JP3783304B2 - Mbe装置におけるウエハのマウント方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は分子線エピタキシー装置において円形の(001)ウエハに薄膜をエピタキシャル成長させるときにおいてウエハを支持するホルダーのピンに対して最適の方位にウエハを戴置する方法に関する。より詳しくいうとエピタキシャル薄膜にスリップ欠陥が発生しないようにするウエハのセッティング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
分子線エピタキシーは超高真空に保持したチャンバにおいて加熱されたウエハに下方の分子線セルから適数の原料の分子線を照射し基板(ウエハ)上で気相反応させて薄膜結晶を製造するものである。分子線セルは原料を収容するるつぼ、るつぼの周囲に設けたヒータ、ヒータを取り囲む反射板(リフレクタ)、反射板を支持する支柱、支柱を支持する超高真空フランジ、るつぼの下底の温度を測定する熱電対などを含む。原料をるつぼに入れておきヒータに通電し加熱すると原料は蒸気になる。超高真空であるからこれが平均自由行程の長い分子線になるのである。
【0003】
分子線セルが基板に衝突すると基板が高温であるから分子が基板表面に吸着され適当な部位に移動し基板と反応して次第に堆積し薄膜を作る。基板が単結晶であるとこれが種結晶の働きをするから基板と同じ結晶方位の薄膜結晶が成長するのである。もちろんそうなるためには基板材料と薄膜材料は格子定数が同一であるなどの条件が必要である。さらにまた基板が適当な温度に加熱されるていることも必要である。
【0004】
基板を支持する機構はマニピュレータというが、基板は回転できるようになっている。基板の背面にあるヒータは抵抗加熱ヒータであるが、これは静止している。ウエハホルダーとウエハの結合については昔と今ではすこし違う。
初期のMBE装置においては、MoのホルダーにInによってウエハを接着していた。Inは低融点の金属であるから少し加熱すると液状になりホルダーに塗布し基板を押しつけると表面張力によってウエハがホルダーに固定される。Moホルダーは肉厚で熱容量が大きくInによる熱伝導も大きいからウエハ面内で温度分布が殆ど発生しない。ウエハ面内での温度均一性が高い。
【0005】
その点では優れているがInによってウエハを付けるからエピタキシャル成長したあとInをウエハ裏面から綺麗に除去しなければならない。そのような手間や汚染の可能性を避けるために、Inを使わないウエハ支持機構が使われるようになってきた。つまりウエハの形状を切り欠いたホルダーからうち向きに4以上のピンを取り付けてピンの上にウエハを載せる機構である。ピンに載せるだけであるからInは使わない。Inによるウエハの汚染の可能性はないし、ホルダーとの着脱も簡単である。
分子線セルからの分子線はシャッタによって遮断できる。分子線を適宜オンオフすることによって組成の異なる薄膜を何層にもエピタキシャル成長させる事ができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
分子線エピタキシャル成長法によってウエハの上に薄膜をエピタキシャル成長させるときエピタキシャル成長薄膜に様々の欠陥が発生することがある。ここではスリップ欠陥を問題にする。これは薄膜結晶がある面を境にしてずれることによって生ずる欠陥である。おもに薄膜の周辺部に出現するがこれはエピタキシャル薄膜の品質を大いに低下させる。スリップ欠陥のないエピタキシャル薄膜を成長させたいという要望が強い。基板はGaAsウエハやInPウエハなどLEC法やHB法によって成長させた長い単結晶を薄くスライスした円形結晶である。
【0007】
円形であるが方位を示すために2種類の長さの異なるフラットOFとIFが切りとられている。いずれも劈開面である。(001)ウエハの場合は、これに直交する4つの劈開面がある。その2つずつの劈開面は同等である。二組の劈開面は同等でない。それでOF、IFをつけて区別し方位を指示するようになっている。
(001)ウエハというのは表面が(001)面であるということである。以後他の方位との関係を固定するために(001)ウエハと表現するが、指数を交換しただけの(100)や(010)は等価であってこれに含まれる。指数の異なる(111)ウエハや(110)ウエハは含まない。
【0008】
エピタキシャル薄膜は基板と格子整合すれば良いので、様々の材料が用いられる。GaAs基板の場合は、AlGaAs薄膜、GaAs薄膜などを載せていく事ができる。InP基板の場合は、InGaAs薄膜、InGaAsP薄膜などを成長させることができる。もちろん格子整合の条件があるから組成は制限を受ける。またエピタキシャル薄膜は不純物をドープすることによって導電性を与える事もある。
【0009】
エピタキシャル薄膜とその下地である基板は全く別ものである。材料も違うし製造法も異なる。一般に基板には多くの転位があってもその上に成長させた薄膜は基板よりも転位が少なくなると信じられている。結晶性については基板よりも薄膜の方が優れていると思われているようである。基板に比べてエピタキシャル薄膜は時間を掛けてゆっくりを成長させるので薄膜の方が高品質であるのは当たり前と考えられる。
【0010】
スリップ欠陥というのはある面を境に両側の結晶層が全体的に滑ることによって起こる欠陥である。Ga−Asの結合を持つ結晶の場合Gaが本来結合すべきAsの一つ隣のAsと結合するようになる。つまりズレの距離は1格子分あるいは整数格子分である。1格子分といっても格子定数ではない。劈開の方向<110>に滑りが起こるがこの方向に1格子分ということである。
エピタキシャル薄膜と基板は勿論ちがう。基板の品質が薄膜の品質に影響することもあるし、基板には欠陥があっても薄膜には欠陥が少ないということもありうる。
【0011】
エピタキシャル膜の主に周辺部に多数のスリップ欠陥が現れることがある。これは段差を伴うのでデバイスをその上にフォトリソグラフィによって形成しようとする場合に問題が生ずる。露光のための光はウエハ上の所定の高さに焦点を結ぶようになっている。微細な構造を作製するために分解能の高いレンズを使うがそれは焦点深度を浅くする傾向にある。焦点深度にあまり余裕がないとエピタキシャル膜の表面の凹凸が深刻な問題になる。スリップ欠陥によって膜の一部が盛り上がるとその部分が焦点深度内から外れ投影パターンに歪みが生じる。結果としてデバイスに配線や電極、p領域などの位置形状に歪みが発生する。これは好ましくないことである。
【0012】
エピタキシャル膜の欠陥は基板と直接の関係がないと考えられる場合もある。基板は平滑なミラーウエハであって周辺部にスリップ欠陥がないのにその上に形成した薄膜にスリップ欠陥が発生するからである。また転位の多い基板の上に形成したエピタキシャル膜には転位のない事があるからである。
するとエピタキシャル膜に欠陥が生じるのはエピタキシャル膜自体の作用で生じるか?あるいは基板とエピタキシャル膜との相互作用による、と考えられよう。エピタキシャル膜と基板の熱膨張率が異なればその間に熱応力が発生するはずだからである。しかしエピタキシャル膜に欠陥が発生する原因は未だにはっきりしない、というのが現状である。
エピタキシャル膜の周辺部にスリップ欠陥の発生しないような基板の戴置方法を提案することが本発明の目的である。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、分子線エピタキシャル成長法において、(001)InPウエハ、(001)GaAsウエハなどの(001)基板をピンによってホルダーに支持する場合、<100>、<110>方向であって、オリエンテーションフラットOFでない方向の3点〜8点をピンによって支持するようにする。つまり<100>と<110>の中間方向とOF方向を避けてその他の部分をピンによって支持する。ここで<100>と<110>の中間の方向というのは<100>のX軸を、<010>方向にY軸をとった時、X軸となす角度θが、0<θ<45°ということである。これは結晶方位でいうと<210>や<310>の方向である。中心となる角度は<100>方向から22.5°である。禁止される範囲は22.5°を中心として前後に15°の程度である。より好ましくは22.5°を中心にして前後に8°程度である。[310]はX軸となす角度が18°、[210]はX軸となす角度が26°であっていずれも中心の角度22.6°とは食い違っている。しかしこれらが<100>と<110>の中間領域を好適に表現しうる。そこで以後そのような表現は面倒であるから、簡単に<210>方向ということにする。これは<100>と<110>の中間であって、<100>からの角度θが7.5≦θ≦37.5°である範囲を指す。OFがある場合とない場合で好ましいピンの数が少し変わる。OFがある場合は<210>とOFを除く3点〜7点をピンで支持する。OFがない場合は<210>を除く3点〜8点をピンによって保持する。
【0014】
図17はOFのある場合である。7つのピンQ1 、Q2 、Q3 、Q4 、Q5 、Q6 、Q7 が描かれている。これは45度の角度をなすが、OFのある方位だけは90゜の角度をなす。7つのピン全てを使っても良い。Q2 、Q4 、Q5 などは省くこともできる。だから3ピン〜7ピンで支持できる。さらに3つのピンによっても支持することができる。Q1、Q4、Q7の組によってウエハ−を保持できる。或いはQ2、Q5、Q7の3ピンを使っても良い。
図18はOFのない場合である。8つのピンQ1 、Q2 、Q3 、Q4 、Q5 、Q6 、Q7 、Q8 が描かれている。8つとも使っても良いが7本〜3本だけにしても良い。
【0015】
ここで<210>というのは集合的な方位の表現であり、8つの個別方位[120]、[−120]、[−210]、[−2−10]、[−1−20]、[1−20]、[2−10]、[210]を含む。これは(001)ウエハ−という条件があるからである。<110>は4つの方位[110]、[−110]、[−1−10]、[1−10]を含む。<100>は4つの方位[100]、[−100]、[010]、[−100]を含む。方位の表現については後にまとめて説明する。
【0016】
【発明の実施の形態】
ピンによってウエハの周辺部複数点を支持する場合、これがエピタキシャル膜のスリップ欠陥の発生と関係があるということはこれまで全く予想されていなかった。
これまで大体のところ分かっているのはエピタキシャル膜の周辺部にスリップ欠陥が生じるということ、周辺部にスリップ欠陥のないウエハを基板に使用して分子線エピタキシャル成長装置でエピタキシャル成長させてもエピタキシャル膜の周辺部にスリップ欠陥が生じることがあるということである。
【0017】
周辺部にスリップ欠陥が発生するのは周辺部で熱歪みが強くなるからであろう。さらにスリップ欠陥のない基板に薄膜を成長させても、エピタキシャル膜に欠陥が発生するので、基板とは無関係に欠陥が新たに作られのであろうと推測されよう。
いかなる温度分布の時にどのようにスリップ欠陥が発生するのか?これを確かめなくてはいけない。分子線エピタキシー装置のマニピュレータにはウエハを支持する部分と、ヒータの部分がある。ウエハは回転し、ヒータは静止している。ヒータによってウエハは背後から加熱される。表面は下方を向き、表面似向かって分子線セルから分子線が照射される。
【0018】
温度を急激に上昇させてエピタキシャル膜を成長させた場合スリップ欠陥が膜に発生し易い。温度上昇を緩やかにするとスリップ欠陥の発生が少ないか全くない。これは何度もの分子線エピタキシャル成長によって確かめた。そうするとゆっくりと加熱冷却をすれば問題は解決するように見える。しかしそのように時間をかけて加熱冷却するとエピタキシャル成長のスループットが悪くなりエピタキシャルウエハがコスト高になる。現在例えば1℃/secの速度でウエハを加熱している。800℃まで加熱するには約13分かかる勘定になる。エピタキシャル成長時間自体も10分程度である。冷却にもその程度の時間を掛けている。ゆっくり加熱すると生産性が低下するから望ましくない。
【0019】
エピタキシャル膜と基板の間に生じる熱応力というが、基板と膜は同じ成分である事が多く、格子整合するはずであるから熱膨張率の相違も大きくない。薄膜と基板の間の熱応力は小さい。基板と膜の相互作用によって欠陥が生じるとは思えない。また膜自体は薄いものであるから熱歪みは小さいはずである。
このような事から本発明者は、エピタキシャル膜の欠陥の発生は膜自体の生成の異常によるものではなく基板そのものの加熱過程での劣化にあるのだ、ということに気づいた。綺麗なミラーウエハを基板としても段差のあるスリップ欠陥ができるから基板と薄膜の欠陥は無関係と思われているが、実はそうでない、と本発明者は考える。
【0020】
初めは表面が平坦なミラーウエハであっても分子線エピタキシャル成長のために加熱すると基板自体の熱応力のために周辺部で基板自体にスリップ欠陥が発生し段差ができこれが薄膜にスリップ欠陥を生じさせるのである。
主因は基板の加熱による変形にあり、薄膜の欠陥は基板に新たに生じた欠陥を転写しているだけなのである。であるからエピタキシャル膜を成長させたあと冷却して取りだしたエピタキシャルウエハには基板自体にスリップ欠陥ができているのである。
【0021】
急激に加熱するとスリップ欠陥が生じ易い事からこれは基板に発生する熱応力によるものであろうと推測される。欠陥の主体は基板であって薄膜はそれを反映するだけである。これまで膜の品質だけを問題にしていたのでエピタキシャル成長後の基板の変質という問題には注意が払われていなかったのである。
真相は、基板自体の熱による劣化にある、本発明者はそういう事に気づいた。スリップの生成に関し、膜の成長異常は無関係で、基板自体の変質変容にあると本発明者は考える。であるから欠陥の生成をシミュレーションするに当たって膜成長は無関係である。膜成長をさせることなく、基板を分子線エピタキシャル成長と同じ環境で加熱しどのような変化が基板に生じるかを観察すれば良い。シミュレーションは膜成長を除いて基板加熱だけを再現できれば良いのである。
【0022】
そこで本発明者は図1のような装置を作製して温度分布を幾様にも変えて基板自体に発生するスリップを観察することにした。円形のウエハ1は、リング状のホルダー2の内周面に形成された周回突条3によって周辺部が支持される。ピンによって支持するのではなく全円周に広がった突状によって支持するのである。ウエハの欠陥の異方性を観察しようとするのであるからピンのようにそれ自身異方性あるものを使ってはいけない。突条3はウエハ周辺の一定幅の部分に均一に接触する。従って温度分布は回転対称に形成される筈である。
【0023】
ホルダーはMoである。ウエハ1、ホルダー2の上方に抵抗加熱ヒータ4が設けられる。ヒータの熱が輻射によってウエハとホルダーを加熱する。これらの外側をステンレスのケース5によって被っている。MBE装置のマニピュレータの状態にできるだけ近づけるために、ケースの内部は真空に引いてある。さらにケース5の表面は液体窒素によって77Kに冷却してある。
但しシミュレーションの装置であるから系はこれで閉じており、分子線セルは設けていないし、分子線を照射しない。加熱による基板自体の変容を調べるのが目的であるから、これだけで十分である。ここには図示していないが、ヒータとホルダーの側方とヒータの上方にはタンタル(Ta)板を何枚も重ねた反射板(リフレクタ)が設けられヒータ輻射によってケース(77K)が加熱されるのを防いでいる。またウエハの半径方向の温度分布を測定した。ヒータとウエハはこの場合同心位置にあるから熱分布は角度依存性がなく半径方向の分布だけをモニタすれば十分である。ウエハは10cm径(4インチ)の半絶縁性GaAsウエハを用いた。厚みは620μmである。
【0024】
そして様々の温度分布を与えてウエハ自体にどのような変化が起こるかを実験によって調べてみた。図5はウエハ半径方向の温度分布を示す。横軸は中心からの半径距離(mm)、縦軸は温度(℃)である。温度モードはa〜fまで6種類ある。
モードaは中心(r=0)温度が698℃、r=20mmで680℃、r=40mmで640℃、外周r=50mmで616℃である。温度曲線が凸型になる中心高温周辺低温の分布である。内外温度差ΔT=82℃である。分子線エピタキシャル成長法の場合こうなる事は殆どない。
【0025】
モードbは内外温度差がより小さいが依然として凸型分布である。中心で650℃、20mmで644℃、40mmで632℃、外周で621℃である。内外温度差ΔT=29℃である。
モードcは凸型であるがさらに内外温度差が小さい。中心で646℃、20mmで642℃、40mmで640℃、外周(r=50mm)で633℃である。ΔT=13℃である。
【0026】
モードdは中心で658℃、20mmで655℃、40mmで653℃、外周で650℃である。ΔT=8℃である。
分子線エピタキシャル成長法の場合ΔTが正であることはあまりなく、これから述べるΔTが負である場合がより現実的である。
モードeは凹型温度分布に成っている。中心で646℃、20mmで649℃、40mmで660℃、50mmで667℃で、ΔT=ー21℃である。
モードfは凹型分布で、中心温度633℃、20mmで640℃、40mmで665℃、外周で681℃である。ΔT=−48℃である。
【0027】
温度分布はこのように試みに6種類形成した。但しいずれもウエハ面内の平均温度が650℃になるようにしている。ピンによってウエハを支持するようにした分子線エピタキシー装置の場合、温度分布は殆どΔT<0の凹型分布になる。ヒータからの熱輻射はGaAsウエハによって殆ど吸収されない。放射率(=吸収率)は約0.3である。つまりヒータの赤外線に対してGaAsウエハは殆ど透明である。ところがその周囲にあるMo(ステンレスでも同じ)は金属であるから赤外線を通さず殆ど吸収する。吸収率は0.7の程度である。ホルダーの方が、ウエハよりも熱吸収が大きい。だから、ウエハよりもホルダーの方が高温になる。ホルダーのピンやその他の接触部から熱がウエハに伝達されるようになるが、ウエハの方が依然低い温度になる。だからモードe、モードfのように凹型の温度分布になるのである。
【0028】
モードa〜dのように凸型分布は分子線エピタキシャル成長では起こりにくい。InによってMoサセプタにGaAsウエハを固定した場合は中心の方が高温になり、凸型分布になる。しかしInにより裏面全面をMo板に固着する方法はもはや行われない。
もっとも分子線エピタキシャル成長法でなく、有機金属気相成長法の場合はカーボンのサセプタの上全面にウエハを戴置するから中央部で高温に周辺部で低温になる。しかし分子線エピタキシャル成長法の場合であってピンによりウエハの周辺を支持する場合は普通凹型の温度分布になる。つまりeやfのようなモードになるのである。
【0029】
ここでは実験であるから、異なる形状寸法のヒータを使って凸型の温度分布をも無理に実現している。これらのモードa〜モードfになるように加熱した場合のウエハの表面に生ずるスリップ欠陥を図6〜図11に示す。
図6はモードaの場合のスリップ欠陥を示す。大量の欠陥が周辺部に多数現れている。ΔT=82℃というように内外温度差が大きいのでこのように欠陥が多数存在するのであろう。それだけでなく本発明者は方位分布に注目する。この図はOF(オリエンテーションフラット)が右横に来るように描かれている。OFは[110]方向に法線が平行な面である。特に欠陥の少ない4つの方位が明瞭に看取される。それは[010]、[−100]、[0−10]、[100]の方向である。ここで負の指数は横棒を数字の上に付けるのが結晶学の決まりであるが明細書では上棒線が引けないから前に負号をつける。この4つが第1に欠陥の少ない方位である。
【0030】
さらに微妙な差であるが、劈開面の方向[−110]、[−1−10]、[1−10]も欠陥が相対的に少ない。これは第2に欠陥の少ない方位である。但し例外がある。劈開面の方向であるが[110]は欠陥が多発している。これは弓形の部分を切りとってOFを作っているからである。OFによる欠陥の増加は方位とは別の問題である。GaAsやInPウエハは長さの違うふたつのオリエンテーションフラットOF、IFが方位を示すために必要である。IFのある[1−10]方向はそれほど欠陥量が大きくない。IFは弓形の切りとり量がOFより小さいからであろう。
【0031】
結局[010]と[−110]によって挟まれる方位等、8つの方位において欠陥が特に多いということが分かる。このような欠陥異方性の発見が本発明の骨子になっている。
ここで結晶方位の表記法について説明する。個別の方位は[klm]によって表現する。集合的な方位は<klm>によって表現する。これは[klm]のk,l,mを交換し正負を反転することによってえられる12の個別方位を包含する集合概念である。個々の面の方位は(klm)によって表す。これはa軸をa/kで、b軸をb/lで、c軸をc/mで切るような平面を示す。この面の法線が[klm]である。集合的な面方位は{klm}によって表す。個々の面(klm)の面指数を交換し、正負を交換して得られる12種類の面を含む概念である。
【0032】
しかし、これらの記号は普通混用されている。峻別されない事が多い。しかしここでは個別方位[]、集合方位<>、個別面()、集合面{}の記号を使い分ける。
さらに方位を限定できる。ここでは(001)ウエハを使うので面と平行な方位は<kl0>というようになる。c軸指数は常に0である。<kl0>(kl≠0)は8つの方位を表現することになる。(001)ウエハを使用する場合、面に平行な集合方位<100>は当然に[100]、[010]、[−100]、[0−10]の4つしか含まない。[001]、[00−1]は排除される。するとモードa(図6)において欠陥が少ない第1の方位は<100>と集合的に表記され、次に欠陥の少ない方位は<110>と集合的に表現される。但し<110>でもOFの方位を除外した3方向を意味するということである。
【0033】
図7はモードbの場合のスリップ欠陥の分布を示す。ΔTが29℃であって、先ほどのものよりも余程欠陥が少なくなっている。先述の様に[010]など<100>方位で欠陥が殆どない。またOFを除いて<110>方位も欠陥が少ない。欠陥の多いのは<010>、<110>の中間方位である。<210>や<310>の方位であるが、簡単のためにこれを<210>方位と表現する。[100]から測った角度θが22.5°の方位を中心としていくらかの幅のある範囲で欠陥が多く発生する。<210>というのは、8つの方向[120][−120][−210][−2−10][−1−20][1−20][2−10][210]を総称するものである。
【0034】
図8はモードcの温度分布を経験したウエハにおけるスリップ欠陥の分布を示す。ウエハ面内にスリップ欠陥が全く存在しない。ウエハ表面は全く平滑平坦である。理想的な状態である。これはΔTが13℃と小さいからであろう。内外温度差ΔTが大きいと熱歪みによって基板にスリップ欠陥が発生するということが明瞭に理解される。このウエハ(10cm径、620μm、GaAs)で内外温度差ΔT=13℃(平均温度650℃)のときのウエハ周辺での剪断力はいくつかの仮定に基づく計算によって約5MPaという事が分かる。剪断力が5MPaより小さいとスリップ欠陥が発生しないということである。
図9はモードdの温度分布を経験したGaAsウエハにおけるスリップ欠陥の分布を示す。これもスリップが全く発生していない。ΔT=8℃であって温度分布が殆どないので基板にスリップ欠陥が生じないのである。
【0035】
図10はモードeの温度分布を経験したGaAsウエハのスリップ欠陥分布を示す。これはOFの方向に欠陥をもつ。[−210]と[−2−10]の方位に僅かな欠陥が発生している。ΔT=−21℃である。しかもモードeは凹型分布であるから現実の温度分布に近い。この時のウエハ周辺での剪断力は約8MPaである。図8と図10の結果から、5MPa〜8MPaの中間の値が臨界剪断力であって、それを越えるとスリップ欠陥が生じると考えることができる。
【0036】
図11はモードf(ΔT=−48℃)の温度分布に置いたGaAsウエハのスリップ欠陥を示す。OFの方向に欠陥が多数発生している。また[−210][−2−10][1−20]に多くの欠陥が生じる。総じて<210>方位の多くのスリップ欠陥が発生している。OFの近くの[120]方位で欠陥が少ないのはOFで大量のスリップが発生することによって応力が緩和されて剪断力が局所的に減少しているからであろう。
このようなスリップ欠陥生成の異方性は何に起因するのか?ウエハはピンで支持しているのではなくて円周状の突条(棚)によって回転対称の関係で支持している。であるから温度分布は回転対称である。しかし<100>方向には最も発生しにくく、<110>方向にも生じにくい(OFを除く)。<210>方向に欠陥が生じ易い。このような熱応力はウエハを周囲で支持するホルダーの方が高温であることから生ずる。
【0037】
そこでピンによってウエハを支持する場合において、ピンが<210>以外のウエハ周辺の点を支持するようにする。本発明の骨子はこれである。スリップ欠陥の起こり易い方向にピンがくるとピンからホルダーの熱がウエハに流れここに局所的な大きい剪断力が生ずる。するとスリップ欠陥がより多く発生する。それでピンは<010>、<110>の方向に接触するようにする。但しOFは避けることにする。OFは弓形を切りとる事によって応力集中が起こり剪断力が増えているからである。
【0038】
つまり(001)ウエハの場合、周辺の4つの<010>と、3つの<110>にピンを接触させる様にする。ウエハががたつかないようにピンの数は4つ以上必要である。4本の場合は円周角が90゜になるように配してそれぞれ<010>方向を接触させる。5本〜7本であってもよく、これらは45゜、90゜の中心角をなすように配置し、<010>、<110>(OF除く)に接触させる。図3においてGaAs(001)ウエハの方位を示す。右向きに[100]を上向きに[010]を示す。[110]がOFの位置である。「*」を付けた方位が禁止される方位である。支持ピンは禁止方位<120>に接触させない。
【0039】
但し図4に示すようにGaAsやInPウエハは結晶方位を表すために二つのオリエンテーションフラットOF、IFが付いている。OF[110]も応力集中が起こり剪断力が増えるから禁止される。IFは短いから応力集中がなく禁止方位にならない。結局ピンは8つの禁止方位とOFに接触させない、ということである。
本発明の内容はこれにつきるが、どうしてスリップ欠陥の異方性があるのか?という問題が残る。どうしてこのような異方性が生じるのか?
まずスリップ欠陥の方向であるが全て劈開方向<110>に生じている。結晶構造は劈開方向にもっとも滑り易い。だからこれは当然のように見える。すると劈開方向<110>の剪断力τがある値Fよりも大きくなるときにそこでスリップが実際に起きるのであろう。
【0040】
温度分布が回転対称としているから当然に剪断力τも回転対称である。剪断力τが大きくなる方位も回転対称であり、これが劈開方向に重なるのは特定の方位だけである。ただし剪断力は定義の難しい概念であるから、ここで定義を説明する。
任意の連続体の任意の点においてその点を通る任意の平面を想定する。その平面によって分割される2つの部分の座標の大きい方の部分が座標の小さい方の部分に面と平行な方向に及ぼす単位面積当たりの力が剪断力である。つまり剪断力を定義するには座標点と平面と平面に平行な方向の3つが必要である。面と方向が簡単な場合は表記も単純であるがそうでない場合は複雑である。例えばτxy(xi ,yj )という剪断力は、点(xi ,yj )において法線ベクトルがxである面(yz面)を境にして右側の部分が左側の部分に対して及ぼす面に平行な力のうちのy成分の単位面積当たりの力である。モーメントの釣合からこれがxz面を境にして上側の部分が下側の部分に及ぼす面に平行なx方向の単位面積当たりの力に等しい。だから対称性τxy=τyxが成り立つ。
【0041】
このように剪断力の基準になる面が座標軸に垂直で、力の方向も座標軸方向である場合は表記も計算も単純である。しかし一般の面Sに関する剪断力の定義は難しい。Sに平行な力といっても独立に2つの成分がある。このように座標、平面、方向の3つのパラメータをしてすることによって初めて剪断力が決まるのである。剪断力が作用するこの平面のことを以後準拠面と呼ぶ。また準拠面に平行で考えている力の方向を作用方向と呼ぶことにしよう。すると剪断力は座標、準拠面、作用方向の3種類のパラメータをその定義の為に必要とするということである。座標の指定には3つの(x,y,z)値を、準拠面の指定には3つの法線ベクトルを与える値を(α、β、γ)を必要とし、さらに作用方向にはベクトルを与える3つの値(f,g,h)を必要とするのである。
【0042】
任意の点で剪断力τを0とする準拠面が必ず存在する。この準拠面を主応力面Pと呼ぶ。主応力面は3つあって互いに直交する。準拠面Sがこれからはずれると剪断力τが生じる。つまり剪断力というのは準拠する面方向のずれから生じる力である。3つ主応力面P1 、P2 、P3 ではこれに直交し外側に向かう力のみを持つ。これの単位面積あたりの力を引張応力σ1 、σ2 、σ3 という。引張りと表現しているが、圧縮をも含む。引張りの場合に正、圧縮の場合は負になるだけである。そこで正の方の引張りによって両者を代表させる。
はじめから三次元では難しいので二次源座標(x,y)で考える。二つの主応力面P1 、P2 は直交しz軸方向には平行であるとする。これらの面で主応力をσ1 、σ2 とする。これらに対してθの傾きをなし互いに直交する面Sx 、Sy を考える、この面に直交するようにX軸とY軸を取る。面S1 での引張応力σx と面S2 での引張応力σy は
【0043】
σx =σ1 cos2 θ+σ2 sin2 θ (1)
σy=σ1 sin2 θ+σ2 cos2 θ (2)
【0044】
によって与えられる。これは次のような考察によって分かる。単位面積当たりのP1 垂直方向の力は、x方向にはcosθの成分を与える。またP1 の単位面積は、Sx に投影されると面積が1/cosθに増えるので単位面積の力はcosθ倍に減る。だからσ1 のσx に対する寄与はσ1 cos2 θである。P2 垂直方向の力はx方向にはsinθの成分を与えるし、P2 の単位面積をSx に投影すると面積は1/sinθに増える。だからP2 方向の主応力σ2 がSx に及ぼす応力はσ2 sin2 θとなる。σy も同様である。
新たに生ずる剪断力τxyは
【0045】
τxy=τyx=σ1 sinθcosθ−σ2 sinθcosθ (3)
【0046】
である。これはP1 方向の引張応力が、Sx 面ではsinθの接線成分を持ち、P1 の単位面積はSx 面に1/cosθの大きさで投影されることからσsinθcosθである。P2 からの寄与は、P1 の係数のθを、θ+90゜とすれば良いので、−sinθcosθとなる(cos(θ+90゜)=−sinθ、sin(θ+90゜)=cosθ)。
次に三次元座標について考察する。主応力面は互いに直交するP1 ,P2 ,P3 となる。三方向に主応力が存在するとして式を導くこともできるが、ここではウエハを対象にしているから、[001]方向の主応力は初めから0である。そこでσ1 とσ2 だけを考慮して三次元の場合を考えることにする。
【0047】
ある任意の点で主応力P1 P2 P3 面とは異なる基準面S1 S2 S3 を考える。これは主応力座標系において面S1 の法線単位ベクトルを(α、β、γ)とする。S1 面の両側に掛かる引張応力σ(S1 )は
【0048】
σ(S1 )=σ1 α2 +σ2 β2 (4)
【0049】
である。S1 面に掛かる剪断力はさらに方向を指定しなければ決まらない。そこでK(f,g,h)方向の剪断力を考える。勿論これは面S1 と平行であるから
【0050】
αf+βg+γh=0 (5)
【0051】
である。P1 面の引張応力σ1 がS1 面のK方向の剪断力だけを考える。P1 面はS1 面に投影すると1/α倍になる。またP1 方向の力はK方向の分力としてf倍されることになる。すると面S1 でのK方向の剪断力へのσ1 の寄与はσ1 αfとなる。結局二つの主応力からの剪断力τ(S1 ,K)は
【0052】
τ(S1 ,K)=σ1 αf+σ2 βg (6)
【0053】
となる。これによって任意の座標系に定義される剪断力の表式を得た事になる。
ウエハの任意の点における半径方向の引張応力をσr によって表現する。
円周方向の引張応力をσt とする。温度分布が回転対称(つまりθ依存性がない)とするとウエハ内の任意の点で熱歪みのために存在する応力はこの二つだけである。だから半径方向円周方向には剪断力が存在しない。剪断力が存在しないような面を主応力面と呼ぶ。ウエハは単結晶であるから結晶方位はどこでも一定である。しかし主応力が回転対称であるから主応力と結晶方位のなす角度が円周方向に相違する。
【0054】
さらに剪断力が劈開面方向に滑りをもたらすが面に平行な方向は段差を作らないので、スリップ欠陥を引き起こさない。(001)面に非平行であって劈開面{110}に平行な剪断力がスリップ欠陥を引き起こす。
図12は結晶方位と劈開方向を説明するための図である。三次元座標xyzの軸は方位[100]、[010]、[001]によって表現してある。一辺が1の立方体が破線によって表される。{111}面においてスリップが起こり得るのでこの面でのスリップを考える。ズレの起こる方向は<110>方向である。
【0055】
それぞれの指数が±1を取り得るから{111}面といっても8面ある。が独立な面は4面a、b、c、dである。これは正四面体をなしている。
a.(−111)、
b.(−1−1−1)
c.(11−1)
d.(1−11)
それぞれの面は正三角形をなす。それらの正三角形の稜線にそってずりが起こり得るので、それぞれの面を境に3種類のずりが有り得る。ズリ方向は<110>の方向である。4面あって3種類の力の方向があるから12個のズリのモードがある。しかし二つづつのずりの力は隣接する面に2回現れるから、独立な方向としては6個しかない。これをI、II、III、IV、V,VIとすると、
【0056】
I: [011]
II: [0−11]
III:[−10−1]
IV: [10−1]
V: [−110]
VI: [110]
【0057】
これがズレの方向である。ズレ面が4つありその3辺がズレ方向をあたえる。それぞれの面のズレ方向は次の通りである。
a面:II+III+VI
b面:II+IV+V
c面:I+III+V
d面:I+VI+IV
12のズレ方向があるが、そのうちV、VIの方向は(001)面に平行でありたとえその方向のズリが起こってもスリップ欠陥にはならない。段差を引き起こすものは、4種のズリ方向I,II,III,IVであり、それらは2つの面に異なるモードのズリを引き起こすから8つのズリ(スリップ)が起こる。8つのズリに対する剪断力をτ1 〜τ8 とする。
【0058】
▲1▼ b面のII方向 τ1
▲2▼ c面のI方向 τ2
▲3▼ a面のII方向 τ3
▲4▼ d面のI方向 τ4
▲5▼ b面のIV方向 τ5
▲6▼ c面のIII方向 τ6
▲7▼ a面のIII方向 τ7
▲8▼ d面のIV方向 τ8
【0059】
ウエハの周辺部をホルダーの棚で支持しここから熱流が流入するからウエハの周辺が高温、中心が低温となる。周辺部で熱膨張が大きく起こるので円周方向に圧縮応力が生ずる。つまりーσt が周辺部で大きくなる。σr は周辺で0になる。
ウエハ面において主応力σr 、σt が一定方向を向いているのではなく常に半径方向と円周方向を向いているから場所によって主応力の方向が変化するのである。図16に示す様に、[100]方向から反時計回りに角度θをとると、主応力σr 、σt は
【0060】
σr →σr (cosθ,sinθ,0) (7)
σt →σt (−sinθ,cosθ,0) (8)
というふうに書く事ができる。
【0061】
▲1▼のτ1 はb面のII方向の剪断力である。b面は(−1−1−1)であり、その単位法線ベクトルは(−3-1/2,−3-1/2、−3-1/2)である。II方向は[0−11]であるから、単位ベクトルは(0,2-1/2,2-1/2)である。
半径方向とb面法線との挟角の余弦(α)は−3-1/2cosθ−3-1/2sinθ、半径方向とII方向の挟角の余弦(f)は−2-1/2sinθである。従ってτ1 に対するσr の寄与は(6)式から、σr (3-1/2cosθ+3-1/2sinθ)2-1/2sinθとなる。
【0062】
一方角度方向とb面法線との挟角の余弦(β)は3-1/2sinθ−3-1/2cosθであり、II方向との挟角の余弦は(g)は2-1/2cosθである。τ1 に対するσt の寄与は(6)式よりσt (3-1/2sinθ−3-1/2cosθ)2-1/2cosθとなる。τ1 は両者の合計であるから、
【0063】
τ1 =σr (3-1/2cosθ+3-1/2sinθ)2-1/2sinθ+σt (3-1/2sinθ−3-1/2cosθ)2-1/2cosθ (9)
6-1/2を前に出して、σr を分離して
τ1 =6-1/2{+σr +(σr −σt )cosθ(sinθ−cosθ)} (10)
【0064】
となる。以下同様に剪断力を求めることができるが。τ1 =τ2 、τ3 =τ4 、τ5 =τ6 、τ7 =τ8 である。これらも(9)と同じ様な式になる。
τ3 =6-1/2{−σr +(σr −σt )cosθ(sinθ+cosθ)} (11)
τ5 =6-1/2{−σr +(σr −σt )sinθ(sinθ−cosθ)} (12)
τ7 =6-1/2{+σr −(σr −σt )sinθ(sinθ+cosθ)} (13)
【0065】
これは平均値σm =(σt +σr )/2と、差σs =σt −σr とを用いてさらに次のように変形される。
【0066】
τ1 =6-1/2{+σm −2-1/2σs sin(2θ−π/4)}(14)
τ3 =6-1/2{−σm −2-1/2σs sin(2θ+π/4)}(15)
τ5 =6-1/2{−σm +2-1/2σs sin(2θ+π/4)}(16)
τ7 =6-1/2{+σm +2-1/2σs sin(2θ−π/4)}(17)
ここに角度依存性について2種類の関数が含まれる。
【0067】
sin(2θ−π/4)は3π/8と11π/8において最大値を、7π/8と15π/8において最小値を取る。sin(2θ+π/4)はπ/8と9π/8において最大値を、5π/8と13π/8において最小値を取る。
さて図16に於いて、[100]から左周りにθを取っているが、90゜、180゜、270゜、360゜の方向によってウエハ面を4つの象限に分ける。
甲象限(0〜90゜) =[100]〜[010]
乙象限(90゜〜180゜) =[010]〜[−100]
丙象限(180゜〜270゜)=[−100]〜[0−10]
丁象限(270゜〜360゜)=[0−10]〜[100]
【0068】
b面とc面は線方向が[1−1±1]の方を向くから乙象限と丁象限においてのみスリップ欠陥を起こし得る。つまりスリップモード▲1▼、▲2▼、▲5▼、▲6▼の4つのモードは乙、丁象限においてのみスリップを引き起こす。これは結晶学的な限定である。
a面とd面は線方向が[11±1]の方を向いているから甲象限と丙象限においてのみスリップを引き起こす。つまりスリップモードの▲3▼、▲4▼、▲7▼、▲8▼の4つのモードは乙、丁象限のみでスリップを起こすことができる。
つまり(1)乙丁象限(90゜≦θ≦180゜、270゜≦θ≦360゜)→モード▲1▼、▲2▼、▲5▼、▲6▼であるがこれらはτ1 =τ2 とτ5 =τ6 によって剪断力が与えられる。
【0069】
τ1 =6-1/2{+σm −2-1/2σs sin(2θ−π/4)}(14)
τ5 =6-1/2{−σm +2-1/2σs sin(2θ+π/4)}(16)
【0070】
σr よりもσt の方が絶対値が大きく、しかもσr は正(引っ張り)で、σt は負(圧縮)である。だから平均値σm は負であり、差σs も負である(σm <0、σs <0)。
だからτ1 の式で絶対値の最大を与えるのは、sin(2θ−π/4)が最小値−1をとる7π/8(157.5゜)と15π/8(337.5゜)である。これは乙象限の[−210]方向と丁象限の[2−10]方向にスリップ欠陥が多くでていることを巧妙に説明できる。
【0071】
τ5 の絶対値最大を与えるのは、やはりsin(2θ+π/4)が最小値−1を取る5π/8(112.5゜)と13π/8(292.5゜)である。これは乙象限の[−120]方向と丁象限の[1−20]方向にスリップが多数生ずることを説明できる。
つまりb面のII方向のスリップモード▲1▼とc面のI方向のモード▲2▼が乙象限、丁象限の[−210][2−10]のスリップを引き起こす。b面のIV方向のモード▲5▼とc面のIII方向のモード▲6▼が乙象限、丁象限の[−120][1−20]のスリップを引き起こすのである。
(2)甲丙象限(0≦θ≦90゜、180゜≦θ≦270゜)→▲3▼、▲4▼、▲7▼、▲8▼
これに対応する剪断力はτ3 =τ4 とτ7 =τ8 である。
【0072】
τ3 =6-1/2{−σm −2-1/2σs sin(2θ+π/4)}(15)
τ7 =6-1/2{+σm +2-1/2σs sin(2θ−π/4)}(17)
【0073】
σm は負、σs も負であるから、τ3 の絶対値を最大にするのはsin(2θ+π/4)を+1とする値である。それはπ/8(22.5゜)と9π/8(202.5゜)である。これは甲象限の[210]と、丙象限の[−2−10]にスリップが多数生じる事実を裏書きするものである。
同様にτ7 の絶対値を最大にするのはsin(2θ−π/4)を正の1にする値である。それは3π/8(67.5゜)と11π/8(247.5゜)である。これは甲象限の[120][−1−20]に多数のスリップ欠陥が発生する事実を説明できる。
【0074】
【実施例】
図17はOFのあるウエハを本発明のセッティング方法によってホルダーに戴置した状態の平面図を示す。OFがあるのでピンの数の最大は7である。4本〜7本のピンを持つホルダーによってウエハを支持する。隣接角が45゜で放射状に固定された7ピンの場合の好ましい位置は、<100><110>である。この例では、Q1 〜Q7 のピンが順に反時計回りにとりつけてある。より具体的に好ましい位置は
【0075】
Q1 :[010]
Q2 :[1−10]
Q3 :[−100]
Q4 :[−1−10]
Q5 :[0−10]
Q6 :[−110]
Q7 :[100]
【0076】
である。これらの内いくつかのピンを省く事もできる。バランスを考慮すると、Q1 とQ7 は省けないが、そのほかのいくつかは省略できる。6本ピンとする場合は、Q2 〜Q6 の何れを省いてもさしつかない。5本ピンとする場合はQ2 〜Q6 のうち連続しない2本を除く事ができる。4本ピンとする場合はQ2 ,Q4 Q6 を省くことができる。
【0077】
図18はOFのない円形ウエハの場合の支持を示す。これはピン8本が図示されている。OFがないのでここにQ8 を設けている。この場合は適当なピンを省いて、4本〜7本ピンによって支持することもできる。
さらにピンの表面に熱絶縁体を被覆したり介在させたりしてホルダーとウエハの間の熱伝導を妨げるようにしてウエハ面ないの温度勾配を減らすというのも有効である。熱絶縁物(断熱材)としてPBN、アルミナ、AlN、SiO2 などが利用できる。
【0078】
【発明の効果】
GaAsやInPウエハに分子線エピタキシャル成長法によってエピタキシャル薄膜を形成する際にエピタキシャル膜の周辺部にスリップ欠陥が生じる原因が基板自体の加熱によるスリップ欠陥の発生にありその欠陥が薄膜に転写されるのであることを初めて本発明が明らかにしている。ホルダーとウエハの温度差より内外温度差が惹起されウエハの周辺部に熱応力が発生しこれが劈開方向にズレをひきおこしスリップ欠陥が生じるという力学をも明らかにしている。その上で剪断力が大きくなる方向にピンが接触しないようにしているから内外温度差がかなりあってもスリップ欠陥が基板に入りにくい。つまり昇温の時間を長くする必要がない。かなりの高温にウエハを加熱する場合でも1℃/sec、或いはそれ以上の速度で加熱する事を許容する。
【図面の簡単な説明】
【図1】分子線エピタキシャル成長装置において周囲をホルダーの棚によって支持されたGaAsウエハをヒータによって加熱し半径方向に不均一な温度分布を形成しスリップ欠陥がどのように発生するのかを調べるための実験装置の縦断面図。
【図2】従来例にかかるホルダーのピン配置を示す平面図。
【図3】本発明の思想に従ってGaAsウエハ周辺部でピンが接触してはいけない方位を説明するためのGaAsウエハの平面図。
【図4】GaAsウエハのオリエンテーションフラットであるOFとIFを説明する平面図。
【図5】図1の構造の実験装置においてウエハの半径方向に形成した温度分布のモードa〜fを示すグラフ。
【図6】温度分布モードa(ΔT=82℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図7】温度分布モードb(ΔT=29℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図8】温度分布モードc(ΔT=13℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図9】温度分布モードd(ΔT=8℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図10】温度分布モードe(ΔT=−21℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図11】温度分布モードf(ΔT=−48℃)の場合にGaAsウエハに生じたスリップ欠陥を示すウエハ平面図。
【図12】GaAs結晶構造において{111}面の<110>方向の滑りを説明するための図。4つの異なる{111}面と6つの異なる<110>方向を図示している。
【図13】GaAsウエハにおいて剪断力τ7 によって生ずる等剪断力分布図。
【図14】GaAsウエハにおいて全ての剪断力τ1 〜τ7 によって生ずる等剪断力分布図。
【図15】GaAsウエハにおいてτ1 〜τ7 によって生ずるスリップ欠陥分布を示すウエハ平面図。
【図16】剪断力モードτ1 〜τ8 が引き起こすスリップ欠陥の存在する方向を示すウエハの平面図。
【図17】OFのあるウエハの場合、最大7つのピンでウエハの周辺を支持するという構造を示す平面図。
【図18】OFのないウエハの場合、最大8つのピンでウエハの周辺を支持するという構造を示す平面図。
【符号の説明】
1 ウエハ
2 ホルダー
3 突条
4 ヒータ
5 ケース
Claims (2)
- 分子線エピタキシャル成長装置のマニピュレータのウエハホルダーに3本〜8本のピンを設けることによって(001)ウエハを支持する際に、<100>と<110>の中間の方向とOF方向とがピンに接触しないようにウエハをピンに戴置することを特徴とするMBE装置におけるウエハのマウント方法。
- ピンとウエハの間に熱絶縁体を介在させた事を特徴とする請求項1に記載のMBE装置におけるウエハのマウント方法。
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