JP3785214B2 - 繊維強化複合樹脂歯車 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂マトリクス中に強化繊維を分散させた繊維強化複合樹脂歯車に関する。
【0002】
【従来の技術】
樹脂歯車は、歯打ち音、噛み合い音等の騒音を低減するのに効果的なため、これまでオーディオ製品等の軽負荷の用途で実用化されている。
これを、例えば自動車のカムシャフトタイミングギヤ等の高負荷の用途に利用できれば、騒音低減に極めて有効であると期待される。
【0003】
それには、従来の軽負荷用途に比べて遙かに高い耐熱性、疲労強度、耐摩耗性が要求される。例えば、特開平1−180056号公報に開示されているような、強化材を含まない樹脂歯車は、専ら従来の軽負荷用途でのみ使用できるものであり、上記のような高負荷用途には適用できない。
従来、一般に耐熱性および疲労強度を向上させる目的で、特開昭60−184456号公報に開示されているように、カーボン繊維やガラス繊維等の高強度繊維を樹脂マトリクス中に分散させた繊維強化複合樹脂歯車が提案されている。
【0004】
しかし、本発明者が詳細に検討した結果、上記提案の繊維強化複合樹脂歯車は、上記のような高強度繊維を用いたことにより複合材料としての疲労強度は向上するものの、現在の実用材料の範囲では高強度繊維は同時に高弾性率でもあるため、歯車の噛み合い接触面圧も大きくなり、耐摩耗性の向上に限界があることが分かった。耐摩耗性を確保するために、逆に歯車全体を低弾性率の繊維で補強すれば、低弾性率であることにより接触面圧が低下して耐摩耗性は向上できるものの、現在の実用材料の範囲では低弾性率の繊維は同時に低強度でもあるため疲労強度も低下してしまう。
【0005】
また、特開平1−104467号公報には、歯面にポリテトラフロロエチレン系繊維から成る布帛を密着成形して耐摩耗性および騒音低減とを確保した歯車が提案されている。
この歯車は、歯面の布帛が低弾性率であるため、接触面圧は比較的低く抑えられるが、歯車本体と布帛との間に不可避的に接着界面が存在することになり、高負荷の場合や回転変動などの衝撃的な入力を伝達する場合には、接着界面で表層布帛が剥離し易く、耐久性が低くなることが避けられない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、自動車のような高負荷用途に適用できる高い耐熱性、疲労強度、耐摩耗性を兼備した繊維強化複合樹脂歯車を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、本発明によれば、連続体としての樹脂マトリクス中に強化繊維を分散させた繊維強化複合樹脂歯車において、
歯面を含む表層部が、メタアラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリオキシメチレン繊維、アクリル繊維、およびポリエチレン繊維から成る群から選択された弾性率60GPa以下の強化繊維を含み、弾性率10GPa以下であって且つ厚さ0.3mm以上で歯元厚さの1/4以下であり、該表層部に連続した内部が、強度3000MPa以上の強化繊維を含み、疲労強度50MPa以上であることを特徴とする繊維強化複合樹脂歯車によって達成される。
【0008】
本発明の繊維強化複合樹脂歯車は、表層部を低弾性率としたことにより接触面圧が低下し耐摩耗性が向上すると同時に、内部を高疲労強度としたことにより歯車全体として高疲労強度を確保することができ、且つこれら表層部と内部とが連続体としての樹脂マトリクスで一体化されていることにより高負荷時あるいは衝撃負荷時にも表層が剥離することがなく高い耐久性を確保できる。
【0009】
ここで、接触面圧σF は下式で計算され、弾性率E1,E2 に対してパラメータZM を介して単調に増加する。したがって、低弾性率の材料を用いることにより接触面圧を低下させ、耐摩耗性を向上させることができる。
【0010】
【数1】
Figure 0003785214
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の繊維強化複合樹脂歯車においては、典型的には、表層部の強化繊維は弾性率60GPa以下であり、内部の強化繊維は強度3000MPa以上である。ただしこれはあくまでも典型的な範囲を示したものであり、繊維の体積率および配向により複合材料として前記のように表層部の弾性率と内部の強度を付与できる繊維であれば用いることができる。
【0012】
現在実用されている繊維のうち、表層部の強化繊維としては、メタアラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリオキシメチレン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維等が特に適しており、内部の強化繊維としては、カーボン繊維、パラアラミド繊維、ガラス繊維等が特に適している。
【0013】
【実施例】
〔実施例1〕
表1に示す諸元を有する繊維強化複合樹脂歯車を作製した。図1にその概略形状を示す。図1の歯車1は、同図(a)に示すように繊維強化複合樹脂部11の芯部にJIS−S450C製スチールインサート12を嵌め込んだ構成であり、複合樹脂部11は、歯面を含む表層部11Sとそれに直接連続した内部11Cとから成る。
【0014】
【表1】
Figure 0003785214
【0015】
歯車1は下記の手順で作製した。
歯車1の外形と同形状の内側寸法を持つ成形型内に、強化繊維が3次元的に絡み合った状態で密集成形した予備成形体をセットし、型を120℃に加熱した後、型内を真空引きしてから、エポキシ樹脂を注入し、硬化させて歯車1の複合樹脂部11を形成した。
【0016】
その際、強化繊維の予備成形体は、内部11Cが長さ3mmのチョップトカーボン繊維(東レ「T300」)から成り、厚さ1mmの表層部11S(歯車全周)が長さ1mmのチョップトメタアラミド繊維(帝人(株)「コーネックス」)から成る。
予備成形体は、チョップト繊維を浮遊させたスラリー水中から歯車形状の型内へ吸引して成形した。先ず、最終寸法よりも小さい型でカーボン繊維を吸引成形し、これを最終寸法型内にセットし、その外側1mmの空隙にメタアラミド繊維を吸引成形した。これを乾燥して上記のように歯車の樹脂成形に用いた。乾燥中にスプリングバックはあるが、繊維のからまりにより形状は保持されている。
【0017】
これにより得られた歯車1の複合樹脂部11は、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に、表層部11Sでは長さ1mmのチョップトメタアラミド繊維が体積率30 vol%で分散し、内部11Cでは長さ3mmのチョップトカーボン繊維が体積率40 vol%で分散していた。
〔実施例2〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0018】
ただし、表層部11Sの強化繊維として、メタアラミド繊維に代えて下記(a)〜(d)のいずれか1種のチョップト繊維を用いた。
(a)アクリル繊維
(b)ポリオキシメチレン繊維
(c)ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維
(d)ポリエチレン繊維
内部11Cの強化繊維としては、実施例1と同じチョップトカーボン繊維を用いた。その他の条件および作製手順も実施例1と同様であった。
【0019】
これにより得られた歯車1の複合樹脂部11は、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に、表層部11Sでは長さ1mmの(a)〜(d)のいずれか1種のチョップト繊維が体積率30 vol%で分散し、内部11Cでは長さ3mmのチョップトカーボン繊維が体積率40 vol%で分散していた。
〔実施例3〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0020】
ただし、内部11Cの強化繊維として、カーボン繊維に代えて長さ3mmのガラス繊維(日東紡「Eガラス」)を用いた。
表層部11Sの強化繊維としては、実施例1と同じチョップトメタアラミド繊維を用いた。その他の条件および作製手順も実施例1と同様であった。
これにより得られた歯車1の複合樹脂部11は、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に、表層部11Sでは長さ1mmのチョップトメタアラミド繊維が体積率30 vol%で分散し、内部11Cでは長さ3mmのガラス繊維が体積率40 vol%で分散していた。
〔比較例1〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0021】
ただし、表層部11Sの強化繊維として、メタアラミド繊維に代えてパラアラミド繊維(デュポン「ケブラー」)を用いた。
内部11Cの強化繊維としては、実施例1と同じカーボン繊維を用いた。その他の条件および作製手順も実施例1と同様であった。
これにより得られた歯車1の複合樹脂部11は、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に、表層部11Sでは長さ1mmのチョップトパラアラミド繊維が体積率30 vol%で分散し、内部11Cでは長さ3mmのカーボン繊維が体積率40 vol%で分散していた。
〔比較例2〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0022】
ただし、歯車1の複合樹脂部11の表層部と内部を区別せず全体の強化繊維として、実施例1の内部11Cの強化繊維と同じチョップトカーボン繊維を用いた。
その際、予備成形体は、チョップトカーボン繊維を浮遊させたスラリー水中から歯車形状の最終寸法型内へ吸引して成形した。
【0023】
これにより得られた歯車1は、複合樹脂部11全体が、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に長さ3mmのチョップトカーボン繊維が体積率40 vol%で分散していた。
〔比較例3〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0024】
ただし、歯車1の複合樹脂部11の表層部と内部を区別せず全体の強化繊維として、実施例1の表層部11Sの強化繊維と同じチョップトメタアラミド繊維を用いた。
その際、予備成形体は、チョップトメタアラミド繊維を浮遊させたスラリー水中から歯車形状の最終寸法型内へ吸引して成形した。
【0025】
これにより得られた歯車1は、複合樹脂部11全体が、エポキシ樹脂から成る単一の連続相としてのマトリクス中に長さ3mmのチョップトメタアラミド繊維が体積率40 vol%で分散していた。
実施例1,2,3および比較例1,2,3で作製した繊維強化複合樹脂歯車について、用いた繊維、強度、および弾性率を表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003785214
【0027】
表2に示したように、実施例1,2,3の繊維強化複合樹脂歯車は、複合樹脂部11の内部11Cの強化繊維として強度3000MPa以上の高強度繊維であるカーボン繊維またはガラス繊維を用い複合材料としての曲げ疲労強度を本発明の範囲内の50MPa以上とし、複合樹脂部11の表層部11Sの強化繊維として弾性率60GPa以下の低弾性率繊維であるメタアラミド繊維等を用い複合材料としての弾性率を本発明の範囲内の10GPa以下としたものである。
【0028】
これに対して、比較例1の繊維強化複合樹脂歯車は、複合樹脂部11の内部11Cは強度3000MPa以上の高強度繊維であるカーボン繊維を用いて曲げ疲労強度を本発明の範囲内の50MPa以上としたが、複合樹脂部11の表層部11Sは弾性率190GPaの高弾性率繊維であるパラアラミド繊維を用いて弾性率を本発明の範囲を超える15GPaとしたものである。
【0029】
また、比較例2および3の繊維強化複合樹脂歯車は、表層部と内部とを区別せずに複合樹脂部11全体について同一の強化繊維を用いたものであり、比較例2では高強度繊維であるカーボン繊維、比較例3では低弾性率繊維であるメタアラミド繊維を用いである。
実施例1,2,3および比較例1,2,3で作製した繊維強化複合樹脂歯車を、同歯形のスチール歯車(JIS−S450C)と噛み合わせて、120℃、6000rpm、トルク20Nmにてモータリング耐久試験を行った。この試験条件は、自動車カムシャフトタイミングギヤとして用いる場合等の高負荷を想定したものである。従来の繊維強化複合樹脂歯車が用いられていたオーディオ製品等の軽負荷用途の場合は、トルクは上記試験で用いた20Nmに対して1/10〜1/100程度のオーダーであり、温度も室温と低く、回転数も上記試験の数分の1以下程度の低速である。
【0030】
試験結果を試験時間と歯面摩耗深さとの関係でまとめて図2に示す。
図2から分かるように、本発明の実施例1,2,3の歯車は、200時間までの試験時間に対して歯面摩耗深さが0.1mm未満であり、優れた耐久性を示した。
これに対して、比較例1の繊維強化複合樹脂歯車は、内部11Cは本発明の範囲内の高強度を有するものの、表層部11Sが本発明の範囲を超える高弾性率としたために接触面圧が高くなり、試験時間の経過に伴って徐々に歯面摩耗が進行し、200時間では摩耗深さが0.45mmにまで増加している。
【0031】
また、比較例2は複合樹脂部11全体を高強度繊維であるカーボン繊維で強化したため、全体として高強度ではあるが、比較例1よりも更に接触面圧が高くなり、比較例1よりも急速に摩耗が進行し、75時間経過した時点で摩耗深さが1mmにまで達している。
一方、比較例3は複合樹脂部11全体を低弾性率繊維であるメタアラミド繊維で強化したため、必然的に全体として低疲労強度となり、ほぼ40時間経過した時点で疲労破壊している。
【0032】
このように、本発明に従い表層部11Sを10GPa以下の低弾性率とし且つ内部11Cを50MPa以上の高疲労強度としたときにのみ、歯面摩耗と疲労破壊とを同時に抑制することができる。
次に、本発明の繊維強化複合樹脂歯車において、歯面摩耗を抑制するために望ましい表層部11Sの厚さを検討した。
〔実施例4〕
実施例1と同一諸元の繊維強化複合樹脂歯車を作製した。
【0033】
ただし、メタアラミド繊維により強化する表層部11Sの厚さを0.1mm、0.3mm、0.5mm、1mm、および1.5mmの5水準に変えて作製した。この繊維強化複合樹脂歯車について上記と同じ条件で200時間のモータリング耐久試験を行った。得られた結果を表層部厚さと200時間歯面摩耗深さとの関係で図3にまとめて示す。
【0034】
図3から分かるように、歯面摩耗を抑制する効果は表層部厚さを0.3mm以上としたときに特に顕著になり、表層部厚さを0.5mm以上とすると更にその効果が顕著になる。
ただし、低弾性率である表層部が余り厚過ぎると、歯の内部を構成する高強度部分が相対的に少なくなり、本来の繊維強化の効果が低下するので、一つの目安として低弾性率の表層部の厚さは歯元厚さの1/4程度までとすることが適当であると考えられる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、自動車のような高負荷用途に適用できる高い耐熱性、疲労強度、耐摩耗性を兼備した繊維強化複合樹脂歯車が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例および比較例において作製した繊維強化複合樹脂歯車の概略形状を示す(a)斜視図および(b)部分断面図である。
【図2】図2は、実施例および比較例について、モータリング耐久試験における試験時間と歯面摩耗深さとの関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の繊維強化複合樹脂歯車における低弾性率の表層部の厚さと200時間歯面摩耗深さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…歯車
11…複合樹脂部
11S…表層部
11C…内部
12…スチールインサート

Claims (2)

  1. 連続体としての樹脂マトリクス中に強化繊維を分散させた繊維強化複合樹脂歯車において、
    歯面を含む表層部が、メタアラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリオキシメチレン繊維、アクリル繊維、およびポリエチレン繊維から成る群から選択された弾性率60GPa以下の強化繊維を含み、弾性率10GPa以下であって且つ厚さ0.3mm以上で歯元厚さの1/4以下であり、該表層部に連続した内部が、強度3000MPa以上の強化繊維を含み、疲労強度50MPa以上であることを特徴とする繊維強化複合樹脂歯車。
  2. 記内部の強化繊維は、カーボン繊維、パラアラミド繊維、およびガラス繊維から成る群から選択される請求項1記載の繊維強化複合樹脂歯車。
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