JP3788513B2 - 固相基板上への分子の固定化方法およびそれを用いるバイオセンサの製造方法 - Google Patents

固相基板上への分子の固定化方法およびそれを用いるバイオセンサの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、固相基板上への分子の固定化方法、特に複数の分子を単一の基板に固定化する方法、およびそれを用いるバイオセンサの製造方法と標的物質の検出方法に関する。
被検試料中に含まれる標的物質を検出するために、標的物質に親和性を有する分子をプローブとして固相基板上に固定化したバイオセンサが広く用いられるようになってきている。これらのバイオセンサでは、相補核酸鎖の相互作用(ハイブリダイゼーション)、酵素と基質、酵素と補酵素、抗原と抗体、その他各種受容体とそのリガンドといった特異的な相互作用を利用して、標的物質を固相基板表面に捕捉し、直接または間接的に(例:標的物質に結合された蛍光分子を用いた検出)該標的物質の存在を判別する。従って、プローブは、核酸、タンパク質、糖などの生体分子であることが多い。
これらの生体分子を固相基板に固定化する方法としては、主に、固相基板上で直接これらの分子を合成する方法(例えば核酸伸長反応など)と、予め合成された分子を基板表面に固定化していく方法とに分類される。後者の方法の例として、固定化したい分子の末端にリンカーを挟んで特定の基を結合させ、この分子を含む溶液と固相担体とを接触させてインキュベートすることにより、該分子を担体上に吸着させる方法が知られる。吸着法は特に、基板上での合成が困難な分子を固定化する場合や、複数種類の異なる分子を同一基板上に固定化する際に用いられる。
吸着法によってプローブ分子を固定化する場合に、プローブ分子の間隔が狭すぎると、DNAやタンパク質といった比較的大きな嵩だかい標的分子が、プローブとの結合を相互に妨げあうことがある。そこで、吸着法においては、プローブ分子と標的分子が最も多く効率的に結合できるようにプローブ密度を制御するため、スペーサと呼ばれる比較的低分子をプローブ分子の溶液に加えて同時に固定化することが一般的に行われている。
一方、酵素をプローブとして固定化し、酵素−基質反応の特異性を利用するバイオセンサとして、例えばグルコースオキシダーゼを固定化して被検試料中のグルコースを計測するセンサが知られており、家庭用の血糖値測定器としても開発が進められている。グルコースセンサでは、グルコースとグルコースオキシダーゼとの相互作用の前後において酸素や過酸化水素などの電極活性物質を電極でモニターするのが一般的であるが、被検試料が血液の場合は溶存酸素量が不足するため、酸素の代わりの役割を果たす電荷移動錯体である電子メディエータを使用する方法が知られる(例えば特許文献1参照)。従って、グルコースセンサにおいては、グルコースオキシダーゼと電子メディエータ分子の両方を同一固相基板上に固定化しておけば、効率よくグルコースを検出することができる。
核酸分子とスペーサ分子、酵素と酵素メディエータ、というように複数種の分子を同一基板上に固定化するためには、共吸着法を用いることができる。共吸着法は、複数種類の分子が混合されている溶液に固相基板を浸漬させ、前記分子の混合比率を変えることにより該固相基板に対する分子の吸着量を調整する方法で、最初に混合溶液の組成比率の調整を行うだけで、理論的にはバイオセンサにおけるプローブの固定化密度を調節することができる。診断や食品の安全性試験などに利用するためにも、被検試料に含まれる複数の物質を一度に検出できるバイオセンサが必要とされており、共吸着法は、固相基板に複数種のプローブ分子を一度に固定化できる技術として期待されている。
特開平5−203608号公報 特開平6−9699号公報 特開2001−200050号公報
核酸分子とスペーサ分子、酵素と酵素メディエータといった組合せは、分子量に大きな違いがある。一般に、高分子よりも低分子の方が固相基板への吸着速度が速いため、例えば核酸分子と、低分子のスペーサ分子を共吸着させると、スペーサ分子が圧倒的に速く吸着され、基板表面の大部分がスペーサ分子によって覆われることになってしまう。核酸分子を最適な密度で固定化するためには、両者の濃度に非常に大きな差をつけて混合させなければならず制御が困難である。また、共吸着させる組合せによっては、固相基板表面で均質な混合状態とならず、いわゆる相分離してしまうことがあり、濃度を調整しても最適密度が達成されない。即ち、本発明の目的は、これらの問題点を解消し、複数の分子を共吸着させる際、それぞれ最適な密度で吸着させるための効果的且つ優れた方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、複数の分子を同一固相基板上に固定化する場合、各分子にポリエチレングリコールなどに由来する共通構造を含ませると、親水性や溶解度といった分子全体としての性質が近くなるため、吸着の速度の差が小さくなること、従ってプローブやスペーサとして機能させたい部位の分子量や性質が大きく異なっても均質な混合膜を形成することができ、各化合物の濃度比を調整することで固定化される化合物の比も極めて容易に制御できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
即ち、本発明は、[1]固相基板に固定化させるための複数の分子を溶媒に溶解させて、該複数の分子の溶液を得る溶解工程と、前記溶液を固相基板に接触させてインキュベートする工程と、を含む固定化方法であって、前記分子のそれぞれが、前記固相基板に対して結合性を有する固相基板結合部位と、特定の機能を有する機能性部位と、前記固相基板結合部位と前記機能性部位の間に位置するリンカー部位とからなることを特徴とする、固定化方法;[2]前記リンカー部位が、ポリエチレングリコール、ポリペプチド、糖、ポリエステル、ポリイソシアネート、カルバミン酸エステルおよびポリウレタンからなる群から選択される化合物に由来する、前記[1]に記載の方法;[3]前記固相基板結合部位が、前記分子からなる自己組織化単分子膜を形成しうる官能基である、前記[1]または[2]に記載の方法;[4]前記複数の分子は、前記機能性部位が核酸またはタンパク質から形成される分子を含む、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載の方法;[5]前記複数の分子は、前記機能性部位が酵素および酵素メディエータから形成される分子を含む、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載の方法;[6]前記複数の分子は、前記機能性部位が、水酸基、アミノ基、フェロセニル基およびカルボキシル基からなる群から選択される官能基、またはベンゾキノン、N−メチルフェナジウム、ビオチンからなる群から選択される化合物の少なくとも1種から形成される分子を含む、前記[1]から[5]のいずれか1項に記載の方法;[7]前記溶液における前記複数の分子の合計濃度が、0.3〜5μMである、前記[1]から[6]のいずれか1項に記載の方法;[8]前記[1]から[7]のいずれか1項に記載の方法を用いることを含む、バイオセンサの製造方法;[9]固相基板結合部位と、機能性部位と、前記固相基板結合部位と機能性部位との間に位置するリンカー部位とからなる分子が、前記固相基板結合部位を介して固相基板に結合しているバイオセンサ;[10]前記固相基板が、ガラス、ポリマー樹脂、炭素、金属、半導体または金属酸化物である、前記[9]に記載のバイオセンサ;[11]前記[9]に記載のバイオセンサを用いて、被検試料中の標的物質を検出する方法であって、(a)前記固相基板としてガラス基板表面に金薄膜を蒸着させた金蒸着基板を用い、該バイオセンサと被検試料とを接触させてインキュベートする工程と;(b)前記工程(a)の前後にわたって連続または断続的に、前記バイオセンサの固相基板に対して、前記分子を固定化した面とは逆の面から光を照射する工程と;(c)前記工程(b)における入射光の反射光強度が減少する角度(共鳴角)の変化を測定する工程と、を含む検出方法;[12]前記[9]に記載のバイオセンサを用いて、被検試料中の標的物質を検出する方法であって、(a)前記固相基板として水晶発振子の金電極を用い、該バイオセンサと被検試料とを接触させてインキュベートする工程と;(b)前記工程(a)の前後にわたって連続または断続的に、前記水晶発振子の振動数の変化を測定する工程と、を含む検出方法、に関する。
本発明で用いられる「固相基板に固定化させるための複数の分子」は、固相基板結合部位と、機能性部位と、両部位の間に位置するリンカー部位とからなることを特徴とする。複数の分子は、同一種類の複数の分子であってもよく、複数の種類の分子であってもよいが、本発明は、特に複数種類の分子を固定化したい場合に好適である。
本発明において「固相基板結合部位」は、固相基板に対して結合性を有し、好ましくは固相基板表面上に高密度かつ高配向性の自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer, SAM)を構築することが可能な官能基から形成される。該官能基は固相基板の種類によって選択され、例えば、固相基板表面が金の場合は、チオール基、ジスルフィド基、スルフィド基を、ガラスの場合はシロキシ基を用いると、SAM膜が好適に形成されることが知られているが、これらに限定されるものではない。
本発明において「機能性部位」とは、本発明に係る固定化方法により作製される、複数の分子が固定化された固相基板表面を、バイオセンサとして機能させるために必要な部位を意味する。従って、機能性部位は、当該バイオセンサを用いて検出しようとする標的物質に特異的な親和性を有するプローブ用化合物、プローブ用化合物が適度な密度で固定化されるようにプローブ用化合物間に配置されるスペーサ用官能基、プローブ用化合物が酵素である場合に酵素の活性を助けるメディエータ、などに由来する。
本発明において、固相基板結合部位と機能性部位との間に位置する「リンカー部位」は、ポリエチレングリコール、ポリペプチド、糖、ポリエステル、ポリイソシアネート、カルバミン酸エステルおよびポリウレタンからなる群から選択される化合物に由来する。リンカー部位が存在することにより、親水性や溶解度、分子量が近くなり、分散性に優れた均質な混合膜を形成することができる。かかる効果をもたらす限り、一の溶液に含まれる複数の分子は、すべての分子が同一種類のリンカー部位を有していてもよいし、それぞれの分子が異なるリンカー部位を有していてもよい。またリンカー部位は、上述の化合物が固相基板結合部位および機能性部位のそれぞれに直接結合することにより形成されていてもよいし、上述の化合物に他の官能基等が結合し、該官能基を挟んで固相基板結合部位または機能性部位と結合していてもよい。
本発明において機能性部位として用いられる「核酸」は、それぞれ一部または全部が修飾(置換)されていてもよく、且つ、更にそれぞれ1本鎖または2本鎖である、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを意味し、好ましくはそれぞれ一部または全部が修飾(置換を含む)されていてもよい1本鎖オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドである。当該「核酸」における好適な例をあげると、DNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)、CNA(アミノシクロヘキシルエタン酸核酸)、HNA(ヘキシトール核酸)、p−RNA(ピラノシルRNA)、前記核酸分子からなるオリゴヌクレオチド、前記核酸分子からなるポリヌクレオチド、等から選ばれる核酸である。機能性部位として核酸を用いる場合、当業者であれば自体公知の方法によって、その3’末端または5’末端にリンカー部位を容易に結合させることができる。核酸をプローブとして固定化したバイオセンサは、標的核酸分子の検出、配列解析、遺伝子マッピング等に用いることができる。
本発明において機能性部位として用いられる「タンパク質」は、少なくとも2個のアミノ酸が共有結合したものを意味し、タンパク質類、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを包含する。タンパク質は天然に存在するアミノ酸とペプチド結合から、あるいは合成ペプチド疑似構造からできていてもよい。タンパク質も、当業者であれば自体公知の方法によって、リンカー部位に結合させることができ、例えばコハク酸やカルボキシル基とアミノ基の化学反応(例えば、特許文献2を参照)や、タンパク質−基質間の特異的な吸着反応を利用することができる。リンカー部位としてポリエチレングリコール(PEG)を用いる場合は、PEGのω末端をアセタール基で修飾し、タンパク質のアミノ基と還元アミノ化反応をさせて結合さえることができる(例えば、特許文献3を参照)。タンパク質とリンカー部位とを直接結合させるのが困難な場合は、両者間に適宜分子を挟んで結合することも可能であり、このような分子としては例えばビオチンが挙げられる。
タンパク質を固相基板表面に固定することにより、酵素−基質反応、抗原−抗体反応、その他の受容体−リガンド反応等を利用して標的物質を捕捉するバイオセンサとして用いることができる。
機能性部位として用いられる生体分子は、核酸やタンパク質に限定されず、各種の糖や糖タンパク質等を用いることもできる。
本発明に係る固定化方法によれば、機能性部位が酵素から形成される分子と、該酵素のメディエータから形成される分子とを、共吸着により同一基板上に固定化させることができる。両者を共吸着させることにより、該酵素の活性を十分に発揮させることができる。このようなメディエータ分子としては、例えばフェロセン類、ベンゾキノン、N−メチルフェナジウムや、他の酵素(例えば西洋わさびペルオキシダーゼ等)が挙げられる。
また、機能性部位として、水酸基、アミノ基、フェロセニル基、カルボキシル基などの官能基を用いることもできる。これらの官能基は、核酸やタンパク質といったプローブ分子の固定化密度を最適にするためのスペーサ分子として用いることができ、また、標的分子を捕捉するためのプローブとしても用いることができる。
本発明において、固相基板に固定化させる分子は、その分子の塩も含む。本発明において用いる「塩」とは、固定化用化合物と塩を形成できるものであれば特に限定されず、如何なる塩の形態であってもよい。具体的には、無機酸の付加塩(例えば塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等);有機カルボン酸の付加塩(例えば酢酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、トリフルオロ酢酸塩等);有機スルホン酸の付加塩(例えばメタンスルホン酸塩、ヒドロキシメタンスルホン酸塩、ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、タウリン塩等);アミンの付加塩(例えば採りメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタン塩、フェネチルベンジルアミン塩等);アミノ酸の付加塩(例えばアルギニン塩、リジン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)、等が挙げられる。
機能性部位、リンカー部位および固相基板結合部位を含む複数の分子は、固相基板表面との吸着反応に供される前に予め混合され、溶液として使用される。本発明において用いられる前記溶液には、前記複数の分子が、合計濃度で通常0.1μM〜20μM含まれ、かかる範囲内の濃度である限りにおいて、前記分子による固相基板の被覆を良好な状態で完了させることができる。中でも好適な合計濃度は、0.1μM〜10μM、より好適には0.3μM〜5μMである。前記組成物における各固定化用化合物またはその塩の組成比(モル%)は特に限定されず、目的とするバイオセンサのプローブの密度、プローブの構造、使用するスペーサ分子またはその構造、使用する固相基板の種類等に応じて当業者が適宜選択することができる。
本発明において用いる複数の分子を溶解させた溶液の調製法は、特に限定されず、各分子を溶解し且つ固相基板表面への吸着反応を阻害しない限りにおいては如何なる溶媒・混合法をも使用することができる。前記複数の分子を一の溶液に順次溶解していくこともできるし、分子の種類ごとに溶液を作製してから、それらの溶液を混合してもよい。例えば、前記溶液におけるプローブ分子およびスペーサ分子の合計濃度をXμM(Xは0.1〜20である)にしたい場合は、プローブ分子溶液とスペーサ分子溶液を別々にそれぞれXμMの濃度で調製し、適宜目的の比率で両者を混合することにより、目的とするXμMの混合溶液を調製することができる。機能性部位が生体分子からなる場合に用いる好適な溶媒としては、各種リン酸緩衝液(例えばPBS(50mM KPO、5mM EDTA、1M NaCl、pH7.0)等)、TE緩衝液(Tris−HClとEDTAの混合緩衝液、pH8.0)、等が挙げられる。当該緩衝液のpHも特に限定されないが、通常pH5.5〜8.5付近であり、好適にはpH7〜8付近である。
本発明にかかる「固定化方法」において、固定化用化合物を含む混合溶液を固相基板と接触させインキュベートする場合の反応温度は、特に限定されないが、通常0〜40℃付近であり、好適には20〜35℃付近である。反応時間も特に限定されないが、通常30分〜24時間のインキュベートで十分であり、好適には1時間〜12時間である。
本発明は、前記固定化方法を用いることを含むバイオセンサの製造方法をも提供するが、当該製造法において用いられる各種条件は前記定義と同様である。
また、本発明は、固相基板結合部位と、機能性部位と、前記固相基板結合部位と機能性部位との間に位置するリンカー部位とからなる分子が、前記固相基板結合部位を介して固相基板に結合しているバイオセンサも提供する。当該バイオセンサにおいて用いられる用語等も上記定義と同様である。
本発明において用いる「固相基板」とは、その表面において固相基板結合部位の官能基が好適にSAM膜を形成する限り、特に限定されず如何なる固相基板を用いることもできる。当該「固相基板」の材料および厚さの選択は、固相基板結合部位の種類、標的分子の検出のために採用するシグナル検出手段等に依存して、当業者が最適な条件を適宜選択することが可能である。基板材料に好適な例として、ガラス基板、金属基板(例えば金、銀、銅、アルミニウム、白金、酸化アルミニウム、SrTiO、LaAlO、NdGaO、ZrO等)、シリコン基板(例えば酸化珪素)、ポリマー樹脂基板(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート)、炭素(グラファイト)等が挙げられる。
本発明において用いる固相基板は、前記材料のうち単一の材料からなる基板であってもよいし、1つの基板材料(第1の基板)の表面に別種類の少なくとも1つの材料からなる薄膜(第1の層)を形成していてもよいし、更に、前記第1の基板と前記第1の層との間に少なくとも1つの他の介在層(第2の層、第3の層、等)が存在していてもよい。好適な「固相基板」の具体例を挙げると、前記第1の基板としてガラス基板を用い、前記第1の層として表面に金属膜(好適には金薄膜、銀薄膜、銅薄膜、白金薄膜)を有する前記ガラス基板等が挙げられる。なお、前記ガラス基板と前記金属膜との間には、他の材料からなる介在層が施されていてもよい。
前記第1の層を初めとする各金属膜の形成は、自体公知またはそれに準じた方法により可能である。例えば電気めっき法、無電解めっき法、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、等により形成することができる。前記金属膜表面を有機溶剤で洗浄し、更に必要に応じて強酸で洗浄することによる分解除去、紫外線により発生するオゾン等による分解除去、等の方法を用いて汚染を除去する
本発明において用いる「固相基板」の厚さは特に限定されないが、通常、前記第1の基板であれば、0.1mm〜30mm程度であり、好適には、0.1mm〜2mm程度である。
本発明に係る「検出方法」は、本発明に係るバイオセンサを用いて、被検試料中に含まれる標的物質またはその類縁体を捕捉することにより、当該標的物質の有無を判別する方法を意味する。バイオセンサ表面に固定化されたプローブ分子と標的物質との相互作用の有無を判別する方法としては、蛍光分子や放射性物質による標識を用いる方法、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance;SPR)法や水晶発振子マイクロバランス(quartz crystal microbalance;QCM)法等、標識分子を用いず質量変化等により検出する方法などが挙げられる。
SPR法とは、固相基板において固定化用化合物が固定化された基板表面と反対側の面から、臨界角以上の角度で光を入射させると、固相基板表面に結合した物質の質量変化に応じて、該入射光の反射光強度が減衰する角度(共鳴角)が変化することを利用し、被検試料を分析する手段である。具体的には、固相基板表面に固定化されたプローブに標的物質が結合すると、質量変化(質量増加)が起こり、これによって共鳴角が増大する。SPR法を用いる場合、固相基板は、ガラス、ポリマー樹脂、プラスティック等透明な材料を用い、固定化用化合物を固定化する表面に蒸着法により金薄膜が形成されていることが望ましい。
QCM法とは、水晶振動子の電極表面に物質が付着すると、その質量に応じて共振周波数が低下する現象を利用し、電極表面にプローブ分子を固定化しておくことにより、プローブ分子と標的物質の相互作用を検出する手法である。従って、QCM法を用いる場合は、本発明に係る固定化方法により、水晶振動子の金電極表面にプローブを固定化するとよい。
標的物質を予め標識しておくことにより、プローブ分子と標的物質との相互作用を検出する場合は、FITC(Fluorescein isothiocyanate)、RITC(Rhodamine isothiocyanate)等の蛍光分子、量子ドット等、光学的、電子化学的に検出できる分子を用いることができる。プローブ分子および標的物質がいずれも核酸である場合は、相互作用後に、インターカレータを添加することにより標識することもできる。
本発明により、複数の分子を、同一固相基板上に最適な密度および配置で固定化する方法を提供することができる。本発明に係る固定化方法によれば、わずか1回の工程で、複数の異なる分子が相分離を起こすことなく均一に固定化することができ、またそれぞれの化合物の濃度を調節しておくだけで、極めて容易に最適な密度で機能性部位を配置したバイオセンサを作成することができる。このバイオセンサを用いれば、被検試料中から複数の標的物質を一度に検出することができる他、メディエータが必要なプローブ−標的物質相互作用にも好適なバイオセンサを提供することができる。
以下に示す本発明の参考例、実施例および試験例は例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を最大限に実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
(溶解工程)
機能性部位が、水酸基、DNAまたはビオチンからなる固定化用分子を購入入手した。各分子の構造を以下に示す。
(A) SH−(CO)−OH (以下分子(A)という。)
(B) SH−(CH−(CO)−DNA (以下分子(B)という。)
(C) SH−C−CONH−(CO)−ビオチン (以下分子(C)という。)
チオール基(SH−)が固相基板結合部位に該当し、化合物(A)においてはポリエチレングリコール−(CO)−が、化合物(B)においては−(CH−(CO)−が、化合物(C)においては、−C−CONH−(CO)−がリンカー部位に該当し、水酸基(−OH)、DNA、ビオチンがそれぞれ機能性部位に該当する。
続いて溶媒としてPBS(50mM KPO、1M NaCl、pH7.0)を調製し、分子(A)(B)および(C)をそれぞれ60:20:20(モル%)で混合し、合計濃度を0.5μMとした。
(インキュベート工程)
固相基板として、前記製造法に準じて用意した水晶振動子の金電極を用いた。溶解工程で得られた溶液に、この金電極を浸漬し、約20分間インキュベートした。
図1は、この経過をQCM法により測定した結果を示す。約500Hzの周波数変化が見られ、電極表面で質量変化(吸着反応)が起こったことを確認できた。
後述する確認実験で確認されたように、本工程では分子(A)、(B)および(C)が電極表面に吸着された。この状態を図6(a)に模式的に示す。電極10の表面には、固相基板結合部位であるチオール基12を介して、リンカー部位14が結合され、リンカー部位14にDNAが結合した分子(B)16、ビオチンが結合した分子(C)18、水酸基が結合した分子(A)15が、相分離を起こすことなく均一に混ざり合って固定化されている。
<確認実験−1:ストレプトアビジンの結合>
次に、分子(A)〜(C)が固定化されている基板が浸漬されているPBS(KPO、NaCl)緩衝液中に、ビオチンと結合するタンパク質であるストレプトアビジン水溶液(濃度1g/L)を適量添加し、約15分間インキュベートした。
図2は、この経過をQCM法により測定した結果を示す。約350Hzの周波数変化が見られ、吸着反応が起きたことを確認できた。計算により、吸着した分子の密度は2.51×1012分子/cmであることがわかった。これの結果から、インキュベート工程で分子(C)が電極表面に吸着されていたことが確認された。
本確認実験の結果を、図6(b)に模式的に示す。適度な間隔をあけて固定化された分子(C)のビオチン部分が、ストレプトアビジン20の結合サイトに結合している。
<確認実験−2:ビオチン結合DNAの結合>
確認実験−1で得られたバイオセンサを、PBS(50mM KPO4、1M NaCl)溶液中で、ビオチンを結合させたDNA(dA20)と反応させ、約15分間インキュベートした。
図3は、この経過をQCM法により測定した結果を示す。約200Hzの周波数変化が見られ、固相基板表面で吸着反応が起こったことを確認できた。計算により、吸着した分子の密度は、7.0×1012分子/cmであることがわかった。この密度は、確認実験−1において結合した分子の密度よりも高いことから、ビオチン結合DNAとストレプトアビジンは1:1以上の割合で結合し、ビオチン結合サイトを4つ有するストレプトアビジンの各結合サイトの活性が失われていないことが確認された。
本確認実験の結果を図6(c)に模式的に示す。確認実験−1でビオチンが結合しなかったストレプトアビジン20の結合サイトに、ビオチン結合DNA22のビオチン部分が結合している。
<確認実験−3:ハイブリダイゼーション(1)>
確認実験−2で得られたバイオセンサに、分子(B)に含まれる核酸と完全に相補的な塩基配列(29塩基)を有する核酸を加え、約1時間インキュベートした。
図4は、この経過をQCM法により測定した結果を示す。約110Hzの周波数変化が見られ、分子(B)が29塩基の核酸とハイブリダイゼーションしたことが確認された。計算により、分子(B)にハイブリダイゼーションした核酸は、4.46×1012分子/cmであることがわかった。これらの結果から、インキュベート工程において、分子(B)が電極表面に吸着されていたことが確認された。
本確認実験の結果を図6(d)に模式的に示す。インキュベート工程で吸着した分子(B)16のDNA部分に、29塩基の核酸24がハイブリダイゼーションしている。
<確認実験−4:ハイブリダイゼーション(2)>
確認実験−3で得られたバイオセンサに、確認実験−2で用いたビオチン結合DNAと相補的な塩基配列(20塩基)を有する核酸を加え、約10分インキュベートした。
図5は、この経過をQCM法により測定した結果を示す。約120Hzの周波数変化が見られ、ビオチン結合DNAが20塩基の核酸とハイブリダイゼーションしたことが確認された。計算により、ビオチン結合DNAにハイブリダイゼーションした核酸は、7.69×1012分子/cmであることがわかった。これらの結果から、ビオチン結合DNAは、確認実験2において、DNA部分が結合能を維持した状態でストレプトアビジンに結合したことが確認された。
本確認実験の結果を図6(e)に模式的に示す。ビオチン結合DNA22のDNA部分に、20塩基の核酸24がハイブリダイゼーションしている。
上述の確認実験において、分子(A)が吸着されたことを直接確認する実験は行っていないが、核酸およびビオチンに対して水酸基は非常に分子量が小さいこと、また混合比率も分子(A)が最も高いことから、分子(A)が他の分子に先行して吸着したのは明らかである。
なお、確認実験−1〜4は、分子(A)〜(C)が好適に吸着されたことを示すために行ったものであるが、同時に、本発明に係る固定化方法によって分子(A)〜(C)を固定化した固相基板がバイオセンサとして使用できることを示すものである。
即ち、上記確認実験により、分子(A)を固定化しておけば分子(A)のDNAと相補的な塩基配列を有する核酸の検出が可能であり、分子(B)を固定しておけばストレプトアビジンの検出が可能であることが証明された。本確認実験においては、これらの検出をQCM法により行ったが、SPR法、電気化学的測定法、または蛍光分子等の標識分子を用いた方法によっても同様に検出できる。
以上から、本発明に係る固定化方法によりDNAとタンパク質の双方が結合機能を維持するよう、好適な密度で固定化されたバイオセンサを製造できることが確認された。
分子(A)〜(C)の共吸着を示すQCM測定結果である。 ストレプトアビジンの吸着を示すQCM測定結果である。 ビオチン結合DNAの吸着を示すQCM測定結果である。 分子(B)のハイブリダイゼーションを示すQCM測定結果である。 ビオチン結合DNAのハイブリダイゼーションを示すQCM測定結果である。 各吸着およびハイブリダイゼーション実験の工程を示す模式図である。
符号の説明
10…電極、12…固相基板結合部位、14…リンカー部位、15…分子(A)、16…分子(B)、18…分子(C)、20…ストレプトアビジン、22…ビオチン結合DNA、24…29塩基DNA、26…20塩基DNA

Claims (9)

  1. それぞれ固相基板に対して結合性を有する固相基板結合部位と、特定の機能を有する機能性部位と、該固相基板結合部位と該機能性部位の間に位置するリンカー部位とからなる2種以上の化合物を溶解した溶液と、該固相基板とを接触させてインキュベートすることにより、該2種以上の化合物を該固相基板に固定化させる固定化方法であって、
    前記2種以上の化合物の前記リンカー部位のそれぞれを、該2種以上の化合物の親水性及び/又は溶解度がより近くなるような構成とすることによって、該2種以上の化合物が固定化される速度の差をより小さくすることを特徴とする、固定化方法。
  2. 前記2種以上の化合物の前記リンカー部位のそれぞれは、ポリエチレングリコール、ポリペプチド、糖、ポリエステル、ポリイソシアネート、カルバミン酸エステルおよびポリウレタンからなる群から選択される化合物に由来する、請求項1に記載の固定化方法。
  3. 前記2種以上の化合物が、機能性部位として第1の生体分子を備える第1の化合物と、機能性部位として第2の生体分子を備える第2の化合物と、を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の固定化方法。
  4. 前記第1及び第2の生体分子が、それぞれ核酸又はタンパク質であることを特徴とする、請求項3に記載の固定化方法。
  5. 前記2種以上の化合物は、前記機能性部位として酵素を備える第1の化合物と、前記機能性部位として酵素メディエータを備える第2の化合物と、を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の固定化方法。
  6. 前記2種以上の化合物は、前記機能性部位として、水酸基、アミノ基、フェロセニル基およびカルボキシル基からなる群から選択される官能基、並びにベンゾキノン、N−メチルフェナジウム、ビオチンからなる群から選択される化合物、の少なくとも1つを備える化合物を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の固定化方法。
  7. 前記2種以上の化合物の前記固相基板結合部位のそれぞれは、前記固相基板表面に、前記2種以上の化合物からなる自己組織化単分子膜を形成しうる官能基である、請求項1から6のいずれか1項に記載の固定化方法。
  8. 前記溶液における前記2種以上の化合物の合計濃度が、0.3〜5μMである、請求項1から7のいずれか1項に記載の固定化方法。
  9. 請求項1から8のいずれか1項に記載の固定化方法を用いることを含む、バイオセンサの製造方法。
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