JP3779470B2 - 食品の呈味改善方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、苦みや渋みの原因となるイソフラボノイドまたはその配糖体(以下「イソフラボノイド類」という)含有食品の呈味改善方法及びイソフラボノイド類の糖付加方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の健康志向の高まりから、良質な植物性蛋白質を含有する豆乳等の大豆加工食品が注目されている。しかし大豆加工食品は、大豆特有の青臭み、刺激臭等の不快臭、苦み、渋み、収斂味等の不快味を有するため、十分な市場の拡大ができなかった。このため不快臭や不快味を除去するため多くの研究がなされている(食品と科学、8,102(1996)、J.Agric.Food Chem.,44,236(1996))。
【0003】
一方不快味については、大豆配糖体の主成分であるイソフラボノイド配糖体、特にその主成分であるダイジンは、苦みを伴う強い収斂性を示し、ダイジン、ゲニスチンがβ−グルコシダーゼにより分解して生じるダイゼイン、ゲニステインは、さらに強い収斂性を長く示すことが知られている。(食品開発、17,30(1982)、食品開発、17,39(1982)、食品開発、18,16(1983))。かかる強い収斂味を除去するためには、例えばβ−グルコシダーゼ活性を阻害する方法、大豆食品のpHをアルカリ側にする等の方法がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、β−グルコシダーゼ活性を阻害する方法では、食品に利用する上での効果が十分でなく、またダイジンの有する収斂味を除去することができない。またpHを上げる方法では鹸化臭が生じるため好ましくない。
【0005】
したがって本発明は、イソフラボノイド類含有食品の有する苦み、収斂味等を有効に除去してその呈味を改善する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、イソフラボノイド類含有食品に特定の酵素を作用させることにより、イソフラボノイド類含有食品の有する苦み、収斂味等を有効に除去できることを見出した。さらにかかる方法がイソフラボノイドに糖を付加する方法として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、イソフラボノイド類含有食品に、グルコースまたはα−1,4グルコシド結合にて構成される少糖類もしくは多糖類の存在下、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下「CGTase」という)またはプルラナーゼを作用させることを特徴とするイソフラボノイド類含有食品の呈味改善方法を提供するものである。
本発明はまた、イソフラボノイド類含有食品に、グルコースまたはα−1,4グルコシド結合にて構成される少糖類もしくは多糖類の存在下、CGTaseまたはプルラナーゼを作用させることを特徴とする食品中のイソフラボノイド類の糖付加方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
イソフラボノイドとは、イソフラボン(3−フェニルクロモン)、またはイソフラボンを構成する2つのフェニル基が挟んでいるピラン環を、これに類似の構造に置換した構造を有する化合物の総称であり、このうちヒドロキシル基を有するものが好ましく、ダイゼイン、ホルムオノネチン、ゲニステイン、プルネチン、アフロモシン、イリゲニン等が挙げられる。イソフラボノイド配糖体は、グルコース、ガラクトース、ラムノース等またはこれらが結合した糖類が、イソフラボノイドにグリコシド結合したものであり、ダイジン、ゲニスチン等が挙げられる。
【0009】
CGTase及びプルラナーゼは、いかなる微生物由来のものであってもよく、市販品としては例えば林原生化学工業社のCGTase、天野社製のプルラナーゼ等が挙げられる。かかる酵素による処理は、イソフラボノイド類またはこれを含有する食品に、酵素、及びグルコースまたはα−1,4グルコシド結合にて構成される少糖類もしくは多糖類、好ましくは可溶性デンプン、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、グリコーゲン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、マルトオリゴ糖、特に好ましくは可溶性デンプン、β−シクロデキストリン等を加え、好ましくは25〜55℃、特に好ましくは25〜45℃で、好ましくは5分間〜24時間、特に好ましくは2〜12時間反応させることにより行うことができる。可溶性デンプン等の添加量は、イソフラボノイド類またはこれを含有する食品に対して好ましくは0.01〜30重量%、特に好ましくは0.02〜10重量%である。なおイソフラボノイド類含有食品中に可溶性デンプン等が含まれている場合にはこれらを添加する必要がない。また酵素の添加量はイソフラボノイド類の含有量にもよるが、イソフラボノイド類またはこれを含有する食品に対して好ましくは0.1〜100,000U/ml、特に好ましくは10〜10,000U/mlである。
【0010】
上記処理により、イソフラボノイド類に糖を付加することができるが、糖の結合位置は特に限定されず、イソフラボノイドあるいは糖部分のいずれのヒドロキシル基にも結合できる。結合する糖の個数にも特に制限はない。
【0011】
イソフラボノイド類含有食品は特に制限はないが、大豆食品が好ましく、具体的には豆乳、豆乳発酵物、豆腐等が挙げられる。イソフラボノイド類含有食品の酵素処理は、例えば豆乳、豆乳発酵物、豆腐等の場合、酵素の加熱による失活、振盪による食品形態の崩壊の防止等の点から豆乳調製終了時に行うことが好ましい。イソフラボノイド含有食品中での酵素処理は前記と同様にして行うことができる。
【0012】
本発明の方法によりイソフラボノイド類含有食品の呈味が改善される理由は必ずしも明確ではないが、イソフラボノイド類の糖付加体が生成することから、イソフラボノイド類に糖が付加することにより、イソフラボノイド類の有する苦み等が低減するものと推定される。
【0013】
【実施例】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
実施例1及び比較例1
ゲニスチン0.1%溶液(pH7.0、0.1Mトリス−塩酸緩衝液)に、1%可溶性デンプン、及びCGTase(林原社製、1400U/g、実施例1)またはβ−グルコシダーゼ(シグマ社製、25U/g、比較例1)を1U/mlとなるように加え、40℃で2時間反応を行い、生成物をHPLCで分析した。分析条件は、検出器としてWaters LC−Modele 1 plusを用い、Waters社製SYMMETRYTM C18カラム(4.6×150mm)を用いてメタノール/水のリニアグラジエントにより、1ml/minの条件で溶出させた。検出はUV検出器で254nmの吸光度を測定した。図1−(a)は実施例1、図1−(b)は比較例1のHPLCによる溶出パターンを示したものである。比較例1ではゲニスチンがβ−グルコシダーゼにより分解されてゲニステインが生成した。一方実施例1では新しい反応生成物が認められた。
【0015】
実施例2、3及び比較例2、3
市販の豆乳100mlに乾熱滅菌した1%可溶性澱粉溶液2mlを添加後、濾過滅菌した市販のCGTase(実施例1と同一物、実施例2)、プルラナーゼ(シグマ社製、1000U/mg protein、実施例3)、β−グルコシダーゼ(比較例1と同一物、比較例2)及びナリンギナーゼ(シグマ社製、320U/g、比較例3)を1U/mlとなるように各々加え、30℃で6時間反応させた後、HPLCによる解析及び10名のパネラーによる呈味性評価を行った。別に対照として上記豆乳に可溶性澱粉を添加したもの(未処理品)のHPLCによる解析を行った。図2−(a)及び図4−(a)は実施例2、図2−(b)及び図4−(b)は比較例2、図3−(a)及び図5−(a)は比較例3、図3−(b)及び図5−(b)は未処理品のHPLCによる溶出パターン及び呈味性を示したものである。比較例2及び3では、豆乳中の苦み成分であるダイジン及びゲニスチンといったイソフラボン配糖体がダイゼイン及びゲニステインといったアグリコンに分解されていた。実施例2及び3では、ダイジン及びゲニスチン以外に新しい生成物が認められた。また呈味性については、実施例2及び3では呈味性、特に苦みが大幅に改善されたのに対し、比較例2及び3では苦みが増大した。
【0016】
実施例4及び5
大豆イソフラボン粉末(フジッコ(株)製、フジフラボンP40)30g及び可溶性澱粉0.9gをイオン交換水150mlに溶解し、実施例2のCGTaseを300μl加え、40℃で6時間反応させ、生成物をHPLCで分析した(実施例4)。また可溶性澱粉の代わりにβ−シクロデキストリン5gを用いて反応させた(実施例5)。図6−(a)は実施例4、図6−(b)は実施例5のHPLCによる溶出パターンを示したものである。その結果、いずれも大豆イソフラボンから新しい生成物への変換が認められたが、その効果は実施例5がより大きかった。
【0017】
実施例6
実施例5で得られた反応生成物をHPLCにより分取し、日本電子(株)社製、JMS−SX/SX 102A型HPLC−Massスペクトル装置を用いて、イオンモード正イオン、加速電圧8kV、スキャン範囲m/z/50〜m/z/1000、スキャン速度5秒の条件で、マトリクスにチオグリセロールを用いて解析を行った。その結果、ゲニスチンのC環のグルコースに、グルコースがβ−1,4グルコシド結合で1個以上付加したものであることが明らかとなった。かかる物質はゲニスチンと比較して溶解性が数倍〜数十倍向上した。なお図7−(a)はゲニスチン、図7−(b)はゲニスチンのC環のグルコースに、グルコースが1個または複数個β−1,4結合した化合物のHPLC−Massスペクトルを示したものである。
【0018】
実施例7
ゲニスチン0.1%溶液(pH7.0、0.1Mトリス−塩酸緩衝液)に、1%可溶性デンプン及び実施例2のプルラナーゼを1U/mlとなるように加え、40℃で12時間反応を行い、HPLCにより分析した。その結果、図8に示すように、新しい反応生成物が認められた。これはゲニスチンのC環のグルコースに、グルコースがα−1,6グルコシド結合で1個以上付加したものであることが明らかとなった。
【0019】
【発明の効果】
本発明の方法により、イソフラボノイド類含有食品の有する苦み、収斂味等を有効に除去し、イソフラボノイド類含有食品の呈味を改善できる。
また本発明の方法により、イソフラボノイド類に糖を付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ゲニスチン溶液に酵素を作用させた場合の、HPLCによる溶出パターンを示したものである。
【図2】豆乳に酵素を加えて反応させた場合の、HPLCによる溶出パターンを示したものである。
【図3】豆乳に酵素を加えて反応させた場合の、HPLCによる溶出パターンを示したものである。
【図4】豆乳に酵素を加えて反応させた場合の、呈味性評価を示したものである。
【図5】豆乳に酵素を加えて反応させた場合の、呈味性評価を示したものである。
【図6】大豆イソフラボンに糖供与体を添加した場合の、HPLCによる溶出パターンを示したものである。
【図7】大豆イソフラボンに糖供与体を添加した場合の、HPLC−Massスペクトルを示したものである。
【図8】ゲニスチン溶液に酵素を作用させた場合の、HPLCによる溶出パターンを示したものである。
Claims (3)
- イソフラボノイドまたはその配糖体含有食品に、グルコースまたはα−1,4グルコシド結合にて構成される少糖類もしくは多糖類の存在下、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼまたはプルラナーゼを作用させることを特徴とするイソフラボノイドまたはその配糖体含有食品の呈味改善方法。
- イソフラボノイドまたはその配糖体含有食品が大豆食品である請求項1記載の呈味改善方法。
- イソフラボノイドまたはその配糖体含有食品に、グルコースまたはα−1,4グルコシド結合にて構成される少糖類もしくは多糖類の存在下、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼまたはプルラナーゼを作用させることを特徴とする食品中のイソフラボノイドまたはその配糖体の糖付加方法。
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