JP3793254B2 - 成形性に優れた冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用のパネル部品のような深絞り加工に供せられる成形性の優れた冷延鋼板の製造方法に関するものである。なお、ここでの冷延鋼板には表面処理原板も含む。
【0002】
【従来の技術】
深絞り用鋼板の標準的な製造工程を以下に記載する。本発明は、極低炭素鋼を対象にしているので、その製造工程を中心に説明する。
高炉から得られる銑鉄は4%程度のCを含むが、純酸素を吹き込むことにより転炉精錬段階で、0.05%程度まで低減される。極低炭素鋼を製造するには、その後、真空脱ガス装置での脱炭が行なわれ、最近では10ppm 程度までCを下げることが可能になってきた。現在、日本ではほとんどの深絞り用鋼板が連続鋳造により製造されている。連続鋳造で製造されたスラブは、3つのルートで熱間圧延へ供される。1つはCC−DR(Continuous Casting and Direct Rolling)と称され、再加熱することなしに直接熱延される場合で、熱エネルギー的には最も効率的なルートである。この場合、鋳片の温度が大きく下がらないように、設備的な対策が必要なことと、鋳片の手入れができないため、表面品質の劣化を招く可能性があるなどの欠点もある。
深絞り用鋼板は、外板に使用されることが多いため、表面品質は特に厳しいので、現在のところCC−DRはほとんど適用されていない。
【0003】
2つ目のルートは、スラブを冷塊にし、その後加熱炉で再加熱して熱間圧延に供するルートである。
3つ目は、1つ目と2つ目の中間で、スラブを完全に冷やす前に加熱炉に入れる方式で、HCR(Hot Charge)と称されている。スラブ温度がγ→α変態を起こす前に、再加熱される場合をAルート、一度γ/α変態点以下になる場合をBルートと名付けられている。深絞り用極低炭素鋼は、通常2つ目あるいは3つ目のBルートで製造されている。再加熱の温度は、1150〜1250℃が一般に採用されている。
【0004】
熱間圧延は、一般に数回の粗圧延を行なった後、5〜7スタンドの連続熱間圧延機でAr3 変態点以上の仕上温度で行ない、板厚2〜4mmの熱延板を製造する。巻取温度は、極低炭素鋼の場合は700℃以上の高温の方が炭窒化物が粗大に析出するため材質の観点からは好ましいが、酸洗性の劣化や材質のバラツキが起きやすい欠点があるため、600℃以下の低温巻取でも高温巻取に匹敵する材質が得られる技術の開発が要望されている。
冷却は、γ→α変態の時に速く冷やすことにより熱延組織を微細にできるため、ROT(Run-out Table)の前段で急冷する方式がよく用いられる。
【0005】
熱延コイルは、放冷後、酸洗され、冷間圧延により0.8mm前後の板厚に仕上げられる。冷延コイルは、電解洗浄により表面に付着した油などを取り除いてから焼鈍に供される。
通常、焼鈍は、生産性の観点より連続焼鈍によって行なわれる。しかし、連続焼鈍炉の通板には、幅や厚さの制限があるため、一般に、箱焼鈍も併用されている。
【0006】
深絞り用鋼板は、表面処理を施されて製品となることが多い。主な表面処理は、溶融亜鉛めっきと各種の電気めっきである。また、自動車のガソリンタンクには、鉛、錫合金の溶融めっきであるターンめっきが施される。電気めっき用鋼板とターンめっき用鋼板の場合は上記の焼鈍を完了した冷延鋼板を原板として用いるが、溶融亜鉛めっきの鋼板の場合は、焼鈍前の冷延鋼板を原板として用い、連続焼鈍と溶融めっきを炉中で行なうことができる連続溶融めっきラインで、焼鈍と表面処理を同時に行なう。
焼鈍されたコイルは、形状矯正とプレスの際に生じるストレッチャーストレインの発生を防止するために、1%程度の調質圧延に供される。
【0007】
以上の標準的な製造工程に対して、最近、IF鋼で熱間圧延を一部Ar3 変態点以下で積極的に行なう技術が開発されている(例えば、特開昭61−119621号公報、特開昭59−96228号公報、特開平5−339643号公報参照)。その理由は、従来のようにAr3 変態温度以上での仕上圧延を狙っていて、偶然操業上のトラブルなどでAr3 変態温度以下で若干熱延された場合は、成品板の材質が劣化するが、熱延条件を工夫するとAr3 変態温度以上で仕上圧延された材料と同等もしくはそれ以上の材質を得ることができることが分かってきたためである。
【0008】
しかし、この場合、熱延板を再結晶させることが必要となる。そのため、再結晶温度以上の高温巻取が必須になる。高温巻取は、スケールの生成が著しく、それを除去する酸洗時間が長くなることや、Pの粒界偏析が顕著になり2次加工性の劣化を招くなどの欠点が生じる。一方、低温で巻き取ったのでは優れた特性を得ることが難しい。
そこで、これらの問題点を解決する方策として、低温巻取した熱延板を連続焼鈍により再結晶処理することが考えられるが、この場合は、製造コストが高くなる経済的欠点がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高温巻取をすることなしに、再結晶を促進させ、高温巻取相当の材質を達成し、高温巻取に伴い発生する問題点である酸洗性および2次加工性の劣化を回避する成形性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、フェライト域熱延の再結晶に関する研究を重ね、加工発熱が生じた場合に顕著な再結晶の促進が起こるという新しい知見を得た。一見、加工発熱により温度が上昇するのであるから、再結晶が促進するのは当たり前と考えられるが、再結晶の促進状態を定量的に検討すると、単に材料が高温状態に置かれたことによって再結晶が促進したと考えるだけでは理解できないほど再結晶が促進することが分かった。この原因は明確ではないが、加工によって加えられたエネルギーが原子を励起し、熱エネルギーの変わる時、その原子の励起が再結晶の促進に影響を与えるのかと推測される。
【0011】
本発明は、この現象を利用したもので、その要旨とするところは、
重量比で C :0.01%以下、 Si:1%未満、
Mn:1%未満、 P :0.1%未満、
N:0.01%以下、 Al:0.005%以上、1.0%以下、
必要に応じBを0.0002%以上、0.005%以下を含み、
Ti,Nbのいずれか一方または双方をC/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001なる条件を満足するように含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱延する際に、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で、合計圧下率が70%以上の圧延を、必要に応じ潤滑を施し摩擦係数を0.2以下として行ない、仕上温度が730℃以上で、かつ加工発熱で連続熱延中の最低温度より30℃以上高い温度で仕上圧延し、605℃以下で巻き取り、その後通常の酸洗、冷延、焼鈍を行なうことを特徴とする成形性に優れた冷延鋼板の製造方法にある。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、CおよびN量を0.01%以下としたのは、これ以上の添加は加工性の劣化を招くためである。
C,N,Ti,Nbの添加量の間にC/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001の関係式を満足するように限定したのは、この条件を満足することにより、鋼中のC,Nを大部分TiあるいはNbの炭窒化物として析出させることができ、冷延時ならびに焼鈍時の集合組織形成がr値に好ましい結果になるためである。
【0013】
Alの含有量の下限を0.005%としたのは、脱酸を十分に行なうためである。上限は加工性の観点で限定した。
Bは、2次加工性の向上に寄与するので用途によっては、その効果が明瞭に現われる0.0002%以上の添加が必要である。また、過剰の添加は加工性を劣化するので、上限を0.005%とした。
【0014】
他の成分については、強度を高め、加工性を著しく悪くしない範囲でMn<1%、Si<1%、P<0.1%を添加する。
【0015】
熱延条件において、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が70%以上の圧延を行なうとしたのは、Ar3 変態点未満で熱延された材料を、Ar3 変態点以上で仕上圧延された材料と同等あるいはそれ以上の材質とするために、深絞り用鋼板として好ましい再結晶集合組織の形成に70%以上の合計圧下率が必要なためである。
【0016】
加工発熱により連続熱延中の最低温度より30℃以上高い仕上温度で圧延すると限定したのは、加工発熱による温度上昇が30℃以上になることにより、再結晶が顕著に促進するためである。また、この際、仕上温度を730℃以上としたのは、例え加工発熱による温度上昇が30℃以上になっても、仕上温度が730℃未満になると再結晶がしにくくなるためである。加工発熱による温度上昇は、通板速度、ロール温度、圧下率の増加、圧延温度の低下などによって達成でき、どの手段を用いてもよい。
【0017】
また、このAr3 変態点以下の熱延を、潤滑を施し摩擦係数を0.2以下にして行なうとしたのは、これにより成品板のr値が顕著に上昇するためである。この理由は、表層のせん断変形によって形成される深絞り性に好ましくない集合組織が摩擦係数を小さくすることにより、深絞り性に好ましい集合組織に変化するためである。摩擦係数の下限は、特に限定しないが、鋼板の通板性を著しく劣化させないためには、摩擦係数を0.05以上に保つことが好ましい。
【0018】
巻取温度の上限を605℃としたのは、これを超える温度で巻き取ると酸洗性や2次加工性の劣化を回避することができないためである。なお、本発明によると、巻き取り前にほぼ再結晶は終了しているので、強いて巻取温度の下限を設定する必要はない。常温で巻き取れれば、生産性が高く好ましい。
【0019】
本発明で特に限定しなかった製造条件については従来技術で記した標準的な製造方法に準ずる。
【0020】
【実施例】
本発明の実施例を、比較例と共に説明する。
実施例には表1に示した成分組成を有する鋼を用いた。鋼種A〜Eは、本発明鋼、F,Gは比較鋼である。熱延・巻取条件と成品板のr値、デスケーリング時間、2次加工割れ延性−脆性遷移温度を表2に示す。デスケーリング時間は、希塩酸に熱延板を浸し、スケールがなくなるまでの時間である。2次加工割れ延性−脆性遷移温度は、絞り比1.7で円筒に絞った円柱を頂角30度の円錐ポンチで押し込んだ時に、円柱壁面の破壊する形態が延性的から脆性的に遷移する温度とした。
【0021】
仕上圧延中の最低の温度としては、各スタンド間に放射温度計を設置して測定した温度の最低値をとった。
その他の製造条件で、スラブ加熱温度は、通常圧延材の場合、1200℃前後、仕上温度がAr3 変態点以下の圧延の場合は、1000〜1100℃の範囲、冷延率は80%、焼鈍温度は840℃、スキンパス率は1%であった。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
本発明の範囲を満足した実験番号1,2,3,6,9,13,15,17,19の材料は、高いr値を示すだけでなく、酸洗時間も短く、耐2次加工性も優れている。一方、従来法で製造された実験番号11と12の材料は、低温巻取ではr値が低く、高温巻取では酸洗性、耐2次加工性が悪い。仕上温度が低かった実験番号4では、熱延板が十分に再結晶しなかった可能性が高く、高いr値が得られなかった。
【0025】
Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が60%と低い実験番号5の材料は、適正な集合組織が発達しなかったためか、r値が低い。仕上温度から仕上圧延中の最低温度を引いた値が本発明の範囲外である実験番号7,8,14,16,18,20では、熱延板が十分に再結晶しなかったためか、高いr値が得られなかった。巻取温度が高い実験番号10の材料は、酸洗性、耐2次加工性が悪かった。また、本発明鋼の範囲を逸脱した鋼を用いた実験番号21,22では、高いr値が得られなかった。
【0026】
【発明の効果】
本発明により、スラブ加熱温度に要するエネルギー消費量を低減できるだけでなく、材質面においても、優れた加工性を持つ超成形性鋼板を製造することができ、工業的に価値の高い発明である。
Claims (3)
- 重量比で
C :0.01%以下、
Si:1%未満、
Mn:1%未満、
P :0.1%未満、
N :0.01%以下、
Al:0.005%以上、1.0%以下を含み
Ti,Nbのいずれか一方または双方:C/12+N/14<Ti/
48+Nb/93+0.0001
なる条件を満足するように含有し、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱延する際に、Ar3 変態点未満、700℃以上の温度で合計圧下率が70%以上であり、仕上温度が730℃以上で、かつ加工発熱により連続熱延中の最低温度より30℃以上高い温度で仕上圧延し、605℃以下で巻き取り、その後通常の酸洗、冷延、焼鈍を行なうことを特徴とする成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。 - Ar3 変態点以下、700℃以上の温度で合計圧下率が70%以上の圧延を、潤滑を施し摩擦係数を0.2以下として行なうことを特徴とする請求項1記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
- 鋼スラブが、さらに、重量比で、B:0.0002%以上、0.005%以下含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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