼環流速度(t/min)、V:環流ガス流量(Nl/min)
D:浸漬管内径(m)、P0:真空槽内圧力(Pa)、
P1:環流ガス吹込位置圧力(Pa)、
k:定数(2次精練装置による定数。今回は4とする)
【0058】
ここで、RHを用いた場合の溶鋼溶製の模式図を図4に示すが、溶鋼鍋1中に脱ガス槽2の浸漬管3の2本浸漬をさせ、その一方の下方からガスを吹き込み(ここでは浸漬管の下方からインジェクションランス4からArを吹き込む)、溶鋼鍋1内の溶鋼が上昇して脱ガス槽2に入り、脱ガス処理後に他方の浸漬管3から溶鋼鍋に下降して戻るものである。なお、ここではRHによる2次精練装置を用いた例を示したが、他の2次精練装置(例えばDH)を用いても構わないことはいうまでもない。
【0059】
図5は表1の鋼番2の成分の溶鋼を溶製した際の脱硫フラックス添加後の溶鋼環流回数と、得られた溶鋼の鋳造後の鋳片から熱間圧延した後に鋼板断面1平方mm当たりの20ミクロン以上の介在物個数との関係を調査した結果を示す。図5に示すように環流回数1.5回以上で脱硫用フラックス系介在物の浮上が顕著に促進され、粗大介在物(20ミクロン以上)を一定個数以下(1平方mm当たり0.3ケ以下)とすることが可能となり、穴広げ率を向上させることができるのである。
【0060】
次に本発明鋼を熱延鋼板にて得る場合の、熱間圧延工程における仕上圧延の温度条件について検討した。図6(a)〜(e)は、仕上出側温度(℃)と引張強さ(TS)、穴広げ率(%)、伸び(%)、引張強さ×穴広げ率(MPa)及び引張強さ×伸び(MPa)とのそれぞれの関係を示す図である。仕上出側温度が920℃以下の領域では、仕上出側温度が高くなるに従って、TSは増大し、穴広げ率と伸びは劣化するため、高強度(TS)と成形性(穴広げ率、伸び)の両立を果たすことができない。しかし、仕上出側温度が920℃超の領域になると、仕上出側温度が高くなるに従って、引張強さの増大傾向は顕著となり、さらに穴広げ率は向上傾向に転ずる。従って、仕上出側温度が920℃超では、従来不可能であった高強度と優れた穴広げ率の両立が可能となった。一方、伸びは、920℃超の領域でも劣化傾向にはあるが、強度−伸びバランス(TS×伸び)としては劣化傾向が緩和され、好ましい傾向に転ずる。即ち、920℃を境にして、ミクロ組織の均一性等が顕著に良好となり成形性が著しく改善されるのである。
【0061】
これらの結果からして、仕上出側温度が920℃超では、優れた強度−穴広げバランス、及び優れた強度−伸びバランスを得ることができる。
【0062】
従って、本発明では仕上出側温度を920℃超とした。また、仕上入側温度は組織の均一性等の視点から1000℃以上とすることが必要である。
【0063】
また、鋼板の板幅方向の引張強さTSの偏差ΔTSを100(好ましくは50)MPa以下とするために、仕上圧延出側における板幅方向の温度偏差を20(好ましくは10)℃以下にすることが必要である。そのために仕上圧延前又は仕上圧延中に鋼板を加熱装置によって加熱してもよい。この際の加熱装置としては、ガス加熱、直接通電加熱等が考えられるが、加熱制御性に優れた誘導加熱装置が好ましい。さらに、特に板幅中央部や板幅端部の温度低下がある場合には、板に対して上/下にコイル鉄心が独立し、板幅方向で部分的に昇温量を可変でき、板幅方向の温度均一制御性に優れたトランスバース型誘導加熱装置を用いることが特に好ましい。
【0064】
それによりハイテン適用時の成形上の大きな課題であった形状凍結性に関しても顕著な改善が図れる。即ち、ΔTSの低減によりプレス成形品でのスプリングバック増大等の寸法精度の劣化(いわゆる形状凍結性の劣化)の改善が可能となるのである。
【0065】
なお、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの最大長を低減させるために、仕上圧延の圧下率を90%以上とすることが望ましい。
【0066】
仕上圧延後の冷却テ−ブルにおける条件は特に規定しないが、組織の均一性向上、ミクロ組織の微細化促進のため、仕上圧延出側での直後冷却や強冷却等の冷却速度の増大手段を実施してもよい。また、ミクロ組織面積率の制御を狙って、一般的に知られている冷却速度の多段制御(急冷、緩冷、等温保持の組み合わせ)や巻取温度制御を実施してもよい。
【0067】
巻取温度は穴広げ率向上に有害な炭化物の生成及びミクロ組織粗大化を抑制するために、その上限を600℃とする。巻取温度が600℃を超えると、優れた強度−穴広げバランス(引張強さ×穴広げ率)が得られなくなる。強度−穴広げバランスは巻取温度が低い方が改善する傾向にあり、強度−穴広げバランスの観点からは450℃以下とすることが望ましい。また、強度−伸びバランスの観点からは350℃以下で劣化傾向となるので、穴広げと伸びの両立という視点からは350〜450℃が好ましい。
【0068】
さらに、巻取後の鋼板の冷却は放冷をおこなってもよいし、強制冷却でもよい。
【0069】
なお、圧延に供する鋼片はいわゆる冷片再加熱、HCR、HDRのいずれであっても構わない。また、いわゆる薄肉連続鋳造による鋼片であっても構わない。
【0070】
また、本発明による鋼板にZn等のめっきを施し耐食性の向上を図ったり、潤滑剤等を塗布しプレス成形性の一層の向上を図ってもよい。
【0071】
【実施例】
供試鋼のFe以外の化学成分を表2に示す。鋼番1〜10が本発明の鋼成分を満たす例で鋼番11〜12が比較例である。
【0072】
供試鋼の製鋼及び熱間圧延における製造条件を表3に示す。鋼番1の1、1の6及び2〜10が本発明例で他は比較例である。なお、鋼番1の1〜1の7は、鋼番1の鋼を用いて製造条件を異ならせた例である。得られた熱延鋼板のミクロ組織を表4に、そして鋼の機械的性質を表5に示す。
【0073】
なお、特性評価やミクロ組織評価は以下の方法で実施した。
【0074】
引張試験はJIS5号にて実施し、引張強度(TS)、降伏強度(YS)、降伏比(YR=YS/TS×100)、全伸び(T.EL)、強度−伸びバランス(TS×T.EL)を求めた。
【0075】
穴広げ率は日本鉄鋼連盟規格JFS T1001−1996により求めた。
【0076】
ミクロ組織の構成同定と面積率の測定、パーライト、残留オ−ステナイト、マルテンサイトの最大長の測定はナイタ−ル試薬、特開昭59−219473号公報に開示された試薬及び特開平5−163590号公報で開示された試薬により鋼板圧延方向断面を腐食した倍率1000倍の光学顕微鏡写真とX線解析により行った。
【0077】
鋼板内の介在物は研磨仕上げした鋼板圧延方向断面を顕微鏡観察(倍率400倍)し、最大長が20ミクロン以上の粗大介在物の数を積算した。
【0078】
X線解析により残留オーステナイト面積率(Fγ:単位は%)を算出する場合はMo−Kα線により次式に従い、算出した。
Fγ(%)=(2/3){100/(0.7×α(211)/γ(220)+1)}+(1/3){100/(0.78×α(211)/γ(311)+1)}
但し、α(211)、γ(220)、α(211)、γ(311)は面強度を示す。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
本発明例(鋼番1の1、1の6及び2〜10)では、優れた強度−穴広げバランス(TS×λ)と優れた強度−伸びバランス(TS×T・EL)を兼備したプレス成形性の優れた熱延高強度熱延鋼板が得られている。
【0084】
一方、比較例(鋼番1の2〜1の5、1の7及び11〜12)はそれぞれ表2〜表5に記載のように本発明範囲外であるため、機械的特性が低いものしか得られなかった。
【0085】
【発明の効果】
本発明により強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板とその製造方法を低コストかつ安定的に提供することが可能となったため、使用用途・使用条件が格段に広がり、工業上、経済上の効果は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】穴広げ率に及ぼす化学成分Pの影響を示す図である。
【図2】穴広げ率に及ぼすミクロ組織(パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイト)の最大長の影響を示す図である。
【図3】穴広げ率に及ぼす介在物個数の影響を示す図である。
【図4】RHを用いた場合の溶鋼溶製の模式図である。
【図5】介在物個数に及ぼす脱硫用フラックス添加後の溶鋼環流回数の影響を示す図である。
【図6】鋼板の性質と仕上出側温度の関係を示す図である。
【符号の説明】
1 溶鋼鍋
2 脱ガス槽
3 浸漬管
4 インジェクションランス
Claims (14)
- 化学成分として、質量%で
C:0.02〜0.16%、
P≦0.010%、
S≦0.003%、
SiとAlの内の1種又は2種を合計量で0.2〜4%、
Mn、Ni、Cr、Mo、Cuの内の1種又は2種以上を合計量で0.5〜4%を含み、
C/(Si+Al+P)が0.1以下で、
残部Fe及び不可避的不純物よりなる鋼板であって、該鋼板断面のミクロ組織として、マルテンサイトと残留オーステナイトの内の1種又は2種を合計面積率で3%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種を合計面積率で80%以上、残部がパーライトよりなると共に、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの最大長が10ミクロン以下であり、さらに、鋼板断面内に20ミクロン以上の介在物が1平方mm当たり0.3ケ以下であることを特徴とする強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。 - ベイナイト硬さ(Hv)/フェライト硬さ(Hv)が1.0〜1.3であることを特徴とする請求項1記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
- パ−ライト面積率が7%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種の合計面積率が90%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
- 化学成分として、質量%で
さらにNb、V、Tiの内の1種又は2種以上を合計量で0.3%以下含むことを特徴とする請求項1〜3に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。 - 化学成分として、質量%で
さらにBを0.01%以下含むことを特徴とする請求項1〜4の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。 - 化学成分として、質量%で
さらにCa、REMの内の1種又は2種を、
Caにおいては0.01%以下、
REMにおいては0.05%以下、
含むことを特徴とする請求項1〜5の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。 - 化学成分として、質量%で、さらに
N:0.02%以下を含むことを特徴とする請求項1〜6の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。 - 鋼板の板幅方向の引張強さTSの偏差ΔTSが100MPa以下であることを特徴とする請求項1〜7の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板。
- 質量%で、
C:0.02〜0.16%、
P≦0.010%、
S≦0.003%を含み、
SiとAlの内の1種又は2種を合計量で0.2〜4%含み、
Mn、Ni、Cr、Mo、Cuの内の1種又は2種以上を合計量で0 .5〜4%含み、
C/(Si+Al+P)が0.1以下で、
残部Fe及び不可避的不純物よりなる成分の鋼板で、該鋼板断面のミクロ組織として、マルテンサイトと残留オーステナイトの内の1種又は2種を合計面積率で3%未満、フェライトとベイナイトの内の1種又は2種を合計面積率で80%以上、残部がパーライトより なると共に、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトの最大長が10ミクロン以下であり、さらに、鋼板断面内に20ミクロン以上の介在物が1平方mm当たり0.3ケ以下である熱延鋼板の製造方法であって、
溶鋼を溶製するに際し、溶鋼脱硫時の脱硫用フラックス添加後に二次精錬装置内溶鋼の1回の還流量の1.5倍以上の還流量になるように溶鋼を二次精錬装置内に環流させ、さらに該溶鋼の鋳造後に得られた鋼片を熱間圧延して鋼板を製造するに際し、仕上圧延を仕上入側温度≧1000℃、仕上出側温度>920℃、かつ仕上圧延の圧下率を90%以上で実施し、600℃以下で得られた鋼板を巻き取ることを特徴とする強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。 - 化学成分として、質量%で
さらにNb、V、Tiの内の1種又は2種以上を合計量で0.3%以下含むことを特徴とする請求項9に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。 - 化学成分として、質量%で
さらにBを0.01%以下含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。 - 化学成分として、質量%で
さらにCa、REMの1種又は2種を、
Caにおいては0.01%以下、
REMにおいては0.05%以下、
含むことを特徴とする請求項9〜11の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。 - 仕上圧延出側における板幅方向の温度偏差を20℃以下にすることを特徴とする請求項9〜12の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
- 仕上圧延出側における板幅方向の温度偏差を20℃以下となるように仕上圧延前又は仕上圧延中に鋼板を加熱することを特徴とする請求項9〜12の内のいずれかに記載の強度−穴広げ率バランスと形状凍結性に優れた加工用高強度熱延鋼板の製造方法。
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