JP3789147B2 - 脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はトロンボモジュリンを有効成分とする脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
脊髄は脊柱内に保護されている神経で、脳脊髄神経系にとっても自立神経系にとっても第一の、かつ原始的な中枢をなす。脊髄神経の起始に一致して、頚椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎に区別される。ひとたび脊髄が損傷すると、損傷した部位それぞれに対応する例えば運動障害、知覚障害等の神経障害が起こる。脊髄損傷の多くは外傷性で、その原因は交通事故、スポーツ、労災などである。非外傷性のものとしては、炎症、出血、腫瘍、脊椎変形などが原因となる。脊椎の骨折、脱臼、捻挫等により脊髄が損傷されると、損傷部をまたがるほとんどの刺激伝導に障害が起き、運動麻痺、知覚麻痺をはじめ尿路、性器、気道障害、自立神経機能、代謝にも障害をきたす。
【0003】
脊髄損傷に対する治療としては、対症療法につきるといっても過言ではない。脊椎の脱臼骨折などの脊髄損傷に対しては、機械的な脊椎の固定により早期に支持性を確保し機能の再建に役立てる。初期の脊髄ショックの時期には安静、固定をはじめ尿路対策、辱創予防が緊急事項となる。尿路障害に対しては、尿路の確保とともに抗生剤投与による厳重な尿路感染の予防が大切である。辱創の発生後は抗生剤投与、局所の除圧、体位変換と洗浄を行う。むちうち損傷の受傷初期は頚部の安静、免荷固定をはかるのが第一で、頚椎カラーなどにより固定するとともに消炎酵素剤、筋弛緩剤、循環促進剤、ビタミン剤などを投与する。
【0004】
このように、脊髄損傷後の神経障害に対する根本治療を目的として使用されている薬剤はこれまでにない。
一方、トロンボモジュリンは、トロンビンと特異的に結合しトロンビンの血液凝固活性を阻害すると同時にトロンビンのプロテインC活性化能を著しく促進する作用を有する物質で、強力な血液凝固阻害作用を有することが知られている。トロンボモジュリンは、従来血栓症及びDICなどの凝固亢進を伴う疾患の治療、予防に有効であることが動物実験により証明されている[K.Gomiら Blood 75.1396−1399(1990)]。
【0005】
当初トロンボモジュリンは血管内皮細胞膜上に存在する糖蛋白質であることが確認されていたが、近年では遺伝子工学技術を用いて生産されることも行われている。ヒトトロンボモジュリンのcDNAのクローニングについては先に明らかにされているが(S.Yamamotoら 国際公開番号WO88/05033)。、トロンボモジュリンはN末端からドメイン1(N末端ドメイン)、ドメイン2(EGFドメイン)、ドメイン3(O−glycosylation site richドメイン)、ドメイン4(膜貫通ドメイン)、ドメイン5(細胞内ドメイン)からなっていることや、トロンボモジュリンの活性最小単位はドメイン2内のEGFドメイン4,5,6番目であることが確かめられており、トロンボモジュリンの部分ペプチドも血栓症及びDICなどの凝固亢進を伴う疾患の治療に有効であると考えられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、トロンボモジュリンについて、血栓症やDICなど凝固亢進を伴う疾患以外の疾患に対する適用例は未だ報告されていない。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、このような脊髄損傷後の神経障害の治療について鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、トロンボモジュリンが脊髄損傷後の神経障害の治療に有効であることを見出した。すなわち、実験的に第12胸椎の脊髄を重錘で圧迫し後肢の麻痺を起こさせるラットの脊髄損傷後の神経障害モデルにおいて、トロンボモジュリンを投与したところ、麻痺の程度の指標となるTarlovのスコアの著明な改善を認めた。このモデルは、脊髄損傷後の神経障害の臨床像の再現可能なモデルと考えられていることから(Tarlovら:Arch.Neurol.Psychiat 71,p.271−290(1954))、脊髄損傷後の神経障害の有効な治療剤としての本治療剤の発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、トロンボモジュリンを有効成分とする脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤である。
本発明でトロンボモジュリンとはトロンビンと結合してトロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を有するものを意味し、例えばヒト由来のトロンボモジュリン又はその断片であってもよい。また、配列番号1の配列で表されるアミノ酸配列又は、その相同変異体を少なくとも含有する蛋白質が好ましい例として挙げられる。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列からなる蛋白質が好ましい例として挙げられるし、また配列番号2のアミノ酸配列からなる蛋白質が好ましい例として挙げられる。これらの蛋白質は可溶性であって、本発明の治療剤の製造および使用時に特に好ましいが、可溶性であればその他の蛋白質も好ましい例として挙げられる。
上記した配列番号1や配列番号2などの、播く貫通ドメイン(疎水性領域)であるドメイン4の無いアミノ酸配列を有するトロンボモジュリンは、界面活性剤等の処理をせずとも水性媒体に可溶である。従って、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するトロンボモジュリンを用いると、本発明の治療剤の製造および使用に際して操作が容易であり、特に好ましい。
本発明で「可溶性である」とは、トロンボモジュリンペプチドを界面活性剤で処理をせずとも、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用が検知される程度の濃度に水性媒体中に溶解する性質を意味し、例えば0.1M食塩、2.5mM塩化カルシウム、1mg/ml血清アルブミンを含有するpH7.4の20mMトリス塩酸緩衝液中にトロンビン及びプロテインCを存在させ、検体試料を添加させて、トロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を測定するに際し、この条件下で、プロテインCの活性化が検出され該トロンボモジュリンの量が検知できる程度の濃度、例えば少なくとも10ng/ml以上の濃度、に溶解される性質が例示される。
【0009】
またその他に、ヒトトロンボモジュリンの細胞内ドメインも含む557個のアミノ酸配列を有する蛋白質も好ましい例として挙げられる。
本発明におけるトロンボモジュリンは、トロンビンと結合してトロンビンによるプロテインCの活性化を促進する作用を有する限り特に限定されず、特に上記のアミノ酸配列と相同性を有する相同変異体も含有するものである。相同変異体は、上記アミノ酸配列の一部が置換、欠損等により変異したものであり、該相同変異体の相同性の程度は、通常は60%以上が例示され、好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上が挙げられる。また、これらの蛋白質は、糖鎖を含んでいてもいなくてもよく、特にコンドロイチン硫酸糖鎖を含んでも含まなくてもよい。
【0010】
トロンボモジュリンは公知の方法、例えば〔S.Yamamotoら、国際公開番号WO88/05033〕に記載されている方法又は〔M.Zushiら、J.Biol.Chem.266、19886−19889(1991)〕に記載されている方法,又は[C.T.EsmonらJ.Biol.Chem.257、859ー864(1982)]に記載されている方法を用いることにより製造することができる。
【0011】
本発明で脊髄損傷後の神経障害とは、何らかの原因で、頚椎、胸椎、腰椎等の脊椎の骨折、脱臼、捻挫等により脊髄が損傷され、その結果損傷部をまたがるほとんどの刺激伝導に障害が起き、運動障害、知覚障害等を起こす疾患を総称する。
【0012】
本発明の脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤を製造するに際しては、有効量のトロンボモジュリンを、薬剤として使用可能な担体と混合することにより調製すればよい。すなわち、上記の疾患を治療するのに有効な量のトロンボモジュリンを公知の適当量の担体と混ぜて、患者に効果的に投与するのに適した医薬組成物を調製することができる。例えば、本発明の治療剤を注射剤として用いる場合にはショ糖、グリセリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤、各種無機塩のpH調節剤などを添加物として加えて調製することができる。本医薬組成物はペプチド医薬に一般に使用されている投与法、すなわち、非経口投与法、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などによって投与することが望ましい。また、経口投与、直腸内投与、鼻内投与、舌下投与なども可能である。
【0013】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度、投与経路などによっても異なるが、一般的に0.001〜20mg/kgの範囲であり、一日当たり一回または必要に応じて数回投与する。
【0014】
【実施例】
以下に実施例及び参考例を挙げ、この発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
【実施例 1】
ウイスター系ラット(雄、体重200ー250g)を用い、麻酔後第12胸椎レベルの脊髄を20gの重錘で20分間圧迫することによって、脊髄損傷モデルを作製した。トロンボモジュリンあるいはヘパリンを含有する被検液(TMD123 2mg/kg相当量を生理食塩水に溶解したもの;TMD123とは[S.Yamamotoら、国際公開番号W088/05033]の実施例10及び20で実施した蛋白質でアミノ酸配列としては配列番号2からなる蛋白質、あるいはヘパリン300u/kg相当量を生理食塩水に溶解したもの)は損傷30分前に尾静脈より投与した。運動機能評価下記のはTarlovの評価法を用いて損傷24時間後に判定した。好中球集積の指標として脊髄組織中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を損傷3時間後に測定した。なお、被検液のかわりに生理食塩水のみを投与した群を設け対照群とした。
Tarlovの評価法
0:随意運動無し(完全麻痺)
1:間接運動を認める
2:良好な間接運動を認めるが、起立不能
3:起立と歩行可能
4:跳躍及び疾走可能
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すようにTMD123の投与群のラットでは生理食塩水投与群のラットと比較して、Tarlovのスコアーが顕著に高かった。また、脊椎損傷3時間後で、生理食塩水投与群のMPO活性は704.2 ±203.7u/ml であったが、TMD123投与群では281.5 ±101.0u/ml に減少していた。ヘパリン投与群では709.3±320.0u/mlであった。以上の結果から、TMD123が脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤として有用であることが示された。
【0018】
【実施例 2】
実施例1と同様に、ウイスター系ラット(雄、体重200ー250g)を用い、麻酔後第12胸椎レベルの脊髄を20g の重錘で20分間圧迫することによって、脊髄損傷モデルを作製した。
トロンボモジュリンを含有する被検液(TME456を生理食塩水に溶解したもの;TME456とは[M. Zushiら, J. Biol. Chem. 266, 19866-19889 (1991)]の方法に従って作製した蛋白質でアミノ酸配列としては配列番号1からなる蛋白質)を尾静脈より損傷後前30分から6時間後まで持続点滴(100ng/kg/min)した。運動機能評価下記のはTarlovの評価法を用いて損傷24時間後に判定した。好中球集積の指標として脊髄組織中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を損傷3時間後に測定した。なお、被検液のかわりに生理食塩水のみを投与した群を設け対照群とした。
【0019】
【表2】
【0020】
表2に示すようにTME456の投与群のラットでは生理食塩水投与群のラットと比較して、Tarlovのスコアーが顕著に高かった。また、脊椎損傷3時間後で、生理食塩水投与群のMPO活性は704.2 ±203.7u/ml であったが、TMD123投与群では297.1 ±105.3u/ml に減少していた。以上の結果から、TME456が脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤として有用であることが示された。
【0021】
【実施例 3】
TMD123及びTME456の単回投与毒性試験をラット(n=5)を用いて実施した。180mg/kgでも雌雄ともに死亡は発現しなかった。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば脊髄損傷後の神経障害に対する有用な治療剤が提供できる。
【0023】
【配列表】
【0024】
【配列表】
Claims (3)
- トロンボモジュリンを有効成分とする脊髄損傷後の神経障害に対する治療剤。
- トロンボモジュリンが、配列番号1または配列番号2で表されるアミノ酸配列を少なくとも含有する蛋白質である請求項1に記載の治療剤。
- トロンボモジュリンが、ヒト由来のトロンボモジュリンである請求項1に記載の治療剤。
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