JP3544770B2 - 成形性に優れた冷延鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性に優れた冷延鋼板の製造方法に関するものであり、特に自動車用のパネル部品のような深絞り加工に供せられる成形性に優れた冷延鋼板の製造方法に関するものである。なお、ここでの冷延鋼板は、表面処理原板として利用することもできるものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明は極低炭素鋼を対象としているので、その製造工程を中心にして、深絞り用鋼板の標準的な製造工程を以下に説明する。
高炉から得られる銑鉄は4%程度のCを含むが、純酸素を吹込むことにより、転炉精錬段階で、C含有量は0.05%程度まで低減される。極低炭素鋼を製造するには、その後、真空脱ガス装置で脱炭処理が行われるが、最近では、そのC含有量を10ppm程度まで下げることが可能になってきた。
【0003】
現在、我が国では、殆どの深絞り用鋼板が連続鋳造により製造されている。連続鋳造で製造されたスラブは、3つのルートで熱間圧延へ供される。1つは、CC−DR(Continuous Casting and Direct Rolling)と称され、再加熱することなしに直接熱延される場合で、熱エネルギー的には最も効率的なルートである。この場合、鋳片の温度が大きく下がらないように、設備的な対策が必要なことと、鋳片の手入れができないため、表面品質の劣化を招くおそれがあるなどの欠点もある。深絞り用鋼板は、外板に使用されることが多いため、表面品質は特に厳しいので、現在のところCC−DRはほとんど適用されていない。また、2つ目のルートは、スラブを冷塊にし、その後、加熱炉で再加熱して熱間圧延に供するルートである。さらに、3つ目のルートは、1つ目のルートと2つ目のルートの中間で、スラブを完全に冷やす前に加熱炉に入れる方式であり、HCR(Hot Charge)と称されている。スラブ温度がγ→α変態を起こす前に再加熱される場合をAルート、一度γ/α変態点以下になる場合をBルートと称している。深絞り用極低炭素鋼は、通常、2つ目あるいは3つ目のBルートで製造されている。再加熱の温度は、1150〜1250℃が一般に採用されている。
【0004】
熱間圧延は、一般に、数回の粗圧延を行った後、5〜7スタンドの連続熱間圧延機でAr変態点以上の仕上温度で行い、板厚2〜4mmの熱延板を製造する。巻取温度は、極低炭素鋼の場合は700℃以上の高温の方が炭窒化物が粗大に析出するため材質の観点からは好ましいが、酸洗性の劣化や材質のバラツキが起きやすいという欠点があるため、600℃以下の低温巻取でも高温巻取に匹敵する材質が得られる技術の開発が要望されている。
【0005】
冷却は、γ→α変態の時に速く冷やすことにより熱延組織を微細にできるため、ROT(Run−out Table)の前段で急冷する方式がよく用いられる。
熱延コイルは、放冷後、酸洗され、冷間圧延により0.8mm前後の板厚に仕上げられる。冷延コイルは、電解洗浄により表面に付着した油などを取り除いてから、焼鈍に供される。通常、焼鈍は生産性の観点より、連続焼鈍によって行われる。しかし、連続焼鈍炉の通板には幅や厚さの制限があるため、一般に、箱焼鈍も併用されている。
【0006】
深絞り用鋼板は、表面処理を施されて製品となることが多い。主な表面処理は、溶融亜鉛めっきと各種の電気めっきである。また、自動車のガソリンタンクには、鉛の溶融めっきであるターンめっきが施される。電気めっき用鋼板とターンめっき用鋼板の場合は、上記の焼鈍材を原板として用いるが、溶融亜鉛めっき鋼板の場合は、冷延鋼板を原板として用い、連続焼鈍と溶融めっきを炉中で行うことができる連続溶融めっきラインで、焼鈍と表面処理を同時に行う。
【0007】
焼鈍されたコイルは、形状矯正とプレスの際に生じるストレッチャーストレインの発生を防止するために、1%程度の調質圧延に供される。
以上の標準的な製造工程に対して、最近、IF鋼で熱間圧延を一部Ar変態点以下(フェライト域)で積極的に行う技術が開発されている。その際、潤滑圧延を行うと深絞り性が向上することが明らかになり(特開昭59−59827号公報)、圧延安定性の観点より、熱間粗圧延材を先行する熱間粗圧延材に接続して連続的に熱間仕上圧延をする技術(特開平4−224635号公報)が開示されている。この技術は、従来注目されていなかった熱延での集合組織制御を積極的に利用したもので、深絞り性に有利な集合組織を形成するためには、熱延板を再結晶させることが必要となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のIF鋼をAr変態点以下で仕上圧延し、その後、再結晶させる技術の場合、既存のホットストリップ設備で巻取ると、ランアウトテーブルが長いために板温度が低下して巻取処理だけでは再結晶が十分に起こらず、優れた特性を得ることが難しい。これらの問題点を解決する方策として、熱延板を連続焼鈍により再結晶処理することが考えられるが、この場合は、製造コストが高くなるという経済的な欠点がある。
【0009】
また、熱間仕上圧延をフェライト域で行うためには、スラブ加熱温度を低くしないと、熱間粗圧延後に温度が所定の値になるまで粗圧延材を冷却しなくてはならず、その温度待ちに時間をとられて生産性を阻害する。ただし、スラブ加熱温度を低くし過ぎると、加熱時のスケールの形成が十分に起きず、デスケーリングによって表面欠陥が十分に除去されないという欠点もある。
【0010】
本発明は、上記課題を有利に解決して、従来の生産速度と同等か、あるいはそれ以上の生産性で、より優れた深絞り性を有する成形性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨とするところは下記のとおりである。
(1)重量比で、C:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.005%以上、1.0%以下を含み、TiおよびNbの何れか一方または双方をC/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001なる条件を満足するように含有する鋼のスラブを熱間圧延する際に、Ar変態点+100℃以下、Ar変態点以上の温度で、合計圧下率が50%以上の熱間仕上圧延を、潤滑を施して摩擦係数が0.2以下の条件で行い、熱間仕上圧延後、800℃までの平均冷却速度を15℃/sec以上とし、780℃以下の温度で巻取り、その後、通常の酸洗をした後、50%以上、95%以下の圧下率で冷間圧延を行い、再結晶焼鈍を施すことを特徴とする成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0012】
(2)鋼成分として、さらに、重量比で、B:0.0002%以上、0.005%以下を含むことを特徴とする前項(1)記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
(3)熱間粗圧延後、先行材と後行材とを接合して熱間仕上圧延することを特徴とする前項(1)または(2)記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0013】
(4)熱間粗圧延後、先行材と後行材とを接合して熱間仕上圧延するとともに、熱間仕上圧延機と巻取機間の張力を5MPa以上とすることを特徴とする前項(1)または(2)記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、CおよびN量を0.01%以下としたのは、C、Nの添加量がそれぞれ0.01%を超えると、加工性の劣化を招くためである。
【0014】
C、N、Ti、Nbの添加量の間で、C/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001の関係式を満足するように限定したのは、この条件を満足することにより、鋼中のC、Nを大部分TiあるいはNbの炭窒化物として析出させることができ、冷延時ならびに焼鈍時の集合組織形成がr値に好ましい結果になるためである。
【0015】
Alの含有量の下限を0.005%としたのは、脱酸を十分に行うためである。また、Alの含有量の上限1.0%は、加工性の観点から限定した。
Bは2次加工性の向上に寄与するので、用途によっては、その効果が明瞭に現われる0.0002%以上の添加が必要である。また、過剰の添加は加工性を劣化させるので、Bの上限を0.005%とした。
【0016】
他の成分については特に限定しないが、強度を高め、加工性を著しく悪くしない範囲であるMn≦1.5%、Si≦1%、P≦0.1%の添加は、本発明の趣旨を何ら損なうものではない。
熱間圧延条件において、Ar変態点+100℃以下、Ar変態点以上の温度で、合計圧下率が50%以上の熱間仕上圧延を、潤滑を施して摩擦係数が0.2以下の条件で行うとしたのは、本発明の最も重要な技術的特徴である。
【0017】
フェライト域(α域)熱延で潤滑圧延を行うのは、表層部に働くせん断ひずみ成分を極力低減して、中心層と類似の{111}方位の強度が高い集合組織を形成させるためであったが、オーステナイト域(γ域)熱延ではこのような観点での集合組織制御は行われていなかった。その原因は、γ域で形成された集合組織は変態によりランダム化され、有効な集合組織制御が困難であると考えられていたためである。
【0018】
本発明者は、γ域熱延での集合組織制御の研究を精力的に行い、この既成概念を打ち破ることに成功した。すなわち、γ域熱延においても表層近傍ではせん断ひずみの影響で中心層とは異質の集合組織が形成され、変態後もその相違は残存することを明らかにした。そして、3mm厚のγ域で圧延された現場の熱延板の表層部15%の板厚の試験片と中心層で同様の板厚の試験片を切り出し、r値を測定した結果、表層部ではr=0.72、中心部でr=1.15と差異があることを確認した。そこで、表層部の集合組織形成を中心部のそれに近づけるために潤滑圧延を行ったところ、r値の向上が可能なことが明らかになった。しかしながら、顕著な深絞り性の向上を確保するには、表層部に深絞り性に好ましい集合組織が形成されることが前提であり、以下の条件が整わなければならないことが明らかになった。
【0019】
すなわち、(1)まず、ロールと圧延板の間の摩擦係数が0.2以下になることが必要である。これは、表面のせん断ひずみを低減することを意味し、潤滑圧延により達成できる。
(2)次に、潤滑圧延での全圧下率が小さいと集合組織の形成が不十分で高いr値が得られない。50%以上の圧下を1パスあるいは多パスにより加えることにより、r値の向上が明確に現われる。
【0020】
(3)さらに、その圧延の温度が高すぎると再結晶、粒成長が顕著に起きて集合組織の尖鋭化が阻まれ、高いr値が得られにくいので、Ar変態点+100℃を上限とする。また、本発明での集合組織形成は、メカニズムが同じγ域での圧延を利用することを前提にしているので、熱延温度の下限はAr変態点とする。
【0021】
以上の条件を満足することにより、従来にない熱延板の集合組織制御が可能となった。
熱間仕上圧延後の冷却条件は、800℃までの冷却速度が小さいと熱延板の結晶粒が粗大化して冷延板のr値を劣化させるので、熱間仕上圧延後800℃まで平均冷却速度を15℃/sec以上と限定した。
【0022】
巻取温度は、780℃を超えると焼付きを起こすおそれがあるので、上限を780℃とした。
潤滑圧延では、ロールバイトへの噛み込みの際、噛み込み不良やスリップなどが起ることが多く、このため1スラブ毎に圧延する場合、ホットストリップの先端が巻取られるまで潤滑を施さないのが一般的な操業である。しかし、この場合、無潤滑部と潤滑部が長手方向で存在し、それらの特性が互いに異なるため、品質管理上支障を来たすことがある。その対策として、粗圧延後、先行の粗圧延材に該粗圧延材を接合し、連続的に熱間圧延を行えば、無潤滑部をなくすことができるので好ましい。これにより品質の安定性が確保できる。
【0023】
また、仕上圧延機と巻取機までの張力を5MPa以上にするとr値の向上が見られる。ただし、過剰な張力を加えると板破断を起こすおそれがあるので、張力の上限は50MPaにすることが好ましい。
冷延率の下限を50%としたのは、50%未満の冷延率では優れた深絞り性が得られないためであり、また上限を95%としたのは、95%超の冷延率を達成するには冷延機の能力を大きくする必要があり、設備コストが多大になるためである。
【0024】
再結晶焼鈍については、連続焼鈍でも箱焼鈍でも構わない。また、連続焼鈍の後半で溶融めっきを施すことも本発明の趣旨を損なうものではない。もちろん、焼鈍後、電気めっきなどの表面処理を施すことも本発明の趣旨を損なうものではない。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、実施例により説明する。
実施例には、表1、表2(表1のつづき)に示した成分組成を有する鋼を用いた。鋼種A〜Fは本発明鋼、G、Hは比較鋼である。プロセス条件と成品板のr値を表3、表4(表3のつづき)に示す。
【0026】
その他の製造条件については、スラブ加熱温度は1200℃、スキンパス率は1%とした。
【0027】
【表1】
Figure 0003544770
【0028】
【表2】
Figure 0003544770
【0029】
【表3】
Figure 0003544770
【0030】
【表4】
Figure 0003544770
【0031】
本発明の範囲を満足する実験番号1、2、3、5、6、8、9、12、13、15、16、18、20、22、24の材料は、高いr値を示す。一方、γ域熱延時に摩擦係数を0.2以下にしなかった実験番号7、17、19、21、23、25の材料は、潤滑圧延により摩擦係数をほぼ半減した材料に比べてr値が約0.18〜0.32程度劣化した。Ar変態点+100℃以下、Ar変態点以上の温度での摩擦係数が0.2以下の熱間仕上圧延の全圧下率が40%と低かった実験番号4の材料のr値は、無潤滑圧延材に比べて顕著な向上は見られなかった。熱間仕上圧延後、800℃までの平均冷却速度が10℃/secと遅かった実験番号10の材料のr値も比較的低い。仕上温度がAr変態点未満になった実験番号11の材料のr値は、本発明の範囲を満足した材料に比べて低い。冷延率が40%と小さかった実験番号14の材料のr値も低い。
【0032】
本実施例で、実験番号1、5、8、16、17は、熱間圧延する際に、粗圧延後、先行の粗圧延材に該粗圧延材を接合して、連続的に熱間仕上圧延したものである。その際の仕上圧延機と巻取機間の張力は、通常20MPa前後であるが、実験番号8では、故意にその張力を3MPaにして圧延した。他の条件はほぼ同じ実験番号1の材料に比べて、実験番号8の材料は若干r値が低下した。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、熱間圧延時の圧延荷重ならびにトルクを潤滑圧延により低減できるだけでなく、材質面においても冷延鋼板の深絞り性を向上でき、本発明は工業的に価値の高い発明である。

Claims (4)

  1. 重量比で、C:0.01%以下、N:0.01%以下、Al:0.005%以上、1.0%以下を含み、TiおよびNbの何れか一方または双方をC/12+N/14<Ti/48+Nb/93+0.0001なる条件を満足するように含有する鋼のスラブを熱間圧延する際に、Ar変態点+100℃以下、Ar変態点以上の温度で、合計圧下率が50%以上の熱間仕上圧延を、潤滑を施して摩擦係数が0.2以下の条件で行い、熱間仕上圧延後、800℃までの平均冷却速度を15℃/sec以上とし、780℃以下の温度で巻取り、その後、通常の酸洗をした後、50%以上、95%以下の圧下率で冷間圧延を行い、再結晶焼鈍を施すことを特徴とする成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
  2. 鋼成分として、さらに、重量比で、B:0.0002%以上、0.005%以下を含むことを特徴とする請求項1記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
  3. 熱間粗圧延後、先行材と後行材とを接合して熱間仕上圧延することを特徴とする請求項1または2記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
  4. 熱間粗圧延後、先行材と後行材とを接合して熱間仕上圧延するとともに、熱間仕上圧延機と巻取機間の張力を5MPa以上とすることを特徴とする請求項1または2記載の成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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