JP3789504B2 - ε−カプロラクタムの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、出発原料をシクロヘキセンとしたε−カプロラクタムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ε−カプロラクタムは、シクロヘキサノンオキシムをベックマン転位することにより製造されており、原料となるシクロヘキサノンオキシムは、シクロヘキサノンとヒドロキシルアミンとを反応させて製造するのが一般的である。
【0003】
従来、ε−カプロラクタムの原料となるシクロヘキサノンは、まず、シクロヘキサンを分子状酸素で酸化してシクロヘキサノールとシクロヘキサノンの混合物を製造し、さらに混合物中のシクロヘキサノールを脱水素反応してシクロヘキサノンとする方法、または、フェノールを部分水素還元し、転位反応によりシクロヘキサノンを製造する方法等により工業的に生産されていた。
【0004】
近年、シクロヘキサノールを工業的に生産する方法として、シクロヘキセンをゼオライト系触媒の存在下で水和する方法が注目されている。かかる反応自体は昭和40年代から知られているが、工業的規模での生産は最近になってようやく行われるようになった(化学経済,1993年3月号,40〜45頁参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
シクロヘキセンからシクロヘキサノールを製造する方法は、工業的規模での実施が可能であればコスト的に非常に有利であり、シクロヘキサノールの好ましい製造方法と考えられる。しかしながら、当該方法で得られたシクロヘキサノールを原料とするシクロヘキサノンから製造されたε−カプロラクタムは、従来の他の方法で得られたシクロヘキサノンから製造されたε−カプロラクタムと異なり、品質においてシクロヘキセンからの製造方法における特有の問題が存在することが本発明者らの研究によって明らかとなった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、脱水素反応に供されるシクロヘキサノール中のメチルシクロペンタノールを200ppm以下に制御することにより、従来の原料を用いて製造したε−カプロラクタムと遜色のないε−カプロラクタムが得られることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、シクロヘキセンの水和反応により得られるシクロヘキサノールを脱水素反応によりシクロヘキサノンとし、次いで、ヒドロキシルアミンと反応させてシクロヘキサノンオキシムとし、更にベックマン転位させてε−カプロラクタムを製造する方法において、脱水素反応に供されるシクロヘキサノール中に含まれるメチルシクロペンタノールを200ppm以下とすることを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法に存する。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法では、まずシクロヘキセンと水を反応させてシクロヘキサノールとする。シクロヘキセンの水和反応は触媒として、通常、固体酸触媒を用いて反応を行う。固体酸触媒としては、通常、ゼオライトやイオン交換樹脂などが挙げられ、ゼオライトとしては、結晶性のアルミノシリケートやアルミノメタロシリケート、メタロシリケート等の種々のゼオライトが利用でき、特にペンタシル型のアルミノシリケートまたはメタロシリケートが好ましい。メタロシリケートに含まれる金属としては、チタン、ガリウム、ジルコニウム、ハフニウム等の金属元素が例示できるが、中でもガリウムが好ましい。
【0008】
水和反応方法としては、例えば、流動床式、撹拌回分方式または連続方式等一般的に用いられる方法で行われる。連続方式の場合は、触媒充填連続流通式及び撹拌槽流通式のいずれも使用可能である。反応温度は、シクロヘキセンの水和反応の平衡の面や副反応の増大の面からは低温が、また反応速度の面からは高温が有利である。最適温度は、触媒の性質によっても異なるが、通常50〜250℃である。
【0009】
以上のシクロヘキセンの水和反応で得られたシクロヘキサノールには、通常、メチルシクロペンタノールが微量含まれている。本発明者らの検討によれば、驚いたことに、このメチルシクロペンタノールは、シクロヘキサノール中に微量残存していても該シクロヘキサノールを用いて、最終的にε−カプロラクタムを製造した場合に、製品ε−カプロラクタムの品質を著しく損なうことが判明した。この原因の一つとして、シクロヘキサノール中に残存したメチルシクロペンタノールがオキシム化反応の工程でメチルシクロペンタノンオキシムとなり、製品ε−カプロラクタムに混入することが考えられる。このメチルシロペンタノンオキシムはベックマン転位により、メチルバレロラクタムに変換されるが、メチルバレロラクタムはε−カプロラクタムを重合して得られる6−ナイロンの色を悪化する成分であることが知られている。これらのメチルシクロペンタノンオキシムやメチルバレロラクタムはシクロヘキサノンオキシムまたはε−カプロラクタムと分離することが困難である。そこで、本発明では、シクロヘキサノール中のメチルシクロペンタノールを200ppm以下、好ましくは150ppm以下となるようにして脱水素反応に供することを特徴とする。
【0010】
本発明において2−メチルシクロペンタノールおよび3−メチルシクロペンタノールとを合わせてメチルシクロペンタノールという。メチルシクロペンタノールがシクロヘキサノールに含まれている理由としては、シクロヘキセンの水和反応の際に転位反応が起きて、シクロヘキサノールの異性体であるメチルシクロペンタノールが生じるものと推測される。
【0011】
メチルシクロペンタノールの含有量が200ppm以下であるシクロヘキサノールを得る方法としては、水和反応に用いる原料や触媒、反応条件等を厳選して、メチルシクロペンタノールの含有量が200ppm以下になるようにしてもよいし、メチルシクロペンタノールを多く含むシクロヘキサノールを蒸留等によって精製してもよい。
【0012】
本発明では以上のようなメチルシクロペンタノールの含有量が200ppm以下のシクロヘキサノールを脱水素反応に供し、シクロヘキサノンとする。シクロヘキサノールの脱水素反応は従来公知の方法のいずれでもよいが、一般的には、脱水素触媒の存在下、200〜750℃に加熱することにより行われる。脱水素触媒としては、銅−クロム系酸化物、銅−亜鉛系酸化物などが例示できる。この反応は平衡反応であり、生成物はシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物として得られるので、蒸留等により、シクロヘキサノンとシクロヘキサノールを分離して、回収されたシクロヘキサノールは再度脱水素反応にリサイクルされる。
【0013】
こうして得られたシクロヘキサノンは、公知の反応条件で、ヒドロキシルアミンと反応させてシクロヘキサノンオキシムとする。ヒドロキシルアミンは単独では不安定な化合物なので、通常、ヒドロキシルアンモニウムの硫酸塩や硝酸塩の形で使用される。例えば、水溶液中または非水溶液中でシクロヘキサノンとヒドロキシルアンモニウム塩を反応させ、シクロヘキサノンオキシムとする。
【0014】
次いで、シクロヘキサノンオキシムは、公知の方法によりベックマン転位させてε−カプロラクタムとする。例えば、濃硫酸中または発煙硫酸中でベックマン転位させてε−カプロラクタム硫酸塩とした後、アルカリで中和する方法、シクロヘキサノンオキシムを固体触媒存在下、気相もしくは液相でベックマン転位さる方法、液相で触媒が均一に溶解した状態でベックマン転位させる方法等が挙げられる。いずれの方法においても、通常、得られたε−カプロラクタムは蒸留や晶析等により精製して製品とする。
【0015】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り実施例に限定されるものではない。なお、実施例中におけるメチルシクロペンタノールの定量はキャピラリーカラムによるガスクロマトグラフィーにより行った。
【0016】
実施例1
[シクロヘキセンの水和反応]
撹拌翼を備えたオートクレーブに触媒としてガリウムシリケート(Si/Ga原子比=25/1)、シクロヘキセン15重量部、水30重量部、水和反応触媒10重量部を入れ、窒素雰囲気下、120℃で1時間反応させシクロヘキサノール混合物を得た。このシクロヘキサノール混合物はシクロヘキサノールに対してメチルシクロペンタノールを350ppm含有していた。シクロヘキサノールの収率は10.8%であった。
【0017】
[シクロヘキサノールの精製]
上記反応で得られたシクロヘキサノール混合物を10段蒸留してシクロヘキサノールを精製した。精製シクロヘキサノールはシクロヘキサノールに対してメチルシクロペンタノールを50ppm含有していた。
【0018】
[シクロヘキサノールの脱水素反応]
上記の精製シクロヘキサノールを気化して、250℃に設定された銅−亜鉛触媒を充填した管状反応器に、反応圧力0.07MPa、GHSV(ガス空間速度)2.4hr-1で供給して脱水素反応を行った。シクロヘキサノンの収率は60%であった。
【0019】
[シクロヘキサノンオキシムの製造]
ジャケット付き撹拌槽中、45%ヒドロキシルアミン硫酸塩水溶液を85℃に保持し、上記のシクロヘキサノンを滴下した。この時、反応溶液がpH4.0〜4.5となるようにアンモニア水を同時に滴下した。シクロヘキサノンの滴下終了後、反応を完結させるため30分撹拌した。静置後、油相をシクロヘキサノンオキシムとして採取した。シクロヘキサノンオキシム中に含まれる水分は減圧下で脱水した。
【0020】
[ベックマン転位反応]
ジャケット付き撹拌槽に上記のシクロヘキサノンオキシムと25%発煙硫酸(オリウム)とをベックマン転位液の酸度が57%、遊離のSO3濃度が7.5%になるような比率で、滞留時間が1時間になるように供給し、反応温度80〜85℃となるよう撹拌、冷却しながらベックマン転位反応を行った。
【0021】
得られたベックマン転位液は温度70℃で、アンモニア水を用いてpH7.0〜7.5とし中和した。
次いで、中和されたベックマン転位液は、シクロヘキサノンオキシムが全量ε−カプロラクタムに転位したと仮定したときの、ε−カプロラクタム濃度が18重量%になる量のベンゼンを用いて抽出した。抽出は分液ロートに中和液、ベンゼンを入れ、10分間震とう後、5分間静置後、油相のみを採取した。水相はさらに2回ベンゼンにて抽出した。次いで、常法によりベンゼンを留去して粗ラクタムを得た。
【0022】
最後に粗ラクタムを蒸留により精製した。蒸留は粗ラクタムに適量の25%苛性ソーダを添加した後、初留10重量%、主留80重量%、釜残10重量%の3部分に分けて採取し、主留分を品質評価の対象とした。
【0023】
[ε−カプロラクタムの品質評価方法]
得られたε−カプロラクタムの品質を以下の方法で評価した。
PZ(過マンガン酸塩価)
ε−カプロラクタム試料1gを水100mlに溶解し、これに0.01N−過マンガン酸カリウム水溶液1mlを加え撹拌し、比較標準液(塩化コバルト(CoCl2・6H2O)3.000gと硫酸銅(CuSO4・5H2O)2.000gを水で1000mlに希釈したもの)と同一色になるまでの秒数。
【0024】
PM(過マンガン酸塩消費量)
ε−カプロラクタム100gを8M硫酸150mlに溶解した溶液を0.1N過マンガン酸カリウム水溶液を用いて滴定し、過マンガン酸カリウムの消費量を測定し、ml/kg・ε−カプロラクタムの単位で表示した。
【0025】
VB(揮発性塩基)
2N苛性ソーダ水溶液400mlにε−カプロラクタムを30g溶解して1時間煮沸し、発生する分解ガスおよび蒸留水を、0.02N塩酸水溶液4mlを溶解した脱塩水500ml中に吹き込ませる。その後、この脱塩水を0.1N苛性ソーダで滴定し、塩酸の減少分をアンモニア換算した数値。
結果を表−1に示す。
【0026】
比較例1
実施例1のシクロヘキサノールの精製のうち、蒸留を単蒸留とした他は実施例1と同様に行った。脱水素反応に供したシクロヘキサノール中のシクロヘキサノールに対するメチルシクロペンタノールの含有量は300ppmであった。
ε−カプロラクタムの品質評価結果を表−1に示す。
【0027】
実施例2
精製シクロヘキサノールにメチルシクロペンタノール100ppm添加し、シクロヘキサノール中のシクロヘキサノールに対するメチルシクロペンタノールの含有量を150ppmとした他は実施例1と同様に行った。
ε−カプロラクタムの品質評価結果を表−1に示す。
【0028】
比較例2
精製シクロヘキサノールにメチルシクロペンタノール200ppm添加し、シクロヘキサノール中のシクロヘキサノールに対するメチルシクロペンタノールの含有量を250ppmとした他は実施例1と同様に行った。
ε−カプロラクタムの品質評価結果を表−1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、従来の品質に劣らないε−カプロラクタムを安価に製造することが可能となり、産業上有用である。
Claims (1)
- シクロヘキセンの水和反応により得られるシクロヘキサノールを脱水素反応によりシクロヘキサノンとし、次いで、ヒドロキシルアミンと反応させてシクロヘキサノンオキシムとし、更にベックマン転位させてε−カプロラクタムを製造する方法において、脱水素反応に供されるシクロヘキサノール中に含まれるメチルシクロペンタノールを200ppm以下とすることを特徴とするε−カプロラクタムの製造方法。
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