JP3778443B2 - Ag合金膜、平面表示装置およびAg合金膜形成用スパッタリングターゲット材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下、FPDという)に加え、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品において、低い電気抵抗と耐食性、耐熱性、密着性を要求される電子部品に使用されるAg合金膜、Ag合金膜を有する表示装置およびAg合金膜形成用スパッタリングターゲット材に関するものである。FPDとしては例えば液晶ディスプレイ(以下、LCDという)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FEDという)、エレクトロルミネッセンス(以下、ELという)、電子ペーパー等利用される電気泳動型ディスプレイ等に用いることが好適である。
【0002】
【従来の技術】
ガラス基板上に薄膜デバイスを作成するFPD、薄膜センサ−、セラミック基板上に素子を形成する磁気ヘッド等に用いる電気配線膜、電極等には、低電気抵抗で、耐食性、耐熱性、基板との密着性に優れる金属であるAl合金膜、特にAl−Nd合金膜が用いられているが、近年、上記のような薄膜デバイス用金属膜では、より低電気抵抗の金属膜が要求されている。特に、FPDの分野においては、大型化、高精細化、高速応答が可能な薄膜トランジスタ(TFT)方式が広く採用されているが、その配線膜には信号遅延を防止するために低電気抵抗化の要求がある。たとえば、ノートパソコン等に用いられる12インチ以上の大型カラーLCDに用いられる配線では比抵抗を30μΩcm以下に、より大型の15インチのデスクトップパソコン用には10μΩcm以下とすることが要求されており、今後さらに高精細、高速応答が要求される20インチ以上の液晶テレビや小型の携帯情報端末等ではさらなる低電気抵抗の金属膜が要求されている。
【0003】
このため、Al−Nd合金膜にかえてさらに低電気抵抗であるAg膜の適用が検討されている。特に液晶ディスプレイにおいては、現在主流のアモルファスシリコンTFT駆動方式より高速応答が可能なポリシリコンTFT駆動方式を利用した液晶TV等の開発が進められている。ポリシリコンTFTの製造プロセスではアモルファスシリコンTFTよりもさらに高いプロセス温度となるために、配線材料にさらに高い耐熱性が要求される。このため、融点の低いAl合金であるAl−Nd合金では十分な耐熱性が確保できない。また、ポリシリコンTFTを駆動素子として用いて自発光な平面表示装置として有機ELディスプレイが注目されているが、有機ELディスプレイでは液晶ディスプレイと異なり電流駆動となるためさらに低い電気抵抗の配線が求められている。
【0004】
また、特に小型の携帯情報端末においては、耐衝撃性や軽量化のためにガラス基板等に替えて、樹脂基板や樹脂フィルム等を用いた平面表示装置が要求されている。既述のようにAl−Nd合金により低電気抵抗の配線膜を得るには加熱処理が必要であり、樹脂基板や樹脂フィルム等の場合に十分な加熱処理を行えないため、低電気抵抗を得難いという欠点も有している。このため、加熱処理を行わないプロセスにおいてもAl−Nd合金より低電気抵抗のAgの適応が検討されている。
【0005】
AgはAlより融点が高く、低電気抵抗であるために今後の配線材料として有望であるが、電子部品用の薄膜として用いる場合、基板に対する密着性が低く、さらに耐熱性、耐食性が低いという欠点を有する。
例えば、AgをFPDの配線膜として用いた場合、基板(例えばガラスやSiウェハ−、樹脂基板、樹脂フィルム、ステンレス箔等の耐食性の高い金属箔)に対する膜の密着性が低く、プロセス中に剥がれが生じるという問題を生じる。また、薄膜デバイスを製造する際の薄膜の応力緩和に伴う原子移動であるヒロックの発生と、平面表示装置製造時に基板材質や加熱雰囲気の影響により膜粒子が凝集し、膜表面の平滑性が低下したり、膜の連続性が失われることにより大幅に電気抵抗が増大することがある。また、耐食性が低いことに起因して、基板上に成膜した後、数日大気に放置しただけで変色したり、ディスプレイの製造時に使用する薬液により腐食され、大幅に電気抵抗が上昇したり、膜が剥離する等の問題があった。
【0006】
そこで、上記の問題を解決するために、AgにCuを0.1%原子以上添加したAg合金タ−ゲットを用いることで導電率と光学特性に優れたAg系薄膜を成膜できることが記載されているものがあり(例えば、特許文献1参照)、接着層上にPt、Pd、Au、Cu、Niを添加するAg合金を用いた反射型導電膜を用いることが記載されているものがある(例えば、特許文献2参照)。その他に、AgにPdを0.1〜3.0重量%、Al、Au、Pt、Cu、Ta、Cr、Ti,Ni,Co,Si等を合計で0.1〜3.0重量%添加する合金を用いた電子部品用金属材料等を提案しているものもある(例えば、特許文献3参照)。また、AgにRuを25重量%以下、CuまたはAuを25重量%以下添加する低抵抗なAg合金膜を開示するものある(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−260135号公報
【特許文献2】
特開平11−119664号公報
【特許文献3】
特開2001―192752号公報
【特許文献4】
特開2001−102325号公報
【特許文献5】
特開2002―266068号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらに開示される元素を添加した場合、電気抵抗の増加が大きく、低電気抵抗、密着性、耐食性、耐熱性およびパタニング性の全てを満足できるAg合金膜を得ることは出来ない。具体的には、例えば遷移金属であるTa、Cr、Ti,Ni、Co等や半金属であるAl等の元素は添加すると電気抵抗が増加し、含有量が1原子%を越えると現在要求されてる比抵抗である5μΩcmを越えてしまう。また貴金属元素であるPd、Pt、Auと同族元素であるCuを添加した場合は電気抵抗の増加は少ないが耐熱性に問題がある。
【0009】
本発明の目的は、低い電気抵抗と耐熱性、耐食性、そして基板への密着性およびパタニング性を兼ね備えたAg合金膜とそのAg合金膜を形成するためのスパッタリングターゲット材および低消費電力な平面表示装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく、鋭意検討を行った結果、Agに、選択した元素を複合添加してAg合金膜とすることにより、本来Agの持つ低い電気抵抗を大きく損なうことなく耐熱性および耐食性を向上し、さらに基板への密着性、パタニング性も改善できることを見いだし、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるスパッタリングにより形成されるAg合金膜である。
【0012】
また、添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Ti、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるスパッタリングにより形成されるAg合金膜である。
【0013】
また、本発明は、平面表示装置用ポリシリコン薄膜トランジスタ用の配線膜である上記組成のAg合金膜である。
また、本発明は、ガラス基板またはSiウェハー上に形成された上記組成のAg合金膜である。
また、本発明は、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ用の配線膜である上記組成のAg合金膜である。
また、本発明は比抵抗が5μΩcm以下の上記組成のAg合金膜である。
また、上記組成のAg合金膜を配線膜として有する平面表示装置である。
【0014】
また、本発明は添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるAg合金膜形成用スパッタリングタ−ゲット材である。
【0015】
また、本発明は添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Ti、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるAg合金膜形成用スパッタリングタ−ゲット材である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴は、Ag自体の低電気抵抗をできる限り維持しながら、Agの有する欠点である密着性や耐食性、耐熱性を補うのに最適な合金構成を見いだしたところにある。
【0017】
通常、Ag膜を作製すると、膜としての電気抵抗は低いが、電子部品である平面表示装置(例えば液晶ディスプレイなど)を製造する際のプロセス上において種々の問題が発生することは上述の通りである。つまり、加熱により膜成長や凝集等が起こり、膜表面はより凹凸のある形状となったり、ボイドが発生したりする。そして、大気中で加熱すると膜表面が変色し、電気抵抗の増大の原因となる。そこで、本発明ではAgにSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下を複合添加することで、膜自体の変質を抑制しAgの欠点である耐熱性、耐食性、さらに平面表示装置用のガラス基板やSiウェハー等上での密着性、フォトエッチングによるパタニング性を改善することが可能となる。このために、優れた特性を有するAg合金膜やAg合金膜を用いた有機ELディスプレイ等の平面表示装置を得ることができる。
【0018】
以下に、本発明のAg合金膜において、添加元素としてSiおよび(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を選択した理由、ならびにその添加量に関して説明する。Agに添加元素を加えると電気抵抗は増加してしまうが、添加元素による耐熱性、耐食性の改善効果は添加量の増加とともに向上する。このため、低い電気抵抗を維持しながら上述のAgの欠点を改善するには添加元素は必要最少量でありながら十分な効果が得られるように調整する必要がある。
【0019】
先ず、各々の元素を単独で添加した際の効果について述べる。Siを含有することによる効果はAg合金膜の耐食性と耐熱性が改善できる点である。Siの含有量は0.1原子%からその改善効果があらわれるが、一方、1.0原子%を超えると耐食性や耐熱性には優れるものの電気抵抗が増加してしまう。そして、より低い電気抵抗を得るためには、Si添加量を0.7原子%以下とすることが望ましい。また、Siを単独で添加しただけでは基板との密着性が低く、例えば平面表示装置を製造する洗浄工程等で膜剥れを生じ、密着性の改善には不充分である。
【0020】
(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選択される1種または2種以上の元素を含有することによる効果は、密着性と耐熱性を改善できる点である。これらの元素の含有量は0.1原子%からその効果があらわれるが、一方、Cuでは1.0原子%、その他の元素では0.7原子%を越えると電気抵抗の増加が大きくなってしまとともに耐食性が低下する。このため、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選ばれる元素のみを添加したのでは電子部品用薄膜として、例えば平面表示装置を製造する際のプロセス中での環境に対する耐食性の改善には不充分であった。
【0021】
上述の通り、低電気抵抗、耐食性、耐熱性、密着性、パタニング性を兼ね備えたAg合金膜を得るために種々の元素を単独で添加するのでは不十分である。そのため、耐食性と耐熱性の改善に効果のあるSiと、密着性、耐熱性の改善に効果のある(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選ばれる元素を複合添加した。
【0022】
その際の各々の最少添加量は0.1原子%以上であり、0.1原子%の添加量から膜特性の改善効果があらわれる点は上述のとおりである。このため、添加量の最少量は0.2原子%である。本発明において、Agに各種元素を各々単独で添加するよりも、微量に複合添加することによって、膜の粒成長をさらに抑制し、緻密で平滑な表面形態のAg合金膜とすることができる。このため膜中のボイドが減少し、電気抵抗の増加の抑制と、粒界腐食の抑制による耐食性の向上、さらに膜応力の低減により密着性を改善したAg合金膜とすることができる。
【0023】
さらに、複合添加する場合の各添加元素の上限量をSiが1.0原子%以下、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選ばれる元素において0.7原子%以下とし、前記添加元素の総和が1.5原子%以下とした。この添加量を超えると低電気抵抗と耐食性、耐熱性、密着性およびパタニング性を兼ね備えたAg合金膜が得づらくなるためである。
【0024】
このため、その含有量はSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選ばれる元素において0.1〜0.7原子%、添加元素の総和が1.5原子%以下とすることで優れた特性を有するAg合金膜を実現でき、平面表示装置用配線膜として最適な膜を得ることが可能となる。さらに低い電気抵抗のAg合金膜を得るためには、Siを0.1〜0.7原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の群から選ばれる元素は合計で0.1〜0.4原子%、添加元素の総和が0.8原子%以下とすることがより望ましい。また、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の中では(Cu、Ti、Ge)が望ましく、Siと複合添加した場合、密着性、耐熱性、さらに耐食性の改善効果が優れ、低い抵抗値が得やすい。
【0025】
本発明の上記添加元素による膜特性の改善効果の理由は明確ではないが次のように推測される。通常、スパッタリング等で形成される膜においては、その添加される元素は、マトリクス中に過飽和で固溶し、原子の移動を抑制することで微細な結晶粒を有する膜にすることが可能となる。半金属であるSiはAgに添加した場合に電気抵抗の増加が少なく、結晶粒の成長を抑制することで耐熱性を向上させている。(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)の元素はAgに対して固溶域を有するか、分離する元素であり、また、Siに対しては固溶域を有するか、化合物を形成する元素である。このため、Agに対して両者を添加することにより、AgやSiとの化合物や両者との複合化合物として粒界に偏析することで、Agの凝集を抑制して基板への密着性を向上させている。さらに、加熱工程においては複合添加した元素によりAgの原子移動抑制と粒界腐食を抑制し、耐熱性と耐食性を向上させていると考えられる。また、複合添加により、添加量を1.5原子%以下と最少量添加することで耐食性、耐熱性、密着性、パタニング性に優れると同時に、低電気抵抗なAg合金膜が得られると考えられる。
【0026】
また、AgにSiと貴金属であるAu、Pd、Pt、Ruを添加すると抵抗値の増加が少なく、しかも耐食性を向上させることができる。このため、上記元素と組み合わせて、これらの貴金属元素を添加することも有効である。しかし、これらの元素は高価であるため、工業的にはコスト面で問題がある。また、Auの場合0.5原子%を超えるとエッチング時に残さが発生しやすくなり、そして、1.0原子%を超えると残さが多くなりパタニング性が低下する問題がある。それに対して、本発明のAg合金はパタニング性にも優れ、低コストな材料である。
【0027】
本発明のAg合金膜を形成する際に用いる基板として、ガラス基板、Siウェハーを用いることが好適である。これらの基板は平面表示装置を製造する上でプロセス安定性に優れるとともに、本発明のAg合金膜を形成する際に基板を加熱することで、室温で成膜する場合より低い電気抵抗と高い密着性を有するAg合金膜を得ることが可能となるためである。
【0028】
また、本発明のAg合金膜はスパッタリング等により形成しただけの状態でも5μΩcm以下の低い比抵抗値を得ることが可能であるが、基板を加熱処理することでさらに低い比抵抗値の膜とすることが可能となる。特に添加元素量を調整し、250℃以上の温度で加熱処理することで3μΩcm以下の低電気抵抗なAg合金膜とすることも可能となる。このため、ガラス基板、Siウェハーを用いて加熱工程を有するポリシリコンTFTを形成するプロセスを有する有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等の配線膜に好適である。
また、本発明のAg合金膜は、反射特性も優れるため、反射膜としても好適である。
【0029】
これまでのAg−Cu合金、Ag−Pd合金やAg−Ru合金でも加熱処理を行うと電気抵抗は低下するが電気抵抗の低い場合は密着性や耐熱性が十分でなく、本発明のように多くの特性を満足できる合金膜はなかった。
【0030】
また、本発明のAg合金膜を形成する場合、ターゲット材を用いたスパッタリングが最適である。スパッタリング法ではターゲット材とほぼ同組成の膜が形成できるためであり、本発明のAg合金膜を安定に形成することが可能となる。このため本発明は、Ag合金膜と同じ組成を有するAg合金膜形成用スパッタリングターゲット材である。
【0031】
ターゲット材の製造方法については種々あるが、一般にターゲット材に要求される高純度、均一組織、高密度等を達成できるものであれば良い。例えば、真空溶解法により所定の組成に調整した溶湯を金属製の鋳型に鋳込み、さらにその後、鍛造、圧延等により板状に加工し、機械加工により所定の形状のターゲットに仕上げることで製造できる。また、さらに均一な組織を得るために粉末焼結法、またはスプレーフォーミング法(液滴堆積法)等の急冷凝固したインゴットを用いても良い。
【0032】
なお、本発明のAg合金膜形成用スパッタリングターゲット材は、上述したSiおよび(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)から選択した元素以外の成分元素は実質的にAgとしているが、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素、炭素やアルカリ金属、アルカリ土類元素、遷移金属、半金属を不可避的不純物として含んでもよい。
例えば、ガス成分の酸素、炭素、窒素は各々50ppm以下、Cr、Mo、Wは100ppm以下、Zn、Snは500ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度として99.9%以上であれば良い。
【0033】
また、平面表示素子を製造する場合に用いる基板は、上述のようにガラス基板、Siウェハー等が好適であるが、スパッタリングで薄膜を形成できるものであればよく、例えば樹脂基板、金属基板、その他樹脂箔、金属箔等でもよい。
【0034】
本発明の電子部品用Ag合金膜は、安定した電気抵抗を得るために膜厚としては100〜300nmとすることが好ましい。膜厚が100nm未満であると、膜が薄いために電子の表面散乱影響で電気抵抗が上昇してしまうとともに、膜の表面形態が変化し易くなる。一方、膜厚が300nmを超えると、電気抵抗値は低いが、膜応力によって膜が剥がれ易くなったり、膜を形成する際に時間が掛かり、生産性が低下するためである。
【0035】
【実施例】
(実施例1)
Agに各種の添加元素を加えたAg合金膜の目標組成と実質的に同一となるように原料を配合し真空溶解炉にて溶解した後、鋳造することでAg合金インゴットを作製した。次に塑性加工により板状に加工した後、機械加工により直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。そのターゲット材を用いてスパッタリング法により平滑なガラス基板またはSiウェハー上に膜厚200nmの純Ag膜およびAg合金膜を形成し、4探針法により比抵抗を測定した。
【0036】
さらに、表示装置等の電子部品としての所定の製造工程を経た後での膜特性の変化を評価するために、上記で作製した純Ag膜およびAg合金膜を以下の条件で評価した。耐熱性評価として、純Ag膜およびAg合金膜を真空中で温度250℃、2時間の加熱処理をした後の比抵抗を測定した。また、耐食試験として純AgおよびAg合金膜を温度85℃、湿度90%の環境に24時間放置した後の比抵抗を測定した。また、膜の密着性を評価するために、加熱処理を行った純Ag膜、Ag合金膜に2mm間隔で碁盤の目状に切れ目を入れた後、膜表面にテープを貼り、引き剥がした。その際に基板上に残った桝目を面積率で表わし、密着性として評価した。また、パタニング性の評価として上記耐熱性評価を施した金属膜に、東京応化製のOFPR−800レジストをスピンコートにより塗布し、フォトマスクを用いて紫外線でレジストを露光後、東京応化製の有機アルカリ現像液NMD−3で現像してレジストパターンを作製し、リン酸、硝酸、酢酸、水の混合液でエッチングを行い、Ag合金膜パターンを形成した。その金属膜のパターンの剥れ、エッジの形状およびその周囲の残さ等について光学顕微鏡で観察し、膜剥れがなく残さがないものを良好と評価した。以上の測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
純Ag膜(No.1)は、成膜時には3.0μΩcm以下の低い比抵抗を有し、加熱処理を行うとさらに電気抵抗は低下する。しかし、その密着性が低く、膜剥れが生じてパタニング性が劣ることがわかる。また、従来提案されているAgにPd、Cuを添加したAg合金膜(No.12)では、本発明のAg合金膜と同等の比抵抗を有しているが、耐食性が低く耐食性試験後に電気抵抗が増大するとともに密着性が低く、エッチング時に残さが生じることがわかる。
さらに、AgにCuを添加したAg−Cu合金(No.13)では耐熱性、密着性が低いことがわかる。また、Cu、Au、Ruを加えたAg合金膜(No.14)では抵抗値が高くエッチング時に残さが生じる。
【0039】
一方、本発明のAgにSiとCu、Ti、Zr、Al、Mn、Geを複合添加したAg合金膜(No.4、6〜9およびNo.15〜16)は、成膜時の比抵抗が5μΩcm以下と低く、熱処理後および耐食試験後でも低い比抵抗を維持し、密着性も大幅に改善される上に、パタニング性に優れていることがわかる。そして、その改善効果は上記添加量の増加により向上し、各元素の効果が0.1原子%以上で明確となる。ただし、Siの添加量が1.0原子%超、Cu、Ni、Ti、Zr、Al、Mn、Geの添加量が0.7原子%超、添加量の総和が1.5原子%を越えると5μΩcm以下の低抵抗が得られない。また、Si以外に添加する元素の中ではCu、Ni、Ti、Geが抵抗値の増加が少なく、3μΩcm以下の抵抗値を得るには、Siの添加量は0.5原子%以下、Cu、Ni、Ti、Geの添加量は0.4原子%以下で添加量の総和が0.8原子%以下が望ましいことがわかる。
【0040】
なお、No.15および16は、Siウエハー上にAg合金膜を形成した試料であるが、表1からも明らかな通り、ガラス基板上にAg合金膜を形成した場合と同様の結果が得られた。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明であれば、低い電気抵抗と耐熱性、耐食性、そして基板との密着性およびパタニング性を改善したAg合金膜を得ることが可能である。よって、高精細、高速応答が要求される平面表示装置、高い耐熱性が要求されるポリシリコンTFTを用いる有機ELディスプレイ等の配線膜に有用であり、産業上の利用価値は高い。
Claims (9)
- 添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるスパッタリングにより形成されることを特徴とするAg合金膜。
- 添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Ti、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなるスパッタリングにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のAg合金膜。
- 平面表示装置用ポリシリコン薄膜トランジスタの配線膜であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のAg合金膜。
- ガラス基板またはSiウェハー上に形成されたことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のAg合金膜。
- 有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ用の配線膜であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のAg合金膜。
- 比抵抗値が5μΩcm以下であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のAg合金膜。
- 請求項1乃至2のいずれかに記載のAg合金膜を配線膜として有することを特徴とする平面表示装置。
- 添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Al、Ti、Zr、Mn、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなることを特徴とするAg合金膜形成用スパッタリングタ−ゲット材。
- 添加元素としてSiを0.1〜1.0原子%、(Cu、Ti、Ge)からなる群から選択される1種または2種以上の元素を合計で0.1〜0.7原子%、前記添加元素の総和が1.5原子%以下であり、残部Agおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項8に記載のAg合金膜形成用スパッタリングタ−ゲット材。
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