JP3789002B2 - ワニスレストランス部材からのpcb含有再生絶縁油の除去方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、PCB(ポリ塩素化ビフェニル)を含有する再生絶縁油(以下、単に絶縁油と称する。)を使用した配電用柱上トランスの廃棄処理技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PCBは優れた電気絶縁特性を有するものであるため、過去において電気絶縁体として広く利用されていた。また熱媒体、感圧紙などとしても広く利用されていた。しかしながら、PCBは使用後廃棄されても分解せず、大気・水・土壌などを汚染し、食品を介して人体に入り、人体でも分解されにくく排泄も遅いため蓄積する。また1969年に食用米ぬか油の製造工程でPCBが油に混入し、多数の中毒患者が発生する事件があり、現在、PCBの製造は禁止されている。
【0003】
従来、使用済みの配電用柱上トランスは、傾倒抜油した後、有価物として処理業者により鉄類、銅類が回収され、有効再利用されてきた。その分解、解体にはトランスを原形のまま焼却し、残存する鉄類、銅類を回収していたが、PCBを含有している絶縁油を使用したトランスについては安全な処理方法が確立されるまで使用者の責任として保管することが義務づけられている。その量が膨大なために早期の処理方法の確立が要望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、PCBを含有する絶縁油を使用したワニスレストランスを対象としてトランス部材より絶縁油とともにPCBを検出されない程度まで除去し、当該物を有価物として処理する技術を提供することにある。本発明はまた、この処理技術における最適運転条件について提示することにより、複雑な操作を必要とせずかつ効率的にトランス部材より絶縁油とともにPCBを除去する技術を提供することにある。本発明はさらに、PCBが大気に放出されることなく安全にかつ安定に処理を行なえる処理技術を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決する本発明は、PCBを含有する絶縁油を使用したワニスレストランス部材からのPCB含有絶縁油の除去方法であって、当該トランス部材から予め吸引ないし滴下抜油した後、トランス部材を真空加熱炉に入れ、当該真空加熱炉を温度190〜210℃、真空度0.05Torr以下に設定し、この設定条件下に10時間以上保持することによりトランスの構成部材から絶縁油とともにPCBを蒸発除去し、PCB含有絶縁油の除去されたトランス部材を有価物として利用することを特徴とする。
【0007】
本発明の上記除去方法においてはさらに、前記真空加熱炉が、その排気系に冷却手段および気液分離手段を備えてなり、前記真空加熱炉においてトランスの構成部材より蒸発除去された絶縁油およびPCBは、当該冷却手段を通過することにより冷却液化され、さらに気液分離されることにより、大気中にPCBが放出されないものである。
【0008】
さらに本発明の上記除去方法において、ワニスレストランス部材のうち、紙および木類からなる部材のみを解体・裁断した後、前記したような真空加熱炉における処理を行なうようにしている。この場合、PCBないし絶縁油の除去が比較的困難なこれらの材質からなる部材においても良好な除去が行なえることから望ましいものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本発明は、配電用柱上ワニスレストランスを処理対象物として、真空加熱分離方式によりトランス部材よりPCBを絶縁油とともに蒸発除去し、トランス部材を有価物として有効利用するものである。
【0011】
本発明の除去方法においては、まず、配電用柱上ワニスレストランスからできる限りPCBを含有する絶縁油を吸引ないし滴下抜油する。例えばワニスレストランスの廃物を原姿のままポンプ等の吸引装置によりある程度PCB含有絶縁油を抜油した後、さらに傾倒して滴下抜油する。滴下抜油処理の条件としては、特に限定されるものではないが、約30〜50℃、代表的には例えば約40℃にて、12〜24時間、代表的には例えば約16時間程度保持することが好ましい。なお、上記ではトランスを原姿のまま処理することを例示したが、トランスを構成する部材を一部ないし全部解体して処理することも可能である。
【0012】
続いて、このようにして、PCBを含有する絶縁油を吸引ないし滴下抜油されたトランスないしトランス部材を真空加熱炉に入れ、加熱、減圧することによりトランス部材に残留する絶縁油およびPCBを蒸発除去する。真空加熱炉における処理条件としては、鉄類、銅類、磁器類、紙木類等のトランス構成部材に残留するPCB量を例えば底質調査法(昭和63年、環水管127号、定量下限値0.05mgPCB/kg部材)を準用して測定することによって、これらの部材でほぼ定量下限値未満となる条件が採用される。トランスを原姿のまま処理し、鉄類、銅類、磁器類、紙木類等のいずれのトランス部材におけるPCB残量をほぼ定量下限値未満で、除去率として99%以上を可能とする条件は、真空加熱炉を温度190〜210℃、真空度0.05Torr以下に設定し、トランス中心部の温度が前記設定温度に達してから10時間程度保持することである。なお、保持時間をより延長化して10時間以上とすれば、PCB除去率がより高まることが期待できるが、例えば40時間を越えて処理しても、処理時間が延長化されて処理効率が低下する割に除去率の向上があまり期待できない。ゆえに、10〜12時間程度の処理で十分である。なお、トランス部材を一部解体したり、金属・磁器類からなる部材のみを対象として絶縁油およびPCBの除去を行なうことを目的とするならば、真空保持時間は10時間以下でも十分に目的を達成し得る。また、紙・木類からなる部材について、より良好な除去を達成するためには、真空加熱処理に先立ち、これらの部材のみを解体・裁断しておくことが望ましい。
【0013】
そして、このようにして真空加熱炉において蒸発除去された絶縁油およびPCB成分は、その排気系において冷却好ましくは冷却コンデンサ等の冷却手段を持って冷却して、凝縮させ、その後、気液分離手段により排気ガスから捕集分離回収することにより、大気中にPCBを放出させることなく、安全かつ安定に処理を行なうことができる。なお、気液分離装置としては、特に限定されるものではないが、好ましくは例えば、ジグザク分離板、充填層等を有するミストセパレータ、静電集塵方式のミストコレクター、さらに活性炭その他の吸着剤を配してなる吸着装置等を多段に配して、気液分離することが好ましい。
【0014】
尚、上述の各例は本発明の好適な実施の形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0015】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る真空加熱分離方式によるトランス部材よりのPCBの除去方法の一実施例における処理プロセスを装置工程と共に示すフロー図である。
【0017】
この実施例においては、供試トランスを原姿のまま処理するものであり、図1に示すように、前処理設備、真空加熱分離設備、絶縁油回収設備及び排気安全対策設備とから成り、そこで以下の前処理工程と、常圧加熱工程と、真空加熱分離工程及び強制冷却工程とが実施される。
【0018】
(i)前処理工程
供試トランス1から吸引ポンプ2を用いてPCBの含まれている絶縁油をある程度抜油し、絶縁油回収容器3(例えば、ドラム缶)に回収する。次いで、供試トランス1をトランス固定台27に固定し、105度に傾倒させ、供試トランス1に残留する絶縁油を同様に回収容器4に滴下抜油する。さらにトランス固定台27ごと供試トランス1をコンディショニング室5に入れ、例えば室温を約40℃まで上げてこれを16時間程度保持し、PCBの含まれている絶縁油をできる限り滴下除去し、回収容器6に回収する。
【0019】
(ii)常圧加熱工程
上述の前処理を行なった供試トランス1を、真空加熱分離設備の真空加熱炉7にトランス台ごと搬入し、部材中に残留するPCBを含有する絶縁油と共に蒸発除去する。この実施例においては、減圧分離に先立って、温度の上昇を早め真空加熱時間を短縮するため常圧にて加熱する。例えば、常圧で110℃程度まで炉内温度を上昇させる。そして、炉内が所定温度に達した後、これを一定時間例えば30分保持する。尚、真空加熱炉7においても、供試トランス1が傾倒保持されて滴下除去された絶縁油が、回収容器8に回収される構成とされている。
【0020】
因みに、この実施例に係る装置においては、この真空加熱炉7より導出される排気系9には、真空加熱炉7側より順に遮断弁10、冷却コンデンサ11、ミストセパレータ12、真空ポンプ13、作動油ミストセパレータ14が設けられている。さらに冷却コンデンサ11には、底部ドレン排出弁15を有して延長された管路16により回収容器17に接続されており、またその冷媒管路は、冷却装置18を有する循環管路19に接続されている。またミストセパレータ12にも同様に、底部ドレン排出弁20を有して延長された管路21により回収容器22に接続されている。そして、これらの部材により絶縁油回収設備を構成している。尚、図中の符号28,29は加熱装置である。
【0021】
さらに、排気系9には、前記作動油ミストセパレータ14より先に排気安全対策設備として、静電ミストセパレータ23および活性炭吸着装置24が配置されており、大気中へ放出される排気ガス中にPCBが残留しないように配慮してある。
【0022】
また、排気系9のミストセパレータ12と真空ポンプ13との間から分岐した循環管路は、切替弁25、冷却ガス循環ブロワ26を有して真空加熱炉7へと延長されている。
(iii) 真空加熱分離工程
真空加熱炉7における絶縁油およびPCBの除去操作は、トランス1を真空加熱炉7に装入後、炉内が所定の温度条件および真空度に達するまで加熱、減圧を行ない、トランス1の中心部温度が所定温度となったところから所定時間真空加熱を行う。例えば、真空ポンプを運転し、発火防止のため7torrまで減圧した時点で炉内温度を110℃から上昇させるとともに炉内圧力をさらに減圧させる。そして、炉内圧力が0.05torr以下で供試トランス1のコイル表面近傍の温度が200℃、かつその温度と鉄心・コイル間中心部との温度差が10℃以下に達した時点から10時間保持(真空保持時間という)する。この際に冷却コンデンサ出口温度を5℃以下に保ち蒸発してくる絶縁油およびPCBを冷却回収する。
【0023】
(iv)強制冷却工程
真空加熱終了後、炉内圧力が500torrになるまで炉内に窒素ガスを吹き込み、炉内とコンデンサ間を強制循環して冷却時間を早くするための強制冷却を行い、供試トランス1の温度を60℃以下になるまで冷却する。
【0024】
以上のような構成を有する装置を用いて、以下に示すような実験を行なった。
(1)最適絶縁油除去条件の選定
PCB除去試験に先立ち、絶縁油の除去状況を把握することによりPCB除去条件を選定するため実トランスを用いての試験を行ない以下の結果を得た。
【0025】
i)加熱温度の影響
20kVAワニスレストランスを用いて、真空度は0.05Torr以下、真空保持時間を10時間に固定し、真空加熱温度を180℃、190℃および200℃と変化させて試験を行なった。この試験で得た絶縁油を除去しにくい部材である紙・木類製部材の残留絶縁油量の結果を表1に示す。この表より、真空加熱温度が180℃より200℃に向って上昇するほど残留絶縁油量は減少している。なお、加熱温度が220℃になるとトランス部材の紙・紙類に炭化の現象が観察されることにより、最適な真空加熱温度は200℃付近であることが明らかとなった。本発明に係る装置の運転条件は、温度測定のバラツキ等を考慮して190〜210℃の範囲が最適である。
【0026】
【表1】
【0027】
ii)真空加熱時間の影響
20kVAワニスレストランスを用いて真空度は0.05Torr以下、真空加熱温度を200℃に固定し、真空保持時間を2時間および10時間で試験を行なった結果を表2に示す。この表より、金属・磁器類の残留絶縁油量は真空保持時間が2時間でも10時間でも大きな差はないが、紙・木類は真空保持時間の影響を大きく受け、真空保持時間が長いほど残留絶縁油量が少なくなった。これより、トランスを解体することなく、紙・木類の残留絶縁油量をできる限る少なくするように考慮すると真空保持時間は10時間程度が最適とみなせる。しかし、トランス部材を一部解体したり、金属・磁器類のみを対象として絶縁油の除去を行なうことを目的とするならば、真空保持時間は10時間以下でも十分に目的を達成し得る。
【0028】
【表2】
【0029】
iii)トランス容量の影響
真空度は0.05Torr以下、真空加熱温度を200℃、真空保持時間を10時間で固定し、20kVA、75kVAおよび100kVAのワニスレストランスを用いてトランス容量が絶縁油の除去率に与える効果について試験を行なった結果を表3に示す。この表より、残留絶縁油量はトランス容量で大きな差は無いことが明らかであり、容量の異なるトランスでも同一条件にて処理が可能であることが明らかとなった。
【0030】
【表3】
【0031】
iV)考察
これらの結果より、トランスを解体することなく、絶縁油とともにPCBを除去するための条件としては、真空加熱温度は190〜210℃の範囲、圧力は0.05Torr以下で、トランス中心部の温度が約190℃になってから10時間程度保持することが最良であるとの結論を得た。
(2)トランス部材からのPCB除去試験結果
図1に示すシステムを用いて上記最適条件の下、20kVAのワニスレストランスを真空加熱処理した際の各部材に残留したPCB量を測定した。得られた結果を表4に示す。この表より明らかなごとく、ワニスレストランスの残留PCB量は、鉄類、銅類および磁器類はすべて定量下限値未満、紙類の絶縁紙で定量下限値未満から定量下限値の0.05mg/kg、木類で定量下限値未満から0.27mg/kg、ガスケットで定量下限値から0.04mg/kgである。
【0032】
なお、上記試験で、PCBが検出された部材である紙・木類について部材を解体し、5mm角程度まで裁断して、真空加熱処理を行ない、得られた結果についても同表に示した。これより、紙・木類についても定量下限値未満とすることが可能であることが確認された。
【0033】
【表4】
【0034】
(3)システムの安全性確認
図1に示すシステムにおいて、排気中のPCB量を活性炭吸着装置の出口および入口付近で、排気全量を液体酸素による低温捕集法により凝縮捕集し測定した。その結果、両者とも検出限界値未満(0.0001mg/m3 N未満)であり、システムの安全性は確保されていることが明らかとなった。
【0035】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、PCB含有絶縁油を用いたワニスレストランスから予め吸引ないし滴下抜油した後、トランス部材を真空加熱炉に入れ、当該真空加熱炉を温度190〜210℃、真空度0.05Torr以下に設定し、この設定条件下に10時間以上保持することによりトランスの構成部材から絶縁油とともにPCBを蒸発除去処理することにより、安全にトランス部材に残留しているPCBをほとんど除去できるものである。さらに、本発明において、前記真空加熱炉がその排気系に冷却手段および気液分離手段を備えてなり、前記真空加熱炉においてトランスの構成部材より蒸発除去された絶縁油およびPCBは、当該冷却手段を通過することにより冷却液化され、さらに気液分離されることにより、大気中にPCBを放出することなく安全に処理を実行できるものである。また、さらにトランスのすべての部材について残留PCB量を定量下限値未満とすることを要求されるならば、部材のうちの紙・木類のみを解体・裁断し、真空加熱処理することによりすべての部材についてPCB量は定量下限値未満とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る真空加熱分離方式によるトランス部材よりのPCBの除去方法の一実施例における処理プロセスを装置工程と共に示すフロー図である。
【符号の説明】
1 トランス
5 コンディショニング室
7 真空加熱炉
9 排気系
10 遮断弁
11 冷却コンデンサ
12 ミストセパレータ
13 真空ポンプ
14 作動油ミストセパレータ
23 静電ミストセパレータ
24 活性炭吸着装置
Claims (3)
- PCBを含有する再生絶縁油を使用したワニスレストランス部材からのPCB含有再生絶縁油の除去方法であって、当該トランス部材から予め吸引ないし滴下抜油した後、トランス部材を真空加熱炉に入れ、当該真空加熱炉を温度190〜210℃、真空度0.05Torr以下に設定し、この設定条件下に10時間以上保持することによりトランスの構成部材から絶縁油とともにPCBを蒸発除去し、PCB含有絶縁油の除去されたトランス部材を有価物として利用することを特徴とするワニスレストランス部材からのPCB含有再生絶縁油の除去方法。
- 前記真空加熱炉が、その排気系に冷却手段および気液分離手段を備えてなり、前記真空加熱炉においてトランスの構成部材より蒸発除去された絶縁油およびPCBは、当該冷却手段を通過することにより冷却液化され、さらに気液分離されることにより、大気中にPCBが放出されないことを特徴とする請求項1に記載のワニスレストランス部材からのPCB含有再生絶縁油の除去方法。
- 前記ワニスレストランス部材のうち、紙および木類からなる部材のみを解体・裁断した後、前記したような真空加熱炉における処理を行なうものである請求項1または2に記載のワニスレストランス部材からのPCB含有再生絶縁油の除去方法。
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